真・女神転生 オタクくんサマナー異伝:奇妙な旅に終わりはなく 作:黒橋
今回はとある悪魔の過去話(一人称視点)です、後いつもより少し長いです
【腹が減った】
俺が覚えている一番古い記憶はこれだ。
……いや、嘘をついた。
一番新しい記憶もこれだ。
【腹が減った】
何時からこうなのかは覚えてないし興味もない。
ただひたすら、何かに飢えていた。
【腹が減った】
それだけは、間違いない。
部屋の隅に転がっていたボロい雑誌を捲る。
【特集! あの人に作ってほしいあったかい料理を紹介!】
【レンズ豆のカスレ風】【鶏もも肉のプロヴァンス風煮込み】【牛筋の赤ワイン煮込み】【ポトフ】【仔羊のナヴァラン】【チキンラグースープ】……
そこには煌びやかで食欲をそそる料理が数多くの写真やコメントで彩られている。
空きっ腹には非常につらい光景である。
『腹減ッタナァ……』
誰かが拾ってきたらしい雑誌、気晴らしになるかと手に取って開いたら中身が料理特集、雑に転がしてあった理由を理解しつつも俺は後悔と怒りを覚えながら雑誌を乱暴に放り投げた。
\カカカッ/
| 幽鬼 | ガキ | LV4 | 耐性:魔法全般・破魔に弱い、呪殺無効*1 |
餓鬼、仏教において「三悪道」の一つである餓鬼道に落ちた死者の行き付いた先、それが俺。
常に飢えと渇きに苦しみ、また食物や飲み物を口に入れようとしても燃えてしまい、腹が満たされることはない……と、言われているが
まぁ腹は満たされないことだけは事実だった、クソが。
ここは町はずれに存在する廃ビルを起点とした異界(他の餓鬼がそう言っていた、本当かどうかは知らん)、その端っこの方に
まぁ俺達とは言ったが仲間意識なんてない、ただ群れなければ狩られるから群れているだけだ。
暇潰しの雑誌を投げ捨てた結果することがなくなったので何とはなしに周囲にいる他の餓鬼達を見た。
『アア、モウ無クナッチマッタ……足リネェ……』
何かを狩ったのか拾ったのかわからないが物を食って不満を漏らす餓鬼。
『ンガァ……ンゴゴゴ……』
眠ることで空腹を抑えようといびきを立てて眠る餓鬼。
『ン? オイ、何喰ッテル?』
『サッキ拾ッタ石』
『…………石?』
『石ダ』
『……美味イノカ?』
『…………………………虚シイ』
『ダロウナァ!?』
食い物がないから石を口に含んでみる餓鬼とツッコミを入れる餓鬼。
『オ前、チョット何カ取ッテ来イヨ』
『ンア? 俺ハコノ間【狩リ】ニ参加シタゾ? オ前ガ行ケヨ』
『ハァ? ソノ【狩リ】ナラオレモ参加シテタゾ?』
『ナラ何デ俺ニ話ヲ振ッタ? ア?』
今にも喧嘩を起こしそうな餓鬼2匹。
『喧嘩するなら他所でやれ』、俺は思ったし他の奴らもそう思っているだろう。
だが気持ちは分からなくもないので文句をぶつける奴はいない。
幾ら食っても満たされない、幾ら飲んでも渇きは収まらない、それが
しかも餓鬼は弱い、食い物を手に入れる方法なんてほぼない。
弱そうなやつを集団で襲う、その辺に落ちてるモノを食う、どっか良いところに行く。
軽く思いつくだけでもこの程度しかなく、しかも俺達でも狩れそうなくらい弱い奴なんてそんなにいない、落ちてるモノは大体食いかけか腐ってるか食べずに捨てられた変なモノ、最後に至っては夢見が過ぎる。
前に『コンナ湿気タ所ニイツマデモ居ラレルカ!』そう言ってこの異界から別の異界に移住しようと画策した餓鬼がいた。
ここに居る俺含めた他の奴と比べても妙に理知的だったような気がする、ひょっとしたら元は餓鬼ではなく零落した何かの成れの果てだったのかもしれない。
別の異界に移住するどころか同じ異界にいる
その話を知っても誰も悲しまないし憐れみもしなかった。
「一体減って分け前が増えた」と喜んだ奴や「羽虫に殺されるなんて間抜けな野郎だ」と陰口を叩いた奴ならいた。
今
多い時は10体以上、少ないと4体くらいか。
多くいればそれだけ獲物を狩れる……と言いたいところだが大体取り分で喧嘩する。
やれ、「俺の方が沢山倒した」だの「俺が身体を盾にして攻撃を防いだ」だの「俺の作戦がうまくいった」だの、何かにつけて自分の取り分を多くしようとする。
つってもここでどれだけ本当のことを言ってるのか非常に怪しい。
