VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで 作:クソ煮込みうどん
やっぱポン刀振り回すキャラ最高やんな。
なんかうまいこと文がまとまらなかったので2話に分けます。
2024/12/22 度々すいません、やっぱ3話にします。プロットオリチャーしすぎてまとまらん()
目は口程に物を言うらしい。
「……もうお前ゲームできないじゃん。一緒に遊んでもつまらないよ」
「一緒に遊べないし、もう友達やる意味ねーな」
「そうだ、あのゲームくれよ。もうお前あれ遊べないからいいだろ?弟も欲しがってたんだ」
嘘だと思う。視線で誰かに傷つけられたことはない。
いつだって僕を臆病にさせたのは、誰かの心ない言葉だった。
顔色を窺えば相手が分かるらしい。
「……でさ、あの目無し男がさ!」
「くすくすくす」
「ちょっと優しくされたくらいでその気になっちゃうなんて、なんかかわいそうだよね」
欺瞞だろう。顔なんて見なくても席を離すだけで本心なんて確認できる。
人は表情も声も取り繕う。特に、本人の目の前では。
あと僕は別に目が無いわけではない。まだちゃんと付いてる。視力が極端に悪くなっているだけだ。
顔向けできないという言葉がある。申し訳なくて相手の顔が見れないことを指すそうだ。
「ごめんなさい…私が、わたしのせいで……!」
そんな悲しいことしないでほしい。僕はキミの顔結構好きだったんだぞ。キミの前でカッコつけたかっただけだ。名誉の負傷だ、気になんかしていない。
だからもう一度、笑ってほしかった。その表情が分からなくても。
そうやって内心を燻らせ、不幸自慢と自己陶酔に浸る残念な生活が続いたのが約5年。15の秋にもなれば流石の僕でも現実というものが見えてくる。
進路相談で頭を悩ませる傍ら、僕こと
視力障害二級。全く見えないわけではないが、日常生活に支障をきたす程度、という区分。僕の目はここに該当しているそうだ。
当たり前のことだが人の生活において視覚情報が占める割合は多い。
物の位置や形状、色や移動の有無やその速度、など身の安全を確保するためだけでも最低限この量の確認を行うし、文字や絵・グラフの内容といった単純に情報社会に身を置くうえで処理しなければならないものも大体が視覚情報を有している前提で成り立っている。そしてそういう『あって当たり前の物』が欠けている、というのは大きなハンデだった。
福祉や医療が発達しようと限界はあるし、それでも補いきれない存在とはどうしても出てくる。だからこうして事前にどういう問題を抱えてるか申告することを求められるのだが、先方からは色よい返事が来ない。数えて3校、進学候補が消えたのを確認していた。
社会が如何に自身に優しくないか噛みしめるたびに、視力が弱くなってからやや強く当たるようになってしまった両親への罪悪感が積もる。
思えば中二病を変な方向に発症させていたんだと思う。両親はこんな欠陥品の目になった僕のことも気にかけてくれるし、治療や進路先を探すことにも積極的でこちらを支えようとしてくれていた。
それが如何に得難いか、今感じている。
「……なんて言って謝ろう」
『ごめんなさい』なのは確定だろう。流石に肉親に向けて『申し訳ありません』は距離があるし『すみません』もやや硬い。
しかし続く言葉が決まらない。
『迷惑かけて』が無難だろうか。『心配かけて』は違う気がする。『生まれてきて』……は流石に怒られそうだから却下。それに自分自身そこまで腐ってないつもりだ。候補に出てきたので怪しくはあるだろうが。
昔は特に何も考えずにコミュニケーションが取れていたつもりだが、自分が引いた溝の深さのせいで言葉選びも及び腰になっている気がする。
あーでもない、こーでもないと頭を悩ませていると、不意に部屋のドアをノックされた。
「怜佳、聞こえる?お父さんが話があるって。下まで降りてきてちょうだい」
扉越しの為かややくぐもった声。母はそれだけ告げると、こちらの返事を確認するでもなくパタパタとスリッパを鳴らしながら降りて行ってしまった。
「……うん。今行くよ」
時刻は14時。洗濯物の片づけや夕飯の買い出しなどもあるだろうに、わざわざ呼びに来てくれたのはひとえに母の優しさだろうか。
決めた。降りたら今日、謝ろう。
言葉は続かないかもしれないけど、適切なものではないかもしれないけど。多分、今日を逃すと後悔する気がする。
善は急げとばかりに立ち上がるが、この先がなかなか難しい。常に霧の中にいるように視界がぼやける僕の目では、室内の移動一つでも割と苦労するのだ。
脛や小指をぶつけることなんてしょっちゅうあるし、痛みに耐えかねて転ぶと起き上がるために掴めるものを探すために這いずることもある。今回は机の周辺を整頓して置いたおかげで転ばずに済んだ。
えっちらおっちらと、机や壁に設置してもらった手すりを頼りに部屋を出る。
廊下を壁伝いに歩き、一歩一歩踏みしめるように階段を下りれば、リビングの方角からぼんやりと明るくなっているのを感じた。
……今更だが寝癖とか服装の乱れくらい気にしてから部屋を出るべきだったか。しかし降りてきてるのはあちらもわかっているだろう、戻るのもためらわれた。
短くを息を吐く。腹をくくる時が来た。
「……お待たせ。来たよ」
「休日なのに呼び出して悪かったな怜佳」
「いいよ別に。暇だったし」
己のコミュ障を呪わずにはいられない。もう少しこう…あるだろ。気の利いた返事……!!
