「ふい、妹君」
「フランって呼んで」
「…フラン。本日はどこへ?」
「んー…博麗神社に貴方を返す」
「あー??」
「博麗の巫女がさ、貴方の保護者みたいな立ち位置なんでしょ?そっちに謝るの。その腕のこと」
そういう気遣いができるなら、俺の腕を取るよりも早くその自制心を発動するのが筋だと思うが。どうだろうか、どうでしょうか。どうやらフランの言ってることは正しいらしく。出て来た妖怪をフランが蹴散らしながら進み、さっさと博麗神社に戻って来た。あー、もー、何?何さ。俺が何やったんだよ。フランに日傘を持たせて、棒立ちの巫女さんに向かって走り出す。
「すいませんでしたぁ!」
「あ?別に良いわよ。どーせまた消えるんだから」
「どうか、この通り!」
「…で、フランは?」
「この男の腕の件。ごめんなさいってしに来たのよ」
「あら…じゃあ青蛾とかいうやつも謝らせたほうがいいわね」
「お詫びに。これ」
「…なにこれ?」
「私が集めてたマジックアイテム。好きに使って」
そう言ってフランは去っていった。その間俺は土下座の姿勢を解かず、これが俺の誠意だと言わんばかりに頭を下げ続けた。八雲紫に騙され、美鈴さんにボコられ、十六夜咲夜に騙されたことを自覚させられ、八雲藍さんに目も合わせられない俺の無力さを痛感した。それだけです、他には何もしていませんと説明する。
「…あ、そうだ。紫の奴帰ったから、部屋使えるわよ」
「ひゃっほーい!」
「あーでも、当分香水みたいな匂いは取れないと思うから」
「はーい…」
「あとは…そうね、藍から渡しもの。」
「え!?」
「小さい狐の人形…かしら?」
手に取る。一目で分かったことを言おうか?いって良い?いいよね!?まず触れると、その一つ一つが丁寧に作られており、相当な集中を用いて作り上げられたことがわかる。狐の尾は九本で、八雲藍さんと同じ。手触りは最高であって、その狐の顔はどこか八雲藍さんを感じさせる。あー綺麗だ。そして!!その素材。一目で分かったというよりも、八雲藍さんラブだから俺は分かった。この毛、八雲藍さんの毛だ。
「…えー…きも」
「多分これ尻尾の毛だ…あー、大事にするしかないわ。幸せ」
「言っとくけど、それで変な妖怪招き入れないでよ。」
「しかし…何故八雲藍さんが俺に?」
「さあ?紫の気まぐれなのか、紫が部屋を占拠してたことへの謝罪じゃない?」
とすれば、紅魔館で俺のところに来たのはそういうことでもあるのか?わかんないよ…でも八雲藍さんは俺を認知したということだ。そう考えると、このぬいぐるみも八雲藍さんが俺を認知している証拠と見える。あー、美しいって字は八雲藍さんにこそ似合う。そうなれば、代わりの言葉を作らなければ…くっ、それほどに美しい存在なんだ!!
「さて。私はちょっと出かけるから。その間客が来たら何とかしといて。それじゃ」
「はーい」
さっさと空へ飛び上がっていった。そうして数時間ぼーっとぬいぐるみを眺めていると、空間に裂け目ができ、俺は一瞬身構えたが、八雲紫が出て来た。あー、また気絶するところだった。あぶねー、マジあぶねー。しかし、前回の例もある。また急に八雲藍さんを出されたら、今度こそ逃げ道がない。
「ねえ」
「なんですか」
「私はどう?私も藍には負けず劣らずの美女だけど?」
「…そうだな、うん。確かに美女だ。八雲藍さんに負けず劣らず。」
「でしょ?どう?わたしと「でも。」…何?」
「要素が一つ足りない。八雲紫の要素は四つ。お姉さん、美女、人外、大きい。」
「藍は?」
「お姉さん、美女、人外、大きい、狐。俺はどうしようもなく狐の部分に反応する人間なんで」
「ま、一途ね。それはそれで良いけど。藍はあげられないわぁ」
「八雲藍さんは貰うものじゃないからなぁね
八雲藍さんは貰うのではない。一日のどこかで会話をする日があれば、会話をせずに終える一日がある。要するに俺は、八雲藍さんが好きだが八雲藍さんと付き合うとかそういうのは考えていない。それこそ、この狐のぬいぐるみだけでもかなり満足している現状を考えると、やはり俺は八雲藍さんが好きなだけである。
「でもね。あなた、そういうふうには見えないのよ」
「どうして?」
「どうだって良いじゃない。私にはそう見えるってだけ。」
「まあ、最初は会っただけで満足とは思ってたけど。」
「昨日は会わせてあげようと思ったらどこかに行っちゃうし」
「後ろにいる私にも気付かないしなぁ」
後ろから凛々しい声がする。聞いた覚えがあり、かつその声には少しの好奇心を感じさせる声色で、まるで俺にイタズラをすることを堪えられずに、声に出たような。飛び退いて、振り返る。頭にある、二つの突起。それを隠すつもりなのか被っている帽子があり、美しい顔、イタズラが成功したような顔で、俺をじっとりと見ていた。藍色の前掛けに、全体的に白い、割烹着のような服装で、腕を胸の下で組んでいる。前から見てもわかるほどに大きい背後に生える、金色に光る八本の、管理の手が届いているとわかる美しい尻尾。身長は、やはり180はある。俺が飛び退いて下から見上げているからか、それ以上にも感じる。ただやはり、その威圧感さえもが心地良く。俺のいた場所から数歩進み、倒れている俺の目の前に、八雲藍さんが来る。近付けば近付くほどに、その顔が美しいのだと認識する。
「そのぬいぐるみ。抱き心地はどうだ?」
「も、勿論、極上で、」
「そうか。私の尻尾を一本丸々使ったんだ。大事にしてほしい。」
「…ぇ」
八雲藍さん「…どうすれば紫様の数多な無礼を許してくれるだろうか…」
橙「霊夢からは、藍様が何かすれば全て許すって言ってました!」
八雲藍さん「…なら尻尾丸々使って今後起こるであろう無礼も許してもらうか」