VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで 作:クソ煮込みうどん
HoYoverse産CV:能登麻美子キャラ強すぎる…
それはそうとぎっくり腰から復活が遅くなりました_(:3 」∠)_
いつも通りの遅筆ですが、またチマチマと投稿していくのでお願いします。
2025/06/23追記
ちょっと上手い事まとまらなさそうなので次話のサブタイ変更します。すいません
幸いと言っていいのか、二人からそれ以上の罵倒をいただくことも、アルゴの顔から左右3本のおヒゲが無くなることもなくその場は収まった。
どこかふてぶてしい雰囲気に戻ると、《鼠》と呼ばれた情報屋は真面目な顔をして念押ししてくる。
「そーいう約束をした以上はなんでも教えるケド、キー坊とホー吉も約束してくレ。どんな結果になってもオイラを恨まないってナ」
「普通に恨むけど?日頃の行い省みろよ」
「ホルン…いやアルゴも悪いか……。それさっき忍者たちのも言ってたけど、一体何なんだ?普通に考えたら誰も見つけてない隠しスキルクエストなんて、感謝こそすれ恨まれる要素ないだろ」
「おっト、それは有料の情報だゼ」
にんまりと笑う彼女は決して内容に触れようとしない。それがアルゴの情報屋としての矜持故なのか、あるいは余程の厄ネタだからなのか。
ともあれ他に選択肢も無いようなので、いざとなったら自分の判断で引き返す、ということにして頷く。
「……分かったよ。何があっても恨まない。神…いやシステム様に誓うさ」
「オーケー。ホー吉はどうすル」
「僕の依頼内容と関係ないなら「ちなみにクエの場所はスーちゃんでも絶対見つけられないと断言しとくゼ。あと一応寝泊まりもできるヨ」恨まない恨まない。ガンジーも裸足で逃げ出すレベルで恨まない。だから案内はよ。何チンタラしてんだ今すぐ行くよ?ほら
手首にベアリングでも仕込んでそうな回転具合だ。いつも眠そうにしてるとは思っていたが、ホルンにとって睡眠はかなり深刻な状況らしい。あまりの食いつき具合に乾いた笑みが漏れる。
俺たち二人の了承を確認しアルゴが歩き出す。
「ここから少し歩くゼ。オネーサンにしっかりついて来ナ」
「いやーなんか儲けた気分だねぇ。隠しクエストとストーカーに怯えないでいい宿の二つセットだなんて。アルゴも気前がいい」
「……そうだな」
気分良さそうに隣を歩いている少年に伝えていいものか。
俺の経験則上、こういったクエスト関係地点での寝泊まり可能という文言は『圏内である』『最低限の食事は出る』の二点以外の要素は保証されてないことが多い。モンスターに襲われたりしないが野ざらし…食事は安い黒パン……そういった水準だ。ホルンの願う心身脅かされない快適な寝床とはいかないだろう。
それとなく視線を向けてみると、アルゴの横顔は上手いこといったと言わんばかりにほくそ笑んでいた。
どうやらホルンが口止め料込みの依頼をタダでやらせようとしたのと同じく、アルゴも彼の要望を俺の依頼と一括りにして済ませる気らしい。強かなことだ。
「この辺りダ」
彼女が顎で指したのは2層に林立するテーブルマウンテンの一つ、その外縁部の岩壁だった。垂直とまでは行かないものの、その傾斜は坂とは決して言えないほど角度ほどキツい。
一見して特に変哲のない岩壁に見えるが、この付近に隠し通路でもあるのだろうか。
「んジャ、ひとまずここ登るヨ。あそこに見えるちっさい洞窟マデ」
「いきなり『少し歩く』の範疇超えたぞオイ」
ホルンのテンションが急転直下である。登れと言われて急転直下とはこれ如何に。
しかし初手からヘビーなのが来たものだ。ホルンほど言うつもりはないが隠し通路でも何でもなく、ただ目の前の明らかに道ではないナニカに案内されればげんなりしてしまう。当然ながら登山道のようにロープを張られたりもない。それどころか歩けそうな平面も。見事に壁である。
なおアルゴが示したゴール地点らしき洞窟は、そんな壁面の遥か上方で霞んでいた。目測だが100mちょっとくらい距離…と言うか高度差?があるような。
まさか俺もこんなに早く野望の予行演習が来るとは思わず、軽くビビっていた。ゴール地点ならともかくこれがスタート地点だとしたら、俺は今日イン〇ィ・ジョーンズ最新作への無料オファーを受けさせられたことになるのだろう。幸運なのか不幸なのか判断に迷うラインだ。
しかし弱音を吐き出す前にアルゴはひょいひょいと、こちらの反応を待たずに登り始めていた。ボルダリングの選手よろしく手ごろなとっかかりからとっかかりへと、止まることなく次のルートを選択して進んでいく。その身軽さは彼女が《鼠》と呼ばれるのは、決しておヒゲだけが理由ではないと感じさせるようだった。
「心配しなくても何か所か休憩できる広さの足場があるヨ。まぁ座ったらそのまま転げ落ちると思うがナ」
「……それ落ちたら死ぬ感じ?」
「気合入れてついて来いヨ。あんま時間かけると風も強くなってくるから事故率上がるゼ」
「落ちても大丈夫なのか教えてくれませんかねぇ!?」
「……落ちないように気を付けて登ろうぜ」
敢えて言わなかったが、アルゴが向かう一ヶ所目の休憩地点らしきところで、既に余裕で落下死判定をもらう高さがあった。
覚悟を決め壁面に指をかける。……多少体重をかけても崩れる感じはしない。これなら指を滑らせたりしなければ落下死もせずに済みそうだ。
