ユグドラシル攻略情報局より
ソウルダンジョン《未発見》
情報元は数人しかおらず、あまり信憑性はないことを念頭に入れておいて欲しい。
ユグドラシルのどこかに超高難易度を誇るダンジョンが隠されているとのこと。ワールドエネミーにも迫るボスが数多く存在している。複数人での攻略を試みたところ、人数に比例してボスも強化されていくらしく、ソロからトリオまでの攻略が望ましい。
ボスを撃破した暁には、特殊な武具やアイテムがドロップするとのことだが、詳細は不明。
匿名の投稿によれば、それらは種族による使用条件も狭いようだ。
積極的に狙いに行くには余りに不確定な情報ばかりなので、基本的には都市伝説扱いとなっている。新たな情報を待ちたい。
当サイトでは追加の情報をいつでも歓迎しております。
「デデンネさん、本当に行っちゃうんですか?」
オーバーロードの頭にヒョコッと飛び出したアイコンが、物悲しげな顔文字で覗いてくる。
このユグドラシルがサ終を迎えるこの日、我らがギルドに集まったのはたったの数人。
かつては栄華を誇ったこの極悪ギルドも、多くのプレイヤーが去っていった。どれだけ楽しかった世界でも、ゲームはゲーム。みんな、やめていってしまった。
モモンガさんが悲しむように、俺も似た感情を抱かずはいられない。
サ終くらい遊びに来てくれてもいいのに。
……しかし、現実というのは甘くない。金を稼がねば、睡眠を取らねば、勉強をしなければ。そういった必要として迫られることをしなければ生きてはいけない世の中だ。仕方がない。
娯楽に費やす時間だって人それぞれ。強要はできない。
ヘロヘロさんも早めにログアウトし、このアインズ・ウール・ゴウンに残されたのは、モモンガさんと俺だけになってしまった。
「デデンネさん、最後くらいナザリックで過ごしませんか……?」
少し呆れを含んだ顔文字が見える。その言葉で俺が止まるとは思っていないらしい。
モモンガさんも分かっているんだろう。流石ギルド長だ。誰よりもメンバーの気質を理解している。
「すまん、モモンガさん。対人したい」
「……相変わらず、ですね」
それじゃあ、とモモンガさんは指を立てた。
「僕とやりませんか?」
「モモンガさん、ごめん」
「ですよね」
しょんぼりとした一言。
本当に寂しがり屋なんだから。
「そんなモモンガさんに、ひとつ面白いものを見せたいんだ」
ほほう、とモモンガさんの好奇心がアバターを通して前屈みになるような錯覚を受けた。
この信頼度の高さは、俺の不屈の精神でかき集めたアイテムたちの功績だな。
「【憤怒】のドロップアイテム『針の
「そ、それは……!!」
「そう!!カルマ値が逆のプレイヤーをランダムで千人召喚する超馬鹿ワールドアイテム!!」
俺のカルマ値は、このナザリックでも珍しいプラス300。執事の……セバス、だっけ。彼と同じ。いわゆる善人ビルドだ。
高位神官の妹と相性良く組むために決めたんだが、悪党ギルドの中にいると善性専用のアイテムとか溢れるから、これがまた役に立つんだ。
その溢れたアイテムを巡ってたっち・みーさんとPVPの5本先取を開催するのも、毎度盛り上がって楽しかった。ウルベルトさんが攻撃魔法で茶々を入れてきた時なんてモモンガさんも誤字を連投するほど爆笑してた。
閑話休題。
「つまり!極悪な連中をひとまとめに集団拉致して、大悪党虐殺大戦を敢行する!!」
「どっちが悪党かわかりませんね、それ」
あんぐりと口を開けた顔文字で三点リーダーを垂れ流すモモンガさん。
次第にそれは笑顔に変わり、かつての青春時代を思い出すような生き生きとした文字で笑った。
