枕元の死神   作:赫牛

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お題:依存 力

 力。

 他者を圧倒できる、力。それは簡単に手に入るものではない。肉体的にしろ社会的にしろ、それなりの時間がかかるものだ。

 でもこれは違う。これさえあれば、僕は超人になれる、らしい。

 世間では化け物扱いだけど、それは力の使い方を間違った奴らの事。僕はそんな奴らとは違う。人のために、この力を使うのだ。

 

 ある朝の事、僕は見知らぬ誰かにこれを渡された。

 赤色にきらきら光って、そこにあるだけなのに不思議と存在感を放つ魔法の石だ。

 その誰かは使い方を説明するだけして、石に見惚れている間に姿を消してしまった。

 

 それから講義を受けている間、僕はこの石の使い方について考えていた。

 人をゆうに超える力が手に入ると聞いて、何が思い浮かぶか。重い物を持ち上げたり、速く走ったりするなんてのは、あの人の口振りからして当たり前の事なのだろう。どうやらできる事はそれだけではないらしいのだけれど、それは教えてくれなかった。だから結局、アバウトな事しか考えられない。

 

 その日の昼食を食べている時に思いつく。

 この力があれば、人助けができるんじゃないか、と。

 別に普段からそう言った活動をしている訳じゃないけど、人を越えた力となるとそれ以外には悪い事しか思いつかなかった。SNSとかで見るに石を使うと化け物みたいな見た目になるらしいから、人前で大っぴらに使う事はしたくなかった。それに人知れず人を助ける謎の人物と言う響きがかっこいい気がしたのもある。

 兎に角、僕は人助けをする事に決めた。

 階段で困っているおばあちゃんから崖から転落した美少女まで何でも来い、と言う心意気ではあった。

 でも、現実にそんなイベントがあったとしても、僕がそれに遭遇できるかはまた別の話で。

 その日も、次の日も、また次の日も空振りだった。どんなに目を光らせても、僕の目の前で困っていたのはプリントを落としてしまった人くらいだった。ただただ人助けをしたいと言う欲が、僕の中で大きくなっていった。

 

 その日はサークルの皆で飲み会に行った。皆良いくらいに酔っぱらって、でも次の日も講義があるから続きをやるなら各自で、という事になって解散になった。

 僕は下宿先が近い女の子と一緒に帰っていた。女の子も僕も酔ってはいたから、二人でいた方が良いと言う話になったからだ。

 付き合ってもいない女の子と二人っきりと言うシチュエーションで、僕は多少なりとも浮かれていた。女の子と会話しながら、馬鹿みたいにこの先の展開を妄想したりしていた。

 ただそれだけで終われば良かったのだけれど。

 

「お姉ちゃん可愛いね、大学生?」

「花大の子でしょ多分」

「ねーねーこれから俺らと飲まない?」

 

 いつの間にやらめんどくさい輩が女の子にたかってきた。

 

「えーっと、そう言うのは、ちょっと……」

 

「そんな事言わないでよー。一軒だけだからさー」

 

 女の子が嫌がる素振りを見せたのにも関わらず、男達はしつこく彼女に迫った。暫くそれを見て、やっと勇気が出た僕は口を出した。

 

「ちょっと、嫌がってるじゃないですか!」

 

「ああ?誰こいつ?彼氏?」

 

「それは、違いますけど……」

 

「だったら口挟んでくんなよ。お前なんか相手にしてねぇんだ」

 

 そう言い放って、奴らは僕の事を無視した。奴らは女の子の腕を掴んで、強引に引っ張って行こうとさえしていた。

 

「やめろ!放せよ!」

 

「何だてめぇ、邪魔すんなよっ!」

 

 顔面を殴られた。脳が揺れて立っていられなくて地面に倒れる。男は何回か僕の腹を蹴って、満足したのか僕に背を向けた。

 

