VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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ヘイズル・アウスラ[GAU装備]引けたので初投稿です。

ティターンズの腕がデカすぎる!って感じの機体です。多分ペーネロペーのが強いだろうけど乗ってて楽しい(^q^)


遅くなりましたが、前話投稿からなんかやたらとUAとお気に入りと☆が増えました。
おかげさまでお気に入り200件記念を投稿しない内に300件どころか400件超えてます。沢山の読者アニキに見ていただけてるようで震えてます()
またどこかでリクエスト取ります。

ちょっと夏バテだか熱中症だかわかりませんが暑さに負けてダウン気味です。皆様は十分な水分と休憩、栄養などを摂ってくだしあ。
いつもに増して遅筆ですがなにとぞご容赦ください_(:3 」∠)_


『泡沫のアンダンテ』 1/2

 冒険。

 それは危険を承知で行うことや、成否の定かでないことに挑むことを言う。

 

 

 かつての世界が小さくまとまっていた頃の僕にとって、毎日は何かしらの冒険があった。

 通学路から外れた道を歩くこと。

 自転車で隣町まで行ってみること。

 幼馴染みの少女と裏山でした『宝探し』。

 好奇心の赴くまま、理由も目的もなく動き回った幼少期。

 

 

 次第に手足が伸び、活動圏内が広がり、知識が多少備わるようになって……ふと気が付く。

 

 

 通学路から外れても学校に辿り着けること。

 隣町も車で通り過ぎる景色の一部であったこと。

 裏山には変わったゴミがあるだけで、お宝なんて無いこと。

 

 そうした小さく、どうでもいい気付きの数々が、僕の日常から冒険を消していった。

 

 

 以来現実にない刺激を求めてゲームにのめり込むようになった。自分を傷つけ失望させるばかりの現実から目を背けるように。

 しかし彼女──コトちゃんは相変わらず楽しそうに『冒険』をしていたので、結局のところ僕がつまらない人間になっただけなのだろう。

 やや脱線したか。ともかく人にとって刺激が無いことを、『冒険』とは言わないのだろうというのが僕の15年の歳月で感じた結論だ。

 

 

 でははたして、僕は今……冒険をしているのだろうか。

 

 

 

「ブモォォォォオオオウッ!!」

 

 

「……うるさいな。そんな熱烈なラブコールされても困るんだよ。僕牛肉派じゃなくて鶏肉派なんだから」

 

 

 人によってはこれすらつまらない人間認定を受けかねないが、僕は敢えて鶏肉を推す。

 そもそもうまみなんてメイラード反応や付け合わせ、各種調味料で外から持ってこれるんだから肉単品に過大な期待をする方がナンセンスだ。食べ盛りの男子的にはたくさん食べても胃もたれせず、スーパーでもお安く求められて経済的な鶏肉こそがベストである。

 決して、昔ファミレスでステーキの脂身を胃が受け付けなくて吐きそうになったのがトラウマとかではない。決して。

 

 そんな思いが通じたのかは不明だが眼前の敵、《バイオレント・オックス》なる巨牛は不満げに角を揺らして応じた。

 骨格、サイズ共に先日見かけた《トレンブリング・オックス》とほぼ同等。

 だがその側頭部から伸び、こちらに先端を向けて曲がる節くれ立った鋭利な角が、より一層攻撃的な雰囲気を作り出していた。あの角で腹に風穴を開けられ、何だこのバケモノと震えたのは今も記憶に残っている。

 

 

 しかし。

 

 

(コイツとも今日でおさらばかぁ。一匹も肉落とさなかったなぁこの牛。倒したら角以外どこに消えてるんだろう)

 

 

 最初の内はこの牛とタイマンをさせられる窪地状の狩場に近付くことすら億劫だったというのに、狩り方を覚えてしまえば気分はモンスターなハンターである。かれこれ20頭ほど討伐し、ストレージ内を戦利品である角が埋め尽くしそうになっている程に。