「近くの奴を盾にした」「邪魔だったから不意討って殺した」「ムカつく奴だったからケツを蹴り飛ばして敵の前に転がして囮にした」の方がよっぽどマシだ、どれも事実だろう。
何より数が多いと目立つのも良くない、時々この異界に来る人間や異界の主に消されるのは何度か見た……ただ最近はどっちも見ていないような気もする。
運が悪いと死ぬ、生き残ると飢えで辛い。
死んだらそれまで、でも生きてても碌なことはない。
死ぬまでが時間潰しの暇潰し、それが
『オオイ!』
そんなことを考えていると外に出掛けていた餓鬼が興奮しながら駆け込んできた。
『ウルセェヨ……空キッ腹ニ響クジャネェカ』
『ナンダヨ……折角チャント寝レテタノニ……』
『ソレヨリモダ!』
他の奴の言い分など知らんとばかりに捲し立てる餓鬼。
『今弱ッチソウナ人間ガ来テルゾ!』
他の餓鬼が即座に立ち上がった、俺は怠かったので座ったまま話に耳を傾ける。
『何人ダ?』
『1人!』
『オンナ? オトコ?』
『オンナ!』
『『『『『オオオオオ!!!!』』』』』
歓声が上がった。
『何処ダ!?』
『何処ニイル!?』
大声を喚きながら詰め寄る餓鬼ども。
『コノ近クダ!』
『行クゾ!』
『イツマデ寝テル!』
『腹減ッテンダヨワカルダロ……?』
怒鳴られつつも俺は空きっ腹を抱えて起き上がり、他の餓鬼を追って走り出した。
◆ □ ▼ ○ ◆
この廃墟は入れる部屋は少ない。
というのも、単純に鍵が掛かっているだけでなくドアや窓に板と釘が打ちつけられているのが多数存在するからだ。
なので通路によっては部屋に入れないただただ長い廊下だけの場所もある。
『居タゾ……』
そして、件の人間はちょうどそんな通路の奥の方にいた。
しかもこちらに背を向けるような形ではないか。
『何シテンンダ?』
『アー……ウゲ、
『モシカシテ【デビルサマナー】?』
俺の位置からはよく見えないがどうやら
そうなるとデビルサマナーである可能性は非常に高い。
『ドウスル? 【デビルサマナー】ダト流石ニ辛クナイカ?』
そんな弱気なことを口にしてしまった。
『アホカ、アンナ極上ナモノヲ見ス見ス逃セレルカ』
『ソウダ、ソレニ食ウ以外ニモ楽シメソウダ……』
『アア、楽シミダ……』
どうやら俺以外の7体はやる気満々らしい。
それに遠目で顔は見えないが「女」が1人というのはなかなかない機会。
食う以外の欲求も満たせるなら多少の無茶はしてもいいし、何よりこちらに気づいていないなら数の暴力で押せるという魂胆。
何だったら多少数が減った方が【お楽しみ】を独占できると思っていそうだ。
『コッソリ近ヅイテ……一気ニ行クゾ……』
小声で呼びかけつつじりじりと距離を詰める餓鬼の群れ。
俺はその最後尾にいた、やる気満々の連中が率先して前に出ているからだ。
距離を徐々に詰めていくとその「女」の姿がはっきり見えてきた。
まず目についたのはその背の低さだった。
餓鬼の背は低い、精々60~90cm*2という人間の子供のような背丈しかない。
しかし女の背丈もそこまで低くないが子供同士で肩車をすれば大体同じくらいの高さになりそうなほど低い。
顔は背を向けているのでわからないもの、服装は船乗りが被るような黒いの帽子に豊かな金色の長髪を二つ結びにしていて、白シャツの上に大きめの黒いジャケットを羽織っているのを見えた。
ただ顔が見えていないにも関わらず他の餓鬼が盛り上がっていた理由がわかった。
胸だ、白いシャツを押し上げるような豊かなモノが背中から見えている、余程大きいのだろう。
『ゴ無沙汰ダナァ……』
『アア……』
近づきながら小声で何をするのか話しているのが聞こえる。
そんな中俺は、
(【レンズ豆のカスレ風】【鶏もも肉のプロヴァンス風煮込み】【牛筋の赤ワイン煮込み】……美味ソウダッタナァ……)
びっくりするくらい目の前の出来事に集中できていなかった。
さっさと投げ捨てたにも関わらず雑誌の写真やイラストが脳内でキラキラと輝いていた。
あの女と羽虫は他の餓鬼が何とかするだろうしお零れ預かってある程度満足したらまたあのキラキラな雑誌を見るのも悪くないかもしれない。
キラキラ、そう、丁度今視界の端がキラキラしたように―――
(―――待テ、今何ガ【キラキラ】シタ?)