「じゃあ僕も、もしかしたら敵対者として呼ばれるってことですね?」
「そうなるね。ワクワクしない?」
「します。めちゃくちゃ」
悪だくみをしていた時代が蘇ったような気分だ。たぶん、モモンガさんも同じ様に思ってくれているだろう。
敵対判定を強める為に一度ギルドを抜ける許可を求める。「複雑ですが」と言いながらも親指を立ててくれた。
「ユグドラシルサービス開始から終了まで。ずっと対人戦ランキングトップを走る『
「あははガチガチだ!いいね!じゃあ先に無限平原に飛ぶね、カルマ値ガンガンのアインズ・ウール・ゴウンですからね。ほぼ確で呼ばれますよ、覚悟してて下さい。俺もあっちのギルドからワールドアイテム引っ張ってくるんで!」
「いいですね!楽しくなってきました!」
ガチャガチャとアイテム整理を始めたモモンガさんを横目に、俺も扉に手をかける。
「モモンガさん」
「はい?」
ニヤリと、カルマ値が善とは思えない笑みを浮かべながら、俺はサムズアップをした。
「サ終の前に、ユグドラシルを処理落させる勢いでぶっ壊してやろうぜ」
「……っ!……はいっ!!全力で行きます!!」
これまでにない笑顔の顔文字を連打するモモンガさんを尻目に俺は戦場へ向かった。
時刻は午後22時。
趣味で兼任している暗月ギルドから持ってきたソウルウェポンを両手に、眼下を見下ろす。
目の前に広がる平原に、混乱したまま何千人とひしめくカルマ値極悪プレイヤーたち。
たった一人、誰よりも状況を理解しているオーバーロードが、先頭で俺に紅い瞳を向けていた。
「じゃあ、終わりを始めようか」
課金で購入した巨大文字エフェクトを、空に浮かべる。
WAR STANDBY
「開戦の一撃をここにッ!」
俺が叩き込んだ集団戦の流儀を、モモンガさんも理解してくれている。
課金アイテムの指輪を砕き、発動時間をキャンセル。
幾重にも浮かぶ魔法陣が、凶悪に煌めく。
「「超位魔法!!!」」
◇◆◇◆
「いやぁ最高だったなぁ」
広がる焼け野原。
生き残った最後のプレイヤーを消滅させて、俺は大きく一息ついた。
ここまで夢中になれたゲームが、あと十数分で終わりを迎える。
悲しいという気持ちもある。が、これで解放されるんだなぁ、という気持ちもあった。
ゲームサービス開始から遊び始めた。
最初は夢中になり、生活に使う以外のお金を全て注ぎ込んだ。
RTAの記録、対人構成や立ち回り等々の動画でお金を得るようになり、一人になって、次第に生活の全てとなった。
恐らく、現存するプレイヤーの中でも最長のプレイ時間を誇れると自負している。
最高に楽しい生活だった。
だが、同時に義務感もあった。この鎖のように繋がれた世界から、俺は離れることになるんだ。
しかしまぁ、これが生活から失われるという事に実感が湧かない。
モモンガさんも今頃ギルドにリスポーンしてる頃だろうか。
ま、最後くらい大好きなギルドを独り占めさせてあげるべきだろう。
……にしても、最後の別れが背後に忍んでからのブッパはやり過ぎたな。ごめんモモンガさん。ハイになっちゃって。
それにしても流石、ユグドラシルのサ終まで生き残ってる悪党ロールたちは強いなぁ。
モモンガさんを仕留めた辺りで状態異常を克復し始めた連中が、俺の姿を見て状況を理解。悪名高いプレイヤーが指揮を取り始めて連動しだした。
まさか【写し身の雫】と【神の遺剣】の
『な、なんじゃそりゃーーーー!!!』とか
『未発見の武器出すなーーーー!!!』とか
『最後まで害悪かよ暗月ーーー!!!』とか
『てめぇも地獄に落ちろーーー!!!』とか
