不死たちの化身   作:花火師

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ユグドラシル攻略情報局より

ギルド・暗月《拠点未発見》

構成員はたったの二人しか確認されおらず、全容は不明。
救援要請を出すプレイヤーへの救援活動を積極的に行い、時にはマスナスカルマ値の攻略中のプレイヤーへ野盗行為をしている。これにはワールドチャンピオンも複数人が被害に遭っている様子。その際、ワールドチャンピオンを負かしたという噂もあったが真偽は不明。
これまでギルド拠点の入り口を特定したプレイヤーはいない。
大手ギルドが懸賞金をかけているので、一攫千金を狙いたいプレイヤーは探してみても良いかも知れない。

当サイトでは追加の情報をいつでも歓迎しております。



ホラ吹きベスト

 

ベッドの上で目が覚めた。

枕元のキャビネットに置いた淡く光るカンテラを、群がる使者たちが戸惑うように突ついている。

 

「大丈夫だよ、倒れないから」

 

どうもランタンを支えたいらしい。

万が一の為に魔法で固定してたんだが、少し可哀想なことをしたかな。

 

魔法を解いてやると、我先にと持ち上げて声もなくはしゃいでいる。

 

目覚めた瞬間から戦闘態勢の頭を冷やそうと窓際に歩み寄る。

パサリと付いてくるコートの裾。

 

窓台に腰を掛け、欠けた月の空を眺めた。

 

「バハルス帝国、ねぇ」

 

 

 

 

アノール・ロンドが、現実になっていた。

 

何を言ってるか分からないだろうが俺も分からない。

 

現実世界としか思えない程に生々しい。

手甲を外せば触れれる、玉座を撫でる指先の感覚。息を吐くたび抜けていく呼吸の音。天を覆う石材の香り。斜陽刺す窓からの物悲しい光の温度。

ゲームの中だというのに、どれを取っても現実的過ぎる。まるで一瞬で世界のチャンネルが切り替わったかのようだ。

 

手を見つめる。

ユグドラシル(ゲーム)のまま、焼けただれた亡者(ゾンビ)の様な手だ。

だが手の甲の血管は熱く、手首の脈も鼓動と共に血を巡らせている。

 

VRゲームだとしても余りに精巧過ぎる。現実的じゃない。

 

とりあえずパンツを下ろしてみた。出来た。

どうなってんのこれ。

 

コンコンッ

 

「ヒョッ!?」

 

扉を叩く音が聞こえて即座に上げ直す。

誰だか知らないが危うく玉座の間でフルチン成人男性の痴態を晒すところだった。

 

なぜサ終の時間が過ぎてるのにゲームが終わらないのか。なぜ規制に引っかかる行為ができるのか。謎はある。

だがそんなことより……。

 

「誰だ……」

 

狩人の夢(暗月)】に入ってきたってのか?

その上、俺たち兄妹の極悪ダンジョンを抜けた?

 

暗月ギルドの入り方はユグドラシルの隠された山間の街、廃墟マップ【ヤーナム】の家屋のひとつ、ある診療所で眠りに落ちることで侵入できるようにしてある。

眠りに落ちた先にある、王たちの眠る地【ロードラン】や【ファランの城塞】等々。

人体をぶっ壊す【腐れ湖】に。

精神をぶっ壊す【ヤハグル】も。

その他諸々の地獄を踏破してようやくたどり着ける。

 

その大扉を叩けるのはダンジョンを踏破した最強格のプレイヤーだけ。

 

 

……もしくは。妹だけだ。

 

 

ゆっくりと、重たい扉が開かれる。

 

 

「失礼致します」

 

優しくも冷たい、透き通った女の声。

 

まるで秒針を刻むように平坦で機械的な口調。

わずかな金具の擦れる音と、夜に紛れるようなチェスターコート。

血捌けの良いハットの羽飾りがフワリと揺れた。

 

「……」

 

呆然と立ち尽くす俺の前に、女は刻々と時間をきざむように、洗礼された美しい足取りで歩み寄る。

その場に膝をつくと帽子を外して拝謁の礼を示した。

 

「我が主よ、外なる世界にて、かつてない異変が起こっている様子。ご命令を頂けないだろうか」

 

「……完コピコス?」

 

「カンコピコス……?」

 

俺のNPCをコスプレして乗り込んできた?

