「我、窮地……!!」
怒声とともに、ハンゾウの双眸が爛々と燃え上がった。
「――と、言うとでも思ったかッ!」
背へと隠していた小刀を引き抜く。その刃は月光を裂き、残光を撒き散らしながら弧を描く。束縛していた蔓は音もなく切り裂かれ、瞬きの間に千々へと砕け散った。
次の瞬間。影が弾け、ハンゾウの体は矢のように宙を駆ける。闇を裂く黒閃が、二人へと迫りくる。
「"
双刀が交差し、十字の斬光が閃く。その斬撃はただの一太刀ではない。鬼の呻き声のごとき唸りを伴い、刃は刃を生む。四方八方へ伸びた光刃が網のように広がり、退路を塞ぎながらマキシリアの首筋を狙った。スプレッドが腕を交差させて受け流すが、すぐさま追撃が叩き込まれる。
「"
刀を振るう軌跡から、紅の風が噴き出した。血を撒いたような赤黒い気流が渦を巻き、空間ごと裂ける。飛散した床石が塵となり、壁面が抉れ、空気そのものが敵意を帯びて唸りを上げた。暴風が押し寄せ、二人の体を裂き刻まんと迫る。
なおも止まらない。
回転しながら地を蹴ったハンゾウの姿が、影と化して迫る。
「"
両手の小刀が逆手に構えられ、爪のごとく振り下ろされる。その一撃は鋼をも粉砕する裂爪。刃が空を掴むたび、黒い残光が五指の爪跡のように走り、床石を細切れに裂いた。舞い上がる破片が弾丸のように散弾となり、二人の周囲を容赦なく叩きつける。
息つく暇もない殺到。鬼の連撃、血風の陣、骸爪の断——。刃の嵐が容赦なく降り注ぎ、マキシリアとスプレッドは後退を強いられる。防御の魔力が削られ、衣服は裂かれ、皮膚に薄く傷が刻まれる。
まるで死神の鎌に追われているかのように。
だが——。
「……ふん。これで全部か?」
斬光の嵐の中から、低く響く声が洩れた。スプレッドの声だった。その声音には焦燥も怯えもなく、ただ退屈を嘲るような冷笑が滲んでいる。渦巻く刃を全て受けきったという確信が、その一言に凝縮されていた。
マキシリアが一歩、前へ出る。荒ぶる風を手中に収めるかのように、片手を軽く掲げる。その指先には、淡い翠の光が灯った。静謐な輝き——だが、その内側には大気そのものを裂く刃の殺意が凝縮されていた。
「見せてもらったぜ、お前の技。……だが、悪いな。」
彼の言葉と同時に、大気が一変する。風が渦巻き、耳を劈く轟音を上げた。やがてそれは刃と化す。
「
空気が悲鳴をあげる。見えぬ刃が幾重にも生まれ、奔流のごとく放たれる。鋭利な風の断層が、前後左右から押し寄せ、退路を完全に閉ざした。
「ぐ、あああああ!?」
咄嗟の回避など許されるはずもなかった。無数の風刃が瞬時に体表を切り裂き、筋を断ち、肉を穿つ。飛び散る血飛沫は光を反射し、紅の雨のように宙を舞った。
次の瞬間、ハンゾウの身体は大気ごと弾き飛ばされる。背中から城の石壁へ叩きつけられ、そのまま突き刺さるように沈み込んだ。耳を打つ轟音と、石の割れる鈍い音が辺りに響き渡る。
——そして、静寂。
スプレッドは淡々と肩の埃を払い落とす。その仕草は、戦いの余韻すら感じさせないほど日常的で、侮蔑に満ちていた。口元に、皮肉めいた笑みが浮かぶ。
「……威勢の割には、拍子抜けだったな。」
隣のマキシリアが肩で息をすることすらなく、冷めた目で倒れ伏すハンゾウを見下ろした。
「あぁ。それに……こいつ、魔力の扱いが素人同然だ。剣筋だけで力を通そうとする。そんな粗削りじゃ、俺らに届くわけがない。」
二人の声音には余裕しかない。まるで、ただの余興を片づけたかのように。勝負は終わった——そう確信しきっていた。
だからこそ、彼らは気安く背を向けた。
「……あれ?おいゴウセル、ガランはどこ行った?」
スプレッドが軽い調子で問いかける。