いやぁいい悲鳴上げてくれる奴が一杯いて最高だったなぁ。
更にその
「さってと〜、お宝あっさり〜」
色んな意味でニンマリしながら、ドロップしまくった被害者たちのアイテムを吟味し、かき集めていく。
もう必要ないものではあるんだが、ゲームの最後くらい綺麗なアイテムボックスで終わりたい。
あ、スクショスクショ。これだけ綺麗なレアアイテム整列させたボックス、もう見ることもないし、記念に撮っておこう。
本当ならご法度だが、リアルモモンガさんの連絡先も手に入れたし、今度画像を送って上げよう。
「……あと、10分か」
もはやソロとなった暗月ギルドに転移する。
1年前まで妹と二人で遊んでいたギルドだ。
アノール・ロンドを模した世界。本来ならオンスモのいた部屋に置かれた玉座に腰を下ろす。
元々俺の種族は亡者。
そこから派生した《
当初は進化させるつもりもなく、亡者のまま縛りプレイの一環で楽しんでいたんだが、妹のリクエストで「王様シチュでしょ!私ほら、姫だし!」と言われたのが【王たちの化身】にジョブ派生させたキッカケだった。
【王たちの化身】というのは、俺たち兄妹二人で倒したワールドエネミーだ。
数々のダンジョンや広大な狭間の地を抜けた先にいた。恐らく、ソウルダンジョン系統のラスボスだろう。
これまでソウルダンジョンで戦った王や一流戦士たちの動き再現する壊れボスだった。近距離豊富、遠距離自由自在、属性盛り盛り。
倒したと思えばフィールドを覆う大爆発と同時にライフを全快で復活し、最上位の【奇跡・魔法・呪術・祈祷・忍術】まで使い始める。
鎧を着てるクセに忍者の技まで使うな!
戦士の姿で【仙峯寺拳法】ぶっ放して来た時は流石に鼻水出たわ!……まぁ、それだけじゃ済まなかったんだけど。
破茶滅茶に強くて、最高に楽しかったボスだ。
本来征伐隊を組んで挑むような敵だが、最高位神官のジョブを持つ妹にリスポーンポイントをボス部屋内に作ってもらい、ゾンビ戦法でデスを何千と重ねながら挑戦回数で圧殺した。
デスペナルティの少ない亡者スキルを持ってたからこそ出来た手段だ。
倒してみたらどうだ、その【王たちの化身】というジョブが解放された。
未だ嘗て発見されていないジョブだ。ユグドラシルというゲームのボリュームに改めて感嘆とされられた。
妹の言葉が無ければこのジョブにはしなかっただろう。
言ってしまえば、このアバターが忘れ形見。
この体も大切な宝物だったんだが、残念だな。
こことも、お別れか……。
アインズ・ウール・ゴウンではしゃいだ日々。大切な友達との時間。
暗月で妹と自称暗月警察でPK祭りをした日々。最愛の家族との時間。
楽しかった。
最後の最後まで、楽しませてもらった。
二本の純銀の愛剣を、荒いグラフィックの手で撫でて、黄昏に染まった豪奢な天井を見上げた。
「ありがとう。ユグドラシル」
◇◆◇◆
「本当に、無茶苦茶だよ、あの人ぉぉ〜〜」
リスポーンしたアインズ・ウール・ゴウンにて、玉座で深々とため息をこぼした。
狂い火の王、といったか。自分たちにすら知らせていない未発見のワールドアイテムだった。
頭部を不気味な太陽のように発火させて戦場全体に発狂と強化を撒き散らし、盛大な乱戦を作り上げた。
他にも毒やら腐敗やら凍傷やらエトセトラ。やりたいようにデバフを爆弾のように広げて、それでも立ち向かってくるプレイヤーを嬉々として武器スキルで狩り取っていった。
多対一の構図だろうと、あっけなくパリィや魔法で制圧してしまう本人の能力。
危なくなればモブプレイヤーたちを間に挟むことで狂騒のヘイト管理まで行う視野の広さと判断能力の高さ。