内なる理性から耳の痛い指摘が聞こえてくるが、許してほしい。いざ謝るぞ、と意気込んできたはずなのに父の声を聴いた瞬間頭の中が真っ白になってしまったのだ。
もういっそ出たとこ勝負だ。一言目を言ってしまえば、いくら臆病な僕でも言葉を続けざるをえまい。
「あ、あのさ」
「ああ、大丈夫だ。すぐに済む用事だから。両手を出してくれるか?」
「あ、はい」
己の意志薄弱さを嘆かずにはいられない。もう少しこう……何とかならなかったんですか…?
内なる理性が呆れ果てたような指摘をしてくるが、まったくもってその通りだと思う。こればかりは言い訳のしようもない。
結局のところ僕は勇気ある一歩を踏み出せないチキンのままだった。
そうやってまた少し、自分を嫌いになっていると何やらごそごそと物音が聞こえた。父は一体何を渡そうとしているのだろうか。
(札束渡されて『あとは好きに生きろ。もう面倒見切れん』とか言われたら詰むんだが。いやでも愛想尽かされててもおかしくないような)
(そもそもなんで手切れ金貰える気でいるんだ?両親の負担にしかなれていないだろ)
物音しか聞こえないせいで嫌な想像ばかり膨らむ。今からでも謝罪に踏み切るべきなのだろうが、喉の奥でつっかえたように言葉が出てこない。
自身の心音に集中して意識を遠ざけるか悩みだしたころ、準備ができたらしく、両親が何かしらを差し出してきた。
……手切れ金の詰まった封筒とかではなさそうだ。というか、想像以上にサイズがある。輪郭がぼやけるせいでよく見えないが、目測で炊飯器程度のサイズがあるように見える。
ゆっくりと指先から触れるように掴むと、両の手にかなりの重量のある物体が収まった。サイズもそうだが重量も炊飯器くらいある。なんなのだろうか。
「……これは?」
「ナーヴギアだ」
「は?え、マジ?」
「あと『ソードアート・オンライン』というソフトも同梱されている」
「」
言葉が出なかった。なんつーもんポンと渡してきてるんだうちの両親は。
第二世代フルダイブ型VRマシン第1号。通称《ナーヴギア》。半年ほど前に出たVRゲーム専用のゲームハードだ。
従来機とは違い頭部を覆うヘルメット状のデバイスのみでゲームをプレイでき、人間の脳信号を直接読み込んで操作できる優れもの。
ソフトも同様だ。ナーヴギアの開発者が開発に携わったフルダイブ専用ゲーム、VRMMORPG《ソードアート・オンライン》。半年遅れでやってきたナーヴギア専用ソフト。確かサービス開始が今日だったか、と今更ながらに思い出す。
どちらも非常に高価で入手しづらい。国内生産限定でソフトが初期ロット1万本、ソフト同梱版のナーヴギアなんて店頭販売1000台そこらのはずだ。価格も12万8000円とかする。
パクパクと口を開け閉めするばかりで発声を失敗し続けるこちらを見てか「本当はもう少し早く買う予定だった」と父が言う。
「なんで、これを」
「……怜佳、昔はゲーム好きだっただろう?だからこれなら、と思ったんだが、余計なお世話だったろうか」
「来週の9日、怜佳の誕生日じゃない。少し早めに渡しちゃおうってお父さんが」
「そういうことだ。進学で気を張るのもいいが、適度に息抜き出来た方がいいだろう」
違う。そういうことを聞きたいんじゃないんだ。
確かに欲しかったよ。この目でも、このゲーム機があれば遊べるかもしれないと思ったから。
でも散々迷惑をかけてきた僕がこんな良い物ねだるわけにもいかないだろう。
そもそも受験生なんだが。勉強頑張れとか言って追い込んでくるものじゃないのか。
なんでそんなに優しくしてくれるんだ。
こんな目をしているからか。
ギリギリ踏みとどまった言葉が心の内で荒れ狂っているように感じる。これを口にしたら、いよいよ自分を好きになれなくなりそうな気がする。
こちらが急に黙り込んだのを不思議がってか、両親の息遣いがわずかに変化した。早く何か、言わなければ。
