ダメ人間、海に出る   作:仮置き太郎

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ダメ人間、飯は食わぬが文句は言う

 シャボンディ諸島(寄った島)に訪れてすぐに家族が増える、なんて事は少なくない。それも他船員の要望でもあるのなら、尚更である。

 

 白ひげ海賊団の新人船員たちは、新たな家族()への兄としての振る舞いができることに、心を弾ませていた。

 それも、新たな家族が見習いとして入った隊の新人たちは、大手を振って”新人説明会”を開いている。

 

「三番隊の新人見習い、歓迎する!」

「お前もこの前まで雑用だったくせに、何先輩面してんだ」

「お前のゲロシャツ、洗ったのおれな」

「よっ、雑用の鏡!!」

 

 “説明会”といっても、参加者はダミー、ただ一人なのだが、後輩が一人いれば新人()たちの満足感は得られるのだ。

 一向に始まる兆しの見えない“説明会”であろうと、周りが下船準備に取り掛かってる中で、後輩()の世話をする船員はなかなかいない。それを鑑みれば、“模範の兄”であることに間違いはないだろう。

 

「我らが隊長、ジョズさんが率いる隊に入れたのは運がいいぜ、見習い!」

「世間知らずの野郎のために教えてやるから、耳の穴かっぽじってよーく聞け__」

「隊長が繰り出した拳から逃げられる奴はまずいねェ、そんでもってあの巨体と筋肉! 隊長にかかればそこら辺の岩は粉々だ……かーっ! 痺れるぜ、ジョズさァん!!」

「極め付けが”キラキラの実”の能力! 鍛え上げられた筋肉が硬化して出来上がったダイヤモンドに、敵うものなんざ存在しねェ!! 圧倒的防御と攻撃を兼ね備えた最強の男!」

「んでまァ、白ひげ海賊団の金剛不壊たァ、隊長のことよ。当たり前だけどな」

「……はァ……?」

 

 仕事の説明だとしても、まともに人の話を聞かないダミーが、突然の“隊長自慢”に気の利いた返事ができるわけもなく、“先輩をイラつかせる相槌十選”にも選ばれているであろう、腑抜けた返事をする他なかった。

 

「今にわかるぜ、この気持ち……」

 

 最後には、ダミーに慰めの言葉をかけると、訳もわからず首を傾げる彼の肩を叩いた。船員曰く“皆が通る道”らしい、例としてあげられた思い出話に、ダミーは再び適当な相槌を打った。

 カッコいいやら何やら、生まれて此の方言われる側にしか立ったことのないダミーである。誰かの”憧れ”が”カッコいい”と表現されることなど、知りもしない。

 

「__そうそう、お前がイイ情報を持ってるっての聞いたんだ」

「あー? 下剤と下痢止めを一緒に飲むと下痢になるってのがな__」

「誰が求めてんだよ、その情報は……そう言うのじゃねェよ、知ってんだろ? この島の上玉(・・)を」

「上玉チャンは意外と経験豊富でガード固いから、初心者にはオススメしないぜ。成功すれば、一日数十万ベリー落とさせるのも夢じゃねェが……おにーサンにゃ、ちと難しい」

「……おれは貢がせる云々の話をしてねェ。求めてもない評価で傷つく、コッチの身にもなれ」

 

 絶妙に噛み合わない話の中で、ダミーは至って真面目に説明していた。

 ダミーにとっては“下剤と下痢止め”の豆知識も、まあ必要なモノであるし、“上玉チャンの扱い方”は最も知っておいて損はないモノである。

 

「上玉チャンって、今まで他人に貢がれたことはあっても、誰かに貢いだことはない子がおおいからさァ。意外と金払いがイイんだよ。悪くない収入源だと思うけどなァ」

 

 悪びれる様子もなくケラケラと笑うダミーに、船員たちは顔を顰めた。決して“正しい”とは言い切れない道を歩む彼らであるが、この後輩はクズ野郎だと感じる脳はあった。

 いくら一夜の相手であろうとも“収入源”とは表現しないのが、人としての最低限の礼儀であろう。それすら“分からない”のがダミーである。

 

「お前、マジで刺された方がいいぜ」

「……新手のジョークなの? ソレ」

 

 恐らく彼女である女に、脇腹あたりを刺された男へかける言葉でもないのだが、“バカは死ななきゃ治らない”ならば“クズは痛い目見なきゃ分からない”のである。

 ダミーは能力者となったことで、“痛い目”になど当分会わない体になったのだが。

 