 今やこの怪物のような牛も、僕にとってはアイテムドロップ用のモンスター程度の認識しかなかった。……僕の現在のメンタルをもう少し悪い方向に傾けたような人間が、現実世界で密猟者というカテゴリーに居るんだろうなと思う。

 

 

「ブフルルル…ブモォォォォオオオウッ!!」

 

 

「おっしボーナス行動。所詮は畜生よな」

 

 

 頭を下げ、地面を蹄で掻くモーションを見た瞬間、僕は勝ちを確信した。

 デカい、速い、(突進)痛いの三拍子揃ったモンスターだが、その攻撃パターンは実に単調。頭を振って繰り出す突き上げと突進のみ。いつだか倒した青イノシシこと《フレンジーボア》と同じなのである。

 何度か戦い、おやぁ?とそんな気付きを得てからの反撃は早かった。

 

 

「十分引き付けたし……さん、にー、いちっと」

 

 

 地響きを鳴らして突進してくる巨躯を見つめ、横に跳ぶ。すると、ちょうど僕の消えた空間を突っ切った巨牛が、そのまま僕が背にしていた岩壁へと勢いよく頭と角を打ち付けていた。

 衝突音をやり過ごして振り向くと、そこには立派な角が岩壁に突き刺さったせいで動けなくなっている巨牛の姿が。そう、どこぞの狩りゲーでよく見かけたブロスと名のつくモンスターたちのあれだ。

 見慣れた光景もそこそこに、鞘から曲刀を引き抜いて吶喊。この便宜上『角刺さり状態』と呼んでる状態になると約15秒間、ああして身動きが取れなくなるのだ。岩壁に衝突した際のダメージもあって非常においしい展開だった。

 

 

「せー、のッ!!」

 

 

「ブモォォォォアアアアア……」

 

 

 振り回される尾を避け懐に飛び込む。背中側の肉質は筋張っているし骨も硬い。狙うなら腹部を直接だ。

 幾度も繰り返した選択から、下段切り上げである《フェル・クレセント》を発動。掬い上げられた刃が黒みの強い褐色の毛皮を裂き、赤いダメージエフェクトの線を刻む。

 

 並行して視線だけを右上の辺りに持っていく。そこに表示された《バイオレント・オックス》のHPの減り方を見る為だ。

 3割あったHPはもう残り1割あるかどうかまで減ったものの、その減少速度は非常に緩やか。多分削り切れない。相変わらず僕の低ステータスでは泣きたくなるほど火力が出ない。

 

 しかしこれも想定内だ。

 勢いのまま巨牛の横腹へ体当たりしそうになる中、空いた左手の五指を揃えて手刀を象る。

 

 

「くらえ聖剣〇スカノール!!」

 

 

 手刀を鮮やかなイエローのライトエフェクトが包み、勢いよく突き出される。同時に《フェル・クレセント》のモーションアシストが新たなソードスキルによって強制解除、左足を踏みしめてその場に身体を留めた。

 聖剣〇スカノール……正式名称、《体術》スキル零距離技《エンブレイサー》が巨牛に刻まれた切創(ダメージエフェクト)目掛けて放たれる。

 

 ダメージエフェクト判定の箇所は通常肉質より柔らかくなっており、狙うには絶好の弱点だ。左の五指は毛皮に遮られることなくその腹の内へと貫入し、左腕の肘手前までをも捻じ込む。

 その箇所全体が生暖かく湿った感触に包まれ……直後、残り僅かだったHPを食い潰された4mの巨体は、青白いポリゴン片に姿を変えて爆ぜた。

 

 数舜、スキルの技後硬直で立ち尽くし、そのまま武器を納めて戦果を確認。

 新たに入手したコルと経験値、そして素材を眺めつつ小さく呟く。

 

 

 

「……このドロップした3本目の角、どこに生えてた奴…?頭に2本しかなかったじゃん……」

 

 

 

 まさか股間の…いや、考えるのは辞めよう。バグだ。そうに違いない。

 

 こうした小さな恐怖も慣れた。

 全てはゲームの出来事、It's All Fiction.