後方で顔をしかめているホルンにもそう告げ、念のため先行して進む。少し間を置き彼も登り出したようで、下からデカいため息と不満が聞こえてくる。
「アルゴの案内してる洞窟、絶対入口じゃなくて出口だろ…!必死に逃げて外だと思ったら道が続いてなくて絶望するタイプの……!!」
「具体的に嫌な予感を言語化するのやめない?」
俺もなんか登るの想定して無さそうな壁面だなぁとか、洞窟前に踊り場みたいなの無いしどうやって入るんだろうなぁ、とは感じていたが。もうそんな感じの作りにしか見えなくなってきたんだけど。
そうして辿り着いた洞窟へとなんとか入ると、中には鍾乳石の垂れ下がる立派な内部構造が。コケか何かが光ってるようで、奥の方までポツポツと薄闇の中に光が見える。水滴の落ちる音も反響して聞こえるし、思った以上に広いようだ。
しばし目を奪われていたが、特にこの幻想的な造形のマップへの言及もなくアルゴが歩き出した為、止む無く思考を切り替え追いかける。
経路を把握してるアルゴは簡単に歩いているがこのマップ、かなり入り組んでいる。仕切りになってる壁や柱も鍾乳石特有の丸みを帯びた滑らかなタイプだ。この手のエリアオブジェクトはよじ登れないタイプなので、アルゴの通る道以外は使えないと見ていい。
加えて今歩いている道も天然の石橋のように高所を通っている。手すりもなく吹き曝しになっており、薄暗いので底がどうなっているかも不明。ただ何となく、ここも落下死判定高度の予感がひしひしとする。
「フィールドの下にこんな空間があったのか。アルゴもよくこんなの見つけたな。知ってたのか?コレ」
「気合と根性と偶然だヨ。情報屋ってのは信頼と実績が売りもんだからネ。当然、まずは名前が売れなきゃ話にならナイ。
だから時間の許す限りフィールドを駆け回って情報を集めテ、見つけたクエ情報やマップデータ、わざわざ開けずにとっておいた宝箱の位置情報を売ってこの稼業を軌道に乗せていったンダ。ここもその一つサ。……懐かしいもんダ」
「思ったより地道な積み重ねしてたんねお前。てっきりそこらのプレイヤーの痴態を売り捌いてたのかと思った」
「やってはいたけどあんま需要はなかったナー。こっちでホー吉の情報売ってるのだって、スーちゃんとかの特殊な需要のある顧客の確保が出来たからだシ」
「やってたのかよ」
非難がましい視線をさらりと流し、アルゴは何食わぬ顔で案内を続ける。恨まれることもあるだろうによく続けられる、と思っていたが、ホルン相手にこれができるメンタルがあれば確かに情報屋もやれるだろう。彼とはまた別ベクトルで敵に回したくない。
とは言えプライバシー侵害はともかく、《鼠》のアルゴの下積み時代の話は興味深かった。レベル上げや熟練度上げと違い、時間をかけても必ず成果が上がるとも限らない地味で意志力を試される努力だ。その上名が売れ始めても情報の不備一つで信頼が地に落ちる仕事、ここでは語られなかったが下調べも相当してるはず。こういうところで手を抜かないからこそのプロなのだろう。
何より見つけた宝箱を開けずに情報として売るなど俺には真似できまい。絶対に秒も置かずに開ける。
進むこと暫く。
周囲に聞こえる水音が水滴から水流へと変わり出した頃、アルゴが急に立ち止まった。
振り向いた彼女はニマリと得意げに笑みを浮かべる。……なんとなくだが次の移動手段に予想が付く。
「こっからはちょっと楽しいゼ?この地下水流に乗っての移動ダ。道中全体的にクソだけド、ここだけは割と快適サ」
どうやら本格的にイン〇ィ・ジョーンズが始まったらしい。それか桃太郎か。
アルゴが案内してる道だし安全ではあるのだろうが、ナーヴギアが再現する液体環境というものだけはどうにも苦手だ。一見普通の水に見えても触れた際の肌に沁み込む感じだとか、浮力のかかり方だとか、何とも言えない違和感が残る。慣れないと簡単に溺れるし口が水面下にあるだけでスリップダメージを食らうので積極的に近付こうとは思わない。
しかし案内を頼んだ手前、VRの水が苦手なので嫌ですと宣言してアルゴとホルンにおちょくられるのも癪だ。ここは余裕を見せるのが吉か。
「……まぁ、足は疲れないだろうな。うん」
「心配しなくてもここで敵とエンカはしないヨ。大船に乗ったつもりで来ナ。んジャ、お先に行ってるゼ」
言うが早いか、彼女はひゃっふー!と楽し気な声を残して流されていった。案外勢いがあるのか一瞬で麻布の外套が見えなくなる。……どうしよう、昔家族と行った市民プールのウォータースライダーみたいでちょっと楽しそうかもしれない。
アルゴの上げていた声が反響してこなくなり、場が少しばかり静かになる。そろそろ次の奴が滑る頃合いか。
「ホルン行くか?」
「……いや、キリト行って。僕は後から行かせてもらうよ」
「そうか?じゃあ失礼して」
さっきから妙に静かだったがどうしたのだろうか。またこのマップ構造に不満でも浮かべているのか。
ひとまず疑問は置いておき水流へ跳び込む。が、水深はひざ下程度だったが急に足元がおぼつかなくなった。よく考えたら、リアルでもゲームでも水着以外の服を着たまま水に入ったこと無いような。
あ、ヤバいかも、などという他人事じみた言葉が脳裏を過った直後、俺の身体は勢いよく地下水流へと滑り出していた。
「おおぉぉぉお!?」
ヤバい思ったよりも速度出る!周囲の景色が凄い勢いで流れてくこれ!
