苦手な方はご注意ください。
給食部に着いたミカは、先生たちが話す内容も合わさり、一体どんな料理を作っているのか、留学中のお昼はどうなってしまうのかという心配を胸に、その扉を開ける。
そこには戦場が広がっていた。
「フウカ先輩~追加の食材、こちらにおいて置きますね。」
ドンッ! と大きい音を立て、フウカと呼ばれる少女の近くに膨大な食材が積まれていく。さながら、土嚢のようであった。
「ありがとうジュリ。これでなんとかお昼までに間に合いそうね。」
そう言うと、ジュリと呼ぶ少女を労いながら、フウカは途轍もない速度で食材を刻んでいく。
フウカの額には汗が滲んでいるが、それでも彼女の手は一瞬たりとも止まらず、まるで機械のように正確に食材を刻んでいく。
「すみません……私も料理の手伝いが来たらいいのですが……」
シュンとするジュリに、フウカは笑顔を見せて話す。
「大丈夫よ。いつもありがとうジュリ。配膳はよろしくね。」
「フウカ先輩……はい! 任せてください!」
仲の良い2人の姿は、通常であれば心温まる場面であったかもしれない。しかし、ミカは目の前の光景に困惑している。
「……え、何これ? あの2人はとってもほんわかした感じなのに、全然ほんわかじゃない量をたった2人で調理してるんだけど? ってか調理している子一人だけじゃんね? 他の子達が病欠だから、こういう状況ってことだよね?」
良くわからないものを見る目で、ミカがイロハに尋ねるも、いつもの光景とばかりにイロハは答える。
「いえ、あの2人が給食部に所属している全生徒です。」
「……えぇ?」
「フウカはみんなに料理を提供するため、味を度外視にしてでも、人数分を給食の時間に間に合わせてるんだ。」
ほぼ1人で4000人分の料理を作る? 味を落としたからと言って、間に合うものか? それだけでもミカの理解を拒むには充分な内容であったが、目の前には更に困惑を加速させる出来事が広がっていた。
「あっ! フウカ先輩! パンちゃんが出来ちゃいました! ど、どうしましょうー!!」
「なんで!? 配膳だけお願いしてたんだけど!?」
突如として、ジュリの目の前に置かれた料理が、謎のモンスターに変貌を遂げたのだ。
「…え? 見間違いかな? 今、ジュリって言われた子がハンバーグにケチャップかけたら、パンケーキのお化けみたいなやつにならなかった?」
「はい、ミカさんがご覧になった通りのことが起きてます。」
「あー! パンちゃんが、ジュリ先輩から逃げようとして、料理を落としてダメになっちゃってる! イロハ先輩! イブキたちのお昼ご飯が無くなっちゃうよー!」
心配するイブキとは相反して、イロハは至極面倒そうにため息をつく。
「はぁ……しょうがないですね。イブキ、ミカさん? 少しお手伝いしてもらってもいいでしょうか?」
「うん! イブキ、お手伝いするー!」
「う、うん。……あれって倒せるの?」
ミカたちは銃を構え、先生はシッテムの箱を起動させ、戦闘準備を行う。
「みんな、私が指揮を取るよ。」
困惑しながらも、先生の指揮を受けながら、イロハたちと協力をして、なんとかパンちゃんと呼ばれるパンケーキ型のモンスターの撃退をするミカであった。
鎮圧後、ため息をつきながらイロハが状況確認をする。
「ふぅ……もう大丈夫なようですね。何とか片付きました。」
「ちょっと驚いたけど、楽勝楽勝〜☆ 案外弱かったねーこの子たち。」
「ミカお姉ちゃん、とっても強いんだねー!」
「3人ともお疲れ様! いい連携だったね!」
4人が和気あいあいとしていると、フウカとジュリが駆け寄ってくる。
「先生! それに皆さん! 本当に助かりました! おかけで調理を続けられます!」
「本当にありがとうございます~。」
「いえ、お気になさらず。あなたたちに何かあると、昼食を食べに来た生徒たちが暴徒になりますので……」
「イブキたちも、フウカ先輩たちのご飯食べにきたんだよー!」
「イブキちゃんも、助けてくれてありがとう。良かったら食べていってね。そして、もう一人は……交換留学生の方でしょうか? ……あ、私は給食部2年の愛清フウカです。」
「私は給食部1年の牛牧ジュリです~。」
「留学生の聖園ミカだよ。よろしくねー☆」
自己紹介を終えたあと、申し訳なさそうな顔でフウカが話し始める。
「給食部に来たってことは、ミカさんたちは、昼食を食べに来たってことですよね……」
「うん、そうだけど何かマズかったかな?」
「マズいというわけじゃなくて……いや、マズいとは言われるんですけど……えーっと、ご覧の通り、人数不足の中、なんとか人数分の料理をしているので、不本意ではあるんですが、味は二の次と言いますか……」
