酔った勢いで教え子に手を出した男の末路   作:黒マメファナ

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ミスって一時間ズレてました、申し訳ないです


㉕前向き

 一週間後、どうやら無事にましろたちは学校外でのバンド活動の許可が下り、つくしと七深はバイトの許可も下りたらしく、改めてG.B.T.の四回戦に向けた練習を再開することになった。

 

「MorfonicaとAfterglowなんだってな」

「そうですよ」

「まぁ、キャリア的にも、学校側の妨害もねぇし、勝つのはAfterglow(コッチ)だろうけどな」

「……Afterglowのメンバー気取りですか、実際はただの担任教師でしょう」

「自称Morfonicaの教師にだけは言われたくねぇな」

「先輩と違ってぼくは練習風景も見守っていますし、G.B.T.も一回戦から通ってますが」

 

 冷静になれば不毛すぎる争いだが、誰も止めるどころか当の羽沢さんが苦笑いをして通り過ぎただけだった。つくしもなんか言ってやってほしいが、今は練習に集中するためにバイトは休みももらっているそうだ。

 

「羽沢は練習とか大丈夫なのか?」

「はい! みんなそれぞれ忙しいですけど、練習はしっかりしてます!」

「だとよ」

「なんで先輩がドヤ顔なんですか……」

 

 穏やかな日常だが、ぼくには少し問題があった。

 そう、ましろとの交際についてだった。結局、瑠唯が生徒会側である以上、校則を破ってましろと交際を続けるわけにはいかなくなり、表面上は別れたということになっているし、瑠唯を含めたモニカ全員で学校側にもそう説明したらしい。

 

「ま、ガキと付き合うってのはロクでもねぇってことだな、お前も倉田も、卒業するまで待てればよかったんだけどな」

「じゃあ先輩は同じ状況で我慢できるんですか?」

「据え膳食わぬは男の恥、だろ?」

「クズですね」

「おう」

 

 おう、じゃないんだよこのクズ先輩、いけしゃあしゃあと自分は我慢できないクセに正論を言うなよ、という言葉が喉まででかけたがなんとか吞み込んで溜息だけで処理をしておく。そもそも何が悲しくて先輩とお茶しないといけないんだろうか。

 

「そういえば美城先輩は?」

「授業終わって即病院、最近ちょっと体調悪いらしい」

「そうですか、あの人病気知らずっぽいのに」

「実際病気知らずの体力オバケだよ」

 

 かなり心配そうに眉を下げる先輩、どうしてこう愛妻家にもなれるクセにクズなんだろうか、不思議というか教師としての顔と人間としての顔の二重人格なんじゃないんだろうかと疑う時がある。つまり、病院に迎えに行くまでの暇つぶしにぼくを呼んだってことですか。

 

「そうだな」

「……まぁいいですけど、そわそわされるよりは」

「にしても、失われた月ノ森の精神を取り戻させる……ねぇ」

「月ノ森の新理事長が改革を進める理由、ですか」

「おう」

「……どこから情報持ってくるんですかそういうの」

「色々あんだよ」

 

 色々ってなんだろう、羽丘の教師なのになんで詳しいのか本当に謎だけど、こちらには流れてこない教師、理事会側の月ノ森内情を知ることが出来る貴重な情報源だ。

 問題としてはこの先輩、すごく主観で語るので参考にならないということくらいか。

 

「校風違いすぎるからな、オレには窮屈そうに感じるけどな」

「花咲川、羽丘はかなり生徒主体ですよね」

「だな、特に羽丘は生徒会長がルール作れるからな」

「そうなんですか」

「そうなんです、わたしはそういうの上手じゃないので変えてないんですけど……去年は」

 

 現生徒会長の羽沢さんが昨年度の生徒会長、つまりは氷川日菜さんのことを思い出すように笑った。前生徒会長は学校改革に力を入れていたようで、文化祭の日程を変えて花咲川と合同のフェスのような形態にしてしまう、学食のメニューを増やしてほしいという要望を飛躍させてビュッフェ形式にしてしまうなどまぁ大人側からするとやりたい放題だったわけだ。

 

「それで通常業務も、天文部としての活動も、芸能活動も全部全力でやりきったんですよ……本当にすごい先輩です」

「羽沢も十分頑張ってるよ、庶務の時からずっと地道にやってきて、ヒナの無茶ぶりに付き合いつつ、今の仕事とバンドもやってんだからな。今年は手伝いとバンドに加えて生徒会長、クラスでも周りのことよく見ていてくれてるから、すげぇ助かってるよ」

