空の境界のキャラは登場しません。世界観の設定のみ使用しています。

 執筆時期:2024/09。渋谷事変読了後に執筆。


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いろはにほへと

 

 ────殺らなきゃ殺られる。

 ────お互い思うところがある。

 ────闘いは好きだが、戦い(殺し合い)は嫌いだ。

 ────それでも我らは人にして呪、いわんや獣である。

 

          §

 

 重要参考人:彩葉(いろは)◆レポート。

 

 西暦201X年。日本Y県9市。銀の温泉街。

 混浴場に入っていた老人27名が惨殺死体で発見された。警察は通り魔の殺人と推定。たしかにアレは“通り魔”だった。向かい側の旅館の窓から外をぼんやりと眺めていた折、西日塞ぐ山頂からふわふわと“ナニカ”が()りてきた。ソレは竹垣を越えて混浴場の中に入り、十秒と経たず出てきて夕闇通りに同化し(立ち去っ)た。それから半時ほど後のことである。ランプとサイレンが赤い光音を振り撒き、騒がしい晩飯となったのは。

 

 翌朝。騒然とする野次馬は、時刻を問わず増えては減って増えては増える。(わずら)わしくなった私は女将を呼びつけ、“眼”を合わせて御願いし、特別に一般客立入禁止の屋上に上がらせてもらった。銀の温泉街を見下ろす。

 

「なるほど。()していないのか」

 

 伝統と格式を帯びた景観。歴史を辿れば江戸初期より観光業が盛んとなった由緒ある火山地帯。戦時は遠い地で負傷した兵士を招き、湯治することで怨み辛みが吹き溜まる。平時は除隊した兵士が温泉恋しさに懐かしんで返り咲くも、政府陰謀の策謀によって暗殺されること多々あり、怨み辛みが地に染み込む。

 

「血の桜が満開ッス」

「っていうか、おどろおどろしい系?」

 

 突として背後から二人分の声。魔術師、魔術使い、幻霊、呪術師、呪詛師、呪霊。様々な憶測が脳裏を飛び交った。あちらに敵意こそないが、すれ違いは考慮して、こちらは中立を貫く。

 

「血染めの桜自体は珍しくない。それでもこの街に来た時は確かに()()と思っていた。が、一望せんと意外に気づかぬものだ」

「俺もッス。でもまさか先客が居るとは。どうします?」

「一時共闘とか行っちゃう系?」

 

 二人は黒い学生服を着用していた。顔立ちは若い。高校生か。こちらも同い年()()()()ということで、きっと何かを勘違いしている。それは()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「名は」

「東京の呪術高専ッス!」

「京都系~」

 

 素直な子供だ。こちらの名を聞き返すこともしない。名を明かせば呪われる可能性を考慮して隠匿している。少しはこちらに警戒心を抱いているものと思っていたが、どうやら完全に“お仲間”だと判断している様子。まだまだ青い。

 

「休暇で訪れている。働かせるな」

「えー!」

「サボリ系~?」

「だが犯人らしき輪郭は()()()。良心も()めるので教えよう。“ナニカ”はあの山頂から現れて、そこの夕闇通りに同化した。が、追えば喰われるぞ」

「……あざッス!」

「有望系じゃーん」

 

 二人の呪術師は夕闇通りに駆けていく。

 どれ、心配だ。少し、覗き見させてもらおうか。

 

          §

 

 戦闘担当:浅野(あさの)◆レポート。

 

 銀の温泉街のホテル屋上で呪術師(たぶん)と遭遇。呪霊(ナニカ)を夕闇通りで見かけたと教えてくれたので早速追跡開始。

 後続は後衛担当の希沙良(きさら)と、調査担当のスェウ。希沙良は京都高の女の子で、スェウは今回の依頼主が雇った“魔術使い”というものらしい。要は海外の呪術師ということだろうか? 容姿はアイリッシュ系だ。

 

 スェウの使い魔から「魔力の澱みを感知した」との報告が入る。

 余談だが、その“魔力”という名称、未だに慣れない。呪力と魔力は単なる文化(呼び方)の違いなのか、エネルギーの成り立ちが異なるから呼び分けているのか不明だ。授業中に居眠りしてしまったことがバレてしまう。覚えている範囲では『呪力は負のエネルギーを表すのに対して、魔力は大気や体内に宿るエネルギーを表すものだよ』とのこと。言い換えれば『感情と酸素/二酸化炭素』のような関係だと思えばいい、とか、なんとか。

