酔った勢いで教え子に手を出した男の末路   作:黒マメファナ

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タイトル回収ってやつ?


㉒酔った勢いで教え子に手を出した男の末路

 瑠唯の言葉に前を向かされ、つくしと透子の言葉でぼくは自分がすべきこと、成るべき教師というものを再確認した。そうすれば後は、ましろにそのことを伝えるだけ。

 今日は家で待っていると、ましろが合鍵を使って家に入ってくる。

 

「セーくん」

「ましろ……」

「ごめん、セーくん……みんなに話しちゃった」

「ううん、大丈夫」

 

 不安そうに抱き着かれるけど、もう解決したことを伝えないといけない。

 ぼくは一度紅茶を淹れて、今日の勉強をお休みということにしてましろと向き直った。

 別れ話をするつもりなんてない。むしろその逆だった。

 

「……ごめん、私……セーくんを、苦しめてたよね」

「ましろ?」

「るいさんに言われたんだ。大人だからって、なんでも甘えていていいわけじゃないって」

「瑠唯に……」

「私は、知ってほしかっただけだったのに、どうしてこうなっちゃったんだろう」

「知って、ほしかった」

「うん」

 

 ましろは、ゆっくりと語り出す。あの時の、ぼくが泥酔した日のことを。彼女のスキンシップにまんまと引っ掛かったぼくが、ベッドで彼女を押し倒して彼女が許すままに身体を貪ったこと、その時の気持ちも。

 

「ぼくは……言ってたのか」

「うん、だからセーくんが私のこと……すきってこと、本当は知ってたんだ」

 

 なんて迂闊というか、記憶にないから考えもしなかったけど、ベッドで性欲に溺れたぼくがそんなこと口走らないわけがないんだ。きっとぼくなら、罪悪感も含めてそうやってましろに許してもらおうとするだろう。浅ましくも、惨めに愛を囁くことで自分を赦そうとして、ましろはきっとそんなこと気づきもせずに受け入れてくれる。

 

「でもそれからは、まるで元に戻っちゃったみたいに……覚えてないから、なんだろうけど……それでも、あの時のことをなかったことにされて、本当はずっと、寂しかった」

「……そう、だよな。恋人かどうかすら中途半端になって、半年……放置してたんだよな、ぼくは」

「一緒にいられるのはすごく嬉しかったし、セーくんの本当の気持ちは知ってたから、私もいっぱい好きって言えたし、時々……えっちな誘いもできたんだ」

 

 ましろが大胆になっていたのは、そういう理由だったのか、と今更ながら納得してしまった。ぼくが本当の意味で拒絶しないと解っているから、本当の気持ちをもっと伝えてほしくて迫っていた。でも、ぼくはそれを躱し続けた。最後の線は越えないようにと努めてきた。

 最初はそれでもよかったのだろう。自分が大人になった時は、高校を卒業すれば、そういう気持ちがあったのかもしれない。だけど、悠長にしていられないことが起きた。

 

「夏休みで、セーくんがモニカのみんなと仲良しになって……それはよかった。先生としてのセーくんもすきだったし、つくしちゃんや透子ちゃんとセーくんのお話するのも、結構楽しかったよ」

「きっかけは、ましろが学校を辞めそうになった時のこと」

「……うん」

 

 あの時、ぼくはましろとは話さなかった。会ったにも関わらず瑠唯と話をするために追いかけなかった。

 ましろを説得できるのはつくしだけで、七深だけじゃ瑠唯の説得は難しそうだったから、そうやって表面だけを見てぼくは瑠唯に向き合った。結果、モニカ五人が先生として認めてくれたけれど、その裏でぼくの選択によって傷ついているましろがいることに、気づけなかった。

 

「……怖かった」

「ましろ」

「私は五人の中でも特別だってずっと思ってた、何するにしてもセーくんはモニカがみんな揃ってたら私を最優先にしてくれるって、私が好きだからいざとなったら私だけを見てくれるって、そう思ってたのに……そうじゃなかった」

「あの日、ぼくはましろと瑠唯で優先順位を付ける時──()()()()()()()の最良を選んだつもりだった」

「……うん、()()()()()それでよかったと思う」

 

 モニカのため──瑠唯にはましろのためとか言っておいてだが、あの時ぼくはましろ個人への感情よりも彼女たち五人がまたバンドとして輝ける青春のことを考えて、その中から正しい道を選んで彼女たちに提示した。それは正解だったんだろう、実際にこうしてバンドを続けて、瑠唯も前よりも幾分か素直になったように感じるし、アオゾラバンドコンテストの結果を受けてもっとうまくなろうと透子たちも練習を重ねている。

 ましろにとってはそれがショックだった。追いかけてこずにあの日、ぼくは瑠唯と話をして、知らない間に瑠唯のことを名前で呼ぶようになっていたことで、ましろは胸の裡に黒いシミのようなものを抱くようになった。

 

「その黒いモヤモヤがね、私に言ってくるの。えっちなことをすればいいんだって、セーくんが私を抱いて、気持ちよくなってくれたら、また前みたいに私を優先してくれるって」

