酔った勢いで教え子に手を出した男の末路   作:黒マメファナ

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当たり前ですが年内最後の投稿ですよ


EX:黒じゃない、私の色

 夏休みの終わり際、私だけじゃなくてモニカのメンバーのうち、瑠唯さん以外がセーくんのことを先生と呼ぶようになって、セーくんは三人のことを呼び捨てにするようになった。

 それから、セーくんは少しだけ明るくなった、気がする。

 明るくなったというか、先生として自信なのかな、そんな感じがする。

 

「いやぁ、マジでセージ先生のおかげで助かった~!」

「わ、私は別に、ちゃんと終わってたから!」

「それはないんじゃないかな~? つーちゃんもとーこちゃんと同じくらいに見えたけど」

 

 夏休みの宿題は全員ちゃんと提出できて、おかげで二学期も問題なくモニカとして活動できている。それがセーくんのおかげだった。

 そのことを後から知った瑠唯さんは表情を変えずに、だけど少しだけ嬉しそうというか楽しそうに「そう」と言った気がした。

 

「少し、初対面の時と印象が変わったわね」

「そうなの?」

「ええ、楽屋で会った時は、もっと無機質な人だと思っていたわ。けれど、キャンプの時に少し話す機会があって」

 

 瑠唯さんはそう教えてくれた。私の知らない、先生としてのセーくんの顔、きっと私の時には見せてくれない顔がちょっとだけ羨ましい。

 ──と思っていた翌月、十月のことだった。

 

「ましろ、瑠唯も」

「倉田先生……倉田さんの迎えですか?」

「うん……って、倉田と倉田って呼び分け大変じゃない?」

「いえ、先生は先生ですから」

「まぁぼくはいいけど」

 

 な、な、なんか呼び捨てになってる! 私はびっくりして瑠唯さんとセーくんを交互に見つめるけど、二人はまるで最初からそうでしたよ、みたいに親しげな会話をしている。なんか、透子ちゃんやつくしちゃんより、少しフラットな気がするのもびっくりポイントだよ。

 

「い、いつの間に……!」

「ん? あぁ、瑠唯のこと?」

「うん、夏休み終わってすぐは八潮さんだったのに」

「色々あってね」

「色々……」

 

 胸がザワっとした。セーくんが私に隠し事をするなんて思えなくてモヤモヤしてしまう。

 これはヤキモチ、私はヤキモチ妬いてる。

 だけど、帰り道、赤信号で止まった時に優しい声で名前を呼ばれると、どうでもよくなってしまう。

 

「ましろ」

「……ん?」

「いや、気になってるのかなって」

「ちょっとね」

「今度ゆっくり話すよ」

 

 その言葉にほっとする。私は甘やかされてるような気がする。

 つくしちゃんや透子ちゃんが生徒になったからこそわかる。私はその中でも特別というか、生徒と先生じゃない時がある。

 

「実力テストはどうだった?」

「うん、ばっちりだったよ」

「よかった、他のメンバーも?」

「そうみたい、連絡来てなかった?」

「透子からは来てた」

 

 雑談をしていると駐車場が見えてくる。そこから少し歩いてマンションの三階、一番手前がセーくんのおうちだ。

 ぎゅーっとするとセーくんはちょっと困ったような反応をしてから、抱きしめ返してくれる。どの季節でも、関係なくこの暖かさがすごくすき。私だけが許されてる、私だけの距離。

 

「夏休み終わりから、ましろがますます大胆になってきてぼくは困ってるよ」

「嫌?」

「……困ってる」

 

 拒絶はされない、最近じゃちょっとくらい薄着でくっついても何も言われなくなったし、セーくんから抱きしめてくれることも増えてきた。

 ──きっと、世間の目は教師であるセーくんが女子高生である私のことをえっちな目で見ることを許してくれない。まともな人間じゃない、ロクな大人じゃないって知ったかぶりでセーくんに石を投げるだろう。誘ってるのは私で、それを頑張って跳ね除けてるはずのセーくんを感情で非難しちゃう。

 

「そりゃそうだろ、正しい奴は間違った奴に対して何してもいい。それが正義ってヤツだからな」

「……先生は、そうじゃないんですよね?」

「悪い大人だからな、オレは」

 

 つくしちゃんのバイト先に友達と待ち合わせて、そこでお茶をしていると、すっかり顔見知りになった大人がいて、いつの間にか最近考えてることを吐露していた。不思議な先生、寂し気なオレンジの空模様のようで、なのに一番強く心に残る光を放っている。黄昏の空、そこに浮かぶ優しい太陽みたいなヒトで。そのヒトはそのイメージそのままの笑顔を浮かべた。

 

