酔った勢いで教え子に手を出した男の末路   作:黒マメファナ

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助けてちぇんそーまん


第四章:ブリランテ
EX:音楽の悪魔、不協和音


 あっという間に季節は巡る。二学期末はモニカ全員、目標の平均点以上を取ることができた。でもすっかりモニカで勉強会が当たり前になったせいか、その後もセーくんは私の家庭教師じゃなくなった。

 最初は嫌だなぁとも思ってた。ちょっと前までは勉強の合間にもイチャイチャできてたのに、できなくなったから。でも、馴れるとみんなで過ごす時間は楽しくて、キラキラしていて、学校やバンド練習中とは違った顔が見れるのもよかった。

 

「ルイには教わりたくない!」

「……はぁ」

「今溜息ついた?」

「落ちついて透子、瑠唯も」

「私は落ち着いています」

 

 透子ちゃんとるいさんはいつもと変わらない。セーくんが間に入って透子ちゃんを宥めてると余計にるいさんが言い返しちゃうところくらいかな。

 でもななみちゃんはリラックスしてる感じがする。あと、平均点ギリギリの筈なのに教えるのは凄く上手で、コツを訊いたら、学校で教えてることをそのまま同じように言ってるだけと言われてしまった。

 

「つくしは、ケアレスミスが多いね、それを直せれば透子よりも成績よくなると思うよ」

「が、頑張ります!」

「ましろもそうなんだけど、焦ったり、同じ問題で固まるとよくないよ」

 

 勉強会はつくしちゃんに一番効果があるみたいで、元々は先生に質問する勇気がなかったところをセーくんが補ってくれて、そのおかげみたい。るいさんはるいさんで先生にすればいい質問をわざわざセーくんに訊いてるのはちょっとヤキモチだ。

 

「勉強会があるから、その時までに纏めておけば効率的だと思っただけよ」

「……セーくんとおしゃべりしたいだけじゃなくて?」

「倉田さんから略奪する気はないけれど、片想いくらいは許してほしいわね」

「う……いいけどね」

 

 いいもん、セーくんのカノジョは私だもん、と精いっぱいの虚勢を張ってみるけど、るいさんは大人っぽいし、セーくんと並んでてもあんまり年の差感じないし、落ち着いた大人な雰囲気だして話してる時あるし、私は不安で仕方ない。

 

「頼られるのは嬉しいけど、それはあくまで教師としてだよ」

「私は?」

「言わせたい?」

「うん」

「恋人として、大切で特別な人だから……じゃないと後ろから抱きしめたり一緒に寝たりしないよ」

 

 クリスマスにはイルミネーションがキレイな場所に出かけて、いっぱいお互いの好きを交換しあった。年末の年越しはモニカみんなとセーくんちに突撃してそのまま夜中の神社に初詣へ行った。

 その後はセーくんと帰省をして、そこで初めて、私は叔父さんと叔母さんに付き合ってることを報告もした。

 

「怒られたよ」

「私と報告してた時はそんなことなかったよ」

「いや、なんでもっと早く報告しなかったんだってさ」

 

 相手は親等の近い親戚な上に11歳も年下の、女子高生に酔った勢いで手を出してましたなんて言えるか、とそこまで明け透けじゃなくても文句を言ったみたい。そうしたら私としては予想通りの反論をされたんだって。

 ──言いにくいからこそ、もっと早く教えてほしかった、だって。

 

「ぼくがおかしいのかな?」

「どういうこと?」

「父さんも母さんも、叔父さんも叔母さんも、モニカも、みんな普通に受け入れるんだから」

「それはきっと、セーくんが悪い人じゃないからだよ」

 

 セーくんが悪い人だったらきっと、もっと拒絶されていたと思う。私たちがどれだけ好き合ってると言っても、反対された。

 それはきっと、セーくんが女子高生と付き合っててもお互いがいいならそれでいいって思ってもらえる生き方をしてきた証拠だと思うよ。

 

「ぼくは悪いやつだよ、教え子に手を出す」

「好きな人とえっちなことしたいって思うことが、悪いことなの?」

「……狡い訊き方だ」

 

 お父さんとお母さんにも正式にお付き合いしてることを伝えて、週2回の勉強会とその後のお泊りは継続して許してもらうことができた。その代わり、少なくとも月1回はセーくんがうちに来たり、外食をしたりして家族と過ごすことを条件として付けくわえられた。

 週2回の勉強会がもう私だけの時間じゃない、っていうのも後押しになってくれたような気がする。

 

「ごきげんよう、シロ!」

「透子ちゃん……ごきげんよう」

「こっちから来たってことは、実家からじゃん」

「実家って言い方はよくないと思うよ、流石に始業式前からお泊りなんてしないもん」

「ごきげんようとーこちゃん、しろちゃん」

 