この異界の特性なのか、多少暗いもののある程度の視界は確保されているし窓に板が打ち付けてあるとはいえその隙間から太陽の日差しが降り注いでいたりもする。
なので【何か】が光に反射して【キラキラ】と光るのは何もおかしくはない……おかしくはないのだが何故か無性に気に掛かった。
(何ダ、何ガ……)
足を止めて、他の餓鬼どもから孤立しつつも俺は凝視を止めなくて、
先行していた餓鬼の足元、その先に日の光に反射して【キラキラ】と光る透明な糸が見えた。
『……ン? オイ、ドウシタ?』
俺が足を止めたことに気づいた1体の餓鬼がこっちに戻りながら小声で話しかけてきた。
それに対して口を開こうとして、
カランコロン
『ンナ!?』『誰ダ缶蹴ッ飛バシタ馬鹿ハ!』『俺ジャネェゾ!?』『オレデモネェ!』『ナンダァ? 足ニ糸ガ絡ンデ……』『オ前ラ少シ黙レ!』
糸の先に結んであったらしい中途半端に潰れた空き缶が音を鳴らした。
先行した奴らは気づいた様子はない、だが凝視のため足を止めた俺と戻ってきた奴の眼にはハッキリとわかる、わかってしまった。
『罠ダ……』
呻くように口から言葉が漏れた。
それに答えるかのようにさらに音が聞こえた。
それは状況把握が出来てない先行した奴らの近くに投げ込まれた石が廊下に落ちる音と、
| 【マハラギストーン】*3 | 敵全体に火炎属性小ダメージ |
石に封じ込まれた魔力が解放された爆炎の音だった。
『アアア……イテェ……』
『クソガ!』
爆炎によって発生した煙の中、運が良いのか悪いのか俺は生きていた。
途中足を止めたおかげで先行していた
アイツらが聞いたら『モット早ク言エ!』と喚き散らしながら殴りかかってきたはずだ……もっとも、もう死んでいるからその心配はない。
(足ガ……動ケネェ……)
『アンナ見エ透イタ罠ニ掛カリヤガッテ! フザケンナアノボケ共!』
だが無傷な訳でもなく、もう一体は腕を、俺はよりにもよって足を負傷してしまった。
まぁ先行した6体に至っては全員消し炭になっているのでまだマシかもしれない。
逃げれないから直ぐ死ぬか後で死ぬかの違いしかなさそうなのがマシとか泣けてきた。
『最悪ダ! サッサト逃ゲ』
『あっ! まだ息があるのが残ってる!』
| 【ジオ】*4 | 敵単体に電撃属性小ダメージ&SHOCK効果 |
喚き散らしながらも逃げようとしたが追撃の雷撃を食らって断末魔の叫びを上げることもなく消し炭になった。
大声なんて上げずにこそっと逃げれば助かったのではないだろうか。
「後1体か」
女、いやデビルサマナーのくすんだ金色の瞳がこちらを静かに見据えた。
過去に何度か見た、俺達を殺すことに何の忌避感も持っていない人間の眼だ。
(美人ダナ)
ちゃんと見えた顔を見てそんな場違いな感想が浮かぶ。
腹は減ってるし、脳内は雑誌の美味そうな料理イメージが離れてないし、足は怪我で動かない上に見つかったデビルサマナーに武器を向けられて今まさに死にかかってる。
実に酷い、今までで一番ろくでもない状況なのではないだろうか。
一周回って笑えてくる。
『ハ、ハハハ……イテェ……』
『うわ何コイツ、なんか笑ってるんだけどキッモ……』
「……」
というか笑った、足は痛いが笑っていた。
どう考えても詰んでいる、そう思うとある意味気楽だった。
だからこそ、
『ナ、ナァ……助ケテクレヨ……』
絶対に通らないであろう「命乞い」をした。
死ぬまでが時間潰しの暇潰し、そう俺は思っている。
ならさっさと首をくくればいい。
惨めな境遇、クソみてぇな身体、それらとおさらばできるだろう。
でもそれをしないのは死にたくないからだ。
どれだけ惨めな境遇でも、
いくらメシを食っても満たされないクソみてぇな身体でも、
他者を食い物にしかできなくても、
餓鬼であるなら1度死んでこの姿になったのだとしても、
死にたくない、ただのその一心で今も生にしがみついているのだから。
「……仮にその選択を良しとして、貴公は何を差し出せる?」
『サマナー!?』
どうやら話は聞いてくれるらしい、少しだけ寿命が延びた。
『いやいやいや、サマナー正気? 餓鬼だよ餓鬼』
「そこまで言うほどのことか?」
『当たり前じゃん! 餓鬼って雑魚だし数が多いだけだしまともに話が通じない*5んだよ? さっさと殺した方が良いって!』
とりあえず黙ってくんねぇかなこのクソ羽虫!!!
