星のカービィ ヒーローズプラネット   作:えきねこ

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 この手をすり抜けた魂が、今もこの身を焦がし続けている


春風の旅人と雄英高校

『READY・〉

 アナタの・願いを・ひとつだけ・カナえて・さしあげマス……〉』

 

 ポップスターが位置するミルキーロードの星々を、各星の夢の泉を介して繋げた。以前にも来たことがある道乗りだ。あの時と違うのは、その道を自分だけの意思を以て踏みしめている、ということだろうか。

 

 機械仕掛けの大彗星が問いかけてくる。

 何を願うのか、と。

 星々を繋ぐとその姿を現し、願いを叶えてくれる銀河の果ての大彗星。呼び出すのは2回目だが、願いを叶えてもらうのは初めてだ。

 

 機械仕掛けの大彗星に願いをかけるのは、本当に最後の手段にするつもりだった。宇宙をあちこち駆けずり回って、それでもどうしようもなかった時に初めて候補に挙がるような選択肢だった。

 

「彼」が語ったところによると、かの彗星は遥かなる遠き世界に生きていた古代の人々が創り上げたものであるらしい。彼らが何を思って大彗星を創り上げたかなど知る由もないが、その危険性は分かっていたのだと思う。ミルキーロードの星々を夢の泉を介して繋げる、という手段を用いなければ、大彗星の姿を拝むことすら叶わないのだから。星々を繋ぐことの出来る者が、一体この宇宙にどれほど存在するのだろうか。敢えて数えたいとも思わないが。

 

「彼」は大した虚言師だったが、その言葉の全てが虚言だとは思わない。事実、着用者に強大な力を与え、その(ソウル)を啜る王冠はかの文明の遺産であるし、「彼」がかの文明の遺産であると言った願いを叶える機械仕掛けの大彗星や夢を生み出す神器が、存在しているのだから。

 

「彼」の1から10まで全てが、虚言だとは思わない。

 思えなかった。

 

 

『…………』

 

 何を願うかは、初めから心に決めていた。そのために数多の星々を巡り……機械仕掛けの大彗星を頼ろうと決めたのだから。

 しかし、どうやって願おうかは、未だに決めあぐねていた。

 

 願いのかけ方とかける相手を間違えて、その(ソウル)すらも散らした、とある社長の姿が脳裏に過る。彼が使っていたものは、機械仕掛けの大彗星と違い、完全な存在を気取ったこわれたマシンであったとはいえ。一歩間違えば、今度は自分がそうなってしまうかもしれないという思いはある。だが、あいにく上手い願いのかけ方など、思い付かなかった。

 

 だから、これはある種の賭けでもあった。

 願いが叶うか、捻じ曲げられて叶うか。

 自我を保てるか、(ソウル)を貪られるか。

 危険な綱渡りであることは重々承知だった。

 だけど……

 

 

 

 

 

 

『……ボクの願いは…………』

 

 

 

 

 

 

 

『OK〉

 3・2・1・GO! 〉』

 

 

 

 

 そうして、白銀の羅針盤がこの手に渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピ……

 

 微睡みの中にあった意識が浮上する。ピンク色の小さな手で、繰り返される機械音のアラームを止めようとして……

 

 ガシャン! 

 

 そのまま、時計を床に落っことしてしまった。

 

 この時点で、カービィの意識は完全に覚醒していた。まあるい身体全体に冷や汗をかきながら、先程まで眠っていたベッドから降り、落っことした時計が壊れていないかを確認した。どうやら壊れてはいないらしい。カービィはほっと安堵のため息をついた。

 

「カービィ、朝ごはんだよ」

「はーい」

 

 時計を元の位置に戻したところで、ダイニングから13号の呼び声が聞こえてきた。カービィはいそいそとそちらに向かう。

 カービィの身元が13号の預かりの身になって、三日目の朝のことだった。

 

 

 

 

 

 

 宇宙人を名乗る戦闘力の高いピンクボールという、愛らしくはあれど怪しさが拭いきれない謎の生命体を13号の家で受け入れているのは、ひとえに根津の頼みによるものだった。

 

 人探しを目的とするカービィを、そのまま放り出すことは教育者として出来ない。これは根津が早い段階から思っていたことだった。異星から遥々やってきた彼は、この星においては赤子同然の知識しか持ち合わせていない。しかも、一般人とはいえ、“個性”を暴走させた人間を殆ど手こずることもなく伸した実績がある。それだけの力を持つ異星人。そのままにしておくなどという選択肢は端から候補にすら上がらなかった。かといって、半端な所に預けるわけにもいかない。

 

