マイナー好きの彼は無双を試みた   作:赤須

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長らくお待たせいたしました!

今回、前話で述べたようにバトル回となっておりますが、正直な話、この『白いヤツ』で彼らと戦わせてみたかった。悔いはない。


第10話

 

 

 

 ―――この戦いは、前代未聞と言っても過言ではない面々だろう。

 

 

 

 誰もが期待した、『紅の彗星』と呼ばれたユウキ・タツヤと『緋色の流星』と称されたムロト・エイキとの決戦。だがそれは、ユウキ・タツヤの辞退によって期待を翻す事になる。

 熱烈なガンプラ、ガンプラバトルのファンである彼らからすれば、その期待はどん底の地に落ちたはずだ。どちらも世界大会出場者にして、誰もが認める最高にして最強のファイターの2人が戦うと、それを見てみたいと口語する者たちが描いた、理想の激戦を期待させておいて、この結果なのだから。

 

 だがそれも覆される事になる。

 

 何故なら、残った『緋色の流星』の前に立ちはだかるのは……

 

 ダークホースの2人組、新進気鋭として幾多の猛者たちから激戦を潜り抜けて見せた新人。

 

 1人はあの有名なイオリ・タケシの息子、イオリ・セイ。

 

 1人は謎に包まれた風来坊、天性の才能に秘めた赤髪の少年、レイジ。

 

 ユウキ・タツヤに代わる2人組の強き少年たちは、今―――

 

 

 

『ただ今より、地区予選準決勝、第一試合を始めます』

 

 

 

 ―――始まった。『緋色の流星』を前に現れるセイとレイジは、自信に満ち溢れた表情でガンプラを設置する。

 

 このガンプラはザフトにおける『セカンドステージシリーズ』と呼ばれた5機の試作型MSの内の1機で、その中でも上半身に下半身、そしてコクピットの3つに分けられた合体・分離を持つ特異過ぎたスタイル『コア・ブロック・システム』と似た構造で、各所に応じた戦闘を行うMSとしての概念を捨てさせた万能機だ。

 これは元々、コズミック・イラにおけるザフト、オーブ、連合の間に敷かれたユニウス条約のMSの保有数の制限を、その規制をスルーするためにという狙いがあり、上半身、下半身、そしてコクピットのそれぞれが分かれているのは、それぞれがMSの1機(・・)としてではなく、航空機や航宙機としての1機(・・)という名目で割り当てられ、条約からの違反を完全に詐欺するような形でスルーさせた、ある意味でズルい機体である。

 これを主人公が使用したというMSだとは思えないぐらいだ。

 

 また、このMSの背部に備えられた換装式バックパック―――『シルエット』と呼ばれたシステムにより、任務や状況に応じたカスタマイズを可能としているのがこのMSのポテンシャルの1つだろう。

 そしてその功績は、ミネルバのタンホイザーを容易く凌いで見せた地球連合軍の新型MA、ザムザザーの単独撃破。加えて水上艦艇に取り付きの空母を2隻、戦闘艦を6隻を撃沈させる戦果を挙げている。

 続けてクレタ沖の戦闘において、アビスの撃破やオーブ艦隊の壊滅など、ミネルバからのデュートリオンビーム送電システムのおかげもあってエネルギー消費にも激しいながら、長時間の戦闘にも対応してみせたこのMSは、後に前大戦で最強と謳われたフリーダムをも、変形と合体、分離の特性を最大限に活かした戦法で落とすことになる。

 

 飛んでいるのなら、自由の天使(フリーダム)だって()としてみせるMS―――それは、

 

 

 

『ZGMF-X56Sインパルスガンダム』

 

 

 

 チェストフライヤー、レッグフライヤー、コアスプレンダーが飛び交い、合体されていく。

 そして最後に射出されるシルエットフライヤーが、合体していくインパルスに接近してフライヤーの取り付けてある謎のシルエットを分離させる。そのシルエットには、アカツキのオオトリに装備された73F式改高エネルギービーム砲を模したかのような両脇の砲口と、デスティニーの両翼、そしてその後部の真ん中にはゲイルストライクのシールドストライカーを参考にしたのか、一振りの対艦刀―――MMI―714アロンダイト・ビームソードが備わっている。