「ガランなら、城の外へ行ったよ。君たちと戦っている間に、一人、女神族が潜んでいることに気づいたらしくてね。……単独で向かった。」
「お前はいかねぇのか?」
「……ガランに『来るな』って言われた。理由はわからないけど………」
言葉の続きを、三人は同時に呑み込んだ。
空気が変わったのだ。
——背後。
石壁に沈み込んでいたはずの男が、音もなく立ち上がった。
ハンゾウ。
その姿に、三人は一様に目を見開く。猫背で、だらりと両腕を垂らしたまま。首も力なく下がり、顔は影に隠れて見えない。まるで糸が切れた人形のような、生者とは言い難い佇まい。それでも、確かに「立って」いた。
「………おい、どういうことだ。なんで生きてやがる。マキシリア、ちゃんととどめ刺さなかったのか?」
「そんなわけないだろ……!"鎌鼬"は確かに心臓を裂いたはずだ。……はずだが………」
「ま、生きてたって致命傷は負ってるんだ。どうとでもなる…」
二人の声音には、依然として余裕が残っていた。しかし、その余裕はゴウセルの耳には空疎に響いた。
——違う。これは何かが決定的におかしい。
ゴウセルは直感した。目の前の男から「生」を示す気配が一切消えている。武力も、気力も、生気すらも。空虚だ。だが代わりに——その虚ろを埋め尽くすように、魔力だけが膨れ上がっていた。先ほどまでとは比べ物にならない。二倍、三倍……いや、十倍以上に跳ね上がっている。背筋に冷たいものが走ったゴウセルは、叫んでいた。
「二人とも気を付けて!そいつは……もう生きてる"人間"じゃない!魔力が、さっきの比じゃないほど膨れ上がってる!」
「……?」
二人がほんの一瞬、声の意味を測ろうと振り返った、その刹那だった。
疾い。
視認すらできぬ速度で、銀光が奔る。
——ズ、と空気が裂けた。
二人の腹部。寸分違わぬ同じ位置に、鋭い斬撃が走っていた。赤が噴き、吐息が止まる。その刃を振るったのは——他ならぬ、ハンゾウだった。猫背のまま、顔を上げず、だらりと腕を振り抜いた姿のままで。
『……なっ!?』
その声は、驚愕と理解不能の入り混じった悲鳴だった。
────
ハンゾウ。
彼は女神族に生まれながらも、自らの魔力を理解する、知る機会が一度もなかった。強いのか、弱いのか。豊富なのか、乏しいのか。あるいは本来持ち得ていないのか——何も分からぬまま、ただ「不器用な者」として年月を過ごしてきた。それにより、魔力の制御が下手であるがゆえに、戦場ではいつも仲間に補ってもらわねばならず、劣等感を抱き続けていた。
戦の折、彼はふと魔人族の死骸から一本の短刀を拾い上げた。血に塗れた鉄片にすぎぬそれを、ハンゾウは自らの不完全さを埋める手段として選んだ。他の者が魔力で山を割るなら、自分は刃で時を割く——そう心に決めた瞬間から、彼の歩む道が定まった。以後、彼は女神族にありながら剣技を己の支えとし、何十年にもわたり刃一つにすべてを賭けて歩み続けた。
刃を振るい続けるうちに武力、気力は増し、やがて仲間も認めざるを得ぬほどの腕を持つに至った頃——彼の運命を決定づける出来事が訪れた。
魔人族の巨獣、アルビオン。山を踏み砕くその怪物が、数百の眷属を率いて襲来したのである。空は業火に染まり、大地は血で濡れ、同胞たちが次々と踏み潰され、引き裂かれ、焼かれて消えていった。戦場は修羅そのものであった。
その最中、ハンゾウは流れ弾の一撃を受け、全身を灼くような激痛に包まれて地へ倒れ込んだ。彼は強い女神族ではなかった。傷は深く、意識は暗転した。死の淵に落ちたはずだった。
だが、目を覚ましたとき、彼を待っていたのは歓声だった。
女神族の生き残りが、彼の名を讃えていた。その後、最高神に御呼ばれしたときにすら「見事な戦果を挙げた」と直々に褒め称えられた。
