Emotion   作:小淵良樹

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寂しいって、言われても。お金なんて渡しても、使いようがないだろうし……。あ、でも、弁当に入ってたお肉ならあげるよ。私、お肉苦手だし。

うーん……別に、お金とかお肉とかが欲しいわけじゃないのだけど……。

じゃあ、何が欲しいの?

何が欲しい……って訳じゃ、ないけど。一つだけ、お願いがあるの──。




 空にはお月様が昇って、辺りは暗くなりました。それでも、二人は歩き続けます。夜になればなるほど、エリーは、元気になっていきました。そろそろお店の人以外にも会いたいな、とエリーは思いましたが、すぐにその考えも忘れてしまいます。

 

「全くもう、本当に、エリーったら。はしゃいじゃって。」

 

「だって、楽しいんだもん!」

 

 アヤは少し疲れているようでしたが、それでもエリーににっこりと笑いかけます。

 

「お嬢さんたち、止まりなさい。」

 

 しかし、それを止めたのは、三人のおじさんたちでした。

 

 みんなそれぞれ、頭と、手と、お腹に大きな傷があって、着ている服もズタズタになっています。それでも、エリーには、おじさんたちが警察官なのだとわかりました。彼等の状況に、誰も、違和感を覚えません。強いて違和感があるとしても、彼等が美味しそうな匂いをしていることくらいのものでした。

 

「待ってよ。わたしたち、何も悪いことなんてしてないわ。」

 

「そうは言ってもねえ。こんな時間に一体、何をしてるんだい? おうちの人は?」

 

「おうちの人なんていません。わたしたち、気がついたらこの町にいたんです。」

 

 エリーがそう言っても、おじさんたちは納得してくれません。しかし、その内の一人が「あ!」と叫んで、手をパチンと鳴らしました。

 

「そう言えば、行方不明になった子供がいたんじゃなかったか。」

 

「ああ、そうだ。ええっと、名前はなんて言ったか。」

 

 しばらく考えてから、顔の右側がなくなって、その真ん中から左目があった筈の場所に、大きな穴があるおじさんが言いました。

 

「思い出したぞ。名前は、そうだ。」

 

 その先は聞いてはいけないような気がして、エリーは、緊張感を覚えます。

 

 

 

「──『アヤ』だ」

 

「……え?」

 

 

 

 今までも静かだったはずなのに、急に世界から音が消えたように感じて、エリーは身震いしました。アヤの方を見ると、怒っている訳でも、悲しんでいるわけでもない、全くの無表情がありました。エリーはもう一度、震えます。

 

「まあまあ、今日のところは見逃してあげるとしよう。」

 

 お腹からいろいろな臓器がはみ出したおじさんが言うと、他の二人も、「そうしよう。」と頷きました。そして二人は、ようやく解放されたのです。

 

「……ねえ、アヤ。」

 

「どうしたの、エリー?」

 

 アヤはまるで、ここ数分の記憶を全部忘れてしまったかのように、笑顔でエリーに答えます。

 

「さっき、行方不明の子、アヤって……。」

 

「あら、何かおかしいことでもあるの?」

 

 そうだ、と、エリーは思いました。行方不明の子と名前が被ったからと言って、アヤが探されている張本人とは限らないのです。そうです。おかしいことなんて、何一つ──。

 

 誤魔化されるな、と声がした。

 

 それが自分の声だとエリーが気付くのに、そう時間はかからなかった。しかし、明らかに今の自身の声帯から出る声ではない。そもそも、顔や、足がない人間が、こうも普通に生きていられるものか。違和感が繋がっていき、それはやがて、一人の少女に収束する。

 

 これまで、臓器の飛び出した人間を何人も見て、顔色一つ変えないアヤは。一体、何者なん──。

 

「全く、エリーはすぐ変なことを言い出すんだから。」

 

 エリーはあれ、と思いました。私は今まで、何を考えてたんだっけ? ですが、そんな考えも、アヤの笑顔を見たら吹き飛びます。

 

「おかしいことなんて、何もない。でしょ?」

 

 だって二人は、おともだちなんですから。

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