 両腕には、小型のチョバムシールドと強化型ビームライフルといった以前使用されていたビルドストライクの装備が施されており、見た目の色合いや姿形などはそれと相似されているかのように至って変わらずとも、ストライクとインパルスというガンダムの性能の違いだけで、その異様な雰囲気は凄まじい。

 

 

 

『ZGMF-X56SB/STビルドインパルスガンダムステラ』

 

 

 

 インパルスのパイロットであった主人公のシン・アスカと、何かと縁がありそうな恒星(ステラ)の名を持つガンダムが上半身・コアスプレンダー・下半身、そして『ステラシルエット』によって完成され、新たなる星の姿がステージ上に現れる。

 

「行くよ、レイジ。相手はあのムロト先輩だ、世界クラスの実力者だから気を付けて!」

「……へぇ、てことはあのユウキ・タツヤと同じくらい強いって事か? だとしたらおもしれぇな」

 

 世界クラスの実力者だと聞いたレイジは、関心を抱くようにニヤりと笑いを浮かべる。

 数日前、準々決勝を辞退して行方が掴めずにいたはずのユウキ・タツヤが、イオリ・セイとレイジの前に姿を現して、そしてあの時の約束通りに、限界を超えた戦いが繰り広げられていた。

 両者共に本気と本気の……全霊を賭してぶつかりあったあの勝負は、結果としてセイとレイジの完敗であったものの、それでも学ぶべき事が多く、世界の広さを知る。

 そして今日、再び世界を相手に2人は戦いへと赴く。

 

 舞台はホンコンシティ、機動戦士ガンダムZでカミーユとフォウが戦ったあの戦場だ。

 

「……ムロト先輩は、どこに。それに何のガンプラで挑んでいるんだ?」

『―――ボクは、ここだよ』

 

 

 

 

 

「!?」

「なっ」

 

 それは暗殺者(アサシン)。ガンダム界における、皆が思う暗殺のイメージを持ったMSなど、ガンダムシュピーゲルやガンダムデスサイズ、ブリッツガンダムなど……黒く、また光学迷彩などを汎用させた色彩で、しかも陰湿なMSを挙げると思われるが、エイキが使用するこのMSは白い(・・)

 まるで火や水を出すような忍者に向かって「おい、忍べよ」と言うような、そんな言われ文句を出されそうなこのガンプラは、しかして暗殺という名目ではかなりの優秀な性能を持ち合わせる。

 

「……ッ、レイジ! 後ろ!」

「おぉ!」

 

 戦闘が開始した。否、始まっていた。

 ステージにMSを出した以上、その時点で戦いは始まっていたのだ。

 それを重々知っているはずなのに、注意を怠ったとセイは反応していたレーダーの観測を見ながら悔む。

 

 超新奇にして、ビルドストライクの性能を一段階繰り上げたビルドインパルスはレイジの操縦技術による咄嗟の反射が前方へと寄らせ、振り返るものの、ムロト・エイキのMSが見当たらない。

 姿が捉えられない……ハイパージャマー? ミラージュコロイド? いや、そんなはずがない。それならレーダーの反応は起きないはずだ。

 

「くっ、翼がやられてるっ!? レイジ、いったん上空に飛んで!」

「よし、任せろ!」

『―――させるか』

 

 影のように現れる白い物体が、ビルの物陰から出たMSは、たった一足でビルドインパルスの懐へと跳躍し、熱の籠められた一刀の短い刃が差し向けられる。身軽で、素早く、それでいて細いその体格のMSは、ただ一本のナイフだけ(・・・・・・・・)でガンダムへと挑む。

