VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

32 / 34
オルペウスとフリンズ引けたので初投稿です。


やっと風邪が治りました。ただ風の方は直りませんでした()
台風の悪魔の影響でしょうか。

下手な話題転換で分かるかもしれませんが、風邪治って早々チェンソーマンシャークネード篇見てきました。アニメ版と監督変わったおかげか演出も描写もかなり原作寄りでかなり見ごたえあります。
演出もしっかりしてたので心に傷を負いました。生姜焼き定食がよ(´;ω;`)
暫くレゼロス引きずりそうです……

誤字脱字等ありましたらお願いします_(:3 」∠)_


『偽りの英雄たち』 1/2

「それでは、アスナのウィンドフルーレ帰還を祝しまして~かんぱ~い♪」

 

「乾杯」

 

「はいはい乾杯乾杯」

 

「……乾杯」

 

 

 ホルンとストレアが売店から戻ってきたことでひとまずアスナとの『お話』も終了となった。今はこうして備え付けのテーブルにナッツの盛り合わせやらを広げて小宴会状態。

 先ほどまでピリピリしていた彼女もノンアルコールワインとストレアの放つほわほわした空気のおかげか、眉間に皴を刻んでいた眉根も落ち着いてきている。

 

 

ん…んくっ……ぷはー!ハーブが効いてて爽やか~。おいしいねこれ♪」

 

「一気飲みってお前仕事上がりの一杯かよ。ワインってもっとこう、グラス内で香りを楽しんだりしてから飲むもんじゃないんすかね」

 

「それで合ってる。けど、別にここでそういうの細かく言ってもしょうがないじゃない。こっちじゃグラス内で揺らしたところでワインの酸化が進まないから香り変わらないんだし」

 

 

 確かにSAOには耐久値による疑似的な消費期限こそあるものの、発酵・腐敗・酸化・風化といった時間経過によって起こる現象はない。一部アイテムは属性として名前に(腐敗)と付くことはあるが割とレアケースだ。

 《食品加工》スキルの一環で一応ワインやチーズといった発酵食品も生産可能らしいが、素材消費と一定時間経過という他の食品類と変わらない味気ない仕様でしか作れなかったはず。如何にMMOと言えど、本筋がVRでの戦闘だからかその他のリソースは極力簡略化しているのだろう。

 

 パラメーター設定が難しいのだろうと思う反面、作れるだけマシ、とも頭の片隅では感じている。何故ならワインやチーズはともかく、中世ヨーロッパ風のデザインであるSAOにそぐわないであろう日本の発酵食品である醤油や味噌はハナから存在しないのである。日本でしかSAOを売ってない以上この世界のプレイヤーの大多数が日本人であるにも拘わらず、だ。もはや暴挙である。

 βテストを終えてユーザーアンケートで結構な数日本の食材や料理を要求する声があったと記憶しているが、はたして上の層には存在するのだろうか。日本モチーフ感漂う10層が最後の希望だった。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「へぇ。あれ演出以上の意味あったんだ。初めて知った。……キリトはそれ、味とか感じてるの?」

 

「…………心なしか血の味がする」

 

「フン、その程度で済ませてあげたんだから感謝してほしいわね」

 

 

 さっき見たらアスナに張られた頬、アニメとかで見る感じの真っ赤な手形ついてたんだけど。《圏内》で保護されてるはずなのにダメージ受けた気さえする。

 

 

「……今更だけど何したのコイツ」

 

 

「まず返事も待たずに部屋に飛び込んできて」

「住居不法侵入~」

 

 

 ノックの後ロクに確認も取らずに入ったのは確かに俺の落ち度だろう。しかし初期設定だったからパーティーメンバー素通しなアスナの落ち度もあるはず。

 それで突入したら室内はちょっと百合百合してました、とか言われても知らんがなとしか返せない。

 

 

「無理やりメニュー操作させられて」

「恫喝になるのかな?」

 

 

 あれはその…タイムリミット迫ってから……。それにアスナだけじゃ絶対あの操作できないし……。

 ……操作の指示に集中し過ぎたので今更だが、美少女の着崩しパジャマ姿をまじまじと見れなかったのは勿体ないと思っている。

 

 

「下着の山をひっくり返されたわ」

「強制わいせつ罪…あれ、今は不同意わいせつ罪だっけ」

 

 

 ちくしょう反論の余地のない部分を挙げられた。……はい、《完全オブジェクト化》した後は別に急ぐ必要ないのに流れで手を出してしまいました。シルク素材の下着の感触が忘れられません。

 あとストレア、さっきからアスナの発言に合わせて罪状読み上げるのやめて?俺きみやホルンほど心臓丈夫じゃないの。小市民なの。具体的な犯罪項目言われるのめちゃくちゃ怖いの。お願いします。

 

 

「その話は置いといて……二人も戻ってきたことだし、改めてさっきの《強化詐欺》について情報共有をしよう」

 

 

 強引な話題転換だったものの、元々その為に集まったということもあってかアスナとストレアのじゃれ合い(?)がぴたりと止まる。上手く逃げたな、とホルンの方から小声で煽りが聞こえたが、彼も本筋を邪魔する気は無いのかその一言で済ませてくれた。普段からそれくらい自重していてほしい。

 全員の視線が集まったのを確認し、右手の指を振って俺のステータス画面を展開。可視化表示に切り替えて3人に見えるよう角度を変える。

 

 

「複雑だし、口頭よりも実際に見てもらおうかな。俺の装備フィギュアの右手(セル)、アニールブレードのアイコン入ってるだろ?」

 

「そっすね」

「うん」

「そうだね」

 

「このアイコンが明瞭に映ってるのが装備状態」

 

 

 次いでコートの背から引き抜いた剣を床に置き変化を見せる。

 数秒後。

 

 

「お、アイコンが灰色になった」

 