市民プールの記憶は彼方へ、代わってどこぞの空耳が豊富なゾンビゲームの最終局面を思い出した。ジェットスキーで逃げてQTEミスると岩とかにぶつかる奴。流されている途中何度か、頭を上げていたらぶつかりそうな高さに鍾乳石が垂れていたので本当にそんな感じだった。
† † †
……キリトが行ってしまった。もう後がない。
震えの残る手を強く握り締め、意を決して水面に足をつける。
僅かな浮力を感じた。既に背筋がじっとりと湿っていた。
足首まで沈め、水がブーツの中に沁み込んできた。歯の根が合わない。もうやめたい。
でもここで引き返したら怪しまれる。行くしかない。
「……大丈夫、大丈夫だから…ただ、流されればいいだけ……」
「死なないなら大丈夫、死なないなら大丈夫、死なないなら大丈夫……!」
何度も言い聞かせるように呟き、爪先が川の底に着いた時。
水を吸った服のせいか、僕の身体は呆気なく水の流れの中へと飲み込まれていった。
藻掻く手は仮想の水を掻くばかりで、水面外のナニカに掴まることすらできずに。
「……………………ヴエッ…」
最後に記憶していたのは、喉の奥から生温い熱の塊がこみ上げる感覚だけだった。
◆ ◇ ◆
「もうちょっとで着くから死ぬなヨー」
「死なねーよカス……」
「本当に、大丈夫なのか?引き返した方が…」
「……少し休めば大丈夫、本当に。いつものことだから」
口ではそう言っているものの、ホルンの顔色は冗談抜きで死人のように青白い。アルゴも言葉の割には心配そうに彼を見ている。
つい先ほど、彼は地下水流の終点である地底湖に受け身無しで着水したばかりか、水から這い上がって早々俺とアルゴの目の前で……こう、盛大に吐いたのである。マーライオンもかくやの勢いで。
何があったのか聞いても「大丈夫」「気にするな」としか返されなかった。どうにもホルンの触れられたくないラインの話らしい。
道中の戦闘もほとんどこちらで対処したし、明らかに本調子には見えない。引き返すかの判断を仰ぐべくアルゴを見てみるも、彼女は説得を諦めたのか肩を竦めて歩き出した。他の選択肢は無いようだ。
ひとまずホルンの意地が続くまでは様子を見ることにし麻布の外套を追う。
そうして更に10分ほど(もうちょっとというには長く感じた)歩き、やって来たのは山頂付近。全体マップで見ても2層の東端に位置する山のようなので、かなりの長距離行軍をしていたことになる。肉体的疲労と無縁のVRだからこそ出来た移動だろう。
謎の達成感に浸っていると、アルゴの案内の足が止まった。
辿り着いた場所は巨大な岩壁に囲まれた小空間だ。囲いの中にあるのは1本の樹と泉、そしてボロ……趣のある小屋が一つだけ。
「…………ここか?」
念の為アルゴに確認を取ると、彼女は一つ頷き、そのまま小屋の戸を開け放って中へと進んでいった。
続くように俺とホルンも入室する。中には簡素な家具がいくつかと、NPCが一人。
豊かな口髭と禿頭、という要素だけをピックアップすると仙人のような雰囲気なのだが、くたびれた道着と彫りの深い……というかなんか画風が違う感じの、強面の顔面が謎の圧を放っていた。そして頭上には、金色に輝く【!】の符牒。
「このオッサンが、エクストラスキル《体術》をくれるNPCだヨ。オイラの提供する情報はここまで、クエを受けるかは二人が判断しナ」
「……た、《体術》?」
やはりと言うか聞いたことのないスキル名だ。
サービスだゾ、と前置きをし、アルゴが説明を追加する。
「《体術》は武器無しの素手で攻撃する為のスキル……だとオイラは推測していル。武器を落としたり、耐久限界で壊れた時に使う感じノ。だからダメージよりもノックバックや隙の少なさがウリのスキルになる、と思ウ」
「お、おぉ……想像以上にまともなスキルだ。《瞑想》と違って使えそう。でもそうか、だから忍者たちはこのスキルに拘ったのか」
「どーいうことだヨ」
「あー、コホン。サービスだぞ」
「……アルゴの真似?キモ」
ホルンが復活して早々
ぐっと涙を堪え、二人に補足説明を入れる。
「忍者って言うと忍者刀と手裏剣、あとは忍術で戦うってイメージ強いだろうけど……ゲーム業界だと実は違うんだ。手刀の一撃で首チョンパ──これが古来、ゲーム忍者の最高峰のスタイルなんだ。実際の忍者も案外、証拠を残さないために体術は多用したそうだし、あの二人も忍者ロールの完成度を上げる為にこのスキルが欲しかったんだと思う」
「へー。オイラもその辺は下調べが甘かったナ」
「つまり、何?ゲーム忍者的価値観に則ると、ニンジャ〇レイヤーって結構ガチ忍者になるの?NA〇UTOより?」
