VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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3週間ぶりの更新なので初投稿です。


……えー申し訳ありません、また遅れました()
作者のSAO系ゲームのプレイ歴がホロウ・リアリゼーションで止まってることもあって、一度ユナとセブンに接点があったこと知らずに書き上げてしまいまして。大慌てで描写変更+書き加えをした結果こんな時間がかかりました……。


ついでに今回、50,000字超えてます(白目)
これに関しては100件記念がリクエスト貰ったのに個人的に納得いかない出来だったことへのリベンジと、登場キャラの数を自重無しに増やしてしまったことと、あと『記念単話』というルールを自分に課したせいで話を分けづらかったせいでこうなりました……。

今まで以上に読みづらいと思いますがなにとぞご容赦ください_(:3 」∠)_
また誤字報告とか、このキャラこんな風に会話したっけ?とかツッコミありましたらお願いします(正直レインが『リズっち』と呼ぶの確認できたくらいなので他が怪しいです)


※※注意※※

この話は執筆時点でのプロットにおける人間関係で書かれております。本編更新によって内容に齟齬が出る恐れがあります。予めご了承ください。


FAV200件記念単話『虹色夏祭り』

「日本の夏が見たいわ!」

 

 

 久しぶりに再会(ゲーム内だが)した妹の一言が店内にこだます。

 《空都ライン》の隅に位置するエギルさんのカフェは、こうして穏やかな昼下がりに終わりを告げた。

 

 数か月前、ALO全体に波乱を巻き起こしたプーカの少女、セブン。周囲から年齢相応の扱いを受けられず、どこか達観しているというか冷めた雰囲気だった、私の(七色)

 それが幼く純粋なわがままが言えるまでに、ここの人たちと打ち解けてくれたのは姉心では嬉しく思う。が、その内容が些か以上に要領を得ない。周囲の困惑もむべなるかなと言ったところ。

 

 

「……あー、セブン?久々にインして早々どうしたんだ」

 

「どうしたもこうしたもないわ!このセブンちゃんが懇切丁寧にプレゼンテーションしたのに『そのクラウド・ブレインとやら儲かるのか?』としか聞いてこないおじさん達から資金繰りしなくちゃいけないのもう嫌ぁ!!あたしもお姉ちゃん達と夏休み満喫したいぃ!!」

 

「思ったよりも重症だなこれ……」

 

「あーもー、落ち着いて七色。わたしも皆もちゃんと話聞くから」

 

 

「なぁスメラギ。どうしてこんなクソめんどくさい駄々っ子になってから連れてきたんだよ。もう少し早期にガス抜きしといてくんない?」

 

「先日の一件でパトロンが減ってしまってな。埋め合わせを探している間にホームシックも重なってこうなってしまった」

 

 

 妹の訴えに苦笑を浮かべるカフェの面々の中、レプラコーン特有の金属質な光沢のあるダークグレーの髪の少年がぼやいた。例によってホルン君だ。めんどくさいという態度が露骨である。

 

 そして話しかけられたセブンに付き添っていたウンディーネの青年もまた、眉間を揉みながら疲れたような声を零した。

 彼……スメラギ君もゲームでは《シャムロック》の副団長として、リアルでも研究チームの助手としてセブン(七色)を支えてくれている傑物なのだが、どうにも研究者としての側面を強く支持しているようで、こうして駄々をこねる彼女の扱いは雑だったりする。

 

 

「ホームシックねぇ。レインの話じゃそこのロリっ子、ロシアとアメリカでしか生活してこなかったって聞いたんだけど。なんで日本の夏とか言い出したんだよ」

 

「直接の縁が無かろうと彼女は日本人のハーフ、自身のルーツが存在する国を故郷と思うのは自然だろう。何より研究者という側面がある以上、『未知』であることをそのままにしておくのは気持ちが悪いらしい」

 

「Goo○le先生にでも聞いて済ませろよ……」

 

「そうしてもらいたかったが彼女の欲求を満たす前に概ね閲覧してしまったようだ。俺も彼女同様日本を離れて久しい上、どうにもこの手の催しには疎い。そして研究室から離れるわけにもいかないから、出来ればALOの中で体験できる事柄が望ましい。そこで貴様らの元を訪ねたわけだ」

 

 

 同じ刀使いかつ平時のテンションの波形が近いからか……はたまた単純に、事件前後で一番態度を変えなかったのがホルン君だったからか。スメラギ君はこのカフェに集まる面子だと比較的彼との会話が多い。どうにも生来の表情の硬さと真面目さのせいかお近づきになりにくい印象だったが、こうして愚痴を言い合ってる姿は案外普通の青年だ。

 

 そんな二人と、わたしとキリト君が二人掛かりでセブンを相手する傍ら、カフェに集まった愉快な仲間たちは彼女の訴えから連想ゲームを始めたようで、徐々に賑やかさが増していった。

 

 

「夏ねぇ……やっぱ花火とかかしら。風流って言うか、なんか大体のイベントの締めにちょうどいいって言うか」

 

「歌の歌詞にも組み込まれてるからイメージしやすいわよね。そ~ら~にぃきえてぇ~った、うちあ~げ~は~なぁび~、って」

 

「リズさんの歌い方、こぶし利いてて演歌みたいですね」

 

「こいつぅ、キリトの妹だけあって言うじゃないの。生意気なのはこの口か~?」

 

()ひはいへふ(痛いです)~!ひほんはんはふへへ(シノンさん助けて)!!」

 

「もう少し揉まれてなさい。どうせすぐに気が済むから」

 

ほんは(そんな)~!?」

 

 

 

「出店も欠かせねーよな!焼き鳥、たこ焼き、焼きそば……暑い中コイツらを食いながら流し込むビールときたら…くぅぅたまんねぇ!」

 

「高気温下でアルコールの摂取は利尿作用や脱水症状を引き起こす可能性が高い為推奨はされていないはずだが。その上で塩分の濃い食事など高血圧や脳卒中のリスクを跳ね上げるだけだろう」

 

「科学者様は真面目な意見しか言わねぇな。VRなら別にいいだろうがよぅ」

 

「スメラギの言い分もあるがクライン、ここに居るの俺とお前以外未成年だって忘れてないよな。ついでに言うとここもカフェだから酒の話をされても困るぞ」

 

「わーってるよエギル。まぁ酒の飲めない諸君もラムネとかでキューっとしとけば似たようなもんだろ。……ん?あれスメラギ、おめーも未成年なのか?」

 

「…………老け顔で悪かったな。これでも18だ」

 

「マジか!?」

 

 

 

「食べ物以外も結構あるよね。射的、金魚すくい、ヨーヨー釣り、型抜き、くじ引き、お面とか」

 

「わぁ…!とても楽しそうです!」

 

「縁日とか道に沿ってずらっと並んでてすごいよね。ユイちゃんともいつか現実世界の方で一緒に行きたいなぁ」

 

「私もですママ!」

 

「親子連れとかで来る人多いから、大人も子供も目を引くようにって色々置いてるんだろうね。小さい頃は出店に並んでるのがお宝の山に見えてずっとはしゃいじゃったし」

 

「フィリアそういうの好きそうだよね。アタシとユイはこういうの聞いてるだけでも楽しくなっちゃうよ~」

 

 

 

「あとは……海とかプールでしょうか?」

「キュウゥ?」

 

「はぁぁぁぁあ?あんなリア充とか親子連れでごった返してる水場に何の価値があるんですぅぅぅ?行きたい奴の気が知れな「ホルン、お話」あっ………スゥー、ハイ……

 

「ごめんね~シリカ、ピナ。アタシの方から言っておくから」

 

「あ、はい」

「キ、キュウ」

 

 

 一部不穏だったものの、概ね好意的なイメージが多数出力された。しかし話し合いはイメージにとどまり、具体的にALO内でどう過ごすか、と言う話には繋がらない。

 そうして暫しうんうんとセブンの膨らみ続ける欲求を宥めていると、唐突に何かを思い出したのか、アスナちゃんがポンと手を叩いた。

 

 

「日本()の夏でいいなら今ちょうどいいイベントやってるよ」

 

ほんと!?……んん‶!よかったら教えてくれないかしら」

 

 

 一瞬食い気味な反応を返してしまったのが恥ずかしいのか、慣れない咳ばらいを挿んでからセブンはそう切り出した。微笑まし気に見つめてくる複数の視線が気になったのもあるだろうが。

 

 

「ふふふ、いいよ。……実はスヴァルトエリア追加後に、従来のALOマップでもいくつかマップ構成に調整が入ったみたいで、今ウンディーネ領の海岸地域にビーチが作られてるの。その周りの砂浜に出店を出してお祭りをするんだって」

 

「へぇ……マップ改修でイベント増やしたのか。最近新エリア追加したばっかりだって言うのに、ALOのアップデートは随分気合入ってるな」

 

「SAOはアプデ皆無のクソゲー漬けだったけどね。バランス調整くらいしろっての」

 

「もう、そういうこと言わないの。めっ!だよ」

 

 

 ホルン君ほど言うつもりはないが確かに酷い調整が随所にあった。即死トラップとか、結晶無効化エリアとか。まぁHP全損=現実の死、以上に酷いものは無かったけれど。

 

 

「それでどうかな?ここのみんなで行ってみない?」

 

「行く!絶対行く!!こうしちゃいられないわ、スメラギ君はラボに戻ってデータサンプリング止めないようにして!」

 

 

 極々自然にスメラギ君の休日が消滅した件。七色はもうちょっと彼のこと大事にしてあげた方がいいと思う。

 

 

「まぁ、そうなるだろうと思っていたが。了解した。明朝までに資料をまとめる、そのぐらいに帰ってきてくれ」

 

 

 いや良いんかい、と思ったのは私だけじゃないようだ。カフェ内の面々の視線が自然とスメラギ君に集まっていた。

 

 

「スパシーバ!さっそく水着用意してくるわ!お姉ちゃんも買い物行こ!」

 

「仕方ないなぁ。可愛い妹の為に一肌脱ぎますかー」

 

「そんなこと言って、妹に頼られて嬉しいんじゃないの」

 

 

 シノンちゃんの一言でちょっと声が詰まった。流石は弓使い、しっかりこちらの弱点射抜いてくる。

 ……そうです、ちょっと姉妹らしい交流に憧れありました。内心はしゃいでます。しかもリアルにあんまり友達居ないのでここのみんなと一緒に遊べるのも嬉しいです。はい。

 

 洗いざらい吐くと姉の威厳が無くなる為、こちらを不思議そうに眺める妹には笑顔を取り繕って返しておいた。体裁は守り切れたはずである。多分。

 

 

「私たちも行っていいですか?よく考えたらALOで水着買ってなくて」

 

「いいわよ!みんなで行きましょ」

 

「お買い物だ~♪あ、そうだ。ホルン、アタシたちの家寄ってスイカ収穫してきて。スイカ割り?っていうのやってみたい!」

 

「……こないだ水車引いたり、花壇の一角を畑に改修させられたけど、あれスイカ畑にされてたんだ」

 

「お前らのホーム毎回謎の開拓進んでるよな。D○SH島みたいに」

 

「……相変わらずホルンくん相手だと容赦ないわねストレアさん」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ……1時間後、ウンディーネ領にて。

 

 

 

 

 

「海だ~!」

 

「海だ……」

 

 

 テンションの対極的な赤眼の二人をそこそこに、全員が目の前に広がる絶景に心奪われていた。

 青く澄み渡る水面、白くきめ細やかな砂浜。そんなビーチに乱立する出店なども合わせれば、VRゲーム内であることを忘れそうなほどに『夏の海』らしいロケーションだ。

 既に話が広まっていたのだろう、わたしたちが到着した頃には大勢のプレイヤーがバカンスを満喫している最中だった。

 

 一旦そこで別れ、更衣室で水着に着替えてから集合、と言う話になった。他の人たちが楽しげだったせいか、全員割と駆け足で移動していたのは少し面白かった。

 そうして先ほど用意した白のフリルビキニに着替えて戻ると、いの一番に着替えて飛び出したはずの妹が、しげしげと周囲を見渡していた。まさか期待外れでがっかりしてしまったのだろうか。

 

 

「へぇ……日本だと出店がこんなに立ち並ぶのね」

 

「海の家、って言うんだよ。アメリカとかにはあまり無いんだっけ?」

 

「そうね。基本的にビーチのすぐそばにホテルが立てられてるからか、ビーチの方に施設類が立つこと自体少ないわ。文化の違いなのかしら」

 

 

 そう言って考察をするセブン(七色)の顔は間違いなく研究者のそれだ。どうやら失望とかではなく、単純に興奮を上回る知識欲が彼女を冷静にさせていただけらしい。……フリルスカート付きの白いワンピース水着のせいで、背伸びしてる子供感が拭えないのだが。

 対照的に、付近の少女たちは年相応にはしゃぎ、色とりどりの水着に身を包んで跳ねまわっていた。

 

 

「き、キリトさん!この水着どうでしょうか…?変じゃありませんか?」

 

「よく似合ってると思うよ。明るい黄色も元気なシリカのイメージによく合うし……その腰のリボン、ひらひらしててピナの尾羽みたいだな。お揃いって感じだ」

 

「ほんとですか!?……やった!

「キュウウウ~♪」

 

 

 

「ほんと現金な子ねー。さっきまで姿見にへばりついて不安そうに確認してたのに、このまっくろくろすけの言葉一つで満足しちゃってるなんて」

 

「俺今日そこまで黒くないだろ……海パンだけじゃん。しっかし、リズもそういうの着るんだな。ピンク系なのは予想してたけど、フリルとか付いてるの」

 

「なによ。似合わないって言いたいわけ?」

 

「いや、似合っててびっくりしてる。……あれだな、よくよく考えたら普段から給仕服改造したみたいな格好してるんだし、リズの顔はかわいい系なんだから似合って当然だったか。悪い、正直舐めてた」

 

「…………っ、こいつはどうしてこんな歯の浮くようなセリフをポンポン言えんのよ…!!

 

 

 

「……お兄ちゃん今までよく刺されなかったね。女の敵とか言われたことない?」

 

「どこぞの煽りカスに言われたな。あと、VRでなら刺されたことあるぞ。ホルンとかクラディールとかヒースクリフとかに」

 

「ブラックジョーク……いや、お兄ちゃんの場合は《黒の剣士》ジョークかな」

 

「それはそうと、スグの水着姿かぁ。昔市民プールに行ったときに見たのが最後だったから見違えたよ。よく似合ってる。黄緑と白の色合いが特に」

 

「はいはいありがと。お世辞でも嬉しいよ」

 

「身内贔屓抜きで言ったつもりなんだけどなぁ」

 

 

 

 ……びっくりするくらいにキリト君が女たらしだった。

 いや彼にそんな気が無いのは分かってるけど。わたしもたまーにドキッとさせられる言動飛んできて心中荒ぶったことあるから理解してますけども。問い詰めると毎回不思議そうにキョトンとした顔で返されますけども。あくまで彼にとっては仲のいい友人の外見を褒めたり、肉親への軽口なんでしょうけども。

 やはり親愛感100%・下心0%であの火力の褒め殺しが出力されてるのは()()()と言っても仕方ないだろう。

 

 現に褒められた三人はそれぞれ相棒の小竜ピナと共にぴょこぴょこ跳ねたり、赤い顔を隠すようにそっぽを向いたり、はにかみながら控えめにエルフ耳をピコッとさせたりと様々な形で喜びを表現していた。

 一体何人の少女があの黒衣の少年に心奪われているのだろうか。恐ろしいものである。

 

 これは妹が毒牙にかかる前に*1どうにかするか、と覚悟を決め一歩踏み出そうとし──穏やかな日差しの降り注ぐビーチに似つかわしくない、強烈な冷気とプレッシャーを感じて凍り付く。

 反射的に抜剣しそうになりながら振り向くと、そこには白いホルターネックビキニに身を包んだ、穏やかならざる眼光のアスナちゃんが居た。笑顔なのにめちゃくちゃ怖い。

 

 

「…?三人ともどうし────アスナ」

 

「ふふふ……なぁにキリトくん?他の子のばっかり見てて気付かなかった?わかるよー、三人とも水着よく似合ってるもんね?昔と違ってきみも対人スキル向上したから楽しそーーーに女の子と話せるようになっちゃったし。いや別にいいんだけどね?私もキリトくんとみんなが仲いいの嬉しいし?ぜんっっっっっぜん気にしてないから」

 

 

 言葉とは裏腹に圧が凄い。普段は適度に相槌挿んだりして相手の言葉を遮らない喋り方する子なのにめちゃくちゃ捲し立てている。

 流石のキリト君もこれはキツいのでは──

 

 

 

「…………ごめん、うまく…言葉が見つからない。……綺麗だ、似合ってる」

 

「…………………………………………もぅ、ばか。調子いいんだから」

 

「アスナ……」

 

「キリトくん……」

 

 

「パパもママも仲直りできたみたいでよかったです!」

 

「ユイ…!なんてことだ……娘が天使すぎる…!白と黒のワンピース……俺たち二人の色にしてくれたんだな。この色合いならさしずめ堕天使…?なんてことだ地獄も天国に変わりそうじゃないか!」

 

「でしょー!?一緒に水着選んでて大変だったんだよ。こう…可愛いオーラが溢れすぎて!」

 

「ああ…これは危険だ。写真に撮って納めないと」

 

「キリトくんあとでスクショ私にも送って。アルバムに入れたい」

 

「?写真を撮るんですか?それなら砂のお城作るので一緒に撮ってほしいです!」

 

「ああ作ろう!俺たちが一緒に住めるような奴を!」

 

「ええ作りましょう!《血盟騎士団(KoB)》本部より立派なのを!」

 

 

 

「…………お姉ちゃん、あたし達何を見せられてるの…?」

 

「…………ごめん、よく分からないや…」

 

 

 七色も流石に困惑したようだ。天才の妹に消化できない事態を凡才の私が把握できるはずもなく、姉妹揃って呆然とするほかない。

 