え、変態過ぎない?しかも滅茶苦茶クオリティたけぇ。

……え、ネットストーキングされてたの?

ギルドまで到達するプレイヤーが居ないから情報なんて外に漏らしたこともないのに。

いや……なんだろう、なんかちょっと嬉しいぞ?

 

でも、なんで俺を仰ぐの?

同人作家の先生を崇拝する、みたいな話?

 

「既に使徒たちがステージ守護者に警戒を呼びかけております。ご要望とあらば、すぐさま招集を……」

 

「何が目的だ」

 

「……目的、ですか?」

 

不審なモノを見る目だ。

それ俺の反応なんだけど。

 

「……お前は誰だ」

 

「……っ!」

 

俺の作ったNPCそっくりに扮した女は、目を見開くと鋭く尖った双眸(そうぼう)を紅く(たぎ)らせた。

短い深呼吸と共に、背後の扉へ視線をちらりと送る。まるでその遥か向こうに居る、見えぬ敵を探るように。

 

「我が主よ、啓蒙足りぬ我が身には敵を捉えられません。しかし、貴方様には、見えているのですね?」

 

えっ、おう。

 

啓蒙……って俺の設定だよな?

ユグドラシルにはそんなステータスはない。あくまで俺と妹が拾った意味深なアイテムテキストから無理くり作り上げた設定だ。

……ははっ、まさか俺が作ったNPCが動いているとでも?

 

聞いてみるか。

 

「問おう。……『秘密は』」

 

「『甘いもの』です」

 

うーん、この文言。

完全に俺のNPCだわ。中学の頃に考えてメモってたのを妹が引っ張り出してきた痛いセリフっ!改めて他人の口から聞かされると刺された様に効くぜッ!!

 

どれくらい頑張ってもこんな美麗な見た目のキャラクリは難しいし、俺たち兄妹しか知らない設定まで知っている。

わけわからんけど、どうやらNPCが自律してしまったらしい。なんでだ?

 

ユグドラシル2?

異世界転移?

デジタル催眠?

 

くそ、コンソールが開かない。

ダイレクトメールも……無理か。

こうなるとゲームシステムはアテにしない方が良いかもな。

 

とりあえず、そうだな。

このギルドの外を確認しなきゃな。ユグドラシルとか、アインズ・ウール・ゴウンがどうなってるのかも知りたい。

くぅー、あっちのギルド抜けちまったからな。【螺旋剣の破片】も転移の指輪も役に立たないか。

 

つーか、もしかして全NPCが自律してるってことなのか?

とすると、変に暴走されると困るやつが一杯いるんだよな。

 

「マリア、各ステージボスに異変が無いか確認。全ステージのチェックと何かあれば対処を任せていいか。お前が一番速く確実だ」

 

「お任せを」

 

次に瞼を閉じて開く頃には、もうマリアはそこにいなかった。

風と、血の香りだけを置いて行った。

 

 

「ふぅー。なんか息が詰まったぜ」

 

自分のNPCに緊張するだなんて、変な感覚だ。

 

「あんな美人に見つめられたら、そりゃなぁ」

 

 

しかし、中二の美人って……イイな。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

事前に外に偵察に行かせていたマリアの情報を元に、俺も外へ出た。

物凄い剣幕で止められたが【螺旋剣の破片】で各ステージの篝火に飛び回り、他にも我ながら奇天烈な見た目のNPCたちに絡まれながらもどうにか全てを撒いた。

夢の中に(きょ)を構える特殊なギルドだ。出るには俺の許可が必要だし、変に追ってくることもない。

ま、逆に言えば俺自身がギルドを連れ歩いてる様なものだし、いざとなったら呼び出すねぇーと去り際に言っておいたから大丈夫だろう。

 

 

満天の星空と煌びやかな都市だった。

中世風の家々が立ち並び、王様の住まうような城まで見える。明らかに現代ではないし、ユグドラシルにもこんなマップはなかった。

 

マリアの情報通りならば、ここは帝都。王様じゃなくて皇帝様の治める国ということだ。

それも、鮮血帝と呼ばれてるんだと。

物騒過ぎやしないか。気が合いそうだ。ヤーナムじゃ鮮血を浴びる戦いに酔いしれてたからな!なつかしー!

