真・女神転生 オタクくんサマナー異伝:奇妙な旅に終わりはなく 作:黒橋
それでは本編にどうぞ
※時系列はオタサマ本編の新世塾への襲撃付近です。
かつて、都外の山間に金属加工を主に行う小さな工場があった。
『あった』という表現なのは今その工場は廃業したから。細かく言えば社長の代替わりからほどなくして経営不振に陥った挙句いくらかの借金を残しての夜逃げにより行方不明。跡取りがいなかったため工場の閉鎖は決まり、借金に関しては工場及び残された備品を差し押さえることで一応の解決が済んだとのこと。
何故そのような不良債権の工場が取り壊されずに残っているのか、それは「壊す資金が無くやむを得ず塩漬けになった」「別の使い道があったので残した」「買い取ってもらえる当てが外れた」等々の憶測はあるものの、あまり関係ない話なので割愛しておく。
そんな人気が絶えて久しいはずのかつて工場だった建物。
玄関入り口付近に男2人ほど気だるそうな様子でパイプ椅子に腰かけてぼんやりとしていた。
「ふぁぁぁぁ……なぁ、交代の時間いつだっけ?」
「……お前それ3回目だぞ、後10分くらいで交代だから気合入れろっての」
「うげぇまだ10分もあんのかぁ……だってよぉ、誰も来ねーだろこんなところ」
自身の疑問に答えた男の返答に眠いのか欠伸を噛み殺しながら愚痴を零して周辺を見渡す。
工場周辺に民家が存在しないのと時間帯が夜、さらに雨の気配こそないものの生憎空が曇天なこともあってか灯らしい灯は男達の近くに置いてあるバッテリータイプのランタン及び入り口の隙間から漏れている光くらいであり、次いでただ暗いだけでなく木々や草花、藪等が見通せない闇を形成して不気味さと圧迫感を周囲に満たしている。
「そんなに嫌なら工場内の巡回にいけばよかったじゃねーか」
「はぁ? 多少強いだけの酒臭いおっさんに顎で使われるとか怠ぃわ」
「なら文句言うなよ」
男2人の会話から察せられるのは警備または門番として入口に待機しているはずなのだが片方の男のやる気が底をついているのか先程から欠伸を噛み殺すのに忙しい。
ガサッ
「っ! おい、今何か聞こえなかったか?」
「何かって何だよ、ただの草木が揺れる音だろふああああねっむ……」
話を振るも相方はやる気のなさそうな反応。
その様子に少し怒りを覚えつつどうにかやる気が出る話題が無いかともう一度自身の腕時計で時間の進みを確認した。
「とにかく後8分で交代だ、それまできちっとやれよ金だって出てるんだしさ」
「……」
「……おい?」
返事がないことに違和感を覚え顔を隣に向けると、
「zzz……」
そこには椅子に深く腰腰かけ持っていた銃を手から地面に取り落としつつイビキをかき始める相棒の姿があった。
「――――テメェいい加減に」
余りの光景に一瞬言葉を失いつつも語気を荒げつつパイプ椅子から立ち上がろうとして、
「し――――zzz」【SLEEP】
力が抜けたように椅子へ座り直し、否転げ落ちながら眠りにつく男。
「―――周囲に人影無し、増援無し」
少し時間を置いて暗闇の中から囁くように声が響き、7名の人物が音を立てずに出てきた。
さらにその中から2名が眠っている男達に近づき手に持ったロープで縛りあげていく。
「気づかれないように投げたとは言え【睡眠の秘石】*1があっさり決まるとは……本当に見張りか? 周囲の警戒を続けろ」
「了解」
「モッさーん、こいつらはどうしますー?」
指示を出している小柄な人物、「モッさん」に男達を拘束していたうちの1人が声を掛けてきた、見ればロープだけでなく猿轡をかまされつつ安らか?そうな寝顔を浮かべている。
「外はC班の領分だ、邪魔にならないところへ転がしておこう。わざと起こそうとしなければ問題ない」
「うい、さーいえっさー」
どことなく気が抜けるような口調で返答しつつおどけるように敬礼。
「それは男性の場合だ
「なるほどぉ……ああいや、『イエス、マム』、ですな?」
「そうだ」
どことなく軽薄そうに返す板谷に軽く嘆息しつつモッさん、もといモニカはここに来るきっかけとなった電話での会話を思い出していた。
『急な依頼を送ったことは詫びるぜヴァイスヴィント』
「まだ受けると決めたつもりはないよ八ヶ崎」
電話相手の名は
『そう言わずに話くらいは聞いてくれよ、お互いに損はないはずだぜ』
