お題:
・プライド
・微笑み
・シャーデンフロイデ
前作「Eye」の別世界線の話です
ちな13分30秒オーバー
ピッタリ1時間で書ける日は来るんですか…?
私は自他ともに認める美人だ。
これだけ聞けばただの性悪に見えるかもしれないが、本当に美人なのだから仕方がない。恨むなら私を生んだ親を恨め。
しかし、この世界には誰かの才能だったり、もって生まれたものを僻む連中がまあ多い。勿論私もそんな乞食どもの標的になり、小学生の頃なんてのはよく虐められていたものだ。とは言っても、小学生──特に女子が多かった──の考える虐めなんて大したものじゃない。「みんなであの子の事無視しちゃお〜」なんて程度だ。
幼い頃の私は少しばかり傷つきもしたが、それでも気にしてないように、気丈に振る舞い続けてきた。まあ正直に言えば、数ヶ月くらいで慣れちゃったから、最初以外は殆ど何も感じてなかったんだけど。
……そんな中。悪い噂の絶えないグループに、私は目をつけられた。
女子だったか男子だったかは覚えてない。ただまあ、みんなで羽交い締めにして私のことを殴ろうとしてたのは鮮明に覚えている。
最初の一発は私の口に直撃した。本当に痛くて、泣きそうなのを耐えることで精一杯だった。
二発目が、もう一度私の口に当たりそうになった、その瞬間。
誰かが、私とその子の間に割って入った。
誰だったかな、もう覚えてないけど。その子が来た瞬間、私の世界が急にスローモーションになって。
ゆっくりと、手がその子の頬に食い込んで。
その子の口から、血が少しだけ出て。
さっきまでの威勢の良さはなんだったんだってくらい、その子はすぐに地面に這い蹲った。その子の側では、ちょっとだけ、血が地面を汚していた。
倒れ込んだ後も、その子は何度も蹴られて、殴られて。最終的に近くにいた警官が止めに来るまで、その子は私の代わりに傷を負い続けた。
本当だったら、私も「馬鹿みたいだ」なんて思ってたんだろうけど。
でも、何故かその時は、そうは思えなくて。
飛び散った血。苦しそうに喘ぐ姿。
自分でも、本当に気持ち悪いと思った。
私が嫌いな乞食どもよりもっと酷い、人でなし。そうわかってても、どうしても、その姿から目を離せなくて。
……その日から私は、誰かの不幸を望むようになった。
***
「──今日は転校生を紹介します。イリスさん、入ってください」
教室の中が一瞬だけ騒がしくなる。日本ではありえない名前。そして、高校生とは思えない白髪と、真っ赤な光のない目、真っ白な肌。
……そして何より、制服から見え隠れする包帯の数々。
この女の子──イリス、と言ったか──を一言で表すなら、正しく人形、と言ったところだろうか。
「えっと、その……イリス、です。色々と見慣れないかも知れないけど、よろしくお願いします」
イリスは仰々しく頭を下げる。なんとなく嫌な予感を感じながら、私はホームルームが終わっても、どうかこの子が私に話しかけてきませんように──とだけ祈り続けた。
「──久しぶり、
「……久し、ぶり」
あぁ、やっぱり。
嫌な予感は的中した。
この子は確かに、あの時、私を庇った女の子だ。
「元気だった?急に引っ越しちゃってびっくりしたけど」
「その、うん……元気だった、よ」
あの後、私達はすぐに打ち解け、晴れて友人同士になった。
しかし、その仲が良かった、と言えるのは最初のうちだけだろう。すぐに彼女は私の欲望のはけ口になった。私は、あの乞食どもと同じようなことを、彼女にしてしまったのだ。
……とは言っても、別に後悔してるわけじゃないけど。まあ反省自体はしている。もっとバレないように、頭を使って彼女を弄べばよかった、と。
「ならよかった。ねぇらぶりん、久しぶりにどこか行かない?私、ちょっとだけらぶりんと話したいな」
「──あの、そのらぶりんって呼び方、やめてって言わなかった?」
まるで親友をあだ名で呼ぶかのように、彼女は私を「らぶりん」と呼ぶ。第一らぶりんってなんだ、と聞いてみれば、私の名前が「アイ」だからラブなんだ、とのこと。
私の名前は
「……ごめん、わかった。じゃあ亜衣、一緒に遊びに行こうよ。私、亜衣と──」
「ごめん、今日は予定があるから」
遮るように彼女の提案を断る。それだけで、昔の彼女は泣き出しそうな顔をしていた。
……そして私は、その顔が、その涙が堪らなく好きだった。
「……どうしたの?」
「いや……イリス、変わったなって」
でも、今の彼女はどうやら違うらしい。不気味な微笑みを顔に貼り付けて、当たり前のように納得しようとしている。
……頭に来る。
イリスはただ、私の前で泣いてさえいればいいのに──。
「じゃあ私、帰るから。また明日、亜衣」
「……また、明日」
彼女が帰ろうとすると、その周りにワラワラと乞食どもが詰め寄っていく。
……あぁ、本当に。
「頭に来る……」
結果、イリスは私の想像より何杯も早く、このクラスに溶け込んだ。勿論私も高校に入ってからは優等生で通してきたから、嫌われてるってことはないんだけど。
「──で、先輩はイリスさんが取られちゃいそうで不安ってわけですね」
「いや、そんなんじゃないから……」
そして今私の眼の前で苺のシェイクを飲んでいるのは、中学生の頃の私の後輩、
……この感情がなんなのか、全くわからない。今までわからないことなんてなかったからかもしれないけど、私にはそれが堪らなく嫌だった。
