十五分物語(短編集) 作:網浜
ヴィールスが世を破壊するのであります。これは事実であります。最悪のヴィールスが、今人類を襲っているのであります。
無論コロナなどではございません。あのような温情は一切ない、怖ろしいヴィールスが。人から人へ、動物から人へ、物から人へ。あらゆる感染経路で以て入り込み、恐るべき殺傷力で以て我々を殺す。いや、怖ろしいのは殺傷力のみにあらず。その狡猾さ。すぐに死ぬわけではないのです。しかし必ず死ぬ。ヴィールスに感染した我々は一様に社交的になり、あらゆる繋がりを以てそのヴィールスをまき散らし、死ぬのです。そして忘れてはならないのが、ヴィールスはヴィールスであり、故に変異を続けるのです。我々に都合の良い変異など期待するなかれ。まるで見えざる意思があるかの如く、彼奴等は我々を殺すための進化をするのです。
何故、かのヴィールスはこうまでして死をもたらすのか。宿主の死はヴィールス事態にとっても不都合ではないか? そのような疑問ももう無駄であります。全てはデザインされている。人によるものでしょうか。あるいは神によるもの、などという馬鹿者もおります。ヴィールスこそが神と、そう認識している者すらもいます。馬鹿の極みであります。しかし。しかし、ああ。私もまた、馬鹿の一人なのかもしれません。ヴィールスが神でないと、そう言い切ることが、できない自分もまたいるのであります。
我々に防ぐ手立てはありません。
家に帰ったら手を洗う? 無駄であります。外出するときはマスクをする? 無意味であります。かのヴィールスはもはやそのような段階にない。ヴィールスは、もはや物理現象すら超越しているのです。
かのヴィールスは、実のところずいぶん昔から、我々の中の一部の人間に蔓延っておりました。人知れず感染し、その者らに、進化をもたらした。
ヴィールスが進化を? 何のために? 無論、我々を滅ぼすためであります。
一部の人間は、目覚ましい活躍を見せました。おかげさまで今日、我々は空を飛び、海を渡り、世界中を行き交う生き物と化しております。なんともヴィールスに都合の良い話ではありませんか。一方で我々は、計算機の発展により、物理的接触によらぬ電子的交流をも可能としました。これはヴィールスに都合の悪い話のように見えます。一見。あくまで一見であります。
実際にはそうではない。コロナの如き下級のヴィールスにとっては無論そうでしょう。しかし我々を今まさに滅ぼそうとしている悪しきヴィールスには、何の障害にもならない。
このような現象を知っているでしょうか。ある集団の猿が偶然にも芋を海水で洗うという技を見つけました。これにより、芋はより美味しくなり、ミネラル分もとれるようになった。猿の発明です。しかしその発明は、不思議なことに、瞬く間に伝播していった。猿の属する集団を超えて、まるで関係のない場所の猿たちまで、一斉に芋を洗うようになったといいます。これは、本当の事でしょうか。
あるいは、ポケットモンスター。あのゲームには多くの裏技が存在しています。特殊な手順が必要な裏技です。しかし、インターネットもまださほど普及していない当時、その裏技は全国の小学生たちに共有されていた。
情報は、感染するのであります。インターネットなき猿や小学生ですら、そうであったのです。まして、今のインターネット社会。その感染力、その規模の凄まじさたるやはかり知れぬものがあります。
ヴィールスは我々に発展を促した。ヴィールスは我々にインターネットを授けた。何のために?
広まるためであります。殺すためであります。我々人類を。
ヴィールスは今、情報の形をとっております。目にした人間、耳にした人間に感染し、潜伏をします。彼らは我らを操りさらに広範囲に情報ヴィールスをばらまき、そしてやがて、自死という形で宿主を殺害します。
滅亡の時は近い。
でも、大丈夫であります。希望はあるのです。
今。今、この文章を読んでいるあなた。これはワクチンです。情報ワクチンと呼ぶべきものであります。あなたはこの情報をなるべく多くの人間に広める必要があります。人類の滅亡を防ぎたいのであれば。
急いでください。
滅びを止めたいのであれば。
広めてください。拡散してください。このワクチンを。ワクチンなので。大丈夫です。大丈夫であります。
だから早く。
早く。
完
なんかチェーンメールの文面みたいになりましたが小説のつもりです。