当の本人には何の記憶もない。ただ痛みに沈み、気を失ったその瞬間から先の出来事は一切わからない。だが彼は問い返さず、ただ一言「はい、ありがとうございます」と頭を垂れた。それが最も無難で、最も彼に似つかわしい答えだった。そしてそれは、自分自身の力の正体から永遠に目を逸らし続けることでもあった。
以来、ハンゾウは「四大天使」もとい女神族、最高神を守る影の存在「十六の光」に選ばれ、女神族の誉れとされてきた。それでも——己の魔力の正体を知ることはついぞなかった。
だが、その戦場を共にした一人の生き残りは、友人とともに飲んだ際、こう語っている。
「俺は見た。あいつが重傷を負いながらも、あの化け物どもを一瞬で切り伏せた光景を。……けどおかしいんだよな。あいつ、俺よりも弱かったはずなんだ。何かが、あいつの中で"起きた"としか言いようがないんだよ。」
「何かが"起きた"」
その言葉は真実であった。
ハンゾウの魔力。それは極めて特異で、呪いにも等しいものだった。対象——すなわち自分自身が死に近い、あるいは完全な死の状態に陥った瞬間に発動する力。自身の武力、気力をすべて魔力へと変換し、その総量を数十倍にまで引き上げ、標的を抹殺するまで、または魔力が底を尽きるまで無意識に行動する。通常の女神族には理解できぬ、異形の力。
ゆえに彼は知らぬ間に「死んで」おり、そして「蘇る」たびに化け物じみた戦果を挙げてきた。その度に称賛を受け、その度に本人だけが何も知らぬまま頭を垂れていた。栄光の裏に潜む呪い。勝利の仮面の下に貼りついた、死の刻印。
そして今、この時。マキシリアの鎌鼬によって心臓を断たれた瞬間、再びその呪われた魔力が目を醒ました。
名を「
仮死あるいは死を契機にしてのみ引き金が引かれる、狂気の魔力。ハンゾウの肉体から、黒煙のごとき膨大な魔力があふれ出す。それは生者のものではなく、死と未練を糧に暴れ狂う異形の光。女神族でありながら女神らしからぬ、穢れた力がその身を満たしていくのだった。
────
「……おい、マキシリア。どういうことだ……なんでアイツ、あの速さで動ける……?」
スプレッドの声は掠れていた。腹部の裂傷からまだ血が滴り落ちている。
「……わからない。だが……まずい。ゴウセルがさっき言ってたろ、"もう生きてる人間じゃない"って。……たぶん当たってる。俺の鎌鼬は確かに心臓を裂いた。それでも——アイツは立っている。おそらく、あいつの魔力だ…」
マキシリアの声は低く、苦い。
「……へぇ。まあ深く考えるのは後だ。今は——!」
二人は同時に踏み出し、獣じみた疾走でハンゾウへと迫った。狙いはゴウセル。あの沈んだ首の角度のまま、寸分も逸れず一直線に彼を殺そうとしている。
「待てよッ!相手を間違えてるぜ!」
「俺たちに傷負わせといて、無視はねぇだろ——!」
スプレッドは腕を振り抜き、地を割るように巨大な蔓が噴き出す。鋭く伸びたその蔓は大蛇のようにうねり、ハンゾウを絡め取ろうと襲いかかる。同時にマキシリアの掌から炎が噴き上がった。元素展開・火——灼熱の奔流が夜気を焼き尽くし、戦場を赤く照らす。
だが、それは「以前のハンゾウ」になら通じたかもしれない攻撃だった。今の彼には意味を成さない。
ハンゾウは視線すら寄越さない。首を垂れたまま、一閃。それはただの斬撃にすぎなかった。だが、蔓は根元から断たれ、炎は空を裂かれたように霧散する。次の瞬間、二人の身体が同時に吹き飛んだ。凄まじい衝撃が背骨を叩き折るかのように走り、壁へと激突した音が響く。砕けた石片と血が宙に舞った。
「二人とも!!」
ゴウセルの叫びが響いた刹那、視界いっぱいに影が覆いかぶさった。
——ハンゾウだった。
