VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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マジカルスズミとマジカルレイサで爆死したので初投稿です。


今回シンプルに筆が乗らなさ過ぎて投稿遅れました(白目)
仕事忙しい時期になるとネタひり出す時間確保できないんで執筆が進みませぬ (´・ω・`)モウシワケ

ここから2月くらいまで本業の方が忙しくなってくるので、また投稿不安定になりそうです。とりあえず世間様と違って三連休ないのが鬱です('ᾥ' )

誤字脱字などありましたらまたお願いします。


『偽りの英雄たち』 2/2

 人間の五感の知覚する情報量の割合は大部分を視覚が占めている。これが凡そ8割を占め、次いで聴覚が1割と少し。その後を嗅覚、触覚、味覚の順に占めていくのだという。

 

 ハナカマキリやナナフシなど環境に溶け込むもの、アブや蛾などの他の生物の外観を真似るもの、ヤドクガエルやヒョウモンダコと言った自身の有毒性・危険性を示すものなど、外観に生態が深く関わる例は事欠かない。それだけ生物にとって視覚情報から得る脅威判定要素は大きいということだろう。

 これを人間にするとラノベを見ながら息を殺して教室に溶け込む陰キャ、自身の灰色の過去を抹消すべく陽キャファッションをする高校デビュー奴、髪染めたりタトゥーシール貼ってSNSで威嚇する小心者とかになるんだろうか。こうやって見ると人類の多様性もバカにならないものである。

 

 さて。

 では前述のように脅威の是非を視覚で判定するのが生物の常なのだが、はたしてこの二者の場合、より危険度が高いのはどちらなのだろうか。

 

 

「ブ……モオオオオオオオウッ!!」

 

 

 まずは眼前。身長2mほど、手には武骨な両手持ちのハンマー。黒褐色の毛皮に包まれているのは筋骨隆々の肢体。

 そんな見惚れんばかりの肉体美の頭部は、あろうことか人類のそれではない。短い角と金属製の鼻輪の付けられた頭部は霊長類の丸みを帯びたシルエットではなく、顎と鼻が前に大きく突き出しのっぺりとした印象を与える獣頭。首の上で地を揺らさんばかりのいななきを上げるのは牛に似通ったものだ。

 間違いなく現実の存在を超えたそれは、《レッサートーラス・ストライカー》なる名を与えられた怪物だった。

 

 そして後者──

 

 

 

「こっち来ないでって…言ってるでしょ!!この変態!!!!」

 

 

 

 光をよく吸い込む、大きくぱっちりとしたはしばみ色の瞳。今はちょっと血走るくらいに見開かれてるが。

 たなびかせるのはきめ細かく流れる、絹糸の如き栗色の髪。絶叫と共に振り乱されたそれを僕は魔獣のタテガミに見間違えた。

 薄い桜色の唇から紡がれるのは、他者を否応なく意識させるソプラノ。現在出力されているのは普段より3オクターブくらい上がった高周波なのが残念。

 

 そんな同じホモサピエンスの異性から見ても容姿は魅力的なパーティーメンバー、アスナさん。

 

 

 さて。

 このような見るからにヤベー怪物と、見た目はめちゃくちゃイケてる美少女。どちらの方が危険か。

 

 答えは簡単、前者を故人(?)に変えたヤベー女の方。ただいま先手を取って削った僕の背後から飛び込み、絶叫と共にミノタウロスもどきを刺殺した直後だ。流れるような単発突きから追撃の二連突き全てを心臓の辺りにブチ込む殺意の高さに震える。

 このように多少見てくれが良くても中身がヤベー場合が存在する為、視覚だけに頼って脅威判定するのは得策ではない。シチュエーションや相手の現在の状況、実際にやった所業など総合的な判断を下すべきだ。

 

 だから僕がビビッて腰抜かしたのは必然である。僕は悪くない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 キバオウ達によるフィールドボス討伐に乗じ、僕ら4人はそそくさと迷宮区のある南エリアへと進入した。高さ約10m、前一面を鼠返し構造にされた『絶対によじ登らせない』という開発陣の無言の訴えを感じる岩壁の境界線を越え、恐らくは全プレイヤー中で最も早く踏み込んだそこは、今までの牧草地帯から打って変わって密林状のフィールドだった。

 テーブルマウンテンによって高度差が生まれる構造はそのまま、植生は柔らかな草花からツタの絡みついた立派な木々に。砂色の大地も所々ぬかるんだ湿地に変更されている。その上で地表の高度自体が北側から一段以上下がっている為か、ところどころに霧の塊が出来上がってフィールド全体の視認性の低下にこれでもかと作用していた。

 