「……………………まぁ、うん…多分……?」
「へー。じゃあ案外スシとチャで回復するのもガチだったりするのかな」
相変わらず着眼点が特殊な奴である。
しかしそうか、肯定しておいてなんだが、ニンジャ〇レイヤー結構ガチなんだなと思ってしまった。……嫌いではないんだけど不思議と納得したくない気持ちがある。忍者漫画と言われたら絶対先に名前が上がるだろうNA〇UTOより、ニンジャ〇レイヤーの方が忍者観はしっかりしてるなどと。
「ん?そういえばあの忍者たち、なんでこの場所は知らないのにスキルの内容とかは知ってったんだ?」
「……サービスのサービスだヨ。βテストの終了間際、7層のNPCから『2層の体術マスター』の情報が発見されたんダ。オイラは自力で見つけてたケド、あっちの二人はNPCから聞いたクチだナ。それで本サービスの今、オイラから情報を買いに来んだろうサ」
「なんでその時『知らない』って言わなかったんだよ。そうすればあんな付き纏われることも……」
当然の疑問に、アルゴはバツが悪そうに顔を逸らす。
「…………その『知らない』の一言を、情報屋のプライドが邪魔したんだナァ。これガ」
「それで『知ってるけど売らない』って言ったわけか。事実ではあるし気持ちも解かるけど……」
「初めから大人しく売っとけばいいじゃん。お前恨まれ慣れてるだろ」
言葉の重みが違う。特に彼の場合、最新のプライバシー侵害を受けてるわけだから恨んでる側だろう。視線が親の仇でも見るようだった。
しかしそれでへこたれるようなメンタルのアルゴではない。
「他の情報ならオイラも気にしないサ。恨まれたところで三日もすれば忘れられるからナ」
「マジでカスだわこいつ。いい加減痛い目見ろよ」
「ホー吉が言うナ。でもこの情報は違ウ!下手すりゃ一生モノなんだヨ……」
「そんな呪いの装備みたいな厄ネタに、ここまで内容伏せて巻き込まれた僕らの気分考えたことある?」
「ナイ!」
「いっぺん死ね。マジで死ね」
二人から視線を外し、この喧騒を無視して畳の上で座禅を組んでるNPCに目を向ける。
あのアルゴが震えるほどの何かがこのクエストにある。そう思うと途端に不安になってくるが、ここまで来た以上引き下がれない。
何よりゲーマーの性か、不安以上の好奇心が足を突き動かしていた。
「ここから先は、自分で体験してみるさ。約束した通り、何があってもアルゴは恨まないよ。な、ホルン」
「…………とりあえず、恨みつらみはクエスト終わるまで待ってやるよ」
もの凄く不承不承という雰囲気を感じる。めちゃくちゃ根に持つタイプだなこいつ。
健闘を祈るヨ、というアルゴの声援を背に、二人で座禅を組むオッサンの前に立つ。今まで反応のなかったNPCの武人は、俺とホルンを見るなり口を開いた。
「入門希望者か?」
「……そうだ」
「一応そーです」
「修行の道は長く険しいぞ?」
「望むところだ」
「一番簡単なコースでおなしゃす」
短い問答を終えると、頭上の符牒が【!】から【?】に変わった。無事にクエストが受領され、視界端に進行ログが表示される。
するとオッサン改め師匠は、座禅を崩して立ち上がるとのしのしと歩き出した。こちらの横を通り過ぎ、そのまま道場の外へ。
「来るがよい」
「……ついてこい、ってことか」
「みたいだね。この道場関係ないのかよ」
そうして案内されたのは岩壁の囲いのすぐそば、庭の端に存在する岩の前だった。
高さ2m、差し渡し1.5mほどか。かなりの大きさだがイルファング王との激闘をくぐり抜けた俺やホルンが怯むサイズではない。
何よりただの岩、襲い掛かってくる怪物に比べれば可愛いものだ。
この上で師匠みたいに座禅でも組めばいいのか。そう思っていた。
その岩の表面をポンと叩き、左手で口髭を撫でながら師匠は告げる。
「汝らの修行はたった一つ。両の拳のみで、この岩を割るのだ。成し遂げれば、汝らに我が技の全てを授けよう」
「…………
「……………………ちょ、ちょっとタンマ」
一言断りを入れ、岩の表面を軽く叩く。ホルンが何してんだお前的な視線を向けてきた。
VRゲームに慣れてくると
そうして伝わってきたこの岩の情報量に、俺は戦慄することとなる。
(……
密度、硬度、共に信じられないほど高い。クエスト目標である以上破壊可能オブジェクトに分類されるはず、という理性の出した結論に異を唱えたくなるほど硬い。
ブワっと汗が噴き出してきた。雲行きが怪しいとかいうレベルじゃない、積乱雲が目の前にあるかのような危機感。
緩慢な動きで振り返る。ホルンがこちらを不安げに見つめていた。
彼の視線が語り掛けてくる。
──いけそう?
