十五分物語(短編集)   作:網浜

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渇望(R5.12.6)

 十五分。とにかく十五分話続ければよいんじゃろう。よかろう話させてもらおう。十五分な。

 ワシは産まれてこのかた里から出たことはない。爺になるこの年まで一度もじゃ。すごいじゃろう。そういう里なのじゃ。

 よってワシはおよそ世の出来事に対して童貞といえる。おなごに対しては童貞ではないがな。里の風習じゃ。女は与えられる。つまり妻がおる。それがワシにとって良かったのかどうか。その判断は、ワシには下せん。相手にとってどうだったのか。それこそがワシにとっては全てで、それがわからん以上はどうにもならん。ただ、ワシはワシなりにあやつを想ってはおったのじゃ。まあどうでもよいことかの。

 狭い世界で生まれ、狭い世界で死ぬワシらじゃ。

 とにかく狭さに欠けては一家言ある。これは何も悪いことばかりではないぞ。狭く、故に深くじゃ。おぬしらのぼんやりとした人生と比べ、なんと色濃き生活だったことか。これも無論、良し悪しじゃながな。

 言いなりに生きる。それは楽に生きると同義ではない。同義と思う向きもあろう。おぬしらのようなぬるま湯育ちにとっては特にの。

 ただまあ、想像くらいはできるじゃろ。誰の言いなりになるのかじゃ。全てを与える親ばかの言いなりになる。全てを奪う毒親の言いなりになる。なにもかもが違うな。その極端な二択。ワシはどちらかといえば後者であったな。奪われて、奪われての人生じゃ。

 じゃが恨んではおらんな。奪うには奪う理由があった。最終的に与えるために奪った。そういうことなのじゃろう。納得せん者もおるよ。たくさんおった。みんな死んだ。日和見主義のワシだけが生きておる。よいことかな? そうでもないかな? そこに良し悪しは関係ないのかな? なんでもええな。ワシは生きておる。それだけじゃ。

 大人が子供から何かを奪うとき、大人の心にはどの様な反応が起きておるんじゃろうか。事の善悪について結論を出すつもりはない。ただ、歪であることは確かじゃろうな。歪で、醜い。醜さが、魅力じゃ。そういう世界じゃ。鉄を鍛えるとき、人は鉄を叩くな。そして美しい刀身が生まれる。ワシも、随分と叩かれた。そしてぎらぎらと鈍く輝く抜き身の刀となった。ははは。随分血も吸った。比喩じゃよ。じゃが、まあ、実際問題、血を啜る機会はあったな。二度と御免じゃ。

 連中に叩きこまれた得体の知れぬ殺人技術のおかげでワシはこの年まで生きてこれたわけじゃ。感謝しとるよ。連中には。全員死んだが、死人に感謝するのは特段おかしなことでもあるまい。殺した相手への感謝となるとやや倒錯があるやもしれんがね。へへ。じゃが連中も満足じゃろ。最高傑作とか言うとった。最高傑作の最高の技術で最高の死に方をしたわけじゃ。笑えるな。今でもたまに見返すわ。撮影してやったからな。笑えるわ。勃起する。これをみながら、よく妻と致したものじゃ。わはは。下ネタじゃ。わは。

 糞をゴミ箱に突っ込んで、そしてそれからどうしたのか。そこにはワシと、ワシの妻と、あとはまあ同僚というべきか、ワシと同じ境遇の哀れな連中が残された。哀れじゃなあ。血の中で育ったけだものは血の中でしか生きられないのではないか。そう思い込んだ連中は大いに錯乱しておった。最終的にはワシが楽にしてやった。これはワシが為した数少ない善行かもしれんね。いいことをしたわ。

 で、里に残されたのはワシと妻というわけじゃ。妻はワシがおったから他の連中程錯乱はしとらんかった。不幸中の幸いじゃ。わしとて妻をこの手にかけたくはないわけじゃ。

 それから、妻が亡くなるまでの生活は楽しかった。今は楽しくないな。一人じゃからな。

 もう十五分経ったじゃろうか。語りながらもつまらん人生じゃったと思うばかりじゃ。つまらんな。どうしようもない。

 しかしそれももう終わりじゃ。

 十五分。

 十五分で終わるんじゃな。なにもかも。良きも悪きも。わはは。

 ワシは死ぬ。おぬしに殺される。そういうことじゃろう。辛いな。楽しみでもある。怖ろしい。興味深い。虚しくて興奮してしまうな。

 わはは。しかしなによりも、やっぱり、辛さがあるかもしれんな。なにもかも、嘘じゃからな。楽しみも、辛さも。虚しささえも。嘘じゃ。なにも無い。涙は出ない。妻を想うこの時でさえ。

 わはは。わははははは。わはは、と言っておる。笑ってはいないんじゃよ。わかるな。辛い。虚しい。辛くも虚しくもないことが。あー。あーあー。死にたくなければ、よかったのに。

 そう望んでおる。嘘じゃ。望んでおらん。それが嫌だ。嘘じゃ。嫌じゃない。わはは。無だ。無ではないのに。わはは。笑える。笑えぬ。

 この渇望が、本当であったのならば。

 おぬしもきっと、そうなんじゃろう?

 




最初に投稿したのと同じ十五分ネタ。
引き出しが少ないため、毎日無理やり書いていると必然的に似たような話が多くなります。
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