 大まかな道筋の確認中、エリア最奥に見える迷宮区のシルエットでアスナも察したらしい。どこか諦めたようなため息が漏れ出ている。

 

 

「さっきのフィールドボスで牛は打ち止めじゃないのね……」

 

 

 1層迷宮区タワーは外壁部に何の飾りも突起もない灰色の墓標を思わせる簡素なデザインだった。2層迷宮区もタワー状の構造こそ同じだが、こちらは外壁部に柱やくり貫き窓のように見える造形が盛り込まれている。実物を見たことはないがどこか円形闘技場(コロッセオ)を想起させるデザインだ。

 

 フロアテーマごとの特色と言うやつか、と思いながら視線を上部に滑らせると、先ほどアスナが注視したであろうツノのような装飾へと辿り着いた。と言うか、角どころかでけー牛の頭が付いていた。洋館とかで壁からにょっきり生えてる動物の首みたいに。

 フィールドエネミーの配置や各種クエストなどの匂わせ程度なのかと思っていたが、驚くくらい本丸の自己主張が強い。焼肉屋でもここまで牛アピールしないだろ。

 

 

「甘い甘い。寧ろ2層のモーモー天国はこっからが本番だ。……まぁこの先の連中はあんまウマそうじゃないけどな。ウ」

 

「『ウシだけに』、とか言ったらストレアにきつめのデコピンさせるからな」

 

「えー、アタシがやるの?カーソル変わっちゃいそうだから嫌なんだけど」

 

「未遂だから許してください……俺も犯罪防止(アンチ・クリミナル)コード貫通する威力のデコピンは食らいたくない…!」

 

 

 こんなクソしょうもない会話をしているが道中は安全そのものだった。マップ構造を丸暗記している廃ゲーマーと、接敵しそうになってもパーティー全体に《隠蔽》を掛けられる歩くステ○ス迷彩が居るおかげである。

 

 まぁ楽できる反面、ストレアを頼れば頼るほど奴のスキル熟練度が上昇するという特大の弊害が存在するのだが。そろそろ300の大台に乗るとか言ってるのが聞こえて震えが止まらない。

 最近僕が呼吸音や足音で判別してるとバレたせいで、視認性よりも静穏性優先してスキルツリー伸ばしてるらしく見つけづらいことこの上ない。プライバシー侵害能力を向上させるのやめてほしい。

 

 

 

 そうして多少の不満と共に迷宮区タワー前にやって来たのが10:30頃。目の前まで歩いてきたからか、霧の裂け目から覗いていた荘厳な外観もはっきりとしてきた。

 なお、いい感じの取っ掛かりのある外壁なのだが、よじ登ると一定高度で弾かれて落下死するとはキリトの談だ。死なないからってβでそんなこと試したのかコイツ。アホだろ。

 

 

「……今更だけどこんな場所に本当に牛が居るの?牧草地帯で普通の、密林で水牛っぽいのが出るのは分かるけど、この先どう見ても屋内じゃない」

 

「まぁまぁそう言わずに。1階には出てこない奴だからパパっと宝箱漁ろうぜ」

 

「なんか含みがあるわね……」

 

 

 ぶつくさ言いつつも大人しくキリトの誘導に従うのは信頼故か。隣のストレアも似たような苦笑を浮かべている。

 

 さて、キリトは何やらサプライズ予定のようだが、一般ゲーマーの僕としてはこの先に出てくるクリーチャーデザインに心当たりがある。フロアテーマに沿いつつ、この『迷宮』区にぴったりの奴を。

 他タイトルの傾向からして間違いなくパワーファイターなので正面戦闘したくないなー、と若干げんなりしつつ宝箱全取りの旅を終えて2階へ。

 僕がレーダー役として先行する都合、後ろの3人は非接敵時は大変お暇らしい。何やら頭の悪い会話をしていた。

 

 

「この並び、オセロだったらキリトがキリ子になってたのになぁ」

 

「人類はそんな簡単に性別変わらないのよストレアさん」

 

「俺ひょっとしてクマノミかなんかだと思われてる?」

 

「きみの場合、色合い的にファイ○ィング・○モじゃなくてス○ミーよ」

 

「魚なのは確定なのか……」

 

 

 はさみ将棋なら死んでたのに、とか言わない当たり当パーティーの女子組は民度が高い。

 茶々に反応していたキリトが次の瞬間、急に真面目な顔で静止の合図を出した。自然と全員が息を潜め、僕の耳も奥から荒い息遣いの音を捉えている。

 

 

