Emotion   作:小淵良樹

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死神ワンライ(自分主催)で書いた話です。かなり雑。
ちな21分オーバー


Emotion
生と死の狭間で


 一体いつからだろうか。私はずっと、ただ死にたいと思っていた。こんな人生、何が楽しいのかわからない。でも、何が辛いのかもわからない。そんな中途半端な自分が嫌で、終わらせたくて。

 

 ……だからこそ、三日前のあの時に、私は漸く終われると思ったんだ。

 

 なのに。

 

「──この()()()()?ってやつ、美味いじゃねぇか!」

 

 どうして、私は今、こんなよくわからない女と一緒に()()()()を食べているのだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 自慢じゃないけど、私は裕福な家に生まれた、と自負している。好きな物は買ってもらえたし、行ける範囲なら遊びにもよく連れて行ってもらった。

 

 でも、私は何故か満足できなかった。我儘だって思うかもしんないけど、私だってそんな自分が嫌だった。

 

 中学生の頃だっただろうか。「リストカット」というものを知ったのは。その頃にはもう死にたいと思ってたような気はするけど、もしかしたら違ったかも。

 

 まあ最初は、ただの好奇心のほうが大きかったけど。

 

 でも、リストカットというのは私にとっては麻薬のようなものだった。

 

 やると気持ちよくなって、でもやめた途端に辛くなって。

 

 友達にバレたときは「何がいいんだかわからない」って言われたけど、私にだってそんなのわからない。兎に角、私が高校生に上がるときには毎日のように手首を切るようになっていた。

 

 

 

 ……そして、三日前。

 

 進級して、高校二年生になったその日に、事件は起こった。

 

 何気なく通っている普段の通学路。そこにある工事中のビルから、鉄骨が落ちてきたんだ。気がついたときにはもう、私のすぐ上にあって。

 

 嬉しかった、ような気がする。

 

 漸く私は死ねる。リストカットに求めていたものも多分、深く切りすぎてそのまま死んじゃうことなんだろうって。

 

 死にたい人が死ぬ。何もおかしくない。何も悪くない。そのままゆっくり、目を閉じて──。

 

 

 

 

 

 

 

 次に目を開けた時に、最初に見えたのは誰かの顔だった。

 

「──あ、起きたか!心配してたんだぞ?うまく昇天できない奴もいるんだから」

 

 そう言いながら私の顔をペチペチと叩くのは、ショートの白髪で、目が赤く光る女の子。私と同じくらいの歳だろうに人懐っこい感じで、なんだか犬みたい……だなんて。

 

「……あんた、誰」

 

「俺?俺は死神だよ。見てわからないか?」

 

 俺、と自分を呼ぶ女の子──死神が、背負った巨大な鎌を見せびらかしてくる。危ないからやめてほしい。あたって死んだりでもしたら、どうす──。

 

「──ってか私、死んだはずよね!?」

 

 そうだ。死んだはずなのに、どうして私はこんな当たり前のように喋ったりしてるんだ。

 

「いやいや、死んでなきゃ死神には会えないだろ。寝ぼけてんのか?あ、どちらかというなら死にぼけてる、か」

 

 そんな面白くもないジョークを言いながら、死神はケラケラ笑う。本当はただの痛い奴かと思ってたんだけど、もしかしたら本当の死神なのかも。

 

「……まあ、それはいいとして。死神様が一体何の用?私は神様と喋るような趣味はないのだけど」

 

「まあまあ、そう言いなさんなって!俺はただ、ちょっとこの街を見てみたいだけだよ!」

 

 何を言ってるのか全く理解できない。つまり、なんだ。コイツは死んだ私に態々観光案内でもしてもらおうとしてるのか?