俺の生き残る道を全力で塞ぎに掛かりやがって!!!
『オ、俺ハモウアンタニ逆ラウ気ハネェヨ。 ダカラ……ナ?』
「まぁそれは良いんだが代わりに何が出せる? 流石に『襲撃を仕掛けようとしたけど失敗したので無手で帰してくれ』は虫が良いと思わないか?」
『マ、マッカナラアル!』
「いくらだ?」
そう言われて慌てて手元のマッカを数える。
『………………8マッカダ』
「……妙に少なくないか?」
『ワタシ知ってるよ、餓鬼って殺すと27マッカ*6くらい落とすって。 コイツまだ隠し持ってるよ! 殺そ!』
『モウ持ッテネェヨ! コレガ全財産ダ!』
クソがよ、どうせ使わねぇからと前に他の餓鬼と賭け事したのがこんなところで響きやがった!
「他に何かないのか?」
8マッカじゃ許してくれなかったものの、交渉を続けてくれるデビルサマナーには感謝しかない……が他と言われても困る。
『あ、そうだ。確か餓鬼って傷薬*7持ってたわよね、それも出しなさいよ』
『ンナモン持ッテネェヨ羽虫』
『は、羽虫ィ!? アンタ言う事欠いて女の子にそんなこと言うなんてサイテー! やっぱり殺そうよサマナー!』
余計なことしか言わない
「ふむ、他にないなら―――」
『マ、待ッテクレ! 話ヲ聞イテクレ!』
痺れを切らしたサマナーが徐に武器を構えたので慌てて言い募る。
「さっきから聞いているぞ、【貴公は何が出せるのか】と」
『ソ、ソレハ……』
『やっぱ殺してマッカはぎ取った方が良くない?』
理由はよくわからないがこのサマナーは俺に【何か】価値を見出しているのは事実!
そうでないならさっさと交渉を打ち切っているはず!
なんだ、何も持ってない俺に何を、
(……イヤ、マサカ)
一つだけ、自惚れでなければ一つだけ差し出せるものがある。
『……アル、出セルモノハアル!』
「そうか、では今一度聞こう。 【死にたくない貴公は何を差し出せる】?」
サマナーがこちらを見据える。
『………………オ』
「オ?」
『オ、俺ガ【仲魔】ニナル! ダカラ命ダケハ助ケテクレ!』
マッカはない、アイテムもない、何もない俺が出せるのはもう俺自身しかない。
ハッキリ言って餓鬼をわざわざ仲魔にしたがるサマナーなんてかなり珍しい。
だがこの状況下で他に出せる選択肢なんてもうない!