「飯だ、お前らー!!」

 

 停泊中の船で、昼食が用意されることなど殆どないのだが、今回は特例らしい。

 甲板掃除を熱心に進めていた船員も、大きな筆を担いだ船員も、木箱に布を被せていた船員も、先に昼食を済ませた船員に仕事道具を投げ渡す。

 

「うちは飯もうまいんだ」

 

 そう告げた船員()の顔は、まるで自分が作った食事のように誇らしげであった。

 

 

 

**

 

 

 

「おれさ、人の飯、嫌いなんだよね」

 

 何個ものローテーブルに並ぶ食事は、船員たちの食欲をそそる。バスケットに積まれた塩パン、カラッと揚げられたサクサクのコロッケ、サラダ和え……全く統一性のないラインナップであるが、お腹を空かせた船員たちが気にする事ではない。

 この船で食事を振る舞うコックたちも、船員たちが”美食家”でないことくらい、よく理解している。隠し味云々の話をしようと「あァ、そうか」で終わることも知っている。

 

 だが、”飯”という存在すら「嫌い」の一言で済まされることは初めてであった。

 追加食事分の準備を進めるコックたちに激震が走ったのも、無理はないのである。

 

「め、飯がァ?」

「“安全薄味カジノ飯”って言うだろ? カジノくらいでしか飯食わねェの、おれ」

「かじのめし……? なんだソレ」

 

 先ほど「ここの飯は美味い」と胸を張っていた船員は、気まずそうに苦笑いをこぼす。

 周りは賑わっているとはいえど、コックたちとの距離はそう遠くない。コックの耳が破滅的に悪くない限り、聞こえているのが普通であろう。

 

「カジノ飯ってそりゃァ、ピーナッツとか海軍おかき__」

「飯じゃねェだろ、それは」

「あ、海賊だから海軍おかき食ったことねェのか……美味いのに」

「そんなルールねェわ!! おかき如きに決まり一つ作れるかっつうの」

 

 ダミーは近くの皿に積まれたドライフルーツを摘んでいた。彼の食べて良い基準は、彼自身も特に決めてはいない。

 “元の素材が果物ならば食う”、ただそれだけである。

 

「んなこと言ってると、コックにバカだの何だの言われるぜ。特に__」

「ここの飯がカジノ飯よりも安全じゃないって?」

「……コイツとか」

 

 今は昼食の時間である。コックが昼食を取らないと誰が言っただろうか。

 スープの器を片手にダミーの横の席を取ったのは、ここのコックの一人であった。……最も不運というべきは、そのコックがサッチ隊長(・・)であったことだろう。

 

「安全とかじゃなくて、“人の飯”が嫌いだからなァ……それともココの料理、安全面への心配がある感じ?」

「おれたちが、家族に薬を盛るとでもいいてェのか」

「人の飯ってのはそういうもんだろ。入ってない方が珍しい」

 

 薬が盛られた食事を出された事は、同情すべき話なのだろうが、相手はダミーである。

 さっきの話を聞いていた船員たちが、女や男の恨みから盛られたのだろう、というのは容易く想像できることであった。

 

「……今までどんな食事を食ってきたんだ、お前」

「ガールフレンドの__っ! 何で殴んだ!!」

「お前からただならぬクズを感じて……」

「あ゛ァ!?」

 

 紳士コック、サッチである。クズ野郎を察知する能力には、異常なほどまでに長けていた(今回は周りの船員たちの反応もあった)。

 叩かれた程度といえど、顔色ひとつ変えないダミーに、船員たちの関心したような声と独特な笑い声が食堂に響いたのだ。

 

「ゼハハハ、サッチ! そいつァ能力者だ。普通の拳で素直になる訳がねェ!!」

「あーそうだそうだ。能力者……意外とピュアなんだなァ、世間の奴らって」

「ピュアなのはお前だろ……悪魔の実も知らねェたァ、可哀想なやつ」

「ロマンの塊だ、あれは」

「ピュアに可愛く生きろってんで、優しいマミーがわざわざ(・・・・)教えず……! おれが可愛いばかりによォ!!」

 

 本人が悪魔の実を認知していない時点で、何の能力かも分からないわけだが、甲板で突然起こったティーチとのいざこざを見て、能力が察せない者はいなかった。現にサッチから叩かれた衝撃やらのことすら忘れて、自分の可愛さを憂いている。

 