「気にしないでいいよっ☆ さっき見てたけど、あの量を2人だけで作ってるんでしょ? 味を落とすだけで4000人分賄えるってすごくない?」
「そ、そんな風に言ってもらえるなんて……ありがとうございます! いつも美味しくないって言われるので、そう言って貰えるととても嬉しいです。お口に合うかわかりませんが、良かったら食べていってもらえませんか?」
「もちろん! そのつもりで来たからね。」
「イブキも食べるー♪」
そう話をしていると、昼のチャイムが鳴る。
「あ、いけない! 早く準備しないと! はい皆さん! これをどうぞ!」
フウカはそう言いながら、シュバババと音が聞こえてきそうな速度で、トレーの上に料理を置いていく。
「速っ!? ……せっかくだし、お昼食べちゃおうか?」
ミカたちはお昼を食べようとトレーを運ぼうと手にかけた。
その時、突如として、爆発音が響き渡る。
「な、何なの?! いきなり爆発!? せ、先生、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。でも、せっかくの料理がダメになっちゃったね……」
ミカはフウカに準備してもらったトレーを見ると、皿はひっくり返り、中身が吹き飛んでいるなど、見るも悲惨な状態となっている。
それ以外にも、これまで作っていた鍋にも穴が空いてしまい、中身が溢れてしまっている。
「あぁ……せっかく用意したのに……」
そう言いながら、肩を落とし残念そうなフウカを見ていると、ミカはふつふつと怒りが湧き始める。
(フウカちゃん、あんなに一生懸命用意してたのに……!)
怒気を滾らせ、爆発のした方へ目をやると、如何にも不良といった風貌の生徒達がいた。
その中のリーダー格の不良生徒が、ミカたちに要求をする。
「あいも変わらずマジイ給食なんて作りやがって! そんなもの作る為に部費を使うなら、ウチらが使ってやった方がマシだぜ! 今なら風紀委員長はここにいないって調べはついてんだ! だから大人しく金をよこせ!」
その一言で、ミカはキレた。
顔を伏せたまま、ミカは不良に向かって歩いていく。
そんなニヤニヤとした表情を浮かべながら、ジリジリとこちらに近づいてくる。
「おー? 見かけねぇヤツだなぁ? 新顔かぁ? ここは一発かまして上下関係ってやつを分からせてやらねぇとなぁ!」
そう言いながら、銃を構え、発砲する。
その弾丸はミカに当たった。
だが、ミカは微動だにしない。
それどころか、拳を振り上げながら、不良に近づいていく。
「……聞き間違いじゃなければ、フウカちゃんの料理をバカにしたよね?」
ミカの声は穏やかだったが、先生は焦りながら声をかける。
「ミ、ミカ! ダメだよ!」
先生が叫ぶも、ミカは耳を貸さない。
「おっ! シャーレの先生までいるじゃねぇか! 噂通り、あいつは生徒に守ってもらってるんだな! そこでブルってないで、このピンク髪を助けてみろよ!」
「いや、ミカの心配じゃなくて、君の心配をしてるんだけど……」
先生の心配を余所に、不良生徒は「あ”?」と不思議そうな顔をしながら、後ろを振り向き、部下たちに話しかけた。
「おい、なんかよくわかんねぇけど、シャーレの先生を攫って小遣い稼ぎしようぜ! 銃で脅せば一発だろ?」
その刹那、ミカは拳を振り下ろした。
「……あっ」
ズドンという轟音と同時に、ミカは思わず声を上げる。
足元にあったパンちゃんの残骸を踏んでしまい、視線が崩れ、狙いがそれてしまったのだ。
不良生徒の顔を目掛けて振り下ろした一撃は、当たることなく地面に吸い込まれる。
比喩ではなく、文字通り地面に腕がめり込んでいるのだ。
不良生徒は、何か焦げ臭い匂いを感じ、自分の髪を見る。すると、チリチリと少し焦げている。
ミカの拳は当たりはしなかったものの、焦げた髪と、強烈な風圧を感じて、リーダー格の不良生徒は恐怖した。
あんなものが当たったら、ヘイローがあろうと無事では済まない。
リーダー格の不良生徒はへなへなと崩れ落ちた。
「ひ、ひ、ひぇぇえええ!!」
情けない声で、泣き叫ぶリーダーを、部下の不良生徒たちが抱え上げ、「あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」「覚えてやがれ!」と言いながら出て行ってしまった。
その後、ミカは申し訳なさそうにフウカに向き直る。
「フウカちゃん、ごめんね。床、壊しちゃった……」
「え、えぇ……?」(눈_눈)
少しだけ呆れ顔になるフウカだが、すぐに笑顔になった。
「でも、私の為に怒ってくれたんですよね? 暴力は良くないことですけど、代わりに怒ってくれたのは嬉しかったです。ありがとうミカさん。」
「い、いいよ。なんか、ほっとけなかったから、勝手に動いただけだから……」