 余裕のワンターンキルだった。なんだろうか、本命の子相手だと急に照れくさそうに褒めるのズルくないか。あざとすぎる。

 そしてユイちゃん来た瞬間になんか混ざりづらい空間広げるのもなんなんだ。微笑ましいけど蚊帳の外感。なんなんだこのバカップル。

 

 

「「「ぐぬぬぬ……」」」

 

 

「ぐぬぬぬじゃねぇよ負け犬共、寝取る気ならもっとちゃんと攻めろ。見ろよそこのアホ面二人 with 幼女を。いつも通り当て馬にされただけだぞ悔しくないのか」

 

「別に…似合ってるって褒めてもらえましたし……アスナさん良い人ですし」

「別に…あたしは親友の恋を応援してるし……アスナ良い子だし」

「別に…私はお兄ちゃんとそういうのじゃないし……アスナさん良い人だし」

 

「白旗振ってるくせにいっちょ前に抵抗してんのめんどくせぇなコイツら」

 

 

 いつの間にか現れた声の方を振り向くと、普段の天気感のないレインコート姿からラフな格好に着替えたホルン君がいた。水着こそ着ているものの泳ぐ気が無いのか、黒猫のワッペンが貼られた灰色のパーカーを羽織って欠伸をしている。

 こっちもこっちであざといワンポイント装飾してるなぁ、と思ったが、その程度で隠しようのない強烈な毒が漏れ出ている。しかし砂浜を歩いて足音一つしないのはどういう技術なんだろう。

 そんなことを思いながら眺めていると、対照的に砂を豪快に踏みしめながら駆けてくる何者かの足音が聞こえる。

 

 

「お~い、みんな~!!」

 

 

「この声……ユウキ!」

 

「へへへっ、久しぶりアスナ!」

 

 

 赤いヘッドバンドから生えた濡れ羽色のアホ毛を揺らしつつ、ユウキちゃんはアスナちゃんの胸元に勢いよく突撃していった。その姿に無いはずなのに、何故かブンブンと振り回される犬の尻尾が幻視された。

 ユウキちゃんにとって彼女は《スリーピング・ナイツ》の臨時メンバーであり、自身のOSS《マザーズ・ロザリオ》のただ一人の継承者であり、第二の姉のような人だという。その結果が今の二人揃って揉みくちゃになりながら喜び合う姿なので、傍目には確かに仲のいい姉妹にも見えるというものだ。

 彼女の登場で先ほどの甘ったるい空気が壊れたのか、キリト君もアスナちゃんに倣って再会した仲間を出迎えに行っている。

 

 

「久しぶりじゃないか。検査増えるからイン減るって言ってなかったか?無理はしてないよな?」

 

「キリトも心配性だなー。倉橋先生からもタイコバン?押してもらってるくらいに調子いいよ!まだ無菌室からは出られてないけど今のボク、メディキュボイドじゃなくてアミュスフィアでログインしてるんだよ!」

 

「ほんとに!?良かった……」

 

「その内双方向通信プローブに頼らなくても学校に来れるようになりそうじゃないか」

 

「へっへーん!今のボクは最強無敵のスーパーユウキだよ!」

 

 

 細い腕に力こぶを作るように曲げてみせるユウキちゃん。重い病気を患い、今も病室の一角からここに来ているというのに、その太陽のような笑みには影すらない。その懸命でいながら力強い彼女の生き様は、周囲の人々も元気を分け与えられている気になってくる。

 

 

「ユウキ、走ったら危ない……ってもう遅かったのね」

 

「シノン?あいつお前が呼んだん?」

 

 

 今度は控えめに砂を踏む音と共にシノンちゃんがやって来た。着ているのは黒地に水色の差し色が入ったハイネックタイプのビキニ。シンプルではあるがそれが却って彼女の落ち着いた雰囲気によくマッチしている。

 アスナちゃんと違いこちらは姉というか保護者のような言動だ。一人暮らし勢だからか妙にしっかりしているので、普段からこうして窘める側に回ることが多い。奔放なユウキちゃんに振り回される時は特に。

 

 

「VRで日焼け止めがあるのか気になって売店に寄ったら、見覚えのあるのが居たから声をかけたの。あんた達も居るって言ったらあの子、一直線に飛び出してったわ」

 

「まぁユウキ、アスナ大好きっこだしなぁ。さもありなん」

 

「あら、師匠(センセイ)もユウキに気に入られてるじゃない。あの子次のリベンジマッチでけちょんけちょんにしてやるんだー、って言ってたわよ」

 

「えぇ…どこぞの黒ゴキブリくんより反応速度速い奴との決闘(デュエル)嫌なんだけど……。あいつらフェイント引っかかってから後出しじゃんけんで対応してくるんだぞ。ダルすぎる。

あ、水着割と似合ってると思うよ。狩人っぽい感じで」

 

「そんな人類卒業生と戦えてる時点で人外側よ。自覚しなさいな。

どうもありがとう。どうせなら煽りレパートリーくらいの語彙力用意してほしいけど」

 

 

 ……不思議な空気感してるなこの二人。視線は二人とも喧騒の方に向いてるのに会話のテンポが全く崩れないというか。互いに一歩引いたような距離感なのにリラックスしてるというか。

 あとシノンちゃんの口から妙な呼び方が聞こえたのは気のせいか。わたし今まで普通に『ホルン』って呼び捨てしてるのしか聞いたこと無かったんだけど。二人の時にしかしない呼び方とかある感じなんでしょうか。

 

 訊ねていいのか迷っていると、それより先にユウキちゃんがこちらをロックオンしたようだ。アメジスト色の瞳が見開かれ、頭頂部のアホ毛が荒ぶり出す。

 

 

「レインにセブン!それにほんとにホルンまで居る!珍しいねー!えっと、ぷりゔぃえーと!」

 

「今更気づいたんかい。それと珍獣扱いやめろ。僕はプリヴィエートシスターズやお前よりイン率高い」

 

「妙なあだ名付けられたなぁ……まぁいいや。プリヴィエート、ユウキちゃん」

 

「ユウキちゃんはまだちょっと発音が拙いわね。今度あたしがレクチャーしてあげる」

 

「えぇー……ベンキョー苦手なんだけど」

 

 

 妹と違って年相応な反応を示す姿は微笑ましいものだ。七色も他の友人たちに比べて年齢が近い為か、ユウキちゃんと居る時は肩の力が抜けているように見える。ここでの交流が妹にもいい影響を与えてくれてるようで嬉しい限りだ。

 

 

「そうだ。せっかくだからボクも水着の感想教えてほしいなー。どう?似合ってる?」

 

「……似合ってる。うん、間違いなくユウキには似合ってるよ?だけどさ…」

 

 

 アスナちゃんが嫌に言葉を濁していた。彼女としても妹分に言いづらい感想が浮かんだのだろう。

 実際似合ってはいる。活発な彼女に合わせてか装飾は最低限で飾り気に乏しく、しかし機能的でありながら瑞々しい若い肢体を輝かせている彼女の水着は、まさにぴったりなデザインだ。

 そして落ち着いた紺色の布地はインプ族の白磁の肌をより映えさせ、少女にどこか妖艶さを演出している。

 

 しかし何と言うか……こう、妙な犯罪臭がすると言うか…指摘しない方がいいような気がすると言うか──

 

 

 

「……何故にスク水?しかも旧型」

 

 

(((((言ったぁぁぁぁ!!?)))))

 

 

 

 勇者が居た。周囲の葛藤をものともせずに直球で聞いた猛者が。この瞬間ばかりは普段の言動を無視してホルン君を尊敬した。

 

 

「それはほら、ボクのリアルネームが紺野木綿季じゃん?こんのゆうきー、こんのみずぎー、紺の水着みたいな感じで」

 

「ダジャレかよ」

 

「あとは学校の水着使う機会ほとんどなかったからさー。なんとなく着たくなっちゃった」

 

「理由が両極端すぎる。どっちかに絞れ温度差で風邪ひきそうになるわ」

 

 

 他の人たちがちょっと引き攣った笑みを浮かべる中、赤眼の少年だけが普段通りのテンションを貫いていた。急にブッ込んできたユウキちゃんにも驚くがホルン君がブレなさ過ぎる。どんな生活してたらそのスルースキル身に着くんだ。

 なるほど、たしかにスメラギ君も事件前後でここまで態度変わらない人居たらおもしれー奴扱いして話しかけるかもしれない。ちょっとだけ彼と共通の話題が見つかったような気がした。

 

 

「名前も書いてあるから無くす心配もないのがいいよね」

 

「着てる服無くす状況って何?ってか名前の部分『ユウキ』じゃなくて『絶剣』かい。なんであだ名の方を優先したんだよ。しかもひらがなだから迫力もないし」

 

 

 怒涛のツッコミである。ホルン君は一見ダウナー系男子なのに煽ったりツッコンだりするせいか見た目に反して口数が多い。そろそろ彼の口内パッサパサになってそうだ。

 指摘の通り彼女の胸元の白い余白には、丸っこい女の子っぽい文字で『ぜっけん』と書かれていた。フォント設定であの丸さは無かったはずなので自筆だろう。

 考察をしながら二人の方を眺めていると、ユウキちゃんはそれまでの快活な様子から一転、急に胸元を隠しながら少年に流し目を送った。

 

 

「……あー、書いてある文字しっかり確認するくらいボクの胸見たんだー。ホルンのえっち」

 

「え」

 

「まー仕方ないよねー。ボク割と美少女だし?釘付けになるも仕方ないって言うか」

 

 

 キリト君相手だと割とフラットな態度なのだが、彼女はたまにホルン君のことはこうして揶揄おうとする。

 一度自身に勝った相手だから特別なのか、はたまた懐いているだけなのか。ともあれ、その生い立ちのせいでどこか達観している彼女が、自分から子供らしく振る舞うというのは案外レアなのは間違いない。

 

 アスナちゃんがもう一人のお姉ちゃんなら、さしずめホルン君は背伸びしながら話しかける、近所に住んでるお兄ちゃんくらいの距離感かな?と彼女の無邪気な変貌を周囲が微笑ましく眺める中、件の少年は真顔で呟く。

 

 

 

「平面に書かれた文字を読んだだけなんだけど。看板みたいなものじゃん」

 

「平面!?看板!!?」

 

 

 

 あまりといえばあまりな言い様だった。ひとまず敢えて何か言うとすれば、ユウキちゃんは懐く相手を間違えている。

 

 暫くショックのせいかわなわなと震えていたが、持ち前のメンタルで彼女は立て直した。なおも懸命に再度アタックを仕掛ける。……ちょっと笑みが引き攣ってるのは気のせいだ。

 

 

「ま、またまたー。照れ隠ししちゃって素直じゃないなー。ほんとはボクのないすばでーに笑顔になりそうなの我慢してるんじゃないのー?」

 

「……ハンッ」

 

「鼻で笑われた!!?!?」

 

 

 ガーン、と擬音が聞こえてくるようなやり取りだ。超反応速度で翻弄してくる剣士も、防御も回避もできない言葉の刃に無力だった。

 しかし、そんなホルン君の冷血極まる言動に異を唱える者がここに一人。

 

 

「い、いくらホルンさんでも、そういうの言っちゃダメだと思います!女の子は気にするんですよ!?」

 

「シリカ……」

 

 

 普段は大人しいケットシーの少女が精一杯声を張り上げて抗議していた。膝をつくユウキちゃんを守るよう、然程大きくない背に懸命に庇って。

 人懐こそうなマンチカン種を思わせるフワフワの猫耳や尻尾が、今は毛を逆立てて最大限の威嚇状態となっている。彼女は覚悟を決めてSAO最強の刀使いと言われた少年に対峙していた。

 そして張られた胸はなだらかだった。

 

 

「大丈夫だからねユウキちゃん。あんまり強くはないけど、あたしとピナもユウキちゃんの味方だよ!」

「キュウウ……」

 

 

「その空飛ぶ羽毛布団、お前が盾にしてるから逃げれないだけじゃない?」

 

 

 勇気を振り絞っての抗議なのは伝わったが、悲しいかな彼女の実力は少年と大きく開いている。デスゲームの攻略組で最上位層に居た剣士の相手は荷が重かった。実際に試合をすれば20秒と持たないだろう。

 シリカちゃん自身自覚があるようで、今の彼女は両足をプルプル震わせながら、相棒のピナの小さな背に隠れている状態だ。

 

 

「シリカちゃんだけじゃないわ!」

 

「セブン…!」

 

 

 我が妹も陣営に加わってしまった(絶望)

 ステージに上がってアイドルやってる時は絶対しないであろうキツい表情で少年を睨みつけている。

 例によって胸はなだらかである。

 

 

「あたしだって力になる!この前正式にスメラギ君からOSS(テュールの隻腕)も貰ったし、これでぎったんぎったんにしてあげるわ……!いざとなったら《シャムロック》のみんなだって呼べるんだから!レディの尊厳に傷を付けてタダで済むとは思わないことね!!」

 

「貰い物の必殺技(笑)とドルオタ頼りなのカッコいいじゃんリトルレディ。尊厳守るのも人任せですかー?」

 

「なんですってぇーーー!!?」

 

 

「なんか絶妙にそこの煽りカスに勝てそうな勢力になったわね」

 

「ここまでやってようやく勝負になりそうなのおかしいよこの人……」

 

 

 ぎゃいぎゃいと知性を感じない口論をする二人を見ながら、リズっちとリーファちゃんが呆れたようにそう呟く。

 《絶剣》の通り名で呼ばれるALO指折りの剣士であるユウキちゃんは元より、なんだかんだSAO生還者(サバイバー)から《竜使い》のシリカとして知られるシリカちゃんも決して弱くはない。しかも《シャムロック》って500人くらい居るギルドのはずなんだけど、この戦力で敗け筋あるの……?

 

 

 

「シノンちゃんも何とか言ってよ!あたし達言われっぱなしよ!?」

 

「……は???」

 

 

 

 ホルン君の煽りでIQが低下してしまったのか、ここで妹が大暴投を決めた。なんでか急にシノンちゃんを仲間扱いしていた。集まって騒いでいる三人と彼女に共通点がある、とでも言わんばかりの物言いだ。

 それまで一歩引いた位置で静観していた彼女もこの言葉には思うところがあるらしく、急にドスの利いた声で威圧しだした。ちらりと窺うと、ヤマネコの眼は瞳孔が縦に細まっているところだった。ブチギレ一歩手前といったところか。

 そして運が悪いことに、ユウキちゃんが反射的に口を開いてしまう。

 

 

「ひっ……だ、だってシノンもこっち側じゃん。アスナとかリーファとかみたいな感じじゃないし……」

 

「鼻の穴増やすわよ」

 

 

 誤解の無いよう言うなら今ユウキちゃんが挙げた二人、同性の中でもかなりスタイルいい方である。そしてシノンちゃんも決して見劣りしないスラっとした美人だ。……上澄み側が出るとこ出過ぎているだけでなのだ。

 堪忍袋の緒が切れた彼女は先日手に入れたレジェンダリー武器、《光弓シェキナー》に矢をつがえているところだった。このままでは妹が矢でハリネズミみたいにされる!

 

 

「ごめんシノンちゃん!七色にはわたしの方からも言っておくから許して!?」

 

「し、しののん落ち着いて!小さい子も居るんだから大目に見てあげよ!?」

 

胸の小さい子も大きめに見てあげよう!!?!?アスナさんはたしかにキリトさんが目で追うくらいおっきいですけど、いくら何でも聞き逃せません!!」

 

「ブフゥッ!!?」

 

「そんなこと言ってないんだけど!?」

 

 

 アスナちゃんのフォローを盛大に聞き間違えていた。巻き添えでキリト君が噴き出している。

 シリカちゃんが目をぐるぐるさせながら暴走し、事態は更に混沌としてきた。次第に騒ぎを聞きつけたのか、ここに居る面々を囲うように遠巻きに野次馬が増え出していた。……何故だろうか。ペインアブソーバーで消されたはずの胃痛を感じるのは。

 

 

「わ…私だってまだまだ成長期なんです!これからきっとお、おっきくなります!!」

「キュアァ!」

 

「そうよ!将来性まで見越して評価しなさい!」

 

「貧乳はステータスだ!希少価値だ!!……ってネットにあったよ!」

 

 

 すっかり気が大きくなった三人は口々に抗議を重ねていた。ユウキちゃんに至ってはかなり懐かしい語録で反撃している。

 事態の収拾は不可能に思われた。

 

 ホルン君が冷めた目で口を開くまでは。

 

 

 

「勘違いするなよ。お前らの胸は希少なんじゃなくて少ないだけだ」

 

 

「「「ぐはぁ!!」」」

 

「ホルン君はどうしてそんな酷い言葉を口にできるの……?」

 

 

 たった一言で三人の少女を地に沈めた少年の鋭すぎる罵倒に、わたしの口からそんな声が漏れ出ていた。

 あまりにも残酷すぎる返しだった。好意の有無はともかく、それなりの交流がある異性に言われたらかなりクる。バイトしてたメイド喫茶に来たクレーマーでもあそこまでは言うまい。

 周囲の聴衆からも「惨い…酷過ぎる……」などと聞こえてきた。ついでに何人か無関係の女性プレイヤーも崩れ落ちている。文句のつけようもなく大惨事だ。

 

 そして肝心の言われた側はと言うと。

 

 

 

「ギリ"ドざん"ん"……!」

「キュウウウ……」

 

「ちゃっかり泣きつきに来るの強かねぇ」

 

「お、落ち着けってシリカ。ホルンがああなのはいつものことだろ?真面目に受け止めるとマジで折られるぞ、心。

あとピナ、ヒールブレスじゃメンタルダメージは回復しないよ……」

 

 

 

「ア"ズナ"ぁ"ぁ"……!」

 

「だ、大丈夫よユウキ。気を強く持って?煽りカスがホルンくんなのはいつものことでしょ?ね?」

 