 

事前に情報収集にマリアを送ったのも正解だったようだ。少しだけ物珍しさはあるが、チェスターコートはあまり悪目立ちせずにここの住人に馴染めた。

ワーカーとかいう職業ならば普通に似たような戦闘服で出歩いている。

こちらの世界のギルド……まぁ何でも屋みたいな組織があるんだが、それにすら所属していない、完全なフリーターたちの総称。

 

なので俺もフリーターに就職しました。

生きるにも金がいる。暗月ギルドの中で生活するという手もあるが……。ま、好奇心旺盛なソウルプレイヤーを止めることはできないという事だ。

 

事態も事態だし、こうなった訳も分からないが。

せいぜい、楽しませて貰うとしよう。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「おーすヘッケラン」

 

「げ、また来やがったよ」

 

今日も今日とて閑散とした酒場で一人寂しく飲んでいる男に絡みに来たのだ。

短い金髪に赤の差し色を入れた、二刀流の男。

この辺じゃ名の売れたワーカーらしく、この男に俺の冒険談を聞かせる代わりに、仕事の紹介や依頼人の集まりそうな場所を教えて貰うのが最近の稼ぎ方になっていた。

 

「あのなぁ、お前の与太話に付き合わされてる身にもなれ。こっちが報酬を貰いたいくらいだっての」

 

「まぁいいじゃないか。あ、エールひとつ。ありがとうヘッケラン」

 

「なに平然と奢って貰う前提で注文してんだよ。マスター、水でいいよ水で」

 

「じゃ水割りで妥協点しよう」

 

「水割り100%だってよ」

 

「あっはは!それ水だよヘッケラン!天然か!」

 

「お前は水で十分だって言ってんだよ!」

 

「で、昨日はどこまで話したっけ。弦一郎が九郎を攫ったところまでだっけ」

 

「……はぁ」

 

物言いたげなため息を溢すヘッケランだが、なんやかんやで娯楽には飢えているらしい。不満げな顔をしながらも、俺の好きな隻腕忍者イベントストーリーを語って聞かせると、黙って聞く姿勢に切り替わる。

 

「で、友人が言う訳よ。カラクリの義手に魔法のアイテムを仕込めば良いんじゃないかって。どう思うよ?」

 

「……んー。考えとしては良いんじゃないか?その方が生存率は上がりそうだし」

 

「かぁー!こっちもロマンがねぇのかよ!アサシンだぞ!闇に紛れて闇と共に消えるのがロマンだろがい!」

 

「なにがロマンだよ、死んだら元も子もないだろうが」

 

「ドンパチ派手に魔法は目立つし、アサシンの役割じゃないだろ!ごちゃごちゃ属性つければいいって訳じゃないの!」

 

「お前の話を聞いてる限り、その狼はドンパチしまくってるじゃねーか!」

 

「お、斧くらい使ってもいいだろ!」

 

「爆竹と火炎の筒はどう足掻いてもアサシンじゃないだろ!」

 

「アッ……アサシンだい!!」

 

丁度盛り上がって来たところで酒場の扉が開かれた。

閑古鳥も鳴いていた店内に人口が増えていく。

 

「ちょっとアンタら、馬鹿みたいな声が外まで響いてるわよ」

 

派手な紫がかったツインテールのエルフ、イミーナ。

ツインテールのくせに姉御肌。キャピキャピでもツンデレでもない。ペロロンさん、あなたの『ツインテール萌えキャラ説』はここに崩れ去った。

 

「おっす、姉御」

 

「あら、昼から暇そうね」

 

うっせ。

 

その後ろに無言でニコニコしながら戸を潜るのはこのメンバーの大男ポジション。

 

「お疲れさん……レバーベイク」

 

「誰が肝臓焼き(レバーベイク)ですか。ロバーデイクです」

 

……もう一人の少女が今日は居ないようだ。

 

「おう、遅かったな」

 

ロバートベイクが一息つくように、荷物と腰を降ろした。

 

「ええ。買い出しに思ったより時間を用しまして」

 

「アルシェは明日合流するって」

 

