十五分物語(短編集)   作:網浜

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イマジナリー(R6.6.30)

 影太に恋人ができた。

 愛だの恋だのそんな軟弱な話題には興味ございませんという態度を貫いてきた、などという事実は一切なく、むしろ幼少の頃より姉の影響で少女漫画を愛読しており(幼いころ事故で大けがを負った折、入院先の病院で読み耽ったものだ)、必然というべきかラブコメにも傾倒にていた彼としては興味深々どころの話ではなかったのだが、とにかく縁がなかった。むしろその手のフィクションに対するあこがれが彼をその手の話題から遠ざけていたのかもしれない。どこか彼とは別の世界の、ファンタジー世界の出来事のように感じていた節はある。

 しかしそれももはや過去の話である。影太に恋人ができた。愛も恋も、もはや手を伸ばすまでもなくそこにあるものとなった。彼は非常に浮かれていた。

 だというのに、周りの反応は極めて冷淡であった。

 浮かれに浮かれた彼はマッハの速度で恋人ができた事実を周囲に言いふらした。両親、姉、親しい友達。話を聞いた彼らは一様に怪訝な表情を浮かべ、首を傾げた。

「影太、それはイマジナリーフレンドといってね」

 姉などは、真面目くさった心配顔でこのようなことを言いだす始末。

「幼いころにのみ存在する架空の存在なの。影太、あんたはもう幼くない。卒業しなさい。現実を受け入れるの」

 極めて心外な反応に当然影太は怒った。しかしその怒りも、いまいち周囲に伝わらない。どうにも彼の周囲の人々は、影太に恋人などできるはずがないと心の底から信じ込んでいるようであった。

 例えば、彼の母はこういった。

「北北西に紫色の絵画を飾りなさい。悪い気が浄化されて、変な妄想もたちどころに消えていくはず」

 スピリチュアルに傾倒する母に悪気はないのだろう。影太は頬を引きつらせつつも受け流した。

 彼の父はこういった。

「オナニーをしろ。すっきりするから」

 昭和の時代を生きた父にセクシュアルハラスメントの概念は少し難しかろう。影太は額に青筋を浮かべつつも聞き流した。

 彼の友はこういった。

「ときメモやろうぜ」

 ときめきメモリアルなどとうの昔に極めているためいまさら再履修は必要ない。

 三者三様、されどまるで信じようとしないという部分が統一されたこの反応。極めて遺憾であった。

 遺憾でありつつも、しかし疑問もまた抱く。どうしてここまで信用されないのか。

 日ごろの行いであろうか? しかしそうだとしても、多少は話を聞いてくれそうなものではないか。そろいもそろって可哀そうな人を見るような目を向けるなど、あり得ぬことではないか。

 

 しかしいずれにしても、解消はたやすいように思われた。

 簡単なことである。実際にできた恋人を、彼らに紹介すればよいのだ。実物を目の当たりにすれば、彼らとて受け入れざるを得ないだろう。

 思いついたら即行動、それが影太の良いところである。彼はさっそく恋人を連れ、彼らに紹介した。

 姉、母、父、友。相対する形で影太と恋人。

 影太は皆に恋人を紹介して、言った。

「どうだいみんな。本当に恋人ができたんだよ。かわいいだろう」

 そんな彼と、そして恋人をみて、彼らはどこか呆けたような顔をしていた。影太はその様子に眉を顰める。まさかこの期に及んで認めないなどといわないだろうな――。

 影太がそんなことを思っていると、隣に座っていた恋人が、合わせていた手を放し目を開けて、彼に顔を向けた。

「影太くんはお線香、あげないの?」

 影太は口を噤んだ。姉と母と父と友が不思議そうに彼らを見て、首をかしげている。

 姉が言った。

「影太。それはイマジナリーフレンドだよ」

 恋人が言う。

「お線香あげないのなら、もう行こうよ」

 影太は黙して、その視線をうろうろとさまよわせる。姉、父、母、友。恋人。

 みなが影太を見ている。

 影太だけを。

 そこには皆がいて、皆が影太と二人きりであった。

 




なんかそれっぽく終わらせてるけどつまりどういうことなのか覚えていません。
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