 ただレイジたちもそう簡単にやられるほど、今までの戦いに苦労を入れてきたわけじゃない。

 ビルドインパルスの片腕に持たされた強化型ビームライフルとステラシルエットに搭載された両脇の砲口で、迫り来るMSに熱線を放つ。が、それでも当たらない。

 

「……ッ、あの動き。おいセイ、あのガンプラは何だ! 速過ぎて当たらねェ!」

「あれはっ―――」

 

 

 

 ―――『機動新世紀ガンダムX』史上、最も頭の可笑しい変態(・・)

 

 そして最も軽い(・・)、本体重量が4.5トンという恐るべき軽さを誇るこの機体は、『極限までに軽量化を目指したメカってどんな感じになるんだろう?』という何とも言えない発想から生まれたMSである。

 コンセプトは敵の攻撃を完璧に避けて、敵のコクピットへと狙い定めたまま突き刺すという一撃必殺のMSだ。

 

 この時に使用したパイロットは白厨で有名なあの白い悪魔ならぬ白い死神と呼ばれたデマー・グライフが使用し、本来このMSの色は白だけでなく赤色なども含まれていたそうだが、白厨だけに、白に染められてしまった哀れなMS。

 そして哀れなのはこれだけに非ず、当時このMSに対してエ○ァと相似している事から盗作被害の疑惑を持ち掛けられてしまったという、正に哀れなMSだが……

 

 

 

 

 

 だがしかし、変態である!

 

 

 

 

 

 別の意味でデンドロビウムに劣らぬ男のロマンと戒められたMS、生まれはガンダムX、しかして存在はGガンダムのMF。その名は―――

 

 

 

『NRX―007コルレル』

 

 

 

「コルレル!? 機動新世紀ガンダムXにおいて……最も重量が軽いMSじゃないか!」

 

 加えてマイナー機でも、コルレルはその中でかなりの異常さを見せつけている。

 

『―――流石、タツヤが認めたビルダーだね。その豊富な知識量、そしてレイジという頼もしいパートナー……ここまで上り詰めたのも頷ける。けれど、ボクはまだ君たちとは戦っていない。まだ、君たちの事をよく知らない。だから今ここで、君たち自身のファイターとしての、ビルダーとしての実力……

 

 

 

……図らせてもらうよッ!!』

 

 白い閃光がナイフ1本だけを携え、稲妻が奔るかのように躍り出た。

 その速さは原作においても、まるで出る作品を間違えたんじゃないかというぐらいの軽々さで建造物を渡って駆け巡る。

 

「……ッ、レイジ! バルカンで牽制して動きを封じるんだ!」

「そら、喰らいやがれッ!!」

 

 ビルドインパルスの胸部二門に内蔵されたCIWSを放ち、エイキが操るコルレルに向けて狙い撃つものの、それで簡単に屠れるほど彼は易しいものではない。牽制をするにしても、それをトラウマに持つコルレルがこの戦いで何ら対抗策を講じていないはずが―――

 

『―――当たらなければ、どうということはない!』

 

 そう、当たらなければ……サテライトキャノンも石破天驚拳も、ましてやバルカンも恐れるに足らない。

 そして高濃度の圧縮粒子を全面開放して、3倍以上もの機体スペックを底上げにするトランザムや、質量を持った残像(M.E.P.E)による金属剝離効果もなしに、ただ脚だけで高い機動力を持つコルレルは弾幕に張り巡らす弾丸をナイフで切り結び、弾かせた。

 それも当たる銃弾だけを瞬時に選び、全てを刻んで防ぐと言う絶技だ。

 

(強い……! これが世界クラスの、ムロト先輩の実力っ)

 

 だがセイやレイジたちは驚きはするが、動揺はしなかった。ムロト・エイキは第一回戦にミツギ・ヨハンとの対決で、スローネアインの最大火力であるハイパーメガランチャーを、たった一太刀で斬って見せたという映像を、ラルさんを通して周知済みだったのだから。

 

 そして絶対的な防御力、耐久性、運を味方につけたコカサワ・リクを相手に隙という間を見切り、精密な対応を以て倒し―――

 

