VRSAO アインクラッド 100%RTA 実績【誰が為の明日】獲得まで   作:クソ煮込みうどん

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雅課長1凸しようとしてリナさんすり抜けたので初投稿です。


なんで3話に分けてなお文にまとまりがないんですか????(自戒)


『Welcome to Aincrad.』 2/3

「え、ああ…うん。その、よろしく?」

 

 

 キリトと名乗った剣士から怪訝そうな反応が返ってきた。

 いやまぁ、はい。そうでしょうねとしか。

 

 僕だって「お前が!死ね!!」とかクロス〇ンジュばりの絶叫を上げた奴が、次の瞬間に「よろしく、お二人さん(ドヤァ)」とかやってきたら反応困るもん。

 早くも僕のゲームライフは陰りを見せつつある。

 やっぱコミュ障にマルチゲーは厳しいのかもしれない。死にたい。

 

 

「おう!よろしくなホルン!」

 

 

 クラインからは快活な返事が返ってきた。いっぱいちゅき。

 この暖かい反応だけでお前のせいで猪に轢かれかけた事実を水に流せそうだよ僕は。クラインの兄貴と呼ばせてくれ。

 

 

「えっと、二人はここで何してるの?…ですか?」

 

「めちゃくちゃ片言じゃん。ため口でいいよ。同じゲームやってるだけだし、こういう場では変に畏まらなくていいと思うぜ。な、クライン」

 

「まーな。いや、俺の場合は一応キリトにもの教わってるわけだし、もちっと畏まった方がいいのか?」

 

「別にいいよ。……こんな感じだし、ホルンも楽にしてくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 なんだろうか、思ってた以上に温かく迎えられた。赤外線通信で友達モドキとやってたポ〇モンより空気があったかい。これがMMO特有の空気感なのだろうか。

 軽いカルチャーショックを受けつつ話をしてみると、どうやらβテスト経験者であるキリトからクラインが指導を受けているような状況だったらしい。それで件の猪《フレンジーボア》を相手に戦闘訓練してたとか。

 

 

「キリトβテスターなんだ。意外」

 

「そうか?」

 

「いやなんというか、事前知識あるわけじゃん?スタートダッシュ決めて他のプレイヤーより優位に立ちたい、とかなかったのかなって」

 

「ハッキリ言うなぁ。……まぁ、無くはないけどさ」

 

 

 でも、と続けながら苦笑する。

 

 

「初日くらいは、普通に遊びたいだろ?」

 

「そーいうもん?」

 

「そーいうもんなんだよ、俺は」

 

 

 まぁ確かに、これだけ自由に楽しめそうなゲームだ。変に攻略本片手に効率よく進めるよりは、友人とかと一緒に盛り上がりながらゲームする方が楽しいか。

 考えてみればMMOの醍醐味は同時にログインしている他のプレイヤーたちとの交流だ。それを捨ててまで効率重視するようでは本末転倒か。

 どうやらマルチプレイアレルギーを拗らせた僕には理解が浅かったようだ。

 今更だがこのゲーム、ボッチに優しくないかもしれない。

 

 

「ま、そのおかげで俺はキリトの指導受けれてるからラッキーだけどな。……そうだ、ついでだしホルンもキリトから教わってけばどうだ?」

 

「え゛」「ついでってお前なぁ」

 

「いいだろキリト。別に一人増えたくらいで」

 

「……まぁいいけどさ。そういうわけだが、ホルンはどうする?都合が着かないなら無理にとは言わないけど」

 

「いや……いいの?僕完全に部外者なんだけど」

 

「気にすんなって!俺とキリトも今日初めて会ったけど色々教えてもらってるんだぜ」

 

 

 いやあの空気感で初対面だったのかよ。数年来の友達くらいの気安さだったじゃん。コミュ強か。

 

 しかしだ。これはチャンスなのではなかろうか?