「大丈夫ですかユウキさん。メンタルケアが必要でしたら言ってくださいね?元ではありますが、私もMHCPなのでお役に立てますから。ママも落ち着いてください」

 

「アスナさんアスナさん。逆です。意味は伝わりますけど」

 

 

 

「お"姉"ぢゃ"ん"ん"……!」

 

「だ、大丈夫よ七色!あなたはまだ若いんだからこれから大きくなるって。ね!?」

 

「……なんて言うか、地獄みたいな光景ね。大人げなく怒らないで味方してあげるべきだったかしら」

 

 

 

 ボッコボコに心をへし折られている。二次性徴を終える前の彼女たちに少年の遺した傷は大き過ぎた。

 

 

「その、さ?流石にちょーっとホルン君の言葉キツ過ぎませんかー……なんて」

 

「身の丈に合わない夢抱いてあとで絶望するより、今ここで現実叩きつけた方が傷が浅く済むだろ」

 

「交通事故に遭って死ぬ前に骨折させるみたいな考え方なの……?」

 

 

 

「おいおい……これいったいどういう状況だよ。俺たちが来るまでに何があったんだ」

 

「遅いぞクライン。もうホルンが犠牲者出した後だ」

 

「またかよ…もうホの字は口縫い合わせるか猿ぐつわでも付けようぜ」

 

「……ホルン?ひょっとしてお話足りなかったかな???」

 

「レンくんさぁ、前から言ってるじゃん!キミの言葉耐性ない人にはめちゃくちゃキツいんだよ!?私やキリトたちみたいに言われ慣れてる人とか、ストレアみたいに図太いの以外には加減しなさい!!」

 

「僕は悪くない。嘘は言ってないんだから」

 

「「キ・ミ・が・わ・る・い・の!!!!」」

 

「えぇ……じゃあなんだよ僕の罪状。事実陳列罪?」

 

「相変わらず問題児だなお前さんは……」

 

 

 最後のグループでクラインさん、ストレアちゃん、フィリアちゃん、エギルさんがまとまってやって来た。何やら焼きそばとかたこ焼きらしき物の入ったパック片手に。

 成人男性二名は慣れたことだ、と言わんばかりに肩を落としているがその程度で済ませていいものか。道中の屋台でもらったとかいう食べ物配ってないで、一回くらいガツンと言うべきなのでは。

 とりあえず元凶の少年は抑え込まれていることだし、今の内に妹たちのメンタルケアを済ませるべきか。

 

 

「七色、この焼きそば結構おいしいよ。あと近くでラムネ売ってたし、これ食べてから買いに……七色?」

 

「…………いいなぁ

 

 

 食べ物で釣るのはダメだったか、と己の浅慮を恥じたが……どうにも様子がおかしい。胸元に抱き着いている妹の視線はこちらと掠りもせず、何故かホルンくんたちの方に向いていた。

 口喧嘩の再戦を申し込むような雰囲気でもなく、というか、そもそもホルン君すら見ていない。何より解せないのは妹の零した羨望ともとれる呟きである。

 いまいち腑に落ちないながらも一人の姉として、彼女の悩みに寄り添うべく視線を辿り……妹が何を見てそう言ったのかを察した。

 

 

「どうしてホルンはいっつもそうやって周りの子と喧嘩しちゃうの!アタシそんな子に育てた覚えないよ!?」

 

「僕も育てられた覚えないんだけど。急に怖いこと言い出すな」

 

 

 プリプリと頬を膨らませて精一杯怒ってるストレアちゃん。ユイちゃんを『お姉ちゃん』と呼んだりホルン君をああやって自分の子扱いする変わった人だけど、仲間想いで優しい良い子だ。

 普段はホルン君を振り回すくらいべったりな彼女も流石に看過できなかったようで、今回は可愛らしいお説教係になっていた。

 

 そんなストレアちゃんだが、非常にメリハリの利いた身体つきにもかかわらず、少々内面の無垢さのせいかボディーランゲージやスキンシップが多かったりするので割と目に毒だった。今もホルン君を正座させて怒る傍ら、彼女の身振り手振りに合わせて紫色のクロスホルタービキニに包まれた胸元が弾んでいる。

 誰が言ったか万乳引力。周りを見てみるとシリカちゃんとユウキちゃん、あとエギルさん以外の男性陣もその光景に視線が吸い寄せられていた。キリト君は指の隙間から見ようとしてアスナちゃんに頬を引っ張られている。

 なお胸部が目立つだけで、腰に巻かれたパレオの隙間から覗く脚も女性的な柔らかさとしなやかさを持っていて大変艶めかしい。上半身も下半身も凶器の塊だ。

 

 

「はいはい、そうやって軽口で誤魔化さないの。キミの癖なんてお見通しなんだから。ちゃんと反省する」

 

……チッ、反省してまーす。もういい?さっきから足の小指ちっさいカニに挟まれてて気になるんだよ」

 

「うーん、清々しいくらいに不良男子。……おばさんかおじさんに言いつけ「再発防止に努めます」初めっからそう言ってほしかったなぁ」

 

 

 もう一人、ストレアちゃんの隣で厳しくも気易い監視役をしているのがフィリアちゃん。トレジャーハンターを自称し、その名に恥じない優れた探索能力でパーティーの危険を減らしてくれる偵察兵(スカウト)ポジション。

 しかし気難しさとかはほとんどなく、平時は明るくサバサバしているので大抵の人と仲良くできるムードメーカー気質の少女だ。わたしがみんなを尾行していた時期も特に気にした様子もなく受け入れてくれていたくらいに人がいい。

 リアルとゲームでガラッと髪色が変わるタイプで、今はスプリガンらしい黒くて艶の少ない髪色だが、リアルの彼女はオレンジに近い明るい髪色だ。そのせいで苦労したこともあるだろうに『昔のことだよ』と笑って言えるのは、ハーフという生い立ちに悩んだわたしには眩しい。

 

 ……という尊敬できる友人ではあるが、以前女子勢で体型維持の話題について愚痴り合った時、彼女は一人だけ『ダイエットってどうやるの?』と宣って場を凍り付かせたことがある。ちょっとぽわぽわしているストレアちゃんが目を剥き、人当たりのいいアスナちゃんが真顔になって問い詰めたという、かなりレアな実績持ちだった。

 今も水色と白のストライプ柄のビキニはそれなり以上のふくらみに押し上げられ、ほっそい腰からデニムショーパンを身に着けた下半身への曲線美も完備。引き締まった美脚を惜しげもなく曝している。

 つまり早い話、特に体型維持に気を遣ったことがないのに出るとこしっかり出ているのだ。これが世の理不尽。

 

 

 以上二名がホルン君と日常的に距離が近い女子であることを思い出し、彼の放った妹たちへのキツい身体評価に合点がいった。いってしまった。

 

 

(いやまぁ……うん…………。言い方はともかく、あんな上澄み中の上澄みが二人も近くに居たら価値観そりゃ厳しくなるよねぇ……)

 

 

 こっちが納得の言葉を飲み込んでいる間、先ほどの三人は自身の身体を虚ろな目で見降ろしていた。胸部をペタペタと触る姿はどこか物悲しい。ビーチに降り注ぐ日差しが嘘のようにどんよりとした空気が漂い出していた。

 

 

「…………あー、えーっと……。全員で集まったけど、固まりすぎると邪魔だからいくつかのグループに分かれてビーチ回ってみないか?」

 

「「「「異議なし」」」」

 

 

 重苦しい空気に耐えかねたキリト君の鶴の一声に全員が飛び付いた。そうだ、元々うちの妹に日本の夏を紹介するための集まりだった。強烈なアクシデントのせいで忘れかけていた。

 それに動き回れば七色たちも気が紛れるしいい案だ。辛い思いをした分楽しませてあげよう。

 

 とりあえずどういうルートで回るかは未定だが、心の傷が癒えるまでホルン君からは引き離そうと決めた。

 

 

「シリカ、リズ。一緒に回らないか?荷物持ちでも何でもいいぞ」

 

「珍しく気が利くじゃない。いい機会だしあんたが折った《ダークリパルサー》の代金分こき使ってやるわよ。ね、シリカ」

 

「……ありがとうございます…キリトさん」

「キュウ~」

 

 

 自然とこうした気遣いができるのは彼の美点だろう。たらしだなんだと言ったが、それもああいった彼の生来の優しさに惹かれる人物が多い故の評価だ。こういう時にこそ彼の本領は発揮されるのだろう。

 

 しかし。

 

 

「ねぇキリトくん、ユウキも一緒じゃダメかな?ちょっとまだ傷が深いみたいで……」

 

「え゛、あー…うん、そうだよなぁ。今回のアイツ結構言ってたもんな……よし!ユウキ、一緒に行こうか」

 

「……いいの?ボク邪魔じゃない?」

 

「邪魔なもんか!大切な仲間だよ」

 

 

 一瞬、キリト君の口から呻き声が漏れ出ていたが、それを周囲に悟られる前に普段の調子に戻したのは流石だった。わたしが気づけたのだって他人の顔色を散々窺ってきたから綻びが気になったレベルだし。

 恐らくだが彼の当初のプランは複数のグループに分かれつつ、先ほどホルン君(赤眼の煽りカス)のせいで心に傷を負った少女たちをケアするというものだったのだろう。しかし早くも二人分のケアが確定してしまっていた。

 

 が、却ってその逆境がキリト君に覚悟を決めさせたようだ。

 彼はある種の悟りを開いたような表情でこちらに顔を向けた。額に尋常じゃない量の汗が浮いていたが。

 

 

「せっかくならセブンとレインも一緒に回ろうぜ。大人数の方が楽しいだろ」

 

「キリト君……」

 

「わたしと七色まで行くと流石に迷惑にならないかなぁ。結構な人数になっちゃうけど」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

 それ問題がある時に使うセリフのような。

 

 

「そうですよ!同じ敵と戦った仲間です、一緒に回りましょう!」

 

「今回は言い負けちゃったけど、次はあの毒吐き虫が口開く前にボコボコにしてやろう!今日の傷は明日の経験値だよ!」

 

「シリカちゃん…ユウキちゃん……!」

 

 

「ねぇいいのコレ。バラけるって言い出した意味全くないじゃない」

「……悪い、なんとか上手くやるから合わせてくれ」

「ふふっ、キリトくんはこうじゃないと」

「はい!パパは頑張れる男の子です」

 

 

 素晴らしきかな友情。わたしと七色は本当に人の出会いに恵まれている。強烈な存在感を放つ異物が一人いるが。

 

 

「私はちょっと泳いでくるわ。VRの海って初めてだし気になってたの」

 

「あ、私シノンさんと泳いできまーす。勝手が違うんだろうけど、もうすぐ授業の水泳あるから泳ぐ感覚だけでも思い出したいですし」

 

「そう?じゃあ一緒に行きましょう。キリト、あんたの妹借りてくわよ」

 

「溺れないように気を付けろよー」

 

 

 キリト君に手を振られながら二人は海へと向かっていった。シノンちゃんは文学系女子だと思っていたがアレで結構行動力がある。剣道部員だというリーファちゃんは言わずもがな。ゲームでも前衛・後衛でバランスも取れているしなかなかいいコンビだ。

 

 

「俺ぁちょっくら席を外すぜ。うちのギルドの連中も来てるらしいから顔見せてくるわ」

 

「クラインもしっかりギルマスやってるのね。行ってらっしゃい」

 

「おうよ。……それにここに居てもキリの字かホの字に大体持ってかれるからな!いい機会だし俺の出会いの春を探しに行ってくる!」

 

「…………そういうところがあなたを三枚目評価にしてるんだと思うけど」

 

 

 クラインさんの残念な発言にアスナちゃんがぼやくのが聞こえた。わたしも彼は悪い人ではないんだが微妙に残念、みたいな評価に落ち着くのでさもありなんと言ったところだ。出会い頭に捲し立てるようなプロポーズをされたのは強烈なインパクトを残している。

 

 

「じゃあアタシはホルンにお仕置きしてるね~。あっちの店でおっきなかき氷売ってたから、アレで頭キーンってなってもらうよ!アタシが食べさせてあげるね♪」

 

「それストレアが食べさせたいだけでしょ。ならもっといい罰があるよ!レンく……ホルンのクズ運を活かして、あっちの砂浜の宝探し大会やらせるの。3等以上の景品出るまで掘らせるから」

 

「フィリアがホルンと遊びたいだけじゃん!勝手に決めないでよ!」

 

「ストレアは普段から一緒に居るでしょ!たまには私にも譲ってよ!」

 

「なにを~!!」「やるの!?」

 

「僕を挟んで喧嘩するのやめてくれます……?」

 

 

「……あー、じゃあ俺はこいつらのお守りしてることにする。ストレアたちの持ってきたスイカがストレージに入らないみたいだからな、どのみち荷物番が必要だろう」

 

「エギルさん苦労してますね…」

 

「マスターはそれでいいの?」

 

「いいさ。元々お前さん達が主役なんだ。楽しんできてくれ。……それにオッサンにはオッサンの夏の楽しみ方があるものさ。若い連中が楽しんでる姿を見るとかな」

 

 

 そう言ってニカっと笑う彼は大人の余裕と色気に満ち溢れていた。リアルの方で妻帯者なのも納得の包容力。クラインさんとは格が違った。

 

 こうしてわたし達はそれぞれ行動を開始したのだが、別れ際にホルン君が動いた。

 

 

「おいスケコマシ」

 

「なんだよ煽りカス」

 

 

 基本的に温厚なキリト君がここまで無遠慮に煽り合いするのホルン君くらいだし、なんだかんだ仲はいいのだろう。個人的には、もうちょっと親友は選ぶべきだと思うが。

 そう思いながら二人の少年を見ていると、ホルン君はニヤァと口の端を歪めて無駄に良い声で囁いた。砂浜に正座させられたまま。

 

 

 

「精々楽しんで来い」

 

「嫌味かテメェ」

 

 

 

 …………やっぱり仲は良くないかもしれない。

 それとも男の子同士の友情ってこういうものなのか。分からない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 あれから約10分。

 

 

「不思議だわ……海辺で食べるだけでカレーや醤油ラーメンがここまで美味しいだなんて。潮風が味覚受容体に何らかの影響を与えているの…?それともVR専用の隠しパラメーター……?」

 

「リアルの海なら泳いで汗流した後だから分かるけど、VRでも美味いのはなかなか謎よねー。気分の問題なんかしら」

 

「焼きトウモロコシも美味しいです!」

「キュウウウ~」

 

「ねーねーユイ。ボクのベロどうなってる?やっぱりシロップの色付いてるのかな」

 

「はい。綺麗な青色ですよ。ただVRゲームでは汚れエフェクトは時間経過ですぐに消えるので、現実のものに比べて付着時間は短いと思います」

 

「…………SAOの時と違って醤油ラーメンがちゃんと醤油ラーメンしてる。技術の進歩だなぁ」

 

「ちゃんとしてない醤油ラーメンがあるの…?」

 

「変なNPCレストランにね。あの店のラーメンは技術云々じゃない気もするけど……。でも醤油の味公式に再現できるようになったんだね。この調子で味噌とかもやってくれないかな」

 

 

 潮風に吹かれながら海の家を食べ歩きしている間に七色たちも大分心の傷が癒えたようだ。買い食いを提案してくれたキリト君には大いに感謝だ。自分の腹の虫に従っていただけにも見えたが、結果オーライなので不問とする。

 こういう時現実の肉体に影響のないVRの飲食は素晴らしい。太るかもしれない、という罪悪感が湧かないので飲食を好きなだけ楽しめるのだ。

 ログアウト後の異様な空腹感で±マイナスになりがちなのが玉に瑕だが、気分が沈んでいる今は食べて寝るというシンプルな欲求の満たし方が一番効果的だ。コラテラルダメージとして受け入れよう。

 

 出店の立ち並ぶ通りを外れて少し進むと、進行方向に何やら人だかりが出来上がっていた。遠巻きなのでよく見えないが、度々歓声が聞こえるのであの一帯だけ異様に盛り上がりを感じた。

 

 

「なんだろうあれ。何かイベントでもやってるのかな」

 

「アスナ何かわかるか?」

 

「んー……たしか、フリー参加の喉自慢大会やってたような…?」

 

「へぇ、楽しそうじゃない。シリカ行ってみたら?カラオケ結構好きでしょ」

 

「そ、そんな人様に聞かせられるほど上手くないですよ。……でもちょっと誰が歌ってるのか気になるので、見に行ってみますね」

 

 

 そう言ってシリカちゃんはピナと一緒に駆け出して行った。AGI(敏捷性)値が高い短剣使いかつ小柄なので、この中で一番小回りが利くと気を遣ったのだろう。

 しかし人混みが予想以上に込み合っていたのか、30秒もしない内に小さな悲鳴が聞こえた。

 

 

「シリカちゃん大丈夫!?」

 

「え、ええ……けがとかは全然…。あの、すみません!走ったせいでぶつかったりなんかして」

 

 

 慌てて合流すると転んだ彼女のそばに、スプリガンと思しき青年が立っている。どうやら彼女は彼とぶつかってしまったらしい。

 しかしアッシュグレーの髪の隙間から見えた鈍色の瞳には、不満ではなく彼女を気遣うような雰囲気が感じられた。今も頭を下げる二人に少し困惑気味に見える。

 

 

「いえ。こちらこそ不注意ですいま……この声、アスナ副団長?それにシリカじゃないか」

 

 

「あなた……ノーチラス?」

 

「え、ノーチラスさん!?」

 

 

 両者が顔を見合わせて驚いていた。どうにも既知の間柄だったようだ。

 

 

(……あれ、なんかこの人見覚えが…それに名前もどこかで……)

 

 

「ご無沙汰してます。それにリズベットさんと……やっぱりあんたも居たのか、《黒の剣士》」

 

「久しぶりじゃない」

 

「俺だけ露骨に歓迎されてない……」

 

 