「―――うむ、ならば契約と行こうか」
『ホ、本当カ!』
「ああ、よろしく頼む。 それと足の治療もしないとだな」
そう言いつつ手元の機械を弄りながらジャケットのポケットから【傷薬】を取り出してこちらに渡してくるサマナー、俺は腰が抜けてへたり込みながらも受け取って足に塗り始めた。
「契約完了、っと」
『えええ……餓鬼を仲魔にするの……?』
「ピクシー、餓鬼が【仲魔】になるのはそんなに嫌か?」
『だってサマナー、餓鬼だよ餓鬼、魔法に滅茶苦茶弱くて特技もビミョーな餓鬼だよ? もうちょっとレベル上げたらもっと良い悪魔がたくさんいるんだよ? わざわざ仲魔にする意味ある? ワタシはないと思うよ』
なんも否定できないけどもうちょっと手心込める気はねぇのかこのアマ。
『失礼ナ羽虫ダナ、オイ』
『羽虫羽虫言ってるアンタの方が遥かに失礼よ! ワタシはピクシー! それに【ジオ】と【ディア】*8が使えるんだからね!【ひっかき】*9しか使えない癖にデカい顔すんじゃないわよ!』
『イヤ【スクカジャ】*10モ使エルゾ?』
「そうなのか!?」『噓でしょ!?』
なんでそんなにびっくりしてるんだコイツら。
『でも何回か餓鬼と遭遇したことあるけど使ったところなんて見たことないわよ?』
『嘘ジャネェヨ。サマナー、ソノ機械デ見レバワカルダロ?』
そう言うと手元の機械を操作し始めるサマナー。
「―――本当だ、確かにスキル欄に【スクカジャ】がある」
『で、でも! じゃあなんでどの餓鬼も使ってこなかった*11のよ!』
『【スクカジャ】ナンテ使ッタラ
「食い」『逸れる……?』
なんだその顔は。
「あー……済まないガキ、食い逸れるとはどういうことだ?」
『アア? 例エバ他ノ餓鬼ト狩リヲスル時ニ俺ガ【スクカジャ】ヲ使ッタトスルダロ? ドウナル?』
『どうって……効率的に狩れるんじゃないの?』
『ソウダナ、
『俺以外……?』
「……まさかと思うがガキ、狩った獲物を分け合ったりとかは」
『一応アルゾ、トドメヲサシタ奴ノ分ケ前ガ一番多イケドナ』
『じゃ、じゃあ呪文でサポートを頑張った分とかは?』
『ンナモンネェヨ』*12
「『うわぁ……』」
おかしい、なんか妙に憐れみの籠った眼をされた。
「ん゛ん゛! 何はともあれガキ、貴公は私の仲魔だ! 良いな!」
『そうね! サマナーの仲魔ね! うん!』
『急ニドウシタ』
「良いな!!!」
『オ、オウ』
「分かればよろしい、では―――」
「改めてお互い自己紹介といこうじゃないか」
そう言ってサマナーは笑った。
◆ □ ▼ ○ ◆
「―――だから気づいた時には沢山の餓鬼が居て正直驚いたぞ」
『流れるように【マハラギストーン】投げつけてワタシも驚いたわ』
『目ノ前デ(一応)同胞ガ焼ケ死ンデ俺モ驚イタゾ』
自己紹介後、雑談をしつつ俺達は歩き出していた。
どうもサマナーは調査といくつかの用事を済ますためにこの異界に来たとか、さっき通路の奥にいたのはその調査の一環とか、罠は調査中周囲に意識を向けれないから保険も兼ねて設置しておいたとか。
道中臆した様子もなく、他の悪魔と出会ってもあっさりと倒していく姿には心持安堵すら覚えるほどであった。
安堵、そう安堵だ。
『サマナー』
「ん?」
倒した悪魔の落としたマッカやアイテムを回収しているサマナーに話しかけた。
『今、レベルッテ幾ツダ?』
「レベル? ちょっと待て」
そう言いつつ
「今はー……私は【7】、ピクシーが【4】、貴公は【5】だな」
\カカカッ/
| 人間 | モニカ・ヴァイスヴィント | LV7(+?) | 耐性:呪殺弱点、破魔無効*13 |
\カカカッ/
| 妖精 | ピクシー | LV4(+2) | 耐性:電撃に強い*14 |
\カカカッ/
| 幽鬼 | ガキ | LV5(+1) | 耐性:魔法・破魔に弱い、呪殺無効 |
『レベル7……』
『むぅぅぅ……餓鬼にレベルで負けてるなんて……でもすぐ追い抜かすわ!』
俺自身のレベルが上がっていることにも驚いたがそれ以上にサマナーのレベルだ。
【レベル7】、この異界に来る人間の強さとして見るなら多分そこまでおかしくもない駆け出しが少し強くなったような数値。
(イヤ絶対嘘ダ)
確か雑談の中で