「ロクな大人じゃねぇ……か、オレの持論でいいなら、フォローしてやるけど」

「先生の後輩だから、ですか?」

「それは誠二がかわいそうだろ、そうじゃなくて──教師なんてロクなもんじゃねぇんだよ、そもそもな」

 

 誰かを教え導く、その人生や生き方にまで介入するという行為は常人にはできっこないものだって、清瀬先生は言った。

 子どもの人格形成に影響を与えるほどの責任を負ってまで、それでも教師であり続ける人間なんて最初からイカれてる、そういうことみたい。

 

「勿論、そこまでの覚悟とか責任なんて感じずにできる仕事でもあるだろうけど」

「清瀬先生は覚悟キメすぎやと思う」

「褒めんな」

「貶しとるよ?」

 

 そうだよね、()()()女子高生に惚れられた()()で、その子の人生丸ごと見守ってくれそうな先生なんて他にいないと思う。セーくんにだって無理だよ、私はそこに()()()()()があったから繋ぎとめているだけで。

 

「朝日、今から言うことはヒナたちにも言うな、倉田にも問い返すなよ」

「え、は、はい……」

「例えばだけどな、みみとどっかで別れてて……コレ、一歩手前までいったから例えにすんのヤだな……まぁいいや、フリーだったとして、もしヒナでも誰でも生徒とヤってたら、オレはまた今とは違ってたと思う」

「……違ってた、具体的には?」

「それはわかんねぇけど、ヤリ捨てってのはオレの教師観にも反するし、切るに切れねぇ状態にはなってただろうな」

「今とそんなに変わらんように思えますけど」

「うるせぇ、でもヤってねぇから、オレはみみ一筋だってずっと言っても聴かねぇんだよアイツら」

 

 最後の愚痴はどうでもよかったけど、私にとってその言葉は一つの救いというか迷いを払う助言のように感じられた。

 もし、えっちなことしてなくても、私はいつかセーくんのことを好きだって伝えていたし、それに対してセーくんは真剣に答えを探してくれる。大人だとかそういう逃げる選択肢をなくして、真正面から向き合ってくれるんだって。

 

「オレの知ってるアイツは、曖昧なもんが嫌いだった。白なら白、黒なら黒、マーブルとか灰色なんて許せねぇヤツだ」

「……私の知ってるセーくんも、そうです」

「じゃあ、迷いはねぇだろ。JKと教師が付き合わねぇ世界がシロだとすんなら──クロにしちまえばいい、誤魔化しようもねぇ色にしてやれば、アイツも諦めるだろ」

「暴論で、言い方もめちゃくちゃですね……でも」

 

 ロックちゃんが苦笑い気味で私に視線を向けた。

 セーくんは最初から、ゴールを決めているんだろう。私の選択で今の曖昧な色がどうなるのか、それを待っていてくれてる。期限は、きっと高校を卒業した時だ。18歳になって、形式上は大人になった私にきっとセーくんは今の関係を清算しようとするんだろう。清とか澄とか、セーくんの好きそうな漢字だもん。

 

「そういえば、先生の字にもついていますね、清」

「気色悪いこと言うな」

 

 正直、清瀬先生はその苗字のイメージとは全く違う人物だけど、一途に何かを成すという名前はその通りだなぁとちょっとだけ思う。そこにごんべんが付いたら誠という字になる。セーくんの字だ。セーくんも名前の通りだと私は思ってる。

 

「でも、先生は一つ間違えてます」

「ん? そうだったか?」

「私がセーくんと付き合うことは……クロなんかじゃないですから、私はそれを、セーくんに理解してもらいたくて、一緒にいるんです」

「……そうか、まぁ出来た後輩だ。あんまりイジメてやるなよ」

 

 イジメなんて、そんなこと絶対しないもん。ただ、私の気持ちはたとえセーくんだったとしても気の迷いとか、騙されてるとかそういう決めつけをされたくないってこと。

 私の「すき」は私だけのもの。その大きさも、相手も、それが例え一時の過ちだったとしてもそれは譲れない。

 

「……ましろちゃんが好きな人って、従兄じゃなくて学校の先生だったんだ」

「え? ああ、えっとね、月ノ森の先生じゃなくて、本当に従兄なんだ。高校教師はしてるけど」

「勘違いしとった、てっきり学校内で内緒のお付き合いしとるかと思って焦ってた」

「ごめんね」

「ううん……でも、じゃあルール違反してるわけじゃないんだね」

「世間体が悪いだけ……ってセーくんも言ってた」

 

 そこだけ切り取れば私とセーくんの関係は最低最悪だもんね。従兄妹っていう近い親類で、なおかつ年が十歳以上離れてて、その上高校教師と女子高生、お互いの固有名詞を使わなくちゃこんな風に、性犯罪者一歩手前みたいな人物像になってしまう。