「これが装備武器の落下(ドロップ)状態。手を滑らせ(ファンブル)たり敵の武器落とし(ディスアーム)属性付き攻撃を受けた時に発生する奴。一部のスキルで対処できるんだけど、今回は割愛」

 

 

 そのまま更に数秒。メニュー画面のアニールブレードのアイコンフレームが徐々に欠け始める。

 

 

「耐久値減り始めてるだろ?これが放置(リーブ)状態だ。ドロップ状態が長いとこうやって耐久値が徐々に減少して、最終的に完全消滅する。で、この状態で……あーホルン。ちょっとその剣拾ってくれ」

 

「あいよ、って…何これバカ重……。電話帳に無理やり取っ手付けて持たされたみたいな負担が手首にクる……ゴミだろコレ」

 

「流石に言い過ぎじゃないかしら…?」

 

 

 ちょっと涙腺にじわっと来た。俺の愛剣そんなダメなんだろうか。

 

 文句を言いつつ両手で床から剣を持ち上げる。すると床から完全に剣全体が離れた瞬間、耐久値減少が止まった。

 そして同時に発生した変化に気づいたアスナが小さく呟く。

 

 

「……っ!武器アイコンが消えた?」

 

「これが武器奪われ(スナッチアーム)状態。仲間に武器を渡す時とかは武器手渡し(ハンドオーバー)状態って言ったりするけど、ともかくこうやって落とした武器を拾われたり、武器を手渡したりすると装備フィギュア内のセルが空欄になるんだ。──さっきアスナが鍛冶屋にウィンドフルーレを預けた時みたいに」

 

 

 核心部分に向かっていると察したのだろう、アスナの目が剣呑な光を帯びる。

 

 

「ここで重要なのは、一見右手セルが空っぽで何も装備していないように見えても、このセルには装備中のアニールブレードの装備者情報が残っているっていうことなんだ。この装備権っていうのはかなり厳重に保護されてて、普通のアイテム類と違って簡単には破棄されない。そしてこれは

「例えばキリトが同じ武器をストレージから取り出してアスナに手渡すと300秒で権限が初期化(クリア)されちゃって、その後にアスナのストレージに入っちゃうとアスナの所有物ってことになるの。

でも装備中の武器を手渡したり奪われた場合は3600秒…1時間経過するか、同じセル──この場合は右手だね──に別のアイテムを装備するまで権限が保持されるんだよ♪」

……あー、そういうことになる。補足説明ありがとうストレア。秒数までパッと出てくるの凄いな」

 

「ふっふーん♪たまにはアタシもいいとこ見せないとね~。どうホルン?キリペディアより身近な情報源ストレア百科事典だよ~」

 

 

 妙な対抗意識を持たれている。ストレアはストレアであいつの私生活とかでいい影響与えて……与えて?るんだし、ゲーム面でくらい俺が活躍するべきだと思っただけなんだが。

 

 

「つまり武器をすり替えて折る、自身の剣を折られたと持ち主に錯覚させる、持ち主が剣を諦めて時間経過で完全にネコババ。こういう流れで詐取してたわけか。

タチが悪いのはこれ、詐欺被害者が立ち直るのが早ければ早いほど解決困難になることだね。なまじ切り替え早い奴だと予備の武器に持ち替えて戦い始めるし、そうでなくても仲間とかから予備の武器借りるだけで詰む。かなり悪質」

 

「無視!!?!?」

 

 

 圧倒的スルースキルにより敢え無く撃沈していた。この場合問題なのはホルンとストレアのどっちなんだろうか。

 とりあえず人をだしにしてイチャ付いてるのだからもう少し有意義なやり取りにしてくれ。

 

 

「……だからキリトくんはあの時、こっちのシステムウィンドウを盗み見…じゃなかった、奪い見たのね?私が新しい剣を装備していないかを確認する為に」

 

「そう、いうことになりますね……はい。で、その…さっき言った二つの条件さえ守られていれば、どこにあるアイテムだろうと手元、って言うか足元かな。に呼び戻す最終手段があるんだ」

 

 

 友人が言ったようにアスナの剣はあの時完全に彼女のストレージから離れた位置に隠されてしまっていた。しかし《完全オブジェクト化》が強制召喚できるのはストレージ内だけではなく、アスナが所有権を保持している全てのアイテム。極論SAOサーバー上に存在さえしていればどこにあっても呼び出せる。これが失われたはずウィンドフルーレが戻って来たロジックだ。

 

 

「で、その結果私のアイテムストレージ内も含めて全部ぶち撒けたのも、必要経費だったと……そう言いたいってこと」

 

「えっと……そ、そういうことになる…カナ……?」

 

 

 ……というのは今までの説明で理解してくれてるのだろうが、それを差し引いてもアスナの視線の鋭さは失われていなかった。寧ろ懇切丁寧に説明したせいで俺自身の正当性を強調しているように受け取られてしまっているような。理性と感情は別物ということなのだろう。

 しばしそのまま難しい表情でこちらをご覧あそばせられたフェンサー様は、熟考の末に長いため息を零して雰囲気を切り替えた。どうやら不問としてくれるらしい。

 

 

「それにしてもあの操作、なんであんな使いづらくされてるのよ。操作タブもかなり深い位置にあるし、何より《完全》でなきゃいけない理由はあるの?こんな大げさにしなくたって自分で対象を選択できれば下……じゃなくて、関係ない装備まで実体化させないで済むのに」

 

()()()使いにくくしてるんだよアスナ。だってこれ所有権残ってる内ならどこにあってもアイテム呼び戻せるんだよ?ホルンの《投剣》みたいな手元から離れる前提の武器まで回収できちゃうんだもん。制限付けないとみんな使っちゃうでしょ」

 

「悔しいけど妥当な理由ね……」

 

「……抜け道あったりしない?ちょっと弾数∞の《投剣》は夢があるんだけど」

 