いやもしかしたら本当に世の中の軍人全てがこのサマナーのように動けるのかもしれない、仮にそうなら外の世界が地獄か類似するモノになるので何か間違いであってくれ頼む。*15
もしそうでないならこのサマナーは一体、
『ねーねーサマナー、そもそもどこに向かってるの? 調査は終わったんでしょ?』
「ああ、
『ふーん……ねぇ餓鬼、この先って何があるの?』
『オ前何デ知ラネェンダヨ、コノ異界ニイタンダロ?』
『だってワタシちょっと前にこの異界に遊びに来ただけだし、そこそこ広い異界なんだから知ってるわけないでしょ?』
『ンナコトデ薄イ胸張ッテンジャネェヨ』
『誰の胸が薄いですって!?』
『事実ダロウガ、ソレヨリコノ先ハ―――』
俺はその続きを口にして、ついでその事実に思い至ってしまった。
『―――コノ異界ノ主ガイルトコロダ』
途方もなく嫌な予感がした。
元何かのビル現異界の最上階、そこはただっぴろいフロアだった。
元々は机なり椅子なり機械なりがあったのかもしれないが今はゴミや瓦礫が散らばっているだけの汚らしく寒々とした場所。
『なんだテメェら』
「お初にお目にかかる、この異界の主であっているか?」
『そうだが』
そこに【異界の主】はいた。
大柄な体型、頭部に大きな角を生やし全体を白い毛皮が覆っているものの腹部だけ奇妙な模様が描かれている悪魔。
\カカカッ/
| 邪鬼 | ウェンディゴ | LV11 | 耐性:??? |
異界の主、邪鬼ウェンディゴだ。
『ったく気持ちよく寝てたのに……何の用だ?』
「何、管理がなってないとのことだったのでそれを伝えに来ただけだよ」
『あ゛?』
『サマナー!?』
何を思ったのか唐突に喧嘩を売り始めるサマナー。
『ちょっと何やってるのサマナー!?』
「そういえば言ってなかったな。 最後の用事は【異界の主を話を聞いてもらうために一度叩きのめす】ことだ」
『聞イテネェゾソンナ話!?』
『嘘でしょ!?』
『おいおい、俺を叩きのめすって言ったか?』
サマナーの発言に鼻で笑うウェンディゴ。
『中々笑える冗談だな、今ならそれに免じて許してやってもいいぜ』
『ほら! こう言ってるわよサマナー!』
『マダ間ニ合ウゾサマナー!』
俺もピクシーも必死だ、ちょっと簡単な戦術について話し合ったがそれでも
「仮にそれで許してくるならこちらの言い分も聞いてくれるか?」
『はっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ。話を聞いてほしいなら誠意の一つでも見せるこったな』
「誠意か、例えば?」
『そうだな……そこで裸踊りでもすれば考えてやるよ』
『サマナー! 裸踊りで許してくれるって!』
『何他人事みてぇな顔してるガキンチョ、オメェもだよ』
『ワタシもやるの!?』
『チナミニ俺ハ?』
『男の裸踊りなんざ誰が見るか、そこで死んどけ』
「うむ、わかっていたが交渉決裂だな」
『状況ワカッテンノカサマナァ!?』
なんでそこまで平然としてるんだこの人間!?
遥かにレベル高い悪魔相手だぞ!?
「わかっているぞ、戦闘準備だ二人とも」
『クソガヨ!』
『こんなことなら契約結ぶんじゃなかった!』
『いい度胸だ、霜柱みてぇにさっくりと死ぬなよ?』
先に動き出したのはウェンディゴだ。
『この程度で死ぬなよ、ニンゲン!』【通常攻撃】
ウェンディゴの拳がサマナーを捉える。
『『サマナー!?』』
「―――問題ない、それより二人は補助を頼む」【通常攻撃】
『うおっ!?』
殴り飛ばされたにもかかわらずサマナーはお返しとばかりにウェンディゴへ切りかかる。
『チャント勝テルンダロウナ!?』
| 【スクカジャ】*16 | 味方全体の回避・命中が1段階上昇 |
『ワタシ裸踊りなんてしないからね!』
| 【ラクンダ】*17 | 敵全体の防御力が1段階下降 |
補助を掛けているもののこれで何かが変わるとは思えない。
そう思っていた矢先、自身の切り裂かれた傷を見たウェンディゴの顔色が変わっていることに気づいた。
『おいニンゲン、お前……なんだ?』
「モニカ・ヴァイスヴィント、何処にでもいる軍人崩れのサマナーだよ」
『さっきの冗談以上に笑えねぇな、テメェから先に潰す』
『凍り付きな!』
| 【ブフ】*18 | 敵1体を氷結属性小ダメージ、FREEZE状態になることがある |
ウェンディゴの魔法【ブフ】がサマナーに突き刺さる。