 

 臨戦態勢の状態で感知範囲に突入。薄暗い路地裏。何もいないように見えてナニカいる。透明っぽいナニカに攻撃される前に術式発動。

 

 “自身を起点とする範囲(XYZ)一間(1.8m)に透明球体の非接触膜を生成。膜内は自動的に高度高速情報処理を開始。網膜に計算情報(計算式や解答)が映写される”

 “脳が飽和(パンク)する程の情報量が流れ込む。処理中は脳が凍結(フリーズ)しやすく、外界に関する集中力・思考力・判断力・決定力などが著しく低下。また、長時間の行使は脳が過熱(オーバーヒート)を起こす”

 

 つまり分析用の術式。まかり間違っても戦闘用の術式として使ってはならない。一秒の遅れが敵に必殺を許す呪術戦闘において、それの発動は致命的な隙を晒す。愚鈍極まりない術式だ。それゆえに縛りを課している。

 

 “術者は興奮すると「数字」の概念が網膜情報に映らなくなる。その代わり範囲一間の膜内空間における()()()()()()を引き上げる”

 “つまり、ほぼ最強の情報処理能力を放棄することで、強力な感知能力のみを残した”

 

 それは刹那の瞬撃となるはずだ。ナニカが範囲1.8mの膜表面に触れた途端、自らは振り返り、呪力を込めた拳を打ち出す。ナニカが範囲1.7mの膜中に到達した途端、ソレが膜内に入る間際で、木っ端微塵と打ち砕いた。

 

「──シャアッ!!」

 

 研究用の分析術式を、どうしても戦闘術式として役立てたい。そのために課した縛りと、感知術式を活かすため限界まで鍛えた肉体、研ぎ澄ました体術、持って生まれた反射神経の高さ。

 何かを分類するのは割と好みだが、レッテル張りとやらは好きではないし、元々数学は苦手だ。自分は根っからの戦闘嗜好者だったので、研究員ではなく戦闘員になった方がいい。そのように判断して進路を決めた。おかげで今では、準一級の呪術師になれている。

 

 その時、希沙良が怖い顔をした。自分の後ろにある何かを見ている。振り返ると、中国系とインディアン系の恰好をした二人組が立っていた。どちらからも呪力を感じる。敵意と殺意もピリピリと感じる。明らかに敵だと思った。

 冷静に状況を分析しようとしたことで興奮が静まり、縛りが解ける。いつでも分析術式は発動可能。身の危険を感じれば興奮して縛りが入り感知術式へと変化する。言ってしまえばカウンターが得意な術式。もちろん自ら突っ込んで興奮しても構わない。

 

 術式発動。疾走する。頭に飾りをつけたインディアンが弓矢を番える。自分は殺されて死ぬかもしれないという興奮を感じる。そして眼前から呪力の矢が放たれた。ふとインディアンの額に傷が浮かび上がる。どういう術式(原理)だろう? それを確かめるために合掌する。

 

 ────術式反転・静。

 

 呪力とは負のエネルギー。それを掛け合わせることで反転術式と化す技術が存在する。マイナス×(かける)マイナス()プラスとなるように、呪力を正のエネルギーに変える技術ということだ。

 その上で応用技“術式反転”を繰り出す。それは術式の効果を反転させる技術。たとえば吸収は放射へ、分解は合成へ、鎮静は興奮へ、硬化は軟化へ、活性は不活へ、増殖は減衰へ、構築は崩壊へ……などと効果が反転するように。

 ならば感知(興奮)分析(冷静)へ。さらに術式は自然と総合(分析の反転)を始め、脳内に計算不要(いら)ずの瞬間的な解答を叩き出す。それは0.2秒の直観という形で、なんとなく敵の全体像を感知した。

 

「矢に当たって軽く防げ!」

 

 希沙良は信頼して当たりに行き、非利き腕の片腕を軽く守りに当てる。すると呪矢は希沙良の片腕に掠って逸れて壁に当たった。

 “逃げたり守ったりしようとする相手を追尾・必滅する呪いの矢”