 

「……何が言いたいのか大体察しはつくから先に言わせてもらうけど、お断りよ。態々街を巡るなんて、そんなめんどくさいこと」

 

「まあまあ!二度と来れないんだから、ちょっとくらいいいだろ?」

 

 どうやらコイツは一切引くつもりはないらしい。

 

 ……まあ、仕方ない。どうせもう戻れないんだし、ちょっとくらい長居しても変わらないだろう。

 

「……仕方ないわね。本当にちょっとだけよ」

 

「よっし!そう来なくっちゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして、現在に至る。

 

 お金は置いていってるとして、勝手に店の商品を取るのはどうなんだろうか。

 

 そして、何よりも。

 

「死神。それは大判焼きよ」

 

「何言ってるんだ?これは今川焼きだろ」

 

 死神と私の間に火花が散る。生きてるとか死んでるとか関係なく、これだけは譲れない。でも、それは死神も同じみたいだ。

 

「こうなったら、俺達で雌雄を決するしかねぇな……」

 

「そうね……」

 

 一体何の勝負にする、と言いかけたところで、私は目を見開いた。

 

 この女、鎌を握りしめている。いやいやまさか。流石にそれは嫌だ。せめてもうちょっとマシな理由で成仏したい。

 

「後一時間……俺から逃げ切ったらお前の勝ち。それまでに捕まえたら俺の勝ちだ」

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさ……」

 

 問答無用。死神は私に全力で鎌を振りかぶる。それに対して私はギリギリで避けることしかできない。

 

 これじゃ、すぐに負ける。こうなったら……。

 

「私の土地勘を……舐めないでよッ!?」

 

 全力で逃げる。それだけ。

 

 死神はすごい速さで追いかけてくるけど、そんな事、関係ない。理由はわからないけど、今の私は誰よりも早く走れる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 風に乗る。この感覚を、私は知ってる。

 

 走り続けて最初に見えてきたのは、昔通ってた小学校だった。

 

 そうだ。昔は、私は足が速い方だったんだ。リレーの選手なんかも毎年出てたっけ。

 

 でも、それは小学生まで。中学校になって、私はどんどん、走れなくなっていった。

 

 身体的なこととか、理由は色々あるけど、何か別の理由があったような気がする。

 

 

 

 どうせまだ私の事なんて見つけてないだろうと思って、こっそり学校の中を走ってみる。今の私は死んでるから、残ってる先生達にも見つからない。なんだか久しぶりに心ゆくまで走った気がした。

 

 校庭、体育館、校舎の中まで。

 

 図工室に差し掛かったところで、懐かしい記憶が蘇った。

 

 

 

 ──○○くんはさ、どんな子がタイプなの?

 

 ──おれは優しい子かなぁ

 

 ──なにそれ、すごい無難

 

 ──まあいくら優しくても、お前みたいに足が速いやつは無理だな!

 

 

 

 確か、図工の時間だったかな?その頃気になってる子に、好きなタイプを聞いてみたんだ。そしたら、この有り様。なんでかって聞いてみたら、運動できる子は男みたいだって。

 

 よくよく考えたらこんなのと付き合うなんて信じられないんだけど、その時の私は本当にショックを受けて。

 

 ……それから、私は走れなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 次に見えてきたのは、昔はよく行ってたケーキ屋さん。

 

 これも、なんで行くのをやめたんだっけ?

 

 

 

 ──あのおねえちゃん、おばけのケーキ持ってる!なんで?

 

 

 

 あぁ、思い出した。なんてくだらない。

 

 私は可愛いものが好きだった。だからってわけじゃないかもしれないけど、ケーキを頼むなら必ずお化けの形のケーキを頼んでたんだ。

 

 でも、それが小さい子供に見つかった時、お化けのケーキを買うことは恥ずかしいことなんだって思って。

 

 それで、いつしかケーキすら食べなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……流石にそろそろ走るのも疲れてきた。眼の前のベンチに腰掛けてみる。

 

「……これ」

 

 懐かしい場所だ。街を一望できる展望台。

 

 昔はよく来てたのに、今は、なんで。

 

 

 