「無論話を聞こう、受けるかどうかはそれからだ」
『そう来なくっちゃな』
楽しげだがどことなく安堵したような呟きが聴こえた。
「で、その依頼内容というのは?」
『廃工場の制圧だ』
「工場? 何か違法性のあるものでも製造しているのか?」
『いや工場自体は5年前に不況の煽りを受けて倒産した普通の工場で
「なるほど、では制圧というのは?」
『ざっと調べたところチンピラや半グレ連中、それと
そこで言葉を切った八ヶ崎と少し思案に入るモニカ。
『何か気になることでもあったか?』
「幾つかあるが順に聞こう、この依頼は誰が出した?」
『現所有者、それも【キリギリス】に所属してるDBだ。あの工場、少し前にソイツが買ったのはいいんだが改修するために道具集めやら資金集めやら依頼やらこなしてて粗方準備が整っていざと思って見に行ったら不法占拠に気づいたんだと』
「その際に接敵は?」
『してねぇ、まさかただの元工場が占拠されてるとは思ってもなかったから装備なんてねぇし明らかにろくでもなさそうな連中だったから気づかれる前にそのまま引き返したそうだ』
「買い取った建物が不法占拠されてましたは確かに想定外だろうな……というか事前に現地に赴いて確認しなかったのか?」
『ああ、今のご時勢はネットで内装やら外装やら確認もできるようになってる上に場所がやや僻地だったから実際に足を運ぶのは準備整えてからにしようと考えたんだとさ』
便利なのも考え物だな、と八ヶ崎。
「なるほど、それと参考までに何の用途で工場を買ったのかは聞いているか?」
『倉庫兼サバゲーで使うモデルガンの試射場にするつもりだったそうだ』
「サバゲー……確かモデルガンを使った集団戦術行動*2だったか? この業界ならそんなこと毎日やってると思うんだが」
『わかってねぇなヴァイスヴィント、【命のやり取り】がしたいんじゃなくて【遊び】で仲間達と戯れたいんだよ。それに秘密基地はロマンだろうが』
理解の色が薄いことにやや皮肉るような口調で囀る。
『で、他気になることは?』
「そうだな……そもそも何故僻地にある工場が不法占拠されたんだ?」
『断言はできねぇがここ最近あった事件のせいだろ』
「どれのことだ?」
該当しそうな事件と言われてもここ最近日本にやってきたモニカですら複数思い当たる。
『そりゃあ非合法レルムでの集団失踪事件だ、概略ぐらい知ってるよな?』
「この業界に居て知らないのは余程の世間知らずか俗世と縁を切っている修験者くらいだろう?」
【レルム】とは【表】と【裏】の人間が交じり合わないようにするための場所である、故に本来【表】で扱えばしょっ引かれるであろう銃や刀といった武器・防具を売買する店、表だって出すことはできない強力な薬品を調合する薬屋、悪魔という秘すべき存在を扱う邪教の館、さらには情報提供及び交換の場と成り得る喫茶店やバーのような社交場、他にも数多くの施設が存在している。
この部分だけ聞けばただの犯罪都市のようにしか聞こえないが彼らは別に好き勝手やろうという意思はなく、何の関係も無い
だが全てのレルムがそうなのかと問われればそうではなく、大きく2つに分けることができる。
国、または表の企業含め諸勢力からの支援と合議により成立している【合法レルム】
そういった支援も合議も無く勢力がただ寄せ集まって
この場合、後者の【非合法レルム】にはそのような秩序も協定も存在せず、また結界類が敷かれていることは珍しくあったとしてもその質は粗いので悪魔の出現を封じ切ることもできていない。
そもそも悪魔以前に警邏の類もいないためその場にいる人間から襲われる危険性があり、裏の人間から見ても関わること自体がリスクとも言えるような場所だ。
しかしそんな危険地帯ですら一定の需要は存在する。
例えば、【裏】の秩序と協定を破り【合法レルム】から追放ないし脱走した商売人や職人。
例えば、悪名によって顔が知られている、もしくは賞金が掛かっているために表立って動くことができない犯罪者。
例えば、
【表】にも【裏】にも居場所のない彼らにとって最後の
そこで発生したのが非合法レルム集団失踪事件である。
もっともこの表現はいささか語弊があるのかもしれない、なんせ居なくなった数人数十人で収まらずその
