カンパニー社員の俺は仮面の愚者に人生台無しにされる   作:塊ロック

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第16話

 

あれからしばらく、花火ちゃんは俺の家に入り浸った。

カンパニーの方からも、俺が過労で体調を崩したと知ったので1ヶ月休養を言い渡されたのだった。

 

「良かったね、お兄さん」

 

隣に座っている花火ちゃんがそう笑ってくれた。

 

「……ああ」

 

あれから、花火ちゃんピノコニー行きの件を考えていた。

 

「………………」

 

無言でコーヒーを啜る。

いまだ、答えは出ていない。

 

仕事も大事。

故郷も大事。

 

そして……花火ちゃんも、大事。

花火ちゃんの願いなら叶えてあげたい。

 

「お兄さん?」

 

そんな心中をを知ってか知らずか、花火ちゃんが顔を覗き込んで来る。

俺は、それに笑って返す。

 

「何でもないよ。ありがとな」

「ねぇねぇ、どっか行かない?」

「えぇ?今から?」

「お兄さん熱も引いたし、寝たきりだったしさ〜。歩こうよ」

「……そうしよっか」

 

花火ちゃんが一瞬でいつものブレザースタイルに着替える。

瞬きの間に着替えたのであまりにも心臓に悪かった。

 

「?どうしたの」

「君は……自分がどれほど魅力的か、一度考えたほうが良い」

「えぇ?花火はとっても可愛いいんだよ?」

「……そうだね」

 

自覚してやってんのかな。

俺も寝間着から着替えて最低限外に出られる服を着る。

 

「行こうか」

 

電子ロックをかける。

 

今日は、晴れていた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

社宅から少し離れて。

何かと因縁のある公園にやってきた。

 

「……懐かしい、気分になる」

「どうしたの?」

「いや……ここで、初めて君と会ったなと」

「ここ……?ああ」

「あの時、君は雨のなかで踊っていた。演技の練習かい?」

「ううん」

「……?」

 

花火ちゃんはふらりと揺れるように踊りだした。

 

「お兄さんは、自由ってなんだと思う?」

「自由……」

「花火はね〜……雨の中、傘をささないで踊ることだと思ってるの」

「……雨が降ったら、傘はさすだろう」

「ささないで濡れる、それが花火の自由だよ〜」

 

花火ちゃんは舞う。

俺は、その姿に心奪われ……魅入ってしまった。

 

「自由、か……」

「お兄さんはね、自分をずっと押し殺してた。だから……ちょっとずつ、素直になろう?」

「……こんな風に、か?」

「わ!」

 

踊る花火ちゃんの手と腰を取る。

さながら、社交ダンスのペアのように。

 

「お付き合い頂けるかな?レディ」

「しょーがないなー」

 

俺と花火ちゃんは、それからずっと踊っていた。

 

「花火ちゃん」

「あははは!なーにー?」

「行くよ、ピノコニー」

「本当!?」

「君と、行きたい」

「あはは!嬉しいなぁ。花火、お兄さんのこと好きだから一緒に行きたいなって思ったの」

「そう、なのか?」

「だって、お兄さんから面白い気配を感じたから」

「俺から?」

「うん!」

 

花火ちゃんが手を離し、恭しく一礼する。

 

「めちゃくちゃにしたいんでしょ?何もかも」

「……っ!」

「動揺しちゃだ〜め!」

 

花火ちゃんの瞳が爛々と輝く。

 

「お兄さん。貴方の仮面は何処にあるの?」

「か、仮面……?」

 

花火ちゃんが、身動ぎする俺を抱き締めた。

俺の胸に、花火ちゃんの頭が押し当てられる。

 

「ね、花火の目を見て」

 

……引き返すなら、今。

今、俺はこの瞳を直視したら……何もかも終わってしまう気がした。

 

休みが終わったら、また……仕事に戻って。

 

世の中全てに文句を垂れて汗水垂らして働いて。

 

いつか、故郷を買い戻して。

 

……買い戻して?

 

どうする?

 

その後は?

 

そして……買い戻したところで、誰がそこに住む?

もう、あの星には誰も居ないのに。

俺の家族も、ご近所さんも、何もかも居なくなったのに?

 

「あはは……お兄さんは……素直だね」

「……惚れた、弱みだ」

 

花火ちゃんに聞こえないように、呟く。

満足気に、花火ちゃんは笑った。

 

「愚者千万、浮世を遊び尽くさん……!」

 

花火ちゃんの瞳から、目が離せない。

 

「答え……見つけてごらん……?」

 

答え。

そんなもの、もう決めた。

 

「走馬看花。万の芝居を演ずる」

 

俺はそう答えた。

上っ面の演技、やってやろうじゃないか。

 

「愉悦を知りたいの?なら……退屈を捨てなきゃ!」

 

花火ちゃんは、俺の財布をスッと取り出し……中から、1枚のカードを取り出した。

サンポから貰った、あのカード。

 

「お兄さんはやっぱり……花火たちの同類だね!」

「……これは?」

「愚者カード……。前に、こわーいお嬢さんと遊んだときのものなの」

「ふーん……」

「これが、お兄さんの仮面の在り処を教えてくれるんだよ」

「俺の、仮面……か」

 

愚者カードを受け取る。

愉悦の運命……歩んでやろうじゃないか。

 

「……ははっ……」

 

表情筋が強張っていて、上手く笑えない。

 

「まずは……思いっきり笑えないとな」

「あはは!お兄さん笑うの下手すぎ!」

「ふん……じゃあ、笑わせてくれよ役者さん」

「むー!花火は役者で、お笑い芸人じゃないんだから!」

「はいはい、分かったよ花火様〜」

「花火ちゃんって呼ぶよりはマシかなぁ〜」

「何だよ、それ」

「今だから言うけど、ちゃん付けちょっと気持ち悪かった」

「うぇ、マジかよ」

「嘘だよ〜」

「ははは」

「真顔で笑ったふりするのやめよ〜?怖いよ」

 

いつか、心から笑える日が来るだろうか。

 

「サンポちゃんに報告しとこ〜っと」

 

……この子となら、いつか笑えそうな気がする。

 

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