 キリト君を呼ぶときだけ心底嫌そうなのが気がかりだが、それ以外の面々には概ね紳士的な対応だった。多分いい人だろう。

 そしてこの人たちに反応したということはやはり──SAO生還者(サバイバー)

 

 

「……こちらの三人は?」

 

「あ、紹介がまだだったわね。左からユウキ、レインちゃん、セブンちゃん。三人ともスヴァルトエリア攻略中に知り合った仲間よ」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「えっと、レインって言います。一応わたしも生還者(サバイバー)です。……攻略組には居なかったので無名ですケド」

 

「……あの世界を生き抜いただけで十分だろう。レインさんも本物の剣士だ。恥じる必要はない」

 

「──ありがとうございます。あ、こっちの七…じゃなかったセブンと姉妹なんです。ほら、あなたも挨拶して」

 

「セブン?どこかで聞いた名前だな……」

 

 

 つい先ほどわたしがしたような反応をしながら彼の目が妹に向く。しかし七色の反応が返ってこない。軽く肩を揺すってみたが、寧ろ本人が小刻みに震えているのが伝わって来た。

 少しの間を空け、口を開いた妹から発せられたのは……歓喜と驚愕の声だった。

 

 

 

「ノーチラスって……まさか、《歌姫の騎士》ノーチラス!?本物!!?」

 

 

 

 彼女のその言葉で既視感の正体が判明した。そうだ、知っていて当然だ。……彼は攻略組のメインアタッカーの一人を務めた、トッププレイヤーと称される人物の仲間なのだから。

 しかし言われた本人はうぐっと声を詰まらせ、もの凄く気まずそうな笑みを浮かべて応じた。

 

 

「そ、その呼び方をされるのも久しぶりだ……。ああ、きみの想像している通りだ」

 

「あの!あなたが居るってことは、彼女もここに来ているの!?お願い会わせて!!」

 

「えっと……あっちに」

 

 

 妹の勢いに負けるよう、それなりに高い背を仰け反らせながら青年が指さす方向。人だかりに埋まった小さなステージから、図ったようなタイミングでメロディーが流れだす。夜の帳を下ろしたような落ち着いた音が。

 

 

「これって……【longing】…?」

 

 

 《憧れ》を題したそれはとある人物の代表的な歌であり、全ての答え合わせだった。

 

 直後。

 

 

 

 

 

──手に入れるよきっと…♪

 

 

 

 

 

 ──こちらの魂に響くような澄んだ歌声が駆け抜ける。

 

 たったワンフレーズなのに、その声を聴いた瞬間背筋に電流が走るような感覚がした。

 吸い寄せられるように向けた視線の先、人だかりの隙間から見た彼女。雪のように白く染め上げられたストレートヘアに、黒紫のフリルドレスタイプの水着を纏った麗人。

 アインクラッドの《歌姫》と呼ばれたその人が居た。

 

 

何処へ、行けるのか 僕らはまだ知らない

生まれたばかりの、翼を広げたら…♪

 

 

 

「やっぱりユナさん!」

 

「ああ……あれが、本物の…《歌姫》ユナ……!」

 

「うわぁ……あの人すっごい声綺麗!」

 

「ありがとう。そう言ってもらえると彼女もきっと喜ぶよ」

 

 

 ユウキちゃんの言葉に少し硬かった青年……ノーチラスさんの表情が和らいだ。まるで自分を褒められたかのように誇らしげで穏やかな声だ。

 

 

「そりゃ盛り上がるわよねぇ……今じゃVRの国民的アイドルだし」

 

「近く『世界的』に訂正してもらう予定ですよ、リズベットさん」

 

「……相変わらずユナが絡むとムキになるわねあんた」

 

「いったいどうしたの。今日のイベントでユナさんが歌うなんて告知はなかったと思うけど。あったら絶対忘れないし」

 

 

 リズっちに急に強気に出ていたノーチラスさんだが、アスナちゃんの言葉に少し表情が硬くなってしまった。何やら込み入った事情でもあるのか。

 

 

「初めはただの休暇だったんです。久しぶりにスケジュールに空きを作れて、折角だから二人でゆっくり羽を伸ばそう、と。

ただ急に外出するとスキャンダルとかが……それで安全択を取っていつも通りVRに来たんです。ちょうど今日ここで『納涼祭』をやってると聞いて」

 

「……どう見てもあの子のゲリラライブ会場になってるわよねこれ。本来のイベントよりウケちゃってない?」

 

「……本当に。初めの内はただの休暇だったんです…ユナがあのステージに飛び入り参加をするまでは」

 

「「「「あぁ……」」」」

 

 

 攻略組仲間の四人はもうオチが読めたのだろう。そんな絞り出すような声が聞こえた。

 ノーチラスさんは説明を始めた手前だからか、胃痛を堪えるような顔つきのままなおも言葉を続ける。

 

 

「…………これでも対策はしたんです。目立たないよう変装までしてもらって。いや髪色をリアルに寄せたぐらいだから気付く人は気づくかもしれませんが。

……でもあそこで歌った瞬間、声で一発でバレました。当然と言えば当然の話なんですけどね、あの声が知名度の原因なんで。

そこからは話が広まって……あんな感じです」

 

「──今軽く検索しましたが、確かにユナさんがここに居ると話題になっています。SNSのトレンドも上位30件中21件が彼女に関連する話題です」

 

「…………マネージャー業の方もお忙しそうですね。お疲れ様です」

「キュウウ……」

 

「…………ありがとう。今もなんとか話を付けてサプライズゲストということにしてもらったところなんだ。ウンディーネの領主やイベント運営が乗り気だったおかげで助かったよ」

 

「なんて言うか、有名人も大変なんですね……」

 

「それが彼女と俺の選んだ新しい戦い方だ。投げ出すわけにもいかないさ」

 

 

 一瞬、こちらの言葉に肩を竦めて応じる彼に、別の少年の姿が重なったような気がした。……口の悪い、レインコートの刀使いの姿が。

 不意に右手が引かれる。振り向くと、珍しく年相応に顔を輝かせた七色がそこに居た。

 

 

「お姉ちゃん、あたしユナさんのライブ見てきたい!行っていい!?」

 

「えーっと……」

 

「ああ、チケットとかは特に必要ないからそのまま行ってくれて構わない。ただ係の誘導には従ってくれ。彼女の歌を邪魔されると困る」

 

「邪魔なんてするわけないでしょ!?あたしがアイドルやるきっかけになった人よ!!」

 

「そ…それならいいんだ……うん」

 

 

 唾を飛ばさんばかりに食って掛かるので流石に引かれていた。妹が申し訳ありません……。

 

 

「あたしたちも行きましょうリズさん!善は急げですよ!!」

「キュウウウ~」

 

「ちょ…まっ……あんた短剣使いなのになんでそんな引っ張る力強いの!?行くから引っ張るのやめなさい!!?」

 

「ボクも行ってきまーす!」

 

「気を付けてねー」

 

 

 アスナちゃんが手を振って見送る中、アスナぁぁぁぁぁ……!と引きずられていったリズっちの声が尾を引く。シリカちゃんのステータスであんなことできたんだ。流石攻略組。

 そうして高校生組*2が場に残ると、ノーチラスさんは呆れたような感心したような、何とも言えない声を零した。

 

 

「……相変わらず賑やかだな」

 

「辛気臭いよりはずっといいよ。……デスゲームは終わったんだ。今度はVRを楽しんだっていいだろうさ」

 

「あんたが言うまでもないことだ。一々偉そうに言うのは英雄サンの癖なのか?」

 

「俺そんなキツい返しされるような仕打ちお前にしてないだろ……何なんだよほんと」

 

「あはは……そう言うあなたも相変わらずねノーチラス。キリトくんに当たりが強いのも、まだ私の呼び方に『副団長』って付けるのも。《KoB》を辞めてからもう1年半くらい経つのに」

 

「お世話になった人なので敬称抜きはまだちょっと抵抗が……。そっちの黒いのは単純に気に入らないからです」

 

「身も蓋もない……」

 

 

 二人を相手にしたときの態度の変化がはっきりし過ぎている。キリト君にキツいから女性関係が原因なのか?でもこの人、正式に《歌姫》と交際してるって聞いたような……。

 

 

「そ、そんなことより。あの人は一緒じゃないんですか?」

 

「あー……うん、来てはいるよ。ホルンくん」

 

そうですか!……んん゛、失礼取り乱しました。それで、今どちらに?」

 

 

 強引な話題転換と謎のテンションの上昇に私が困惑していると、キリト君がスッと、無言で後方を指さす。

 答えたのがアスナちゃんじゃなかったせいで一瞬顔をしかめた彼は、気を取り直したのかキリト君の指し示した先に目を向け……ひどく怪訝そうに表情を歪めた。

 

 

 

「……おい《黒の剣士》、どうしてホルンさんは砂に埋められているんだ」

 

「ライブの方に行ったリズ以外の三人に心の傷を負わせたんだ。今ストレアたちが説教してる」

 

「つまりいつも通りか。本当にブレない人だ」

 

「ブレなさ過ぎて改善を見込めないんだよなぁ」

 

 

 

 少し見ない内にあちらの状況はエキセントリックな進化を遂げていたらしい。とうとう正座から晒し首に変わっていた。何がどうしたらそこまで強く反省を促されるのか。

 そしてノーチラスさんの反応が嫌に冷めている。まさかホルン君、昔からあんな感じなのか。デスゲームで張りつめてる状態であの煽り節とか絶対ろくなことにならない。

 

 

「……すいません、俺もそろそろ戻ります。ユナもあと2曲歌えば夜までオフにしてもらってるので、後で改めて伺いますね。それでは」

 

 

 アスナちゃんに向けて折り目正しく一礼し、ノーチラスさんは背筋を伸ばすと会場の方に向かっていった。そして慣れた手つきで興奮した観客たちに指示を出し、膨れ上がっていた列周りを整頓していく。歴戦のマネージャー……いや列整備はマネージャー業務なのか?ともかく風格が漂っていた。

 

 

「……行っちゃった。分かってたけどアスナちゃんもキリト君も攻略組だから交友関係広いね。有名人ばっかり。友達料金とか払った方がいい?」

 

「そんな悲しいこと言わないでくれよ。昔は昔、今は今だ。対等な友達にお金貰うとかこっちが困るくらいだ」

 

「あははー、言ってみただけだってば。……でも本当に不思議だなぁ。まさか《色彩の四英傑》の人たちとこうしてゲーム仲間になるなんて。アインクラッドに居た頃は想像もしなかったよ」

 

「私たちそんな仰々しいものでもないんだけどね」

 

 

 《色彩の四英傑》。

 それはあの鋼鉄の城の最前線、死と隣り合わせのフロアボス攻略メンバーの中でも最高位の勇名を轟かせた剣士たち。攻略組最強の切り込み部隊と呼ばれた、四人の少年少女。

 

 《黒》《白》《蒼》《紫》と色合いに統一感こそないが、それ故に並び立つ存在など無く、あの四人で全てが完結していたという。特に50層攻略本戦は彼らの活躍なしには語れないとまでされた。

 フロアボスを単騎討伐したとか、一太刀で10を超える敵を薙ぎ払ったとか、逆に50を超える連撃で敵を切り刻んだとか、眉唾じみた話はいくらでも聞くが、真実を知っているのは共に戦場を駆けた攻略組だけ。

 SAOがクリアされた今でも彼らの名前は語り草となり、このALOに先日復活した浮遊城のせいか、ある種の伝説として再燃している状態だった。

 アスナちゃんは謙遜しているが、わたしが今話しているのはそんな仮想現実の英雄たちなのだ。

 

 

「二人はなんとなくこう、オーラがあるから分かるんだけど。残りの二人がストレアちゃんとアレなのはびっくりしたよ。なんかぽわぽわしてるし、煽ってくるし」

 

「遂にアレ呼ばわりになった」

 

「ホルンくんは英雄かダメ人間にしかなれないタイプだし…今くらいの方が見てるこっちは安心できるかなぁ」

 

「0か100しか出力できないの……?」

 

 

 極端とかいうレベルじゃない。そして安心して良いのかあの惨状。無差別に周囲に嚙み付く狂犬みたいな人にしか見えないんだけど。

 

 

「……ま、その話はおいおいしよう。ひとまず俺たちもライブの方行こうか。どうせユナが歌い終わるまでセブンたちも戻ってこないの確定してる」

 

「そうだね。それからストレアさんたちのところ行って、みんなでスイカ割りしよっか」

 

「いいねー。七色もスイカ割り初挑戦だしいい思い出になりそうだよ」

 

 

 疑問はさておき、わたしもアイドルを目指す者の端くれ。大先輩のライブを見れるのはいい勉強になるだろう。……噂のユナさん、握手とかしてくれるかな。手汗大丈夫だろうか。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ゲリラライブを終え、人だかりがまばらになった頃。

 どうしようもなく人目を惹くのか、わたしたちの集まってる場所に向けて遠巻きな視線がいくつも向けられている。

 なんとなくわたしが落ち着かない中、その視線の中心地点に居る人物は気にした様子もなくファンサービスのウィンクを返すと、改めてこちらに向き直った。

 

 

「えー、はじめましての人ははじめまして!それ以外の人はお久しぶりでっす!新進気鋭のVRアイドル、ユナでーす!よろしくぅ♪」

 

「……と、いうキャラで売り出しているが、本人は至って普通の女性(ヒト)だ。あまり気負わず接してほしい。二度目になるが一応……俺はノーチラスだ。普段は彼女のマネージャー兼護衛をしている。よろしく」

 

「ノーくんノリ悪いよ!まったくもう……はい、そういうことなんで気安くお願いします」

 

「は、はぁ」

 

 

 ノーチラスさんといいユナさんといい、この二人話してる途中でガラッと雰囲気変わってびっくりする。二重人格レベルの変わり身だ。アイドルやそのマネージャーはこれくらい出来なきゃいけないのだろうか。

 

 

「ユナさんお久しぶりです!ライブ最高でした!」

 

「シリカちゃんありがと~!最前列でぴょこぴょこ跳ねてたからすぐに分かったよ!あとピナちゃんも!」

 

「キュウウウ~♪」

 

「あ、あのユナさん!あたしセブンっていいます!ファンです、サインお願いしましゅ!」

 

「あなたがセブンちゃん?会えて嬉しい!私もあなたの歌好きなの!こっちもサイン貰えないかな?」

 

「っ!ぜひ!!」

 

 

 

「久しぶり。大学生とマネージャーの二足わらじで忙しかったんじゃないの」

 

「シノンか。そうでもない、慣れてくれば後は要領の問題だ。重村おじさんも大学に話を通して支援してくれている。これ以上ない環境と理解者が揃っている…上手くやってみせるさ」

 

「その真似はまだ慣れてなさそうね。あいつみたいに余裕そうに言ったらどう?兄弟子さん」

 

「うるさいぞ妹弟子。あとあいつ呼ばわりはやめろ。あの人お前より年上だろうが」

 

「その本人が一番年功序列とか気にしてないタイプじゃない。『先に生まれただけの分際で偉そうにするな』とか言うわよ。断言していい」

 

 

 合流して早々、旧交を温めているようだが……シノンちゃんとノーチラスさんの話題が気になり過ぎて七色とユナさんの方に意識が向かない。

 

 

 

「お久しぶりです、師匠(センセイ)。お元気そうで…………うん、お元気そうで何よりです」

 

「元気の定義を教えろ。身動き一つとれないんだけど。てか頭が高くない?師匠を見下すなお前も土に埋まれ」

 

「あはは……ご無沙汰してます、ホルンさん。今回は何して怒らせたんですか?ビーチに突き刺さってるなんて」

 

「ユナまで僕が悪い前提で話を進めるな。僕は悪くない」

 

「……ストレア。これどうする?」

 

「ん~、そろそろ頭も埋めてみよっか。呼吸できるように鼻にストロー刺して。フィリア近くのお店の人に余ってるの無いか聞いてきてくれる?」

 

「ごめんなさい僕が悪かったです反省しましたもう逆らいません許してください」

 

 

 

 …………えっと。断片的な情報から判断すると、シノンちゃんとノーチラスさんがアレ……ホルン君の弟子で。しかも歌姫+マネージャーの方と親しいってことになるんだけど。

 そんなことある?この砂に埋められて命乞いしてるのが???