 何もかも現実準拠で考える方が間違っているのだ。

 

 

 

 そう、ここはゲームの世界。

 

 銃刀法違反上等の刃物も、巨大なモンスターも、今や非日常の存在ではない。

 実るかもわからない努力と多大なる辛労を己に課し、果ての見えない勉学や労働に勤しむことを美徳とした日々は過去のこと。

 レベルという可視化された努力の数値と、ステータスという分かりやすい成果と優劣が、この世界の全ての人間に与えられている。

 

 そんなどこかズレた認識の上に成り立つ、非現実的な生活こそが今の僕……『ホルン』の日常。

 

 かつて僕が液晶画面越しに挑んでいた冒険は、今ここで日常へと成り下がっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 《体術》の試運転を兼ねた朝の狩りを終えて帰宅すると、現在の宿となっているNPCの民家の前に一人の少女がいた。後ろ手を組み、柔らかに響くハミングを奏でる姿はどこか幻想的なものがある。

 その姿が非常に画になるのを認める反面……僕は何とも言えない気分になった。

 しばし逡巡し、諦めるようにため息をつく。するとこちらの接近に気づいたのか、唐突に少女が口ずさむのをやめて振り向いた。アイボリーホワイトの髪が揺れ、人懐こそうな紅玉色の瞳が僕の姿を捉える。

 

 

「あ、帰って来た。おはよホルン♪」

 

「……おはようストレア」

 

 

 ああ、ここももうダメか……。

 

 そんなポストアポカリプス系作品の登場人物じみた感想を飲み込み、つかの間の平穏が終わったことを静かに受け入れる。もうこの神出鬼没のストーカーに宿を補足されるのも慣れてしまった。

 悲しいかな、僕の非日常感あふれる日々で一番異彩を放っているこの少女が、僕の日常で一番身近な存在なのだ。這い寄る混沌・ストレア……なんか強そう。

 

 

「あれ、今回はそんな驚かないね?」

 

「キリトが僕の武器素材の名前言ってやがったから、時間の問題だと思ってただけ。んで?本日のご用向きは」

 

「アスナ……いやこの場合はキリトかな?まぁともかく狩りのお誘いだよ」

 

「その二人揃ってるならクエスト手こずることなくね。僕要らないでしょ」

 

「クエストじゃなくて素材集め。ドロップ率8%だから人海戦術で当たりたいんだってさ」

 

「絶妙に渋い数値してるなぁ」

 

 

 聞くところによるとアスナの剣、《ウィンドフルーレ》の強化素材量に不安があるらしい。

 そもそもだがSAOの武器強化には基本的に二種類のアイテムが必要になる。鉱石やインゴットと言った基材系アイテムと、モンスターからドロップする素材系アイテムだ。これらのアイテムを強化項目に合わせて投入することで武器強化は行われる。今回は狩りに誘われたので後者が足りていないようだ。

 僕の獲物だった牛の角はモンスターの強さに合わせてか高めのドロップ率だったが、アスナの方は数値的にも相当苦労してるのが窺える。

 しかし解せないのはアスナ本人からではなくキリトからこの話が届いたことだ。いったい何があったのやら。

 

 

「……まぁいっか。暇だしいーよ。ちょっとアイテムの補充はさせてもらうけど」

 

「あ、じゃあアタシも行っていい?買い物デート♪」

 

「…………別に奢ったりしないからな」

 

「別にいいよ。キミと一緒にお買い物したいだけだし」

 

 

 相変わらず謎に距離詰めてくるなコイツ。その無駄に整った顔面なら他の奴でも堕とせるだろうに。

 

