カンパニー社員の俺は仮面の愚者に人生台無しにされる 作:塊ロック
家に戻るまで、記憶がちょっとあやふやだった。
気が付いたら花火ちゃんに支えられて玄関をくぐっていた。
「着いたよー、お兄さん」
「え……あれ、俺……鍵……」
「もう、何言ってるの?さっき出したじゃん」
「そう、だっけ……?」
頭がぼーっとする。
妙に身体がダルい。
花火ちゃんから離れてフラフラと歩く。
「ちょっと、お兄さん……?」
「え?ああ……ごめん……」
ソファに座り込む。
花火ちゃんが顔を覗き込んで……俺の額に手を当てた。
「……お兄さん、熱あるね」
「え……?熱……?」
「うーん……お兄さん、寝てて」
「いや……仕事……」
「寝、て、て!」
「……はい」
花火ちゃんに凄まれて、あっさり折れてしまった。
ソファノ背もたれを倒してベッドにする。
そこに横になった。
「……まさかお兄さんずっとそうやって寝てたの……?」
「いや……楽だし……そもそも帰れない日も多いからさ」
「はぁ……じゃあじっとしててね」
花火ちゃんが髪を高めの位置で一房に結った。
ブレザーを脱いでカッターシャツ姿になり、腕まくりをする。
そして、スマホを取り出して電話を始める。
「あ、もしもし?サンポちゃん?お兄さんが倒れたから買い出しおねがーい」
相手はサンポらしい。
2人はどう言う知り合いなんだろうか。
あ、駄目だ……頭がぐるぐるする。
「なんか風邪に効きそうなやつ〜」
えらくふわっとした指示をする。
「……よし」
何がよしなんだろうか。
「台所借りるね〜」
……ちょっと、まさか。
「うわ、冷蔵庫空っぽ……食器も全然無いし……紙皿とプラスプーンばっか……」
「ちょっと、花火ちゃん……!」
「あ!お兄さん駄目だよ、寝てなきゃ〜」
「そうも言って……うっ」
「ほら〜」
ソファベッドから立ち上がって一気に立ちくらみに襲われる。
その場に蹲ってしまった。
「お兄さん大丈夫?」
「ちょっと……気持ち悪い……」
「えぇ?出そう?」
「……分からん」
「うーん……じゃあ取り敢えずお手洗いまで行っておく?」
「……そうする」
花火ちゃんにまた支えられてフラフラとトイレまで行った。
「大丈夫、待ってるから」
ドアを閉める。
俺は結局ぶちまけた。
「げほっ……うぇっ……」
なんだか泣けてきた。
こんなに自分はメンタルが弱かったのだろうか。
「……違う」
限界が来ていただけだ。
スターピースカンパニーに入社してから、ずっと耐えてきて……今回のでばきっと折れてしまった。
数多のドロップアウトしていった同僚達と同じ。
「なんでこんなにも、苦しいんだろうな……」
自分が生きること。
金を稼ぐこと。
故郷を買い戻すこと。
この3つが、堪らなく辛い。
吐瀉物の処理をして、口を濯いで、ドアに手をかけた所で……止まった。
「………………」
心臓の鼓動が煩い。
怖い。
理由の分からない恐怖が俺の心を支配していた。
(理由?)
そんなもの、明白だった。
(このドアの先に、花火ちゃんが居なかったら?)
もし、俺が幻覚をみていたら。
花火ちゃんなんて存在しなかったら。
そう思ってしまい、手が震える。
ドアノブを捻れない。
(落ち着け……花火ちゃんはさっき居たじゃないか)
でも、手が……動かない。
「ああクソ……!」
両手でなんとかドアを開けて、出る。
「……ぁ」
誰も、居なかった。
「あ……あぁ……は、はは……そっかぁ……」
俺は、へなへなと床にへたり込んだ。
幻……?
そんな、馬鹿な。
「どうか、してる……」
思えば、おかしい。
そもそも俺がどうしてこんなに花火ちゃんに肩入れ……いや、居てほしいと思っている?
彼女、どう見たって10代じゃないか……。
都合が良すぎる。
ドタドタと誰かが走ってきた。
「ごめんっ……!お兄さん!大丈夫?!」
「花火……ちゃん……?」
「ごめんね、サンポちゃんが来てくれたから荷物を受け取ってたの……お兄さん?」
「あ、ああ……」
「きゃっ……ちょっと、お兄さん……」
「ごめん……」
「……ごめんね」
俺は、縋るように花火ちゃんを抱き締めてしまった。
はたから見れば完全に犯罪者。
でも、花火ちゃんは……優しく笑ってた許してくれた。
「あの〜……花火さん?僕も居るんですけど」
「サンポちゃ〜ん、お兄さん運んで」
「エッ?……あら、お兄さん気を失ってますね……分かりました」
これで年末最後の更新になります。
あと10話以内に終わらせられたらなって思います。
皆様良いお年を。