酔った勢いで教え子に手を出した男の末路   作:黒マメファナ

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メリクリ!
気付けばお気に入りが100越えてました、ありがとうございます。
あんまり山谷ない話になる予定ですがよろしくお願いします。


⑩夏休みの過ごし方

 期末テストも順調に進んでいる。ぼくは特にやることもなかったため昼過ぎには学校を後にして車に乗り込んだ。

 出発する前にスマホを確認するとましろからメッセージが送られてきた。どうやらテストの感触は上々のようで、今から家に帰ると返事を送った。既読は即時、これは割といつものことなので気にしないが、次に「バンドの練習もできないから家行ってもいい?」というものだった。

 

「……勉強するならね」

 

 勉強を見る日でもないのにこういうのを許可するのは、幾ら何でも甘すぎる気もしたがぼくはダメだと言えるだけの理由を持っていなかった。ましろのまっすぐな好意はぼくのちっぽけな抵抗なんて紙のように吹き飛ばしてしまう。

 

「おかえりなさい!」

「ただいま……お昼は食べた?」

「うん」

「そっか」

 

 リビングのドアを開けると嬉しそうな顔でやってくるましろが、以前何かで見た飼い主の帰りを待つペットに見えてしまって少し笑ってしまう。

 月ノ森の白いセーラー服姿にも漸く見慣れてきたけれど、プリーツスカートがふわりとしてしまうと少しだけドキっとしてしまう。そしてそんなことでドキっとしてしまう自分に嫌悪の感情を抱いてしまう。職場の学校じゃたとえスカートの中まで見えたとしても「はしたない」と思う程度なのに、相手がましろであるだけでここまで違うのか、それともチラリズムに興奮してしまう変態なのか。

 

「セーくん……目線がえっちだよ?」

「う……ごめん、色々考えてフリーズしてしまって」

「見たいなら見せてあげてもいいけど」

「それは大丈夫、見たくて目線を下げたわけじゃないから」

 

 スカートの裾を摘まみながらいつものましろとは少し違った種類の微笑みを浮かべられる。こういう時、ぼくは絶対に勝てないというのは流石に過ちから三ヶ月ほど経てば嫌というほど学べてしまう。同時にこれはましろの中にある何かの「スイッチ」を押してしまっているという感覚だった。

 

「今日のは見られても大丈夫なやつだよ?」

「……下着のことを言っているなら、ぼくが見てもいいものなんて一つもない筈だけど」

「でもセーくん、私のパンツの色、幾つか知ってるよね?」

「……なんの話?」

 

 ──何か、なんて誤魔化す言い方もよくない。彼女の「攻め」のスイッチだ。普段は無垢で穏やかな小動物だけれどぼくが隙を見せると獲物を見つけたようににじり寄ってくる。目的は勿論、ぼくを再び誘惑し既成事実を手に入れるためだ。

 

「流石にさ、これだけいっぱいお泊りしてて、しかも私はほとんど制服だよ? そんなに隠そうとしてないから見たことないは嘘だよ」

「隠そうとしてよ」

「ほら、見たことある」

 

 こうなるとぼくはやり過ごす以外の防衛方法以外の全てを奪われる。元々、好意を抱いてぼくの家に来ているましろと、そのましろを心の奥底では()()()()()で見ているぼくが誰かに邪魔されることのない二人きりで何度も一夜を過ごしている時点で不健全な関係だ。正攻法でましろの攻めを躱しきれるとは思っていない。

 

「相手がぼくでも、いやぼくだからこそましろは家に来たらすぐにでも下着の見えない部屋着になってほしいんだけど」

「やだ」

「……どうして」

「ゆーわくしてるもん」

 

 ここで大きなため息を吐けるだけぼくはまだ鉄の意思を保てている方だと思う。これでましろが本当になりふり構わず、恥らいを捨てて迫ってきたらぼくに成す術なんてないだろう。それだけぼくとましろの力関係の強弱ははっきりしている。悲しいけど、ましろの方がこの件に関しては圧倒的に優位だ。

 

「いい加減にしないと服装に制限掛けるからね」

「はぁい、ごめんね?」

「……ましろが月ノ森の制服が好きなのはわかってるけど」

「セーくんが似合ってるって言ってくれたから」

「せめて家の中では下着が見えない工夫をしておいてくれると嬉しい」

 

 ましろはあんまりやる気のなさそうな返事をしたから、無駄そうだなとこれ以上の追及はしない。藪をつつくどころか手を突っ込めば、噛まれるのは必至だろう。

 だがましろの方もこれ以上は効果がないと思ったのかテストの問題用紙を持ってきた。

 

