十五分物語(短編集)   作:網浜

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コンビニV.S.宇宙人(R6.3.2~3)

 コンビニなるものに挑戦する時が来た。

 先輩であるムホホブルササン345がいうに、コンビニとは正式にはコンビニエンスストア。利便性に特化したマーケットであり、日本国に於いては概ね二十四時間営業(現地では「時間(hour)」という単位が一般的であり、二十四時間で母星が一回自転をする。この特定第七惑星の生命においては恒星からの光や熱線の照射が非常に重要な要素であるため、筆頭知的生命体たる人間(human)はこの二十四時間を生活する上での基準単位:「日/day」と定義している。つまり、二十四時間とは一日と同義であり、二十四時間営業とは基本的に休業することなく営業し続けているという意味を持つ)を続けているという、俄には信じがたい営業形態の商店であるらしい。便利ってレベルじゃねえぞ。

 私は論理ポケットに忍ばせた物理トークン、「円」を握りしめ、唾液を飲み込む。この唾液というのはこの特定第七惑星筆頭知的生命体人間型インタフェースが人間を模して口腔という部位に分泌する液体である。有機生命体が構成要素を体内に取り入れる際に使用する消化酵素を含み、また「緊張」や「抑鬱」といった未成熟な神経系に由来する機能不全を緩和する効果もある。ほぼ完璧に人間を模した機能を持つインタフェースと同期している私もまた、その緊張や抑鬱といった状態に陥っているというわけだ。

 

――ヘイヘイ、ミスタ・ポポノタンボステン4445! 思考の最適化が中途半端で見苦しいですわよ。

 

 先輩であるムホホブルササン345より入念あり。私の思考の最適化に対する忠告。

 確かに、その通りである。私は現在人間を模したインタフェースと同期しているが故、その思考プロセスは自然、人間と同等のものとなっているはずだ。例えば使用言語、概念等。しかしながら、人間と我々の思考形態は明らかに別系統であるため、そのままでは齟齬が生じるのは避けえない。そこで重要となるのが思考の最適化だ。ここが上手くいかないと、例えば我々解いては一般的な概念である*********について思考した時、脳と呼ばれる部位に過負荷が発生し、神経が崩れ、インタフェースが破損してしまう。そうならぬよう、我々はこのインタフェースと同期するときに己が思考プロセスを一部ロックし、論理を組み替え、インタフェースが耐えうるレベルに調整せねばならない。

 そこが、いまいち上手くいっていないようなのだ。

 ロックは上手くいっている(先ほど*********についての思考ロックが作動していることを確認した通り)が、使用概念の調節が不十分である。十分に調節できていたのならば、「時間」「日」「緊張」と言った単語に補足的説明を入れる必要はない。逆に補足を入れる方向に舵をとるにしても全ての概念(一般的我々にとって補足が必要と思われる概念)に逐一補足を入れているわけではない。今しがた出た「舵をとる」、冒頭から使用している「先輩」など、例を挙げればきりがない。

 

――そういう、堅苦しい割に何も意味のないことグルグル考えちゃうとこが特に見苦しいって言ってるわけ。

 

 然り。

 私は今一度己がインタフェースと向き合い、再度調整を行う。

 人間の思考回路は独特だ。我々の方が優れていて人間が劣っている、という単純なはなしではない。人間が駆使し、我々に理解不可能な概念もあり、逆も然り。ただそれだけのことだ。

 インタフェースの目を瞑らせ、深呼吸を行う。目、呼吸。単語に逐次解説をしそうになるが、こらえる。

 私の思考を、インタフェースに馴染ませる。心を。

 心。

 我々には理解が難しい概念。しかし、このインタフェースと同期した今の私であればわかる。わかっている気がする、という精神状態になれる。

 

 再同期完了。

 

 私は、目を開いた。

 

「では、コンビニに向かいます」

 

――じゃ、頑張ってねえ。

 

 先輩より下された指令、コンビニにておでんを購入する。

 そのミッションをこなすために。

 

 

 

 やべえよ。やべえ。マジやべえ。

 いや、もう同期云々はいいんだよ。わかんだろ、俺はもうなんていうか完璧に人間だ。「私は――」とか気取ってた時とはダンチだ。

 だから、わかんだ。やべえんだ。

 

 俺に課されたミッションは、コンビニでおでんを買うこと。先輩が大根くいたいんだと。宇宙人モードの「私」としては何の疑問も抱かんかったが、今の人間モードの俺としてはなんなんマジムカつく自分で行けやってなもんだが、問題はそこではない。

 いや、普通に考えれば楽勝なんだよ。今の俺ならな。

 だが、状況は普通じゃなかった。つまり、コンビニ側がな。

 第一に、店員が外人だ。見たところ、インド人だ。

 一方の俺は、日本人だ。正確には日本人型のインタフェースだ。与えられた脳みそは一般的日本人のもの、知識も一般的日本人のもの。つまりは、外国語はまったく話せねえ。英語すら無理だ。

 クソが日本人どもめ、もっとしっかり英語教育ぐらいしろと言いたい。このままでは俺はインドからの留学生相手におでんの大根をとってもらわねばならぬのだ。何しろコロナ禍を経たこの地球、セルフでおでんをとれるサービスは死滅している。

 だが、それだけならまだよかった。インド人留学生は別に日本語がまったく喋れない訳じゃない。ただ、まあ、なかなか難しい場合もままありはするというだけだ。最悪ボディーランゲージ、指さし確認でなんとかなるだろう。

 では何をこうも焦っているのか。

 第二の問題だ。レジにできた列、俺の前にいた者――おばさんだ。おばさんが、レジのインド人と喧嘩を始めやがった。

 おばさんはタバコとカウンター横で温めてる唐揚げとおでんを買おうとしていた。それだけでややめんどくせえ客だ。時間がかかる。そして店員はインドからの留学生であった。タバコの何番と謂れて三度聞き返し、唐揚げの商品名を三度聞き返して一度間違えてやり直して、そして必要なおでんの具をおばさんに捲し立てられ(大根1、たまご1、はんぺん1、こんにゃく1,かまぼこ2、牛スジ3)、しばし悩んだのちにこんにゃくを5本、カップに突っ込んだ時おばさんがキレた。

 思うに、コンビ二の外国人店員には寛大な心を持つべきと思う。慣れない地で頑張っているのだ。逆の立場だったらできるだろうか? 俺はできるし実際こうして慣れなすぎる異星にまでやってきているわけだが、おばさん、お前だ。

 ぎゃあぎゃあびゃあびゃあ茶色い声で捲し立て、最初は謝っていたインド人も我慢の限界となりキレ返し、店内はカオスと化した。

 おばさんの主張としてはろくに日本語もできないくせにバイトなんて百年早いとかなんとか、対するインド人は早口だし発音が汚くて何言ってるかわかんねえよとかなんとか。

 勘弁してくれ。喧嘩は後でやってくれ。他の客が待ってるのがわからんのか。

 と思って後ろを振り返ると、俺以外に客はいなかった。正確にはいたが、このケオスから早々に退散したらしい。店の売り上げにもろに影響している二人。止めれるものは他にはいない。

 俺がやるしかないのか?

 俺はたまらず、先輩にSOSを発した。

 

――先輩! この星は駄目です! 滅ぼすしかありません。

 

 間髪入れず、先輩より返事の入念。

 

――小腹がすいてきたので、牛スジも追加で。

 

 ガッデム。

 地球より先に滅ぼさねばならぬ相手を見つけてしまった。

 これが人間にしか理解できぬ概念――怒りか。

 

 

 




二日分なのでやや長め。
宇宙人ネタが割と多い気がする。
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