 今回の件ではっきりしたが僕のコミュ障はかなり重度だ。社会性の生き物である人間の端くれとしては看過できないレベルだ。言ってて悲しくなるが、目を逸らすわけにもいかない。

 対してこの二人。キリトは若干僕の同類(根暗陰キャ)の気配を感じるが、あくまでその程度。クラインの兄貴に至っては完全に剛の者だ。コミュ力が違いすぎる。

 僕みたいな余計なことを言う、肝心なことを言えない典型的コミュ障の初心者がこれ以上の環境でゲームのイロハを学ぶ機会がるとは思えない。何より、この機会を逃したらマジで会話力が終わる気がする。

 

 それにだ、自分を変える気があるならこの程度の一歩、踏み出せなくては話にならない。

 

 

 

 

「…………じゃあ、その。お願いして良いかな?」

 

「分かった。無理のない範囲で教えていくつもりだから肩の力抜いてくれていいぜ」

 

「いやーよかった。マンツーマンちょっと緊張してたんだわ。改めてよろしくなホの字!」

 

「クラインの兄貴と呼ばせてくれ……!!」

 

「お、おう…?」

 

「ホルンはどういうテンションで生きてる人なんだ……?」

 

 

 ありがとう父さん、母さん……ありがとうSAO(ソードアート・オンライン)

 勇気出してみて良かった!

 僕、この人たちと頑張るよ!

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていた、2時間後。

 

 

 

 

 

「ホルンわりぃ!処理間に合わねぇ!!」

 

「クラインテメェ、マジでテメェ!ふざけんなよテメェ!!テメェの尻拭いしてる最中に仕事増やしてんじゃねぇぞテメェクソが!!」

 

口撃(こうげき)力が高すぎる。ほんとにどういうテンションで生きてるんだホルンの奴」

 

 

 うるせぇ!涼しい顔で監督役しやがって!!さっきから見えてないのか、クラインの仕留め損ねの猪共に襲われてる僕の姿が!!

 何がクラインの兄貴だ!テメェなんぞ糞インで十分だクソが!!

 

 色々ありすぎた結果、早くも僕は擦り切れていた。

 具体的にどういうことがあったかというと、

 

 

「へへっ、見てな新入り!俺様の剣「プギィイイイイッ!!」ぐはーッ!?」

 

「く、クライーン!?」

 

「兄貴が真正面から撥ねられた!?……あ、ピンピンしてる。2mくらい飛んでたのに」

 

 

 

 

 

「くそ油断したぜ…だが同じ手h「フゴォオオオオッ!!」グワーッ!?」

 

「く、クライーン!?」

 

「フラグ回収が早すぎる……」

 

 

 

 

 

「「ブルァアアアアウッ!!」まだ何も言ってな、ぐえーっ!?」

 

「く、クライーン!?」

 

「…………」

 

 

 以上、剣士クラインの華麗な立ち回り()の数々。

 一緒に戦った感想としては、僕の介護してくれてる両親の苦労を感じられてツラい。

 

 どうにもキリトの言っていた《ソードスキル》なる必殺技を乱発しようとするのだが、動きがぎこちない、無理に動きを変えようとしてシステムに怒られる、そもそも当たらないタイミングで撃とうとする、などの問題が重なって隙だらけだった。

 この雑魚敵らしいフレンジーボアを中ボスと勘違いする腕前は伊達じゃない。伊達であってほしかった。

 経験者のキリトに助けてもらいたいのだが、彼曰く「俺が経験値吸うことになるだけだし、二人にフルダイブ環境に慣れさせるのが重要」、と静観を続けていた。……いや静観ではないか。はじめての〇つかいを見守る親くらいハラハラしてる。そこまで心配なら助けてくれ。僕だけでクラインの介護は無理だ。

 

 そういうわけで必然的に、同じ初心者のはずの僕はクラインのカバーをし続けることになっている。

 ある時は撥ねられたクラインを追撃しようとする猪を切り、ある時はクラインがやらかす前に猪に切りかかり、それでもやっぱりやらかすクラインを助けるべく猪に切りかかり……という具合だ。

 クラインに足並み合わせるのは多分無理があるのだろう。となればとるべき手段は。

 

 

「野郎、ホルンの方にはいかせn「クラインおすわり!!」おすわり!?」

 

「ブフッ」

 

 

 クラインから抗議が、キリトから噴き出す音が聞こえたが、努めて無視する。

 余計なことをしだす前に戦局を変える。HP少ない相手とは言え、猪二頭相手にしながら追加の一頭まで処理とか無理だ。

 

 

(まずは数を減らす!)