「──この先に居る奴がフロアボスと同じ攻撃パターンの敵だ。おさらいだけど、要注意攻撃は《ナミング・インパクト》。Mobの専用スキルで、食らうと転倒(タンブル)気絶(スタン)麻痺(パラライズ)の状態異常判定がある。攻撃そのものだけじゃなく、床を叩いた時に出る衝撃波のエフェクトにも判定があるから注意してくれ。始動モーションは両手持ちハンマーを右手だけで頭上に振り上げるから、間合いと相手の武器の握りに注視するように」

「了解」「は~い♪」

「音の響きからしてそこそこ広い部屋だね……。奇襲はいつものでいい?」

 

 

 キリトが頷き返したので、左手でホルスターからスローイングダガーを引き抜く。便利なストレアの《隠蔽》だが遮蔽物を利用して周囲に溶け込むので、解放空間で先手を取るのには向かない。こういう時こそ僕の《投剣》の本領発揮と言える。

 

 

「見えてきたよ。ホルンのタイミングでいいからね」

「んじゃお言葉に甘えて」

 

「……ん?ハンマー?それに人型?牛じゃないの?」

「アスナどうした?」

 

 

 暗闇の奥でゆらりと揺れる影が一つ。ズッ、ズッと重量感ある武器を引きずる音と共に、音の発生源を注視するとシルエットが浮かび上がって来た。

 やはりと言うかRPGの大定番、ミノタウロスが姿を現す。

 

 ギリシャ神話の怪物ミノタウロス。それはミノス王が神の怒りを買った結果生まれた牛頭人身の化け物。クレタ島の地下迷宮【ラビリントス】に幽閉され、英雄テセウスに討ち取られて生涯を終えた悲しきモンスター。

 神との接し方を誤った人類の愚かさが生み出した怪物というのはそれなりにあるが、その生息域が『迷宮』であり、『英雄によって倒される』というテンプレなストーリーのおかげかRPGジャンルでは採用率が高い。

 

 本家ミノタウロスは固有名詞なのだがゲームではこうした牛の頭が付いた人型エネミーの総称が『ミノタウロス』になりがちだ。見た目は多少の差異があるものの、マッシブなデザインになることが多く、装備武器も両手持ちの斧やハンマーなど力強いイメージを与えるものが多い。

 デザインからしてそうだが耐久力と膂力に優れる反面、機動力などに難がある典型的近距離タイプ。なので対策手段としては遠距離攻撃でチクチクするか、あるいは相手の攻撃をいなしてから一気に削るのがセオリーになる。

 SAOでは遠距離アプローチの出来る《投剣》がカス火力なのでこれはあくまで牽制。先手を取って相手の意識を僕に集めつつ、他三人に一気に火力を……

 

 

「嫌あああぁぁぁぁぁ!!変質者あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

 ……という段取りは、先方の詳細な姿を視認してしまったアスナの絶叫によってとん挫した。

 キリトはつんのめったせいで相手の索敵圏内に引っ掛かり。

 声に驚いたストレアが誤って《隠蔽》を解除し。

 僕の左手があらぬ方向にダガーの大暴投を決める。

 

 結果。

 

 

「ブフルルル……ブモオオオオオオオウッ!!」

 

 

「「「アスナぁ!!」」」

 

「だ、だってあんなのほぼ全裸よ!?腰にちょこっと布巻いてるだけよ!?びっくりしちゃってもしょうがないじゃない!!」

 

 

 亜人系モンスターなんて大体雑に布撒いてる程度の方が多いだろうに。温室育ちのお嬢様は一般教養しかないせいで耐性がカスだった。妙なところでまともなパンピーはこれだから困る。ストレアを見習え。同じ女でも頭のネジぶっ飛んでるせいでこの程度じゃ悲鳴一つ上げないぞ。僕的にはもう少しネジはまっててほしいものだが。

 

 ままならない事態に舌打ちしつつとりあえず先行する。火力貢献の出来ない僕が下がってても意味はない、今はキリトからミノもどきのヘイトを引き剥がす。

 牽制で再度放ったダガーが右肩に浅く刺さり、牛頭がこちらに血走った目を向けた。

 駆け寄りながら確認するのは相手の武器の握り方。両手でしっかり握ったまま振りかぶっている。警戒するよう言われた特殊スキルではないだろう。あとは恐らく縦振りで飛んでくるだろう攻撃を躱して反撃。完璧なプランだ…!