「ないよ~。諦めて真面目に戦おうね」

 

「クソがよ」

 

 

 彼には夢のある戦術かもしれないが、敵側からは堪ったものではあるまい。1層ボス戦見るにコイツ、多少動き回ってる相手の目を正確にブチ抜けるイカれた投擲精度してる。そんなヘッドショットマシーンを残弾制限無しの魔改造とか絶対許されない。

 ほっといたら本当に抜け道みつけそうで怖いので、思考誘導も兼ねて本来の用途を伝えておこう。最悪ホルン本人には通じなくてもストレアの常識矯正は間に合うかもしれない。……間に合ってほしい。

 

 

「この操作はさっきも言ったように最終手段なんだ。ダンジョンにアイテムを置き忘れた、誤って落とした、敵に奪われたまま逃げる羽目になった……これらは本来プレイヤー側のミスであり、諦めるべきなんだろうけど。それだと難易度が厳しいってことで、一つだけ救済措置としてこの操作が実装されてるんだろうな。運用面に制約があったり隠しコマンドじみたアクセスのしづらさでバランスを取ってるわけだ」

 

「周知されてない段階で救済措置として成立してなくね?ラーメン屋の裏メニューじゃねぇんだぞ」

 

 

 ぐうの音も出ない正論だった。俺も正直何かの弾みにド忘れして詰むんじゃないかと戦々恐々している。アルゴに頼んでβテスターの見つけた裏技集的なの売ってもらおうか。多分俺の知らない奴もちらほらあるだろうし買いたい。

 

 

「……まぁともかく、これ自体はありがたいんだけど、その仕様のせいでβ時代に悲劇が起きたんだ。あるプレイヤーが5層の迷宮区で、スナッチ技を使ってくるMobと戦ってさ。予備武器を素早く呼び出せる《クイックチェンジ》ってスキルを当初取ってなくて、武器を奪われた状態で敗走する羽目になったんだ。あれは悔しかった」

 

「お前のβ時代の話?」

「ホルンくんステイ」

 

 

「…………で、なんとか敵を振り切れたのはいいんだけど、安全地帯まで下がる手間を惜しんでさ。パッと見安全そうな場所で、さっきの《完全オブジェクト化》を使ったんだ。そしたらそのエリア、スナッチMobだけじゃなく拾い(ルーター)Mobも出るところだったんだ。まんまと運営にはめられたよ、心理誘導がうますぎだろ…」

 

「お前の話だよな?」

「ホルン、しっ」

 

 

「……………………しかもルーターMobはたいてい《強奪(ロビング)》っていうスキルがあるから持ち逃げされた段階で所有権が即時移行。幸いそのエリアに他のプレイヤーが居なかったからよかったけど、全部のアイテム取り戻す為に5時間かけて持ち逃げしたちっこいグレムリンを狩り尽くすことになったんだ。

そういう悲劇も起こるから、みんなも《完全オブジェクト化》を使う時は警戒を怠らないように」

 

「だからお前のやらかした話なんだろコレ?」

 

「ああそうだよ俺の話だよ!!なんか文句あるかこの野郎!!?」

 

「教訓をありがとう!だからキリトくん落ち着いて!?ね!?」

 

 

 掴みかかる前にアスナの細腕がインターセプトしてきたので殴り合いには発展しなかった。不完全燃焼である。

 なおホルンはストレアによって床に正座させられた。ナッツも小皿に取り分けワイングラス共々床に置かれている特別待遇。絵面はいじめにしか見えないが一番暴れてる奴のせいで可哀そうには感じない。

 

 

「でもどうやって武器をすり替えたのかしら。私たち4人があの場に居て、全員が武器をすり替える姿を見逃すなんて有り得るの?」

 

「そこなんだよなぁ……。従来のMMOなら武器を渡した段階でプレイヤーの視界から消えるからいくらでも騙しようはあるんだ。失敗ペナルティに武器破壊があるなら丸ごとネコババできるし、そうでなくても強化失敗したって言って強化値の低い同じ武器を返したり。

MMOの高性能武器って基本的にめちゃくちゃ高価だから、たまにやるだけでもかなりの儲けになるし、評判とか信頼を度外視に出来るならやる奴は出てくる。

でも正直、このゲームに限って言えば《強化詐欺》は絶対起きないと思ってたよ」

 

「店先の剣にウィンドフルーレはなかったし、咄嗟にアスナの剣と入れ替えた、っていう線もないね。どうやったんだろう」

 

 

 従来MMOで強化依頼→終了までの流れは両者の入力速度や通信遅延などを考慮しても10秒とかかるまい。既存のMMOならこの時間で十分詐欺が成立した。

 しかしSAOでそんな悠長な作業は不可能だ。何故ならプレイヤーの五感をそのままゲームの世界に持ってくる仕様上、渡した剣は視界から消えない。ポップアップウィンドウや画角変更など演出的強制力によって詐欺行為を隠していた時とはわけが違う。よりスピーディーかつ正確に事を済まさねばならないはずだ。

 ストレアが言ったように手近な場所に置いてあれば時短にはなるだろうが、それでも視界の端で妙な動きがあったら警戒したはずだし、今回に関して言えば犯行現場に同種のアイテムすら置かれていなかった。それ故こうして知恵を振り絞る羽目になっているのだが。

 

 もう一度確認できればタネを割れそうな気もするが、恐らくネズハも騙し取ったはずのウィンドフルーレをこちらが回収したことに気付いてるはずだ。もう俺たちの前で同じ手口は……いや、そもそもまともな感性があれば、トリックを暴かれた可能性がある中で鍛冶屋営業自体しないはずだ。

 早くも事件の手掛かりが失われつつあるかに思われたその時、意外にもホルンが待ったをかける。

 

 

「それなんだけど、ヘボ鍛冶屋とそのお仲間以外でも事情を知ってそうな奴に心当たりがある」

 