 ──そして、私とセーくんが日常を繰り返すうち、季節は過ぎていく。

 春になって、私も、モニカのみんなも二年生になった。モニカのみんなと、セーくんと、一緒に居て輝けるって思えた一年を終えて、今の目標は「Morfonica」としてステージに上がった月ノ森音楽祭にもう一度立つこと、それと「G(ガールズ).B(バトル).T(トーナメント)」を勝ちあがることだ。

 

「ななみちゃん、ごきげんよう!」

「つーちゃんもごきげんよう……あとるいるいも」

「……げ、ルイ、いつの間に……」

「こんなところで何をしてるのかしら? それと、嫌な顔をする前に挨拶を忘れないでもらえると助かるわ」

「ルイだって言ってないから!」

「ご、ごきげんようるいさん」

「ごきげんよう倉田さん」

 

 私たちの関係は、あんまり変わったところはないけど、夏の終わりには挑戦することすらなかった「Afterglow」と「RAISE A SUILEN」も出場するトーナメント形式のライブイベント、特にRASは去年の冬、結成して間もないのに香澄さんがボーカルをしているポピパ、今やプロとして更にその名前を世間に轟かせてる「Roselia」と一緒に武道館でライブをした、すごいバンドだ。あの時は競うことすら諦めた相手、そう思うと自分たちの成長を実感できる。

 

「そのためには月ノ森本来の理念に基づいた生徒会を組織することで──」

 

 始業式では新しい理事長先生がすごく厳しい表情と口調で、いっぱいお話をしていて、すごく信念と情熱がある人なんだって思った。

 でも、その理事会と生徒会の会議に学級委員長の仕事も増えたことで、透子ちゃんもつくしちゃんも、るいさんも忙しくなってしまった。

 

「あれ、るいさんとセーくんは?」

「え、あれ~」

「ま、いいじゃんいいじゃん、それよりさG.B.T.三回戦突破したらさ、ベスト16だよ!」

「ベスト16……!」

「しろちゃん、浮気とかじゃないと思うよ~」

「……でも、るいさんってまだセーくんのことすきっぽいし、二人きりで抜け出してるって思うと胸がチクチクする」

「広町調べではね~、生徒会のことで相談してるみたいだよ~」

 

 そっか、生徒会のことで私たちには相談できなくて、月ノ森の先生には頼まれてる立場だから悩んでる、なんて思われたらだめで。生徒会長って本当に大変なんだなぁと思うと同時に、そんなるいさんが唯一、気軽に相談できる相手がセーくん、っていうのが少しモヤモヤしてしまう。

 

「瑠唯はモニカのために、月ノ森のために頑張ってるんだけど……ちょっと厳しいことが多いみたい」

「そ、そうなんだ」

「……ましろ、どんなことがあっても瑠唯のこと、モニカのメンバーとして信じてあげてほしい」

「それはもちろんだよ」

「そしてできれば、ぼくのことも信じてくれると嬉しい」

「信じてるけど……それとヤキモチは別でしょ?」

 

 そのせいか、みんなを送っていった後、二人きりになって我儘を言いすぎちゃったかもしれないけど、セーくんは許してくれる。それが嬉しかったし、セーくんがいれば曇り空だったとしても傍にいてくれればなんとかなる。そう、思えた。

 

「ん……でも妬いちゃった分、いっぱい、すきって言って」

「ましろ……うん、すきだよ、ましろ」

「えへへ、セーくん」

「はいはい、おいで」

「やったぁ」

 

 二回目のえっちからもう半年が過ぎて、最初のえっちからも一年が過ぎようとして、漸くセーくんも素直になってきたというか、遠慮がなくなってきたような気がする。ハグやキスも当たり前のようにしてくれて、ベッドに誘ってくれる。

 気持ちが繋がってるだけでも幸せなことはいっぱいあったけど、お互いを求めあって、愛してるっていう気持ちを性行為で伝え合うというのは、終わった後のイチャイチャも含めて全部すき。

 

「デートしたいなぁ……」

「じゃあG.B.T.の三回戦の結果が出たら行こうか」

「うん……もう一つ、わがまま言っていい?」

「とりあえず聞くだけね」

「もし、三回戦、突破できてたら……勉強会お休みして、デートしよ?」

「……クリスマスの時みたいに?」

「うん」

 

 ドライブして、陽があるうちは色々見て回って、陽が落ちたらキラキラのイルミネーションを見て、家じゃなくてちょっと奮発したホテルで一泊したあのデートは、すごく心に残ってた。ディナーのビュッフェは、ちょっと緊張していっぱい食べられなかったけど、恋人と過ごす特別な夜って雰囲気がすごくよかったから。

 

「そこは優勝、とかじゃないんだね」

「ゆ、優勝は……できたら、いいなとは思ってるけど」

「ライバルが強いもんね」

「……うん」

 