「……海賊になったんなら悪魔の実に一度は夢を見るのもんだぜ、兄弟(ダミー)! ま、お前がもう一個食った時は、もうあの世にいるだろうがな」

「悪魔の実の価値は食うだけじゃねェからな、ざっと一億ベリーは懐の中だ」

「い、一億!? く、食わなけりゃ良かったァァ〜!!」

「ロギア系にゃ敵わんだろが、珍しいからな__」

「もうちょい早く言えよ!!! それ!!」

「おれにキレるなよ!?」

 

 楽しげに会話を進める彼ら曰く、この世には“悪魔の実大図鑑”というものが存在するらしい。ティーチとサッチとで“男の夢”への認識が一致しているところ、“夢の本”であることは間違いない。

 理不尽にもダミーの怒りを買ったサッチは、暴れるダミーの頭を掴み、自分の食事から遠ざけた。

 

「あァ? 待てよ……悪魔の実に一億の価値があるとすりゃァ、おれも一億ベリー……!!」

「そうはならん」

「価値があっても、金がねェと意味ない世界は生きずれェなァ……」

「食った時点で、()の価値が無くなってんだよ」

 

 悔しそうに拳を握るダミーに呆れるしかないサッチは、硬くなった塩パンを口の中に放り込む。

 外から響いてくる船員たちの足音は少なくなり、話し声の割合が多くなり始めた頃、元気のいい男の声が甲板から届いてきた。

 

「準備が整いましたぜ、おやじィ!!」

「__やべっ……そろそろ始まる!!」

 

 食堂に(たむろ)する船員たちは、焦ったように食事を口の中に詰め込んでいく。先ほど乗ったばかりのダミーからでも、今から何かが起こることは明白であった。

 甲板へ出るように促した三番船員の言う事を素直に聞いたのも、それが理由である。

 

 甲板の中心で円陣を組んだ船員たちは、日に焼けた肌を晒し、大きな筆を担いでいる。

 ダミーが口に残るドライフルーツを飲み込んだ時には、船内で駄弁り続ける船員が甲板で宙を舞っていた。

 

仕事(コーティング)の時間だ、てめェら!!」

「「「おっす!!!」」」

 

 聖地マリージョアの真下にある海底の楽園、リュウグウ王国。十数年前、白ひげのナワバリとなったその島は、住まう人魚や魚人によって、日々小さな発展を遂げている。

 そして、白ひげ海賊団が次に訪れる島こそが、“魚人島”であった。

 

 

**

 

 

「行くぞ、三十番GR(グローブ)!!」

 

 船員がコーティングの作業のために船から追い出された昼過ぎ。シャボンディ諸島ではどこに回ろうかと、他の隊の船員たちが盛り上がりを見せていたが、この島民であるダミーは退屈そうに欠伸をかいた。

 

「あー、初日から船番かよォ」

「土産は頼んだ、お前らー!!」

「手数料六割な」

「……よし、おれたちの事は気にせず楽しんで来い!」

 

 コーティング作業によって無防備になる船の見張りというのは、警戒しなければならないとは言えど億劫なもので。年中自由奔放に生きたい海賊からすれば尚更であった。

 ダミーが三番隊の見習いになったのは、見張りたちの集中を途切れさせないためでもある。

 

「おれもグラマン食いてェ……」

「なあ、知ってるか。このシャボン玉ってこの島で死んだ子供の霊なんだよ」

「……今、饅頭の話してたよな??」

 

 そんな考えも虚しく、船番が始まって約三十分で彼ら(新人)の集中の糸は切れていた。

 突然話出されたダミーの怖い話に、嬉々として周りの新人船員が耳を傾けるほどには暇であったのだ。

 

「この数、子どもが……!? 問題あるだろ、この島ァ!!」

「……まァ、嘘だし」

「嘘かよッ!!」

「あともう少しで海軍の相談窓口電伝虫にかけるところだった……危ねェ危ねェ」

 

 若者間の緊張が解けるのも早いもので、つい先ほど知り合ったばかりの船員とも気兼ねなく笑い合える程には、ダミーは馴染み始めていた。

 船員たちも満更ではないようで、ダミーの冗談にはかなり乗り気である。

 

「だいぶ暇してるようだねい」

「「マルコ……隊長!!」」

「その思い出したような“隊長”はやめろよい」

 

 三番隊では他の隊に比べて、教育には手厚く、仲間思いな心を育むことに重点が置かれていた。その分、他の隊の隊長への忠誠心が低くなるのは……仕方のないこととして考えてほしい。