先程も評したが【非合法レルム】には秩序も協定も存在していない、即ち後ろ盾としての観測並びに管理者が不在なので具体的にどれほどの人間が居たのかはわからない。一応レルムの規模から凡その最大滞在人数を割り出せなくもないが具体的な数値は出せない。
更にこの襲撃者達は余程自分達の正体に気づかれたくないらしく証拠の類が碌に出てこず、わかるのは現場に残された建物・地面や壁等に残る銃痕や斬り傷から何者かによる大規模の襲撃があった、という事実くらいだ。
『なら細かい説明はいらねぇな、それと少し前に合法レルムでのレイドバ……もとい巨大悪魔の襲来があっただろ?』
「ふうむ……つまりこの一件はレルム自体への不信感が切っ掛け、と?」
『
どこか含みのある返答であったが内容としては肯定である。
合法レルムでの巨大悪魔の襲来、そして非合法レルムにおける集団失踪、どちらも普通に考えれば起こる自体があり得ない出来事である……が現実にそれは発生してしまっている。
『合法非合法問わずレルムは安全でなく危険なのではないか』、そう考える人間が居るかもしれないし、それ故に別の安全地帯を作ろうという動きがあってもおかしくはない。
『つってもんなこと考えるのは情勢が読めてねぇ
吐き捨てるように呟かれた言葉を否定することはできない。
何より複数の企業や組織が協力して作り上げた
『まぁ向こうの事情何ぞこっちは知ったこっちゃねぇ。アイツらのやってることはただの不法占拠で俺達、つまり【チーム
班は大きく3つに分かれている。
モニカ率いるA班は正面から侵入し派手な騒ぎを起こしつつ中にいる敵のヘイトを集めて掃討、八ヶ崎率いるB班は時間差で別口から侵入して本命である取り纏め役の排除、C班は外に逃げる敵の見張り並びに後方支援。
特に何もなければ連絡は極力取らずに各々の役割を全うする予定で
『どうした、連絡は必要最低限じゃなかったのか?』
「結論だけ言おう、入口にいた二人の雑談から金で雇われていることを仄めかす話が聴こえた。貴公が言う
『……めんどくせぇなぁ、おい』
「どうする? 私は雇い主の判断に従おう」
『流石にその情報だけで引くのは無理だ、このまま続行する。但し、状況次第では退却も視野に入ると思ってくれ』
「了解した、通信終了」
「モッさん、ハチさんはなんて?」
通信を終えるのを見計らって板谷が話しかけてきた。
「このまま依頼は遂行するが状況次第では退却するとのことだ」
「うっす、でもそんなにヤバいんです?」
「そうだ。諸君、気を引き締めてくれ」
「この先、我々の想定を超える【何か】が潜んでいる可能性が高い」
工場内部に侵入したモニカ達が最初に見たもの、それは『肥大した玄関フロア』であった。
事前に確認した見取り図だと正面玄関から入って直ぐは大人が5人居るだけで圧迫感を感じるような狭い玄関と靴入れ箱、そしてすぐ近くに内部に繋がる扉があるだけの場所。
それが大人5人どころか50人ほどが詰めてもまだ余裕がありそうな広さになっていた。
建物の外観に変化は一切見られずこれは拡張工事をしたものなどではなく【異界化】によるものだというのは直ぐに察しがついた。
モニカ達が部屋を呆然としていると奥の扉が開き、中から人が出てた。
それも1人や2人といった人数ではなく、5人、10人と増えていき最終的に20人ほどにまで膨れ上がり、各々が銃や剣、金属バットなどの武器を構えてこちらに敵意の籠った眼を向けている。
その内の一人が、何かしゃべろうと口を開き、
『ウボェェェェェェェ!!!!』【フォッグブレス】*3
「問答無用!」【豪雷乱撃】*4
「「「「「「「ギャァァァァァァァァァァァッァ!!!!????」」」」」」」
何か言おうとしたチンピラの言葉を待たずにモニカは
「モッさん、ここは相手の言い分を聞くところじゃないんです?」
「貴公は自分の家に侵入した泥棒が捕まった後に交渉を持ちかけてきたら応じるのか?」
「ソッコーで
「そういうことだ」
早々に撃ち切った弾倉を交換しつつ土煙の巻き上がる空間を油断なく見つめる。
徐々に煙が晴れていき、そこには先程まで戦意を滾らせて【いた】チンピラ達が尽くうめき声をあげながら地面を舐めていた。
「……妙だな、【プレートバンダナ】*5くらい装備してもおかしくはないだろうと【デスペラード】*6でなく電撃属性の【豪雷乱撃】にしたが全滅?