 

 

「──ノーチラスとシノンはあいつがSAOで鍛えた教え子なんだ。それぞれ40層辺りと、76層から指導を受けてる。特にノーチラスの方はホルンの戦い方をかなり意識してて、《体術》スキル多用するからかなり読みづらくて強い。ユナはそういうのじゃないけどノーチラスと一緒に居たから付き合いが多い感じだ」

 

 

 ホルン君が掘り起こされている中、態度に出ていたのか隣のキリト君がそっと教えてくれた。

 なるほど、それで師匠(センセイ)。《体術》使いと対峙したことは少ないがあれは確かに戦いづらい。無手と思った際や鍔迫り合い中に足技が飛んでくるのは意表を突かれる。

 シノンちゃんが弓使いなのに近接戦の対処が上手いのも、そんな人達の研鑽の結果なのだろう。弓で殴りかかってきたり、足首を踏み砕きに来たり、押し合いに負けるとゼロ距離射撃が飛んでくるのは何か違う気がするが。

 

 しかし教えてくれるのは嬉しいがガチ恋距離まで詰めて囁くのはやめてほしい。勘違いしそうになる。わたしがアスナちゃんと戦っても勝てないからそういうのは無理です。

 

 どぎまぎしていると解放されてしまったホルン君が身体に張り付いた砂を払っていた。

 まだ何やらぶつくさ言っているようだが、ストレアちゃんの咳払いが聞こえた瞬間肩がビクッ!と跳ねたので恐怖は十分刻み込まれたようだ。そのまましばらく大人しくしててほしい。

 

 

「……久しぶりノーチラス、ユナ。元気みたいだね。ユナはさっきあっちでライブやってたっけ。見には行けなかったけど聴こえてた。相変わらずいい声してる」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 天下の《歌姫》相手にぶっきらぼうな賞賛だったが、当の本人は珍しいものを見たと言わんばかりに興奮気味に応じていた。こうしてみると普通の人に見える。

 しかしあの距離聞こえるってどんな聴力なんだ。50mは余裕で空いてたし音響設備もほぼないからステージ周りくらいしか聞こえなかったんじゃないか。

 

 一言二言交わして調子が戻ったホルン君はそれに普段通りの薄笑いを浮かべ、肩を竦めてから楽な姿勢で二人に向き直った。……つい先ほどノーチラスさんがやったばかりなので、本当によく似ている。

 

 

「しっかし、ユナもこうやって見ると垢抜けたなぁ。初めて会った時は吹奏楽部の芋女子その1みたいな大人しい見た目だったのが、今じゃ髪染めてミホノ〇ルボンばりにゴテゴテした装飾の服でアイドルやってるなんて」

 

「せめて合唱部にしてくださいよー、もう。素の私が地味なのは否定しませんけど」

 

「ホルンさん。それ俺とユナは笑って聞き流せますけど、あまりファンの前では言わないでくださいね。死人が出るので」

 

 

 既に七色とかシリカちゃんがムッとした表情で彼を見つめているが。

 それに死人とは穏やかじゃない。デスゲームではないとはいえ、SAOのせいでVRゲームのPK(プレイヤー・キル)に難色を示す人間も少なくないのだ。いくらALOの中、かつホルン君が口の悪い問題児だとしても、死んでいい理由はない。

 

 

「なんだよノーチラス。僕がドルオタ如きに負けると思ってんの?群れてこようとバッサリいくけど」

 

「ええはい。ですからユナのファンが物理的に減らされる前にお願いしてます」

 

「負の信頼感」

 

 

 勝つのそっち???

 

 

「……ホルン君、ノーチラスさんからもそういう扱いなんだ…………」

 

「意外かもしれないけど、多分ノーくんが一番そういう扱いしてるよ。剣士としてのホルンさんの背を追いかけ続けてたから、こと『強さ』という指標ではあの人が最上位なの。何人相手でも、誰が相手でも、彼は絶対負けないって信じてる。……ちょっと妬けちゃうね」

 

 

 いつの間にか近くに立っていたユナさんがわたしの呟きを拾っていた。あまりに自然に会話されたので危うく相槌を返すところだった。

 こちらが振り向く間際、最後の一言はちょっと恥ずかしかったのか誤魔化すようなウィンクを返される。意識の隙間に入り込むような接し方に同性も虜にしそうな所作が相まって、この人はこの人で心臓に悪い。

 

 なおそんな《歌姫》の一面を知ることもなく、件の二人は別の話題で盛り上がっていた。

 

 

「ノーチラスはAR端末と支援AIだっけ。マネージャー業以外も大変だね。上手くいってるん?」

 

「ええ。ホルンさんに渡したプロトタイプ・オーグマーの収集データのおかげで設計は固まってます。おじさんも小型軽量化と機能圧縮に目途が立ったと喜んでましたよ」

 

 

 オーグマー……たしか最近開発が進んでいるというAR(拡張現実)端末だったような。東都工業大学の教授が主導で開発してるとかなんとか。おじさんと呼んでるくらいだし、ノーチラスさんかユナさんの関係者なのだろう。

 SAOで活躍した剣士だということは知っていたが、まさかホルン君が現実の方でもそれなり以上の影響力を持っている人物だったなんて。ただの煽りカスではないらしい。

 

 などと思っていると。

 

 

 

「僕もおかげさんで視力補助受けれてるから助かってる。……ただあの支援AI、どう見てもユナなんだけど…何あいつ?」

 

「当然かと。彼女の思考ルーチンをサンプリングし、容姿、声紋、表情変化も反映させMHCPの基礎設計を応用して作ったユナの生き写しですから。名前もそのまま『YUNA』*3の予定です。ユナ…悠那(ゆうな)にも『自分そっくりの妹が出来たみたい!』とお墨付きをもらってます。

今はまだホルンさんや本人との対話学習中ですが、製品版にはフィードバックを受けたYUNAをサーバー経由で標準搭載します」

 

「お前なんなの…?自分の彼女のコピーを電子の海にばら撒く気なの……?新手のサイバーテロだろ」

 

「失礼な、純愛ですよ」

 

「これが愛ほど歪んだ呪いはないって話か。真面目に狂ってる奴怖すぎる」

 

 

 

 急にノーチラスさんが壊れ出した。雲行きが怪しい。

 

 

「ユナとYUNAの名声が広まればそれだけオーグマーの注目度が上がり、オーグマーの普及が進めば彼女たちの活躍の場が増える。どちらが目に止まっても重村先生の元にスポンサーが増えるので資金繰りは好循環ですよ。

いずれ全ての人類にオーグマーを与えて、ユナの歌を布教(俺の恋人を自慢)するのが最終目標です

 

「僕は何を聞かされてるんだ…?世界征服までの工程説明かなんか……?」

 

「世界征服ですか。言い得て妙ですね……流石師匠(センセイ)。そうですね、世界中の価値の最上位基準を彼女で塗り替えるつもりでいるのでそうなります」

 

「一回黙ってくんないかなマジで……」

 

 

 

「ノーチラス、昔はあんなに大人しい団員だったのに…どうしてこんなことに……」

 

「ホルンの指導でスポンジが水を吸い込むように強くなってたからな。根が真面目なんだろう。……そのせいであいつの垂れ流した汚染物質を溜め込んでるみたいだが」

 

 

 ホルン君が振り回されてるの初めて見たかもしれない。唯我独尊の体現者みたいな人をここまで消耗させるの凄いと思う。

 そして彼が関係したせいでおかしくなった人多くない?マジで何なのあの人?

 

 

「まさか…ユナさんがクラウド・ブレイン構想の先駆者だって言うの……!?しかもスポンサー確保までしっかりプランニングされてるし実現の目途まで……ま、負けた……!!」

 

「なんか大事になってる……」

 

 

 こっちはこっちで妹がダメージを受けていた。

 ……でも安心して良いと思うよマイシスター。聞いてた感じあの人そんな小難しいこと考えてないと思う。

 

 

「んじゃそっちのユナ狂いと煽りカスはほっといて、スイカ割り始めるわよー」

 

「ノーくん、そろそろ帰ってきて」

 

 

 リズっちが半ばやけくそ気味に声を発し、ユナさん本人の声もあってノーチラスさんの纏っていた狂気が薄れた。スイカ割りの前から疲労感が凄い……。

 

 

「……仕方ないか。ホルンさん、この話の続きは後日に」

 

「もう聞きたくない……忘れたい…………。何なんだよお前……なんで僕に向けてそんな透き通った狂気ぶつけてくるの……?SAOの時の報復なの?」

 

「報復…?大恩あるあなたに?何故???」

 

「じゃあお前さっきのどういう感情で叩きつけてきたんだよ!!?!?」

 

 

 ……多分だけど、わんこがご主人様に宝物を自慢するようなものだよ。多分。

 

 

 

「えー、それではお集りの皆様。本日は天候にも恵まれ、爽やかな潮風が「そういうの良いから」……んだよぉ。俺が珍しく真面目やってるってのに」

 

「自覚はあったんだな」

 

「うるせーぞキリト。んじゃ改めて…お前ら!スイカ割るぜ!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

 

 クラインさんの掛け声に全員が拳を突き上げて応じた。初体験らしい七色、ユイちゃん、ストレアちゃん、ユウキちゃんは特に元気がいい。

 わたしもなんだかんだスイカ割りなんて、大昔にお母さんと二人で海に行った時以来になる。こんな大人数で盛り上がってるのは初めてなので、正直かなり楽しみだ。

 

 

「はい、ここからは私ユイが進行を務めます。さっそくレギュレーションの説明に入りますね。

これから私の引いたくじで挑戦者を決定し、指定された方は目隠しをしてその場で20回転……その後挑戦者以外の方の方向指示に従い、約5m先に設置したスイカを木刀で攻撃していただきます。見事一撃で割れればクリアです!

なお、スイカはホルンさんとストレア、フィリアさんのご提供です」

 

 

「いえ~い!アタシが育てました~♪」

 

「育てなくてもでけぇの胸にぶら下げてるだろ」

 

「レンくんそれセクハラだから。……わ、私だってそれなりにあるし

 

「どういう反応返せばよろしい?」

 

 

 三角関係が見えるのにもはや誰も気にしていなかった。いいのだろうかあれで。

 

 

「では最初の挑戦者は……リズさんです!どうぞ」

 

 

「トップバッターかぁ。ま、変に期待感持たれない分気楽かしらねー」

 

「リズ、一発で割らないでよ!アタシとユイとユウキとセブンの分あるんだから!」

 

「いや多いわね?!そんな数用意できないでしょ!」

 

 

 もうくじとか言わずに初体験組を先にした方がいいんじゃないかなそれ、とは言わないでおいた。

 律義にツッコミを入れてからリズっちはその場で回り出した。15回点目を超えた辺りから若干ふらついている。

 

 

「……じゅーきゅー、にー…じゅう!あー、ヤバい…結構平衡感覚が崩れるわこれ」

 

 

「リズさん!ファイトです!」

「キュウウ!」

 

「頑張ってくださーい。あ、左に逸れ過ぎです!一旦止まって右方向に回って!」

 

「見事な千鳥足ね」

 

 

「スイカ割りなんてガキの頃以来だぜ。当時のダチ共は酷かったなぁ。スイカのねぇ方向に向けて指示飛ばしたり、明らかに両片思いな男女を目隠し誘導でカップルにしようとしたりよ」

 

「俺もカミさんから日本文化の一端、って紹介受けたのが大分昔だ。日本に越してきた後にネットの情報をあてにやってみたが、まぁ難しかったな。まっすぐ歩くだけでも一苦労だ。揃って何度も砂浜を転んで見ず知らずの子供に笑われたもんだよ」

 

「小学生の頃にやって以来だから……俺も10年くらい経ちますね。あの時の悠那は、目隠しした途端暗くて不安になって泣き出したから、俺もおじさんも大慌てで「エーくん!!!!」分かったよ、もう言わないから」

 

「ちくしょう…なんで俺の周りはリア充ばっかなんだよ!」

 

 

「わぁ…こんな感じなんだね!早くボクの番来ないかな」

 

「日本には変わったスポーツがあるのね。スメラギ君もやったことあるのかしら」

 

「スイカ割りってカテゴリー的にはスポーツなのかなぁ……?」

 

 

「いーよーリズ!そのまま真っ直ぐ……そろそろ止まって!」

 

「いいポジ取りだ。そのまま振り下ろせ!」

 

「やっと着いた……。んじゃいくわよー!」

 

 

 キリト君の声掛けに合わせ、リズっちの握る木刀が高々と振り上げられる。

 そして今、渾身の力を込めた一刀がスイカを割──

 

 

 

──ガキィンッ!!

 

 

 

「んぎゃっ!?」

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

 ……らなかった。

 スイカを叩いたとは思えない硬質なSE(サウンドエフェクト)が鳴り響き、弾かれた木刀がリズっちの鼻っ面を直撃する。

 事態の飲み込めなかった全員が無傷のスイカとのたうち回る彼女を交互に見比べた。

 

 

 

「~~~ったいわねぇ!!って言うか何なのこのスイカ!かっっっっっったいんだけど!!?」

 

「……こんなことあります?」

 

「リズ大丈夫?鼻血は出てないみたいだけど安静にしてた方がよくない?」

 

 

 場は涙目で文句を言う彼女を宥める数人と、原因を解明しようとする数人に分かれた。わたしはリズっちの方を宥めつつ耳だけ隣のグループに向けていると、何やら不穏なワードがいくつも飛び込んできた。

 

 

「……軽く調べたが、木刀に変な細工はされてないな。てっきりまたホルンが変なおもちゃでも作ったのかと思ったが」

 

「旦那までそういうこと言うのやめてくんない?僕だって弁えてるっつの。大体ストレアとユイ義姉(ねえ)さん初体験なのに水差すわけないだろ」

 

「つーことはおかしいのはスイカの方だよな。キリの字とノーチラスはなんか分かったか?」

 

「分かったと言えばそうなんですが……ホルンさん本当に何もしてないんですか」

 

「どーいう意味だよ」

 

「……………………ホルン。ちょっとこれ叩いてみろ。いつぞやの岩みたいに」

 

「根に持ってるなぁ……割れたんだからいいじゃん岩の話は」

 

 

 ぶつくさ言いながらホルン君がスイカを小突き……何故か、神妙な顔で数回同じ作業を繰り返した。自身の感覚を疑っているかのような雰囲気だ。

 そして口元を抑えながら呻く。

 

 

 

「音が全く響かない……鉄球か……?」

 

 

「スイカに下す評価じゃないんだけど」

 

 

 思わずツッコミを入れてしまった。

 普段からデータに過ぎないとは言え、私たち仮想現実の剣士は鉄の塊を振り回しているのだ。手応えを間違えることなどそうそうあるまい。種族選択を《鍛冶》スキルの得意なレプラコーンにしているわたしやリズっち、ホルン君なら尚更だ。

 その上断定したのはSAO攻略の英雄の一人。誰よりも鉄と触れ合い続けたと言っていいその人だ。つまりあの異様な表現がそのまま答えということになる。

 

 加えて、《鑑定》スキルで更なる情報を引き出そうとしていたらしいエギルさんが驚愕の声を上げた。

 

 

「どうなってるんだ……このスイカDEF(防御力)実数値だけで7,000オーバーだぞ。ついでに魔法反射(マジック・リフレクト)まである」

 

「反射!?耐性(レジスト)ですらなく!!?」

 

「えぇ……私の《吟唱》スキルでもそこまで強力なバフ付与(エンチャント)できないんですけど…?」

 

「ああ……物理攻撃以外受け付けん。魔法なんぞ使ったらそこら中に跳ね返されて火の海に変わるぞ。ホルンお前さん何やったらこんな摩訶不思議なもの作れるんだ」

 

「今回の僕無実なんだけど!?昼間言ったみたいに花壇の一部を畑にしただけなんだってば!なんならキリトとアスナのホームに集まること多いから畑にした後スイカ植えられてたことすら知らなかったよ!!」

 

「じゃあ誰が…………」

 

 

 魔女裁判をするつもりがあったわけではないのだろうが、自然と全員の視線が泳いだ。たまにはホルン君を信じてやるかとばかりに。

 そして自然と()()に気づく。

 リズっちの近くでも、スイカの近くでもない場所にポツンと集まる二人組。少しばかり距離を開け、こちらに背を向け、声を潜めて話す──ストレアちゃんとフィリアちゃん。

 

 

「ふぃ、フィリアどうしよう…!これ絶対あれでしょ!?」

「私まで同罪みたいに言わないでよ!?私別にストレアみたいに変なもの処理してないじゃん!」

「でもフィリアだってホルンの集めた食材アイテム勝手に使ってたじゃん!」

「言い出したのストレアの方でしょ!?バレる前に結果が出ればいいんだって!」

 

 

「──面白そうな話してるね。僕も混ぜてよ」

 

 

 如何にもな雰囲気の二人にホルン君が話しかけた。未だかつて聞いたことのない、穏やかな声だった。

 

 雰囲気の変化に驚いて顔を向けると、そこにはどこか愁いを帯びた微笑みを浮かべた少年が一人。不覚にもドキッとした。

 元々性格と言動が終わってるだけで、声や容姿はかなり整っているのだ。色白の肌や中性的な顔立ちで、身体つきも線が細い。なのにどこか一本の芯が通った……儚さの中に異性らしさを感じるとでも言うか。これで内面もまともならモテただろうなと強く感じた。

 

 なのでこう、びくーんと肩を撥ねさせながら振り向いた二人が、彼を見てポーっとした表情になるのも分からなくもないと言うか。

 ……その直後に、彼のワインレッドの瞳が全く笑ってなくて震え出すのも分かると言うか。

 

 静まり返った砂浜を少年が進む。次第にことの深刻さを察したのであろう二人が声を上げた。

 

 

「ほ、ホルン?いったん立ち止まってもらっていい?その、ほら。私とストレア汗かいちゃってるから臭いとか……」

 

「『断る』」

 

 

 極々自然な動作で、地面から蹴り上げた木刀を左手が掴む。

 

 

「や、やだなぁホルン急にどうしたの?こんな人が多いところで積極的になられるとアタシ困っちゃうって言うかぁ…………えっと、そこの岩陰で二人っきりで話し合いとか…ダメ……?」

 

「『嫌だ』」

 

 

 二、三回ほど手応えを確かめるよう素振りをし、歩く速度が増した。

 

 

「お、落ち着いて話し合おうよレンくん!そうだ、さっき埋めちゃった分汗かいてるよね!?かき氷でもラムネでも買いに」

 

「『もう遅い』

 

 

 ミシリ、と。彼に握られた木刀の柄が悲鳴を上げた。

 声には穏やかさなど欠片も無かった。抜き身の刃が如く冷たく、研ぎ澄まされたそれは明確な意思を持って彼女たちに向けられている。

 

 

 そう言えば、彼は《蒼》と呼ばれる以前にあだ名を付けられていたのを思い出した。

 

 

 曰く──《絶対零度》のホルン。

 

 

 

「「怒らないでよぉ!私/アタシが悪かったから!謝るからぁ!!?」」

 

 

「『僕は悪くない』」

 

 

 

 直後。

 スコーン!といい音を立てて、二人の頭が木刀で叩かれた。太刀筋は(はや)すぎて見えなかった。

 

 ……強烈なノックバックが二人を弾き飛ばし、その光景に大勢が引いたり十字を切ってる中、シノンちゃんとノーチラスさんだけが『これだよこれ』と言わんばかりに腕組みして頷いていた。二人はホルン君にどうあってほしいんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「料理の失敗作を畑に埋めた!!?」」」」」

 