 その時僕は酒もあって少し考え無しだったのかもしれない。殴られてちゃんと考えられて無かったのかもしれない。

 だけど女の子を助けたいと言う願いだけは鮮明だった。そしてその手段を僕は持っている事に気付いた。

 ポケットから忍ばせていた石を取り出し、胸に強く押し当てる。そこから何かが僕の中に入ってくる様な感覚がして、体が熱を持った。

 そして次の瞬間には、僕の姿は変わっていた。

 異形の腕になっている事を確かめ、僕は男に殴りかかる。

 

「うわああああああ!」

 

「なん……え……」

 

 振り向いた男は僕の姿を見て硬直し、顔面にパンチを受けて吹き飛んだ。動かなくなった男を見て、それから僕を見た奴らは悲鳴を上げ、一目散に逃げていった。そこには女の子だけが取り残されて、僕の事を見ていた。

 我に帰った瞬間、変身が解ける。そしてそれを見られた事にすうっと血の気が引いて、急いでこの場から離れようとした。

 

「待って!」

 

 しかし女の子に引き留められた。振り返ると、女の子はゆっくりと僕に近づいて来ていた。

 

「もしかして……あなた、仮面ライダー?」

 

「え……?」

 

「そうでしょ?変身して、私を守ってくれた!」

 

「いや、僕は……」

 

 僕が何か言う前に、女の子に抱き着かれた。

 

「助けてくれてありがとう、仮面ライダー」

 

「あ……ううん、大した事じゃない」

 

 僕は彼女に嘘をついた。

 

 僕に彼女が出来た。

 みなみとは全くと言って良い程接点が無かったけど、あの夜以来距離が近づいて彼女の方から告白された。大抵友達といる事が多かったキャンパスライフが、彼女に染まり始めていた。

 変わったのはそれだけではない。

 僕はあの日から飲み屋街周辺をパトロールする様になった。みなみの様に助けを求めている人がここなら現れやすいだろうと思ったからだ。

 実際成果はあった。何人かを助けた。でも助けた後は皆決まって僕の事を化け物と呼んで逃げていってしまった。

 それでも良かった。悪を懲らしめて人を助けられている事実が、何よりも嬉しかったから。

 僕は繰り返し繰り返し、人助けをした。

 僕はもう一人の仮面ライダーになった。

 

 そんな日々が過ぎ、ある時みなみの家に行く事になった。

 当然期待していた。付き合っている訳だし、そこまで気を許してくれたのかと思うとたまらなく嬉しかった。

 だから予想外の反応が返ってきた時は驚いた。

 

「ごめん……そこまで考えてなかった。そう言うのはまだ、ちょっと……」

 

 もしかしたら、あの日連れていかれそうになった事が尾を引いていたのかもしれない。けれどもこの時の僕はそんな事を思いつかなかった。ただがっかりして、でも諦めきれなくて。

 強引にキスをする。強く抱きしめて、体の感触を確かめる。

 

「いやっ!」

 

 強く突き飛ばされる。僕は拒絶されてしまった。

 何で、どうして。助けてあげたのに、僕は恩人のはずなのに。

 僕は、君が好きな仮面ライダーのはずなのに。

 気が付くと僕は変身していた。

 悲鳴を上げるみなみを僕は追いかけた。ただ受け入れて欲しくて、彼女を追いかけた。

 

 そして家からそう遠くない所で、もう少しでみなみに追いつく所だった。

 僕の前に誰かが立ちはだかった。そいつは緑の鎧に緑の仮面を被っていて、赤い眼がぎらぎらと光っていた。

 邪魔だと思った僕はそいつに殴りかかった。だけどダメージを受けたのは僕の方だった。そいつのパンチは鋭くて、そいつのキックは痛くて、僕は全く太刀打ちできなかった。

 僕が倒れた時、そいつは腰に着けた何かを叩き、腰を落とす。そいつに風が集まっていくのを見る事しか、僕にはできなかった。

 そいつが助走をつけ、高くジャンプする。そして。

 

「はあっ!」

 

 突き出した右脚が、僕の胸を強く撃った。

 

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