「状態異常【FREEZE】*19を引き起こす【ブフ】か、厄介だな」【通常攻撃】
『それを受けて平然と突っ込んでくるテメェは何だよ!?』【 HIT! 】
それでもサマナーの動きは変わらない、無傷でないはずなのだがただただ攻撃を叩き込む動きに乱れは一切ない。
そして俺達の動きも変わらない、デバフを叩き込んで相手の動きを阻害する。
『強い敵に遭遇した時、貴公らにやってほしいのは補助呪文の重ね掛けだ』
『4回、4回補助を掛けることが出来ればそれだけで相手は瓦解する』
『だから貴公らは―――』
先の会話を思い出しながらも補助を掛ける。
これが勝利へ繋がると信じて、何より生き残ると信じて。
『――――とでも思ってんのか?』
『回避あげてりゃ勝てると思ってたのか? 甘ぇよ雑魚共!』
| 【フォッグブレス】*20 | 相手パーティ全体の回避率と命中率を2段階ダウン |
積み重ねた
それを見たサマナーは―――
「ああよかった、【デカジャ】でないなら問題ないな」
| 【火炎撃】*21 | 敵1体を火炎属性小ダメージ |
今までと変わらぬ様子で銃を撃ち鳴らした。
『ガッ……テメェそんなもん持ってやがったのか!?』【WEEK!】
「そのまま撃っても大した威力は出ないから当然だとも、ガキ! ピクシー! 追撃と回復!」
『ああ? そんな雑魚悪魔に何が出来るって―――』
『ウオオオ!』
| 【アギ】*22 | 敵1体を火炎属性小ダメージ |
俺は馬鹿にされた怒りも込めて【アギ】を叩き込んだ。
『ぐげっ!? 馬鹿な! なんで餓鬼が【アギ】を!?』【WEEK!】
「なんだ知らないのか、餓鬼はレベルを上げると覚えるんだぞ? 常識だよ」
『んな常識があってたまるかァ!?』
おいサマナー、アンタも俺のレベルが上がるまで知らなかっただろうが。
『回復回復ー』【ディア】
そしてその隙間に
なんとなく先の言葉を思い出す。
『―――だから貴公らは2回ほど補助を掛けたら攻勢なり回復なりに回ってほしい』
『ハッキリ言って4回掛けるのは理想論だ、そうそう決まることはない』
『相手だって馬鹿じゃない、何かしらの手を打ってくることだってあり得る……いや間違いなく手を打ってくると考えた方がいい』
『それに長期戦ができるほど、我々はお互いを知っていないのだから』
『―――ふざけんじゃねぇ!』
ウェンディゴは怒りの声で我に返った。
『テメェらなんぞに俺が負けるわけがねぇ!』
魔力の高まりを感じる、恐らくこれは―――
『まとめて氷漬けになりなァ!』
| 【マハブフ】*23 | 敵全体に氷結属性小ダメージ、FREEZE状態になることがある |
氷の嵐が俺達を包み込んだ。
『―――なんでだ』
ウェンディゴの声が響く。
『なんでどいつも死んでねぇ!?』
【マハブフ】により凍り付きそうな身体を必死に動かす。
「範囲攻撃は単体魔法に比べて威力が若干下がるからだ、確実に落としたいなら単体魔法を使うべきだったな」
『オラヨォ!』
サマナーの【火炎撃】、そして俺の【アギ】が
『うーきっつい……』
「ピクシー、ガキの回復を頼む」
『もう! サマナー! これが終わったらたっぷりご褒美頂戴!』【ディア】
「勿論」
どういう意図なのか俺を回復させるサマナー。
「まだやるか?」
『ああ!? 当たり前だろうが!』
ウェンディゴが動こうとした時、サマナーが語り掛けた。
「それは困るな、私が依頼主に叱られる」
『ハッ! 安心しな、その前にテメェを殺しきってやるよ!』
「
その言葉に動きを止める
『―――何を言ってやがる、俺の方が強いのは分かりきってるはずだぜ?』
「そうだな、【個の強さ】は貴公の方が遥かに強い」
『だったら』
「だが【群の強さ】ならこちらの方が上だ」
ウェンディゴは何も言わない。
「例えばこの後貴公が【マハブフ】を使ったとしよう、恐らくピクシーは落ちるだろう。だがガキは落ちない」
『ちょっとサマナー!?』
ピクシーが驚いたように叫ぶ、先程俺を回復させた意図はそう言うことだったらしい。
『―――ハッ! だったらガキに【ブフ】をぶち込んでやるよ!』
「そうだな、このガキの耐性は【魔法全般に弱い】だ。直撃すれば落とせるかもしれないな」
『オイ!』
何の躊躇もなく俺の情報ぶちまけた挙句、天秤に載せやがった!?