「いやいや、だってその通りじゃないですか。完全に嫉妬ですよ、それ」
「えぇ……?嫉妬ってそれ、恋人とかにするやつでしょ」
何が悲しくて泣いてる所以外全部気に入らないような女と付き合わなきゃいけないんだ。やっぱり聞かないほうが良かったな、なんて思いながら、私は席を立つ。
「……あ、先輩。お金は私が払いますよ」
「いいよ、そんなの。ちょっとくらい先輩にカッコつけさせなさい」
こう、恋人にするとしても、せめてこの子みたいにもっといい子というか、素直な子がいい。
……と、そこまで考えて。
そう言えば、昔のイリスも素直な奴ではあったなと思い出す。
今はずっと薄気味悪く笑ってる変な奴でしかないけど、傷つき続ければいつか、元の彼女が出てくる筈。
なら、善は急げだ。
私は明日、イリスと一緒に帰る。
そして、昔の彼女……私の眼の前でべそべそと泣くイリスを、取り戻す──。
「こうやって二人で歩くのも、だいぶ久しぶりだねぇ」
「……そう、だね。私もあんな急に引っ越すことになると思ってなかったし」
嘘。彼女が傷ついて、また涙を流すだろうと思って、わざと直前まで伝えなかった。
「いやぁ、でもよかったよ。思ったより早くクラスにも馴染めてきたし」
「そうでもないかもよ」
ピタリ、とイリスの動きが止まる。こっちを向いた光のない目は、確かに「どういうことだ」と私を問い詰めていた。
「あの子達のメッセージのグループ。ずっとイリスの悪口ばっか言ってる」
私はイリスにスマホの画面を見せる。そこに書かれてたのは、事実でもなんでもないイリスの噂。
実は目が悪いのは自分で殴りすぎたせいだとか、それを治すためにパパ活をしているだとか。”優等生”の私が見たら怒り狂うであろう内容が、そこには書き込まれていた。
……でも、これを流したのは私。パパ活なんて、こんな子ができるわけがない。でも、そんなの私以外に知らない。だからこすいて、馬鹿みたいに情報を鵜呑みにする。
「……うん、そっか」
イリスの口元が僅かに歪む。でも、決して泣こうとはしなかった。絶対に気持ち悪い微笑みは絶やそうとしなかったし、寧ろどこか楽しんでいるようにさえ見えた。
……それから、何度も何度も彼女に嫌がらせをし続けた。
ある時は噂を流し、ある時は彼女を無視し、ある時は彼女の所有物を盗み。
それでも、彼女が泣こうとしなかった。決して微笑みを絶やさず、いつも静かに座っていた。
「──なんで」
訳が分からない。あの子は一体、なんなんだ。なんで泣かない?なんで傷つかない?
……なんで私に、涙を見せてくれない?
頭の中がぐちゃぐちゃになる。多分、ストレスの度合いで言えばイリスより私の方が重症だろう。
「──せ、先輩」
いつの間にか、私の前には瑠璃が立っていた。
「……あぁ、瑠璃?どうしたの、そんな驚いて」
しかし、その顔は驚いているというよりは、寧ろ私を軽蔑してるように見える。なんでかわからない。理由を聞こうとして一歩踏み出せば、彼女は一歩後退る。
「──え」
「先輩……ごめんなさい、もう近寄らないでください」
「待って……」
「来ないでッ!!」
そのまま彼女は逃げ去っていく。
何がなんだかわからない。
……でも。
これが誰の仕業なのかは、わかる気がした。
「──イリス」
「あ、亜衣!やっぱり来たんだね」
イリスは一人暮らしだった。話によれば、高校からアパートに住んでいるのだという。
「アンタ、何をしたの」
「何って、何?」
これがイリスのせいなのはわかっている。寧ろイリス本人も私に知ってほしいのでは、と疑うほどにはわざとらしい演技だった。
「私はただ、亜衣と一緒にいたいなーって……」
「──お前……!」
イリスを押し倒してその首を力の限り押しつぶす。段々と呼吸を荒くしながら、彼女は只管にもがき続ける。
そのせいだろうか。彼女の制服が少しはだけた。
……そうだ。たった一つ、やってこなかったこと。
彼女の尊厳を壊す、一番の方法。
「──亜衣……?」
涙目で私を見上げるイリスの首から手を離し、私は彼女の
「……ねぇ、亜衣」
あれから何時間が経ったのか。空はもう暗くなり、およそ”優等生”が外出して良い時間ではなくなっている。
そんな中、熱っぽい声で私の名前を呼ぶイリス。私は彼女の顔を見て、そして、青ざめる。
そこにあったのは小型の機械。多分、その機械の用途は。
「盗聴器……気付いてなかったね」
これをばらまかれたら、まずい。直感的に理解して彼女に掴みかかろうとするも、眼の前に差し出されたスマホの画面を見て、再び背筋が凍った。
そこに書かれていたのは、私がイリスにしてきた虐めの数々──そして、存在しなかった筈の、性暴力の記録。
「これ……事実になっちゃったけど、どうしようか?」
「う、そ──」
私を糾弾し、蔑むコメントが次々に流れていく。
なんで、なんでなんでなんで。
「やだ……やだ、やだ、やだ……!」
「亜衣はずっと、私を虐めて楽しんでたんだよね」
力なく倒れた体が、イリスに抱きとめられる。
「私もずっと待ってたんだ。こうなるのを」
彼女の口が、醜く歪む。
イリスは私に顔を近づけて、
「──同類だね、私達」
静かに、私の唇を奪った。
……そう言えば。
最初にやったイリスへの虐めって、確か。
「あの時とは、真逆だね──
数年ぶりのキスはやっぱり、塩の味がした。
ぶっちゃけ内容クソキショいから投稿するかどうかすごく悩んだ