 ──ごめん、あなたとはもう、関わりたくないかな

 

 

 

 ……さっきから、どんどん記憶が蘇ってくる。

 

 ここは、唯一の親友と絶交した場所だった。

 

 理由なんてよくわかってない。確かよくある恋愛のいざこざだった気がする。

 

 結構いろんな酷いことを言われたんじゃなかったっけ。お前なんて生きてる価値がないんだとか、なんとか。

 

 

 

 思えば、私は今まで、いつも他人を気にしてきた。

 

 少しでも、他人によく見えるように。少しでも、恥ずかしくないように。

 

 

 

「──なあ」

 

 

 

 後ろから死神が話しかけてくる。なんだ、もう追いついちゃったのか。

 

 ……それとも、実はずっと、私の側にいたとか。

 

 

 

「……まだ、死にたいか?」

 

 

 

 ずっと、死にたいと思ってた。

 

 

 

「──私、まだ死にたくない」

 

 

 

 でも、それはきっと。

 

 

 

「私、まだ、生きてたい……!」

 

 

 

 私のためじゃない、誰かのため。

 

 私がいたら、邪魔になるから。私がいたら、誰かが嫌がるから。

 

 

 

「……俺、殆ど必要なかったじゃねぇか」

 

 

 

 でも。

 

 それは生きてるって、言わないんじゃないかって。

 

 常に他人の事だけで。その中に自分はいなくて。

 

 私は、ずっと死んでたのと一緒なんだ。

 

 

 

「……そうでもないよ。死神のお陰でわかったから」

 

 

 

 あんなノリで騒いで、走って。色んなことを見返して。

 

 ……私、楽しかった。本当に久しぶりに、そう思えた。

 

 

 

「……ったく。今度は、ちゃんと生きろよ」

 

 

 

 溜息を吐いて、死神は私の目を塞いで──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、病院のベッドの上だった。

 

 あたりを見渡すと、私の顔を覗き込む両親と、病院の先生。

 

「無事だったか!」

 

「心配したのよ」

 

 みんなが喜んでる。

 

 ……そう言えば、両親の喜ぶ顔も暫く見てなかったな。

 

 

 

「でもあの子、結局誰だったのかしらねぇ」

 

「そうだなぁ、どうせならお礼を言いたいもんだが」

 

 ある程度落ち着いた後。両親が語ったのは、私が気を失ってからのことだった。

 

 鉄骨に当たりか当たらないかギリギリのラインで倒れていたらしい私を、両親の元に白髪の女の子が届けてくれたらしい。

 

 

 

 ……それと、もう一つ。

 

 退院した後「死神」について色々と調べてみた。そしたら、女性の死神は殆どいないんだって。

 

 それに、そもそも死神って、取り付いた相手に自殺衝動を与える魔物であって、人を助けるような神様ではないって。

 

 ……じゃあ、私が出会った死神って、なんだったんだろう。

 

 

 

 もしかしたら、学校のどこかにいるような普通の女の子だったり?

 

 

 

「──ふふっ」

 

 

 

 そしたら、今度こそちゃんと勝負しなきゃ。私はまだ、負けたとなんて思ってないから。

 

 ……だから。

 

 

 

「──待っててよ、死神」

 

 

 

 いつか、あなたを見つけるまで。

 

 きっと今度は、「死神」なんて名乗らなくて良いようにしてやる。

 

 ……そのためにも、まずは。

 

 

 

「ちょっと出かけてくるねー」

 

「どこ行くの?途中まで送っていく?」

 

「いや、大丈夫」

 

 

 

 態々遊ぶためだけに出かけるのなんて何年ぶりだろう。もしかしたら、こんなにワクワクするのすら数年ぶりかもしれない。

 

 あそこに一人で行くのは初めてだけど、丁度走りたい気分だったから大丈夫。

 

 出かけよう。久しぶりに、おばけのケーキを食べに。

 

 

 

 

 

「──行ってきます!」

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