 

 

「気を付けてホルン!その子ハンマーだけどモーションは(メイス)じゃなくて(アックス)なの!」

 

「なん…ッ!?」

 

 

 ストレアの警告が飛んだ直後、振り上げに移行するかに思われた武器の挙動が横スイングの角度で止まった。やべぇ完全に予定よりワンテンポ早い。プラン崩壊したんだけど。そういうのは先に言えよ。

 間一髪上半身を反らし横薙ぎの一撃を避ける。槌頭が鈍い風切り音を立てながら振るわれ、半瞬前まで僕のご尊顔のあった空間が抉られた。

 そのまま倒れていくこちらを追うよう動いた視線が、急に真上に向けて跳ね上がった。

 

 まぁ僕が原因なのだが。

 

 

「……っぶねぇ、なァ!!」

 

「グオゥッ!?」

 

 

 倒れ際に繰り出した単発蹴り上げ技、《弦月(ゲンゲツ)》が牛頭の下顎をカチ上げる。仰向けに倒れそうな状況でも繰り出せるこの技は、僕があの山籠もり修行で得た《体術》スキルの練習に当たって最も多用したと言っていいものだ。

 ある程度のガバを踏み倒せる矯正力、相手の意識外であろう足元から強襲するモーション、更に《投剣》の為に空けた左手を使わないと本当に優秀。特に単体での戦闘力が低い僕はこれを使って誤魔化さないとやってられない場面が多いくらいである。

 その上でもう一つ、《体術》スキルには絶大なアドバンテージが存在した。

 

 現実では絶対できないであろう華麗なサマーソルトキックを決めたそのまま、僕の足が着地と同時に前に吶喊する。本来あるはずの技後硬直(ポストモーション)を新たに発動したスキルが強制解除。右肩に担いだ曲刀の刃が光りを放つ。

 

 

「せぇー、のッ!」

 

 

 通常であればソードスキルは発動後にディレイを課せられ使用者を硬直させる。このせいでソードスキルからソードスキルに繋ぐという作業は、『前に撃ったソードスキルの硬直が解けた後』でなければ成立しない。コンボしようとしても必ず一瞬隙が生まれるよう設計されていた。

 フロアボスの見せたコンボでさえ、ディアベルを空中に撥ね上げ、反撃の手段を奪ってからゆっくりと次なる剣技を放つものだった。これがこの世界の全ての剣士に平等に押し付けられたルールなのだ。

 

 しかし例外的に。()()()()()()()()()()()()()()に限り、この制約は破壊される。

 武器スキルは右手に装備したメイン装備に準拠し、仮に左手に異なる種類の武器を装備してもエラーメッセージが返されるだけで起動はできない。が、素手で起動できるという特性上、《体術》はこの仕様を無視できるのだ。

 ソードスキルとソードスキルを繋ぐ最高のコンボパーツ、これが僕発案・キリト検証で編み出した《体術》活用スキルコンボ理論──《スキルコネクト》だった。

 

 単発突進斬り《リーバー》が発動。相手の左肩から右わき腹まで袈裟斬りが抜け、赤いダメージエフェクトを刻む。

 更に踏み込んだ右脚を軸に、左脚を身体を前に投げ出す勢いを利用して蹴り抜く。今度は《体術》スキル裏回し蹴り《乱月(ランゲツ)》が起動、二発のスキルで仰け反っていた怪物のみぞおちを捉える。

 まだ足りない。ゲージの減り方からそう判断し、蹄*1で床を削りながらノックバックした怪物目掛けて更なる追撃を敢行。脳の奥でチリチリと火花が散る感覚をねじ伏せ、とっておきのソードスキルを使用する。

 

 

「とっとと(たお)れろ、偶蹄類が!!」

 

 

 《曲刀》スキル三連回転斬り《トレブル・サイズ》。身体全体をコマのように回転させながら切り刻む、最近習得したばかりの大技だ。マゼンタのライトエフェクトを纏った刃が三度、《リーバー》の刻んだ切創(ダメージエフェクト)をなぞった。

 

 

「ブモオオオオオオッ!?」

 

 

 苦悶の悲鳴を上げるミノタウロスもどきとゴリっと減っていくHPゲージを前に、僕は顔を伏せながら残心を取った。

 キマった、完璧な必殺技コンボ。初手コケそうになってただろとか言う文句は受け付けない。結果が全てである。

 

 ほくそ笑みそうになるが割とギリギリだった。何せソードスキルはモーションの大きなものほど高火力な反面、発動から終了まで長時間動けなくなるという、ハイ○ロカノンみたいなものなのだ。ハイドロ○ンプであってくれればどれだけ良かったことか。

 だから仲間のフォローがもらえる時とか、削り切れるという確信のある時くらいしか出番がない、秘密にされ過ぎて日の目を浴びない秘密兵器じみた印象がある。正直覚えてから一度も使う機会に恵まれなかった大技なのでブッパできて最高に気持t

 

 

「ホルンまだだ!避けろ!!」

 

「何言ってんすかキリトちゃんや。今の見てたろ、僕が華麗にスキル四連撃──」

 

 

 決めたところを。そう言い返しつつ視線を戻すと、そこにはいまだ健在のミノタウロスもどき。ガン見してたのか目が合った。

 ちょっと視線を逸らすと、イエローゾーンの(4割ほど残った)HPゲージが見えた。4 割 ほ ど 残 っ た H P ゲ ー ジ が 。

 僕の頬を汗が伝う。

 

 

(うせやん…ソードスキル4発よ?ソードスキル4発撃って6割くらいしか削れてないの……?マジで言ってます???)