その手がゴウセルの首を締め上げる。顔は依然として下を向いたまま、死人のようにうなだれている。それでも握力は岩を砕くように強烈で、首骨が悲鳴をあげた。
瞬間、ゴウセルの首と身体はばらりと分離した。胴を残して転がる首。拘束から逃れる唯一の方法だった。死体めいた腕が空を掴む。だが掴んだのは虚空だけ。ゴウセルは転がる首を自らの胴へと急ぎ装着する。器用さよりも迅速さ。か細い接合する音が、戦場に異様なほど鮮明に響いた。
「……やはり……魔力だけだ。」
彼の瞳は冷たく輝いていた。
「武力も気力も、生気すらも、もう一切感じない……。これは"生きていない"。だから……精神が存在しない。僕の魔力、「
首を切り離す瞬間、彼は「侵入」の魔力を仕掛けていた。だが、何も残らなかった。そこには心がない。思考がない。精神が欠落している。あるのはただ膨れ上がった魔力のみ。侵入できる「意識」が、最初から存在しなかったのだ。
「……となれば……僕一人でやるしかない。二人はもう動けない。」
ゴウセルは口元をわずかに歪める。自嘲のような、覚悟のような。
「……何秒、耐えられるかな……」
返答の代わりに、光が爆ぜた。閃光、いや、斬撃。死人の速度で繰り出される不可視の刃が、ゴウセルを穿たんと迫る。ゴウセルは覚悟を決めた。
────
その頃、城外では。
「………お前さん、女神族か。」
砂交じりの風が吹く城外の広場。ガランが双刃槍を大地に突き立てながら、低く言葉を落とした。地面に刻まれた亀裂が、その言葉の重みを体現するかのように、じわりと広がっていた。
「そういうてめぇは魔人族………それも目標!〈十戒〉「真実」のガラン!!……てか、よぉく俺が女神族だってわかったな。人間の姿で、後ろにいるヤツ以外は知らねぇはずなのに。」
「膨大な魔力、それだけで認知できるわい。」
「へぇ、そうかい。」
ロームは口角をゆがめ、軽く肩を落とした。その身に滲む余裕は、積み重ねた力への信頼から来るものだった。背後のシエルが慌てて前へ出ようとする。
「………ローム様!気をつけてください!そいつは…」
「私を追い詰めた、とでも言いたいんだろう?当たり前だろ。お前はただの雑魚だ。人間の基準で俺らの基準を測ってんじゃねぇよ。」
「………」
シエルは下を向いて黙り込む。その表情には、謝罪よりも何か、違う感情が含まれていたような気がした。言葉を呑み込んだのか、それとも言葉そのものが見つからなかったのか——どちらかは、彼女自身にもわからなかった。
「十戒〈真実〉のガラン…俺はお前を殺す時をどれほど待ちわびたことか………。かつて千年前に行われた聖戦で、俺たち女神族は実質的な敗北を喫した。……「常闇の棺」によって魔人族を十戒もろとも封印し、女神族の精鋭どもはその「身体」から命を落とした。……新たなる依り代を見つけるまでは。」
「不思議か?その十戒である儂が生き残っておるのは……。」
「当たり前だ!俺ら高貴なる女神族がたった一人の魔人を逃した。……最高神様はお怒りだ。一刻も早くお前のような穢れたものは消さなければならねぇんだよ!」
「………穢れた、か。」
ガランの眼が細められた。それと同時に、空気の密度が変わる。塵や砂が、まるで重力を失ったかのように宙に舞い始めた。彼の内側で何かが静かに燃え上がっているのを、シエルは肌で感じた。
「果たして、本当に穢れとるのはどっちじゃろうな。」
「あ?」
「穢れとるのはアンタのほうじゃ。ここに来る数日前か。ある街があってな。そこに行ったんじゃ。するとそこは女神族に何もかもを奪われ、搾取されておった。それを、魔人族である儂が救った。………人々みんな、笑顔じゃった。」
(街……。っ!!オロバスのところ!!)