 

 

 視界の先に居るフレンジーボアたち。向かって右側がHP約4割、左側が2割ぐらいか。

 見た目に大した違いがないがHPゲージという目印があれば狙いも定まるというものだ。

 左の猪が地面を足で掻き始めた。突進の合図だ。

 

 初戦のようにソードスキルで迎撃するか?

 否。あれは撃った後に動きが固まる。

 ならば。

 

 

(さっきはビビッて足が止まったから無理だったけど、今なら)

 

 

 フレンジーボアが駆け出す。最初はやや遅く、徐々に速度を上げつつこちらとの距離が縮めてくる。

 4m。まだ早い。相手が軌道修正できる。

 3m。もう少し引き付ける。アイツが止まれなくなる速度まで耐えろ。

 2m。

 

 

「ここ!!」

 

 

 思い切り横に向けて跳ぶ。直後、曲がり切れなかったフレンジーボアがそのままの勢いで先程まで居た空間を駆け抜けていき、無理やり止まろうと蹄を立てながら滑って行った。

 目測甘くて若干軌道修正されたように見えたが、まぁ避けれたので良しとしよう。あれ以上引き付けるのはまだ怖い。

 

 

「ホルン!二頭目突進来るぞ!」

 

「あいよ!」

 

 

 キリトの警告の直後、狙いすましたかのように4割くらい残ってた方が突っ込んでくる。

 この猪たち、クラインより賢いんじゃなかろうか。

 

 

「たしかさっきのモーションは、と」

 

 

 初戦の動きを思い出す。その記憶をなぞるように、曲刀を担ぎ、前へ駆ける。

 こちらの動きを感知してか、刀身が再び赤いライトエフェクトを纏う。

 

 

「フゴォオオオオッ!!」

 

「せー、のッ!!」

 

 

 フレンジーボアが牙を突き上げる刹那、こちらが先に繰り出したソードスキル──キリトに聞いたところ、曲刀スキル単発突進切り《リーバー》、と早口の詠唱をされた──がフレンジーボアの頭部を捉え、相手の突進力も併せて、その体を両断した。

 

 

「プギーッ!!」

 

 

 短い断末魔を上げ……いやほんとにどうやって上げてるんだろうあの声。体真っ二つじゃん。

 ともかく、断末魔を上げながら、フレンジーボアの身体が水色のポリゴン片となって砕ける。

 

 

「あと一体……クライン!」

 

「援護とか無理だぞ!」

 

「そのまま猪こっちに連れてこい!!」

 

「は!?マジで言ってんのか!!?」

 

 

 何やら文句を言っているようだが、もう残った方が再度突進の体勢に入っているのだ。このままじゃ説明してる間に背中ど突かれる。こうなったら出たとこ勝負だ。

 クラインの返事も待たず、彼のいる方向へ向けて走る。すると、こちらを狙っていた生き残りのフレンジーボアがこちらの背を追って駆け出すのが横目で見えた。

 

 

「マジで来やがった!?…ええいままよ!!」

 

 

 クラインも覚悟を決めたのか、7割くらいHPが残ってそうなフレンジーボアを引き連れて駆け出した。欲を言えばもうちょっと減らしといてほしかった。

 両者の距離が縮まっていく。即興で思いついた作戦だが、うまくいってくれるだろうか。

 

 

「ホの字!」

 

「今だ、跳べ!!」

 

 

 クラインも一応、何がしたいかは察してくれていたらしい。二人そろって横に向けて飛び退く。

 そうして二人がそれぞれ引き連れてきた猪たちは、目の前から急に獲物が消えたことに対処できず、真正面から突っ込んできた同族に頭をぶつけ合わせることとなった。

 