俺は神妙に頷き返しつつ視線で告げた。
──うん、ムリ
するとホルンの顔が急激に青ざめていった。どうやら意図することは伝わったらしい。以心伝心で何よりである。
早くもクエストのキャンセルを決定し、師匠にそれを告げるべく振り返──
「この岩を割るまで、山を下りることは許さん。汝らには、その証を立ててもらうぞ」
……る直前、そう
左手には小さな壺。そして右手には──太く立派な、筆。
嫌な予感がしたのであろう、後退ろうとしたホルンが先に狙われた。
「お世話になりました僕今日で辞めまブッ!!?」
直後、壺の墨をたっぷり含んだ筆が、アスナの剣戟もかくやという速度でホルンの顔面に炸裂する。
俺はこの瞬間、アルゴのおヒゲの理由を察した。
彼女もβテストの初期に、このクエストを受けたのだ。7層に辿り着く前に、自力で見つけて。そうして誰も知らないであろう隠しスキルのクエストと知り、嬉々として受領した。そりゃそうだろう。俺が同じ立場でもそうした。
そしてクエストを受け、同じように岩を割れと言われ、顔に落書きされたのだ。
この左右3本ずつの、おヒゲを。
落書きをされたホルンが沈黙し、次いで師匠の顔がこちらを向いた。
「あ、あのやっぱナシってことに「ならぬ」ブッ!!?」
顔面に勢いよく筆が叩きつけられ、抵抗虚しく俺の顔にもアルゴやホルンのような3本ヒゲが描き込まれてしまった。
すぐさま袖で拭ってみたが超速乾性なのか、まったく服に付かない。
絶望に打ちひしがれる俺たちに向け、師匠は無慈悲な宣告をする。
「その《証》は汝らが岩を割り、修行を終えるまで消えることはない。信じているぞ、我が弟子たちよ」
あの師匠…その弟子たち、全員目が死んでるんですけど。
そう言ってやりたかったが、その前に師匠はまた振り向いてのっしのっしと歩き、道場の奥へと消えていった。
10秒ほど何とも言えない沈黙が俺たちの間に流れ、耐えきれなくなった俺はアルゴ……いや、姉弟子へと声をかけた。
「アルゴ……あんたはβ時にこのクエを受けて、クリアを諦めたんだな。そしてそのまま最終日までプレイした結果、《鼠》ってキャラが立ちすぎて…商売の為に、正式サービスでもそのペイントを継続している……そういうことなんだろ」
「お見事!エクセレントな推理だヨ!」
パチパチと手を鳴らしながら賞賛を口にするアルゴだが、その頬は笑いを堪えるのに必死なのかプルプルと小刻みに震えていた。
「いヤー、得したなキー坊。結果的に《おヒゲの理由》と《エクストラスキル》の情報両方とも手に入ったんだカラ!ついでに教えとくけどその岩、鬼だヨ!」
「…………だろうな」
「……………………僕の依頼した内容は?」
「こんな秘境みたいな場所なら確実にスーちゃんも来れねーだロ。そこの道場の端で寝泊まり位させてもらえるゼ。ホラ、嘘はついてないだロ?」
「はっ倒すぞ」
「まー細かいこと気にすんなヨ。岩割り頑張ろうゼ、キリえもん…ホ、ホルえもん……!」
「…………ハハッ!僕ホルえもん!夢の国から来た実業家サ!特技は炎上だヨ!(裏声)」
なんか色々混ざっている。それもヤバそうな火種ばかり。
が、そうツッコミを入れる前にアルゴの口からバブフッ、というあまり可愛げのない音が聞こえた。どうやらホルンのやけくそ芸がアルゴの腹筋にトドメを刺したようだ。
「ちょ、待っ……それズル…!ふ、ふひ、にゃははははは!にゃーははははははは!!」
早くも兄弟弟子たちが壊れつつある。大丈夫なんだろうかコレ。
こうして、俺とホルンの長く険しい修行の日々が始まった……!
