酔った勢いで教え子に手を出した男の末路   作:黒マメファナ

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あけおめです。
まぁここまで山もなく谷もない物語に付き合っていただきありがとうございました。

やっとエモーショナルします。セージが


第三章:エスプレッシーヴォ
⑯自惚れた男の末路


 夏休みも終わり、九月になった。

 ひょんなことからましろだけでなく、透子とつくしの夏休み課題と実力テスト対策まで見たぼくは、すっかりモニカの教師みたいな立ち位置になってしまっていた。

 

「んで、二学期最初からチョー気分あがった!」

「それはよかった」

「ルイがちょっと目でかくなってさ、それもマジでざまぁみろって感じでさ」

「点数はるいさんのが上だった気がするけど」

「シロ~、違うんだよこればっかりは気分の問題! 点数取れるわけないってルイをびっくりさせただけであたしの勝ちなんだって!」

 

 流石にぼくの部屋に何度も何度も上げるわけにはいかないため、羽沢珈琲店を選択した。

 丁度つくしがバイトに入ったばかりのようで、忘れ物をしていないか手でメモ帳やペンを確認していた。

 

「あ、いらっしゃいませー!」

「よっ、ふーすけ」

「こちらどうぞ」

 

 ましろだけならまだしも、透子まで一緒にいる理由は非常に単純で、実力テストの慰労として奢ってほしいという話だった。キミは金持ちでしょうが、と言ったがそれとこれは別ということらしい。

 

「だってさ、シロばっかじゃずるくね?」

「私は透子ちゃんと違って、カレシでもあるから」

「カレシじゃないけどね」

 

 さらっと恐ろしいことを言わないでほしい。確かに、透子とましろの扱いはぼくの中では違うと明確に言える。さっきのように家に上げるのはハードルが高いし、そもそも個人的に会うことすら避けたい。

 だけどましろは週2で家に上がるどころか泊まっているし、キャンプ辺りからはバンドの練習終わりに七深の家まで迎えに行くようになった。デートもするし、スキンシップにはまだ慣れないけど二人きりで過ごす時間に対して何かを思うことも少なくなっていた。

 

「次は今月末にCiRCLEで三回目のライブがあるんだよ」

「そうなんだ、そっちも聴きに行くよ」

「おっしゃ、夏休みのライブも盛り上がってたしさ、あたしら今イケてるよな!」

「うん」

 

 確かに、モニカは新参バンドの中ではうまくスタートダッシュできているだろう。ぼくは他のバンドを聴かないから比べることはできないけれど、特に八潮さんの安定感がバンド全部を支えている印象が強い。つくしは地道に努力をしているみたいだし、透子と七深は初心者だから伸びしろがあって、ましろも上手になってきている。

 

「だからってあんまり調子乗りすぎると、足元掬われるよ。それは勉強もスポーツも、きっと音楽だって同じだろうからね」

「大丈夫だって! センセーは慎重すぎ、ウチら今最強だから! なんならさ、十月からある……なんだっけ、ホラあれ! 武道館ライブできるやつ!」

「──ガールズバンドチャレンジ」

「セーくん、知ってたんだ」

「うん、美城先輩がそんな話をしてたよ」

 

 この辺一体のライブハウスと楽器メーカー、楽器店が共催するかなり大きなバンドオーディション、約二ヶ月半に及ぶ予選期間、加入しているライブハウスで演奏すると観客から投票してもらうことができ、その票数によってクリスマス前の23日に上位二組が決勝で、なんと武道館で演奏することができるというかなり大きなイベントだ。

 

「あれ参加したらワンチャン武道館もあるんじゃね!」

「そ、そうかな?」

「だって、めっちゃいい感じじゃんモニカ!」

「……ぼくは、慎重になった方がいいと思うけど」

「え?」

 

 ──盛り上がっている透子に対して、ぼくは迷ったけれど水を差してしまう。確かに参加してみることに意義を唱えるわけじゃない。ただ、ワンチャン武道館もある、という気持ちで参加することには慎重になった方がいい、と口を出したくなってしまった。

 

「ぼくはモニカ以外のライブを生で感じたことはない。けど、そんなぼくからしてもモニカは発展途上だ」

「……セーくん」

「いやいや、二ヶ月で急成長するって! あたしら努力もハンパない──」

「──努力が出来る人は才能だって、ぼくも思ってる。実際に透子もましろもぼくからすれば天才的に音楽の才能があるよ」

「でしょ!」

「けど、武道館を目指そうってバンドはその努力なんてまるでなんてことないかのように出来て、かつ常に自分たちのスタイルを模索し続けていると思う。それに、東京中のガールズバンドがたった二つしかない席を争うイベントだ」