「本当か?」

 

「……って言うかなんだろう、多分事情知ってるどころかがっつり黒幕って言うか…」

 

 

 歯切れ悪く語り出した情報に俺は頭が痛くなってきた。出るわ出るわ不穏な情報の数々が。

 ボス部屋に居なかったはずなのにこちらのやり取りを知っている口ぶりと、ボス攻略メンバーに引けを取らない戦闘力。その上《ウルバス》内での道中、その存在に気付けたのがホルン一人という危うさ。それも相手が広場のやり取りを見て嗤い声を漏らしてようやく。

 寝耳に水と言うには些か強烈過ぎる情報だった。特にストレアの《隠蔽》を看破できる人間レーダーがほとんど気付けないというのが最悪すぎる。

 

 

「…………どう思う」

 

「真っ黒だな「お前の格好より?」やかましい。……ったく、よくそんな危険な奴に喧嘩売ったなホルン」

 

「流れでつい……。悪いねほんと、まともに会話してると頭おかしくなりそうで情報ほとんど引き出せなかった。

分かったのは身長180cmくらいで、クソダサい黒ポンチョ着てて、男で、武器は多分短剣と投剣で、リアルは英語圏の人間っぽくて、ボス攻略メンバーに内通者が居るっぽくて、名前がプリンス・オブ・ヘルで《PoH(プー)》ってことくらいしか……」

 

「大戦果だろ」

「揚げ足取りの有効活用ね」

「ホルンは逆に何が分かってないの…?」

 

「褒められてる気がしない」

 

 

 俺よりも諜報の才能あるよお前。アルゴに弟子入りでもしたらそこら中のプレイヤーの個人情報全部商材にできそう。絶対に実現してほしくないけど。

 

 

「ひとまず対策手段は見つかった、これ以上は情報が出揃うまで様子見だな。どの道明日は攻略に戻るつもりだったし」

 

「アタシとアスナは最近前線の方顔出してたけど、確か明日の午前にフィールドボス攻略って言ってたよ。順調なら午後から迷宮区は入れそう」

 

「……まぁ、たいして強そうな敵じゃなかったし、あの調子でもなんとかなるでしょ」

 

 

 含みのある言い方だが何かあったのだろうか。まぁ山籠もりのせいで前線事情に疎い俺とホルンよりは二人の方が詳しいのは間違いないし、その二人がなんとかなると思ってるなら気にしないでいいことなのだろう。

 

 

「実際フィールドボスはそんな強い奴でもないよ。フロアボスの方はちょっと厄介だけどな」

 

「あー……うん。やっぱり問題なのは《ナミング》だよねぇ」

 

「前に言っていたボスの使ってくる状態異常攻撃のこと?」

 

「正解。装備強化で対策自体はできるんだけど、食らわないに越したことはないからさ。迷宮区の時間湧きMobが同種の攻撃してくるからそれで練習した方がいいよなって」

 

「ならヘボ鍛冶屋の件は一旦置いといて、明日はそっちか」

 

 

 1層のように細部に違いが生まれているかもしれないし、この面子なら練習ついでにその辺の情報収集をする余裕もあるだろう。何とか最速で迷宮区に突入して後続の被害を減らしたいところだ。

 

 

「よし、じゃあ暗い話はお終いだよ!お茶会再開~♪ホルンホルン、クリーム出して」

 

「えー……自分の使えよ」

 

「アタシの分使い切っちゃったんだもん。どうせホルン使ってないでしょ」

 

「……割に合わない報酬を更に搾取されるのか。クソがよ」

 

 

 ぶつくさ文句を垂れつつ少年が指を滑らせる。青いポリゴン収束と共に現れたのは1層の珍クエストの一つ、《逆襲の牝牛》のクエスト報酬だ。ある意味俺とアスナにとってこれ以上なく馴染み深いアイテムでもある。

 ちらりと彼女の顔を窺うと、それはもう食い入るようにクリーム壺を眺めていた。どうにも相当お気に召していたらしい。

 何やら葛藤しているようだったが、それもストレアが遠慮なしの山盛りクリームパンを頬張るまで。その姿を見て生唾を飲んだ彼女は、謎に覚悟を決めた表情で口火を切った。

 

 

「……ホルンくん。その…相談があるんだけど……」

 

「……使いかけでいいならクリームは譲ってやる。だから剣の柄から手を離せ…!」

 

「いいの!?ありがとう!!ダメ元で頼んでみるものね!」

 

「過去イチ好反応。あとお前がしたのは頼み事じゃなくて恫喝だ」

 

 

 刺し違えてでも手に入れるという気迫を感じた。哀れホルン、遂に割に合わないと零していた報酬すら全て持って行かれている。煽りカスでも人権はあるんだぞと言ってやりたい。

 ただ流石のアスナも奪…貰いっぱなしは気が引けたようで。

 

 

「お返しにって訳じゃないけど、これあげるわ」

 

「何この瓶。ジャムかなんか?」

 

「……アスナさん、俺これ見覚えあるんだけど」

 

 

 内容物は一見液体なのだが、卓上を滑らされた際の表面の揺れ方がおかしい。なんかこう……トロッとしている。ちゃぷん、と言うか、トゥルン、みたいな波打ち方をしていた。

 

 

 

 

「ホルンくんやキリトくんがやらかした時に飲んでもらう為に用意してた腐り牛乳よ。捨てるなり何なり好きにして構わないわ」

 

「わらしべ長者でももう少しマトモなゴミ寄こすぞテメェ」

 

 

 

 

 そう言えばあったな低層にも(腐敗)の付くレアアイテム。なお希少ではあるが価値はない。NPCショップにすら買取拒否される、という意味でレアなのだ。

 あまりにも不平等貿易。煽りカスでも以下略。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 広大なアインクラッド各層の《圏外》フィールドだがその面積に対し、実際には一定範囲ごと侵入不可の地形で遮られたエリア分割型のマップ構造をしている。各エリア内にはそれぞれ《転移門》を有する準拠点規模の非戦闘エリアが存在し、攻略を進めるごとに自然と前線拠点が移るよう配慮されている。