何やら俺を置いて仕事トークが始まってしまった。

ワーカーチーム、フォーサイト。

このバハルス帝国内でもそこそこ名の通ったチームで、色んな仕事も流れ込む。そんなコイツらに俺は取り入ったのだ。

下手(したて)に出て、後輩ムーブを続けたお陰で今ではすっかり可愛がられている。

 

「なぁな、いい仕事か?俺にも噛ませてよ」

 

「なんだまだ居たのか、帰っていいぞデンネ」

 

「あらデンネ、いつまで居るの?」

 

「デンネさん、また今度」

 

「お前ら後輩だぞ俺。少しは優しくしろよ」

 

後輩の態度ではなかった。

可愛がられてないのだけはジョークだと思いたい。

 

「カッツェ平野でアンデッド掃討任務だよ。お前ボッチなんだし、どうしようもないだろ」

 

「そうそう、あんた馬鹿だし行ったところでどうしようもないでしょ」

 

「アンデッドになったら任せて下さい」

 

「お前ら俺をなんだと思ってんだよ!」

 

信仰魔法詠唱者のローバーまでもが俺の肩をポンッと叩いた。

やれ「新兵」だの「馬鹿」だの「背信者」だのと好き勝手言いやがる。

全部本当のことだから言い返せねえよクソ!

 

「商店街端のドブさらいなら人探ししてたぞ。『ホラ吹きベスト』にはその辺がお似合いなんじゃないか?」

 

ヘッケランがニヤリと嫌味な笑顔を浮かべながら親指で外を指しやがる。

が、イミーナに肩を小突かれた。

 

「ちょっと、言い過ぎ」

 

「そうですよ」

 

ありがとうイミーナ、でも馬鹿って言ったこと一生忘れないからなコラ。

あと……レ、レバーデルク。

お前みたいな素知らぬ顔で便乗してくるタイプ一番嫌いなんだよ、臓物引っこ抜くぞコラ(ヤーナムジョーク)。

 

今の俺の格好は確かに貧相だ。ヤーナムで拾った雑魚装備のまま、黒いパンツに赤銅色のベスト。

そりゃ、到底戦いに赴く人間とは思えないだろう。装備としては貧弱もいいところだが……。

狩人スタイルで戦うならば防具は有って無いようなもの。全部回避して臓物引っこ抜けば相手は死ぬんだから。

 

そんな服装で酒場で荒仕事を探し「戦える」と主張する俺は、このたった数日で『ホラ吹きベスト』と呼ばれるようになった。

俺の戦った話を流し聞きいてく通りすがりが、ホラ話だと吹聴していく為、それも称号に一役買っているのだろう。

まったく持って不服である。

 

「ともかく、お前の出る幕じゃない。まずは装備を揃えて、安全を第一に立ち回れるようになれ。そうしたら……。ま、時間でも空けば多少は戦いのレクチャーしてやるよ」

 

何だかんだ面倒見のいい男なのだヘッケランは。

 

俺の肩を叩いて立ち上がると同時にカウンターに酒代を置いた。ひーふーみー、あれっ。俺の水代まで含まれてる。マジいい奴。

 

「じゃ、頑張れよ」と2人を連れて出て行ったヘッケランは、しかし、閉まった扉を再度外から開けると顔だけを覗かせて人差し指を立てた。

 

「忘れてた、アサシンの与太話。爪が甘いからもう少し練り直せ。九郎の性別も『分からない』じゃなくて、どっちか決めておけ」

 

んじゃ、とそれだけ言って手をヒラヒラと振り、今度こそ出て行ってしまった。

 

「…………」

 

残された俺と「客来たら呼んでー」と後に引っ込んでいくマスター。

 

 

 

「九郎きゅんは性別不詳なのがイイんだろがボケーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 

 

危うく酒場ごとぶっ飛ばすところだった。

 

 

人知れず、足元の影が静かに揺らめいた。

 

 





暗月帳

マリアのキャラクリがようやく完成した。
妹の人形ちゃんも作ったし、これで一息つける。完成しては見直してを一ヶ月くらい繰り返した。
レベルはあえての99。完成しない存在であるのが魅力!
秘密の守り手としてアノール・ロンドの前に構えてもらうことにした。
火防女ちゃんに並ぶ傑作!サイコー!寝る!
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