「八雲藍さんに会いたい…」
「九尾自体珍しいものだし、そう簡単に会えるわけないじゃない」
「だよねぇ…」
「それに。あの狐、取引相手以外は大体見下してるのよ?」
「え、まじか」
じゃあ化けてた時はなんだったんだ…?くっ。十六夜咲夜に現実を見せつけられてしまった。というかここは紅魔館なんだよな?先ほどから全然部屋の中が赤くなくて目に悪くない。むしろ全体的に青っぽい色で…んー、なんだろ。何ここ?俺の知ってる紅魔館じゃないんだけど…あ、もしや博麗神社に送り返されたか??
「紅魔館よ。お嬢様が特別に作ってくれたの。貴方とは長い関係になる運命が見えたんですって」
「運命なぁ…なんだそれ」
「それはそれ。」
「うーん…つまりこれは藍色ってことか」
「さあ?」
「作ったのはどーせパチュリーさんか。なんか暇つぶしない?」
「そうねぇ…何もないわ。あ、だけど部屋から出るのは絶対ダメよ。妹様が大暴れしてるから」
「マジっすか」
そう話してたら壁が崩れた。そのまま赤色の壁が見えてきたなーとか思ってたら、俺の腕を奪った奴によく似てるシルエット。おいおいおい。俺これ死んだ??死んだよね??あーもう、これなら霧雨魔理沙の家に行って本を読み漁るべきだった。紅魔館なんか二度と来るか。あれだぞ。もうそろそろアレルギー反応出るぞ。
「がっ」
「ようやく来てくれた!」
腕が掴まれる。が。なんだか力が弱い。ぶつかる時の衝撃しか痛くなかった。なんでこんなことになってんだか知らんが、とりあえず今の衝撃で骨が折れてないのは確かだ。骨折れたことないからわかんないけど。抉られるくらいしかやられたことないし。八雲藍さんにやられるなら我慢できるのに!!どうしてこんな、人外で金髪くらいしか共通点のない奴にやられてるのさ俺は。
「…え、何?」
「お姉様に言われてるの。食べるなって」
「あ、まじか。安心だわ」
「妹様、はしたないですよ」
「うるさい」
「…」
「こっち来て」
「ういっ!?」
身長差がおよそ30センチ以上あることにより腕を引かれてかなり姿勢がきつい状態に。力も強い。でもこいつ、神子よりは見ててマシなんだよな…うん。なんなら模様の統一感からすれば十六夜咲夜よりはマシ。だが。姿勢が本当にきつい。腕を引く力も強い。八雲藍さんなら首輪を着けて自ら手綱と命を預けるなんて造作もないのだが。なんでこんな…
「あ、ちなみにだけど」
「ん?」
「一度血吸ってるから、貴方の居場所くらいならいつでも分かるよ」
「…じゃあガチで迷子になったら左右に二十回反復横跳びするから、それ察知したら迎えに来てくれる?」
「そんなに詳しい位置はわからないからね??」
「なんだよ使えない…後腕引くなら背負ってくれ」
「恥ずかしくないの?」
というわけだ。ふよふよと妹君が飛ぶことで話し解決し、紅魔館の中を練り歩く。というか俺はどこに連れて行かれてるんだ。わからんぞ、いやマジでわからんぞ。誰か教えてくれ。ちなみに、俺は半日近く眠っていたのか、外を見たら夜だった。もう巫女さんに向ける顔がねえよ…多分、帰ったらスライディング土下座だな。
「お姉様ー」
「何よ…うわ、本当につれてきた」
「おい妹君、あいつボコそうぜ」
「賛成」
「ダメ。それで?何の用事なの?」
「散歩しに行って良い?日傘はこれに持たせるから」
「まぁ…うーん、それくらいなら良いけど」
「日傘かぁ…」
何がしたいのかこの吸血鬼は。今、夜だろ。何でそんな…チグハグすぎやしないか、と思ったらなんか明日の朝行くらしい。はぁー…じゃあ明日言えば良くね??まあなんかあるってことだろ。明日に。気絶してたからか、眠気もない。藍色に囲まれた部屋で一人ポツンといる今。八雲藍さんについて考えを巡らせよう。さて一体どうすれば八雲藍さんは俺と会話をしてくれるのか。俺が声を出してそのまま聞き流されるのは会話とは呼ばないので、やはり言葉のキャッチボールが必要なのだが…うーむ。今のところ、聞いたり経験した限りでは話すことすらできていない。一回目は気絶、二度目はもはや脳が追いつかなかった。だがしかしだ。一回目二回目と八雲藍さんを見た結果は段々と気を失うなんてことから離れて来ている。回数をこなせば、緊張くらいに抑えられるかもしれないな…
「そんなに藍が良いの?」
「うわ、八雲紫」
「うわってその反応はないでしょ。それで?そんなに藍が良いの?別に、永遠亭のお姫様でもここのメイドでも、あとは…まあ、霊夢でも良いのに」
「なーに言ってだお前。俺は普通に八雲藍さんが好きなの。他は知らん」
「薄情ねぇ…藍」
「はい」
空間の裂け目から八雲藍さんが出てくる。その瞬間、俺は部屋から出た。正直に言おう。逃げた。八雲藍さんの美しさを見て気絶し忘れ去った最初や、空間の裂け目から見た藍さんとは違って、同じ部屋にいることさえままならない。もはや思春期の恋愛拗らせ男子のような反応だが、仕方ない。声からして分かる几帳面さ、それでありながらも視界の端で捉えてしまった身体。金色に染まっている九本の尾が重力加速度の関係で身体よりも後に落下した瞬間に奏でた音からわかる、軽快さ。そして、視界の端でしか捉えていないにも関わらず頭に残る、黄金比を思い起こさせるような模様をしたその後ろ姿。もはや俺は、あの人に出会うだけで頭を焼かれる人間だ。宴会の時に見た空間の裂け目から出ている藍さんの顔を思い描き、頭を悩ませる。八雲藍さんと相対して緊張を抑える?無理だ。絶対に無理なのだ。
「綺麗だよなぁ」
「あら、高嶺の花でも探してるの?」
「十六夜か…高嶺の花っつーか。俺と八雲藍さんは、次元が違う。俺が二次元なら、八雲藍さんは五次元くらいに居る」
「私は?」
「3」
今日の藍さんは少なめ。
断片的にしか見てなかったからね。