 

「フガッ!?」「ピギーッ!?」

 

「おおー、すげーうまくいった!何なら今ので片方倒せてるじゃねぇか!?」

 

「え、マジ?……け、計算通り!」

 

「おい」

 

 

 いやだって、ぶつかって足が止まってくれればいいなー、という楽観のもとに即興で組み立てた作戦なんだぞ。モンスター同士の攻撃にもダメージ判定あるとか思わないじゃん。2割あったHP飛ぶとは思わないじゃん。なんか僕がこの猪に同族殺しさせたみたいでちょっと後味悪いんだけど。

 

 

「と、ともかく!これであと一体、クライン!バッサリ行ってやれ」

 

「おうよ!ええとモーション、モーション……ホルンさっきのどうやった?」

 

「締まらないなぁ、ほんとに!!まず剣!右肩に担ぐ!!」

 

「キレながらちゃんと教えるんだな」

 

 

 キリトからツッコミが聞こえたが、聞かなかったことにしよう。

 

 

「あとは前に全力で跳びながら」

 

「よっし!いくぜぇ!!」

 

「肘伸ばして振り切れ!!」

 

「どっせい!!!!」

 

 

 流石に動きを一から十まで説明すればできるようで、クラインの握る曲刀も赤いライトエフェクトが発生する。勢いよく振り下ろされたそれが、いまだ目を回したままのフレンジーボアの横腹へと吸い込まれていき、深々と切創を刻み付けた。

 そうして致命の一撃を受けたフレンジーボアのHPが減っていき、最後の赤く染まったラインが消え、ゼロになる。

 

 

「プギーッ!?」

 

 

 一瞬不自然な姿勢で硬直したフレンジーボアの身体が、ポリゴン片となって消えていく。

 その光景を呆けた表情で見ながら固まるクライン。

 徐々に収まっていく光と、ソードスキルの硬直から解放された脚でゆっくりと、立ち上がりながら周囲を見渡す。

 こちらに牙を剥こうとするするフレンジーボアの群れは、もう居なかった。

 

 

「……っいよっしゃー!!遂にまともに出たぞ!!」

 

「お疲れクライン」

 

「疲れた……!!」

 

「マジでお疲れ、ホルン。……いやほんと頑張ったよお前」

 

 

 肩で息をするこちらにキリトもどこか同情的な賞賛を贈る。いやほんとキツかった。

 このアバターに心拍とか、乳酸とか再現されていないはずなのに、息が上がるし体が重い。

 しんどくてたまらない。だというのに。

 

 

「…………はぁ、楽しかった」

 

 

 久しく忘れていた。

 同じ苦労を分かち合うことも、誰かと一緒に何かをやることも。

 僕の記憶の片隅にしか残ってなかった、誰かと共有した楽しさ。それを思い出した気がする。

 

 

「……そうだよな。ゲーム、楽しいよな」

 

 

 そう同意するキリトの表情もどこか柔らかい。彼も似たような経験があったのだろうか。

 いやしかし……優男風イケメンアバターと今の表情、無駄にマッチしていてクソ腹立つ。絶対リアルでもイケメンのタイプだ。敵だな。

 

 

「わりぃホルン。おんぶに抱っこだった」

 

「いーよ別に。口で言ったほど気にしてないから」

 

「その割には迫真の罵倒だったような」

 

「シャラップ」

 

 

 せっかくいい空気なのだ余計なこと言わないでほしい。キリトはあれだ、顔はいいけどボッチ拗らせて対人コミュニケーションだめなタイプだろう。勘だが。やっぱ僕の仲間だな。

 

 

「やっとこれで一息つk「いや、次のもう湧くぞ」早いんだけどぉ!?」

 

「まぁここに三人も集まってるからな、湧くだろ」

 

「……?説明よろ」

 

「えーっとな。SAOだけど、フィールド1時間辺りのポップ数…つまり、どれくらい敵が湧くのかの上限が決まってるんだ。それをフィールドに居るプレイヤー数で割って、敵のリポップ時間を算出している。ここまではいいか?」