 そして各エリアの境界上には《フィールドボス》と呼ばれる固有名持ちの大型Mobが配置されており、それらを倒さなければ次なるエリアには進めない。所謂(いわゆる)中ボスと言うやつだ。

 層を進むごとにエリア分割は細分化され、それに伴って配置されるフィールドボスも増える。が、2層は最初のフィールドボス採用フロアと言うこともあってか、配置数はたった一体。

 

 つまり早い話……今眼下で15人のプレイヤーとの戦闘が始まろうとしているあの巨牛が(たお)れれば、その瞬間に2層迷宮区の存在する南エリアの攻略が可能となる。

 

 

「人がゴミのようだ」

 

「絶対言うと思ってた」

 

「もー、人のことゴミとか言っちゃいけないんだよ!」

 

逸般人(ストーカー)の分際で一般常識を口にするな。恥を知れ」

 

「今日は一段と面倒くさいテンションね……」

 

 

 その面倒なテンションの原因の一つ、間違いなく昨晩のきみなんだけどなアスナ。

 

 このテーブルマウンテンの山頂からだと巨大なフィールドボスはともかく、プレイヤー集団の姿は輪郭を失い点にしか見えない。高度差およそ50m、直線距離で300mは離れている。これ以上なく例のセリフの使い時だと言えよう。

 もっともこの位置からだと大差ない豆粒サイズだが、あの場に居るプレイヤーたちが対峙しているのは牛と形容して良いのかすら怪しい。

 固有名《ブルバス・バウ》──体高約4m、全長6m弱、その上角も4本ほど生えた正真正銘の化け物だ。

 しかしこのモンスター最大の特徴は、球状船首(バルバス・バウ)に掛けたネーミングに違わず肥大化した額のコブ。あの角より前にせり出した巨大な肉骨鈍器でド突いてくるというかなりパワフルな攻撃をしてくる。そのせいでβでは『逆肉叩き』というあだ名を頂戴していた。

 

 ただ獣型Mobらしく攻撃はバリエーションに乏しく、あの巨体を活かした突進と回頭を交互に繰り返すだけ。フィールドボスは強敵ではあるが、基本的に連携さえしっかりしてれば──

 

 

「……ん?」

 

「……気のせいかね、あの2パーティー構成ほぼ同じに見えるんだけど。役割分担とかしてないの?あれ」

 

 

 俺と同じタイミングで同じ疑問に至ったらしい、左隣のホルンが呆れたように零している。見た感じどちらのパーティーもタンク役らしき盾持ち2、火力役とサポーターであろう軽装のメンバーが4といった編成。至ってオーソドックスな……それこそ俺たちのような普通のパーティーが二組あるだけだ。

 補欠要員(リザーブ)の三人はともかく、レイドを組んでいるなら編成ごとに特化運用がベターだと思うが。

 それに対し両脇に居る女子二人は「やっぱり」と言わんばかりにため息を吐いた。

 

 

「……偵察戦でもあの調子だったのよ、あの二組。パーティーリーダーはそれぞれキバオウさんとリンドさんよ」

 

「……あの二人か。たしかにあんまり仲良くはなさそうだったよな。ホルンほどじゃないけどキバオウは噛み付いてくるし」

 

「ディアベルが上手くやってくれてたんだろうけど、リンドも割と言い方キツいから……。ホルンほどじゃないけど」

 

「人を不和の代表例みたいに言うな」

 

 

 特徴的なトゲ頭が見えた時に片方には思い至ったが、もう一組は元ディアベル隊のメンバーだったのか。アスナの言葉通りならあそこに居る髪を青く染めた曲刀(シミター)使いがリンドなのだろう。髪どころか鎧の色も銀色に変わり、今は亡き騎士の跡を継ぐと言わんばかりのイメチェンだった。

 よくよく見てみるとあのパーティー、鎧の下に着込む胴衣をそれぞれモスグリーンとロイヤルブルーに統一していた。スカーフとかの外付けアクセサリーではなく、如何にもなお揃いユニフォームにしてる辺りに所属を誇示している印象を強く受ける。

 

 そしてそれは開戦と同時にパーティープレイにも表れていた。

 ボスの居座る縦長の楕円空間をじりじりと詰めていたプレイヤー集団だが、ボスが接敵状態(アグロ化)に移行するギリギリまで進んだ直後、盾を掲げながらタンク役がヘイトスキルを起動した。……それも二人。

 

 

「おいおい…両方のパーティーでタゲ取ってどうするんだよ……」

 

「僕はキバオウが轢かれるに腐り牛乳賭ける」

 

「じゃあアタシはリンドの方!ホルンのハンカチを賭けるよ♪」

 

「賭けるな。それお前が鼻かむのに使ったやつだろ。洗ったなら返せ」

 

「真面目にやってもらえる???」

 

「「ごめんなさい」」

 

 

 赤眼コンビとアスナのやり取りも相まって非常に頭が痛い。β時代もお祭り感覚で挑む奴はちらほら居たが、デスゲームとなった今、あのように勝つ気があるのか分からない戦い方には思うところがある。

 ボスもその奇行に驚いたのか突進の軌道を迷うように首を左右させた。結局青パーティーを選んだらしく、蹄が大地を蹴る重い音と共に突進。

 狙われたタンク役の隣に素早くもう一人の盾持ちが並び立ち、腰を落として構えたそこに巨体が激突した。ズガァン!と強烈なSE(サウンドエフェクト)が鳴り響き、重装戦士二人の足が勢いよく地面を削る。