「もしかして前にハチさんが『非キリギリスの
「【ノーマル耐性】の防具? 何故?」
「確か弱点がないからどの防具と組み合わせてもいいのとどこでも買えるから、だったような……」
「なるほど」
確かに弱点のない防具であればどのような場面でも使用可能であるしその分防御力の高い装備をチョイスすることでダメージ軽減に繋がるというのは間違いではない……が、正しくもない。
例えば先にあげた【プレートバンダナ】、防具性能は多くの耐性が下がる上に防御力も低い。しかし【ガン耐性】は驚異の【10%】でその部分だけ見るなら防御力の高い装備を複数身に着ける以上に効果を発揮する装備として有名な代物。
但しそれは『正しく性能を理解している』ことが前提なのだが。
ただ性能だけ見れば『ガン耐性は凄いがそれ以外は微妙』な防具という評価もまた間違っておらず、『一つの耐性強化するよりも全体を底上げした方が良い』と【ノーマル耐性】の防具を選択するのは悪くはない……が、現環境においてそれは賢い選択肢には成り得ない。
ただ防御力が高いだけでは
ただ防御力が高いだけでは状態異常は防げない。
ただ防御力が高いだけでは即死する。
故にこそ耐性パズルと揶揄されながらも多くの界隈関係者はいくつもの耐性装備を組み合せつつ日夜環境に応じて装備を更新している。
そこには積み重なった集合知が存在し、見た目こそ不格好かもしれないがただ適当な防御力の高いだけの装備一式を着込むよりも遥かに強力な装備一式へと昇華されるのだ。
無力化したチンピラ達から視線を外しつつ奥の扉に目を向けると何か慌てたような様子の足音がこちらに向かってくるのが聴こえた。
「何にせよ敵が釣れた、我々の
『イエス、マム!』
「よろしい」
気合の入った返事に笑みを浮かべつつモニカは武器を構えた。
その後やってきた敵の集団を叩きのめし奥へと侵入していくモニカ達。
案の定というべきか異界化により明らかに建物内部の地形が別モノになっており、手元の見取り図は役立たずと化したので周囲を警戒しつつ慎重に奥へと足を進めていく。
そんな折、板谷がぼそりと呟いた。
「しっかしハチさんの心配し過ぎだったんですかね」
「何がだ?」
本来なら敵地での会話なぞ相手に居場所を教えるようなものなので叱咤すべきものなのだが
「敵地の異界侵入だーって話だったから前に入ったことのある異界よろしくレベル40越えの悪魔がポンポン出てくるもんだと思ってたんですけどさっきから悪魔どころかチンピラしか出なくて当初の予定通りモッさん抜きの俺らでも十分対応できたんじゃないかなぁって」
「むしろ貴公は良くそんなところに迷い込んで無事だったな……?」
「運よくハチさんが助けてくれましたんで」
「ふむ、まぁしかし言わんとせんこともわからなくもないな」
「あれ? モッさんも同じ意見なんです?」
「ああ、いくらなんでも弱すぎるからな」
少なくとも
その上人数は圧倒的に多いので立ち回りさえしっかりすれば大分苦戦するだろう。
しかし、しかしだ。
指示を出そうする人間が居ない、連携を取らない、それどころかお互いの足を引っ張る、自分だけ助かればいいと言わんばかりの突出したスタンドプレー。
何か罠があるのではないか、そう思ってしまうほどの脆弱さ。
「何割かはモニカさんが原因だと思うんですけど」
「それな、このメンバーの中で【ガキとブラックウーズ連れたちっこいサマナー】が一番強いとかぜってーわかんねぇよ」
「悪魔チョイスが一般野良ダークサマナー*8のそれ」
「ガキなのに俺らの誰よりもレベル高いのは詐欺だよ詐欺」
「さっき飛び掛かってきた奴なんて鼻の下伸ばしながら【アイアンクロウ】*9で処理されてちょっとだけ同情したもん私」
周囲を警戒していた面々が同調するように言葉を漏らした。