 散々罰ゲーム告白やらで揶揄われてきたからかそう予防線を張ってしまう。勝手に舞い上がって勘違いだった時ほど惨めなものは無い。僕の純心はボロボロである。

 その甲斐あって人間不信は今日も絶好調、まったくもって度し難い。

 しかしだ。

 ストレアのこの態度が仮に本心だとして、LikeなのかLoveなのかも判断できてない僕が受け入れるのも誠実ではあるまい。それはパートナーと呼んでくれた相手への侮辱であり、現在なんとか落ち着いた関係性を破綻させるだけの愚行ではないだろうか。

 僕とて自身に歩調を合わせてくれる存在がどれだけ稀有かは理解している。彼女を傷つける結果はこちらにとっても不本意なのだ。

 したがって両者の損しない境界線を判断し、最適解は現状維持。だから僕は悪くない。

 

 己の薄弱な心を理論武装で守り、ひとまず宿を引き払うべく席を立つ。ストレアにバレた以上わざわざこんな辺鄙な場所で暮らす意味もないし。

 

 

 

 二夜を過ごした宿(の屋根裏部屋)に別れを告げ、今居る《ククル》というらしいこの村の中央広場へと進む。

 キリトも言っていたが、まぁ不便な村だ。

 1層でストレア共々利用した隠れ村よりは流石に広いものの、渓谷の一角に出来たこじんまりとした盆地をそのまま利用したデザインをしており、景観はゴミ。便宜上中央広場と呼んだ空間も、無理やり配置したであろう井戸や露店のせいで面積は狭く、多分コンビニくらいの広さ。しかも品揃えまでショボい。

 挙句迷宮区まで直通の道が無いという、およそ拠点には不向きな立地だ。おかげでこの二日間、僕とストレア以外のプレイヤーなんて2、3人程度しか見かけなかった。人目を気にしなくて済むのはありがたい反面、好き好んで長期滞在する奴はいないだろうなと思う。

 何より嫌なのは周囲を岩に囲まれたデザインが、少し前まで僕が過ごす羽目となった岩山山頂付近の修行場を思い出すことである。もう二度と行きたくない。なんなら忘れたい。

 

 

「何買ったの?教えて~」

 

「普通にポーションとか投げナイフだよ。《投剣》無しの僕なんてそこらの雑魚敵未満だからねぇ。しっかし消耗品だけで結構かさむなこのゲーム……ポーション不味いし」

 

「上の層行けば美味しくて効果高いの売ってるよ。ハイ・ポーションとかグラン・ポーションって名前で」

 

 

 なんでだろう、まったく美味しそうなイメージが湧かないなハイ・ポーション。

 なんか馬の頭の被り物した奴が作ってそう。飲んだら急に画面変わってナイスボートしそう。

 

 始めた当初は微妙に落ち着かなかった買い物(ストレアは頑なにデートと言っている)だが、拍子抜けするほど普通だった。ただ駄弁って店に立ち寄ってNPCの店主を冷かして次の店、という流れの繰り返し。デートだなんだと大仰に言われて身構えたのがバカみたいではないか。

 ただまぁ、微妙な品揃えに辟易としながら一人で買い物するよりは、幾分か気も紛れたということにしておく。こういう時変に気を遣わなくていいからストレアとの付き合いは楽だ。

 

 

 

 そうして少しの間露店の前を散策した後、掘り出し物でもないかと胡乱な雑貨屋に立ち寄る。

 ここの店だけ商品ラインナップが毎日切り替わる設定になっていたので通い詰めていた。僕も一端の男との子なのでこういうよくわからない店は好きなのだ。

 

 

「…………らっしゃい」

 

 

 店主と思しきNPCは僕らに一言そう挨拶し、それっきり興味なさげに羊皮紙の新聞らしきものを見る作業に戻っていった。冷やかし程度にしか寄らなかった露店の商人たちがにこやかに話しかけてきた反動か、あまりにぶっきらぼうな接客にストレアが唖然としている。

 これ設計したの茅場なのだろうか。だとしたら男心をよくわかってる。怪しい店の雰囲気づくりバッチリだ。

 