 この一番隊隊長、マルコに対しても“隊長”としての忠誠心はやや低い。もちろん先輩としては尊敬しているが、やはりなんと言っても、自らの隊長がナンバーワンなのだ。

 

「暇な野郎共に、仕事だよい」

 

 マルコは自身の肩にから掛けられていたロープを、嫌そうに顔を顰める船員たちに投げて渡すと、自身の荷物を抱え直した。

 

「ロープの補修かァ__」

「順番で見張りを交代して進めていけよい。後輩もいるんだ、一石二鳥だろい」

「んぐぅ……」

 

 大雑把に、大きな手柄を挙げたいのが新人船員というもので。細々とした、ましてやロープの補修など、性に合わない。

 そんなこんなで後回しにされていく仕事は、このような逃げ場のない見張りに頼まれることが多いのだ。

 

「……後輩! お前に見習いの仕事を教える!!」

「うげ」

「安心しろ、お前ならこの仕事が得意になる。おれの第六感が言ってんだ」

「適当だねい__」

「よ、よせやい! そんな、おれが有能なんてよォ」

「都合のいい耳してんだよい」

 

 船員の“第六感”によって得意げになるダミーは、なんともチョロい野郎なのだが、元々自己肯定感が高い男である。“改めて言われると照れる”だけの話なのだ。

 

「そういえば、思ったより身軽だねい……てっきり荷物でも抱えてるもんかと」

「__あ!! 言うの忘れてたァ!」

「……」

 

 ダミーに視線を向けたマルコは、自分の荷物一つ抱えていないダミーに首を傾げた。

 海賊に入ったといえど、身なりはまあしっかりしているダミーである。それなりの荷物はあると予想していたのだ。

 

 __ただ、新人船員が伝え忘れていただけなのだが。

 

「今のうちに、この島で残した物諸々終わらして来いよい。あとは……んまァ、別れの挨拶やらもだな」

 

 マルコがダミーに指示を出せば、新人船員たちは申し訳なさそうに「たはは……」と苦笑いを浮かべる。

 

「おれァここの生まれじゃねェから、特に戻る必要は__」

「お前、知り合いとか彼女__刺された奴が会いにいくのも、おかしいな」

「さっきからそのジョークはなんだよ……」

 

 ダミーはほつれたロープを手で弄び、心外とでもいうかのように顔を顰めている。

 彼の身につけているものは、特に彼の思い入れのある物というわけではない。心優しいガールフレンドからの“ただのプレゼント”である。

 

「……今更びっくりすることでもねェが、生まれは?」

東の海(イーストブルー)

「そりゃ、遥々__お前があの平和ボケ海域から……」

「よくシャボンディ諸島(ココ)まで来れたねい」

 

 ほとんどの者が新世界出身であるこの船で、五海域からの出身、それも“最弱”と言われたイーストブルー出身はかなり稀なケースであった。船員が目を見開いたのも無理はない。

 

平和ボケ海域(イーストブルー)なら仕方ねェ、おれたちが“悪魔の実”のロマンについて語ってやるよ」

「……その本どっから……アホ! そういうのは隊長いなくなってから、こっそりやるのがいいんだろ……!」

「堂々とサボる宣言してんじゃねェよい」

 

 教育が間違っているのか、それとも海賊船で育った彼らだからか、この新人グループはとんだ問題児である。

 そんな彼らの手に収められているのは、表紙の汚れが目立った“悪魔の実大図鑑”である。

 

「全部の悪魔の実が載ってるわけじゃァねェが、探してみる価値はあんだろ」

「おれ“ククククの実”食いてェなァ! 食材はあってなんぼ、コックの血が騒ぐってもんよ」

「お前コックじゃねェだろ……」

「……」

 

 なんとも現実味のない“悪魔の実”という存在をダミーが信じるわけもなく、暇つぶしにパラパラと本をめくっていた。

 あるんだとすれば、あわよくば一億ベリーを……くらいの感覚である。

 

「“スケスケの実”ってのも__」

「ぁ? コレ、クソまずい林檎……昨日のじゃねェか!? くっそ、おれの……一億……“ダメダメの実”って何だよ、」

 

 悔しげに顔を伏せるダミーの手元に開いたページには、不気味な渦巻模様が目立つ、真っ赤な林檎が描かれている。隣にはやたらと凝った装飾の文字で“超人系(パラミシア) ダメダメの実”と書かれている。

 どこをどう間違えて、こんなにも毒々しい“悪魔の実”を口にしたのか、ここの誰にも分からないが、落ち込んでいるダミーに対してわざわざ地雷を踏むような船員はココにいなかった。