「しかしだな諸君、現環境で見かけないような悪魔を連れていたらまず警戒すると思わないか?」
「モッさん、俺この業界入ったばっかりですけど悪魔のチョイスが絶妙過ぎて『怪しい』の前に『弱そう』って認識が来るんですけど」
多少の自覚があったのか板谷の言葉に二の句が継げなくなりそっと目を逸らす。
(しかし、なんなんだろうなここは)
逸らした先にあった絶賛稼働中な電灯、それと天井から伸びたコードで辛うじで繋がっている壊れた監視カメラを見ながら考えを巡らせる。
そもそもの話、ただの「情勢の読めないチンピラによる工場の不法占拠」であったのなら、知人の依頼であったとしてもモニカは受けようとはしなかっただろう。
受けた理由は大きく2つ。
1つ目はただチンピラが不法占拠したというのは妙に手が込んでいること。
依頼を受けた八ヶ崎もまた、率いているチーム全体の対人経験を積ませるべく受けたものであり、何かあったとしても自分やそれに匹敵するメンバーのサポートでどうとでもなると考えていたのだが主犯格である男――名は
曰く、『坂口と思われる男が声掛けで人員を集めている』点
曰く、『占拠前から何台かの車が深夜等の隠れるように工場へ出入りしている』点
前者は声掛けだけ集めているので大した人数でもないかと思いきや蓋を開ければ入口の時点で20名、追加も含めれば30人くらい居た。中にまだ人員がいるとすればネットや依頼等を介さずに声掛けだけで集めるのを徹底しているのは余程バレてはいけない理由があったのだろうか?
次に後者に至っては周囲の監視カメラ等を調べたところ、遡れた時期だけで少なくとも1か月ほど前から定期的な出入りがあった。
最初は管理会社の車なのかと確認を取るも定期検査はあるものの、頻度は4か月に1度くらいの期間があり、尚且つその検査日時は今日から数えて1週間後であるとのこと。
(何より潜入してわかったがこの異界、
本来異界を作る技術自体は秘匿すべきものでド素人が手を出したとしても完成することはあり得ない。しかし
それでも根本的な知識があるかないかで異界の出来も違うし、何よりこの大人数を収容できるレベルの異界ならきちんとした術者でなければ破綻して当然なのにその兆候は感じられない。
少なくとも坂口自身は【レベル57】のそれなりの腕を持つDB*10であるが異界作成に長けているという情報は無い。
十中八九何かが裏にいるのは間違いないだろう。
そして2つ目の理由、それは、
(詳細は不明だが坂口は【龍殺し】について何か知っている、か)
今回八ヶ崎達がモニカへ協力を呼び掛けることにしたきっかけになったのは坂口の調査でわかった向上占拠を実行する前に寄ったミール店での店員との会話である。
聞き取りによると坂口は当時珍しく酒に酔ってない状態で入店してミールを注文する際、対応にあたった女性店員に武勇伝のようなものを語っており、内容は悪魔の名前を挙げて「アレを倒した」が大半で女性店員はある程度は聞きつつも接客をしているとその中で「【龍殺し】という凄い武器」の話が出たらしい。
聞きなれない単語であったため女性店員は思わずそれは何かと聞き返したのだが何故か武器の形状や謂れではなく「どういう字を書くのか」という部分だけを語ると出来たミールを受け取ってそのまま帰った、という話が聞けたのだ。
控えめに言って非常に怪しく胡散臭い内容である。
しかし女性店員には操られた形跡や偽っている様子等は一切なく、不審に思いつつも八ヶ崎達は念のためその単語を調べ結果モニカに行き着いた、という訳である。
いくら調査が煮詰まっていたモニカとて「手がかりだ!」と歓喜することはなく「話の出所くらいは参考になる……か?」と非常に後ろ向きな評価をしつつ依頼を受けた。*11
もっとも踏み込んだ先にあったのは練度はイマイチといえ想定より遥かに多い