 

 

 なんか急に口数増えたなコイツ。専門用語とか設定について詠唱始めやがった。

 そんな感想が浮かぶが。いったん飲み込む。この手の輩は一通り満足するまでうんちく喋らせた方が交流しやすい。ソースは昔の僕。

 

 

「でだ、そのリポップ時間なんだけど、そこから更に範囲辺りのプレイヤー数で補正をかけて計算されるんだよ」

 

「…………味方と集まってると敵も増える、って感じの認識でいい?」

 

「ざっくりそんな感じ。俺たち三人で集まってるからこのフィールドなら、ペースにもよるけど3分で一体は固いかな」

 

 

 そういうのは先に言えよ。

 

 喉まで声が出かかったが、ギリギリこらえた。

 実際こちらが質問してない以上、キリトが言うべきと判断した時にこういう知識を披露してくれるわけだし。ここでキレるのはお門違いだろう。

 それはそうとどのくらいのペースで狩れば猪地獄にならないのかくらいは先に知りたかった。主な原因はクラインだが。

 

 内心で苦虫を100匹くらい噛み潰した気分になっていると、視界の先に青白い光が集まっていくのが見えた。

 光が晴れるとそこには、先ほど同様にフレンジーボアの姿があった。それも二体。

 

 

「二体か。最後のとこホルンが頑張ってペース上がってたし、湧きズレたのかな」

 

「頑張った意味よ……」

 

「折角だからこの二体は俺がやるよ。二人は少し見学しててくれ」

 

「よっ!キリト大先生よろしくおねがいしまーす!」

 

「経験値がどうとか言ってなかったっけ?」

 

「……二人の見学してて俺もやりたくなったんだよ。言わせんな」

 

 

 男のツンデレとか誰向けの需要だよ。

 口に出す前にキリトが駆け出す。迷いが一切ないし、何より足運びが早い。

 

 

「ついでだし軽いアドバイスだ。ホルンはさっき限界まで引きつけてから跳んでたけど、そこまでしないでいい」

 

「フゴォオオオオッ!!」

 

「フレンジーボアの攻撃手段は二つ、牙の突き上げと突進だ。突き上げはモーションが大きいくせに間合いが短いから気にする必要はない。もう一つの突進は、プレイヤーとボアの間の距離によって勢いもダメージも変わるようアルゴリズムが組まれてる。だからこうやって」

 

 

 前に詰めた方がいい。

 

 言うが早いか、キリトは躊躇なく先ほど僕の躱すのに費やした距離、2mを踏み越えていく。

 途端に猪の動きが精彩を欠き、突進がぎこちないものへと変わる。

 キリトはそれを知っているかのように横にすり抜けながら躱し、背中の剣を抜き放って一振り。

 青いライトエフェクトを纏いながら繰り出された横一文字の斬撃が、フレンジーボアの右半身に沿って刻まれ──そのままHPを削り切る。

 

 彼はそれを確認することもなく駆け抜け、崩れて消えていく猪の陰に隠れながらもう一体の突進をやり過ごすと、流れるようにステップを踏んで初動の位置に戻った。

 

 

(はっや。え?つよ。キモいレベルで強い。なんだコイツ)

 

 

 動きに迷いがない。淀みがない。初めから決まっている作業をこなすように、ごく自然に敵を処理していく。

 次いで突撃してきた二体目も、今度は躱すことなくその場で待ち受け。

 

 

「──せやッ!!」

 

 

 完璧なタイミングで放たれたカウンターのソードスキルを前に、ポリゴン片となって砕け散った。

 

 交戦時間、僅か20秒。

 完全なる瞬殺だった。

 

 

「…………βテスターやばぁ」

 

「どーよ、キリトつえーだろ!」

 

「クラインは誰目線なの?」

 

「ま、こんな感じだ。少し慣れれば誰でもできるよ」

 

「戦闘民族基準で言うな」

 

 

