へん?おかしいことでもあるの?
だって、宇宙人が自分のこと、宇宙人だなんて、名乗るはずがないもん。
そう?わたしは別に、変じゃないと思うけれど……。
アヤが歩く後を、エリーは追いかけます。エリーと一緒にいることがよっぽど嬉しいんでしょうか。スキップしながら進むアヤには、小走りでないと追いつけません。エリーは既に、ヘトヘトになっています。
「待ってよアヤ、ちょっと速すぎるよ!」
「えーっ、あなた、体力なさすぎじゃない?」
思わず座ってしまったエリーに、アヤは駆け寄ります。仕方ないわね、と言いながら、アヤは少し先を指差しました。
「この先に美味しいパン屋さんがあるの。そこで休憩しましょ?」
「さ、賛成……。」
もう一回「仕方ないわね」と言って、アヤは歩き始めました。今度はもう、スキップはしません。エリーに合わせ、ゆっくり進みます。
「もう二キロは走った気がするよ……。」
「何言ってるのよ、たった二キロで。」
エリーは改めて、びっくりしました。もし本当に、アヤがそんなに長い距離を、息切れすらせず、スキップし続けたのなら。きっと陸上選手の才能があると、エリーは思いました(陸上選手がどれくらいスキップできるのか、彼女は知りませんが)。そして同時に、不思議な安心感を覚えました。アヤとは、ずっと前からの親友のような気がしたのです。
「ほら、着いたわよ。」
「いちのせベーカリー……?」
そんな事を考えているうちに、気がつけば、二人はパン屋さんの前に到着していました。店の中からは小麦の焼けるいい匂いがします。そして何より、エリーが一番好きだったかもしれない匂いが、そこから漂っていました。
「いい匂い……。」
「でしょう? ここは自信作なの。いろんなメニューがあるから、好きなのを選んでね。」
自信作? エリーは聞き返そうとしましたが、アヤは既に、パン屋さんの中に入っていました。慌てて、エリーも彼女の後を追いかけます。
「わぁ……!!」
そして思わず、感動の声を上げてしまいました。店の中に並んでいるパンは、どれも綺麗に焼けていて、まるで輝いているかのように見えました。
「あら、こんなにかわいらしいお客さんがふたりも。おばさん、今日はサービスしちゃうよ。」
しかし、パン屋のおばさんを見て、エリーはぎょっとします。どうしてかって? それは、おばさんの顔を見たらすぐにわかるでしょう。
おばさんの首から上には、何もありませんでした。つまり、さっきは「おばさんの顔」と言いましたが、おばさんにはそもそも、顔がなかったのです。元々顔があったはずのところからは、紐のようなものが飛び出しています。
「ア、アヤ? これは、どういう……。」
「どういう……って何よ? 何もおかしいところなんて、ないでしょう?」
そう言われると、なんだか、本当におかしくないような気がしてきます。それよりパンを選びましょ、と言うアヤにあいまいな笑顔で答えたエリーは、できるだけおばさんを見ないようにして、パンを選びました。
「おばさんにも、二人と同じくらいの歳の娘がいてねえ……なんだか、懐かしい気分だ。」
おばさんはずっと、優しい笑顔で二人を見ていました。
「毎度あり!」
おばさんの元気な声に送られて、二人は店を出ました。結局、二人は全部のパンを、無料でもらえました。
「もう、おばさんったら。いっつもわたしたちに甘いんだから。」
「そ、そうだね……。」
そして、二人が座っているのは近くの公園のベンチです。エリーが一番好きだったかもしれない匂いは、もう香っていませんでした。
「それじゃあ、いただきます!」
「いただきます……。」
エリーが買ったのは、チョココロネとホットドッグ。まずは一口、チョココロネを食べて、エリーは目を輝かせました。
「……美味しい!!」
「だから言ったでしょ、美味しいパン屋さんだって。」
チョコレートの甘みが口いっぱいに広がって、ほっぺが落ちるような美味しさです。すぐに食べ終わってしまったエリーは、二つ目、ホットドッグを食べ始めます。
「……!?」
しかしホットドッグは、チョココロネよりもずっと、ずっと、美味しかったのです。あまりの美味しさに、エリーは思わず、泣いてしまいそうになりました。
「エリー? どうしたのよ、急に泣きそうになったりして。」
「なんだか……よくわからないけど、懐かしくて。」
エリーはホットドッグを頬張ります。なくなるのがもったいなくて、ゆっくり食べようと思った時には、もうホットドッグはなくなっていました。エリーが寂しそうな顔をすると、アヤはまた、仕方なさそうに笑いました。
「全くもう……そんな顔しないの。わたしの、ちょっとだけあげるから。」
アヤはそう言うと、ホットドッグの中のソーセージを、エリーの口に押し込みました。またあの美味しさが広がって、エリーは満面の笑みを浮かべます。
あれ? そういえばわたし、お肉、苦手じゃなかったっけ。エリーは少しだけ違和感を覚えましたが、すぐにそれは忘れられてしまいました。そんなことを考える余裕がないくらい、ソーセージは美味しかったのです。
「やっぱり美味しい……ありがとう、アヤ!」
「本当よ。全く、もっと感謝しなさいよね。」
つっけんどんな態度をとるアヤでしたが、そのほっぺは、少しだけ赤くなっていました。
「それにしても、やっぱり、誰もいないんだね……。」
エリーはつぶやきました。パン屋さんのおばさん以外、この町には、人っ子ひとりいません。だってまだ、誰もお友達がいないんですもの、と、アヤは寂しそうに言いました。でもすぐに、寂しくはないわ、と笑います。
「……だって、あなたは『おともだち』になってくれたじゃない!」
アヤはエリーの手を握りました。エリーは「ありがとう」と微笑みます。
「ありがとうって……なんであなたがお礼を言うの?」
不思議そうに首を傾げるアヤに、エリーは「なんでだろうね」と返して、笑いました。