ユグドラシル攻略情報局より
通り名
ギルド 《暗月》
推定役職 ギルド長
敵対相手への煽りなど、基本的には害悪プレイを好む
これを好機と、
結果としてそういうギルドに対しては、一ヶ月近く拠点前でキャンプされ、絞りに絞られるらしい。
被害者による動画『いま拠点前で害悪プレイヤーが仮拠点作ってるんだけど』は大バズリしていた為、皆様の記憶にも鮮烈に残っているだろう。
読者皆様にも気をつけて貰いたい。
当サイトでは追加の情報をいつでも歓迎しております。
「ギガントバジリスク……ふむ。高いパワーと速度、強烈な毒性の牙はひと噛みされれば死は免れないっと」
ヘッケランが格安(定価の倍)で譲ってくれた『ワーカーのすすめ』には様々な情報が載っていた。
旅の基本から食べれる植物の見分け方、気を付けるべき夜の過ごし方、モンスターの図鑑まで含まれている。
この辺一帯の強さの基準を測る為に、手っ取り早く強そうなモンスターを探してみた。
「なるほどなぁ」
腰掛けていたギガントバジリスクから立ち上がって伸びをする。
実にお得な教本だ(定価の倍)。
でも可食部について書いてないのはどういうことだよ。日本人としてはできるだけ食には拘りたいものなんだが。
……ま、でもワニだし腹とか胸の肉なら食えるかな?
最初にユグドラシルから持ち込んだ私物を売って稼いだ資金も底を尽きる一歩手前。
見栄え重視で貴重なものばかりをパンパンにストレージに詰めてきたのが仇になったらしい。無念。
もう売れるものがない……。
「……はら、減った」
ただでさえお金が無いんだからこういうところで元を取らないと。
定価の倍だからね!!
とりあえず焼いてみた。
うーん。微妙。
血抜きが甘かったのか、まだまだ獣臭い。塩っけも足りない。ちゃんと教本通りに調味料も買ってくるんだった。ケチり過ぎたか。
だって定価の倍だったからねえ!!!
とりあえず胃に入ればいいや気分で獣臭い肉を流し込んで、手を洗い、帝国への帰路へとつく。
丸ごと持って帰れば相当な金にはなるだろうが、面倒事はごめんだからギガントバジリスク死体は【マダラスの蛇】に丸呑みにさせた。
牙と爪も確保したしこれを売れば宿代も2週間は大丈夫だろう。
縄張り争いの死骸から「拾った」で誤魔化せば、『ホラ吹き』呼ばわりの俺でも換金で
暗月に行けばもっと良いの食えるか?
いやあ、でも逃亡するみたいにこっちの世界に飛んで来ちゃったし、帰ったらマリアにとっちめられそうなんだよなぁ。
ギルドも夢の中だ、ご飯あるー?と飯を
ぶっちゃけ俺の種族はアンデッドの
普段は【擬態のヴェール】で人間になってるが、空腹のたびに付け外して誰かに見られでもしたらまずい。暫くはこのまま居ようと思う。
戦闘中にバフデバフの関係で付け外しするかも知れないが、まぁそこの感覚の誤差を埋める練習はギルド内でしよう。
ギルド内……か。
「やだなぁ。どちらにせよ近い内に帰らなきゃいけないんだけど、マリアにどやされそうだ」
まだ最初と報告を受けた際の2回しか自律したマリアと話をしていないが、かなり世話焼きだった。
滅茶苦茶心配されたし「先触れとして私一人で帝国の何割かを
俺としてはマリアは大事なNPCだし、危ないことをされては困る。
こちとら何億と数えても過言じゃないくらい命を捨てて強敵と戦って王になった蛮族だぞ。命を賭け戦うのは俺の性分だ。綺麗な女性に過保護にされるのは性に合ってない。最高だけど。
でもま、タイミングとしては今くらいが適当か。
ヘッケランたちは長期任務でカッツェとやらに行ってるみたいだし、暗月内のNPCたちを集めて挨拶とかしておくか。
問題を先送りにしたところで、そうそう忘れてくれないだろうしな。結局、男が折れる方が収束も早い。
妹よ、お前の教えは兄の力になってるぞ。