 隣で固まる相棒を無視し、商品棚にカーソルを合わせて空中をタップ。すると、商品棚に陳列されたアイテムがリスト形式で空間ウィンドウに展開された。

 何に使うのか分からない謎アイテム群の中、リストを滑らせていた僕の指が一点で止まる。

 

 

「《冒険者セット》……?ストレアこれ何」

 

「え?あー……なんだっけ。たしかフィールドワークで便利なアイテムセット、だったと思う」

 

 

 フィールドワークで便利、ついこの間半分野宿みたいな生活を強いられたばかりなので魅力的な響きだった。積極的にあんな目に遭いたくはないが遭う可能性があると身を以て体験した後、備えはあって然るべきだろう。

 何よりその商品名に感傷を抱いたのだろう。僕にとって縁遠くなってしまったものであり、同時にあの子と…コトちゃんと僕が共有した数少ない時間を思い出させるその単語に。我ながら女々しいというか未練がましいというか。

 

 少しばかり悩み、これも何かの縁と商品名を選択し購入ボタンをタップ。

 入金の確認をしたらしい店主はこちらを一瞥すると、カウンターの下から何かの入った麻袋を取り出して雑に置いた。持っていけ、ということらしい。僕が言うのもあれだが態度悪すぎないか。

 

 お返しに一睨みしてから麻袋に触れれば、小さなSE(サウンドエフェクト)と共に内容アイテム群がそのままストレージ内に格納される。

 装備重量制限内かつ非オブジェクト化状態であればいくら買い込んでも身軽に動けるのでこういう時ありがたいなと思う。その辺は昔クラスメイト数人のランドセルを押し付けられた経験から身に染みている。重いのもそうだが、身動きがとりづらいというのは非常に不便だ。

 こういうところは多少リアルさを捨ててもユーザーフレンドリーな設計にした開発陣に感謝したい。反面、オブジェクト化しないと実体を伴わない不安感はあるが。

 

 そんなことを呑気に考えつつ通知ログを確認。新たにストレージに格納されたアイテム群に目を通すが……

 

 

「ロープ、虫眼鏡…毛布……ランタン…………え、これだけ?この内容で4,000コル?ストレアこれ相場に合ってる?」

 

「…………あ!おまけにスローイングダガーも3本ついてきてるじゃん!よかったねホルン」

 

「……それ込みで、お値段相応か教えてほしいんだけど」

 

 

 彼女は言葉なく曖昧に笑うだけだった。つまりそういうことなのだろう。

 

 よくわからない店を利用するというのはこういうことなのだ。信頼性の低い商品を確認怠って買った僕の落ち度。今回ばかりは僕が悪い。

 ただ敢えて言うのであれば、もう二度とこの店は利用するまい。

 

 退店前に店主に中指を立てておいた。

 ストレアに怒られた。解せぬ。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 アスナと共に狩場前の広場で牛型モンスターが草を食む光景を眺めていると、俺の《索敵》に新たに2つの反応が現れた。

 反応のあった方角を向けば、そこにはいつも通りにテンションが対照的な二人組がいた。

 

 

「やっほ~二人とも!ホルンちゃんと連れてきたよ」

 

「流石ねストレアさん。捕まえるの大変だったでしょ」

 

「ぜんぜ~ん♪今日のホルンはいい子だったよ」

 

「僕のことなんだと思ってんの?」

 

「珍獣」「気難しい子かな」

 

「よーしそこに並べ。山籠もりの成果を叩きつけてやる」

 

「待て待て待て待て」

 

 

 久しぶりにホルンと行動してテンションの高そうなストレアはともかく、珍しくアスナもいじりに参加していた。迷宮区で擦り切れそうになっていた彼女を知る身としては微笑ましい限りだ。人身御供に落ち着いてるホルンには……悪いがもうしばらく耐えてもらおう。

 

 

「さてと。まずは3人とも今日は素材集めのお手伝いありがとうございます。お手数かと思いますがよろしくお願いします」

 

 

 じゃれ合いもそこそこに、アスナはそう言ってぺこりと頭を下げた。別に知らない間柄じゃないだろうに律義なものである。

 