「…………ありがとう父さん。母さん。嬉しいよ、すごく」
「!そうか、それならよかった」
「怜佳、あの子と会えなくなってから随分元気がなくなっちゃってたから気にしてたのよ」
「……うん」
僕はそうやって、謝罪を感謝で誤魔化した。
上手く笑顔を作れていただろうか。
声は震えていなかっただろうか。
ひとまずわかっていることがあるとすれば。
当分、僕が僕を好きになれる日は来ないだろう。
本当に、反吐が出る。
「……早速、使ってみるよ。コレ」
「ああ、何かわからなかったら呼んでくれ。説明書を読むの手伝うよ」
「ありがとう。……それじゃ」
「怜佳」
リビングの両親に背を向けて逃げようとしたところ、再び声がかかった。
足を止め、よく見えないが、振り向く。顔をそむけたまま話をするのは流石に恥知らずが過ぎるだろう、と思ったからだ。
「その、二台目を買えたら父さんも、そのゲームをやってみようと思うんだ。良ければ教えてくれないか」
「…………うん、わかった。楽しみにしてるよ」
「18時には夕ご飯にするから戻ってきてね?」
「りょーかい」
できるだけ足早に部屋へと戻る。一秒でも早く、あの優しい両親の前から消え去りたい。惨めすぎて死にたくなる。
部屋に戻った頃には、大した運動量でもないのに息が荒くなっていた。心肺機能は別に弱くないのだが、と現実逃避が捗る。
敢えて言うなら
そうやって自嘲を交えつつセッティングを進める。ありがたいことに、説明書には点字も押印されていた。バリアフリーで大変結構。
ナーヴギアを被りベッドに横たわる。バイザー越しに薄暗い天井を見ていると、少しだけ落ち着くような気がした。
……ゲームの世界ではもっと堂々と生きよう。
他人の目に怯えないように胸を張って。
他人の声に負けないように自分の意思を伝え。
弱くて臆病な僕らしくない、そんな生き方をしてみたい。
そして自信が付いたら、改めて謝ろう。今度こそ。
そう心に決めた。
それが叶わないと、知りもせずに。
僕は二度と来ない『その日』に、全てを投げ捨てた。
「リンク・スタート」
これが僕の日常の、最後の瞬間だった。
「ッ……できた、のかな?」
肌を撫でる風を感じる。
ゆっくりと目を開くと、そこには別世界が広がっていた。
石畳の敷かれた中世のヨーロッパを思わせる街並み。
革製の鎧と簡素な剣を纏うプレイヤー。
遥か遠くに見える、青く広がる天蓋へと連なる巨塔。
そして作り物というにはあまりにも眩しく目に差し込む、日の光。
「……ははっ、すごい。本当に目が見える…!」
気づけば周囲の目も気にせずそんな言葉が出ていた。わずかに奇異の目を向けられたのを感じたが、それすらどうでもいい。
見えるのだ。この5年間、失って久しかった視界が開けている。
霧の中を歩くような日々だった。周囲が当たり前のように生きる中、自分一人だけ全てがおぼろげに見える心細さを感じて過ごしてきた。だが今は違う。
僕は、この世界で生きている。そう実感できるほど鮮明で、リアルで、温かみのある刺激が全身を駆け巡っていた。
「技術の進歩様様だなぁ。……戻ったら父さんに最高だったって言っておかないと」
謝罪を後回しにするうしろめたさを感じないほど、僕は興奮していたと言っていい。しきりに周囲を見回したり、視界の中で手を握ったり開いたりと、周囲から見れば全く落ち着きなく見えたことだろう。
一通りまともな視界を楽しんだのち、ようやく気づいた。ボッ立ちで奇怪な踊りを繰り広げて僕は何をしているんだ、と。
急に恥ずかしくなってきたように感じ、その場からいそいそと立ち去るべく一歩を踏み出し、また感動に足が止まった。
ちゃんと踏みしめている感覚がある。靴底越しに、石材を踏んだ時の感覚が。
てっきり石畳に見えるだけでアスファルトくらいしっかり舗装されて道なのかと思っていたが、僅かに感じる圧力の散り方が、足元に敷き詰められた石の一つ一つ違いのある形をしていると教えてくれた。