 

 

 僕の攻撃力が貧弱なのを差し引いても敵のステータス向上量おかしくないだろうか。もっと削れていいだろ。

 それともあれか、アスナの一件を見て武器強化を渋ってそのまま来たのがダメだったのか。

 

 ともかく回避を、と思ったのだが身体が全く動かない。撃ち終わりから3秒くらい経ってるし、もうスキル硬直無いはずなんだけど。

 そんな僕の目の前で怪物がいななきながら武器を振り上げていた。このままだとノーガードで頭行かれる。絶対たんこぶで済まない一撃行かれる!

 

 

「……ないで…!」

「……ナ!?ちょ……ついて」

 

(ヤバい。ヤバいヤバいヤバい!ヤババババババババババ!!?)

 

 

「ブ……モオオオオオオオウッ!!」

 

 

 ズシン、ズシンと床を蹴る重い足音。一歩一歩近づくなんて生易しいものではなく全力疾走で近寄ってくる。

 ああ、短い人生だったなぁ……とアイルビーバックきめてきた死神を静かに受け入れそうになった、その瞬間。

 

 

 

「こっち来ないでって…言ってるでしょ!!この変態!!!!」

 

 

 

 死神は大声を上げながら僕を追い抜いていった。

 

 以上、冒頭に至る。

 

 

 

 

 

 アスナは一瞬で残る4割のHPを消し飛ばすと、肩で息をしながら構えを解いた。僕はそんな彼女の背を見ながら荒ぶる心拍を落ち着けるのに精いっぱいだった。

 ときめき?否、そこの血染めの赤ずきんへの恐怖から。

 身動きできないタイミングで真横を絶叫上げながら走り抜けていく怪異怖すぎるんだけど。つか僕のソードスキル2回より絶対こいつの2回の方が殺傷力高い。僕要る?

 

 

「はぁ…はぁ……!信っっっじられない、破廉恥!最低!出るとこ出るわよ!?」

 

「え?うん。アスナは出るとこ出てると思うよ。ちょっと細すぎな気もするけど」

 

「そういう話じゃないの!キリトくんもその目は何!?」

 

 

 ストレアの発言のせいかアスナのことを頭からつま先まで眺めてしまったせいで噛み付かれていた。思春期とは恐ろしいものだ、どれだけ危険生物でも見た目が魅力的だと視線が吸い寄せられるのだから。

 

 

「あー、気のせいだと思いますヨー。……ホルン大丈夫か」

 

「心臓飛び出るかと思った」

 

 

 寿命が縮む音が聞こえた気がする。キュッ、とかそんな感じじゃなくてキュルキュルって掃除機のコードを巻き取るような奴。ゴッソリ持ってかれた感覚がした。僕が早死するとしたら今日のアスナのせいだ。

 

 恨み節を飲み込みながら立ち上がると、若干落ち着きはしたが未だ納得がいっていないらしいアスナにキリトが対応しているところだった。やれネトゲに於いてミノを『牛』と呼ぶのは定番だとか、8割がた人型なのだから牛呼びは不適切だとか、そもそもミノス王は死後冥界で裁判官になったのだからミノ呼びは如何なものかなど、真面目腐った顔でしょうもない言い合いをしている。

 呆れるほど元気な二名を眺めていると暇らしいストレアがこちらに来た。

 

 

「ホルンあんなに動けたんだねー。さっきのが『山籠もりの成果』?」

 

「まぁね。エクストラスキル《体術》。使い勝手はいいけど出しどころ気にしないとダメだなぁ、コレ。意外と難しいわ」

 

「大丈夫だよ。ホルンの分もアタシが火力出すから♪だから次は頼ってね」

 

「いやせっかくだし僕の火力「頼ってね?」ハイ」

 

 

 おかしい、なんか謎に圧を掛けてくるのだが。何が気に入らないと言うんだ。僕が火力貢献の手段手に入れたことそのものだったりする?こいつはこいつでよく分からない生き物だ。

 なおキリトは猛獣(アスナ)を宥め終わったらしく、あちらでスキルコネクトを披露し…………オイ何しれっと五連スキルやってんだお前。発案者がまだできてないんだぞソレ。マジで泣くぞ。

 

 

「こんな感じ…って違う違う。ミノ狩り…じゃなかったトーラス狩りに来てるんだった」

 

