十五分物語(短編集) 作:網浜
わいは子猫。ただの子猫。名前なんぞないわ。あるわけないやろ。人間とちゃうで。
なんかな、聞いてほしいんやけどな、迷ったわ! 迷子や! 親とはぐれたわ! がはは!
がははとちゃうわ。死んだわこれ。子猫やで。子猫の脆弱さ嘗めたらあかんで。目ぇ放すともう死ぬで。せやからはよ見つけにこんかい親猫ォ!!
とか鳴いとっても意味なかったわ。親はもう頼りにならへん。わいはこれから独りで生きるんや。そうするしかないんや。
そっから大変やったで。あっちこっちうろついてェ。ムカつく先輩猫いてこましたろかおもたらいてこまされて。いやま、二時間ぐらいのもんやけどな。は? 人間の時間理解しとんのかって? 嘗めたらあかんで。そもそも子猫は言葉なんてしゃべらへんやろがい。ファンタジーや! フィクションや! どや、白けたやろ。あんたが白けたようなこと言うからやで。わいは悪くない。悪いのはお前じゃボケ。
ボケはともかく二時間や。二時間ほっつきまわって、ああもう限界やな思たんや。死ぬんやなわいって。
ほんだらな、あったんや。何がって、それを今から話そうとしとんのやろが腰折ってんとちゃうぞばばぁかボケカス長生きせぇよ!
ばばぁはともかく、あったんや。隠れ家や! わいにぴったりの隠れ家があったんや!
そこにはな、無限のご馳走があってん。無限の水が湧いてん。丁度いい身の隠し場所も、うんこしっこにちょーどええ砂場もあってん。最高やろ。ユートピアや。わいだけのユートピア。もうゴールやな。わいはゴール。
ここ以上の場所はない。そんな場所じゃ。
そっからだいぶたったで。また二時間やろって? あほ抜かせ。同じことするかい猫を嘗めたらあかん。
そう、猫や。わいはもう子猫と違う。立派な成猫や!
この不思議な隠れ家にたどり着いて、何年経ったかな。わからん。だいぶたったわ。ここは相変わらずユートピアやで。餌も尽きん。水も尽きん。うんこしっこも、何か知らんがするたびに消えて、新たな気持ちでうんこできる。最高やろ。ゴールや思うたのは正解やった。
ただな、玉に傷なんが、外に出れんことやな。
せやねん。出れへんねん。出たいねん。
いや、出てどうするって言われても、ただ出たいだけやねんけどな。出て、ぶらぶらして、帰ってきたいねん。でもでけへん。
なんで出たいかってそりゃ、そういうもんやろ。おんなじとこにずっとおったら、たまには気分転換も必要やろがい。せやからだせーだせーって頑張り続けるんやけど、今んとこ無理やね。
いやね、まあね、ええんよ。最悪出れんでも。エサは無限やし。草も出てくるし。でもなあ、やっぱなあ。偶にはあのキリキリする外が恋しいって気持ちもわかるやろ。
最近な、後輩ができてん。昔のわいみたいな子猫や。迷い込んできよった。運のええやつやで。
まあ最初はな、なんやねんわいの縄張りやぞとばかりにな、かましたったけども。でもまあ、一発かましたら後はな、可愛い後輩や。
上手くやっとるで。あいつはなんもわかってへんから、いろいろ教えたんねん。わいが教えたらんとな。仕方のない奴や。
相変わらず外には出れんな。まあ、もうええけどな。後輩もおるし、遊びにはことかかんわ。いややっぱでも出たいな。偶にはな。
はぁー、最近なんかもう身体がよう動かんわ。わいは今何歳やねん。十五か、二十か。外ではありえへんレベルのじじいやろな。後輩の子猫もおっさんや。最近はもっと若い後輩もおるわ。
なんかな。もう外もでたないくらいにだるいんやけども。でもまあ、悪くはないわ。餌には困らんしな。
ええ隠れ家や。ほんま、わいのためによう尽くしてくれたわ。恩は何も返せんけどな。猫やからな。がはは。
そんな人間様に都合のいいことも言えるようになったんやで。いや言えへんけどな。猫やから。フィクションやからな。ホンマはなんも考えとらんわ。ホンマやで。気楽なもんや。がはは。はは。
あ、そういや言っとらんやったけど、わい今名前あんねんで。今っていうかこの隠れ家に来てからずっとやけどな。教えんけどな。
まー猫に名前があってどないすんねんって思うけども。あっても困らんといえば困らんな。人間に呼ばれたときになんとなくわかるしな。わかっても無視するけどな。がはは。
はは。はぁ、ねむ。寝るわ。
じゃ、おやすみ。
また明日な。
わいがまだ生きとったらな。
完
似非関西弁で書くとなんか普段より筆が進むような気がします。