十五分物語(短編集) 作:網浜
地球とか言う辺境の糞田舎惑星の喫茶店でバイトすることになった件。
いやマジで。冗談じゃないんだ。現に今こうして俺はようわからん制服を着させられて地球の土人どもに愛想を振りまいているわけだ。
どうしてこうなったんだ。わからん。迷子になった俺が悪いのか。それともこの土人どもの土着文化が全て悪いのか。
わからん。
わからんままにモーニングセットを運んでいる俺がいる。
この喫茶店、名をオールウェイズという。何がどうオールウェイズなのか。店主の好きな映画の名前からとったのだという。所謂ところの昭和エラの臭い漂う、古くせえ喫茶店である。驚くべきことにインベーダーゲームまでおいてんだ。結構貴重品らしいよ。
地球土人どもの趣味はよくわからんのだが、まあまあ繁盛している店ではあるようだ。今日も今日とて、ぞろぞろと老若男女がご来店である。さっきは白髪の老紳士が気取って当店自慢のコーシーを啜って出ていったし、その前は切羽詰まった様子の大学生たちが小声でなにかを話し合っている様子だった。俺のコズミックな勘が正しければ連中は裏バイトの受け子で何かしくじって命の危険にさらされているのじゃないかなと思う。可哀そうに。でも因果応報だね。俺にできるのは、さして金も落とさず粘り続ける彼らにお冷を運んであげることぐらいだ。この店が最期のサテンかもしれんのだ、いつまでも粘るがいいよ。
店主のジジイは日々そういった十人十色の土人たちに、拘っているのかいないのかよくわからんコーシーやらサンドウィッチを提供し、さして大きくもない利益を得ることで、概ね満足している様子。大きな野望はないのかと問うたこともあったが、返事は要領を得ないのらくらとしたもの。最終結論としては、こうして店をモテているだけで十分じゃよとかそんな感じか。このジジイ、若いころはバリバリ商社勤めだったとかで、過労死するかしないかの境界線でダンスを踊っていたらしいのだが、今となってはその面影はあまりない。俺のような超文明人としては過労死などという概念が存在すること自体にカルチャーショックを覚えずにはいられぬ今日この頃なのだが、それにしたってこのジジイはのほほんとしすぎている。あるいは、若き日の頑張りすぎの反動が今になってやってきて、こうしてぼんやりとした老人を形成してしまったのか。圧縮しすぎた結果穴だらけになってしまったスポンジの如く。
宇宙をまたにかける銀河系知的生命体たるこの俺がこのようなくだらない接客業に時間を費やすのはまさに宇宙規模の損失と言わざるを得ないところだが、こうして土人たちを眺めるのは、正直なところ面倒ではありつつも決して嫌いでもないわけだ。あるいは、我々のニューロンが形成する複雑な自我は、時にこうした無為をこそ愛してしまうものなのかもしれない。複雑さの行き着く先が洗練となるわけもない。知的であればあるほどに、我々は倒錯から逃れえぬのであろう。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
と、今日も俺は訪れた客に愛想を振りまく。
客はそんな俺を見てにっこりと笑い、コーシーやらオムライスやらを注文し、時々ケチャップでなにか絵や文字を書かせ、チェキをとる。
「はい、もえもーえ、きゅん」
などという呪文を唱えることもある。訪れる老紳士も、大学生も、にっこりだ。
「ドュフフ、コスモたんは今日も可愛いでござるなぁ」
チェック柄のシャツ、ペイズリーのハチマキ、黒縁眼鏡、デブ。そんな若人が、己の発する蒸気にて分厚い眼鏡を曇らせながら笑った。俺は「ありがとうございますー」などと適当に返事をして、適当にチェキをとり、適当に送り出す。
まったく土人どもときたら。
俺がいないとなんにもできないんだから。
仕方ないよな。
仕方ない。
不本意ながらも、今日も今日とて喫茶店にてバイトに精を出す俺なのであった。
完
多分終盤書いてるあたりで初めてメイド喫茶ってことにしようと思いついたので、前半と後半で描写の齟齬があるかもしれません。