十五分物語(短編集)   作:網浜

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オタク君(R6.4.8)

 影山影太はチェックの服を着ていてとにかく元気。黒縁眼鏡がトレードマーク。分厚いレンズは瓶底に似ている。髪型に拘りはない。

 そういう男が影山影太。アニメとフィギュアと声優が大好き。それが影山影太。彼は誇りをもって今日の日本を生きている。

 

 生きているので、買い物とかにも出かけたりもする。今日は今週の食材の買い出しだ。充実したオタクライフには充実した栄養価とバランスが重要。テレビゲームにおいても、スキルの振り方に細心の注意を払いがちな影太であるので、そこのあたりを十分にわきまえている。赤いごはんに黄色いごはんに緑のごはん、基礎は完璧だ。

 そんなこんなでここはダイエー。古のスーパーマーケットだ。

「デュフフ最高の買い物をしてやるでござるよ、フォカヌポゥ」

 影太はサービス精神旺盛な男であるが故、ティピカルオタク仕草に余念がない。すれ違うイケてそうな大学生たちがこそこそと悪口を言っているのを横目に、満足げに鼻息を漏らす影太。彼はいわば、社会に求められし社会の敵。彼という蔑むべき存在がいることで、浅ましき人間はやっと一致団結できるのだ。そのためなら他者から何を言われようとも苦とも思わぬ彼の聖人性をみよ。男たればかくあるべし。チェックシャツをズボンにインし、ズボンはへその上まで吊り上げるべし。それを恥ずかしいと決めつける価値観そのものの恥ずかしさはひとまずわきに置き、そういう人間を攻撃しがちな可哀そうな者どもの的となり、以て傷つけることでしか優越感すら得られぬ彼らの、ささやかなる幸福感の糧となるべし。仕方がないのだ。彼はそういった人々の愚かさすらも愛しているのだ。

 影太はデュフフと笑いながら、諸々の食材を買いあさった。食材と贖罪。にんじんは、大根は、しめじは、一体如何なる罪の果てにこのようにスーパーに並べられるという憂き目に遭うこととなったのか。そこに至るカルマがあるのだろうか。たいした宗教観を持たぬ影太には想像も及ばぬ。一端の宗教観をお持ちの方々にはなんかいろいろ及ぶのかもしれぬが、正直なところ興味を持てないというか、むしろ積極的にかかわりたくはないなと思う影太もいる。だが、そういう人らを十把一絡げにカルト扱いして迫害する人間にもなりたくない影太もいる。要するに、どっちつかずの中途半端人間、それもまた影山影太と言えるのかもしれない。聖人の如き精神性の影太。俗物の極みたる影太。どちらも同一人物であり、矛盾はない。そこに人間の面白さがあるのだなあ、と影太は勝手に決めつけている。大した根拠はない。

 さておき、影太の買い物である。

 概ね食材は買い込んだ。これで影太は今後の一週間を飢えることなく過ごしていける。やったねグッって感じだね。

 だがその時、思わぬ存在が彼の目の前に立ちはだかった。

「影太くんー、キミ影太くんだよねえー」

 にやにやと気持ちの悪い笑みを顔面に貼りつかせて、スーパー帰りの影太の前に突如立ちはだかった男。その名は太郎。彼は身長189センチ、スポーツ万能、頭脳明晰、性格うんこのまさにスクールカースト最上位の大天才であった。

「ナニぶら下げてんのー? え、それなに~?」

 へらへらと笑う太郎が大層気持ちが悪い。ぷんと、影太の鼻に何か変な刺激臭が突き刺さる。ははあん、と彼は思った。これはあれだなあ。お薬だなあ。

 太郎は何しろ先述の通りのカースト上位勢だが、如何せん性格に難があり、さらにおかれた環境も良いとは言えない。彼の周りには常に金銭が溢れていて、必然的に悪い大人がそこに群がっていた。それは仕方のないことであろう。カブトムシが樹液に群がるのを責めることができようか。世の中はそういう風にできている。

 そんなこんながあれこれして、よくありがちな物語が完成したわけだ。即ち、シャブ漬け才媛太郎である。世の大半の人間はざまあみさらせボンボンが転がり落ちる様は見てて気持ちがいいなぁーすっきりしたはよ死ね、と思ったであろう。だが影太は違う。彼をアルファベット表すならば、YそしてH、やがてV、最後にH。即ち、彼はそういう存在であり、慈悲の塊なのである。

 故に、彼は太郎を救いたいと思った。シャブ漬け状態から一般社会への回帰は生半可な気持ちでは達成不可能であることはよく知っていた。えぬえいちけーとかのドキュメンタリーで見たことがあるからだ。だが、それでも。太郎はまだ引き返せる、そういう根拠なき思いが彼にはあったのだ。たとえ既に歯が溶けかけていても。脳の萎縮が始まっていたとしても。太郎がクスリを買うために人を害していたとしても。やり直せる。そうだといいなあ。影太はそう願ってやまなかったのだ。さすが影太。えらいね。

 

 でも世の中は甘くないし、えらくもないし、ろくでもない。太郎は三度目のクスリ抜きの時に首を引っかいて死んだ。そのニュースを耳にした時、影太は一瞬悲しんだが、まあ死んだんなら仕方ないなと瞬時に切り替えた。次がある。他にも彼の救いを求める者が。

「デュフフ、サーセンwwwwご冥福wwww」

 草まみれのその言葉がせめてもの餞別であった。R.I.P太郎。シャブに包まれてあれ。影太は歩みを止めぬ。

 




なにを思ってこれを書いたのかとかは、即興なのでもちろん特にないのですが、それでも書いた時の自分の精神状態が心配になります。
でもギリ小説っぽくなってるなあとは思うので載せます。ギリ。
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