そうして一歩、二歩と脚を進めていくうち、気が付けば僕は駆け出していた。
目が見えなくなってからは一度も走ったことがなかった。どこで何にぶつかるかも、今自身がどれくらい姿勢を傾けているのかもわからないため、必然的に一歩一歩前を確認しながら歩くことしかできなかったのだ。
だが今は、この目で自身の先が見える。道の続き、曲がり角、道行く人々。
流れていく視界が。
風を切って駆ける感覚が。
地を蹴った体が受け止める躍動が心地いい。
何もかも以前は当たり前にあったはずのそれらが。どうしようもなく僕の感情をかき乱していた。
「はっ、はっ、はっ…はは!すごい、息の切れる…感覚まで、あるよこのゲーム。…ふぅ。全力疾走とか何年ぶりだろうか」
特にスタミナゲージとかは無いようなのだが、何故か呼吸が乱れる感覚がある。生理現象の一環として再現しているのだろうか?てっきりゲームの仕様に必要ない要素は再現せずに処理を減らすとかしていると思っていたが。
結局それらしい理由が思いつかなかった為、最終的に「開発か運営が凝り性なんだろう」とひとまず疑問を捨て置くことにした。
気付けば、無計画に走り回っていたからか街の外れまで来ていたらしい。簡素なゲートの向こうに平原が広がっている。
平時の僕であれば回れ右して安全な場所へと引きこもるのだろうが、興奮冷めやらぬ今の状況では好奇心が勝った。足が自然と、外へと向かう。
「……この先多分、戦闘あるよな。最初の街の外だし弱い奴置いてるよね」
腰に付けた曲刀《アイアンシミター》の柄の位置を確かめる。現実世界では一発でしょっ引かれるような刃物だが、この世界では初期武器として渡されただけの廉価品だ。どの程度戦えるか早いうちに確認しておくのも悪くない。
自分に言い聞かせつつゲートをくぐる。すると、今まで視界に映っていなかった緑色のゲージが視界に現れた。おそらくこれがHPゲージなのだろう。
「はー。棒のゲージじゃないんだ。なんか視界の形に合わせて湾曲してる?こういうとこは近未来感あるなこのゲーム。風景とのギャップよ」
SAOの仕様なのかナーヴギアの仕様なのかは不明だが、こういうところを見てるとちゃんと最新ゲームの中なんだなと感じられる。たしかメニュー画面も指を振ると空間にスッと表示されたはず。昔よく見ていたSF映画でよく登場するような空間ウィンドウで感動したのを覚えている。
数年間のゲーム知識の停滞からか浦島太郎の気分を味わっていた、その時。
「おお~い!そこのアンタ!危ねーから逃げてくれ~!!」
何者かは知らないが、こちらに向けて叫んでるようだ。
声のした方を向くと、やや背の高めな男性プレイヤーが二人。そして視界の端に、こちらへ向きを変えて突っ込んでくる何かの姿が見えた。
どうやら戦闘中だった敵がこちらへ狙いを変えたらしい。
(ちょうどいい、試し切りだ)
卒業したはずの中二病ソウルが「今宵の我が剣は血に飢えておる……」と香ばしい感想を述べる。……声に出していないと信じたい。これを聞かれたら二日は布団から出られなくなる。
現実逃避をしつつ、迫りくる敵を目で追う。
雑魚敵との初戦とはいえ緊張感はある。何が来るだろうか。
やはり某ドラゴンなクエストよろしくスライムか。それともゴブリン辺り?
そんな期待は早々に裏切られることになる。
体高約1m、全長が目測2m弱。
毛色は鮮やかな青色。
そんな──立派なサイズの猪が。こちら目掛けて全速力で突っ込んできていた。
(え、これほんとに雑魚敵です?普通に怖いんだが)
弱そうに見えない。てか現実で見たらかなりヤバい気がするんだがこの猪。割とデケェ。
ドラゴンなクエストじゃなくてモンスターをハントする感じの世界観なの?盾のない片手剣みたいな武器しか持ってないぞ僕。いじめか?