 いや多分フレンジーボア相手なら頑張ればいける。

 しかしだ。多分この変態はβ時代に戦った相手ならほぼ全部に同じレベルの対応ができる気がする。何度も何度も同じ相手と戦い、文字通り身体で覚えるレベルの切り合いをしながら身に付けたタイプの立ち回りだった。

 そんな奴の「慣れればできる」が当てになるものだろうか。

 

 

「確かに、こんだけ強けりゃ僕らの経験値吸われるだろうね。処理速度が違う」

 

「DPS下げないように立ち回りを最適化してるだけなんだよ。慣れればできる。ほんとに」

 

「あー、DPS?ってなんだ?」

 

「ダメージ・パー・セコンド。1秒間辺りにどれくらいダメージを出せるかって話。回避もそうだけど、攻撃も無駄な動きをなくせればそれだけ動きに余裕ができる。余裕ができれば相手に対処するのも苦労しないし、それだけ早く倒せるようになる。そんな感じだよクライン」

 

「効率厨がよぉ」

 

「効率は大切だぞ?完全ソロゲーはそれこそユーザーの一人一人に潤沢なリソースと体験を配るけど、同時に多数のユーザーが存在するMMOにそんなことはできない。MMOの基本はリソースの奪い合いだ。より強い奴にリソースが集中し、それを糧に更に上を目指す。だからわかってる奴ほどあらゆることに時間の無駄をかけないよう気を配る」

 

 

 こういうシビアな意見が出る廃ゲーマー気質なのに、わざわざ初心者二人も抱えてレクチャーする辺り真正のお人好しなんだろう。

 見れば、クラインも似たようなことを考えてそうな顔をしていた。

 目が合った。そして、どちらからともなく頷き合う。

 熱くゲーム観を語るキリトに水を差さないよう、これは口にしないと決めた。

 

 

「実際開発者の茅場晶彦も言ってた。『これは、ゲームであっても遊びではない』、MMOにおける一つの真理だ。ゲームという楽しむものではあるけど、真剣にやった奴以外はその楽しさを追い求めるのが難しい。だからこそみんな真剣になれるし、そういう奴が集まってコミュニティは活発化する。新規のプレイヤーが参入しづらいのがこの手のゲームの問題ではあるけど……俺はこういう、誰かと真剣になれる場所が好きだ」

 

「……なるほどね。MMOはこのSAOが初だったから新鮮な感想だわ」

 

「俺はVRじゃない奴ならダチと何度かやってきたぜ。そこでは一応頭張ってたんだ。こっちでも合流出来たら一緒にやる予定だ」

 

「クラインみたいな人と人のつながりもMMOの醍醐味だからな。プレイヤー数に合わせてか、多人数コンテンツが豊富だしな」

 

「おう。この後そいつらとも合流する予定なんだが……よかったらお前らも来ねーか?あいつらもきっと歓迎してくれるぜ」

 

「あー、その」「魅力的な提案ではあるんだけどねぇ」

 

 

 キリトがやや遠慮気味に、僕は言葉を濁しつつ暗に伝える。

 別にクラインが嫌いなわけではない。むしろ人間的にはかなり好ましい部類だろう。こちらが多少無遠慮な発言をしても笑って聞き流してくれるのは大人の余裕を感じる。

 しかしだ。

 一人の時間が長かった奴が、急に誰かとつるんでもうまくはいかないだろう、と思う。特に僕の失言癖が火を噴く予感しかない。

 そしてその時、僕のせいでクラインに迷惑がかかることを思うと、いたたまれない気分になる。

 だからきっと、これでいいのだ。

 

 

「……ま、そーだよな。無理にとは言わねーよ。気が向いたら考えてくれ」

 

「悪いね。誘ってもらったのに」

 

「気にすんなって!それに、ゲームやれる時間とかも合わないと気まずいしなぁ」

 

「まーね。実際僕は学校あるから平日昼間は無理だし」

 

「ホルン学生かよ。俺は明日有給取ってるからバリバリ遊ぶぜ」

 

