十五分物語(短編集)   作:網浜

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君のこと(R6.5.22)

 君、君、君、君のことを語らせていただくよ。君のことが大好きだからね。

 ありとあらゆる君が好きなんだ。立派な君も、きれいな君も。

 

 あの日のことを話そうか。あの日、僕たちの出会いの日。あれはすごく晴れた日だったね。嘘だね。あんまり天気は良くなかったよね。でも、天気の表現はすなわち登場人物の心情を表現しがちだと国語の授業でもたっぷり習った。なのでやっぱり、あの日は晴れだったんだなあ。そういうことにしましたよ。

 あの日、君は相変わらず元気で朗らかで、相も変わらず人間味がなかったね。教科書通りの完璧人間で、そりゃあ魅力的であることは否定できなかったけれども、ある意味の人を引き付けるための疵のようなものはまだ備えてなかったんだね。ある種完璧で、ある種未熟な君だったのだなあ。今となってはいい思い出だね。

 そんな君が、そんな日にだ。何をしたのか、語るべきかな。語る必要はないのか? 結局、君がどういう人間なのかを、エピソードを通して活写するわけだから、それってつまり君の魅力冴え十全に伝えることができるのならば、エピソードそのものは添え物のくだらない寸劇に過ぎないというわけだよね。そう考えると人生とはつまり無駄の連続であって、そもそも生きることそのものに確たる意義が生じないのであれば……ああ、いや、やめましょうね。ひとり寝る前にそんなことやあんなことを考え込んで寝れなくなって徹夜したりすること、それ自体は素晴らしい、全若者が経験すべき青き成長痛であると思うのだけれども、敢えて今そのくだらない堂々巡りを今ここで活字にすることには大した意味はないでしょうからね。詮無いことです。

 そうであれば、意味のあることをなしましょう。それはつまり、君の具体的行動と、それにまつわる社会への良い影響だ。

 あの日。よく晴れていたような気がするあのよき日。僕と君は出合って、共に手を取り合って、世界の平和を守ったのだね。世界のね。そう。世界なんだね。

 世界ってなんだよなんて、そんな意地の悪いことをいう人はいるまいね。それは世界です。あえて、あえてね。世界をセカイなど表現して、なんだろうな、我々若輩の未熟な精神を表現する舞台としてのセカイをね、揶揄するような人々は、一定数いるでしょう。彼らは己が未熟であった頃のことをすっかり忘れているのか、あるいはそういった俗世の出来事を己と無関係と信じているのか、とにかく、さも我こそは選ばれし特別高貴な精神性を持つ傑物でございとばかりに、我々を小ばかにしては恥をかいている。いや、本当に恥をさらしているんですよ彼らは。自覚はないでしょうけども。自覚なき以上、彼らは無敵ともいえるやもしれぬね。まったく憎らしい。

 まあいい。まあいいんだよ。なんの話をしていましたか? 君の話をしていたんだよ。君だよ。

 君が僕に、どれほど優しく、ありがたい存在であったのかという話だね。君は僕にとって神様のような存在で、とても賢く、常に何かすばらかしいものを提示してくれて、導いてくれていたね。

 あの日もね。

 この日もだ。

 いつもいつも、そうでしたね。

 いつだって君は立派で、たいそうなことを言って、そして、この僕の上を行く、完璧な存在として、光り輝いていましたね。

 素晴らしい。大好きです。

 完璧な、君が好き。

 完璧な君は完璧な存在として僕に完璧な言葉を投げかけてくれたね。完璧なエピソードトークも。ほんとうにためになる。深い。いい話だなあ。そう思っていましたよ。

 そしてまあ、これはご勘弁いただきたいことではあるのだけれど、そういう人に向かって人とは! 人一般とは! 悪意を向けちゃう愚かな存在なのだなあ。

 わかるよね。疎ましく思ったわけです。いい子ちゃんぶりやがって。暑苦しい。押しつけがましい。抑圧的で、理想主義で、排他的で、差別主義の、最低の弾圧者。うんこ食って死ね。そう思いましたね。思わなかった人いる? いないよね。いないってさ。かわいそ。

 

 それをさ、伝えてあげたわけ。正直に。あるべき意見をあるべき姿で君に。君はうろたえていたね。かわいそうだなあ。本当に。そう思ったんだよ。馬鹿だなあ。馬鹿はかわいそう。君も、僕も、みんなも。

 ああ、でも、でもね。大丈夫。大丈夫なことが一つあるよね。君は馬鹿。馬鹿でもいいさ。だってほら、僕は大好きなんだよね。だから大丈夫。顔をあげて、元気に生きよう。

 馬鹿な君も大好きだよ。

 

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