「全くどっちが穢れてるのかわかったもんじゃない。しかし、オロバスという女神族は、まぁ大したもんじゃったが………」
その時だった。
「黙れ。」
大地鳴動。ロームは怒った。その怒気が熱風となって地表を割り、衝撃波が漂う空気を粉砕する。
「お前ごときが女神族を侮辱するな!!人間が搾取されていただと?馬鹿言え、そいつらは俺らの気高き力を知らんのだ。ただの無知な猿どもにすぎん!!!そしてそこで人間が死のうと必要な犠牲だ!!むしろ光栄に思うがいいさ、女神族のほんの少しの援助になれたことを光栄に………」
……一振り。
ガランの双刃槍が閃いた。音を置き去りにして振り下ろされたその一撃が、空間を歪ませるほどの圧を伴ってロームへと迫る。衝撃で砂塵が爆発し、地面がえぐれる。
言葉を遮ったのは、説得でも怒声でもなく、一振りの槍だった。それがガランという男の流儀だった。
「黙るのはそっちじゃろうが。」
土煙の中から、重い声。次の瞬間、眩い光線が閃き、ガランの槍先を弾き飛ばした。ロームの拳が稲妻のように走り、風ごと叩き潰す。
「命を無下にするようなことを次から次へと言いおって。」
ガランは膝を沈め、衝撃を殺しつつ地を蹴る。槍を引き戻し、再び攻撃。ロームの眼前で火花が散り、爆撃が貫く。魔力の波動がぶつかり、大地が悲鳴を上げる。
しかし——
煙が晴れた。その中でロームは微動だにせず立っており、逆にガランの顎を正確に撃ちぬいた。
「!?」
「驚いたか……まぁ無理もねぇ。」
ロームが嗤う。頬を伝う血を拭いもせず、ゆっくりと歩み寄る。その笑みの中に、痛みへの無頓着さがあった。傷を負うことへの恐怖が、根本から欠落しているような笑みだった。
「渾身の一振りで殺したと思ってたやつがかすり傷一つつかずに、生きてんだもんな。フッ、どうだガラン。これがお前と俺の差だ。なんならこのままずっと突っ立ってようか?ん?」
わざとらしい挑発をするローム。それに対しガランは、一拍置いて、にやりと笑った。
「儂の読みは当たったようじゃのぉ………!」
「読み……?何言ってやがるんだお前?俺に勝てる道理でもあるのか?」
「さぁ、どうだかな……しかし、読みは当たった。それは真実。さっきは頭に来とったせいで全く気づけんかった。自分の力が……10分の1程度にまで落ちておることに。そして今も落ち続けておる。こんなもんを儂らの仲間が受けたら、全員ひとたまりもないわい。」
「………仲間ァ……なぁにのんきなこと、言ってんだ……よっ!」
ガランの腹部に蹴り。ガランは吹き飛び、街を囲う石壁へと激突した。空気が破裂し、重い音が腹部を貫く。巨体が宙を舞い、石壁に叩きつけられる。壁が悲鳴を上げ、粉塵が雪のように降り注ぐ。
「ッ………お前さんの魔力………凄まじいもんじゃのう。」
呻きながらも、ガランは瓦礫を押し退けて立ち上がる。鎧は凹み、口元に血が滲む。それでも、その眼光は少しも衰えていなかった。
「立ち上がるかよ……やっぱり、『
「しかし……こちらとて負けるわけにはいかんのじゃ!!」
「馬鹿みたいに突撃かよ。……『聖櫃』のいい的だぜ。」
自身の支配下、縦横半径三十メートル。その領域にいる存在のすべての力という力を下げ続ける魔力。相手がその領域にいればいるほど下がるスピードは上がっていき、最終的に零へと落ちる。零になれば攻撃も防御もままなりはしない。そして聖櫃。それを何もない魔人が喰らえばどうなるか。
答えは簡単だ。
風がやみ、音が死に、すべてが消滅したかのような錯覚。絶対的な静寂が訪れるのだ。世界から切り取られたような、その孤絶した静けさの中に、標的は消える。
そしてその刹那、閃光が——
「『聖櫃』!!!」
聖櫃が展開され、ガランを包む。眩い光の後に残ったのは、紅き鎧の残骸だけ。どこの部位かもわからぬ残骸が転がり、光に溶けるように塵となって消えていく。
「仲間だろうが何だろうが、守れねぇんじゃあ結局無駄だ。」
ロームは吐き捨てるように言った。光の中に映るのは光ではなく、暗い虚無。白に染まった空間の中に、紅鎧の残滓だけが静かに、音もなく消えていく。
「結局、お前は何もできなかったな。じゃあなガラン。地獄で仲間を待ってろよ。」
ハンゾウ 魔力:屍暴動狂
種族:女神
女神族の中でも最高位レベルの存在である〈十六の光〉の一人。自らが鍛えた力もすさまじいものだが、魔力「屍暴動狂」が発動してしまえば、一時的ではあれど〈十六の光〉の中でも最強に近い力を得ることに成功する。また、力は〈十六の光〉の中で最も低い。
闘級 8300
魔力 3000
武力 4280
気力 1020
↓
魔力:屍暴動狂 発動時
魔力 180000(一秒毎に8000ずつ減少する)
武力 0
気力 0