「……うん」

「勝てるの? 相手にはキミたちがバンドを目指すきっかけになった、ガールズバンドパーティの人たちもいるんだよ?」

 

 ──ましろはそこで、少しだけ納得したような顔をした。あの五つのバンドが必ず全部出演するとは限らない。アイドルグループで事務所所属の「Pastel*Palette」やライブハウスよりもボランティアや主催で予定が詰まっているであろう「ハロー、ハッピーワールド!」は出演しない確率の方が高い。

 でも、それを抜きにしても「Afterglow」や「Roselia」という有名なバンド、そして何よりましろの全ての始まりである「Poppin' Party」に勝つつもりで挑まなきゃいけない。

 

「……透子は、納得しないみたいだね」

「あったりまえじゃん! 誰が何と言おうと今のあたしは最高にイケてるギタリストだから!」

「そっか、わかった……少し待ってて」

 

 そう言ってぼくは店の外に出て電話を掛ける。この時間なら羽丘で生徒とイチャイチャしていることだろう。

 それで丁度いい、彼女たちの「先生」として、少しくらい余計なお世話も焼いてみよう。

 

『おう、どうした?』

「今よろしいですか、先輩……美城先輩に報告されたくない状況ならかけ直しますが」

『いや、大丈夫だ……で?』

「先輩の伝手を頼りたくなりまして」

 

 そう言って事情を説明する。その上でぼくは上記した三つのバンドのチケットが手に入らないかを訊ねていた。先輩は「Poppin' Party」との繋がりは多少薄いけれど「Roselia」には今井リサさんと氷川紗夜さんがいるし「Afterglow」なんて担任までしている。事情には詳しいはずだ。

 

『参加バンドか、オレの知ってる限りじゃ戸山たちは出る、蘭たちは商店街のイベントがあって本選には参加できねぇから無理だって言ってたな』

「Roseliaは?」

『待ってろ──ヒナ、もうすぐあるイベントだけど』

 

 本当に先輩はこういう時に役立つ。どうやら天文部の部室にいるみたいだ、日菜さんの明るい声が電話口からでも聞こえてきて、どうやらそのすぐ後に大きなイベントがあるにも関わらず出演するつもりがあることを仄めかしていることを教えてくれた。

 

『今日のライブ、チケットあるらしいけど』

『最大三枚もらえるって、あたしは仕事で行けないけど』

『……どうする?』

 

 ぼくはそこで羽沢珈琲店へ来てほしいと伝えた。おそらくだけど「Roselia」はイベントに出演するバンドの中で最も武道館に近いバンド、と言えるだろう。

 渡りに船だ。ぼくは早速、ましろと透子にもそのことを伝えた。

 

「オレには学校外の活動に対してそこまで認知してねぇし、出たけりゃ出ればいいと思うけどな」

「さっすが清瀬センセー、話がわかるじゃん!」

「先輩……」

「けど全体のレベルは知っといた方がいいだろ──井の中の蛙大海を知らず、っていうしな?」

「けどそれって、されど空の青さを知るって続くやつでしょ? あたしらだって──」

「そりゃ後についたカエルの言い訳だよ、空の青さを知ったって、海の大きさは知らねぇまま、カエルはどう頑張っても空は飛べねぇしな」

 

 先輩の言葉に透子はまだ何かを言おうとするけど、ましろが何も言わないことに気付いて溜息を吐いた。

 ──今回ばかりは、正直先輩の言い分が正しいとぼくも思っている。全体のレベルを知って、それでも武道館を目指せるという確固たる自信があるなら出ればいい。

 こうして、色々とありつつも先輩と一緒に「CiRCLE」へと向かった。

 

「みみと現地で待ち合わせなんだよ、あいつ、すっかりガールズバンドにハマっちまって」

「それで付き合わされてるんですね」

「まぁしかもチケットねだればもらえる立場にいるからな、オレも」

 

 自動ドアを潜る前にポスターが目に入った。相当大規模なイベントだ参加バンドも300に届くかもしれない、という話もあるらしい。

 その数字に、流石の透子もヨユーとは言わなかった。ましろは、少し俯いて黙っていた。

 