何より速い!ママチャリどころか原付くらいの速度で迫ってくる!!
こんな時でも絶好調な現実逃避スキルが足を止め、無意味に思考を加速させる。
早い話、僕はフリーズしていた。
(避けられるかこれ?もう結構加速乗ってるぞ間に合わなくね!?)
(防ぐ?盾ないよ!!そもそも防げてもあんな勢い受け止められるかボケ!!)
(あれ、ひょっとして死ぬか?コレ)
死。
その一文字が、嫌な記憶を思い出させる。
頭に走る激痛。
視界を染める赤。
体温と自由を奪う水。
そして、ぼやけた視界の中でこちらを見て泣く、あの子。
途端、体が自由を取り戻す。
そのまま足がひとりでに、目の前の敵目掛けて駆け出した。
右手が《アイアンシミター》を引き抜き、振りかぶる。
狙うはがら空きの頭。
「は!?いやちょ、避け」
「お前が!」
遠くで誰かの声がする。
しかし耳に届いただけのそれは、そのまま耳をすり抜けていった。
「死ね!!」
むき出しの感情のままに刃を振り下ろす。
何故か赤い光のようなものを纏いながら放たれた斬撃は、狙い通りに真正面から飛び込んできた猪の頭を捉え、そのまま勢い余って頭を縦に割り裂いていった。
振り切られた切っ先が正中線に沿って食い込んでいき、こちらが猪の隣を駆けるのに合わせ、刃筋を曲げて首へと抜ける。
そしてその一撃が敵のHPを削り切ったらしく、背後で頭の右半分が無くなった猪の身体が、水色のポリゴン片へ変わりながら爆ぜた。
ひとまず命の危険が去ったことに安堵しつつ、今起きた現象に思考のリソースが振り分けられる。
(なんだ、今の)
無駄に躍動感ある動きと、振り切った直後の不自然な硬直。そして謎の光。
やっぱりモンスターをハントする感じのゲームでもなさそうだ。いやそもそもRPGジャンルなんだから狩りゲーではないのか。
そんなとりとめもない考えを膨らませていると、先ほど見かけた二人組がこちらに駆け寄ってきていた。
「わりぃ!そっちに逃げられちまった。ケガとかしてないか?」
「……え?ああ僕か。全然ヘーキ、デス」
バンダナを巻いた美丈夫から謝罪が飛んできた。
そういえば、コイツが取り逃がした奴に襲われたんだよな、とやけに他人事のような感想が浮かんだ。どうやらまだ戦闘の緊張が残っているようだ。……コミュ障で思考が定まってないわけではない、はずだ。多分。
「ナイスキル。あんた度胸あるな。突進に合わせて《ソードスキル》でカウンターとか」
「あ、どーも。……《ソードスキル》?」
「え?さっきやってただろ。《フレンジーボア》にぶち込んでた奴」
「ふれんじー、ぼあ?ってさっきのブル〇ァンゴみたいな奴のこと、で合ってる?」
「ブル〇ァンゴ……まぁ、うん。大体同じか。それで合ってるよ」
隣の優男風イケメンが困惑したような反応を返してきた。変なこと言ってないだろ、まだ。多分。
「ああそうだ、自己紹介がまだだったな。俺はキリト。こっちのバンダナがクラインだ。よろしく」
「俺様がクラインってわけよ!よろしくな!」
そう言って手を差し出してくる。
……これ、手を掴もうとした途端引っ込めて転ばせる、みたいな感じじゃないよな?と、いじめられっ子特有の懐疑心が首をもたげるが、ここはゲームの中。ここでは『あっち側』みたいなダサい振る舞いはしない。そう決めたばかりだろう、と己に叱咤激励する。
意を決し、手を握り返してみれば、特に何かするでもなく普通に立つのを手伝ってくれた。世の中存外捨てたものでもないのかもしれない。
「で、あんたは?なんて呼べばいいんだ」
「僕は……」
そうだ。僕はこの世界で僕じゃない僕になりに来たんだ。
だから笑え。不敵に、堂々と。
背を伸ばせ、胸を張れ。
「僕はホルンだ。よろしく、お二人さん」
ホルン:よろしくニキー
キリト・クライン:えぇ…(困惑)