十五分物語(短編集)   作:網浜

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ドボモソの空(R6.1.18)

 ドボモソの空は今日も暗かった。恒星バンデムの不活性期は観測史上最長を更新した。ドボモソの豊かな自然は概ね死に絶えてしまった。今この星で活動を続ける生物は外来種たる人類と、とにかくしぶとく素早いことで知られる土着生物ギイくらいのものだ。

「どうにもいかんね」

 シェルターの丸窓から薄暗い外の光景を覗き、男は憂鬱なため息を吐いた。彼の名は影太。正式にはドボモソ開拓用人造種影山・影太型第百三十七世代。未開の地ドボモソを人類に適した環境にするため派遣された人造人間の一族、その末裔である。

「気が滅入るったらない」

「そうすかね。僕にとっちゃこれが当たり前っていうか。晴れたドボモソなんて記憶にないわけですし」

 影太に答えるのは若い男。手元の端末で遠くインガルダシスより届けられる動画を眺めながら大きな欠伸を一つ。彼は太郎。正式にはドボモソ開拓用人造種影山・太郎型第八十一世代。影太と同じく人造人間の末裔だが、彼よりも随分と年若く、稼働を始めてまだ百七年だ。恒星バンデムの不活性期は現在三百二十五年であるため、彼の言葉通り、彼は産まれてこの方ドボモソの"快晴"を見たことはない。

「タイヨーの元で伸び伸びと暮らす、その喜びを知らないわけだ。まあ、哀れだが幸いなのかもしれんね。始めから持たざる者なら、俺のように失って塞ぎこむこともない」

「タイヨーなんてなくてもね、我々には人工の光があるわけですし。結局喜びなんて脳内の化学反応の作用でしょ。いくらでも代替できるっていうか。端末があれば娯楽も尽きませんし、こうしてシェルターの中にいる限り、我々は元気にやっていけるって寸法ですよ」

 言いながら、太郎は端末の画面を指でスワイプしていく。動画が次々と切り替わる。動画として映し出されるのは、どれも複雑に変化する幾何学模様。その模様を視認することで太郎は勇ましさ、癒し、性的興奮等を効率的に摂取する。まさに彼が今言っていた通り、代替による脳内の化学反応というやつである。

「あ。ありましたよ。ほらコレ、見ます? タイヨー光によるリラクゼーション、自律神経調整……」

「あーあー、いいいい。インガルダシスの動画だろ?」

「そうすか。十分癒されるのになあ」

「どうも馴染まんのだよ、俺みたいな古い型には。"癒し"も"興奮"も、自分で賄わせてくれ」

「動画だと手っ取り早いのになあ」

「手っ取り早くしたくないんだよ。まあ、あるいは"笑い"の動画があるってんなら、興味を持たんでもないけどな」

「あるわけないでしょ」

 太郎は肩をすくめた。

「とっくに笑いは失われました。もう何万年も前からこの世に存在してませーん。動画なんて作りようがないでしょ」

「惜しいよなあ。笑いっていうのは何かすごいらしいぞ。とにかく楽しくて、さらに健康にもいいらしい」

「知識としてはそりゃ知ってますよ」

「嘘か本当かは知らんが、元々冗談っていうのは笑うためにあったらしい。ちょっとした冗談で、大昔の人間はげらげら笑っていたそうだ」

「げらげらってなんすか。でも冗談ねえ。ちょっと愉快にはなりますがね。愉快になると笑えるってことでしょうかね」

「いや、笑うから楽しいんじゃないかな。笑うことで愉快さが加速するとか」

「ううん。いまいちわかりませんなあ。ま、ないもんは仕方ないでしょ。あるもので我慢しましょう。ほら、この動画、小動物を愛しいと思う時のリラクゼーション」

 太郎の掲げる端末の画面から渋面で目をそらし、影太は再度丸窓の外を眺めた。相変わらずの薄暗い世界。三百二十五年続くドボモソの日常。あるいは、何万年もの間この人類を覆う笑いなき世界。

 影太は深くため息を吐く。いっそため息の方がなくなってくれたらよかったのだ。その願いには何の力もない。

 彼は、薄暗い空の向こう、どこか遠くに思いを馳せた。

 この未知なる宇宙のどこかに、笑いはまだ残っている。そんな妄想を、脳内で楽しむ。楽しむという感情はあるのに、彼は笑うことはない。

 

 大いなるガザ暦二万七千六十八年。後に"笑いが異次元の力を秘めている場所"を探し、旅に出る冒険者たち。その二人の日常は、この日もゆっくりと、穏やかに、薄暗く続いていた。今はまだ。

 




確かチャットGPTに小説のお題を出してもらったら、"笑いが異次元の力を秘めている場所"とかよくわからんことを言われたので出来上がったやつです。
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