 フィールドの善し悪しにも気を配り、あの圧倒する破壊力と奥の手によるサザキ・ススムの猛攻で危機に陥ってもすぐさま逆転の機を見出し、貫き通した起点の良さ―――

 

 機体は全ての試合において、決して同じMSまたはMAに乗ろうとしない変人。

 

 しかしその実力は、彼の『紅の彗星』と並び立つ強さを有した戦士だ。

 

 加えてファイターとしても、ビルダーとしても、セイやレイジたちにとって遥か高みの存在であり、彼からすればセイやレイジへの思いは、それこそ未熟としか思われていないだろう。

 残念ながらそれは事実であり、ナイフ一本を相手に圧されている2人の強さは、彼を相対させて比べて見せても、やはりあらゆる全てがムロト・エイキという少年には程遠く及んでいないのだ。

 

「……ちィッ、あの野郎! また消えやがったぞ!?」

「レイジ、上だッ! 上から来るっ、気を付けて!」

 

 セイの言葉にレイジは反応し、頭部のメインカメラを上空へと向ける。それは―――ホンコンシティの空を軽やかに舞うコルレルの姿。

 

「こ、のォっ!」

 

 ビルドインパルスが持つ強化型ビームライフルを狙い定めようと、レイジは操作する持ち手を上げるが……上げる前にトンッ―――と何か(・・)が軽重の音を立てた。

 ライフルが上がらない。逆に下がっている……否、下げさせられたのだ。

 

 そして銃身に、白い死神(コルレル)が直立している姿がある。

 

『これぞ、ライフル立ち(・・・・・・)。コルレルだからこそ出来るロマンな立ち方だよ!』

「そんな」

「嘘、だろっ?」

 

 思わぬ発言を、セイとレイジは絶望を声にして漏らす。対するムロト・エイキは何やら満足気な表情をしているのだが、それだけで、大きく格差(・・)というものが、圧倒的に開かれていると分かってきた。

 

 

 

 

 

「なんと、まさか機動新世紀ガンダムXの第二十六話、あのシーンを再現させたというのか。いやはや、ムロト・エイキという少年……なかなか侮れない強者というべきかな? 流石は世界大会出場の経験者だけの事はある!」

「……ラルさん」

 

 一方、観客席から彼らの戦いを眺めていたラルさんはムロト・エイキの操縦技術に称賛を送るが、その隣に座る1人の少女―――イオリ・セイの同級生でもあるコウサカ・チナは不安な様子だった。

 それは無理もない。イオリ・セイの丹精に込めたビルドインパルスは、性能からムロト・エイキのコルレルのそれと比べて見れば一目瞭然、イオリ・セイに軍配が挙がる。しかし性能は上でも、ガンプラの操縦技術における力はエイキがその上を征くのだ。

 

「イオリ君、大丈夫かな……」

「ふむ、ムロト・エイキという少年の実力は、彼の『紅の彗星』と謳われたユウキ・タツヤと互角以上の強さを持っていると言われているのはもちろん、世界中の強豪たちを相手に取れるほどの凄腕ファイターだ。あらゆるガンプラを理解し、使いこなして見せる柔軟性は、彼をおいて他に居ないだろうからね」

 

 現にこの試合で、コルレルという今までに彼が使ってこなかったガンプラを用いながらも、その機体を存分に活かしてきている。

 ヒット&アウェイを繰り返し、相手の手癖や特性などを見極めながら受け(・・)つつ、その理を暴いた瞬間が彼の攻め(・・)の体勢が行われる―――それがエイキの戦い方であり、そんな彼の戦法を踏まえれば、確かにコルレルという機体はエイキのそれを最大限に発揮できるのだろう。

 

「ムロト・エイキは、確かに強い」

 

 だからこそ、ラルさんはチナに言わざるを得ない。

 

「それこそ、生半可な気持ちで挑んでいい相手ではない。寧ろ彼の場合、そんな相手には徹底的な手段で叩き潰すだろう、前例がある」

 