「自己採点は?」

「してないよ、セーくんにみてもらおうと思って」

「自信は、あるみたいだね」

「先生に教えてもらってるんだから、前よりずっとできてないと」

「ぼくとしては、見てなくてもそれくらいであって欲しいところだけど」

 

 まだ全教科終わったわけではないが、少なくとも主要科目はそこそこの正解率がありそうだった。平均点かどうかは結果がわからないことにはどうしようもないが、少なくともましろが高校一年生の一学期で躓いたところはないと言える。

 

「セーくんが教えてくれたこと、いっぱい出てきたよ」

「それはよかった」

「でね、テスト中になんだっけ? ってわかんなくなったところがあったの」

 

 そう言ってましろは歴史総合のテストを出した。専門のぼくが教えているせいかましろは多分、歴史分野の伸びが一番高かった。このまま得意科目になるんじゃないかと思う程だ。

 そんなテストもやはり満点とはいかない。暗記科目は本当に興味や、覚え方も紐づけとかに左右されるしぼくだって完璧に解けるとは自信満々には言えない。

 

「なんだっけ、って悩んでたらセーくんの声が急に聞こえて! びっくりしちゃった」

「ぼくの声が?」

「うん、勉強した時の声で、そのおかげで答えがわかったんだよ?」

 

 その言葉を聞いてましろの集中力が生み出す記憶力と、紐づけの能力が高いことを初めて知ることになった。色んな話を聞いて、ましろはもしかしたら音を景色に変換することが出来るのではないか、と睨んではいた。一種の共感覚のようなもので、先輩も似たようなことを以前言っていた。

 彼女の音に対する敏感さ、空気を察知する能力はぼくの想像も及ばない時があるからそういった能力が集中状態の中で開花したのだろうか。

 

「まるでセーくんに答えを教えてもらってる感じで、カンニングみたいでバレたらどうしようとか、変なこと考えちゃってたよ」

「……ぼくは別にテレパシーで答えを教えたわけじゃないし、それはましろがぼくを記憶していただけだと思うから、安心して明日も使っていいよ」

「そっか、じゃあ明日も頼らせてもらうね」

 

 その頼っているぼくは教室で暇そうに監督官をしている現在のぼくではなく、勉強を見ていた過去のぼくということになるのだろうけど。それがましろの記憶力向上に役立っているならお安い御用だし、耳で覚えられるというならそういう勉強方法を考えてあげた方がいいのかもしれない。

 

「ふふ」

「……どうしたの?」

「ううん、考え事? してるセーくんカッコいいなぁって。勉強のこと?」

「うん、ましろの記憶力に合わせたやり方をしていこうと思ってさ」

「そっか」

 

 肩にましろの頭が乗った。嬉しいのか、鼻歌も聴こえてきて、ぼくはそんな彼女の成すがままにしておくことにした。

 やっぱり、ぼくはましろに甘いのだろうか。それともましろが抱く「すき」という気持ちを無碍にすることが教え導くことに反していると無意識に理解しているからなのだろうか。

 

「……うん、今日の科目でダメそうなところはないね」

「本当?」

「やっぱり少し数学は苦手みたいだけれど」

「……計算はできるんだけど、図形とか推論? が苦手で」

「そうだね、後は英語と古文かな」

「……はい」

 

 社会科目はそこそこ、歴史に関しては上の方だろうか。それに対して数学と理科が苦手な分野がある、英語と古文が明確な苦手分野だ。現代文はどちらでもないというところか。

 ぼくも改善は目指しているけど、やはり苦手は苦手として残る。万能に全科目出来る人なんて探して見つかるようなものじゃない。

 

「成績上位の人も苦手科目はあると思うよ。というか得意とそうでないものに差があると思う。どれも平均して得意なんてそんな人いないよ」

「そ、そっか……うん」

「ましろなら英語のリスニング、なんとかなりそうな気もするけど」

「多分、言葉として私が認識できてないって感じだと思う。聞くと雑音というか、勝手に頭の中で言葉じゃないってしてるみたいな」

「そうなんだ」

 

 だから受験でもリスニングの部分はあんまり伸びなかったのか。なんとか部分部分の単語を拾い上げてアタリはつけれるようだが、それでもサイコロを振って決めてるのと大差はないらしい。古文も同じようなことなんだろう。

 

「あ、あとさ……セーくんに、頼りすぎるのは、ダメだって思ってるんだけど」

「なに?」

「……夏休みに入ったらさ、その……課題を見てもらえると、助かります」

「どのくらいありそうなの?」

「透子ちゃん曰く、チョーでる、らしい」

 