 10mほどそうして靴底で溝を刻んでいたが、やがて巨牛の進撃は遅くなり、ピタリと止まった。素早く檄を飛ばしたリンドと共に、残る四人ががら空きの横腹にソードスキルを叩きこむ。二段あるボスのHPゲージが目に見えて削れていく。

 

 ここまでならギリギリいいんだが……どうにも緑のパーティーはそれに手を貸す様子もなく、少し離れた場所で待機しているだけだった。盾の構えを解かない感じ、恐らくCT(クールタイム)が開けた瞬間あちらの都合などお構いなしにヘイトスキルを再発動するだろう。

 

 

「…………なんとかなりそう……かしら?」

 

「元々1パーティーでも倒せるバランスだから倒せはすると思うよ。……ただこれじゃMobの取り合いにしかなってない…この調子で本戦大丈夫なのか……」

 

「小規模レイドにしている意味は全く無いわね。『船頭多くして船山に登る』ってこういうことを言うんでしょうけど」

 

「もっといい言葉あるよ。『烏合の衆』」

 

「アスナもホルンも言い方キツいなぁ……。アタシもちょーっとどうかとは思うけど」

 

 

 ストレアまで擁護不能というのは相当だろう。ある意味快挙だった。

 本陣の12人があの調子ではリザーブの三人も苦労するだろう、とどこか同情的な思いで視線を後方に滑らせ──初めて注視したそこに居る剣士の姿に、呻き声が漏れ出た。

 

 

「なんで…あいつらが居るんだ……!?」

 

 

 忘れもしない。あのバシネットとバンデッドアーマーという変わった出で立ちの剣士は、昨晩ネズハを追跡して辿り着いた酒場に居たリーダー格の男だ。その左右を固めているプレイヤーも、見覚えのある装備構成……ほぼ間違いなく彼らの仲間だろう。

 

 

「どうしたの急に」

 

「キリト足痺れちゃった?」

 

「……アスナ、ストレア。あそこの待機組三人、知ってるか?特に真ん中のバシネット被ってる奴」

 

 

 こちらに向けられた懐疑の視線をそのまま動かすべく、二人の視線を指先で誘導する。同じものを注視してくれたと思うが、アスナは小首を傾げていた。

 

 

「バシネット、って赤ちゃん用のベッドじゃないの?」

 

「え?いや、ああいう頭頂部が円錐状でクチバシみたいなバイザー付いてる兜のことを言うんだけど……」

 

「二人とも合ってるよ?キリトが言ってるのは西洋の防具で、頭頂部とか前方から来る衝撃を受け流しやすい形状ってことでああなったんだって。アスナが言ったのは籠型ベッドのことだよ。旅客機とかで乳幼児席として備え付けられてることが多いかな。

(つづ)りも兜が【basc()inet】、ベッドが【bass()inet】って一音違いだから間違えないようにね♪」

 

「「へぇ」」

 

「ゲーム以外の情報だとキリペディアより優秀そうだねストレア百科事典」

 

「でしょでしょ~!!」

 

「うるせぇ耳元で騒ぐな」

 

 

 兜の方については知っていたがあのカゴみたいなの同じ名前なんだ。スペルまで注釈してくれるし、確かに俺より知識面での汎用性は……って違う!

 

 

「じゃなくて、あそこの……真ん中の丸っこい奴!見覚えないか?」

 

「あるわよ。昨日の午前、あそこの仲悪い二組と、私とストレアさんが偵察戦の打ち合わせを《マロメ》でしてた時に、自分たちも一緒にやりたいって言ってきたの」

 

「キリトの言ってる人なら、自己紹介の時に《オルランド》って名乗ってたよ」

 

「……自称騎士(ナイト)サマの次は自称聖騎士(パラディン)サマってか。シャルルマーニュ十二勇士から持ってくる辺り自己顕示欲エグいな」

 

 

 やめてやれよ…とホルンを抑える前に、彼の言葉からなんとなく共通点を見出したのか、アスナの細い指が自称聖騎士の隣に居る小柄な斧使いをさした。

 

 

「あっちの人は《ベオウルフ》って名乗ってたわ。たしか、イギリスの英雄の名前じゃなかったかしら」

 

「なんで斧持ってんだよ。フルンティングはどうした。エミュする気あるなら剣持て剣を。チビが斧持っても金太郎にしかなれねぇだろ」

 

 

 やめてやれよ…とホルンを止める前に、ストレアが流れで最後の一人……痩せ気味の槍使いを示す。

 

 

「あの人は《クフーリン》って名前なんだって。ケルトの英雄の名前をもじった感じかな?」

 

「ゲイボルグよりも細そうだけどアレ。英雄じゃなくてあれじゃただの残業戦士だろ。あるいはガガンボの擬人化」

 

 

 やめてやれよ…とホルン諫める前に、アスナが表情を変えずにトドメの情報を提示した。

 

 

 

「あの人たち、もうギルドの名前を決めてるらしくて。《レジェンド・ブレイブス》って名乗ってたわ」

 

「《ジエンド・フツメンズ》の間違いではなく?」

 

「終わってるのはお前の煽り癖だよ」

 

 

 

 過剰口撃(こうげき)やめろ。なんでそんなすらすら罵倒出てくるんだお前の口。

 

 ゲームのPN(プレイヤーネーム)で英雄の名前とか大定番だろうに。それこそ何時ぞや宿でこの少年が口にしたように、ゲーマーというのは多かれ少なかれ現実世界の自身とは違う、別の何者かでありたいと振る舞うものだ。歴史に名を刻んだ英雄たちのものであることなどさして珍しくも……いや、このテのキャラゲームでそれらの英雄の名前が使われずに残っていること自体は珍しいのだが。

 ともかく基本的に、運営の定めたガイドラインや倫理コードに違反しない限り、プレイヤーがどういう名称を用いようと自由ではある。ギルド名を《伝説の勇士たち(レジェンド・ブレイブス)》にしようと咎められることはない。要するに他人に迷惑さえ掛けなければいいのだ。