「……ましろ、ごめん」

「うん」

 

 ぼくも、最初はそうするべきだと思った。だから離れたし、モニカに近づくべきじゃないと思った。

 だけど、他の四人は誰も、ぼくを逃がしてはくれなかった。ましろの逃げ癖に慣れてきたのか、先回りをしてぼくをもう一度、同じ場所に戻してくれる。

 

「ぼくは、ましろが好きだ」

「……うん」

「だから誘われても強く拒絶できないし、ましろの誘惑に引っ掛かってベッドに連れ込む最低な大人だ」

「うん」

()()、ぼくは……誰かに先生と呼ばれる限り、教師でありたい。ましろへの気持ちも、教師としての生き方も、ぼくはどっちもほしい」

「欲張りだね」

 

 きっと、モニカに出逢えなかったらこんな欲張りなことも言えなかっただろう。二つに挟まれて、黒にも白にもなれずに、まるで深い海で足を取られたように暗く、光の届かない場所に引きずり込まれていっただろう。

 だけど、今のぼくなら言える。それを赦してくれる生徒たちに出逢えたのだから。

 

「ふふ……カッコいいね」

「ぼくは、今の自分がとてもカッコ悪いと思ってるよ」

「どうして?」

「ただましろから想われてるだけなら、こんな風にはならなかったのに……どっちかなんて選べないくらい、ましろがすきなんだから」

「……セーくん」

 

 選ばないといけない、なんて誰かから言われたわけでもない。だったらぼくは選ばなくていい、ぼくの正義はぼく自身が決めればいいんだ。

 ましろは嬉しそうに腕の中に納まってくる。もう、黒いモヤモヤはいなくなったのだろう。昏い表情をすることのない、いつものましろだ。

 

「あの……セーくんはさ、罪悪感、あるんでしょ?」

「あるね、ましろを悲しませた分の償いをしないと」

「だったら……えへへ、お願いがあるんだけど……」

「なに?」

 

 するとましろはスマホの録音機能をオンにする。ぼくが無言で戸惑っていると、彼女は今まで見たことがないんじゃないかというくらいの眩い、純白の笑顔をぼくに向けてきた。

 ──いつものましろ、というのはぼくが抱いた幻想だったのかもしれない。

 

「前から思ってたんだよね、セーくんに告白されたり……その、えっちな誘いをされた時の、音声……ほしいなぁって」

「ましろ? ねぇましろ? それは危ない性癖じゃないかな?」

「それでも、セーくんは私がすき……でしょ?」

 

 あまりにも恥ずかしいセリフを録音されてしまい、ぼくはしばらく逃げ出したい気持ちでいっぱいになったが、ましろが逃がしてくれる筈もなく、遠慮しなくてもいいと思ったのか煽ってくる始末だった。ぼくが弱腰になるとすかさず、録音を再生してぼくを怒らせるというまた別の快感に目覚めるまでになり、ましろはぼくのせいで変わってしまったようだ。

 

「オレに愚痴ってくんな、そんなもん」

「先輩以外に愚痴る相手、いませんよね! というかましろにそれを教えたのアンタだって聞きましたけど」

「そうだったか? オレは桐ヶ谷に訊かれて、そのまま教えただけだと思うんだけどな」

「生徒になんてこと教えてるんだ……」

 

 後日、ぼくは先輩に一応の感謝の言葉を述べようと思ったのだがこうなってしまった。

 どうやらましろが透子に「セーくんは怒らせると口調が荒くなる」ということを交えつつ、それをうまく引き出す方法について訊ねた。答えが見つからなかった透子が偶々羽沢珈琲店で紗夜さんと話していたところに遭遇、まんまを伝えて、だったらと誘い受けの方法を伝授したらしい。アンタのせいじゃないか。

 

「いや、最後にそれを思いついたのは紗夜だな」

「……俄かには信じがたい話ですね」

「オレも最初は頭がおかしくなったのかと思ったもんだ」

 

 その誘い受けとやらにまんまと引っ掛かっているぼくもぼくではあるが、それは棚上げしておくとしよう。ましろに余計な知識を吹き込まないようにと注意してきたのに、ちょっと油断するとこれだ。だから先輩にましろを近づけたくなかったんだ。

 

「カノジョとの性生活は充実させるに越したことねぇだろ」

「……相手、女子高生ですけど」

「その女子高生に手ェ出しとして聖人ヅラかよ、笑えねぇな」

「言うに事欠いて……」

「オレは出してねぇんだよな、みみのおかげで……」

「……とにかく、ありがとうございました!」

 

 それを奥さんのお陰にするのはどうなんだと思いつつ、ぼくは最後の最後に感謝の言葉を強引に述べて立ち上がった。

 羽沢珈琲店を出て、自宅の駐車場までの少しの道を車で向かい、降りたところで紺色のセーラー服の五人組がこっちに向かって歩いてきていた。

 