 “逃げれば逃げるほど、守れば守るほど、威力・速度・精度を増して襲いかかる”

 “術師の額に傷が付くのは恥辱の証。自らの尊厳を踏み躙る縛りを入れることで、それなりの呪力を得ている”

 インディアンの術式は、きっとそういうものだと看破した。

 

 反転術式解除。興奮が再起。感知術式に自動変化。インディアンが大物のナイフを取り出して跳躍。一間の間合いに入った刹那、即応して呪力打撃。やはり黒閃は狙って出せるものではない。そして敵が強い。肉弾戦が始まる。一方、道教っぽい衣服を着た中国系の呪詛師は傍観に徹している。そちらは希沙良に任せた。

 

 次の瞬間、希沙良が蹴り飛ばされた。一瞬で首が一回転した。呆然と立ち尽くす暇もない。

 

「天与呪縛っ!?」

 

 反転術式・静で感知した中国系の術式は微弱なものだった。だから希沙良でも勝てる相手だと侮った。それはそれとして、あまりにも術式が弱い場合、天与呪縛を(たく)に入れる必要があるのか。ひとつ学んだ。さて、天与呪縛持ちと遭遇するのは初めて。けど、そんなのは言い訳。自らの失態。仲間の死。反省は後。このままでは殺される────

 

 中国系が震脚を入れて突貫してくる。刹那、1.5m後方に転がる希沙良が起き上がる前兆を感知。絶対に死んだのに死んでいない! 否、中国系の術式は“死体を動かす”“一動作を除き緩慢な動作で操る”“限定した一動作は生来の動きを再現可能とする”ものだった。

 歯噛みしつつ後ろに宙返りして壁を蹴り全力逃走。希沙良は起き上がりざま、高速の居合い斬りで攻撃してきた。斬撃に合わせての宙返りだったためギリギリ回避に成功。靴裏が斬られてペロンとめくれる。壁を走る中でちらりと見たけど、希沙良の顔色はゾンビのように青ざめていた。

 

「クソッ……!」

 

 準一級の呪霊一体の討伐。そのはずだった。事前に聞いていた話と違う。これは一級が取り掛かるべき案件だ。自分では手に負えない。

 

「どこ行くアル?」

 

 1m横に中国系が並走していた。()()()()()()()()()。つまり感知速度が追い付かないほどのフィジカルギフテッ────

 

「ぐっ!?」

 

 ────なんとか首狙いの蹴りを感知して防御に成功。その代わり非利き腕の左腕を壊された。奥深い路地裏から逃げても、ここはまだほのぐらい路地裏。帳は降ろしていない。外に出れば非術師に目撃される。そもそも逃走は不可能。

 蹴り飛ばされる中、壁に背中を強打して転がり落ちる。換気扇にぶつかって一緒に落下。地面を転がって起き上がると共に、頭上からかかと落とし。死に物狂いで躱す。アスファルトを砕き割ってきた中国系は、命をなんとも思わない糸目を向けてくる。

 

 ……殺される。

 命を賭した死闘。興奮は最高潮に達した。感知術式の侵入感知速度性能が大幅に引き上がる。次の一撃は感知してから受けることができた。二撃目を躱す。敵が眉をひそめた。自分の潜在能力(ポテンシャル)が極限まで上がっている。それを肌で実感する。三撃目が飛んでくる。それは繰り出しが尾を引いているためフェイントと感知。それでも当たればこっちは必死。その上で呪力を帯びた拳を、クロスカウンターの形で繰り出した。

 

「臨兵闘者皆陣列在前」

 

 刹那、頭上1.8mから呪術師(たぶん)が降ってきた。中国系の手首を掴み、牽制ながら必殺の打撃を阻止。こちらの打撃が黒い稲光を発して、中国系の左胸に命中した。

 

「ぐっ……!?」

 

 中国系がたたらを踏む。呪術師(たぶん)は何をしに現れた。助太刀か。

 

総合術式(その技)が使えるなら、抜刀術(他人の技)も真似できるだろう」

「……?」

「奴のフィジカルに勝つためには、彼女()の太刀筋が必要だ。拾ってこい」

 

 後方にインディアンが着地する。中国系と挟まれた。自分は呪術師(たぶん)と背中合わせで構える。

 

