東方幻想入り   作:杜鵑花

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幻想入り

 少し紅く染まりつつある木漏れ日が僕に少しばかりの焦燥感を与える。

時刻は夕方頃、僕は何処かも判らない森の中を彷徨っていた。

ここに至った経緯はまるで記憶に鍵をかけられたかのように思い出せない。

気が付いたら森の中に居た。事実はそれだけだった。

意味不明な出来事過ぎてここが夢なんじゃないかと錯覚させる。

しかし、焦りから起きるこの動悸は、心臓の鼓動はとても現実的だった。

 

「いったい何がどうなってるんだよ?!」

 

思わずそう叫んでしまう。

だが、静寂が辺りを支配するこの森でのその行為はあまりに愚か過ぎた。

ガサッと不意に背後から茂みを分けるような音がした。

ドキッと僕の心臓が大きくはねる。

先ほどの声で熊か何かが寄ってきたのだろうか。

鼓動が徐々に加速していくのを感じる。

思わず走り出しそうになるが、僕はまだ平静を保っていた。

熊なら大きなアクションを起こすのはかえってよくない。

僕は恐る恐る振り返った。

 

「ッ!?」

 

予想を大きく裏切られた僕は思わず再び叫びそうになる。

そこには、熊がマスコットかのように感じるほどの化け物が居た。

刹那、僕の平常心は音を立てて崩れ、僕は日没間近の森を走り出した。

逃げなくては確実に殺される……!

走っている最中も、後ろからおおよそ生物が出すものではないであろう音が聞こえてくる。

僕は息を切らしながらも無我夢中で走った。

そして――

 

 気が付くと僕は森を抜けていた。

そこに広がっていたのはのどかな草原だった。

化け物は振り切れたようで僕は少し安堵の息を吐いた。

さっきまでのとんでもないほどの緊迫感との差で僕の頭は冷静に働いていた。

 

「あれは道じゃないか??」

 

周囲を見回していると僕は人が整備したであろう道を見つけた。

あれを辿れば人がいる場所に出られる。

僕はそう考え、日が完全に沈んでしまう前にどうか辿り着きますようにと願いながら歩き出した。

暫く歩き続けると、僕は禍々しい雰囲気を醸し出す森を見つけた。

幸いにも道はその森に沿って作られていたため、僕は森に入らなくて済んだ。

道なりに歩き始めてから数分後、僕はついに家を発見した。

希望の光に、僕は足早にそこまで歩を進める。

『香霖堂』と書かれた大きな看板、入り口に置かれているジャンルの定まらない様々なものからこの家が店だということに気付くのにさほど時間を要さなかった。

 

「こう……りん……どうか??」

 

見慣れない漢字で読み方が合っているか判らないが僕はとりあえず店に入った。

カランカラン――と店の扉を開けるとそんな音が鳴り響いた。

その音を聞いてか、店の奥の方から銀髪で僕より身長が高く、妙な服を着た男が現れた。

僕はようやく人間の姿を見ることができて安心した。

 

「いらっしゃいませ。そろそろ店を閉めようと思っていたのだが……」

 

「すいません。ここって何処でしょうか」

 

人に出会えたという喜びからか、会話の順序というものを吹き飛ばしてしまう。

 

「いきなり妙なことを訊いてくるね……ここは香霖堂だが、その服装からして君が訊きたいのはそういうことじゃなさそうだな」

 

「どういうことですか??」

 

「つまり君は『外の世界』から来たんだろう?? といっても判らないか……ふむ、困ったものだ。大体、そういう者たちは初めは神社に辿り着くものだからな……」

 

銀髪の男はそう言うとぶつぶつと何かを呟き出した。

 

「すいません。少し、というか大分よくわからないのですが」

 

「あぁすまない。僕は考え込んでしまう質でねつい君のことについて考えてしまっていたよ。それで、ここが何処かだったかな」

 

僕はコクリと頷いた。

 

「ここは『幻想郷』忘れ去られた者の楽園だよ。まあ、これだけ言っても判らないと思うが要するに、君が住んでいた世界とは違う世界というわけだ」

 

彼の説明はにわかには信じがたかったが僕がここまでに遭遇した化け物は僕が居た世界にはいなかった筈だ。

僕は一先ずはそれを信じておくことにした。

 

「幻想郷、ですか……。それで、僕は帰れるのでしょうか??」

 

「あぁ。それについては問題ないと思うよ。いずれここに来る紅白の巫女が何とかしてくれるだろう」

 

「いずれここに来るってどうして判るんですか??」

 

「どうしてかって言われると困るのだが、まあ行動パターンが決まっていると言えばいいのかな。まあ、とりあえず掛けなさい。……こう見えて僕は外の世界を知りたくてね。よければ何だが外の世界の話を聞かせてくれないかい?? きっと例の巫女が来るまでのいい暇つぶしにもなるだろう」

 

「もちろんいいですよ。香霖堂さん??」

 

「自己紹介を忘れていたね。僕の名前は森近霖之助だ」

 

「僕は鈴々木皐月です」

 

そうして、僕と霖之助さんは話を始めた。

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