「ブラックウーズ」
『なに、サマナー』
「何も言わずこれを飲んでくれ」
周囲の警戒をしていたブラックウーズへCOMPに収納してあった酒瓶を取り出してそっと差し出した。
『急だね、まぁ飲めというなら飲むけど』
「モッさん、何してるんです?」
「貴公らはこの後何事もなく異界を踏破して八ヶ崎達と合流できると思うか?」
「それは……」
その問いかけにきちんと言葉に出来るものはいない。
「断言はできないが異界の最深部は近い、そこで今のうちに突入の準備と再確認をしておこう」
「うっす、ところでブラックウーズには何を飲ませたんで?」
「できれば無駄になって欲しい保険」
『うーんフルーティーですっきりとした味、悪くない……もう一本ない?』
「残念だがそれ一本しか買ってないからもうないぞ」
『そっかー』
モニカがそう答えるのとブラックウーズが飲み干した酒瓶を名残惜しそうに眺めた。
異界の最深部は学校の体育館を彷彿とさせるような高い天井、そして設置物等も何もなく寒々しさすら感じるただただフロアが広がっており、元は工作機械や専用機等が稼働する工場の心臓部だったのかもしれない。
本来であれば埃っぽさが鼻についたのだろうがそれ以上に別の匂いが部屋いっぱいに充満している。
鉄錆びた匂い、即ち血の香りだ。
周囲を見れば武器を持った男達が倒れており、先程まで戦闘があったであろうことは容易に想像がついた。
「……ん? おお、遅かったじゃないの」
そんな中、周囲の風景に気を止める様子もなく今しがた使ったであろう【魔石】*12を持ちながらこちらを見て笑う男。
適当に伸ばしたぼさぼさな髪に何処かのっぺりした笑みが張り付いた顔、服装はカーキ色の薄いコートを羽織り、左手には【魔石】、右手には一振りの刀が握られている。
「そろそろこっちから迎えに行こうかと思ってたんだよね」
使い終わった魔石をその辺に放り投げ、落ちると乾いた音がフロアに響き渡る。
どこか友好的な笑みを浮かべつつ、男はモニカ達へ歩を進める。
「誰だ貴公」
そんな
「誰って……コーダ・ジョーだよ? 聞いたことあるだろ?」
「知らん」
「あれぇおっかしいなぁ……あー……いやまぁこれから伸びしろがまだあるってことかー……」
「それより
独り言をブツブツと呟く男にこそっとCOMPによる簡易アナライズを掛けつつここにいるはずの八ヶ崎の特徴を一つ上げて問いかける。*13
「とくとうの男? ……ああ、ハゲ頭のことね」
首を傾げる男であったが少し考えて何のことなのか分かったらしく、
「もしかしてコイツら探してる?」
そう言って身体を半歩程横にずらすと、隠れて見えなかった場所が見え、
そこには八ヶ崎達B班の面々が倒れていた。
「ッ!」
「八ヶ崎さん!?」
「あ、やっぱり知り合いなんだ。聞いてよなんか突っ込んできた割りには大して強くなくて退屈だったんだよねー」
「テメェ……!」
「俺はどうでも良いし持って帰りたいなら持ってって良いよ」
モニカ達が漏らす反応に意を介した様子もなくペラペラと舌を回し続ける。
その間、どうでもいいと言いつつも八ヶ崎達の倒れている場所から動く気配はない。
「代わりと言っちゃあなんだけど俺のお願い聞いてくれると嬉しい」
男が更に何か言い続けようとしたところで、モニカは無言で銃を引き抜くと男に向かって発砲した。
「へぇ、そんなことするんだ」
男は飛んできた銃撃に対応しようと持っていた刀で受け流そうとし、
| 【パンチガン】*14 | 敵1体を弾き飛ばし戦闘から強制離脱させる |
「おっとぉ」
「GOGOGO!!!」
「ハチさん! ひでぇ怪我……」
「モニカさん、この後は」
「プランE-2! 急げ!」
「「りょ、了解!」」