「おーい、センセー!」

「透子……というか、全員でどうしたの?」

「実は……えっとね、セーくん」

「言いづらいことなんですけど……その」

「倉田さん、桐ヶ谷さん、二葉さんの中間の結果が芳しくなかったので、急遽練習を中止しました」

「それで~、勉強会をしようってなったんですけど~」

 

 それ自体はなんら不思議なことではない。ぼくは中間を見る暇はましろしかなく、そのましろも憑りつかれたように、ぼくを誘惑して勉強もそこそこにベッドへ入ることも少なくなかった。ぼくも悪いが成績が落ちるのもやむなしという結果だったのだから。

 

「学校の図書館を出禁になっちゃった……えへへ」

「なにしたの?」

「桐ヶ谷さんがうるさいからよ」

「ルイの教え方がイチイチ腹立つからだよ!」

「率直な感想を述べただけだけれど」

「その感想が腹立つんだって!」

「……こんな感じで~」

 

 納得した。瑠唯と透子は相変わらず水と油のようで、涼しい顔して素早く言い返す瑠唯と、それにつっかかる透子という二人が静かにするということは不可能だし、ましろたちも集中できないだろう。

 だからぼくの家で勉強会をしたらいいんじゃないかってこと? 透子辺りが提案しそうだと思っていると、意外な人物が声を出した。

 

「倉田さんが元々しているのだから効率的かと思いまして」

「──ってるいるいが先生の家に行きたいって~」

「……広町さん」

「いや、バレバレだから!」

「な、なるほど……だからやけにるいさんの動きが素早かったんだ」

「うぅ……セーくんとのイチャイチャが」

 

 なにやら思惑があるらしいけど、ましろには安心してほしいところだ。この状態だったらぼくは教師としての顔を保っていられるからね。

 ひとまず部屋まで案内して、瑠唯だけは初めてだから少し落ち着かない様子だったけど、ましろのためと片付けておいてよかった。

 

「全員、中間の結果は?」

「一応全員赤点はなし!」

「なくて当然でしょう?」

「るいるいはトップクラスで、私は平均点くらいぴったり~」

「今回は全部50点じゃなかったんだ」

「うん~、ちょっと色々あってね~」

 

 後の三人は平均点を割ってる教科が幾つかあった、と。瑠唯としてはモニカが「月ノ森のバンド」として認知され始めているが実のところバンド活動自体は学園側から認可されていないものとなっている。厳密に言えば校則違反に当たるのを学園長が形骸化してるしと目を瞑っている現状だそうだ。

 

「へぇ、月ノ森って校則厳しそうだけど」

「昔はそうだったし、生徒手帳に記載されてる規則を全て守れば、おそらく先生は厳しいと仰ると思います」

「スマホの使用とかも本当はダメなんだよね?」

「けど、イマドキじゃないから無視されて当然じゃん?」

「当然ではないね、規則は変えてもいいとは思うけど、スルーしていいわけじゃないっていうのが教師としての意見かな」

 

 ちょっと話は逸れたけど、そのため活動を先生からの心象に左右される恐れがある。もっと明け透けな話をすると悪目立ちすると活動を禁止されるかもしれないと瑠唯は懸念していた。だからこそ、隙を見せないために学業はしっかりしようということらしい。ぼくも賛同するよ、確かに成績がよくなればその分先生からの心象もよくなる。生徒側からすると嫌な気分になるハナシだが、今は瑠唯がいるから成り立っている活動という側面はあると思う。

 

「モニカのみんなには秘密にしていてほしいのですが……そのために、来年度は生徒会長も視野に入れています」

「モニカの活動が阻害されないように?」

「はい」

「内緒なのは、いいけどさ……もし何かあったらぼくに相談して」

「……もちろんです。いざという時は頼らせてもらいます」

「あ、るいさんとイチャイチャしないで!」

「してないよ」

 

 ひとまず、二学期末の全員全教科平均点以上を目標にぼくだけじゃ手が回らないから瑠唯と、七深に手伝ってもらうことにした。

 平均点ギリギリ上かピッタリの彼女を教師側に回らせたのは、瑠唯が見せてくれた答案にあった。なんで瑠唯が持ってるのかについては、秘密にされたけど。

 ──答案は、正解か空欄かの二択だった。そして一学期中間は全て50点で「これで真ん中でしょ」と笑っていたらしい。

 

「わ、私も教える側ですか~?」

「うん……できない、とは言わせないからね」

「うっ……るいるい、先生に何か言った~?」

「何も言ってないわ」

 

 言ってはいないわ、とぼそっと呟いていた。瑠唯もこういうところあるんだなぁと思うとまた彼女もぼくを見て微笑み返していた。当然、その瞬間にましろが妬いてくるんだけど、この状態で本当に二時間の勉強会でもできるんだろうか。

 わいわいと盛り上がる中で、ぼくはましろにしていた勉強とは違うものを求められ始めたことに、とてもやりがいを感じるのだった。

 

 

 

 




酔った勢いで教え子に手を出したら、生徒が増えました! なんかの詐欺みたいだな
これで終わり、というわけじゃないんですね。
あとちょっとだけ続きますよ。
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