とりあえず、宿に帰ろう。
暗月に居る間、自分の体がどうなってるのか分からない以上、こんな平野で眠りこける訳にもいかないしな。
宿屋に向かう途中、ここ数日で馴染んできた酒場の前を通った時だった。
「よぉ《ホラ吹きベスト》じゃねーか」
なんかチンピラ3人に絡まれた。
「なぁちょっとお金貸してくれないか?今俺たち酒代なくて困っててよぉ」
「後輩なんだからよ、先輩に恩を売ってもいいだろ?」
「お前のホラ話聞いてやるから、報酬として金くれよ。なっ?」
うわクソだりぃ。
「うわクソだりぃ」
あ、口から本音がポロリと。
「んだとっ!」
「勘弁して下さいよ〜、こんな零細ワーカーにお金なんてありませんって」
えへへーと首を傾げながら通り過ぎようとするも、腰の袋に挿したギガントバジリスクの爪を引ったくられた。
「いいモン見ーつけた!」
反射的に、右腕の筋肉が最小の可動域で人体の中心点に狙いを定めた。
「……アブネー」
危うく手を伸ばしてきた男のハラワタをブチ抜くところだった。
ふぃー、と心のなかで冷や汗を拭う。
所有物を取るということは命を取られても構わないという合図……だと思っていたが、それはあくまでユグドラシルでの話だ。こんなしょうもない雑魚のせいで札付きになる訳にはいかない。
今の皇帝はやり手だというし、罪に対しての罰を甘く見て犯罪に手を染めるのは得策じゃないだろう。
「……こりゃギガントバジリスクの爪じゃねーか!」
「ははっ、こりゃいい!酒代ゲットぉー!」
「おいおい、こんなのどこで拾ったんだよホラ吹きベスト!」
隠れたまま残った牙だけをアイテムストレージに仕舞い込む。
ちっきしょ、アイテムの概念なら無形化させられるの忘れてた。仕舞っておけば良かった……。
これまでも奪う側で立ち回ってたから完全に失念してた。
仕方ない。今回はいい勉強になった。
別に力を誇示したい訳でも、暴れ回りたい訳でもない。
俺としては、この綺麗な世界で強敵でも探しながらゆっくり楽しめればいいだけだし。
「どうせお前の実力じゃないんだろ!お前には勿体ないから俺たちが預かっといてやるよ」
「……どうぞ。じゃ借しておきます。ちゃんと返しくださいよ」
しょうが無いにゃあ。
「あー返す返す。その内な〜」
「せいぜいまた運よく拾ってこいよ」
「ごちー」
チンピラ3人衆がゲラゲラと酒場に入っていく。
「ケッ。夜道に気をつけろよ〜?見つけたらバクスタしてやる」
……ふと、足元の影が揺らいだ気がした。
気の所為、か?
前も酒場で違和感あったけど……。
特に呪いの類をかけられてる形跡も覚えもないし、何だ?
啓蒙でも上げすぎたかぁ?……って、こんな綺麗な世界に啓蒙を上げるような悍ましい存在なんて居ないか!ガハハ!
居たらそれはそれで楽しめそうだし、どっちでも結果オーライだな!
世の中、ポジティブこそが楽しく生きる秘訣だ。
なんとか牙の換金を終えた。
1週間分くらいは稼げたので、まぁ良しとする。
また折を見てギガントバジリスクの死体を拾うとして、それまではまたドブさらいとか草むしりでもするかー。
なんやかんやで、街を綺麗にする仕事は嫌いじゃない。ユグドラシルでもよくやっていたことだ。対象がプレイヤーか雑草かの違いというだけ。
街を清潔にいたしましょう。
日もとっくに落ち、街灯と夜店が立ち並ぶ道を進む。
ようやくたどり着いた宿屋に入り、1週間分の料金を払っておく。
また馬鹿に
「その足で」とは言っても靴を脱ぐのが面倒で足だけ床の上にプラプラ浮いているが。
「ふー。社会不適合者だからメンタル的にはやっぱ疲れるな」
現実じゃ動画で稼いでた引きこもりだったし。
ま、リハビリがてら安い仕事でコミュ力というものを思い出していくとしよう。