男が吹っ飛んだ隙に即座に前へ出て八ヶ崎達が倒れている場所に辿り着くのと二人が【スタングレネード】*15地面にを叩きつけた。
「悲しいなぁ、目的果たしたら即トンズラってこと?」
何とか体勢を立て直した時には強烈な光と音が周囲を満たし、結果一部の五感が使えない状態でコーダ・ジョーは刀を構える。
相手が何処にいるのかはわからないし、周囲には自分と同じ雇われが死んでるのか死んでないのかはさておき転がっている。
それでもとりあえず範囲攻撃をすれば逃げてる誰かに当たるだろう。
もしかしたら転がってる誰かが蘇生不可能になるかもしれないがそんなことは自分の知ったことではない。
そう考えて刀振り被ぶろうとして、
「―――!」
「っと」
咄嗟に感じた気配に合わせて刀を防御に回すと何かをはじくような感覚を覚えた。
弾いた【何か】を確認しようと漸く視界が戻ってきたので目を凝らす。
「あれ? 逃げたんじゃなかったの?」
「彼らを逃がしただけだ」
弾いた【何か】、即ち斬りかかってきたモニカは後方をチラ見しつつ武器を構える。
他のメンバーは既に八ヶ崎達を担いで逃げた後らしく遥か後方の扉が音を立てて閉じていった。
「そっかぁ……まぁいいっかあんまり強そうじゃなかったし」
「追わないのか」
「え、なんでそんな面倒なことしないといけないんだ?」
「なんだと?」
何処か投げやりな物言いに眉を顰める。
ここに来るまでの
指示を出そうする人間が居ない、連携を取らない、それどころかお互いの足を引っ張る、自分だけ助かればいいと言わんばかりの突出したスタンドプレー。
それでも、ここを守ろうとする意志はあった。
この男には、コーダ・ジョーには、
「俺はねぇ、名を上げたいんだよ」
「今はさぁ、強かったらどうとでもなるんだろ? 強かったら欲しいものは手に入るしもうペコペコ頭下げなくたっていいしアイツらに指図されることだってなくなる……」
特に聞いてもないことを手に持った刀をウットリとした表情で眺めつつ、男は語る。
「素晴らしい世界だよ、そう思わない?」
「全然そう思わない」
悪魔被害で贔屓していたお店が一時休業を余儀なくされたことを思い出しつつモニカは顔を顰めたまま答えた。
「あっそ、まぁいいやどうでも。それよりもさ」
「アンタ、強いし名前も知れ渡ってるんだろ?」
気分を害した様子もなく男は刀の切っ先をこちらに向ける。
それと同時に簡易アナライズが完了した通知がモニカの耳に届き、視線を切らないまま確認。
「だったらさぁ、死んでくれよ」
「俺の名を上げるために、そしてこの―――」
「【龍殺し】のためにも、さぁ」
\カカカッ/
| 超人 | コーダ・ジョー | LV84 | 耐性:??? |
怪しくも輝くその刀の銘を口にした。
登場人物&組織紹介
・板谷
とある悪魔の関わる事件に巻き込まれ異界に逃げ込んだ結果、偶然依頼をこなしていた八ヶ崎に助けられこの界隈に入った元一般市民な男、21歳。
顔合わせの際にモニカが「好きに呼んでくれ」と言っていたので「モッさん」と呼んでいる。
・チーム
正式名称は「死にゲー同好会【故郷】」。
八ヶ崎が死にゲー布教のために裏の住民を引き込……もとい熱心な説得の元作り上げた集団。
最初はただゲームをするためだけに集まっていたのだが「こんだけ時間作って顔合わせれるならゲームだけじゃなくて依頼の方でも手を組まね?」という参加者の声もあって互助会のような存在になった、現在は20名弱の人員で構成されている。
モニカも勧誘されたが「ゲーム等は持ってない」という理由で断った。
後日、最新のゲーム機一式及び周辺ソフトの詰め合わせがモニカの拠点に送り付けられるのはまた別の話……
と思いつつの連絡だったので非常に驚いた模様
戦闘シーンまで行けなかった……続きは頑張って書きますのでお待ちを……