 

「これって、食べかけでも一億か? というか、おれの食べかけってだけで価値があるよな……」

「……残念な知らせだが、食べかけは何の価値も生まないぜ」

「“ただの食べかけ”の話だろ、それは“おれの食べかけ”だ」

「逆に何で価値が上がると思ってんだい?」

「……? プレミアみたいな」

「聞いたこっちがバカだったよい」

 

 ダミーを除いた他は、プレミアについての説明は早々に諦めて、周りと顔を合わせると互いに肩をすくめて見せた。

 ダミーが嘆いた“悪魔の実”のページには、ご丁寧にもちょっとした“悪魔の実”の概要が書かれている。

 

「『能力者は、いかなる衝撃をも吸収する肉体を手に入れる。』……コレだけかァ?」

「悪魔の実図鑑にゃ、それくらいしか書いてねェのが普通だよい。あとは能力者の想像力次第だ」

「衝撃を吸収出来るだけなら、自然系(ロギア)の方が断然いい。“ダメダメの実”っていうネーミングもなァ……」

「やめとけ、後輩に聞こえんだろ? 兄は弟の心の柱になるもんだ。どんなに不純で哀れでもな」

「あーあー、丸聞こえだ。お兄さん(先輩)方」

 

 船員たちはコソコソ(・・・・)言い合っていたつもりなのだろうが、ボリュームを下げるのはどうも難しい事らしい。自然系やら哀れみの言葉やら、何もかもが筒抜けであった(途中からダミー自ら耳を塞いだので、そこからは聞こえていないと思うが)。

 

「__お取り込み中か?」

 

 気まずげに口を開いたのは、片手に数束、資料を抱えた大柄な男であった。

 眉間には皺が寄り、優しげな人というよりもどこぞの輩と言った方が伝わり易そうな鋭く相手を睨みつける瞳。身に纏う甲冑同士が擦れ合う金属音が、男の恐ろしさを演出している。

 

「「ジョズ隊長!!」

「いや、おれは縄の補修を頼みに来ただけだからねい。もう頼み終わったよい」

「ならいいか……えーと、ダミーだったよな? お前が今日から入る三番隊、隊長のジョズだ」

「あ、ぇ、どうも」

「あー羨ましい! おれもジョズさんに習いてェよ」

「お前がヤンチャしてる時代に、習ったろ……ジョズ隊長に」

「あの時のおれは、おれじゃねェんだ」

「お前らは、自分の仕事をやれよい」

 

 恐らくこの男__ジョズを前にして目を輝かせるのは三番隊の彼らだけである。こいつらを止めろとマルコは目配せしたが、ジョズは嬉しそうに口角を上げるだけだった。褒められて嬉しくない海賊はいないのである。

 

「__基本的には、こんなもんだ。後は、戦闘訓練やらが入るから……まあ、暇はない」

「せんとうくんれん? おれ戦う気ねェよ」

「お前が乗ったのは商船じゃねェんだよい。れっきとした“海賊船”だ」

「おれの体に打撲痕でも付いてみろよ! 海が泣く」

「安心しろい。もうお前は海に嫌われてる(能力者)だよい、海が流す涙はカラカラだ」

「他の奴らとおれを一緒に考えんじゃねェよ。人の価値がちげェ」

「……(人格)が違うのは同意だねい。なんでお前は海賊船に乗っただよい?」

「一気に手に入る宝って夢があるだろ__」

「要は“金”だろい……」

「……まあ、どちらにしろ。戦闘訓練は受けてもらう」

 

 安定した衣食住に加えての金なら、ギャンブル好きの彼が目当てにしないはずもなく。

 忠誠心やら野心やらのかけらも無い男に、マルコは大きなため息をついた。これならば、小さな頃に探検を夢見る子の方がよっぽどいい。

 

「それと、サッチ……四番隊隊長が『薬の心配をすんなら、朝食の準備を手伝え』ってんで、出航したら、食事当番だ」

「食事ィ!? いや、文句言ってねェだろ、食事に!!」

「薬を盛ってると言われるのは、十分な“文句”になるぜ……」

「最悪だ……誰が好き好んで他人の食事を、朝一に無償でよォ……」

「お前の寝床も無償だからな??」

 

 はてさて、ギャンブラーに加えて彼女のヒモ生活であった男が、まともな食事を作れるか。

 

 ダメダメの実を食べたダメ人間、ダミー。彼の辞書には、“慕う”という文字はない。

 

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