「あー、クラインやっぱ社会人か。動き硬いしおじさんだろうなーと思ってたんだよ」

 

「おじさんじゃねぇし!まだ20代だし!!」

 

「……二人とも、一応リアルの話は避けた方がいいぜ。そういうの暗黙のマナーなんだ」

 

「「すいませーん、キリト先生」」

 

「まったく……」

 

 

 口ではそういいつつもキリトも満更ではなさそうだ。……多分、ソロの方が合ってると判断してるだけで、ほんとは誰かと一緒がいいのかもしれない。

 僕やクラインを助ける理由がなんとなくわかった気がする。

 

 

「よし、じゃあ代わりと言っちゃなんだけどフレンド登録しとこうぜ」

 

「……まぁそれくらいなら」

 

「モテモテじゃんキリト」

 

「おめーもだよホルン」

 

「……僕も?」

 

「当たりめーだろ。なぁキリト」

 

「そうだな。特にホルンは口が悪いし、クラインみたいなのは貴重だと思うぜ」

 

 

 ちょっとカチンときた。

 

 

「……さっすがキリト先生、同類のことよくわかってそうじゃん。お友達何人おられますぅ?」

 

「べ、別にぃ?俺は友達いるし??」

 

「目ぇ逸らすなよ説得力ねぇぞ」

 

「おめーらよぉ……虚しくねぇのか?その争い」

 

 

 うるせぇぞクライン。このプライドバトル、負けるわけにはいかない。

 

 結局その後クラインと……一応キリトともフレンド登録を済ませた。

 二人はもう少し猪狩りを続けるそうだが、僕は街を見て回りたいので抜けさせてもらった。

 クラインに惜しまれてはいたが、

 

 

「キリト先生も言ってたろ?『初日くらい遊んだほうがいい』って」

 

「あー、そうだな。キリト先生言ってたもんな~」

 

「やめろよ二人そろって……」

 

「じゃあねお二人さん。今日はありがとう」

 

 

 少なからず向上した会話力を頼りに挨拶を済ませ、その足で歩いていく。

 ……正直言ってちょっと心細い。この短い時間で随分と人間強度が落ちた気がする。

 そうして歩いていると、

 

 

「ホルン!!」

 

 

 後ろから声がかかった。

 振り返ると、キリトもクラインも、手をメガホンのようにして声を張り上げていた。

 

 

「街に戻ったら!武器の修理しとけよ!明日戦ってるときに、折れるかもしれないから!!」

 

「今日はありがとよ!また今度遊ぼうぜ!!」

 

 

 キリトからありがたいアドバイスが、クラインからは暖かい感謝が向けられた。

 

 ヤバい、ちょっと泣きそう。

 

 

「ッ、僕も!楽しかったよ!ありがとう!また今度!!」

 

 

 精いっぱい腕を振り、僕なりの感謝を吐き出す。

 二人もそれを受け取ってくれたようで、こちらに手を振り返した後、そのまま狩場へと戻っていった。

 

 ……いいな、こういうの。

 

 確かな充足感と、僅かな期待感を胸に。

 僕は心なしか軽くなった脚で《はじまりの街》へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……あの木の実、何のためにあるんだ?不味いし、売値も安い。なんだよ5コルって」

 

 

 二人と別れて数十分。あてもなく《はじまりの街》を散策していた僕は、何やら実を落とす木が生えているのを見つけた。

 落ちていた実をアイテムとして取得できるのを知ったので、ひとまず売却と……必要はないのだろうが、水で軽く洗ったのちに試食してみたのだ。

 味の感想だが、カリカリ梅のような歯触りをしたときは「お?」と思ったものだが、口の中で果肉を咀嚼した途端、水で数倍に薄めたラフランスのような味の泡になって溶けていった。口の中に残ったのはほのかに甘い泡と、果肉を覆っていた薄皮だけ。端的に言って不味かった。

 ならばと残りをNPCのアイテムショップで売り払ったのだが、驚きの単価5コル。フレンジーボアを一頭倒せばその数十倍の金額になるのでほんとに始末に負えない。何の価値もないと言われたのも同然だった。