それに、しばらくこの世界での戦い方に馴染むまでは強敵との戦闘は避けたいし、身体を動して稼ぐのは悪くないことだ。
前回なんてドブさらいのコツが掴めてきて依頼主に褒められたし、サービスで晩飯までご馳走して貰った。
一概に安い仕事だからと侮れないものだ。ああいう仕事でしか得られない満足感もある。
「あーーーーー」
ゴロゴロと転がり、早くも眠気が襲ってきた。
不慣れな世界に中身は疲れているようだ。
ま、警戒は常に怠れなかったし、
どれ、足をお湯で洗って飯でも……。
「……」
月のない空に、視線を向けた。
「
俺の中で月の意思が、囁いている。
暗月の信徒が俺を呼んでる。
──窓を開け放った
◆◇◆◇◆
お父様とお母様が、ウレイリカと一緒に、この優しいオジさんに着いて行きなさいと言っていた。
よく分からないけど、そうすればお姉様もウレイリカも、お父様もお母様もみんなが幸せになれるんだって。
オジさんたちは、ウレイリカと私をずっとニコニコと見てくる。変なの。
「どうして笑ってるの?」
「ハハッそりゃあ、なぁ?」
私が聞くと、ウレイリカも不思議そうにオジさんを見上げた。
オジさんは、黄色い歯を覗かせて嬉しそうに笑っていた。
「オジさんも幸せだからだよ」
「でもオジさん。お外暗いよ?夜は寝なきゃいけないって、お姉様が言ってた」
「そうだよ、お姉様が言ってた」
私の言葉を繰り返すウレイリカ。
オジさんの目が、怖かった。
お父様もお母様も、幸せになれるって言っていたけど。でも、どうしてなのか。私たちを連れて歩くオジさんが怖かった。
「大丈夫だよ。お父様とお母様が許可をくれただろう?それじゃ君はこっちにおいで」
「え、だっ、ダメ!」
オジさんはウレイリカの手を引くと、別の部屋へと歩き出した。
嫌な予感がして、ウレイリカの空いた手を掴む。
ウレイリカも、私に手を伸ばしていた。
やっぱり、ウレイリカもこのオジさんが怖いんだ。
「ウレイリカを連れて行かないで!」
「クーデリカと離れたくない!」
握った手に、オジさんのネバリとしたヌルくて太い手が重ねられた。
その時、さっきまで怖かったけど、それでも笑ってくれていたオジさんが鋭い目に変わった。
「大丈夫だよ、みんなが幸せになる為なんだ。ね?この手を離しなさい。大丈夫、またすぐ会えるから、今だけだよ」
口端だけを上げた顔をしている。
きっと、笑おうとしてるんだ。でも全然笑顔じゃない。
お姉様が絵本で読んでくれたお話を思い出した。
悪魔の笑顔は、口が、欠けたお月様のようだって。
目の前のオジさんの顔は、それだった。口が、欠けたお月様の形。
「ウレイリカ!ウレイリカァ!」
手を無理やり解かされると、ウレイリカはオジさんの太い腕に抱えられてしまった。
「クーデリカ!クーデリカ!嫌だよぉ!」
もう一人、オジさんが出ていこうとする扉から入ってきた蛇のような顔のオジさんに手を掴まれた。
痛くて、怖くて、それでもウレイリカに伸ばした手は、冷たい扉の向こうに届くことはなかった。
「……うッ。……ヒック……ウレイリカ……ごめんね……うぅ……ッ」
鉄格子の中。
たぶん今頃寂しくて泣いているウレイリカを思っていたら、いつの間にか私も泣いていた。
どうしてこうなってるのかな。
あの人たち、悪い人なのかな。
きっとお父様もお母様も、あの悪魔の人たちに騙されてるんだ。
お父様とお母様も助けないと。
そうだ。お姉様が来れば、きっと悪魔なんかやっつけてくれる。
お姉様は強いんだって言ってた。ウレイリカも、お父様もお母様もきっと助けてくれる。
「面白くねえッ!!二度とやるかこんなクソポーカー!!」
ドタンッと強く扉を閉めて蛇の男が入ってきた。
扉の音にびっくりして、また涙が浮かぶ。
泣いちゃダメだ。悪魔は子供が泣くと喜ぶんだ……。だから……泣いちゃ、泣いちゃだめ……!