 ゆえに、根津はカービィの第一発見者である13号にカービィを任せることにした。根津が見た限り、カービィも13号には懐いているようであったし、ちょうどよいと思ったのも理由だ。

 

「カービィ、今日は一緒に雄英高校に行くよ」

「何するの?」

「君の“個性”……もとい、君の力を見せて欲しいんだ。他の先生との顔合わせも兼ねてね」

「はーい」

 

 大盛りのご飯をかきこみながら、カービィは元気よく返事をした。その小さな身体からは考えられないほどに、カービィは大食いであった。成人男性の1日分の食事を1食で食べてしまうようなことは当たり前であった。最初にカービィが食事をする様子を見た時、13号は度肝を抜かれてしまった。それほどまでに大食いであった。数日経ってようやく、カービィの食事量には驚かなくなったところだ。

 

「他の先生ってどんな人なの?」

 

 カービィがどこか期待に満ち溢れた目線を13号に向ける。ヒーローというものそのものに馴染みのない彼からしてみれば、雄英高校の教師陣というヒーローたちは興味深いものなのだろう。

 

「そうだなぁ……ヒーローと英語の教師をしながらラジオのパーソナリティをしている人や、生徒たちの青春に心を躍らせる人……他にも、いろんなヒーローが先生をしているんだよ」

「へー……面白そうな人たちだね」

 

 頬張っていた米を飲み込むと、カービィはニコニコと笑って相槌を打った。

 

 

 

 

 

 雄英高校は、日本におけるヒーロー養成校の中でも名門中の名門校である。日本のナンバーワンヒーロー、オールマイトや、ナンバーツーヒーロー、エンデヴァーを筆頭に、名だたるヒーローを数多く輩出してきた。

 

 そんな雄英高校は、“個性”訓練用の設備も他のヒーロー養成校とは比にならないレベルで整っている。この日、カービィが13号とともに雄英高校を訪れたのは、その設備を利用してカービィの能力を把握するためである。百聞は一見にしかず、ということもあるが……

 

『カービィ、君の能力はどんなことが出来るんだい?』

『えーっとね、きゅおー、って吸い込んで、ぴかーっ、てなって、じゃきーん、ってコピーできるの』

『????????』

 

 ……カービィが口頭でも説明したのだが、その説明が擬音まみれでいまいち要領を得ないものであったがゆえの措置でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、この生き物」

 

 相澤は困惑していた。

 13号が連れてきた謎のピンクボールのような生き物が、何故か捕縛布を伝ってよじよじと相澤の肩の上によじ登ってきた。困惑するな、という方が無理な話だと、相澤は誰に対してでもなく言い訳じみたことを思う。

 

 彼の後輩である13号が保護したという子供と顔を合わせるだけのつもりだったのだが、はてさて、件の子供と思しきピンクボールのような生き物は、どうやら相当なやんちゃ坊主か、怖い物知らずのようで。いつの間にやら、ピンクボールことカービィは、相澤の頭の上に陣取っていた。

 

「か、カービィ……人の頭の上に勝手に乗っちゃ駄目だよ」

「えー、デデデはいつも乗せてくれるよ?」

「仲のいい友達ならいざ知らず、初対面の人にそれやっちゃうと困らせちゃうから……ね」

「はぁい」

 

 13号が諌めると、ようやくカービィは相澤の頭の上からふわり、と降りた。13号以上に幼い子供と接触した経験のない相澤は、眼の前の幼子のような物言いと振る舞いのピンクボールに、ただひたすらに困惑していた。

 

 なお、大王はカービィを頭の上に乗せてあげているのではなく、何度も何度も肩や頭の上に乗ってくるカービィに、注意することすら諦めただけである。閑話休題。

 

「先輩、この子が僕が面倒を見ることになった子です」

「はぁい、ボク、カービィ! おじさんもこの学校の先生なの?」

 

 青い瞳をキラキラと輝かせながら、一切の悪意もなしにカービィが放った一言は、カービィ本人が全く意図しないまま、相澤の心に若干のダメージを与えた。

 

「お、おじさ……俺はまだ、おじさんなんて年齢じゃ……」

「そうなの? ごめんね、人間の年齢の感覚がまだよく分からなくて……人間は30近くになったらおじさんになる、らしいって、前に聞いたことがあったから。それに、おじさ……おにーさん、なんかくたびれてるし」

「おじさんの年齢の定義はともかく……くたびれて見えるのには同意します。先輩、小綺麗とまでは言いませんから、せめて、くたびれたようには見えない、程度には身なりを整えません?」

「……合理的じゃないが……少し、考えておく」

 

 カービィの曇りなき眼と、純粋な発言に乗っかって放たれた13号の本音は、合理主義者の相澤といえど無視することはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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