枕元の死神   作:赫牛

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お題:死神 枕元の死神

 その日から私には、死神が見えるようになった。

 いや、本当に死神かどうかは分からない。ただ気付いたら枕元に立っていて、でも誰もこの人の事は気にしないし、顔色悪いし何となく人間じゃないのかなって思ったくらいで。ここで幽霊と言わずに死神と言ったのは、丁度私が余命宣告された日と言うタイミングもあったから。

 初めて気づいた時は驚愕と恐怖に襲われた。あの感覚を血の気が引くと言うのだろう。でも何かされるのかと言えばそんな事は無いし、段々と見慣れて格好を観察する余裕が出来ていた。

 服装はなんて事の無い普通の格好だ。この季節に合った暖かそうなフリースを羽織った、男の人の服は良く分からないが一般的にはカジュアルと呼ばれる服装。

 そう、男なのだ。

 髪は金髪で良く目立つ。目は切れ長で鼻も口も整った顔をしている。イケメンだし正直タイプなんだけど血色の悪さが全てを台無しにしている気がする。

 見えた最初の日、死神は何も言わずにただ私を見ているだけだった。そして私が目を離した瞬間に消えてしまっていた。

 その次の日、また死神は現れた。今度は大きな、いかにも死神が持ってますと言わんばかりの鎌を持っていた。そして鎌の役目と言えば、魂を刈り取ると相場が決まっている。

 死期が来たのかと思ったけど、でも医者によれば私は後5カ月は生きられるはずで、少しばかりあわてんぼうではと思った。でもまあ、もうすぐ死ぬのだと思うと凄く気が楽になって、それはそれで良いかもと無責任に思った。

 でも死神は私を殺さなかった。枕元に飾ってあるカーネーションを見て、それを鎌を器用に使って整えていた。ひとしきり花を弄ったと思ったら、満足したのか知らないけどこの日は消えていった。

 その次の日の事、死神が話しかけてきた。

 

『怖くないのか?』

 

 そんな事聞かれても困る。

 

「だって何もしてこないんだもん、花整えてるし」

 

 死神は口に手を当てて唸った。

 

『いやでも、これでもルックスには自信あるんだがなぁ』

「ルックスのパラメータの振り方を間違ってる気がするんだけど」

 

 死神なら怖さを重視するべきでは?いや、かっこいいファッションをしているからと言って文句は無いのだけれど。

 

『やっぱり怖くないか』

「うん、全然」

『そうか……』

 

 それっきり死神は黙って、私が瞬きすると消えていた。

 それからちょっとして、死神が戻ってきた。

 

『これなら怖いか?』

 

 そう聞いてくる死神の格好は、黒い羽根をあしらったぼろぼろのフードを被った、いかにも死神然としたものになっていた。

 

「まあ、多少は?」

『多少ってなんだ。正装なんだぞ』

「担当の人に言ってデザイン考え直してもらった方が良いかも」

『あいつ妙にこだわりあるからなぁ……じゃなくて、ちゃんとした格好で来たんだから怖がれよ』

「えー……」

 

 怖がるのって決して強制されるものではないと思う。

 

『ほら怖いだろう?こんな怖い俺に連れ去られるなんて、よっぽどの恐怖体験じゃないのか?』

「さいですか……まあ、好きにしたら」

『はぁ?』

 

 死神は目を丸くする。

 

『どう言う事だよ』

「だってさー、全身痛いしベッドから動けないし、こんな人生なら早く終わった方が良いと思うんだよねー」

『……なんだと?』

 

 突然死神の纏う雰囲気が変わった。

 

『終わった方が良いだと……?お前はそんな命じゃない!』

「え……?」

 

 いきなり怒鳴られた事による困惑と、少しの恐怖で頭がぐるぐるした。

 呆気にとられている内に、気を悪くした死神は消えてしまった。

 その次の日も、死神は話しかけてきた。

 

『昨日は怒鳴って済まなかった』

「いや……うん、私もごめんなさい。言って良い事じゃなかったかも」

 

 死神が帰ってから私が言った事を反芻して、少なくとも口にして良い事ではないと言う結論に至った。

 

「それに、ちょっと怖かったよ」

『そう言う風に怖がってほしい訳じゃないんだが……』

 

 死神の格好は前の物に戻っていた。

 それから死神は、私の好きなものとかを聞いてくるようになった。好きな食べ物、好きなスポーツ、好きなアイドル、好きな人。

 最早死神ではなくただの話し相手だった。今までは一日中ベッドの上で退屈していたけど、この日はかなり充実していた。

 次も、そのまた次の日も、死神は私の元に現れて話し相手になってくれた。

 正直楽しかった。時々看護婦さんが来て、私の会話が聞こえてきたのに誰もいない事に怪訝な顔をしたけど、それ以外は平穏に毎日が過ぎて行った。

 それからと言うもの、死神が来るのを楽しみにしている自分がいた。彼は毎日必ずどこかのタイミングで来てくれて、私と一緒に時間を過ごしてくれた。死神の世界の話をしてくれた時もあったし、一緒にテレビで野球を観戦した時もあった。

 つらくて苦しい毎日だけど、彼がいる時はそれを忘れられた。

 でもこの日々は、私が死んだら終わってしまうらしい。死神は次の仕事に行かないといけないから、と話してくれた。

 その日死神が現れたのは、私が苦しんでいる時だった。病気は取り返しのつかないところまで進行していて、私の寿命は刻一刻と迫っていた。

 死神は傍に寄り添ってくれた。手を握って、ずっと傍にいてくれた。

 それを見ていると、ふと思った事があった。

 

「ねえ死神さん」

『なんだ?』

「私……やっぱり死にたくない」

 

 死神は前に見たのと同じ様に目を丸くした。

 

『それは、どうして?』

「私が死んだら……死神さんと一緒にいる時間が終わっちゃうから、それが嫌って……あれ?」

 

 いつの間にか涙が零れていた。

 

『何で嫌なんだ?』

「私……私、死神さんの事が好きだから、だから、ずっと……ずっと一緒にいたいよ。だから、死にたくない……」

 

 気持ちが抑えられない。言葉が次々と溢れてきて、言い切った後は泣く事しかできなかった。

 そうしてひとしきり泣いた後。

 

『春』

 

 死神が初めて私の名前を呼んだ。

 

『俺もお前が好きなんだ』

「え……?」

『一目ぼれでさ……死神失格だけど、死んで欲しくないと思った。だから怖がらせて、死にたくないと思わせたかったんだ。そうしたら、春の寿命は伸びる』

「そうなの……?」

『でもお前は死にたいと言ったから、だからせめてそれまで楽しい人生にして欲しいと思って、一緒にいた……でも、もう大丈夫そうだな』

「え……どう言う事?」

『死にたくないって思っただろ?その気持ちがあれば、春の病気は治って、長生きできる様になる。だから俺の仕事は無くなった。これでお別れだ』

「嫌だよ……行かないでよ!私、貴方とずっと一緒にいたい!」

 

 死神はにっこりと笑った。

 

『いつかまた会いに来る。まあいつか分からないけど』

 

 私が引き留めるのも虚しく、死神は消えた。

 それっきり死神は現れなくなって、私の病気は治ってしまった。

 

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