 ムロト・エイキは、燃え上がる闘志を剥き出しにしながらも、常に真面目なユウキ・タツヤとは真逆の冷静な振る舞いだが、その本質はとても熱く好戦的。そして、降りかかる戦慄は響き、純粋な戦術を以てセイたちの技術を覆うかのようにして塗り潰そうとしてきているのは、やはり『緋色の流星』という二つ名を貰い受けるのに相応しい。と、言ったところか。

 果たして、そんな彼にセイやレイジが勝てるのかと訊かれたら、勝てる以前に敗北から免れないと断言してしまうだろう。

 

「しかし、セイ君やレイジ君は今や紅の彗星(ユウキ・タツヤ)と刃を交えるまでに、力を付け始めてきている。彼らの成長っぷりを考えれば、あるいは……」

 

 

 

 

 

 そして同時にセイは、目前の敵が放つ感情を、肌にしてビリビリと受け止めていた。

 

(やっぱり、ムロト先輩は強い。そしてユウキ先輩と同じ、ガンプラバトルを楽しんでいて、本気で僕たちを倒しに来ているのかが……分かる)

 

 でも、

 

(それでもレイジと僕で、世界に挑むんだっ。ここでムロト先輩を倒せなければ、とうてい世界なんて行けやしない!)

 

 だから、

 

(負けて、たまるものかッ!)

 

「レイジっ、7番のスロットをっ!」

「……ッ、ああ、分かった!」

「うん、これでいける! ドラグーン・システム!」

 

 ステラシルエットに搭載された二門の砲口が、分離して空を飛び交う。ドラグーンとは、『機動戦士ガンダムSEED』や『DESTINY』において、終盤にてよく使われていた遠隔操作兵器の1つである。

 そしてそれは他作品に登場するファンネルやビットなどと同じ空間認識によるオールレンジ攻撃を主とするが、それにはファンネルやビットのような人間の脳波によって思考制御するのとは違い、ドラグーンというのは、量子通信による大量の情報操作を必要とし、加えて、ドラグーン・システムを活用できるのは『操縦技能が高いパイロットのみ』と言われるほどの制御に難解を示された―――尚且つ、大気圏外(・・・・)専用の兵装だというのに、それを重力下で、何ら問題なく……むしろ速いッ。

 

『……っ。宇宙でないところで、これほどのドラグーンを……! いや、そもそもドラグーンは宇宙でしか使えないはずだけど……ああ、カオスを参考にしたのか』

 

 しかもドラグーンを操っているのはレイジではなく、あの様子だとイオリ・セイが操作しているのだとムロト・エイキは察する。

 そして2人の士気が上がり、セイの雰囲気がレイジに影響され、ニヤりと不敵に笑う彼も覚悟を決し、ビームライフルを捨て、背部の長大な刀身を有するアロンダイトが抜き放たれた。

 ここで、勝負を終わりにしよう―――彼らはそう語らっている。

 

 なればこそ、そんな挑戦者にムロト・エイキは快くして受けて立つ。

 

 

 

 

 

『―――うん。いいね、咬みごたえがありそうだよ……!』

 

 

 

 

 

 エイキはここで初めて、二ィと笑った。

 

 それはもう恍惚に……

 

「「……ッッッ!?」」

 

 ―――なんて凄まじい圧力(プレッシャー)だ。コルレルから放たれる、あまりにも強すぎるそれは、思わずセイはその威圧感に吞まれかけ、レイジは戦慄を覚える。

 そして彼らはラルさんから言われたことを、ふと思い出す。―――ガンプラは所詮遊びだと、だからこそ本気になれるのだと……ラルさんを始め、あのユウキ・タツヤだって呟いていた。

 あの人たちの本気は、限界以上の戦いというモノを心から望んでいる。

 

 そして彼も、エイキも願っているのだ。

 

 約束された激しい戦いを、超越されたガンプラバトルを……!