そう言いながらミカが照れていると、どこから観ていたのか、一般生徒がミカに話しかけてくる。
「あの拳圧! 間違いない! あなた! トリニティのティーパーティー、聖園ミカでしょ!」
気づけば、一般ゲヘナ生徒に囲まれているミカ。
「え、う、うん。元だけどね?」
「やっぱり! あの噂は本当だったんだ!」
「あぁ、間違いないよね!」
ミカの返事に、周りの一般生徒たちは歓声を上げ始める。
ミカは事態が飲み込めず、一般生徒たちに詳しく聞くことにした。
「えっと、どういうことか教えてくれるかな?」
「あなた、素手で壁を破壊したことがあるでしょ? あの床を見れば、壁を破壊して脱走したって噂が本当だったって証拠だよね! まさかこんなところで本人に会えるなんて! 感激です!」
笑顔で話す一般生徒とは相反して、ミカは恥ずかしそうに顔を赤くしている。
「な、なんでそんな話がゲヘナに流れてるのっ!?」
ミカの動揺を気にも留めず、一般生徒たちはミカに詰め寄る。
「私たち、ミカさんを『壁屠りのミカ』と呼んで憧れてるんです! あの、良かったらサインください!」
そう言うと、一般生徒たちはワーキャーとミカに群がり始めた。
「えっ! 何その2つ名! ぜんっぜんかわいくないじゃんっ! そ、そんなことで有名になりたくないんだけどー!」
思わず逃げ出すミカを見ながら、割れた床の掃除をしていた先生たちは、微笑ましそうにしていた。
「うんうん。やっぱりミカは人気ものだね。あ、その角度いいね。」パシャシャシャ
「……先生、後でミカさんに怒られますよ?」
「わー! ミカお姉ちゃん、すっごい人気だね! ……あっ、ミカお姉ちゃん、捕まっちゃった。」
揉みくちゃにされたミカが解放されたのは、昼食の時間を過ぎてからのことだった。
「うぅ……酷い目にあったよ……」
呻きながら立ち上がり、先生に目を向ける。
「先生っ! 助けてくれても良かったじゃん! すごく恥ずかしかったんだから!」
「ごめんね。ミカの大事な思い出になると思って、つい……」
そう話す先生の手には、スマホが握られていた。
状況を察したミカは、笑顔を浮かべ、一言だけ告げる。
「……消してね?」
「えっ!? あっ、はい……」
シュンとしながら、先生はスマホを操作しながらデータを消していく。
そのやり取りを見て、イロハが呆れながらも先生に言う。
「私、言いましたよね? ミカさんに怒られるって。」
先生が写真を消すのを見届けてから、ミカは時計を見て、少し残念そうにする。
「あーぁ、お昼食べ損ねちゃったな……」
「イブキもご飯食べたかった……」
「あの……良かったら、新しく作りますので、食べてくれませんか?」
「えっ!? ……良いの? 私、床壊しちゃったのに……」
「それは万魔殿に請求を回すので大丈夫ですよ。ここには万魔殿の方もいらっしゃいますし。ね? イロハさん?」
また面倒なことを……と言いたげな表情で、イロハはため息をつきながらフウカを見やる。
「……生憎、マコト先輩はトリニティに留学中ですので、受理には時間がかかかりますよ? まぁ、善処はしますけどね。」
「それで大丈夫ですよ。よろしくお願いしますね。」
そこまで話すと、フウカは調理場に向かい、まだ使えそうな調理器具や材料を手にして昼食を作り始める。
「すぐに作るから、少し待っててくださいね?」
昼前の戦場の様な光景と異なり、小耳良い音で、丁寧な調理が行われている。
「わーお。さっきとぜんぜん違うじゃん! すっごく丁寧に作ってるね。」
驚くミカを見て、先生は自慢気に語り始める。
「フウカの手料理は本当に美味しいからね。期待して大丈夫だよ。私だって毎日食べたいって思うくらいだから。」
その瞬間、給食部の部屋の温度が少し下がったような気がした。
「え?」
「はい?」
ミカとイロハが同時に話す。
「先生、それってどういうこと? 先生を私の部屋に連れ込んだ時、そんな反応じゃなかったよね?」
「はぁ……私があれだけアプローチしてたのに篭絡出来なかったのは、そういうことですか……」
「え? あっ! いや! 違う違う! フウカの料理が美味しくて、そう思ったってだけだから!」
先生が慌てていると、フウカが料理を運んでくる。
「私は先生になら、毎日作って差し上げてもいいんですけどね?」
さらりと追加燃料が投下される。
「ちょ、ちょっとフウカ!」
焦る先生に、ミカとイロハが、ゆっくりと先生に近づいていく。
「……先生? 少し時間もらうじゃんね?」
「……先生? 少しお時間もらいますよ?」
先生が解放されたのは、それからしばらく経ってからだったという。
次回は他のゲヘナ生徒に会いに行く予定です。
壁屠りに関しては、なんか語感がいいなって思って盛りました。
すいませんでした……