 

「うぅ……だ、だって勿体ないじゃん。失敗したからって、耐久値全損で無くなるまで放置するなんて。それでその、せめて肥料にならないかなって」

 

「……………………コトちゃん」

 

「ごめん……。ちょっとその、Sランク食材の干し肉作ってみたくって、つい口車に……。……私も焦がしちゃった奴とか、埋めました…………」

 

「正直でよろしい」

 

「あとその……水やりにレンくんが作ってたコンソメスープ使いました……………………ストレアが」

 

「なんでそういう噓つくの!?フィリアが言ったんじゃん!『どうせ料理を肥料にするなら、水じゃなくてスープとかの飲み物の方がよさそう』って!!」

 

「しーーーっ!しーーーーーーっ!!」

 

「──へぇ。なんか減ってると思ったらそういうわけか。あれ補助なし調理(マニュアルクック)だから手間暇かかってたんだけどな。美味しい美味しいって二人が言ってたから作り置きしてたのに。つまみ食いでもしたのかな、って笑って許した僕がバカみたいじゃないか。まぁ実際バカなんだろうけど」

 

「「…………」」

 

「口数減ったじゃん。どうしたの?いつもみたいにピーチクパーチク(さえず)ってみなよ。

ああ、それとも正座飽きた?10分も座ってないのに?僕は都合20分くらい座ってたけどね。意外と二人とも根性無いな。

…………まぁいいけどね、こんなこともあろうかと砂風呂の準備しておいたんだ。あと10分間そうしてから入ろっか!埋められ……ああ違うか。()()()()僕が保証する、退屈はしない。汗と砂が混ざって肌に張り付いて、無駄に磯臭い風に吹かれながら、陽光にジワジワ熱されるんだ。中々愉快な経験だったよ。

……………………安心しな。取り柄の顔が多少不細工になっても呼吸だけはできるようにするから。鼻にストロー突き刺してやる。頭まで埋まれボケナス共

 

 

 

 先ほどとは逆にホルン君によって正座させられた二人への尋問から詳細が判明した。二人の首にはそれぞれ『私はメシマズです』と『私はリアルラック全振りです』と書かれたプラカードが吊るされている。

 怒ってるホルン君怖いなぁと思いつつ、ふと気になってキリト君へ尋ねる。

 

 

「ねぇ。ストレアちゃんって料理下手なの?」

「……下手と言うか、理解が及ばないって感じだ。何作っても○ャイ○ンシチューみたいな見た目になる。高ランク食材使えば《料理》スキル無くてもそれなりの見た目になるはずなのに、あいつがやると大体紫色のナニカだ。しかも何でか不思議と美味い」

「どういうことなのそれ……」

「分からないけどそういうものなんだ。……ただ6回に1回くらいの頻度で、比較的ストレアへの評価は甘いホルンすら『冒涜的な味』と言う失敗作が生まれる。なお見た目に差異は無い」

「ロシアンルーレット……?」

 

 

 そんな劇物を肥料にして育ったスイカでスイカ割りしてたのか。不発弾で釘を打ってるようなものだろう。

 

 

「あと極々稀に、作った料理が走って逃げ出す」

 

「ごめん、なんて?」

 

 

 アミュスフィアの接続不良だろうか。キリト君の口から意味不明な言葉が聞こえたような。

 ちょっと声が大きくなったせいかストレアちゃんへも届いてしまったようだ。キュッと水着の裾を握りしめ抗議の為に口が開かれる。

 

 

「アタシだって練習して頑張れば美味しそうなの作れるもん!ほっぺた落ちるような美味しいの作れるもん!!」

 

「先週それで僕はビーフストロガノフに襲われて椅子から転げ落ちてるんだわ。今頃うちの地下室に封印したカオマンガイと怪獣大戦争でもしてる頃だろ。

……あと毎回まいっっっっっっっかい、熟練度低くていいから《料理》スキル取得してくれって言ってたはずなんだけど???解決策提示してるのに何でやらないんだ」

 

「…………アタシはホルンの相棒だよ?ならアタシはホルンの持ってないスキルとか、苦手なところを補うべきでしょ。二人で一つなんだから」

 

「いいこと言ってる風だけどストレア、僕が《料理》スキル完全習得(マスタリー)してる原因SAO時代のお前の作る暗黒物質(ダークマター)の処理が嫌で厨房に立ってたからだって忘れてないかな?あ゛?」

 

「ひぃん……やっぱりダメかぁ…………」

 

 

 思ってたよりホルン君も苦労しているようだった。肩を落とす姿はどこか哀愁が漂っている。

 しかし切り替えが早いようで、ストレアちゃん達への説教をそこで切り、地面に突き刺していた木刀を手に取った。

 

 

「え、ちょっとレンくん何するの」

 

「決まってるだろ。スイカの処分だ。ストレア飯ですくすく育ったスイカとか絶対災いの元だし、今ここで全部叩き割る」

 

「そんな!?アタシもユイもユウキもセブンも、まだ順番回ってきてないのに!?」

 

「この期に及んでまだ言うの!?つーかさっきの見てたろ!目隠し状態とは言え、普段メイス振り回してる淫ピ(リズベット)が殴って無傷なんだぞ!ユイ義姉(ねえ)さんたち女児組の力であんなバカ硬いスイカ割れるわけあるか!!」

 

「誰が淫乱ピンクですってぇ!!?!?」

 

「アタシなら割れるかもしれないじゃん!!」

 

「どんだけスイカ割りてぇんだよ!!お前が元凶だって自覚ある!!?」

 

 

 うーんカオス。

 これがキリト君達の言ってた赤眼夫婦の犬も喰わない喧嘩なのか。見てる分には楽しいけど絶対巻き込まれたくない。

 

 

「もういい、どっちみちストレージに封印できないんだから全部割るのは決定事項なんだよ……!南無三!!」

 

「や~め~て~~~!!?」

 

 

 もはやスイカ割りではないのでホルン君は目隠しをせずにスイカに真っ直ぐ歩み寄った。ストレちゃんも必死に抵抗していたが、足が痺れたのか弱々しい抗議に留まる。

 当然彼の正義執行を止めることなどできず、木刀が振り下ろされる。

 

 しかし。

 

 

 

 

──パシッ

 

 

 

 

 

 聞こえたのはそんな、気の抜けるほど軽い音だった。

 此度、ホルン君の振り下ろした木刀は外皮にすら届いていなかった。ヘタの部分から急成長を遂げて生えてきた、立派なツルにより受け止められていたのだ。

 

 

「「「「「……は??」」」」」

 

「……んんんんん?????」

 

 

 

 ……白刃取りの形で。

 

 

 

「馬鹿な……いくら木刀でもホルンさんの攻撃だぞ!それを受け止めた!?なんてステータスしてるんだあのスイカ!!」

 

「ノーくん気にするのそこなの!?スイカが白刃取りしてることには驚いてないの!!?」

 

 

「え?え!?ねぇこれどうなってる!?このスイカどうなってる!?ツル凄くて足元見えないんだけどこれ木刀握ったままで大丈「キシャアアアァァ!!」今のなんの鳴き声!!?

 

「そんな…信じられません。捕食器官らしきものが形成されてます!」

 

「捕食器官!!?こいつ口生えてきてるの!!?!?」

 

 

 先程までの怒りは彼方に消し飛んだのか、ホルン君はひたすら困惑の悲鳴を上げ続ける。

 実際に緑と黒の縦縞を割り裂き、口……のような横一文字に裂けた何かが出来上がっていた。歯のようなものは見当たらないが、この調子でほっといたらニュッと生えてきそうな気がする。本当にスイカなのだろうか。

 

 

「なにこれ…生命が宿っている……?しかもなんて進化速度…!ちょ、ちょっとストレアちゃん今度もう一回()()試してもらえる!?再現性があるか確かめたいの!もし可能なら、《ザ・シード》規格内のVRゲーム全てで特定条件下であれば電子生命の誕生の可能性を秘めてることになる!学会が動くわよ!!」

 

「やめろバカ!こんなクリーチャー製造技術を拡散しようとするな!!」

 

 

 

「そうか……ストレアの料理で命が宿ってたせいでストレージにしまえなかったんだ。シリカもピナはしまえないって言ってたし、アイテムじゃなくてテイムモンスターと同じ扱いなのか…?」

 

「キリトくん今それ考察するの重要かなぁ!?」

 

 

 情報量が多すぎて脳がおかしくなりそう。

 

 

「んあ、ぶべらっ!!?

 

「ホルンくんが競り負けた!?攻撃力も結構……っ、海に逃げようとしてる!」

 

「逃がすな……あれ多分ほっといたらG○物とかシン・○ジラみたいになるタイプ…………」

 

「どっちも詳しくないけど、ろくでもない生態してるってことね」

 

 

 シノンちゃんがそう呟いて矢をつがえる。視線の先ではスイカが少年を薙ぎ払った触手のように進化したツルをうごめかせて地を這っていた。中央の球形部分を除けば動きは昔水族館で見たクモヒトデ類に似ている。段違いに素早いということに目をつぶれば、だが。

 ヒュン、と鋭い風切り音が響き、3本の矢が放たれる。クリチャーは一射目を跳躍で、二射目を転がって避け、迫る三射目をツルで叩き落とすとそのまま海へと向かおうとする。白刃取りといいどんな反応速度してるんだ。

 

 

「矢を叩き落とした……日本のスイカって生き生きしてるのね」

 

「瑞々しいなら聞いたことあるけど!しののんどうしよう、あのままじゃ逃げられちゃう!」

 

「心配要らない──もう捕まえた」

 

 

 そう言ってシノンちゃんはいつの間にか握られている、右手の光る糸のようなものを思い切り手繰った。すると海を目指して砂浜を疾走していたスイカが急につんのめるようにして止まる。

 弓使い用の汎用魔法《リトリーブ・アロー》──先ほど矢を弾かせた際に触手に仕込んでいたようだ。今も糸は両者の間で張りつめ、ヤマネコ弓使いとスイカの化け物による綱引きのようになっていた。

 

 

「力強いわねこいつ…!足止めたわよキリト!」

 

「おお…《エクスキャリバー》の時の奴……。って違う、オーケー!任せろ!」

 

 

 言うが早いかキリト君は一振りの剣を呼び出して右肩に向けて引き絞った。モーションを感知したシステムがソードスキルを起動、切っ先から鍔元までを真紅のライトエフェクトが包み込む。

 彼の右脚が砂浜を踏み抜き、巻き上がった砂煙すら吹き飛ばしながら前方に吶喊。3mほどの距離はたった一度の踏み込みによって食い潰され、完成したソードスキル──片手剣スキル重単発技《ヴォーパル・ストライク》がスイカを直撃した。

 

 

 

「貫けぇぇぇッ!!」

 

「縺翫?繧御ココ鬘槭a縺?シ?シ?シ滂シ?シ」

 

 

 

 両者が拮抗したのは一瞬。

 衝突からほぼ間を置かずに、めしゃり、と一方から硬質なものが(ひしゃ)げるような音が鳴る。キリト君の右手の黒剣《ユナイティウォークス》の切っ先が、分厚いスイカの外殻を突き砕いた音だった。

 

 彼の歩みはそのまま止まらず、システムアシストの生み出したジェット戦闘機の推進が如き音を迸らせながら空間そのものを突き破っていく。怪物は勢いよく貫入した剣身に内側から押し潰され、不快な断末魔を残しながら爆散した。

 

 

 ……誇らしげに納剣しながら振り向いた彼には悪いが、辺り一面に大量の赤い果汁と果肉を撒き散らされたその戦闘跡は、さながらスプラッター映画の惨状だった。

 

 

「お見事……って言いたいとこだけど、お兄ちゃん派手に散らかしすぎ」

 

「うぐっ」

 

「なぁキリトよぅ、さっきエギルが反射持ちだって言ってたのに、何で迷うことなくソードスキル使ってんだおめぇ。SAO(あっち)と違ってALO(こっち)のは魔法と物理の複合なんだぞ。爆発してんじゃねぇか」

 

「いやその……反射的に」

 

「キリトくん……迷いが無いことと考えが無いことは別物なんだよ?」

 

「はい…すいません……」

 

「アタシのスイカぁ……」

 

「ストレアは流石に懲りてくれ」

 

 

 周囲の仲間が全員仲良く果汁まみれのせいか、微妙に説教くさい言葉で彼を出迎えていた。若干一名毛色が違ったが。

 敵も敵なら勝利の余韻も残念なものだ。

 

 

「ま、まぁまぁそんなところで。みんな水着なんだし、海入れば汚れも落ちるって」

 

「僕はシャワーまで歩くか時間経過で消えるの待つしかないんだが。……とりあえず普通の武器使っとけばダメージ通るっぽいし、この調子で残りのスイカも────あれ…残りどこ行った……?

 

 

 不満を零しながら向き直ったホルン君の声が震えた。猛烈に嫌な予感に包まれた全員が振り向くと、エギルさんが持ってきたシートの上に並んでいたはずのスイカ3玉が姿を消していた。全員のアバターに汗が浮かんだのは言うまでもない。

 

 

「すまん、俺が目を離したせいだ…!」

 

「いやあんなイカれたスイカ見ない方がおかしいって。数はそんなに多くないし、手分けして探そう。野生化する前に始末しないと」

 

 

「……………………みんな。あれ」

 

「ユウキ?いったいどうし──」

 

 

 彼女の指さす先、海の家の並んでいたエリアでは逃げ惑う人々に紛れ、緑と黒の球体が跳ねまわっていた。

 視界に映るだけで10個……いや10匹か?ともかくそれくらい居る。

 

 

──なんだこれ!?スイカ!!?

──あ゛あ゛あ゛あ゛うちの焼きそばがぁ!!

──スイカが……ケバブを、喰っている…?

──いだだだだ!?こいつ、商品どころかこっちにまで嚙み付いて来やがった!

 

 

 遠方からそんな悲鳴が聞こえる。既に人的にも物的にも被害が出ているようだ。

 血の気が引いてきたわたしの耳にフッ、と短い笑い声が聞こえる。位置からしてホルン君だろうか。

 考えうる限り最悪の状況だと思うのだが、彼の横顔にはいつも通りの薄い笑みが浮かんでいた。流石は攻略組、この程度のトラブル慣れたものだと言わんばかりの不敵な表情。

 

 彼はそのまま軽く肩を竦め、白目をぐるりと向いて──白目?

 

 

 

DIE()SAN()The()

 

「待て壊れるな諦めるな!せめて状況をどうにかしてから限界迎えてくれ!!」

 

 

 

 違った。不敵な笑みではなく諦観の笑みだった。『もうどうにでもなーれ』と弛緩しきった身体が全力で吐き捨てている。

 

 

「どーいうことよこれ!明らかにエギルのとこから逃げ出した数より多いじゃない!?」

 

「……どうしよう、水着に着替えて集まる時に焼きそばとかもらったからお裾分けであのスイカあげてきちゃった…」

 

生物災害(バイオハザード)拡散済み!!?」

 

「あれストレージに入らないから持ってくる時も邪魔だったし、海の家の人たちも物々交換応じてくれたから……こ、こんなことなるなんて思わなかったんだよ!!」

 

 

 フィリアちゃんたちの善意で被害が広がっている件。

 

 

 結局この後、キリト君の往復ビンタによって強制的に正気に戻(再起動)されたホルン君も合わせたこの場の人員で、計27玉いるというスイカの駆除が決定された。

 

 

 世にも奇妙なスイカ割りならぬスイカ()()は、約3時間に及ぶ激戦の末に人類の勝利という形で幕を下ろした。

 代償に、七色やストレアちゃんたちの脳裏にスイカへの恐怖を残す形とはなったが。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 どっぷり日が落ち、周囲に破壊された海の家のオブジェクト片が散らばる中。わたしたちは果汁まみれの身体を引きずるように、納涼祭のメイン会場となっている特設ステージに向けて歩を進めていた。

 肉体的疲労の無いVRでの出来事のはずなのに、妙に体が重い。

 

 

「身体じゅうベタベタするぅ……もうやだぁ…スイカ割り楽しくないぃ……」

 

「お前その体たらくでよくスイカ割りしたいとか言い出したな……」

 

「ストレアさん、そう言えばスライムとか毒液吐いてくるタイプの敵苦手だったっけ。ヌルヌルとかベタベタが嫌いで」

 

「ホルンがワスプ(スズメバチ)系Mob、ストレアがスライム系、アスナは幽霊(ゴースト)系…………なんでだろう。この三人としたアインクラッド攻略、序盤の雑魚敵にばかり苦戦した記憶がある……」

 

「……キリト君昔から苦労してるんだね」

 

「分かってくれるかレイン……」

 

 

 家族や親戚の子供にディ○ニーで振り回された父親のように憔悴していた。笑顔が弱々しい。

 初めの内はスイカ割りができるとはしゃいでいたストレアちゃんだが、倒すたびに間髪入れず爆発するスイカのせいで髪も水着もドロドロ。

 ならばとタンクに徹し、攻撃を凌いで味方に……と立ち回りも変えていたが、直接果汁を吹きかけられたせいか被害は減らなかった。討伐数が3体になる頃には今のように泣きべそをかいていた。

 この他ユイちゃん諸共果汁まみれになったせいでバーサクヒーラーに早変わりしたアスナちゃん、刀による切断面が綺麗過ぎるせいでスイカをプラナリアよろしく分裂させてたホルン君など、キリト君の疲労の原因は多岐に渡る。英雄の姿か?これが…とは思わないでもない。

 

 

「みなさんテンション低いですよ!ユナさんの歌が待ってるんだからもっと元気絞り出してください!」

「キュウウ!」

 

「……流石ユナとノーチラス公認のファン2号*4。気合の入り方が違うわ」

 

「シリカちゃんの言う通りよ!チケット予約なしで《歌姫》ユナのライブ、それも運営側に掛け合って中央のVIP席確保してもらってるのよ!?もっとこの意味嚙みしめて頂戴!!」