 

 だからこそセイは真っ先に感知する。

 

「行こう、レイジ!」

「……ッ、そうだよな、セイ。ここで立ち止ってちゃ、アイツ(・・・)に立つ瀬がないぜ」

 

 そう言ってレイジは、ステラシルエットの両翼を大きく広げ、『光』を展開させた。しかし、コルレルから貰った損傷により、片翼だけがその光を出させずにいる。けれど関係ない。失ったのはたかだか片翼(・・)だけだ、もう片方の翼があれば事足りる。

 

「―――セイ、ついてこれるか?」

「もちろん、レイジに後れを取らせないよ!」

「よォしッ、よく言った!!」

 

 比翼は羽搏き、原作において終盤から良くも悪くもあったという、デスティニーガンダムのカッコイイ使い回しポーズ……を構えたレイジは、低空飛行により、宙で弾けるロケットスタートが残像現象(ミラージュコロイド)を散布させ、ビルドインパルスを突撃させた。

 その速度はこれまでに無かったほどのスピードで、箒星の如く複写されていく機体の残像が、流出して放たれる。

 

『面白い……! だけど、嘗めてもらっては困るよ! なんせ、ボクの機体は伊達じゃないんだからッ!!』

「それは、僕たちだって―――ッ!!」

 

 そしてイオリ・セイが操るドラグーンの二機もまた、ビルドインパルスには及ばないが、それでも高速に移動し、コルレルの逃げ道を塞ぐようにして包囲する。

 

「そこッ!」

「落ちろォォォッ!!」

 

 二門のドラグーンからビームが発射される。同時に雄叫びを上げるレイジが続けて、ビルドインパルスのアロンダイトを、コルレルの眼前で振り下ろされた。

 しかし、エイキには想定されていたらしく、僅かに機体を逸らすと、アロンダイトの刀身が宙を斬り、コルレルはその落ちた刀身を足場に、二つのビームをビルドインパルスの頭上に目掛けて跳び、躱す。

 

『気合いが惚けているぞ、イオリ、レイジ、後ろにも目を付けるんだ!』

「……ッ」

 

 跳び越えたコルレルが地上へと降下し、クルりと急旋回してビルドインパルスの方へと向き直ると、再びビームナイフを構え、その隙だらけな背後を狙い穿とうと地を蹴った。だが―――

 

『なッ……!』

 

 ここに来て、エイキは驚愕な表情を初めて浮かべた。

 ビルドインパルスの特性……もとい、インパルスの最大の特徴は、合体と分離である。突き刺そうと伸ばされたコルレルの細身な腕が、ビルドインパルスの上部と下部の間を通過された。 

 

『……ッ、なるほど……さらに出来るようになったな、ガンダム……!』

 

 二人の卓越された回避運動の姿を目にしたエイキは、悔しくも嬉しそうに口角を吊り上げながら笑った。これは、インパルスとフリーダムとのエンジェルダウン作戦の折りに発生させていた戦闘で、合体と分離による特殊回避を行ったシーンが僅かながら異なるものの、その再現に近い動きをしたインパルスならではのスタイルだ。

 

 以前、使用していたストライクベースのビルドストライクとは違い、ビルドインパルスは合体や分離による連結仕様の複雑な構造で出来ているため、その機体の維持に掛かる負担や戦い方などにおいては、ストライクと比して分かるようにとても難しいとされている機体―――アニメや漫画ではシン・アスカはこれを難なく操っていたが、それはシンだからこそ出来た技量であり、これがルナマリア・ホークだったらやっていなかっただろう―――イオリとレイジはそれをやってのけた。

 

 そう、これこそが真の戦い。常に進化し続けてこそガンプラバトルの楽しさは、奥深くなっていくのだ。

 

 だからこそ、エイキは確信する。

 

 タツヤが以前まで好敵手として共に戦ってきたカイラやジュリアン、カイザー、そしてイオリ・タケシなど……多くの強敵たちを認め、高め合ってきたという彼らを差し置き、イオリ・セイとレイジを特に注目していた。

 

 彼らこそが自分に相応しい、宿敵であるというタツヤの想いからでた答えなのだろう。

 