「もうミノでいいわよ……。とりあえず、見た目はこの際目をつぶることにしたから次の奴行きましょう」

 

「アスナが暴走しなけりゃ普通に狩ってたじゃん……」

 

「つ、次は大丈夫だから!」

 

 

 ほんとかなぁ、という生暖かい視線×3の集中砲火に晒され、アスナは真っ赤になって黙り込んでしまった。自覚はあるようだ。

 

 

「とりあえず、次の子はアタシとホルンで《ナミング》見せるまで引きつけるから。キリトはアスナにしっかり説明してあげてね」

 

「了解」「お手数おかけします……」

 

「次はギリギリでアドバイス飛ばすとかやめろよ」

 

 

 はーい♪という軽い返事に不安しか感じない。いつぞやの狼狩りを思い出した。マジで僕の生殺与奪を握ってることを自覚してほしいんだけど。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 最終的に合計9体ほどのミノ……もといトーラス族を討伐し、僕らはその足で迷宮区を後にした。松明が明かりと熱源になっていた迷宮区と違い、薄く夕日の差し始めた外は肌寒い。12月の気温のせいか息も僅かに白く見える。

 

 

「んん~~~、出れたぁ!外寒いなー…ホルン、コートの中入れて~」

 

「嫌だ。一人用だしそもそもこれ防寒具じゃ……おい何でにじり寄ってくる」

 

 

 僕はうっすら疲労を感じているのにこの変態は元気そのものだった。道中基本的に《隠蔽》撒き続けてたはずなのだが。仲間としてはバイタリティ溢れて頼りになるが、ストーキング被害者的にはもう少しナーフされててほしい所存。

 ストレアの突進を頭を押さえて止めていると、キリトとアスナが物憂げな顔で空を見上げているのが目に入った。何か面白いものでもあるのか見てみたが、代わり映えの無い3層の底面が広がっているだけだ。

 

 

「……今日が12月9日。ゲームの外はそろそろ冬ね」

 

「前にネットの記事かなんかで、SAO(こっち)も層次第で現実の季節を再現してるってあったな。上に行ったら雪が見れるかもな」

 

「この空のような何かから、どういうメカニズムで雪が降るのかは甚だ疑問だけど。まぁでも、私たちはこっちでクリスマスを過ごすことになるでしょうね」

 

 

(雪、か)

 

 

 最後に視たのはいつだっただろうか。間違いなく5年以上前、それも昔から出不精だった僕にとって、意識して雪を視界に捉えたのは忘却の彼方だった。

 元々寒いし滑るし食べたら腹壊すし……とくだらない理由で敵視していたが、視力が弱くなってからは一層嫌いになったように思う。何せそれらの特徴そのまま見えなくなったせいで対処できなくなったのだから。

 道の形は不明瞭になり、反射光が輪郭すらまともに把握できない網膜を焼き、たまに思い出したように鼻や口に飛び込んでくる。挙句音もよく吸い込むので耳頼りの生活すら阻害されるときた。

 

 雪は嫌いだ。何の解決策にもならないのに、あの灰色の空を睨みつけたくなるくらいに。

 

 ただ、それでも。

 

 

 

「クリスマスまであと15日かぁ。じゃあさ、ここのみんなでパーティーしない?プレゼント交換したり、ケーキ食べたり♪」

 

 

「15日後はイブよストレアさん。……でもそうね、攻略に余裕がありそうなら、それもいいかもね」

 

 

「じゃあそれまでに雪の見れる層まで行こうぜ。な、ホルン」

 

 

 この愉快な仲間たちと居る間くらいは、雪を好きになれるようになりたいなと。

 そう思ったのは気の迷いじゃないはずだ。多分。

 

 

「……僕は雪よりコタツが欲しいかな」

 

「気持ちは分かるけど無い方がありがたいな。絶対ホルン以外もコタツから抜け出せなくなる」

 

「暖房器具が原因で攻略が滞るとかあってほしくないわね……。ところで、プレゼント交換って言ってたけど、何か当てはあるの?」

 

「ふっふーん♪実はアタシ、さっき迷宮区でいいもの手に入れたんだ~」

 

 

 自信満々にストレアが何かを取り出した。……いやほんとに何なんだコレ。ヒモ…と言うか、帯?ともかく用途不明のアイテムだ。

 困惑する僕やアスナと違い、キリトはこれを知っているらしい。微妙に困ったような反応なのが気になるが。

 

 

「《マイティ・ストラップ・オブ・レザー》……宝箱(ボックス)ドロップだよなそれ。俺の方来なかったけどそうか、ストレアがゲットしてたのか」

 

「ストレアさんの持ってるのレアアイテムなの?」

 