「だが飽くまでも『
言葉を区切って貯めるように囁く。
「貴公の言葉を借りるならそうだな……『そんな雑魚悪魔に構って私を無視できるのか?』」
『ッ!』
ウェンディゴがたじろぐ、自身より遥かに小柄なサマナーに、だ。
「それに言ったと思うが私の目的は貴公の撃破ではなく『話を聞いてもらうこと』だ……ここはお互い痛み分けといこうじゃないか」
『テメェ……!』
「それとこれはあくまでも個人的な意見だが―――」
サマナーは笑みを浮かべた。
「どちらかが全滅するまでの闘争がお望みなら私はそれでも構わないよ?」
酷く蠱惑的で慎ましい邪悪な笑顔だった。
◆ □ ▼ ○ ◆
「いやぁ話の分かる異界の主で助かった」
『オ、オウ』
『そ、そうね』
いや最後全力で脅してたよな?
口には出さなかったが目が合ったピクシーも同じようなことを考えただろう、まさかコイツと分かり合えるとは思わなかった。
―――結局、折れたのはウェンディゴの方だった。
サマナーからいくつかの言葉と傷薬を受け取るその姿は戦闘中以上に疲れていた。
『クソッ……こんなバケモンが来るとかふざけんな……俺は癒しを求めただけなのに……』
『バケモンとは失礼な、それに先程裸踊りがどうと言っていたのは貴公の方だぞ』
『オメェの裸踊りは絶対見たくねぇわ、鼻と股間伸ばしてる間に首跳ね飛ばされかねん……』
『私はヤクシニーではないのだが……?』
俺とピクシーは離れて会話を見守った、悪魔交渉はサマナーの役目だからだ、他意はない。
『それよりサマナー! ワタシ頑張ったよね! ご褒美期待して良いんだよね!?』
「さっきも言ったが勿論だ、といっても何でもとはいかないからそこは留意してれると嬉しい」
『じゃあドーナッツ20個くらい食べたい!』
「構わないが……ちゃんと食べ切れるのか?」
『ドーナッツ』の実物は見たことないがピクシー自身の数倍ほどの量がある気がするんだが。
『え、えーと……じゃあ1日4個を1週間で! どう!?』
「……まぁいいか、後で買いに行こう」
『やったぁ!』
しかもちゃっかり量増やしてやがる。
「ガキ、貴公はどうだ?」
『俺カ?』
「かなり無理をさせたのはピクシーと同じくらいだからな、何が欲しい?」
『ソウダナ……』
欲しいもの、そんなこと今まで考えたことすらなかった。
そう考えて思いつくのはあの【キラキラ】な雑誌。
『煮物ガイッパイ食イタイ』
「……煮物?」
『ソウダ、【レンズ豆のカスレ風】トカ【牛筋の赤ワイン煮込み】トカ【ポトフ】トカ【チキンラグースープ】トカ……』
「待て待て待て、偉く具体的な名前が出てきたが私は知らないのもあるしどんな料理なんだそれ?」
『へ―そんな料理あるんだー……そうだ! サマナー作ってよ!』
「えっ私が作るの?」
『……無理カ?』
「う、うーん……」
サマナーが呻き始めた、やはり無理だろうか。
「……わかった、書店ならレシピ本くらい売っているだろうし食材もその時買おう」
『本当カ?』
「ああ、但し味は保証しないぞ。良いな?」
『良イゾ』
「そこに同意されるのはちょっと複雑だ……」
そんなことを話していると異界の出口が見えてきた。
そして出口に足を踏み入れた時、
『アバヨ』
何となくそういうのが正しいと思った。
・登場人物・悪魔紹介
幽鬼 ガキ
今回の主人公。
当悪魔としては「まぁそこそこ経ったら合体なり放逐なりでさよならだろうな」と思いながらも今はシャバを楽しむつもりである。
……が、彼はまだ知らない。
この変なサマナーと口に悪いピクシー、彼女達とは長い付き合いになるということを―――
モニカ・ヴァイスヴィント
今は新しく仲魔にした二体のために見慣れないレシピに見ながら包丁とお玉持って料理と格闘している。
妖精 ピクシー
口の悪い妖精、がんばった記念に今まで食べたことがないドーナッツを貰ってご満悦。
「暫くはこのサマナーと一緒に居よー」と先の戦いでの恐怖など忘れたように今を満喫している。
邪鬼 ウェンディゴ
能力は真2、姿はソウルハッカーズなウェンディゴ。
異界から外の空気の変化を感じ取っており、その影響もあって異界の主としての管理を放棄しかけていたところにモニカ達がやってきたのが今回の話。
今回の一件以降、本来の用心深い性格が出てきたようで軽い要求の類はしないようになった。
ちなみに
作品次第ではそれ専用のスキルやアプリにより交渉が可能
【ひっかき】のスキルしか覚えていない
もしかしたらまたこういう番外めいた仲魔の幕間を書くかもしれません。
次は掲示板と本編に戻ります。