──1日目(つまり先ほどのやり取りの後)
無心で岩を殴る。先ほどまで頭上から照らしていた陽光も、いつの間にか西の空へと傾いていた。思っていたよりも時間が経つのは早い。
無心で岩を殴る。こうしていると心が冴えてくる気がする。アスナとストレアは無事に次の拠点に移れただろうか。寝る前に、簡単に今日の出来事を伝えがてら聞いてみようか。
無心で岩を殴る。ペインアブソーバーのおかげか、素手で岩を殴りつけている割には手も痛まない。しかし全く手応えが変わらないんだが。手より先に心が折れるだろコレ。
「……狂う♪狂う♪ク○ラップ♪」
ホルンが隣で何か歌い始めた。しかもなんかヤバそうな歌を。
師匠が来る様子はないし、これも修行なのか。そう思うことにし心を静かに、岩に向き合う──
「狂う狂う狂う狂う狂う狂う狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂…………」
「精神ヤられるからそれ歌うの辞めてくれるか!!?怖ぇんだよマジで!!」
無理だった。下手すれば岩殴ってるよりホルンの歌の方がキツい。
日頃のストーカー被害と今日の無理難題で彼の心は限界を超えてしまったらしい。壊れたテープレコーダーのように不吉な音調で歌を垂れ流しつつ、マシーンのように正確な挙動で岩を叩いていた。怖い。
ひとまず岩の前から引き剥がして雲でも数えさせておこう。このまま続けさせてもいいことはない。
「アルゴ!アルゴ!!ちょっとあいつのメンタルケア手伝って……何してんの?」
完全に壊れてしまったホルンを救うべく、もう一人この場に居たプレイヤーであるアルゴに助けを求めに行ったのだが……何やらごそごそと慌ただしく動いていた。
見れば、何やら大量のアイテムを並べていた。折り畳みのイスとテーブル、
どう見てもアウトドアグッズの山だった。
「何そのテント」
「決まってんダロ。オイラもここから出られないからキャンプするんだヨ」
あっけらかんとそう言うアルゴに言葉を失った。
「は?出れないの?帰りの道は?」
「さぁナ。その情報はオイラも持ってナイ。だからキー坊もホー吉もタダで知れるゼ」
「いや、おかしいだろ。だってアルゴはβの最後まで情報屋を──まさか」
にやり、と笑みを浮かべているのに、アルゴの目はハイライトが無かった。それが全ての答えなのだろう。
「察しがいいナ。そうだヨ、オイラは
「嘘だろ……。いや待てよ、そういえば道中全部一方通行だったような……?」
いくらβの時は死んでも大丈夫とは言え覚悟がキマり過ぎている。
つまりなんだ、アルゴも帰り方は知らない以上、クエストクリアで正規の帰り道を師匠が教えてくれないと詰みなのか。大分難易度高いぞこれ。
「……死は救済、と。クソみたいな真理だけは現実準拠だなこのゲーム」
いつの間にか背後にいたホルンがそう呟いた。彼もまた、目にハイライトさんがいらっしゃらない。
そして何故か、俺以外の二人が壊れたように笑い出す。
「ふ、ふふふ。ふふふふふふ」
「くひ、くひひ。くひひひひ」
「な、なぁ二人とも?大丈夫か…?」
ぎょろりと二人の目がこちらを向いた。瞳孔が開き切っている、どう見ても大丈夫じゃなかった。
「にゃーははははははは!!もうここでおしまいダァ!《鼠》のアルゴ様本日廃業ー!!にゃーははははははは!!」
「アルゴ!!?!?」
狂ったように踊りながらアルゴが絶叫した。未だかつて見たことのない知り合いの姿に俺の動きが凍り付く。
そして間を置かず、ホルンがその場に崩れ落ちながら絶望の叫びを上げた。
「嫌だ、もう嫌だ!ここから出して!出してよオッサン!!」
何と言うか、酷い光景だ。平時の彼彼女なら絶対にしない取り乱し方をしている。アスナとストレアを別行動にしてなかったらどうなっていただろうか。
醜態全開、精神崩壊。俺は一人すごく後悔、yeah。……っていけない、俺もあっち側に落ちるところだった。今ここでふざけたらダークサイドに引き込まれて戻って来れなくなる。それだけは嫌だ。
早くどうにかしてほしい。
直後、唐突に道場の戸が開け放たれた。静観を貫くかに思われた師匠が姿を見せたのだ。
もしや開発側もこの事態を想定し、プレイヤーにアドバイスでも出すようアルゴリズムを組んでいたのか。だとするなら性格が悪い。こうして俺たちが苦しむのも想定内ということなのだろう。
そんな俺たちに向け、師匠は扉の奥から一言。
「ならぬ」
師匠…改めオッサンはそう告げ、再びぴしゃりと戸を閉め切った。要件はそれだけだったらしい。開発は性格が悪いどころじゃない、人の心が無かった。ついでにヒントも。
ぶつり、と二人の方から何かのキレる音が聞こえる。
「上等だハゲ出てこいテメェ!前歯へし折ってやる!!」
「