「能力補正付きのそこそこ硬い防具……なんだけど。着ると上半身があの帯で要所を隠してるだけ、みたいな見た目になる。しかも重ね着不可」

 

「防御力に説得力が無いんだけど!?って言うかそれじゃあのトーラスと同レベルじゃない!」

 

「H○T LIMITかよ」

 

「ホルンはどう?ステータスの補完もできるし、きっと似合うよ~」

 

「眼科に行け」

 

 

 デザインが前衛的すぎる。しかも今12月よ?そんなバカみたいな露出の装備着れるわけねぇだろ気温考えろ。

 

 

「キリトは?なんかあんの」

 

「あー……俺もさっき、リングハーラー倒した時にチャクラム落ちたから、それ出そうかなって。まぁ装備条件を満たしていません、とか言われて使えなかったんだけど」

 

「ハー○オフに売ってる用途不明のゴミと同レベル」

 

「ホルンどう?使う?」

 

「装備できるか怪しいものを押し付けるな」

 

 

 なんかさっきから使い物にならなさそうなブツしか出てこない。これプレゼント交換会の皮を被ったゴミの押し付け合いにしかならないのでは?僕は訝しんだ。

 頼みの綱は最後のパーティーメンバーであるアスナ一人。似たようなこと考えてるのか、ゴミを出品した分際でストレアとキリトも彼女の方に期待のまなざしを向けていた。やめろよそうやって無意味に圧かけるの。居た堪れないだろ。

 

 

「え…………っと、その…手作りハンカチ……とか…?」

 

「無難 of 無難」

 

「な、何よ!?そこの二人みたいに変なもの用意すればいいって言うの!!?」

 

 

 煽りはしたが正直普通に需要がある。そうだよ僕のハンカチ未だにストレアに借りパクされたまんまじゃねぇか。いつになったら戻ってくるんだ。

 

 

「そういうホルンは何出すんだよ」

 

「腐り牛乳一択」

 

「「「ゴミじゃねぇか(じゃん)(じゃないの)!」」」

 

「仕方ないだろ!?あれNPCショップにすら買取拒否されてるから捨てられないんだよ!こういう時に押し付けでもしないとずっと僕のストレージで不発弾になるじゃねぇか!!あとアスナは自分が用意したブツだってこと棚に上げるな!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 大騒ぎしたせいで周囲の敵のタゲを集めかけたのが20分ほど前。ようやく帰路に就いた僕らは密林に敷かれた石畳の道を歩き、最前線となった《タラン》の村まで戻ってきていた。

 圏内入場のいつもの演出と共にHP表示が視界から消え、無駄に溜まった疲労を誤魔化すよう全員で一息。

 

 午前中にフィールドボスが倒されたおかげか、半日前とは違って随分人の行き来が激しくなっている。キリトが手慣れた仕草で黒コートの除装と……変装用らしいダサいバンダナを被り出す。クラインの真似なのだろうか。

 奴のファッションセンスに若干思うところはあるが、僕もキリトも人目は避けた方がいい人種だ。彼に倣うよう、レインコートのフードを目深に被る。

 

 アスナも同様に赤ずきんスタイルに戻って……と流れで横を見ると、今まで変装一つしなかったストレアが、色こそ違うがアスナのものと似たケープを羽織っていた。

 驚いている気配が伝わったのか、フードの奥から紅玉色の瞳が自慢げに見つめ返してくる。

 

 

「…………何その表情」

 

「ふっふーん♪ホルンがキリトとお揃いにしてたから、アタシはアスナとお揃いにしたもんね~。羨ましいでしょ~?」

 

「鬱陶しい」

 

「鬱陶しい!?」

 

 

 言いはするが正直ちょっと安心した。僕らが真面目に変装してるのにコイツ一人だけ普段通りの格好されたら目立って仕方ない。……いやどうだろう、ここ僕含めてフード被ってるの三人いるし普通に怪しいか…?

 唐突に不安になってきたが女子二人は顔面偏差値バグ族のせいでフードしか手がない。ということはだ。不審者濃度を少しでも下げる為には、僕がキリトのようなフード以外の変装をする側に回るしかないわけで。

 

 

「なんだよその視線」

 

「……お前と同レベルの変装するの嫌だなーって」

 

「急にディスられた!?アスナにもこのバンダナ似合わないとか言われたけどそんなダメか…?」

 

 

 逆になんでその青と黄色の縞々バンダナでイケると思ってるんだお前は。目立たない為の変装だろ。舐めてんのか。

 

 そんな意思を込めて睨むとキリトはしょぼくれた顔で引き下がった。危機意識があるのかないのか分からん奴である。

 ただ正直ストレアとアスナも目立たないようにする気があるのか不明だった。よく見ればこの二人のケープ、フードや裾の辺りに色違いの糸で花だかツル草だか分からない刺しゅうでデコレーションされていた。強めの魔法使いとかが着てそうな感じの豪奢な奴になってる。