「ねえちゃん、名前は!?」

屍鬼(しき)彩葉(いろは)。いろはちゃんと呼べ。……それと()()。私とお前は同い年だ」

「ごめんッス! で、いろはちゃんの所属は!?」

「──……そうさな。此度の一件は貴様らの呼び名に合わせて──退()()()とでも名乗ってやろうか」

 

 くつくつと哂う女子高生くらいの和装少女・屍鬼彩葉は、赤と青のきれいな瞳を廻しながら、中国系の呪詛師に短剣を向けた。そして希沙良は緩慢な足取りで路地を曲がり姿を現す。

 

「背後に工房の魔術師がいるな。用心棒として雇われての悪事か」

 

 不意に彩葉が言った。スェウのことかと思ったが、敵に話しかけているようだ。

 

「山の土地神の一尾を降ろして式神にでもする気か? まぁいい。こちらの正体が気になっているようだから、全員が揃うまで語り合おう」

 

 希沙良は緩慢な足取りで、刀を引きずりながら、こちらに向かってくる。

 

「まず、魔術師と呪術師の違いとはなんぞや」

「魔術界隈において呪術師とは、生まれながらに魔術刻印を有する者」

「呪術界隈において魔術師とは、生まれながらに天与呪縛を犯す一族」

 

 呪術師(たぶん)の問いに、インディアンと中国系が即答する。

 

「然り。ならば生まれながらにして、そのどちらをも満たす者は?」

『────っッ!!?』

 

 中国系の背後に、希沙良が緩慢な足取りで間合いに到着。高精度の抜刀術を繰り出してくる。彩葉は「ハハッ!」と嘲笑しながら手をかざす。自分は身を屈めて回避。頭上を即死斬撃が通過。希沙良の刀身は呪力で出来ており、拡縮によって斬撃性能が変動する。

 

 “縮めば厚く鋭い両断のように。拡げれば薄く鈍い散弾のように”

 

 そして彩葉の掌底から“氷雪”が放出する。それは魔術か呪術か。それを調べるため合掌────

 

「まだだ」

 

 ────突として彩葉に術式反転・静を制止される。

 インディアンの飛びかかりに応じて自分は肉弾戦。一方、中国系が貫くように飛び込んでくると、彩葉は出鱈目な印を結ぶ。次いで氷の華を手向けるように手放した。

 

「領域展開・氷華廿峠(ひょうかにゅうとうげ)

『っッ!!?』

 

 気づけば一面、銀世界。すかさず合掌。術式反転・静を発動。一間以内の空間情報を総合感知(直観)し、大局的(マクロ)に事態を把握する。彩葉の氷雪は“熱”に関する生来の力だ。つまり半分人間ではない。そして峠とは“手向け”を意味する道祖神の加護だ。手向けることが印を結ぶ事と同義のため、あえて印を結ぶ必然性は皆無。どうやら呪術師の真似をして遊んでいる様子。

 

「魔術に呪術か……ならばこちらの技はなんと呼ぶ? ──鬼術(きじゅつ)かぁ?!」

 

 そんな造語を即興で創りながら、彩葉の体内で72本の魔術回路が励起、さらに呪力が増していく。

 

酸素(マナ)感情(マイナス)を注入したら、どんな化学(熱学)反応が起きるか……知っているか?」

 

 そして見抜く。峠とは言い換えれば()()()()。合計で二十(廿)の道が見える。どの道も希沙良に通じていた。安全な旅路を約束している。どうやら()()()()()と言われている。

 ならば全力疾走。二十本のうち最短の一本を選択。当然、中国系とインディアンが迎撃してくる。すると彩葉は青い宝石(サファイア)を取り出し、魔力と呪力が混じった宝石を惜しげもなく砕き割った。すると破砕された宝石から、水気を帯びたエネルギーが奔流し、津波と化して敵を薙ぎ払う。後で調べて分かったことだが、これは宝石魔術という特性らしい。

 

 その間に術式開示。

 

「希沙良の縛りは“抜刀範囲を縮めるほど刀身の強度を増して呪力を減じる”のと“抜刀範囲を拡げるほど呪力の毒性を増して刀身の強度を下げる”ものとがある────!」

 