「よし、二人とも今日は休もうぜ!な!?ゆっくり休んで明日から頑張ろう!!?」
──2日目
「作戦を立てよう」
「急にどうした」
朝食代わりにオッサンに渡された黒パンを齧りつつ、ホルンが唐突にそんなことを言い出した。
見えないがメニュー画面の操作をしているようで指がせわしなく動いている。皮肉にも、ストレアへのメッセージ返信が彼の正気を幾分か取り戻すきっかけになったようだ。
「泣いても喚いてもあの冷血ハゲはここから出してくれない。ならこの拷問じみた修行をクリアするしかないけど、昨日みたいに闇雲に殴っても割れる感じがしない」
「あア、オイラもそう思ウ。触った感じβと耐久値や防御力に変更はなさそうだシ、何かしらアプローチを変えないとクリアは無理だろうナ」
珍しくアルゴがホルン寄りの意見を言っている。同じ絶望を味わったからか謎の団結をしていた。……いや別に、寂しくはないが。うん。
「……で、アプローチを変えるってどうするんだ」
「試したいことがある。ってことでまずは」
最後のひとかけらを飲み込みつつホルンが立つ。向かう先は件の道場。
暫くした後、彼は何かを手に持って戻って来た。
「てってれー、呪いの筆~」
「めちゃくちゃ曰く付きのアイテム持ってきやがった」
何故か彼は俺たちの頬に烙印を残した件の筆を持ってきたのである。聞けば、あのオッサンに頼んだら普通に貸してくれたらしい。
そうして筆と壺を俺に預け、岩の表面をノックしながらぐるぐると回り始める。何をする気かのか。
やがて一ヶ所に目を付け、そこに印を書くよう指示してきた。同じ手順で俺の岩にも一ヶ所、バッテン印が書き込まれた。
「ここに何かあるのか?」
「何があるのかは分からないけど、今印を付けてもらったのは僕が聞いた中で音が明確に違う響き方をした場所だよ」
「音?」
「そう。昨日キリトが岩の表面小突いて耐久値に予想付けてたじゃん。あれ見て思いついたんだよね。キリトにしか分からない違いがある様に、僕にしか分からない違いって奴があるんじゃないかって」
何気なく言い切られた情報に目を剥いた。どうやらホルンは正気を手放したわけでも、クエストクリアを諦めたわけでもなかったらしい。
それに悪くない案だ。SAOのオブジェクトデータはかなり多岐に渡るパラメーター設定で差を作っている。同じ武器でも強化内容の差で質感にばらつきが出るほどだ。オブジェクト構成データでもその組成次第で密度などの差が生まれるのは何ら不思議ではない──
「ほう」
急に響いた4人目の声に、俺たち3人の肩がびくーんと跳ねる。
見れば、そこにはいつの間にか庭にやって来ていた師匠のオッサンが。ホルンと俺によって印の付けられた岩を見てそう零したようだ。
そうして彼はこちらを見てニヤリと口元に笑みを浮かべると、貸していた筆と壺を回収して道場に戻っていった。
その様子を見ていたアルゴが……本当に珍しく、心の底から驚いたような顔で呟いた。
「……オイラの時、あんな反応なかったゾ」
「つまり、この段階で何かしらの差別化はできたのは間違いないね」
「みたいだな」
基本的にNPCの反応というのはプレイヤーが何かしらのフラグを立てた際にしか生じない。であれば先ほどの師匠のオッサンのリアクションは、ホルンの推測が当たっている証拠なのではないか。
そんな俺の興奮をよそに、ホルンは平時のように厭味ったらしく頬を歪めながら吐き捨てた。
「馬鹿の一つ覚えに岩殴るだけなんてゴメンだね。効率よくやんないと」
「そうだな。ゲームはゲームなんだ、頭使って攻略してこうぜ!」
なんだろう、光明が見えたからか急に力が湧いてきた気がする。
「よし、じゃあ張り切って殴ろうか」
「おう!」
「……これはもしかするト、もしかしそうだナ。オイラも微力ながら応援するヨ」
アルゴも自身の攻略できなかったクエストだからか協力的だ。
こうして俺たちは心機一転、クエスト攻略を再開した。
「アルゴ、このゲーム最低保証ダメージとかある?」
「あるヨ。基本は攻撃力値と防御力値の差にダメージ特攻倍率トカ、逆にダメージカット率とかを適用して計算されル──ケド、攻撃力ー防御力でマイナス値が計上されると攻撃力の0.5%分の数値に直接さっきの倍率計算がかかル。
ダメージカットで下げられることはあるケド、0にはならナイ。絶対に1ダメは通る設計だヨ。マ、他にも色々あるケド、ざっくりこんな感じだヨ。
流石に攻撃判定出ないとダメージは通らないけどナー」
「うへぇ……めちゃくちゃ渋い」
「βの頃からだけどよく調べてるな」
「ニシシ、それがオイラの商売だからナ。ちなみにどれだけステに差があってモ、システムに攻撃として認識される程度の勢いのモーションなら最低保証ダメージ発生するヨ」
「「なるほど」」