 心霊スポットの感想みたいなノリで課題が出されるのか、それは大変だな。ぼくは教科が教科だから特に長期休暇に課題を出すことなんてないけれど、国、数、英は特に大変だろう。量を出されるとなるとそれだけ他の時間から削らなくちゃいけないだろう、ましろにはバンドで忙しいことも多いだろうし重たくのしかかることになる。

 

「毎日、暇な時間になるべくやること。わからないところはとばして付箋でも貼ってくれたらぼくがまとめてみるから」

「読書感想文……」

「小学校の時からやってるでしょう、そんなもの」

「だ、だってぇ」

 

 読書感想文なんてテンプレがあるんだから、穴埋め式にして書けることを書いて、後は適当にでっちあげたり調べたりしたことで足していけばいい。

 作品選びとしてそれが出来るものを選ぶのが大事でもあるけれど、そもそも物語が冗長だったり、専門用語が多かったりすると結構面倒になる印象だ。

 

「原稿用紙、五枚だよ?」

「フルで埋めて2000文字じゃないか、実際に2000文字あるわけでもないし」

「でも、1000文字は越えるんだよ? 一気に書いたら腱鞘炎になっちゃうよ」

「Wordで書いちゃダメなの?」

「……うん」

 

 そうか、Wordがダメとなると確かに一息で書くのはしんどいかもしれない。

 けどそれが理由なら分割すればいい。それこそWordで書いて印刷したものを手書きで写せるようにしてしまえば、休みながら書いても分からなくならずに済む。

 

「……ずるしてる?」

「これがズルというなら」

 

 確かにズルかもしれない。手書きよりも少ない負担で沢山の文字が書ける、間違えたり文章を変えたりしたければすぐに消せるし、消したものを復元も出来る。その上、漢字も変換ですぐ出るから調べる手間もない。

 

「でもぼくはそれを工夫と言い張るし、工夫していない方を努力と言うのには納得できないと思ってるよ」

「なんとなく……セーくん言いたいことも、わかったかも」

「そっか、じゃあ読書感想文はそれで、レポート課題は他にある?」

「うん、あるよ」

「あるんだね」

 

 読書感想文とは別に現代社会のレポートまであった上で国語、数学のワークが100ページ程、英単語の写し五回を100語、中々ハードな課題量だ。

 歴史は歴史で範囲の中から詳しく調べてレポートを纏めるらしい。これはキツいね。

 

「地道にやっていくしかないね」

「が、頑張る……」

「ぼくも出来る限り手伝うよ、特に自分で考える系のやつは電話しながらでもできるし」

「な、なんか急に協力的になった?」

「幾らなんでも、バンド練習増やしたましろにこの量の課題は厳しそうだと思ってね」

「……正直、困ってた」

「レポートの方は特に積極的に手伝うから、早めにテーマ決めようか」

「はい! セーくんが社会の先生でよかった」

 

 それは本当にそうかもね、と相槌を打つ。こんなに課題が出るとは正直思ってなかったから、同情してしまった。ぼくの高校時代にはこんな量、三年間で一度もしたことがないレベルだからね。

 ──ふと、ぼくよりもより沢山の生徒を抱えている先輩もどうせ課題を見てあげたり、教えたりしているのだろう。参考までに訊いておこうと心に決め、後日電話で相談した。

 

『課題? 花咲川はそんなに出ねぇからスルーしてるけど』

「当然のように他校の課題を把握しているんですね、流石です先輩」

『……ムカつく言い方だな、んで羽丘は張り切っちゃう先生がいるからな、ハナシ聞いた限りじゃ月ノ森程じゃなさそうだが』

「先輩がいますからね、課題なんて面倒なもの出さないでしょう?」

『残念、上司がうるせぇからオレだって課題くれぇ出すっての、自由課題だけどな』

 

 流石先輩、サボり方がダイナミックだ。羽丘は文武両道的な校風と聞く。だからこそ生徒の自主性を重んじて自由課題にしますとか言って難を逃れているのだろうな、自由課題なんて採点する必要ないし、どうせ期限に間に合わせていれば満点出してるだろう。先輩はそういう人だ。

 

「それで自分の贔屓する生徒には適当に英字新聞でも配っておけば万事解決、というわけですね」

『よくわかったな、でもマジでなんでもいいからな、去年は英語クロスワードを作ってきたヤツもアリにしたし、おかげで秋からの暇潰しになったよ』

「……なるほど、実益を兼ねている素晴らしい課題です」

『褒めてねぇな』

「当然でしょう」

 

 結局、先輩はあまり参考にならないことがよく、本当によーくわかった。この人は課題なんて無くてもいい派だった。まさか課題の答え作ってるとは思いもしなかったけれど、予想の斜め上のサボらせ方をしているな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでもいい情報です答えの作り方は日菜に解かせたもののコピーとかいう超パワープレイです。
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