 

 

「存在価値 is どこ……。使い道無さそうだしほんと何なんだあれ。売値5コルの実、略して5実(ゴミ)とかそういうオチ?」

 

 

 案外ありそうな話だ。この運営、キリトが言うには結構遊び心のあるクエストなども随所に置いてるそうだし。

 と、そんなことを思いながら街を歩いていたのだが、どこか雰囲気がおかしい。

 

 

「あれ、みんな結構残ってるな」

 

 

 時刻は17時30分を回ったところ。そろそろみんな夕食時だろうに、何故だか人が減ってる気配がない。

 サービス開始初日だから気合い入れてるのだろうか?とも思ったが、道行く人々の表情を見ると、どこか困惑の色が強いように見える。何かあったのだろうか。

 

 

「ま、いいや。明日キリト辺りにでも聞いてみよう。僕もそろそろ夕飯だし」

 

 

 今日はいい体験ができた。父さんたちにも、僕のした小さな冒険を自慢したい。

 幼き日、唯一最後まで友達だったであろう彼女と過ごした日々を思い出させる、そんな一日を。

 

 

 そう思っていた。

 

 

「……?あれ?」

 

 

 メニューを開いて、あとはボタンを一つ押すだけ。

 気やすく考えていた僕に突きつけられたのは。

 

 

 

 

 

「ログアウトボタン、どこ?」

 

 

 

 

 

 その現実への帰還方法が消失しているという、理解を超えた事実だけだった。

 

 

「え?……あれ???」

 

 

 何処にもなかった。念のためオプションや各種項目の中に紛れてないかも確認したが、それらしいものは見当たらなかった。

 

 

「人が多いのこれが原因か…?どうするよ」

 

 

 こんなことならキリトにログアウトボタン以外のログアウト方法でも聞いておくべきだったか。

 そんなことを考えていると。

 

 

──リンゴーン

 

──リンゴーン

 

 

 頭上から鳴り響く、巨大な鐘の音。

 唐突に叩きつけられた重低音に、思わず耳を塞いでうずくまる。

 

 

「…ッ、クソ!今度は何だよ!?」

 

 

 変化は続く。

 こちらが立ち上がったのとほぼ同時、中央広場に光の柱のようなものがいくつも出現する。

 次々と現れるそれらが消えると、広場は今まで居なかったはずの夥しい量のプレイヤーで溢れかえっていた。

 

 

「なん…はぁ!?」

 

 

 間抜けな声が出たが、そんなことを気にする余裕も僕にはなかった。

 明らかに、何かがおかしい。

 

 

「おい、上を見てみろ!」

 

 

 誰かが声を上げた。

 みんな揃って視線が上へと向けられ、言葉を失う。

 

 真っ赤だった。

 

 青く広がっていた天蓋はどこにもなく、夕焼けを超えてなお鮮烈な、真紅に染まっていた。

 

 

「え、何?これ何の演出?」

 

 

 ひきつった笑みと共にそんな言葉が零れ落ちる。

 もうそういうことにしてほしい。

 頼むからあまり驚かせるような演出はしないでくれ。

 そんな甘えた考えが心に浮かぶ。

 しかし現実はどこまでも無情だった。

 

 よく見れば、空は赤くなってなどいなかった。

 ではなぜそう見えたのか?

 

 

 

 

 

【Warning】

 

【System Announcement】

 

 

 

 

 

 空を、この二つの単語が埋め尽くしていた。

 

 

「……なんだよ、これ」

 

 

 

 

 他に言うべき言葉がなかった。

 ただ一つ、なんとなくわかったことがある。

 

 

 

 

「何が、起きてるんだよ……!!」

 

 

 

 

 

 僕の日常は、もう戻ってこない。

 

 

 

 

 

 地獄が始まろうとしていた。




ホルン:えぇ……(困惑)

キリト:友達くらい居るし(震え声)

クライン:おじさんじゃねーし(震え声)




カヤバーン:はい、よーいスタート
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