 

「ささやかなお礼になりますが、今晩の晩御飯はこちらで持ちます。えー、頑張っていきましょう。……なんてね」

 

「ただ働きじゃなくて安心したよ。今日は無駄な出費嵩んだばっかだし」

 

「その代わり、狩った数少ない人にはデザートを奢ってもらおうかなって。ただ狩るよりかはやる気出るでしょ?」

 

 

 アスナからそんな提案があり、特に異を唱える者もいなかったのでそういう運びとなった。

 しかし案外あれで茶目っ気のある提案もするのだな、とアスナへの心証が変わった。お嬢様学校育ちと聞いていたからもうちょっとお堅いものかとばかり。やはりなんだかんだアスナもこの4人で集まる日を楽しみにしていたのかもしれない。ちょっと笑顔が素敵過ぎるような気がしたが。

 事前に報酬を提示されたおかげかホルンの軽口もやや好意的なものになって来た。俺も獲物が獲物だからちょっと萎えていたけど、この雰囲気なら大丈夫──

 

 

 

「みんななら余裕だろうし、2時間で200匹ほど狩る予定です。一人50匹、張り切っていきましょう!」

 

「お~♪」

 

 

「ブラック企業のノルマ……?」

 

 

 大丈夫じゃなさそうな空気になってきた。ホルンのテンションがまた下がり始めている。

 しかし多い。多すぎる。4人で分散するにしても一匹当たり36秒という狂気のスコアである。まさか4人で狩場一つ湧き潰しにする気なのか。

 他のプレイヤーが居たら批判されかねないが、幸か不幸かこの場に他のプレイヤーはいない。赤眼コンビのせいで常識のラインが薄れつつあるアスナの暴走を非難する人間はいないだろう。立場が弱めの俺やホルンの反論が二人を止めることも。ここに俺たちの命運は決まってしまったのだ。

 

 

「じゃあストレアさん、一緒に頑張りましょっか」

 

「うん、やろやろ♪ケーキ楽しみだなぁ~」

 

 

 そうして平然と談合試合を始めようとしている女子二人を静止することもできないまま、ただの素材集めだったはずの狩り比べ競争が始まってしまった。こうなっては対抗する為にも俺もホルンと頑張るしかない。

 

 

「……ホルン、いいか。絶対勝つぞこの勝負。負けたらとんでもない目に遭う」

 

「たかだかデザート一つで?」

 

「ストレアはケーキと言っていた。この層であの二人の興味を引くとするなら一つ、《トレンブル・ショートケーキ》……!ちなみにお値段一つ5,500コル」

 

「たっか!バカじゃねぇの。この辺のNPCレストランで3食利用するのと大差無いんだけど」

 

 

 そう思うのも無理はない。何せ基本的にSAOの食事の質は層を登れば登るほど水準が上がるという単純明快な仕様。当然ながら現在攻略中の2層の食事の質はそこまで高くない設定だ。

 これに関しては食事に用いられるアイテムの等級が関わっている以上仕方ないと思う反面、こうしてゲームの世界に幽閉され現実世界の食事に逃げることもできない現状だとややキツい。茅場的にも攻略意欲を煽りたいのはあるだろうが、それにしたって気が滅入るのだ。

 

 そんな中に、件のケーキのような例外がたまにあるのだ。「なんでこんな低層でこんな美味が…!?」と慄きたくなるような食事が。味覚エンジン担当者が無駄に拘った結果なのだと思われるが、現在のSAOの食事事情だとこれらの食事は文字通りいくら金を払ってでも食べたくなる魔力がある。

 実際βテスト中に口にした身として言うが、あれは美味い。めちゃくちゃ美味い。たまに食べてるクリーム乗せ黒パンが色褪せるほど。だが同時にホルンが文句を溢すレベルで尋常ではなく高い。あんなもの奢らされたら今日の狩りの収支は余裕でマイナスになる。

 