流石、害悪プレイヤーに与えられる非公式の称号【ワールドエネミーチャンピオン】受賞者。
大会にも一切出場せず、非公式の場で最前線攻略中のパーティーにカチコミ、エネミーの利用や、不意打ち、ガン逃げでワールドチャンピオンさえも下した。
悪辣にも、【ドロップ増加】や【デスペナルティ増加】をガン済みして追い剥ぎを頻発した為に付いた称号だ。
初心者狩りをしてたプレイヤーを狙っての狩りらしいが……。
どちらにせよ、これでカルマ値が善性だというのだから不思議だ。
ああいう行為を別ゲーでは青霊とか赤霊とかいうらしい。
「でも、あれはないですよデデンネさん……」
乱戦の中、デデンネさんを見失った瞬間、背後に忍び寄られて黒い炎を纏ったショーテルで貫かれてしまった。
即死系スキルに対する絶対防御があったにも関わらず、気が付いたらギルドにリスポーン。おそらく、即死だ。
念の為とか言って、刺してる最中に見たことない白い武器で死体撃ちしてくるし!
なにが「ダブルタップは基本」だよ!
仮にもギルド長を足蹴に言う言葉じゃないでしょうよ!
ホントあの人奥の手多すぎぃ!
デデンネさん含め数人しか現存しない死神系統ジョブや、数少ない特定のジョブでしか扱えない武器、ソウルウェポン。使い手の限られた
妹さんと運営してるギルドの物なんだろうけどさ!教えてくれても良かったんじゃない!?
サ終寸前になって滅茶苦茶興味深いものばっかり出してさあ!!
「ァァーーっ!もっと生き残っていたかった!もっとデデンネさんのアイテム見たかった!もっと隠し持ってる魔法見たかったーーー!!しかも最後がバックスタブって!なんでだよ!なんだよもう!最後はカッコよく二人戦場に残って一騎打ちとかしたかったのに!!」
はぁーー。
玉座の間に跪くNPCたちを前に、一人チャットを暴走させるように喚き立てた。
ようやくスッキリして、抱えていた頭を上げる。
デデンネさんも、最後くらいこっちのギルドに来てほしかったな。今頃きっと兄妹水入らずで過ごしているのだろう。
なんなら、妹さんもこっちに呼んでくればよかったのに。
……いや、でも確か人間種って言ってたっけ。
うーん、でもギルドに残ってるのは俺たちだけだし呼んでも……。いやでもメンバーの皆に示しがつかないような気も……。
「フフッ」
自然と口から笑みが溢れていた。
あのハチャメチャなPK中毒者のお陰で、最後の最後まで楽しかった。
「……楽しかったよ」
「恐れながらモモンガ様。なにが楽しかったのか、お聞きしても宜しいでしょうか」
先頭に跪くアルベドが、美しい顔をこちらに向けてそう問いかけてきた。
見慣れた口パク動作でもなく。滑らかに、まるでそこで生きているかのように。その口で喋っていた。
「……んぇ?」
この、骨だけのアンデッドの口から。
ゲームでは聞こえる筈のない、情けない声が出ていたのだ。
暗月帳
ソウルウェポン
ソウル系譜の武具アイテム
下級からワールドに渡り様々な品が存在するも、使用ジョブに至るまでの難易度が高く使用者は極小。
その上、ボス撃破の大変なこと大変なこと。希少価値は高い。オークションに出してみたところ、とんでもない金額に跳ね上がったので一品だけ販売した。
これでかなりのガチャ代やNPCのキャラクリ代は稼げた。これでしばらく籠りきりになれそうだ。
それと、玉座の間にいたオンスモには外に出て貰っている。
お前たちのような輩は巨人近衛兵と並んで立ってなさい!
追記
不死者を一撃で退場させる戦法を思いついた。あとで共有しておこう。