 ……迷惑さえ掛けなければ、ではあるが。

 

 

「打ち合わせの時、どんな様子だった」

 

「急に混ざってきたから最初は警戒されてた。でもリンドさんが確認したら、レベルやスキル熟練度は攻略部隊の平均より少し低かったけど、装備類はかなりしっかり強化されたものだったわ。それで、リザーブなら十分だろうって話になって」

 

「アタシとアスナもそれで本戦はパスしたの。あの人たち居るなら多分なんとかなるなぁって。キバオウとリンドも揉めてるし、こっちでホルンたちと居た方が楽しいし♪」

 

「……そういう事情か」

 

 

 実に複雑な気分だ。1層ボス戦時に全く見かけなかったあの剣士たちが、今になって急に頭角を現した理由。そして《レジェンド・ブレイブス》の一員と思われる鍛冶師《ネズハ》だけが英雄の名を借りていない理由も、けして彼だけが生産職だからと言う理由ではないとしたら。

 浮き彫りになっていく背景事情の一つ一つが、彼らの抱える歪さを如実にするようで……

 

 

「あ、バカ」

 

「前触れもなく罵倒された!?…いや、マズい……!」

 

 

 振り向いた先、煽りカスが声を向けた相手が俺ではないと気付く。見ればボスエリアの中央で、緑チームと青チームがごちゃ混ぜになっていた。どうにもどっちがボスのタゲを持っているのか分からなくなり、左右に散っていた両隊がぶつかってしまったようだ。

 そのせいで両隊のタンク役が転んで機能不全を起こしている。あれではボスの攻撃を止められない。

 

 

──ブルルォモオオオォォォォォウッ!!

 

 

「狙われてるのはアタッカーだ!逃げろ!!」

 

 

 ここまで届いた巨牛の雄叫びと対照的に、咄嗟に俺が上げたのはさして大きくもない…決して彼らに届かないであろう声量だった。しかしほぼ同時に両リーダーがそれぞれ仲間に腕を振って合図を出し、突進の軌道上から彼らを含む8人が退避を試みる。

 しかし僅かに遅い。脚をもつれさせ壁の役目を失ったタンク役の間を突っ切り、巨牛の猛進が回避の遅れたプレイヤーを撥ね飛ばす。

 頭をスイングした瞬間の鈍い風切り音すら聞こえそうな攻撃により、二人の剣士が宙を舞った。

 

 その光景が騎士ディアベルの死に際を想起させたものの、幸いにも彼らはそのアバターを硝子片に変わることはなく、地面を数回バウンドしたがすぐに起き上がっていた。それなり以上の装備とステータスがあったのもそうだが、落下地点が硬い岩肌ではなく牧草地帯だったのも運が良い。

 ただメンタルの方は万全とは言い難く、彼らは膝が笑ってる状態で辛うじて立っているだけだった。あれでは戦えまい。

 

 同じ判断をしたのだろうリンドが手信号で後退とPOT回復を指示し、キバオウが後方に控えた三人に向けぐるりと剣を振り回して合図を出す。下がった二人の剣士と拳を打ち合わせながら前に出たのは、聖騎士(パラディン)オルランドと勇士ベオウルフ。

 一瞬躊躇うように立ち止まったが、こちらの居る山頂まで聞こえる雄叫びを響かせて吶喊した。少なくともこの瞬間だけを切り取れば、彼らの名乗った英雄の名に恥じぬ雄姿だったと言えよう。

 

 

 

 

 

 約25分後、2層フィールドボス《ブルバス・バウ》の巨躯がポリゴン片へと姿を変えて散る。

 レイド編成での戦闘にしてはスローペースな勝利だったが、そう感じるのは文字通り高みの見物をしていたからだ。あの場に居た面々はきっともっと濃密な時間に感じただろうし、死の恐怖に打ち勝って勝利をもぎ取ったのだから上々だと言える。今やこの視界左端のHPゲージはゲーム的な要素以上の意味を持っているのだから。

 そう考えれば今歓声を上げて勝利を喜ぶ面子の中に《レジェンド・ブレイブス》の面々が居ても文句は言われまい。多少たどたどしくはあったが、彼らはHP半減(イエローゾーン)まで削られた1軍プレイヤーの代打を十分にこなし、あの場の勝利に貢献したのだ。ここで偉そうに独白を垂れ流す悪の《ビーター》と彼ら、どちらがより健全な立ち位置かという話になる。

 

 

「……で?キリト的に何が気になったのさあのパチモン英雄共。βのおもしろ忍者共の同類とか?」

 

「そういう訳じゃないんだけど……」

 

 

 レインコートの裾を敷布代わりにし、近くの地面に腰を下ろしたホルンの視線が突き刺さる。反対隣のアスナも岩に腰掛けつつ虚偽は許さないとばかりに視線に力が籠っている。この二人両方に言えることだが、目を細めている時は大体ロクな目に合わない。特に前者。

 このままストレアを巻き込んで気まずい時間を続けるわけにもいかないし、早々に白状してしまうことにする。

 

 

「……鍛冶屋《ネズハ》は、《レジェンド・ブレイブス》の一員だ」

 

「……っ、あの三人が…きみが酒場で見た仲間なの……?」

 

「ああそうだ…二人は除装してたから自信薄めだけど、オルランドは確実に居た。あの時の雰囲気からして、強化詐欺はリーダーである彼の指示……だと思う」

 

 

 しん、とその言葉を最後に山頂に静寂が満ちる。

 

 

「……あのヘボ鍛冶屋の店、いつ頃からあったか分かる?」

 

「2層開通した日にはもうあったと思うけど……」

 