 それは二人を選んだという事にも成り得る。

 

 自分ではない、二人を……

 

 だがそれでも、エイキにとって宿敵はタツヤである事だけは変わらない。

 

 同時に、彼らの実力はもはや世界クラスであり、エイキにとって侮ってはならないであろう好敵手と―――認めていた。

 

『はあァ―――ッ!』

 

 ビルドインパルスが再度分離していた機体を繋げようとコルレルの細身な腕ごと連結するが、コルレル自身の身のこなしにより、捕まることなく引き戻すことに成功する。

 そしてこれはエイキとコルレルの間合いだ、加えてビルドインパルスの連結する際に生じる隙も大きい。

 ビームナイフを逆手に持ち、切っ先を押し込むような勢いで挑みかかる。

 

「させない!」

『くっ!』

 

 そこにセイの操るドラグーンが、ビルドインパルスとコルレルの間に正確な位置を定めて撃ち込んだ。4.5トンという重量しかないコルレルからすれば、それは強力な衝撃となり、着弾されたビームの振動が襲い掛かる。

 当然としてその勢いに巻き込まれたコルレルは吹っ飛ばされるが、これを起点とするエイキは気流に乗り出した。

 

「逃がすかよォ!」

 

 コルレルとは異なり、衝撃波に呑まれること無く耐えきったビルドインパルスはコルレルの方向へ向け、胸部に搭載されたCIWSが撒き散らされる。

 

『ちぃ……!』

 

 だがエイキはこれを見事に反応して見せ、神業の如くレイジの放った銃撃はビームナイフの刃によって斬り伏せられた。

 それでもレイジからすれば、エイキの実力からして、それは分かり切っていた事である。

 なればこそ、レイジは咄嗟にビルドインパルスを分離させ、下半身であるレッグフライヤーを突貫させた。

 セイが根気よく作り上げた最高傑作、それを壊してしまうというレイジの罪悪感が抱かれるが、セイはそれを良しとした表情でレイジを後押しするように叫ぶ。

 

 

 

「レイジ! 行けえぇぇぇッ!!」

「うおおおぉぉぉッ!!」

『こっちも負けて、たまるかあァァァ!!』

 

 

 

 そして、激突する二機のMSが互いに交差した。

 

 上半身しかなくなったビルドインパルスのアロンダイトが、レッグフライヤーを真っ二つにせんと切断したコルレルのビームナイフが、互いの機体に差し穿つようにして、全身全霊を以て解き放つ。

 

 射程は圧倒的にコルレルが不利と見たか、エイキはすぐさまにビルドインパルスのコアスプレンダーのあるコクピットへとビームナイフを投擲し、セイとレイジはそれに気を留めずして、大剣を真っ直ぐに向けて突進してくる。

 

 一分一秒のミスも許さない、一寸のズレも相容れない―――そんな乾坤一擲の、全てを賭けた本気(・・)の力と力が、激突した。

 

 

 

 ―――次の瞬間、ブザーが鳴り響く。

 

 

 

 それは、舞台に降り立った戦士の勝敗を決したという合図の音……

 

 

 

 勝負による結果を示された、判定の音だ。

 

 

 

 だからエイキは、セイやレイジ、ラルさんやその他の観客たちは、その全てが結果を待った。

 

 

 

 そしてこの二組の内、勝利者となったのは……

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 イオリ・セイ、レイジ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ムロト・エイキ。

 

 

 

 




ガンダムファンの皆さん、お久しぶりです。

今回登場したのは、ガンダム界の白厨代表、デマー・グライフが搭乗するコルレル。
ビームナイフ一本でガンダムDXを追い詰めただけに、インパルスを相手にしても引けを取らない戦いを繰り広げれましたが、最初っから上空にいられたらコルレル(エイキ)は何も出来なかったですねw

それと祝200のお気に入り数の突破! ありがとうございます!

また感想・批評・誤字脱字などがありましたら、よろしくお願いします。



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