「はいじーたー、これ貸してあげる! ましろちゃんたちも」

「……ペンライト」

「いつもの流れだと最初の曲はFIRE BIRDだろうから赤でセットしとくといいよ!」

「詳しいですね先輩」

「リサちゃんと紗夜ちゃんいるからね! 後は友希那ちゃんとも茶飲み友達だから!」

「羽沢珈琲店、入り浸ってるって話は本当だったんですね……」

「りーちゃんとね!」

 

 その言葉通り、美城先輩はすっかりファンガに成り果てていた。

 そして、その圧倒的な音と技術、世界観を言葉で表現することはできなかった。そしてそれは透子やましろも同じだったようでペンライトを振ることを忘れて聞き入っていた。

 ──井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る。彼女たちは、その空の高さがどんなものかを知ったのだろう。

 

 

 


 

 

 

 それから数日後、いつもの家庭教師が終わり、夕ご飯を食べる。

 どうやらモニカで聞きに行った時よりも更にバンド全体のレベルが上がっているらしく、透子は紗夜さんをリスペクトして目を輝かせていたものの、同時に意気消沈もしていた。

 

「結局、出ないことにしたよ」

「そっか」

「……清瀬先生の言った通りだったかも」

「ん?」

「私たちは、海がどれだけ広いかも、空がどんなに高いのかも知らない、飛び方も知らない芋虫なのかもって思っちゃった」

「先輩もそこまで言ってないと思うけどね」

 

 けど、今日のライブがましろたちに影響を与えたことは事実なんだろう。

 身の程を知れ、なんて強い言葉を使うつもりはない。特にましろなんて自分に自信がなくてすぐに逃げ出すような癖があったのだから自信を持ってくれるのはぼくとしても好ましくさえあるだろう。

 ──だけど自信と慢心は違う。ましろが自分に自信が持てるようになったのなら、次を見据えてほしい。自信を持って、何かを成すのか、それともその成功体験を人に教えるのか、方法はなんでもいいのだから。

 

「……私、変われてるよね」

「ぼくは、ましろが日々成長してると思ってるよ」

「そっか」

「いつも言ってると思うけど、ましろは出来るよ。小さなことから少しずつ、できるを増やせるようにぼくも出来る限りのことはするから」

「……ありがとう、セーくん」

 

 ──思えばこれが、最初のきっかけの更に前、顕在化する前の問題だったのだろう。子ども時代の成功も失敗も、大人からすれば挑戦していることこそ財産だ。挫折の苦しみを忘れ、挑戦という新しさにリソースを割けない大人はそう思ってしまう。だから時に、無責任な程にやればいいという言葉が飛び出す。

 それによって、輝いていた青春にヒビが入ってしまうことなんて、気づきもせずに。

 

「──CiRCLEのライブ、楽しみだな」

「ぼくも楽しみにしてるよ」

「うん」

 

 そういうバンドのあれこれ、ぶつかって成長していくこと。本来は彼女たちが自分で悩んで、自分で解決する青春の一ページだろう。

 でもぼくは今回、中途半端に手を出した。先輩がどうしてバンドに関して、いやそもそも相談されてもアドバイスだけをして、自分が関わってないと判断すると消極的なのか理解すらせずに。

 

「そりゃ相談されたらちょっとはそれっぽいこと言ってやるけどな、バンドなんて教師(オレたち)になんか言われて方向変えるもんじゃねぇんだよ。少なくとも音楽活動なんて正解がねぇ以上、教師の手が及ぶところじゃねぇよ」

 

 ぼくの失敗は能動的になってしまったことだった。モニカに「先生」なんて呼ばれて浮かれていたんだろう。透子の有り余る自信がよくない結果を生んだとしても、それが間違いだってことに自分で気付かなくちゃいけなかった。ましろの本質が向上心とは正反対のところにあることも、いつの間にか忘れていた。

 

『……せ、セー、くん……!』

「ましろ?」

 

 ──だから、最悪の状況を更に下回ったことになって初めてぼくは自分が愚かだったことに気付く。

 ましろが見つけた輝く景色を、見失った後に気付いてしまうなんて──ぼくはなんてバカなヤツなんだ。

 

『わ、わたし……もう、学校……やめる──セーくんとも、誠二さんとも、さよなら、する……ごめん、もう、私──輝けない』

 

 電話が切れる。かけ直してももう、繋がることはない。

 ぼくとましろの繋がりも、モニカとの繋がりも、途絶えてしまった。

 己の自己満足と自惚れが引き起こした失敗は、取り返しがつくことなく終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




誠二くんとましろは結構似たもの同士なんですね。
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