 きっと、私たちも親戚の人たちには反対されちゃうだろう。特にセーくんは叔父さんと叔母さんに大きな恩があるから、高校を卒業しても中々明かせない関係だと思う。

 

「──従兄妹って結婚できるんだっけ?」

「……どうしたの、突然」

「ううん、ちょっと気になって。そういえば親戚と結婚できない、みたいな話あったなぁって」

「ぼくは今、嘘を吐こうか非常に迷ってるよ」

「じゃあできるんだ」

「……そうだね」

 

 話によるとギリギリ結婚できるみたい。血が濃くなる? みたいな話は、本当は血縁関係もないから気にしなくていいし。そういう意味で一緒になる時の障碍もないんだ。それを知れただけでも、また我慢する理由もなくなっちゃうね。

 

「結婚って、ぼくは二人に今の関係をなんて説明したらいいのか、まだ悩んでる段階なんだけど」

「あなたの姪っ子に惚れられて迫られて手を出しちゃいました、でよくない?」

「よくない」

「そっか」

 

 セーくんは真剣に悩んでくれる、それがすき。きっと体裁も世間体もなにも気にしない姿を知ってるからこその余裕なんだよね。

 私が、セーくんの本音を知ったから。

 

『ぼくはましろを一人の女性として、好意を抱いているし当然下心もある』

「……っ、きゅ、急に再生するな!」

「聴きたくなっちゃって」

『だから今度はぼくから誘わせてほしい──』

「あ、セーくん、返して?」

「あのな、ぼくがこの言葉でどれだけ恥ずかしい思いをしているのか、わかってないのか?」

 

 ふふ、口調の荒いセーくんもすき。怒ると淡々としてた言葉遣いが荒くなって、激しくなって、それが私の何かよくないスイッチを起動しちゃうのかもしれない。

 怒られたい? 怒らせたい? それとも強い口調が気持ちいいのかも。

 

「よっと」

「あ……ましろ!」

「再生、止めてほしかったら……ベッドまでおーいで?」

 

 セーくんの寝室、ベッドまで逃げ込んで、でもそこに逃げ場なんてなくて当然、私は捕まってしまう。

 暖房が効いてないひんやりした部屋なのに私の身体もセーくんの身体もまるで火が点いてるみたいに熱くて、火傷しそうで。

 

「……ましろ、ましろ?」

「んー?」

「ぼくが悪かったから、こういう誘いかたはやめて」

「セーくんの怒った時の、乱暴なやつ、すきだもん」

「……万が一ぼくが暴力振るったら、受け入れないでね」

「はーい」

 

 セーくんの腕の中で私は眠る。もうすぐ一年が終わろうとしてるけど、週二でセーくんの家で勉強して、その日は泊まって、最近はずっとこうやって二人で寝る日が続く。幸せな時間だ。

 そのためにセーくんは色んな覚悟を決めて、先生として頑張って悩んで、私のこともモニカのみんなのことも見てくれて、見えないところで背中をそっと押してくれた。きっと、瑠唯さんのことも。

 

「ましろ」

「なに?」

「ぼくは、もうシロには戻れないかな」

「ふふ、何言ってるの?」

「え?」

「セーくんは私の色になった、それは、クロじゃないでしょ?」

「……狡い言い方だね、何処で覚えてきたの?」

「先輩から、かな?」

「やっぱり悪影響だった」

 

 高校教師が酔っ払って、家庭教師をしていた私に手を出してしまった。そこから始まった私とセーくんの関係は、これからも少しずつ進展していくんだろう。

 明確なターニングポイントは、やっぱり夏休み終わりにモニカとセーくんが仲良くなったこと、私個人としては清瀬先生との出逢いだっただろう。

 色んな人との関りがあって、私とセーくんしかいなかった世界はゆっくりと色を付けるように広がっていて、真っ黒だった未来は今や彩りと光で埋め尽くされた。

 

「だいすきだよ、セーくん」

「ぼくも……ましろがすきだ」

「えへへ、やっと素面で言ってくれた」

「これでもいっぱいいっぱいだよ、録音とかしてないよね?」

「してないから、次の機会に……おやすみ」

「おやすみ」

 

 その光の道しるべを言葉にするのは、私じゃなくてセーくんだから。

 私はこうなった今を大切にしていくだけ。だいすきな人と一緒に居られる世界で、毎日を出来るだけ意味のあるものにしていくだけだから。

 

 




場面場面の切り替えで九月頭、十月中盤、十一月下旬、十二月末となっています。

その約四カ月でどう二人が変化したのか、次回からセージ視点で追いかけていきます。
それでは、よいお年を!
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