 

 

「ホルンくん意外と気付くものね。そうよ、これ《裁縫》スキルで新しく縫い込んだの。糸とか縫い合わせる素材次第でステータスアップもするそうよ」

 

「最近アタシも取って練習してるんだ~♪あ、昨日のアスナの下着もスキル練習で「ストレアさん」おっけー、お口チャックするね

 

「……そっちの二人。早急に忘れなさい。いい?」

 

「「イエス、マム」」

 

 

 あの下着の山はそういう訳だったらしい。まぁそれにしても作り過ぎなようにも思うが。

 しかし聞いた感じ戦闘や攻略に役立つタイプではなく、キリトの言うMMOの生産職向けのスキルのような。ストレアはともかく、アスナは序盤のスキル構成はガチガチの理論値組みすると思っていた。

 そう問いかけると、彼女は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。対照的にストレアの機嫌が良さそうなのが解せない。

 

 

「アスナねー、ホルンのハンカチ見てこのスキル取るの決めたんだってさ~」

 

「……いいじゃない、別に。ちょっとこういう、心に余裕が出来そうな小物作りに使えると思ったから取っただけよ」

 

「心の余裕、か。確かにほっといても消える汚れエフェクトを消す為のハンカチなんて、こう言うとあれだけど、必要性はないアイテムだ。ぶっちゃけ開発側もなんとなく実装した程度だろうな」

 

「でも、その程度のアイテムだからこそ。なんてことない時に……その、日常を見れる気がして。私はちょっと、そういう余裕が必要かなって」

 

 

 僕にとってもそんな大したアイテムじゃないんだけど、と言い出しづらい空気だ。幼馴染に散々言われ、なんか習慣になってるから持ち歩いていただけ。今の生活に慣れてしまえばこうして無くなってもさほど困ってはいない。若干落ち着かない気がするが誤差の範囲だ。アスナの言うような理由は特に無い。

 ……無いのだがこう、なんかこそばゆい気分になる。僕が思ってる以上にコイツらが僕のことを見て知ろうとしているのだと聞かされてるようで。

 

 

「あ、ホルン照れてる~」

 

「照れてない」

 

「嘘だぁ」

 

 

 嘘じゃない。別ににやけそうになってるとかない。だからこっち覗き込みに──

 

 

 

 

──カン…カン……

 

 

 

 

「………………………………へぇ」

 

 

 喧騒に紛れて聞こえた、その音で。僕らは一瞬で意識を現実へと叩き返された。和気あいあいとしていた空気が一転、アスナを中心に極低温へと変わり果てる。

 音源を辿ると、人込みに紛れて見覚えのある小柄な鍛冶屋が営業していた。昨晩キリトに見抜かれたばかりの《強化詐欺師》──ネズハが。

 

 見間違えであってほしかったなぁ、という叶わない願いと共に静かに移動。広場端に位置する柱の陰から奴を見るアスナの目は、彼女の剣よろしく殺傷力を伴った鋭利な光を帯びて見えた。

 

 

「……アスナ。心の余裕必要なんだろ?一旦ビー・クールな。オーケー?」

 

「大丈夫よホルンくん──今必要なくなったわ」

 

 

 あ、これダメなパターンですね()

 

 念の為残る二人に視線を送ってみたが、どちらもサッと目を逸らすばかりだった。薄情な奴らである。

 

 

 アスナの背後にめらめらと燃える炎を幻視しつつ。

 

 僕は雪より先に血の雨が降りそうだな、なんて不謹慎な現実逃避に浸るのだった。

 

 

 

 

 

*1
脚が牛のタイプだった




ホルン:2層上がって早々アスナを煽ったせいで腐り牛乳を飲まされたらしい。なおマズ過ぎて記憶は飛んだし、アルゴにインディー○ョーンズさせられたせいで普通に吐いてる

キリト:自分が使えないレアアイテムを入手したせいでちょっともやっている。なんとなくホルンが使えそうな気がしてるが、与えたら致命的にバグキャラ化しそうで悩む

アスナ:何気に友達と過ごすクリスマスが楽しみ。それはそうと静かな怒りに抜刀妻の片鱗が見え隠れしている

ストレア:割りと真面目にホルンにH○T LIMITさせるつもりでいる。流石に露出がえぐいので自分で着る気にはなれなかった。なれなかった理由はまだちょっと理解できてない




[Next Episode.『同族嫌悪』]



2026/03/10追記 秋ウサギニキ誤字報告カンシャ~_(:3 」∠)_
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