「なら五日前くらい……日数当たりの稼ぎで見て…《アニールブレード》や《ウィンドフルーレ》級の強化武器を一日1、2本詐取して売れば通常の狩りの収益を超えるかな。ステータスの低さを装備性能で補ってるって言ってたろ?経験値や熟練度は戦闘しなきゃ上がらないけど──」

 

「──装備の強化は、お金さえ掛ければ比較的安全にできる。みんなが私のウィンドフルーレにしてくれたみたいに」

 

 

 剣の柄を強く握るアスナを宥めるよう、ストレアが彼女の肩に手を添える。一瞬はしばみ色の目が大きく開かれ、次いで、長い吐息と共に普段のものへと変わる。小さく頷き返してる様子から、なんとか留飲を飲み込んでくれたのだろうと察せられる。

 手の内でスローイングダガーを弄んでいたホルンもその様子を流し見して肩を竦めた。アスナが爆発しないかは彼も心配してたようだ。……正直彼女よりも彼の方が不安なのだが。

 

 

「でも強化済みの武器って安く取引されるんじゃないっけ。強化内訳のせいで性能ブレるから」

 

「通常のNPCショップだとそうなる。けど、実はこれにも裏技がある。《鑑定士》スキルを持ってる一部のNPC相手だと、寧ろ強化品の方が高く売れるんだ。試行回数の残り次第だけど、+値の高い装備なら数値分ボーナス入って高くなるような。

……ホルンの居た《ククル》に変わった雑貨屋あったろ。あそこの店主とかまさにそうだよ」

 

「…………あの辺境のクソ立地でもたまにプレイヤー見かけたのと、掘り出し物って言って+値付きの武器が売ってた理由はそれか」

 

「あの村は山岳を切り開いた際に出来た窪地で商人たちが行商を始めたのがきっかけ、という裏設定があるんだ。だから通常の宿泊施設は無いし、代わりに空きスペースはだいたい露天商とかで埋め尽くされてる。その中に序盤だとかなり優秀な換金NPCが配置されてるってわけ」

 

 

 高値で買い取られ、その上プレイヤーがあまり寄り付かないから気付かれづらい。騙し取った武器を処理する場所としてこれ以上の条件はないだろう。恐らくホルンが目にしたプレイヤーと言うのも《レジェンド・ブレイブス》の人間だった可能性が高い。

 

 

「……どうするつもり?私個人としては、今から『お話』しに行きたい気分ですけど」

 

「ダメだアスナ、言ってもきっとしらばっくれるよ。あいつらががフロアボス戦にも参加する気なら尚更」

 

「──大正解。アイツらリンドに媚び売るついでに『自分たちは5人パーティーだ』って言ってるよ。ネズハのことを隠したいのか、ハナから数に入れてないのかは知らないけどさ」

 

 

 この距離で通常会話聞き取れるとかどんな耳だよ。……そう茶化すつもりで振り向いたそこには、どこか寂し気な目で彼らを見下ろしている少年の姿があった。普段の薄笑いではなく、口を緩くへの字にした。

 初めて見る表情なのかストレアも戸惑っている。あたふたと手と視線を彷徨わせ、あーでもないこーでもないと対応を選びかねていた。

 

 

「ホルン大丈夫?痛いの痛いの、飛んでけ~!……なんて

 

「…………気にしないでいいよ。どこでも()()()()()あるんだなって呆れてただけだから」

 

 

 ストレアの『気』を送る動作をやめさせ、普段の嫌味な表情に戻った少年が立ち上がる。

 

 

「ついでにいいニュース。烏合の衆だけど補給の為に《マロメ》に戻るって言ってた。今なら邪魔入らずに南エリア行ける」

 

「……分かった。じゃあサクッと行こうか。次いでだし、揉め事のタネにならないように迷宮区の宝箱片っ端からこっちで開けてしまおう」

 

「いーねー、それ。嫌われ者らしくなってきた。配慮とかクソくらえだ。早いもん勝ちってことでもらっていこう」

 

 

 その軽口には肩を竦めて応じておく。本来最速で迷宮区に向かうのはフィールドボス戦の功労者たちであるべきなのだろうが、俺とて知ったことかと思っている。まとまりのないリーダー二名にも、後ろ暗いブレイブスにも譲る気は無い。こちとら悪の《ビーター》だ、嫌われるなら突き抜けてしまえ。

 と、いうテンションでホルンに応じてから、はたと気付く。やべぇ、そう言えば今日は二人も居るんだった、と。

 右隣を見てみる。ジトっとした目でこちらを()め上げるフェンサー様が居た。よくよく見てみると頬が膨れ気味。

 ホルンの隣にいるストレアはと言うと、早くもホルンを正座させていた。笑顔の圧が強い。こちらに向けられた彼女の視線は冷え切っていた。

 

 

「……と、いう方針でいこうと思うけど。その、お二人もよろしい…でしょうか……?」

 

「異議なし。私もあの人たちにお宝持ってかれるくらいならケーキの代金にでも使うわ」

 

「アタシも賛成~!……それはそうと、あとで『お話』ね。今日はキリトも」

 

「私からも言わせてもらうから、覚悟するように」

 

「「はい……」」

 

 

 イマイチ締まらないが、かくして行動指針が決定する。

 

 目指す先は2層迷宮区。

 薄霧の向こうにそびえ立つ巨塔へ向け、4人分の足音が歩を刻んでいく。

 

 




キリト:パーティーの安全弁。最近アスナも弾けてきて胃が痛い

ホルン:筆頭問題児。なおいじめられっ子センサーに引っかかったのでブレイブスは敵認定した。やらかす前段階

アスナ:狂気に染まって来た元常識人。本人はまだまともなつもり。ここ数日のテンションの振れ幅が一番大きい

ストレア:相対的にまとも側になってしまった。みんなに笑顔でいてほしいので色々頑張る


2026/03/10追記 秋ウサギニキ誤字報告謝謝茄子('ω')ゞ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。