ある時はアルゴに情報の助けをもらい*1、それを元に追加のアプローチをしたり。
「フタエノキワミ、アーッ!!」
そう言いながら岩に殴りかかったホルンの手首から、コキャン、という情けない音が聞こえた。
「ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ア‶ァ‶ァ‶ァ‶ァ‶ッ!!?!?」
「……何してんだホー吉」
「いや…攻撃回数増やせば、早く割れるかなって……」
「馬鹿ダロ。なぁキー坊。……キー坊?」
「──北斗、百裂拳」
「キー坊???」
「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!」
ゴキッ、と俺の指から聞こえちゃいけない音が聞こえる。
「痛たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!?」
「…………まァ、10代男子なんてこんなもんカ」
ある時はホルンと一緒に、ちょっとふざけてみたりもした。
そうして──10時間が経過する。
「ゼー…ヒュー……なんで割れないッ!?」
「自明だヨ」
「おかしい……こんなはずじゃ…」
「おかしいのはキー坊とホー吉の頭だヨ」
アルゴの冷ややかな反応はともかく、確かに殴ってて感触が違った。確かな手応えがあるのだ。にもかかわらず、岩は割れるどころか拳を打ち込み続けた表面にヒビが入ることすらない。
「……なぁホルン、これ本当に続けて大丈夫なのか…?って言うかそもそも、音にどう違いがあったんだ」
「なんて言うかなぁ……他の場所だと、殴った時に音がブレるんだよ。不均一と言うか」
ほう。それで?
「で、印のとこはなんか…音の響きが他に比べて綺麗だったんだよね。均一に響いてる感じ。スイカ叩いて音確かめるのあるじゃん?あれみたいな」
…………どうやら正気に戻っただけで、頭の回転が戻っていたわけではないようだ。俺は思わず天を仰いだ。
「…………ホルン。スイカを叩いて音で確かめるのって、中身しっかり詰まってる奴を選ぶ時だよな」
「それがどうし…………あ」
「……………………お前が選んだの、一番密度高い場所なんじゃないか?」
「……………………やっちゃったぜ☆」
「お前さぁ!!」
「……いやいやなんとかなる!なんとかなるって!ここが一番密度高いとして、もしそうならこの一ヶ所割れれば一気にいくって!だから僕は悪くない!!」
「…………オイラ知ーらネ」
──3日目
岩が割れた。頑張った。
拳の辺りから痺れが消えない。
気付いたら山の麓に居た。
いつの間にか日も沈み切っている。
なんか師匠のオッサンも居た。
「よくぞ、よくぞ成し遂げた。汝らは拳の道の頂へ、見事辿り着いた。もはや教えることは何もない」
「「「…………」」」
そのお褒めの言葉を耳にしても誰も声を上げなかった。ホルンも、アルゴも、恐らく俺も例外ではなく、死んだ目で熱く語るオッサンを見つめている。
精魂尽き果てた今、思うことは、さっさと終わってくれというただ一つの願いのみ。
「約束通り、修行を終えた汝らに《証》は不要。これにて拭うがいい」
そう言って師匠が懐から取り出したのは、なんか微妙に汚……薄茶色の手拭いだった。
手渡されたそれを前に、しばし静止する。
しかし葛藤は僅かな時間だった。俺は緩慢な動きで頬を擦る。すると、どれだけ顔を洗おうが消えなかったヒゲが、いともたやすく消えてなくなった。
「キリトお前…呪いが解けたんだな」
呪いとか言うな。
「ホー吉…次はおめーの番ダ。キー坊もおめーモ、もう解放されていいンダ……」
「アルゴ……いや、姉弟子…!」
解放とか言うな。
無言でホルンに手拭いを差し出すと、彼は躊躇なく頬を拭った。小さく「汗臭ッ…」と呟きながら。
「これにて修練を終わりとする。以降は己の拳で、信ずる道を切り開くがいい」
それだけ残し、オッサン…師匠は初めて会った時同様、のっしのっしと歩いて山を登っていった。俺たちはその光景をいつまでも、いつまでも見つめ続けた。
2022年、12月6日。
三日間に及ぶ苦行を成し遂げて、俺たちは人の住む世界へと帰って来たのだ。
視界が滲んだのは、きっと月明かりが目に沁みたからである。
キリト:
アルゴ曰く、最後の辺り「脳が震える」とか言いながら
幼少期に妹と一緒にやってた剣道を思い出して軽くホームシック
ホルン:
アルゴ曰く、最後の辺り「目標をセンターに入れてスイッチ」と呟きながら
いつか教わった《体術》で師匠の前歯をへし折るという野望を抱く
アルゴ:
β時代の心残りだった《体術》クエの完遂を見れて満足。気が向いたら自分ももう一度挑むか考えている
キー坊にちゃんと一緒にバカやれる友達が出来たようで少し安心
[Next Episode.『泡沫のアンダンテ』]