 

「あははー……お兄ちゃんもみなさんも、割とインドア寄りだからかお疲れですね」

 

「パパもママも皆さんもお疲れ様です!」

 

「みんな大丈夫?気合い一発《マザーズ・ロザリオ》いっとく?」

 

「トドメ刺す気!?」

 

「運動部とちびっ子たちは元気ね。ちょっと羨ましいわ」

 

 

 

「あれ、そういやクラインどこ行った?」

 

「なんか用があるとか言ってどこかへ行ったぞ。まぁ向かってた方向は俺たちと同じだったからステージ周りで油売ってるんだろう」

 

 

 妹含め数人はまだまだ元気なようだが、他の人たちも大分お疲れだ。かく言うわたしも例には漏れない。《サウザンド・レイン》の掃射で薙ぎ払うのがメインだったのにだ。明日入れた短期バイト休んでしまおうか悩んでしまう。

 

 そうこうしているうちに目的地……ビーチの一角に建設された大型ステージへと到着した。

 客席は砂浜にロープを引いて取り、巨大な半円形のステージは全て海の上。水上コテージを大掛かりにした感じなのだろうか。横から見た感じ、支柱を立てて床板を張る形で設計されていた。

 壁は意図的に取り払っているのか、天井も柱も無いので非常に開放的なデザインをしている。その為ステージの奥には月明かりの映る夜の海が大写しとなり、頭上には星の登り始めた夜空が広がっている。漣の音と穏やかな潮風が吹いているのも相まってなかなかいいロケーションだ。

 

 

「広いな……1層の円形劇場よりないかここ」

 

「40人ちょっとしか集まらなかったすかすかのボス戦会議場と、ドルオタでむせ返っているここを比べるのどうなんだ。人口密度以前に意気込みが大分違うぞ」

 

「「「ホルン(くん)が大暴れしたとこね」」」

 

「三位一体の追撃やめろ。僕もあの時に比べたら大分社交的になっただろ。……おいその目は何だ。言いたいことははっきり言え」

 

 

 四英傑……改めトンチキ四人衆が過去に思いを馳せて盛り上がっていた。

 そしてやはりと言うべきか、ホルン君は昔から()()だったらしい。寧ろ本人が言うには改善しているようだ。何かの冗談だと思いたい。

 

 彼の発言はともかく確かに人が多い。見渡す限り人、人、人。ユナさんの歌がどれだけ人を引き付けるかよく分かるというものだ。

 そんなごった返している観客席の中央付近にポカンと空いた空間があった。周囲にロープを張って係員の人までいる。本当にVIP待遇らしい。

 案内に従って中へと進むとちょうど時間になったのか、ステージ上部を照らす物を残して照明が落ちる。

 

 

 

『レディース・アァァン・ジェントルメェェェン!!夏、楽しんでますかぁぁぁぁぁぁ!!?』

 

「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」

 

 

 

 急にライトの灯ったステージ中央、マイク片手に声を張り上げてるウンディーネの女性が居た。アスナちゃん同様に水色の艶やかな髪をしており、長さは違いショートボブ程度にまとまっている。

 司会なのだろうか、やたらと声がデカい。スピーカー越しの声が大気を震わせていた。

 

 

「ホルン、耳大丈夫?」

 

「耳栓付けてるから軽傷。……なんだろう、あのオネーサンどっかで見たことあるような」

 

「ふ~~~~~ん。…………うわき?

 

「ハイライト離脱早すぎる。HGアル○ーガンダムの手首くらいポロポロ取れるじゃん。そういうのじゃなくて、前にうちの店に似たような客がですね」

 

 

 ホルン君を心配していたはずのストレアちゃんの目が急に影を帯びた。声も鈴を転がすようなものから悪霊の如き禍々しく歪んだものに。あまりの変化に隣から七色の小さな悲鳴が聞こえた。

 

 

『いやぁ素晴らしい熱気です!客席飽和寸前なのでご来場の皆様のパトスでムンムンしてます!まさに人ゴミ(混み)ってね!!まぁ昼間の開会式やった時、この1/4くらいしか人数いませんでしたが!!』

 

 

 司会の人がギア掛かり過ぎてるような。舞台袖で運営スタッフと思しき人たちがなんとかしようとしているがお構いなしにボルテージを上げていっている。来場客は運営側のブラックジョークだと思っているのかちょっとウケていた。

 どこにもああいう暴走列車みたいな人たち居るんだなぁ、と感じた。ついでに近くの煽りカスが共鳴しないと良いなぁ、とも。

 

 

『長ったらしい台本渡されてますが、読むのがあほらしいので省略します!それではプログラム大幅に進みまして、皆様お待ちかねのスペシャルゲストの登場です!どうぞ!!』

 

 

 ステージからスモークが噴出し、期待感の高まる演出に客席側は大いに沸いた。舞台袖から上がった運営スタッフの悲鳴をかき消すほどの歓声と共に、白煙の中に影が浮かび上がる。

 

 

『みなさーん!こんばんはー!!来ちゃいましたー!!納涼祭楽しんでますかー?』

 

「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」

 

 

「きゃー!ユナさーん!!」

「キュウー!」

 

「鼓 膜 壊 れ る」

 

「会場の盛り上がりと反比例するように弱ってくわねコイツ」

 

 

 シリカちゃんたちとは反対にホルン君は虫の息だった。割と言い合いの多いリズっちも気遣わし気になるレベル。なんて繊細な生き物なのだろうか。

 

 

『スペシャルゲストとしてお招きしました、アインクラッドの《歌姫》ユナさんです!私の時より来場の皆様も声が大きいです!!わかっちゃいましたが!!後でサインいただけますか!!?』

 

『えっと…か、簡単なもので良ければ……』

 

『ありがとうございます!……はい皆様ブーイングはおやめください!こちとら時給800円+ゲーム内通貨でこき使われてるんです!これぐらいの役得ないとやってられません!!悔しかったら次回開催時のイベントスタッフにご応募ください!!』

 

 

 色々ぶっちゃけ過ぎてないかあの人。わたしもメイド喫茶でバイトしてた時に聞いてきたお客様(ご主人様)居たけどここまで開けっ広げに答えはしない。ユナさんも勢いに負けてアイドルモードから素のテンションで応対している。

 ……七色とシリカちゃんはブーイングに参加しないの。って言うか七色、あんたさっきユナさんとサイン書いて交換してたじゃん。なんで参加してるの。

 

 

『えー早速ですがユナさん、この後歌っていただく曲のタイトルは何ですか?』

 

『そうですねー。実は今日、SAO時代から交流のある友人たちが居まして。なので【Break Beat Bark!】を、歌わせてもらおうかなと!』

 

『ユナさんの代表曲ですね!私もCD持ってます!!……リアルの方でサインしていただけたりは?』

 

『そっちは流石に事務所通してじゃないとムリでっす!来月九州の方でサイン会あるので、良ければそt『行きます!行かせていただきます!遠征費貯金してあるので!!いやぁバイトしててよかった!!』そ、そうですか……』

 

 

 ……もはや何も言うまい。

 ユナさんも司会のテンションに追いつけないのか苦笑いを浮かべている。笑顔を絶やさないプロ精神は流石だった。

 

 

『それではユナさん、よろしくお願いいたします!!』

 

『はーい!……っと、その前に。えー実は今日、もう一人サプライズゲストを呼んでるので、その子も呼びたいと思いまーす!』

 

 

 ユナさんの付け加えた後半の言葉に会場がざわついた。彼女が出た後で追加のゲストなんて呼んでも空気で負けてしまうのでは?という危惧すら感じる。

 ついでに言うと困惑しているのは客席側だけでなく、舞台袖のスタッフや先ほどまで元気にしてた司会の女性もだった。

 

 

『あれ?そんな話ありましたっけ?ぶっちゃけユナさんのライブも急遽──ムガ、モゴッ

 

……ノーくん。お願いね。えー、それではみなさーん!ライトにご注目ー♪』

 

 

 小さく何事か呟いた後、ユナさんは右手を掲げて指を鳴らした。途端、今まで彼女だけに光を当てていたライトの半数がひとりでに動き出し、客席のある一点……わたしの隣で困惑していた、妹にスポットを当てた。

 

 

「……え?えぇ!!?何これ、一体どういう──」

 

 

『──セブンちゃん。私と一曲、いかが?』

 

 

 七色の狼狽をよそにステージに顔を向けると、そこには『イタズラ大成功!』と言わんばかりに、楽し気にウィンクを飛ばしている《歌姫》の姿があった。

 そして次第に落ち着きを取り戻してきた観客の興味は、自然とライトの先へと向いていく。にわかに聞こえ出した自身の名前を口にする声に怯えるよう、七色は更に身体を縮こまらせた。

 

 ……クラウド・ブレイン研究による先日の騒動の後、七色──セブンは大幅に活動を縮めた。それは《シャムロック》のメンバー募集であり、アイドルとしての活動でもあった。

 きっと後ろめたいのだ。自身の研究の立証の為、ファンとして応援してくれた人々を半ば騙すような形になってしまったことが。何よりも、その程度でアイドルとしての自分を捨てようとしてしまったことが。

 だから今、どうしようもなく逃げ出したくて恐れている。

 

 

「お、お姉ちゃん…どうしたら……」

 

 

 縋るようなその目は天才少女ともてはやされた自信家の顔ではなく、年相応の……ただの少女の物だった。

 

 アイドルでも天才でもないわたしは、この子に同じ土俵で物は言えない。

 だけどもし、妹が姉を頼ってくれてるのなら。

 

 

「──大丈夫だよ、七色。あなたはわたしの自慢の妹だもん。心配しないで行っといで」

 

「でも……」

 

「もし文句言う人が居たら、わたしが《サウザンド・レイン》で串刺しにしちゃうよ。お姉ちゃんが本気になれば、《シャムロック》だってちょちょいのチョイなんだから!」

 

 

 力こぶを作ってみせるが妹の顔はいまいち晴れない。……やはり《噓つきレイン》のわたしの言葉じゃ無理なんだろうか。

 そんなわたしの肩にポンと手が置かれる。

 

 

「俺たちも力を貸すよ」

「セブンちゃんもレインちゃんも、私たちの大切な仲間だもの」

「やはり暴力、暴力は全てを解決する」

「カチコミカチコミ申す~」

 

「キリト君…みんなも……」

 

 

 キリト君たちも合わせてくれた。本当にいい仲間だ。

 ……ただあの…ホルン君、ストレアちゃん。冗談、それくらいの意気込みってだけなんです…刀とか両手剣はしまってください……。言動が物騒すぎる。

 

 しかしその光景が妹に勇気を与えたのか、彼女は小さく頷くとステージへと向かっていった。眼前の観客たちが海を割るように分かれ、彼女の前に道が出来上がる。

 プーカの少女は不安そうに、しかし確かな歩みでそこを通り抜けていく。

 小さな背でステージに上り切ったそのタイミングで、観客たちが声を投げかけた。

 

 

「セブンちゃーん!」

「本当に来た…!今日凄いことになりそうじゃないか!?」

「今日も推しが最高に可愛い!!」

「待ってたぞー!結婚してくれー!」

 

 

 彼らは一様に、誇るかのように白い羽飾りを……かつて七色が実験の為に《シャムロック》やクラスタ(彼女のファン)に配ったそれを掲げていた。

 

 

「みんな……!」

 

 

「……セブンちゃん、ほらマイク。ファンがあなたの言葉を待ってるよ?」

 

 

 七色の手にマイクを握らせ、ユナさんが一歩下がる。まるで今の主役は自分でないかのように。

 滲んでいた涙を腕で拭い、若干赤くなったアメジスト色の視線が客席を滑っていく。先ほどまでの熱狂とは裏腹に、今はしんと静まり返ったそこを。

 しかし静寂の重さを振り払うよう息を大きく吸い込み──一声。

 

 

 

 

 

『……プリヴィエーーート!!』

 

 

 

「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」

 

 

 『やぁ』『こんにちは』といった親し気な挨拶を意味するロシア語。

 七色の歌声を持つアイドルと言われたセブンを印象付ける挨拶であり……わたしが遠い昔、あの子に教えた言葉。

 その一言に、ユナさんの登場に負けないくらいに会場が湧いていた。

 

 

「あーあー。賑やか過ぎて嫌になるねぇ」

 

「そう言う割にはホルンくん、耳栓外してるじゃない。きみはいつになっても素直じゃないねー」

 

「うるさいぞ優等生。……耳栓付けてライブ聞くのは、流石に歌ってる奴らに失礼だろ」

 

「ふふ……うん、そうだね。確かに昔よりはきみの社交性も上がってるみたい」

 

「アタシが育てました~♪」

 

「説得力凄いな」

 

 

 緩い空気で談笑する彼らをよそに、ステージ上では期待の中心地点となった二人が話し合っていた。

 

 

『どうセブンちゃん。私のお誘い、受けてくれる?』

 

『ええ、ええ受けるわ!あたしの歌じゃなくても、あたしの舞台じゃなくても!こんなに多くのファンがあたしのこと見てくれてるんだもの!全力で歌うから!』

 

『そう言ってくれて嬉しいな。私もあなたと歌ってみたかったんだ♪』

 

 

 予備のマイクを片手に余裕たっぷりなユナさん。対する七色は憧れの人のお誘いだからか、ファンたちの前だからか、随分と嬉しそうに熱意を燃やしている。やっとあの子がらしい顔になった。

 

 

『じゃあ行くよ?ミュージック・スタート!!』

 

 

 ユナさんの合図と共に舞台袖から現れた、ファンシーな見た目の召喚獣。それが二人の身体を中空にさらうと同時に、ステージ両端のスピーカーから軽快な音楽が流れ出す。

 

 ぶっつけ本番、リハーサル無し。

 誰も予想できなかったであろう、二人の歌姫のデュエットが始まる。

 

 

 

 

──警報が響いて 包囲網でガンジガラメ

Checkmate 寸前 Countdown が嫌らしいな♪

 

──勝手な欲望で踏みつけられたって

僕のセオリーじゃ 答えは

 

" No(嫌だ)! Are you kidding me(冗談でしょ)? "

 

 

 

 自身の持ち歌ではないからか、七色の声はどこかぎこちなかった。しかしそれを補えるだけの自前の歌唱力と、ユナさんの包み込むようなフォローが違和感を与えない。

 何より必死に食いつこうと──楽しそうに歌っている七色を非難するようなファンは、この場に居なかった。寧ろ彼女を応援するように、観客席のファンたちは色鮮やかなペンライトを振る手に力が入っている。

 

 

 

僕の刻んた記憶(メモリー)

 

君と創り上げてきた現実(リアル)を!

 

イレギュラーになんて 奪わせるな!

 

 

 

 サビの部分が近付くに連れて会場がいったん静まる。

 そして一気に──ホルン君でなくても耳が痛くなるくらい──爆発する。

 

 

 

Break Beat Bark!

 

 

まだ見えない 未来って 単純じゃない

迷宮(ダンジョン)みたい Can't see...

 

だけど Head up! すぐそこさ

 

 

"Never give up(諦めるもんか)"

 

 

パスワードはそれで十分なんだ──

 

 

 

 いつの間にか七色も歌の合間にファンサービスをする余裕が生まれていた。観客席に手を振る合間に、こちらと目が合ってウィンクが飛んできた。12歳とは思えない堂に入った流し目で。

 

 

 

君と僕の純粋(ピュア)すぎる理想

 

捨てられないね?Heartbeat

 

 

叫び出せ 願いの限り

 

 

 

 最後は揃ってステージに降り立ち、それぞれのマイクが握られてない手が星空を掴むように伸ばされる。

 本来ならばこのまま2番に繋がるが、急遽捻じ込まれた演目だからか、ユナさんはそのままハミングを利かせながら歌の〆に入っていた。七色も咄嗟に、しかし音のズレは感じられないアドリブで合わせている。

 会場から二人には割れんばかりの拍手が送られていた。

 

 

 ……白状しよう。『敵わない』と思ってしまった。

 パフォーマンス、歌唱力、咄嗟の対応力。何よりここぞと発揮される勝負強さ。わたしの稚拙な歌には無い──あの子の才能。

 もはや妬ましさすら湧かない。ただただ、遠くに感じる。わたしみたいな凡才じゃ何時まで経っても届かないんじゃないかって、そう思ってしまうほど眩い高みに妹は居た。

 

 

『お姉ちゃーーーんっ!!』

 

 

 俯きかけたわたしの耳に、ステージ上から七色の声が届いた。

 ライブパフォーマンスだろうか。なら別にわたしを相手にしなくたって──

 

 

 

『あたし、待ってるからねーーー!!』

 

 

 

 あの子の目はファンを向いていなかった。ただただまっすぐ、こちらに向けて……。

 

 

「……だそうだけど?答えてやったらどうだオネーチャン」

 

「そっとしといてやれって。レイン、ハンカチ要るか?」

 

 

「…………大丈夫…っ」

 

 

 そうか、あの子はまだわたしを見てくれているのか。わたしもまだ、諦めたくないのか。

 

 なら頑張ろう。死に物狂いで足掻いて見せよう。

 だって自慢の妹が、わたしを信じてくれているのだから。

 

 

(……待っててね、七色…。わたしも、追いついてみせるから……!)