 そんな代物を間違いなく要求されるとなれば頑張らないわけにはいかない。女子二人のスイーツへの情熱は計り知れないのだ。

 もうアスナ本人が主目的そっちのけになりかけているくらいだ、この勝負だけは負けられなかった。

 

 

「あーダル……そーいや今回はどんな牛の相手させられんの」

 

「牛と言うか虫だな。別にフロアテーマに関連する敵以外も居るんだ」

 

 

 虫かぁ……、とさらにテンションの低くなったホルンが呻く。俺もあまり好きではないが。

 デフォルメされた液晶画面越しでもうぇっ、となるがVRだとあの手のMobの迫力は尋常ではない。脚の節の隙間にうっすら毛が生えてるだとか、関節が動くたびにキチチと鳴るだとか、複眼の反射にも拘りがあるのかちゃんと一つ一つ微妙に映り方が違ったりする。モンスターモデリングの緻密さに感動した俺も流石にこれは……となる代物がうじゃうじゃいる。

 しかもリアル志向が災いして昨今ゲームではよく見かける虫恐怖症対策モードなども非搭載の為それはもう凄いことになる。女子二人がそれでわーきゃーと手こずってくれないものか、とワンチャン賭けていたが、アスナは既に狩り慣れてるようだしストレアも胆力が凄いから期待できそうにない。

 

 などと考えていると、タイミングよく近くにモンスターがポップする際に生じるポリゴンの収束が見えた。こちらもいつまでも喋ってないで狩りを始めよう。

 

 

「ちょうど沸いたな。あれだよあれ、《ウィンドワスプ》」

 

「……ワスプ?」

 

 

 ホルンの疑問の声をかき消すように、SE(サウンドエフェクト)を奏でながら俺たちの前にモンスターのモデリングが出力完了した。

 全長50cm、体色は黒地に毒々しいまでに鮮やかな緑の縞模様。

 節くれ立った触角を持ち、左右に割れた大あごを鳴らす頭部には、こちらの姿を幾重にも映し返すオレンジの巨大な複眼。

 そしてギチギチと音を立てながら収縮する腹部の先には毒液の垂れるアイスピックほどもある凶悪な毒針。

 若干モンスターナイズ化されたオオスズメバチとでも言うべき怪物が姿を現した。

 

 

「──ヒュッ」

 

「気を付けろよ。あの針に刺されると2、3秒スタン貰うからな。何かあったら即フォローを「むり」……ホルン?」

 

「スズメバチは、むり」

 

 

 ……マジで言ってます?

 

 聞き返す直前、ホバリングしていたワスプの翅が一段と早く羽ばたいた。そうして一気に5m近くまで飛び上がり、腹をくの字に曲げながら急降下してくる。

 

 

「毒針来るぞ!」

 

 

 青白い顔をしているホルンに最低限それだけ伝え、迎え撃つべく背中の鞘から《アニールブレード》を引き抜く。

 下手に逃げると背中をどつかれる。必要なのは攻撃のタイミングと挙動を読み、嫌悪感と恐怖心をねじ伏せること。

 限界まで引きつけ、一瞬ワスプが短くホバリングをしながら針を突き出す刹那、全力のバックステップで離脱。直前まで俺の頭があった空間を毒針が貫く光景に怯みかけるが、歯を食いしばり剣を肩に担ぐ。

 

 

「ハァッ!!」

 

 

 先日ボス戦中にものにした片手剣スキル垂直二連斬り《バーチカル・アーク》が発動し、ライトブルーのエフェクトに包まれた剣身がワスプの縞模様の腹を二度斬り裂く。

 切り付けられたワスプはギィィィッ、と金属質な叫び声を残して再び飛び立った。削れたHPは6割弱程度。本来もう一度ああして剣の間合いに来てくれるまで手が出せないが、今回は上空にも届く攻撃のある相方が居た。

 

 

「ホル「死ねオラァ!!」殺意すっご」

 

 