 三回戦を突破した四回戦、順調にいけば相手は「Afterglow」になると思う。そこでもし勝つことができたとしても、五回戦、準々決勝、準決勝とまだ三回勝ち抜いていかなきゃいけなくて、優勝候補筆頭であるRASとは決勝で当たる可能性がある。透子ちゃんも、モニカ全体としても、私もモニカのボーカルとして負ける気なんて全然ないけど、正直に言うとRASとモニカの実力は圧倒的に開いてると思う。

 

「ましろらしいといえばましろらしいけど……そうだな、三回戦突破してたら、車で少し遠出して行ける大きな水族館と、その近くのホテルを調べておいて」

「わかった……!」

 

 毎回こんな豪華なご褒美をもらうわけにはいかないだろうけど、こうやってセーくんが頑張らせてくれるのが嬉しい。セーくんも、私たちが勝つことを信じてくれてる気がして、応援してくれるとすごく心強かった。

 

「三回戦も突破したよ!」

「うちら最強!」

「まだベスト16よ、気が早すぎるわ」

「そ、そうだよ!」

「おめでとう、みんな」

 

 そして、実際に勝ったら本当に喜んでくれる。私は、そんな先生であり、恋人のセーくんのことがますます大好きになれた気がした。

 バンドも順調、恋も、順調で幸せな日々を過ごしていた私だったけど、急に空から雷が落ちてきたみたいにバンド、学校、恋の日々に「音楽の悪魔」を降臨させた。

 

「倉田さん……誠二先生と、別れてくれるかしら」

「……え」

 

 るいさんから、急にそんなことを言われた。瞬間に、今まで色鮮やかだった月ノ森のネモフィラが淡い青色から灰色になっていく。ネモフィラだけじゃなくて、月ノ森の春を彩っていた花々が、マーガレットの黄色もポピーのピンクも、全部が灰色に変わっていくみたいだった。

 

「ど、どうして……急に呼び出して、そんなこと、言われても」

「私も、こんな急に言うのは申し訳ないと思ってるわ……でも、もうあそこでの勉強会もやめて、外で会うのは控えておいてくれるかしら」

「……なんで?」

「……まだ、言えないわ」

 

 るいさんは目を伏せて、何かを堪えるような顔をした後で踵を返して去っていく。

 追いかける気にはなれなかった。どうして今になって、セーくんと別れろだなんてるいさんに言われなくちゃいけないんだろう。

 あんなにもモニカとして、助けてもらったのに。私との関係も別に何か文句を言っていなかったどころか、節度は持ってと言ってたけど応援してくれてさえいたのに。

 

「……どうして?」

 

 お別れ、しなくちゃいけないなんてことはない。そう自信を持って言えるはずなのに、るいさんの言葉が胸に刺さったまま抜けない。

 デートの約束だってしてるのに、ホテルの予約を取る話もしたのに、いつもなら嫌だって言えばいいのに。

 ──今まで当たり前にあったものが、なくなってしまう、そんな予感が私の足を止めていて。

 

「瑠唯が……?」

「う、うん……セーくんは、何か知ってる?」

「いや……待って、もしかして……そうなると、少し待っててほしい」

「え?」

「多分守秘義務的なものもあるのか? いや瑠唯のことだからまだ決定したわけじゃない……けどまずいってことか」

「せ、セーくん?」

 

 セーくんに相談すると何かを知っているような雰囲気で、もしかしてちょっと前にるいさんと二人きりで話していた内容に関係があるのかなと思い当たった。

 だけど、セーくんは、セーくんならそんなの気にしなくていいって言ってくれると信じていた。セーくんは私の、カレシだから。

 

「──ひとまずは瑠唯の言う通りにしよう」

「……え、な、なんで」

「訳は、瑠唯が言わない限りぼくにも言えることはない。勿論、ぼくだってこのまま別れることに承諾したわけじゃないけど……勉強会も、泊まるのも、いやこうして会うこと自体しばらくはなしにした方がいいかもしれない」

 

 ──なのに、どうしてかセーくんは私を抱きしめて、大丈夫だよとは言ってくれなかった。それどころか、厳しい顔をして私を突き放すようなことを言う。

 どうして、なんで、そこで初めて、私はるいさんには言えなかった言葉が、一番最初に出てきた。

 

「や、やだ……やだよ」

「ごめんましろ……」

「じゃあ……デートは? 三回戦突破したら、ドライブして、大きい水族館に行って、ホテルでお泊りって……!」

「……ごめん」

「……っ!」

 

 セーくんは、謝ることしかしてくれない。謝ってほしいんじゃない。ただ、理由を話してほしい。なんですきな人と一緒にいるのを我慢しなくちゃいけないの? なんで、モニカがセーくんと会っちゃだめなの? その理由を訊ねても、セーくんは謝るだけだった。

 音楽の悪魔は、不協和音を奏で続ける。これはその序曲でしかないことは、まだ知らない。

 

 

 




というわけで最終章の序曲は学年を変えて「トライトーン編」になります。
そろそろ長くなってきたので章分けをしておきます。
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