 

 

 いつかあの舞台に。あの子の待ってるステージに。

 

 決意を新たに壇上を見やる。

 

 

 涙が滲んだせいだろうか──あの子の笑顔は、虹色に輝いて見えた。

 

 

 

 

 

『……生"ぎでで良"がっ"だぁ"ぁ"ぁ"…!!』

 

 

 何事かと来場の全員が振り返る。声の主はやはりと言うか……件の声のデカい司会のお姉さんだった。わたしもあまりの声に涙が引っ込んでしまった。

 ずびずびと鼻を鳴らし、人の尊厳を捨てかねないほど喜んでいる。この感じユナさんだけでなく七色(セブン)のファンもやってたようだ。

 七色とユナさんもあまりの声に引き攣った笑みを浮かべている。びっくりしてマイクを手放したり悲鳴を上げたりしないのは流石だった。

 

 

『……失礼、ちょっと取り乱しました』

 

『ちょっと…?あの、ハンカチ…使う?『ぜひ!!ありがとうございます、ありがとうございます!家宝にさせてもらいます!!』ひっ…お姉ちゃん助けてぇ……』

 

 

 妹の気遣いが裏目に出ていた。先ほどよりもギアが入ってるように見える。

 

 

『ありがとうございます、素晴らしいライブでした!ご来場の皆様、今一度二人の歌姫に盛大な拍手をお願いします!!』

 

 

 再び送られた拍手は爆竹の山を爆発させたかのように大きな音だったが、不思議と不快感は無かった。これこそがライブの醍醐味とばかりに一体感が込み上げてくる。ホルン君はすごく煩わしそうに顔を歪めていたが、それでも拍手をする辺り結構律義だった。

 

 

 

『名残惜しいですが最後のプログラムが近付いてまいりました。それではこれより、第一回ウンディーネ領納涼祭のトリを飾りますメインイベント──【きたねぇ花火大会】を開催します!!

 

 

「「「「「きたねぇ花火大会……?」」」」」

 

 

 

 不穏な空気が漂ってきた。もう大会名からして嫌な予感しかしない。

 司会のお姉さんがそう言った直後、右側の観客席からざわめきが広がった。

 何事かと見てみると、そちらの方にスタッフ数名に押されながら巨大な何かがステージへと搬入されているところだった。ライトの位置と比較しても高さ5mは下らないであろう(やぐら)状の構造物。華やかなステージに不釣り合いな、兵器然としたモノ。

 

 

「な…何あれ……」

 

投石機(カタパルト)……?ユイちゃんALOにあんなオブジェクトあるの」

 

「いいえリズベットさん、通常のゲームオブジェクトにあのようなオブジェクトは配置されていません。恐らくですがプレイヤーメイドです」

 

「あたしの同業者がアレ作ったってこと?そいつ絶対バカでしょ」

 

 

「あー、やっぱあの時の客かぁ」

 

「ホルン?どうかしたの?」

 

「いやなんでも」

 

 

 誰か知らないがとんでもないことしてる。ALO(魔法と妖精の世界)に攻城兵器を作るって頭おかしいんじゃないのか。来場客全員あれ見てドン引きしてるんだけど。ユナさんすら呆然としてるんだけど。

 

 しかし事態は更なる混沌へと突き進んでいった。

 続々と舞台袖から入場してくる何者か。先ほどまで歌姫二人と司会の女性という三人の美女が居たステージは、何やら急激にむさ苦しくなっていった。……何故か全員、禍々しい雰囲気のペンダントを首にかけている。

 

 

「……キリトくん。あれ」

 

「クラインあいつ何してるんだ……」

 

「こんな場所で油売ってたのか」

 

 

 見覚えしかないサラマンダーの刀使い、クラインさんが壇上に居た。近くに彼と似たようなバンダナを身に着けてる人たちが居るが、あの集団がクラインさんのギルドの人たちなのか。いい大人が揃いも揃って意味不明なイベントに参加してるのはどうなんだ。

 

 

『まず最初に、デスペナルティすら惜しくない勇敢なる参加者(花火玉)の皆さんから一言ずつ意気込みをお聞きしようと思います!!どうぞ!!』

 

 

『エントリーナンバー1番、クライン25歳!ギルド《風林火山》の頭張ってます!彼女絶賛募集中!!』

 

 

 拳を突き上げるのと同時に会場の一部から野太い歓声が上がった。『クラインの兄貴』とかなんとか。女性陣はただただ茫然としている。

 彼に続くよう声を上げたのはおかっぱ頭の少年だった。緑掛かった髪色からして、種族選択はリーファちゃんと同じシルフ族か。

 

 

『え、エントリーナンバー2番!レコンです!リーファちゃーん!見てるー!?今日君のために、大輪の花を咲かせまーす!!』

 

 

「だそうだけど」

 

「……あンの馬鹿は…!」

 

 

 珍しく彼女の口から毒づく声が漏れ出ている。どうやら知り合いのようだ。

 

 この後も参加者たちがそれぞれ意気込みを述べ、司会の女性から今回の花火大会の内容が語られる。……非常に。非常に頭が痛い話だが、これからあの投石機で参加者を海目掛けてぶっ飛ばし、そこで自爆魔法を起動させるという催しだという。

 ALOの高位闇属性魔法である自爆魔法は、非常に広範囲に強力な爆発を起こすが、その代償に通常の死亡時に科せられるデスペナルティよりも重いペナルティが下される禁呪指定の魔法だ。使えばスキルの熟練度や所持品の消失を伴うこととなる奥の手中の奥の手。気軽にポコポコ使うものじゃない。

 にもかかわらず、今回あそこに居る人たちは使うという。夜空で打ち上げ花火となって散る為に。狂ってるとしか言いようが無かった。

 

 頭痛を堪えているとプログラムの進行に合わせて思い出したのか、司会の女性がトドメの情報をブッ込んできた。

 

 

 

『えー今回使用されます大型投石器、及び外付け自爆魔法用ガジェット《スターバースト:2887》は、あのリズベット武具店2号館様からのご提供です!この場を借りて、深く御礼申し上げます!!』

 

 

「ブフゥーッ!!」

 

「うひぁぁぁ?!!」

 

「ちょっとリズ、シリカちゃんに直撃してる!」

 

 

 油断していたのかリズっちが口に含んでいたレモンスカッシュが爆発した。それを顔の先に居たシリカちゃんがモロに食らい、猫耳や尻尾の毛をブワッとさせながら悲鳴を上げている。相棒のピナは事前に察知したのか、いつの間にか一人(?)だけ避難しキリト君の肩に止まっていた。

 

 

ゲホッ、ゴホッ……ごめんシリカ…って、そうじゃなくて!ホルンどういうことよコレ!?何トチ狂った商品提供してんのよアンタは!!」

 

「スターバーストって……なぁ二刀流のスキル名から持ってくるの何の嫌がらせだ…?」

 

はぁぁぁ?言いがかりですけどぉ?僕が手慰みに作ったオモチャになんて名前付けようと勝手だしぃ?

第一、僕の店の名前面白がって系列店みたいにしたのお前ら二人じゃん。身から出た錆って言葉ご存知ありますかねぇ」

 

「錆どころか遅効性の猛毒滲んでるわね」

 

 

 リズっちとキリト君の文句に彼はおちょくったような顔で答えた。作者はすぐ近くに居た。ついでに投石器よりヤバそうなのも作ってた。

 シノンちゃんの指摘で黙る辺り後半も真実のようだ。

 

 

「えっと……ホルン君のお店ってリズっちのとこと提携してるの?それとも、ほっか○っか亭とほっ○もっとみたいな事情が…?」

 

「いや全く。普通に競合他社って感じ。名前が()()なのは、僕がこっちで店立てる時に一応経験者からアドバイス貰おうかなってリズを頼ったら、キリトと一緒に悪乗りしてあんな名前にしやがっただけ。エギルの旦那頼ればよかった」

 

「それは流石に二人が悪いような……。店の名前って変更不能なのに……」

 

「うぐっ……だ、だってSAOの時散々コイツに振り回されたからちょっと仕返しに……」

 

「そのせいでもっと強烈なしっぺ返し食らってるじゃん」

 

 

 今回ばかりはホルン君が被害者側……いやそんな報復食らうような所業をしてるのだからどっちもどっちなのだろうか。

 そしてそんな裏事情を聞いていたこちらの耳に、紹介を聞いたプレイヤーたちの反応が届く。

 

 

「2号館の方か……あそこの商品毎回ぶっ飛んでる」

「この間も爆発機能の無いパンジャンドラム作ってたしな。今回の見るに爆発機能が付くのも時間の問題か」

弩砲(バリスタ)も売ってるって聞いたぞ。絶対買わないけど」

「やっぱALOにパイルバンカー作り出した奴はやる事ちげーわ」

「流石は《リズベット武具店》だ」

 

 

「う、うちのブランドイメージが……!」

 

 

 さっきから妖精と魔法の世界に不釣合いなモノの名前ばかり聞こえてくるような。ホルン君はほんとに何してくれてるんだろう。レプラコーン全体への風評被害になりそうな勢いなんだけど。

 崩れ落ちるリズっちの姿に満足気に暗黒微笑を浮かべているのも酷い。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものである。

 

 

「ホルンのお店かぁ……なんか危ないものばっかり置いてそうだなぁ。ボクはちょっと気になるけど」

 

「エギルの旦那やリズほど真面目にやってないよ。ぶっちゃけ《鍛冶》スキルがどこまで悪用できるか実験してるだけだし。店はそうやって出来たおもちゃを体よく処分する為に売ってるだけ」

 

「万○書店よりごちゃごちゃしてそう」

 

 

「なんか…SAOの時よりホルンさんの有害度が激増してるような……」

 

「リーファはそう言うけど、レンくん割と昔からゲームシステムを悪用するの得意だよ。メタ○ギアでも動画見る前から儀式の人と同じようなことしてたし」

 

「お兄ちゃんの友達やってるだけあってまともじゃないかぁ」

 

「スグそれどういう意味……?」

 

 

 キリト君が静かに傷つく中、溜飲が下がって満足気なホルン君のプレゼンテーションが開始される。

 

 

「まず投石機の方。あれはストレアにDIY用に取らされた《木工》スキルと《鍛冶》スキルを併用して作った奴ね。頑丈に作ったから遠距離からlv50のロックゴーレムくらいならぶっ潰せる岩を飛ばせる。

デカすぎてストレージにしまえないゴミだけど。在庫処分に困ってたから正直引き取ってもらえて助かってる」

 

「ダメじゃん」

 

 

 ユウキちゃんがばっさり切り捨てた。

 

 

「んで《スターバースト:2887》の方は《ルーン解読》と《鍛冶》の複合。2887はあれね、イー○スの自爆コード。

普通の演出用花火だと地味だしゲーム運営にリアルマネー払う必要あるから、予算を抑える為にこっちに花火の代用になりそうなアイテムを、って依頼で僕が作った」

 

「何食べたらプレイヤーの人を花火玉扱いする発想が浮かぶんですか…?」

「キュウウ……」

 

「って言うか闇魔法覚えなくても自爆魔法使えるようになるの凄くない?」

 

 

 それはちょっと思う。これなら闇魔法の熟練度補正が無い種族でも最高威力の魔法を繰り出せることになる。デメリットこそあるが、スキルスロットを省略できることを加味すればかなりのリターンがある。

 開発者の少年もそんな反応にどこか得意げに両腕を組んで笑った。こういう仕草や反応は年相応の少年なのだが。

 

 

「手間暇かけてるからそのくらいはね?まぁ5種類くらいルーン組み合わせたり《闇水晶》ってアイテム必要だから製造コストバカ高いんだけど。お値段一つ80万ユルド」

 

「「「たっか!!」」」

 

「……ホルン、SAOの時と違ってのびのびしてるのはいいんだけど…この暴走癖はちょっと……」

 

「遂にストレアさんを振り回す頻度の方が増えたもんね」

 

 

 

「あと依頼人から『できるだけ派手に』って依頼を受けたから、《強化のルーン》ありったけ組み込んで爆発範囲と威力上げまくってるんだ。普通の自爆魔法の三倍くらいあるよ。まぁそのせいでデスペナも三倍に増えたんだけど

 

 

「どうしてレンくんはベストを尽くしちゃったかなぁ!!?」

 

「──きゅぅ」

 

「ストレア!?しっかりしてください!ああ処理限界を超えてしまってます……どうすれば…!」

 

「ストレアさん気絶しないで!?こうなった時のホルンくん私一人じゃ止められないの!!」

 

「クライン罠だ!戻れクライーンッ!!」

 

「……R.I.P.(安らかに眠れ)

 

「エギルも諦めないで!?」

 

 

 キリト君が必死に声を張り上げているが周囲の賑わいのせいか届いていないようだ。既に栄えある初弾に選ばれたクラインさんはアームの先端に取り付けられている。これから起こるであろう悲劇など知りもせず、壇上の女性たちに向けて精一杯さわやかな笑顔を向けていた。

 

 

 

『それでは行ってみましょう!第一射です!!』

 

 

『漢クライン……逝きます!!』

 

 

 

 直後、ゴウッと鈍い風切り音と共に、唸りを上げながら投石器が振り抜かれる。一瞬でクラインさんのキメ顔が風圧で酷いことになり、瞬く間に流星のような勢いで大海原目掛けて飛んでいった。ALO史上初であろう、背中の妖精の(はね)を使わずに空を飛んだプレイヤーとなったのである。

 

 

 

──チュドーンッ!!

 

 

 

 数瞬の間を置き、夜空に大輪の花が咲く。赤く儚い、命の花が。

 何故か夜空には、白い歯を見せながら親指を立てるクラインさんの幻影が見えた気がした。

 

 

「く、クライーーーンッ!?」

 

「「「「「リーダーーーーッ!!」」」」」

 

 

 星空に向けてキリト君と、クラインさんのギルドの仲間たちの慟哭が響き渡った。

 そんな光景を見てホルン君は一言。

 

 

「きたねぇ花火だ」

 

 

「きみそれ言いたいが為にあんなもの作ったの……?」

 

「頼まれたから作っただけだよ。使ったのだって運営スタッフ。どこに僕の落ち度があるって?僕は悪くない。だって僕は悪くないんだから」

 

 

 悪魔の所業なのに素知らぬ顔でこれを言い放てるのだから面の皮が厚い。とりあえず、彼と敵対だけはするまい。七色にもよく言い聞かせておこう。絶対にこちらの尊厳とかに傷を入れに来るという確信がある。

 

 

『ゲストのお二人から感想をいただきたいと思います!何か一言お願いします!!』

 

『えっと……い、命の輝きを感じました…ですかね……?』

 

『凄いわ…!スメラギ君からも日本の花火は気合いが入ってるって聞いてたけど、ここまでだなんて……!!最高にハラショーよ!!』

 

 

「妹に誤解が広がる……!」

 

 

 本当になんてことをしてくれたのだろうかあの煽りカスは。でもここで噛み付いたら絶対に傷口を抉りに来る。最悪のジレンマである。

 そしてクラインさんが英霊となる光景を見て勇気づけられたのか、次なる犠牲者がアームの先端に座っていた。

 

 

『よーし、僕も…!リーファちゃーん!!

 

 

 

──チュドーンッ!!……ドーンッ

 

 

 

 次いで夜空の星となったのはレコンと名乗っていた少年。彼は意気込みの時と同様、リーファちゃんへの想いを口にして散っていった。

 なお肝心の少女はジト目でそれを眺めていただけだったが。

 

 

「へぇ。自爆魔法の炎ってエンドフレイム*5に対応してるんだ。作っといてなんだけど知らなかったよ。炎色反応の代用にはちょうどいいねこれ」

 

「……ねぇホルンさん、あいつだけ2回爆発しなかった?」

 

「あー…レコンだっけ?あいつひょっとして元々自爆魔法持ってたりする?」

 

「さぁ…でも魔法集めるの好きだったし持ってるカモ。で、それがどうしたんです」

 

「いや僕がアレ作る時に実験だ……ゲフンゲフン、協力者になってくれた連中に自爆魔法持ち居なかったからさぁ、自前で持ってる奴だとどういう挙動になるのか把握してないんだよね。答えは重複する、ってことらしいけど。ルーンの組み方ミスったかな……」

 

 

 実験台にされた犠牲者が居るのか。まぁ大方野外で彼にPK仕掛けて返り討ちにされたとかだろう。SAOと違ってALOは種族間対立前提の設計、PK推奨のゲームだ。流石にそこまでは口出しできない。

 

 

「重複するとどうなるんです?」

 

「知らんのか」

 

 

 ホルン君はリーファちゃんの疑問に得意げに答えた。

 

 

 

「当然デスペナ4倍だよ。マジでウケる」

 

「レコーーーンっ!?」

 

 

 

 流石のリーファちゃんも知り合いのへの同情が勝ったのか夜空に吠えていた。色々と酷い。

 

 

 こうして次々に夜空に命が散っていき、数えて14発目の打ち上げ終了をもって司会の口から納涼祭の終わりが告げられた。彼らは恐らく、次ログインした時にごっそり持って行かれた熟練度を見て発狂することだろう。

 妹はそんな事実を知ることなく、ただひたすら楽しそうに目を輝かせていた。

 そして愉快な夏祭りを堪能した彼女は満足げにログアウトしていった。去り際、今度はリアルでわたしがアメリカの七色に会いに行くと約束をして。

 

 こうしてわたしにとっても忘れられないであろう夏祭りが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……翌日。

 

 

「ホルン、キリト!貴様らいったい何を考えている!?」

 

「保護者きちゃー……」

 

「お、お疲れスメラギ」

 

「お疲れ、じゃない!テレビ中継で見たぞ!!なんだあの人間花火は!なんだあの走り回るスイカは!俺はセブンに日本の夏を紹介するよう頼んだのであって、百鬼夜行に巻き込めとは言っていないぞ!!?」

 

「「マジでごめん、なんかこうなった」」

 

「そんな雑な説明で納得できるわけあるか!!そこに直れ、刀の錆にしてくれる!!」

 

「……なぁお前さんら。うちの店で暴れるのは勘弁してくれないか」

 

 

 そんなやり取りがあったとか、なかったとか。

*1
レインは知らないが割と手遅れ

*2
一名連行されていったが

*3
早い話黒ユナである

*4
1号はノーチラスが頑として譲らなかった

*5
ALOでプレイヤー死亡時に表示される炎。この炎がある間は蘇生アイテムや魔法によるリスポーンが可能




リクエストいただいた恋愛紳士アニキ感謝です('ω')ゞ


2025/09/22追記  のうこニキ誤字報告謝謝茄子!
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