「うっ……ぁぁ……ううぅ」
それでも涙は浮かんでくる。
怖くて、怖くて、怖かった。
「ああもう、るっせぇクソガキッ!!」
蛇の悪魔が鉄格子を蹴った。
世界が揺れるような感覚に、死んじゃうんじゃないかと思うほどの恐怖を覚えた。
「こっちは負けてイラついてんだよ!泣くな、黙れ!あんまり騒ぐと殺すぞ!!」
「ぁ……ッ。ぁぅ……ッぅ……!」
「そうだそれでいい。あんまり騒ぐともう一匹の方を殺しちまうかも知れないからよぉ、静かにしとけ。いいな?」
止まらない涙。
それでも声だけは出さないように口を抑さえる。
涙でぐしゃぐしゃになった袖を頬に感じながら、必死に頭を縦に振る。
帰りたい。早く、お姉様とウレイリカと、暖かいベッドで眠りたい。
それからどれくらい時間が経ったのか分からない。
窓から覗ける空は真っ暗で、もう眠る時間は過ぎたのかも。一分一秒の時間が長く感じる。
いつも見守ってくれるお月様がなくなってしまった。
なんだかそれがまた寂しくて、悲しかった。
……お月様がない空を何て言うのか、昔お姉様が教えてくれた気がするけど、忘れちゃった。
それでも私は、いつもお月様が照らしてくれていた空にお願いした。
「お願いします、神様。どうかウレイリカだけでも助けてください」
「助けてくださいってのは、ちょっと無礼じゃねえかクソガキ。おぉ?」
さっきまで独り言を言いながらジュースを飲んでいた蛇の悪魔が、顔を赤く染めて、空の瓶で鉄格子をカンカンと叩く。
「……ぇっ、ごめん、なさいっ……」
「こっちは大金出してやってんのに、助けろはねーだろうよ。なぁ?」
「……っ……」
泣かないように、口を抑えてうずくまる。
少しでも小さくなれるように。少しでもこの悪魔から隠れられるように。
「おおーい。聞いてるかクソガキぃー?」
「…………」
またしても、鉄格子がガツン!と大きく揺らされる。
「返事してみろやッ!!」
うずくまった腕から覗けば、蛇の悪魔が大きく舌を出して笑い狂っていた。
月だった。
欠けたお月様の目。欠けたお月様の口。
欠けたお月様が、怖かった。
「てめぇの口は飾りかぁ!?……なぁ?困るんだよなぁ、その内、その可愛いお口で稼いで貰わなきゃならねえんだからよぉ〜」
ずっと鉄格子を蹴っている。
これ以上怖い想いをしたくなくて、涙で鼻と声が詰まっても、なんとか返事をしてみる。
「お、お口じゃ……っ、お、お金貰えない、よ?」
「ァハハハ!!どうせすぐ分かるさ!ガキが好きな変態なんざ五万と居る!!お前みたいなションベン臭いガキでも、大金になるんだからありがてえよな!」
また別の瓶を逆さにし、呼吸ができなくなるくらい飲んでいる。
そしてジロリと、蛇の悪魔は私を黙って見下ろした。
「……ちょっと、試してみるか」
「……ぇ?」
嫌な予感がした。
蛇の悪魔は私を見下ろして、怖い顔をするとベルトに手をかけた。
「なに、勉強だよ。お前の妹?も同じ勉強をしてる頃だろうよ。アイツ変態だしなぁ!ま、今は俺もか!」
笑いながら鉄格子の鍵を開けた。
伸ばされた手から逃げるように、鉄格子の端で身を小さくする。
「だいじょーぶだよー、別に痛いことしようって訳じゃないんだ。おいでクソガキぃ」
「や……やだぁ……やだっ!」
「へへへ、ガキに興味はないんだが、そう泣かれると
「やだ!やだ!!」
手を掴まれた。
「うるせぇ!!」
鉄格子の中で乱暴に引っ張られて、冷たい鉄の上に倒れ込む。
見上げた格子と窓の空に、月はない。
「……助けて……」
「ハハハッ!少し多めに味見してもバレなきゃいいし、約得だなぁ!」
「……思い、出した」
月のないお月様の名前。
「いやぁ、何ヶ月ぶりだろうな」
見えてなくても、そこにあるんだ。
「っとと、酔ってても手元は狂わねえってな」
今だって、どんな夜よりも静かなお月様が見ていてくれてる。
名前は、そう。
「──暗月」
蛇の悪魔が、かき消えた。
代わりに壁に空いた穴と、そこに立っていたのは、月の光が似合いそうな優しい顔をした男の人だった。
「お嬢さん。助けに来たよ」
その人は、お姉様と同じだった。
お姉様と同じ優しい笑顔で、お姉様と同じお日様のように温かな手で頭を撫でてくれる。
「暗月は、君の味方だ」
欠けたお月様は怖い。
だけど消えたお月様は、優しくて、カッコよかった。
「……暗月、さん。私より、ウレイリカを、助けて……」
暖かい手が涙を拭ってくれる。
お姉様が、怖い夢を見た私にしてくれるように。
「誓おう。暗月の名にかけて」
暗月を名乗るその人は
月より眩しかった。
暗月帳
ギルドリング【暗月の指輪】
これを装備していれば善カルマの
勧善懲悪の大義名分でプレイヤーを攻撃できる最高の指輪だ。これを見つけた我ら兄妹の運の良さに乾杯。めっちゃ楽しい。
限定アイテム【ルーンの弧】や【残り火】はこれを装備しての撃破でしか得られない為、二度美味しい。
極々稀に、カルマ値が極悪のプレイヤーにも呼び出される。
だが、ホストの善悪は“見て“判断するしかない。昨日は恨みを持ってたらしいホストプレイヤーに背後から攻撃された。腹が立ったので【石堀りの魔術】で地中深くに埋めておいた。
安全第一!施工完了!a(ΦωΦ)ヨシ!