 着地。「だから、ごめん」……そう言って希沙良の首から上を殴り飛ばし、手元から刀を奪う。目的地に辿り着いたことで領域展開が解かれた。すると中国系が震脚を繰り出して吶喊(とっかん)してくる。感知術式が自動発動。先ほど黒閃を放ったことで、こちらの潜在能力は最高潮(100%)に達している。

 そして希沙良の抜刀術は何度も見てきた。いまさら術式反転・静で分析するまでもない。

 

「シン・陰流────」

 

 構える。敵が感知範囲1.8mの膜に接触。刹那、黒閃抜刀。敵の必殺掌底が自分のみぞおちに入る間際、敵の胴体が両断されて絶命、血しぶきが舞い上がる。

 そして悟る。たとえ縛りが入って刀身の強度が上がっていても、黒閃を出せていなければ天与呪縛の肉体強度に負けて刀身が折られていた。すなわち黒閃を出せなければ、こちらが死んでいた。

 納刀。疾走。彩葉を抜き去り、式神を召喚しつつ退却を始めたインディアンに呪力抜刀。

 

「────拡散(ショット)(ガン)!」

 

 呪力斬撃を散弾のように放つ。インディアンの右肩、左腕、左腰、左脚、右足に掠り、式神の雷精と氷狼の胴体に命中する。計五箇所と二体。致命傷だ。猛毒入りの呪力斬撃。血流に乗って速やかに毒が全身に回り、インディアン系の呪詛師は脱力落下。即死した。雷精(フェアリー)氷狼(コヨーテ)も、(あるじ)の死亡と合わせて消失する。

 すぐにポケットからスマホを取り出してスェウに連絡。

 

「スェウ! 希沙良が殺られた! 一時撤退の援護を頼む! それかもう高専に連絡を済ませ────」

 

 電話の向こうで悲鳴が上がる。今まで相づちを打っていたのに、突然。炎がパチパチと弾けるような音。おそらくスェウは殺された。その時、彩葉の瞳に映る赤と青が鮮やかに廻る。そして彼女は、なぜか哂うように言った。

 

「焼かれたな。火属性の遠隔呪術か。原始的な大陸魔術だな。どこかで尻尾を掴まれて丑の刻参りをされたのだろう」

「──魔術……?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのように伝えればよい。それでお前の仕事は終いだ」

 

 彩葉は和装を翻す。雅な動きに見とれてしまったが、彼女は立ち去るつもりだ。

 

「まて! あんたは、なんなんだ!? 魔術師でも呪術師でもない! じゃあ魔術使いか呪詛師なのか!?」

「人は分類が好きだのう。ま、こちらも半人(はんじん)であるからには、その境には敏感だ」

 

 半人。そういえば魔術界隈にはサーヴァントという霊的存在がいると聞いた。そして近年、南極の天文機関において、人間とサーヴァントを融合した実験の記録が見つかったとか。ならば────

 

「外れだ」

「っ!? 心を……読んだ!? じゃあ妖怪の(サトリ)なのか!?」

「その覚ではないが、六眼の小僧たる五条悟に伝言を頼む。“浄眼(じょうがん)を持つ半人半鬼(混血種)は、今も好きに生きている”と」

 

 浄眼。それは、ありえざるモノを視る眼。人の心が色として視えたり、霊視ができたり。魔眼とは異なるものだと、魔術界隈では語られている。これもあとで調べて分かったことだ。

 

「え……先生を知ってんのか! つか、浄眼……?」

「昔に殺し合った仲よ」

「……マジか……あの最強先生と……」

「こちらは、どちらにも与しない。魔術協会にも呪術高専にも。聖堂教会なぞ以ての外じゃ。なぜなら空っぽの獣に、境界もクソもないからのう……!」

 

 人であり鬼。魔術師であり呪術師。魔術使いであり呪詛師。幻霊であり呪霊。あらゆる分類の中間点に位置する屍鬼彩葉は、快活そうに……だけど複雑そうに。まるで両棲類と気まぐれを擬人化したような存在として、そこに笑っ(生き)ていた。

 

 そして屍鬼彩葉は銀の温泉街を楽しむべく、彼女自身の日常に戻っていく。

 

 鮮やかなり、華の氷獣。その行方は疾うに知れない。

 

 記録担当:浅野◆レポート提出済み。

 

 

 

          /完

 

 

 


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