十五分物語(短編集) 作:網浜
おーほっほっほ。悪役令嬢に転生しましたのよ。なのでおほほ笑いの一つや二つ、造作のないことですわ。
あてくし、その御名を慶華院晶といいますの。悪役令嬢ですので自らをあてくしと呼びますし、名前のことを御名とかもいいますし、苗字には院がつきますのよ。あてくし、お嬢様でございますからね。おほほのほ。
悪役令嬢でありますので、あてくし、幼き日よりたいそう甘やかされて大事に大事に育てられてきましたの。よく下々民は「蝶よ花よ」などと言いますけれども、そんな程度の低い扱いではございませんのよ。さながら原子力発電所で排出された核廃棄物の如く、それはもう繊細な扱いを受けておりましたの。皆さま、それはもう、触れると死ぬくらいの勢いでしたわね。実際、何人か死んでたようなので笑い話ではございませんわね。
そんなわけなので、あてくし、そりゃあもう我が儘に育ちましたの。だって悪役で令嬢なのですもの。我が儘にならない要素がございますか? ございません。令嬢は総じてインテリゲンチャなのであなた方低能にはちょっと難しい話法、反語も駆使しますわ。
あてくしの我が儘さったら、そりゃあもう筆舌に尽くしがたいものがありましたの。あてくし、実はおゲームが大好きでして、ですので任天堂に言いつけてちょっと「オープンワールドなゼルダがやりたいワ」なんて言ったりして。彼らは大慌てで作ってくださいましたわ。その結果、まあまあ面白いおゲームができたので、ほめてあげました。なんでもあてくしのおさがりで一般向けに発売されたそのタイトルが、ゲームオブザイヤー? よくわかりませんが下々の賞をとったりしたそうですね。まあ興味もございませんが。
世の中って終始こんな感じですの。あてくしの言いなりにならない者はいない。何を言ってもやっても笑って許してもらえる。この世こそ天国に違いないと信じて生きている。そんなあてくしでしたの。
でも、もちろん存じておりますわ。あてくし、最初にも申し上げた通り、転生しましたので。
前世は四十半ばで過労死した糞零細の中間管理職。マジ糞な人生だった。思い出したくねえ。ほんと糞。そびえたつ糞。
お糞でしたの。そんなわけですので、存じていますのよ。あてくしが悪役令嬢である以上、いつか没落が待っているのだと。この世界の真の主人公様によって、男も財産も何もかも取り上げられて落ちていく運命なのだと。そういう御本を、それなりに読んでおりましたので。本当に冴えない前世ですこと。おほほ。
それなら他の転生悪役令嬢みたいに善行を積んだりして破滅ルートを回避すべき、という下々の声が聞こえますわ。ほんと下々って発想が貧困。あてくしも前世の"俺"だったらそう考えたのかもしれませんわね。でも今のあてくしは、生まれてこの方悪役令嬢ですの。そんな屈辱的な生き方をしてまで破滅を回避したいなどと思いません事よ。
つまりはこういうことです。いずれ破滅するのなら、その日までこの令嬢生活を楽しみ尽くすべし。そうでしょう?
なのであてくしは自重しませんでしたのよ。限界まで我が儘に、限界までお嬢様してやりましたとも。相当な無茶もしました。なんなら借金もしました。一見華やかな慶華院家も、その内幕はもうすでにズタボロですのよ。主にあてくしのせいで。
ですので、なんならもうそろそろ、主人公様にでてきていただかなければ困るんですの。
主人公に引導を渡されてこその悪役令嬢でしょう?
そんな、主人公とは無縁のところでわけのわからない借金を作って自滅、みたいなの、このあてくしに相応しい末路ではありません。断じて違う。
なので、早く主人公現れないかしら。
じゃないと、関係ないところであてくし破滅してしまいますわよ。
それでいいんですの? いやよくない。反語ですわ。
だからはよ。
はよ来てくれ。
お願いだから。
頼むから。
なあ。
完