 こちらが言い切るより早く放たれたホルンの《シングルシュート》がワスプの胴に突き刺さり、急にスローイングダガー分の空気抵抗と衝撃が加わったせいで上空から落ちてきた。落下コースに重なるように《ホリゾンタル》を繰り出すと、ちょうど落ちてきたワスプの胴を刃が捉え、真っ二つに分断した。

 

 

「ふぅ……よし、この調子で…って待て待て帰ろうとするな!」

 

 

 声をかけつつ振り向いた先では、ホルンが曲刀を鞘にしまっていそいそと撤収作業を進めていた。しかもSTR(筋力)でこっちに負けてるはずなのに腕を掴んで引き戻せない。何がそこまでホルンを駆り立てているんだ。

 

 

「無理なもんは無理なんだよ!ゴキもクモもムカデもギリ耐えれるけど、スズメバチはマジで無理!昔刺されて以来トラウマなんだよ!!」

 

「あー……そういう。いやでも、ただのモンスターだぞ?確かに飛んでるからちょっとダルいけどお前なら《投剣》で撃ち落せるだろ」

 

「一度刻まれた恐怖は薄れないんだよ!あいつらめちゃくちゃ怖いからな!?コトちゃんが自然に還りかけてたカーネル〇ンダース像で巣をどついたせいで近くに居た僕まで20分くらい追いかけられたからな!?しかも顎カチカチ鳴らしながら追いかけてくるし、耳元でホバリングするし、刺された場所は腫れて赤紫色の北海道みたいになるし!もう散々なんだよ!!スズメバチ舐めんな!!」

 

 

 コトちゃん is 誰。赤紫色の北海道も気になるけど。何よりなんだ自然に還りかけてたカーネル〇ンダース像って。一連のトラウマに対する情報量が多すぎる。

 

 どうやら本当にダメらしい。ホルンのことだし《投剣》が有効な敵だから「虫けらがよ」とか言いながら大暴れするかと思っていたが。これには困った。

 ……と同時に、もう一つ彼に伝えなければいけないことがあった。

 

 

「…………ホルン。悪い知らせがあるんだけど聞きたいか」

 

「聞きたいわけねぇだろ僕これで帰るからな!?」

 

「実はこういうワスプ系のMobってな」

 

「聞けよ!!」

 

 

 ブゥゥゥゥン、と低い羽音が聞こえてきた。耳のいい彼は俺より早く気付いていたことだろうワスプの羽音。それが次第に増えていく。

 

 

──ブゥゥゥゥン

 

──ギィィッ

 

──キチ、キチ

 

 

 段々と青ざめていくホルン。周囲から響く無機質な音に注意を払い、ホルンと背中合わせの形になるよう立ち位置を変える。もはや彼が向かっていた狩場の出口の方まで囲まれていた。

 珍しく本気でテンパっている友人が大人しく聞いてくれることを願い、続きを話す。

 

 

 

「……ワスプ系Mobは一回どれかを接敵状態(アグロ化)にすると、こうやって付近の同種のMobまで接敵状態に移行して集まってくるんだ。多分だけど昔ホルンを追い回した蜂よりしつこいぞコイツら」

 

 

「…………クソゲーいい加減にしろよ!!?」

 

 

 

 それは本当にそう思う。

 

 半泣きのホルンと共に、壮絶なるビーハントが幕を開ける。

 

 

 同時に俺は、何匹分の余剰ドロップを売ればケーキ代を賄えるかを計算する、早めの敗戦処理に取り掛かることにした。




ホルン:思い出もトラウマも刺激されまくってる。帰りたい(切実)

ストレア:ケーキの食べさせ合いっこをする予定でうっきうき。ホルンの悲鳴を堪能しつつ勝ちに行く

キリト:すでに敗色濃厚で絶望している。なおそれはそれとして勝ちは諦めていない

アスナ:ケーキをだしに友人たちと盛り上がるつもりが酷いことになった。なおそれはそれとして勝ちに行く


2025/07/06追記 秋ウサギニキいつも誤字報告謝謝茄子!
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