「ふふ……先生は褒めすぎです」

 

 羽沢さんが頬をやや染めて、普段珈琲店では見ることのできないであろう笑顔をしていて、また生徒誑し込んでる、と言いたくなったがぼくもあまり人のこと言える立場ではないのでやめておこう。

 なにやら生ぬるい雰囲気になってきたところでその空気を思いっきり破壊するほどの大声と共に羽沢珈琲店の扉が開かれた。

 

「カズくんカズくん! 大変!」

「ど、どうしたんですか!?」

「ヒナ、大学帰りか?」

「そうだよ! じゃなくて、カズくん来て!」

「はぁ、要件を言えっての」

 

 珍しく本気の焦り気味? というような日菜さんに腕を引かれ、困惑しつつも先輩は立ち上がり会計を済ませていた。

 その剣幕にぼくもゆっくりとコーヒーを飲んでいる雰囲気でもないため、立ち上がって会計を待つ。

 

「みーちゃん先生が大変なの! 今こころちゃんと蘭ちゃんも付き添ってるんだけど!」

「……わかったすぐ行く、モカも行くぞ」

「は~い~」

 

 要件はどうやら美城先輩に何かあったらしく、その言葉に先輩の顔色が変わった。

 ところで入ってきた時点でぼくと先輩しかいなかったはずだけれど、青葉さんってどこから出てきたんだろうか。

 ぼくの疑問はよそに日菜さん、青葉さんを伴ってバタバタと羽沢珈琲店を出ていった。

 

「……倉田さんもお会計ですか?」

「あ、あぁ……はい」

「美城さん、どうかしたんでしょうか……心配ですね」

「そうですね……何もないといいんですが」

 

 とはいえ、ぼくがその件に首を突っ込みすぎるのも違うだろうし、今日はアトリエに行く用事もある。

 羽沢さんも少し動揺していたが会計自体は淀みなく処理されていつもより深く頭を下げられた。

 

「ん?」

 

 おそらく言わなくても送ってくれるだろうけど、一応何かわかったら連絡してほしいと先輩に連絡しておいたところで、透子から連絡が来た。今の時間は絶賛練習中のはずだけど、休憩中か練習前に何かあったんだろうか。

 

『今日はちょっと早めに集合!』

 

 了解、と簡潔に返信しておいて、ちょうどいいかと広町家のアトリエへと向かうことにした。

 アトリエでは練習の音が聴こえてきた。すごい集中力だ、ぼくが近づいても全く気付く様子もないくらいで、それだけ次のG.B.T.の相手が山場であることを察知した。

 

「ふぅ……あ、セーくん!」

「お疲れ様」

「めっちゃ早かったじゃん!」

「集中してるなら、待つのに」

 

 こんな状態なのに早めに呼ばれた理由とはなんだろうか。透子のことだから大した意味はない、なんて思っていたけど、七深やつくしたちも待っていた様子だったからどうやらモニカとして待っていたみたいだ。

 

「今ってシロとセンセーってイチャイチャできてないじゃん?」

「……まぁそうだね、と言ってもぼくらが付き合ってるのはよくない、でしょ瑠唯?」

「ええ」

「けどさ、センセーも男だからタマっちゃうっしょ」

「とーこちゃん~……?」

「真面目な話だ、というから練習を早めに切りあげて先生を呼ぶことに賛成したのだけど」

「マジマジ、マジメだって!」

「そうは思えないんだけど、ぼくが言うのもアレだけど」

 

 余計なお世話と言いたい。もしタマって大変だったとしても生徒に相談したり心配されたりすることじゃない。

 だが透子はつくしや七深、そして瑠唯の睨み付けるような視線すらも気にせずに続けていく。

 

「だから『シロとセンセーがイチャイチャしてもいい方法を考えよう会議』をしようと思ってさ!」

「どう思う、瑠唯」

「どんな方法であろうと、男女として逢引等するのは見過ごせません」

「だ、だよね……セーくんとお付き合い続けられないのは寂しいけど、ルールだから」

 

 ましろも多少は割り切っている、絶対ぼくの隣に陣取るけどそこは瑠唯も見逃してくれるらしい。恐らく本当はダメなんだろうがこういうところで彼女の温情を感じる。

 透子はそんなましろの様子を見てキラキラした顔で続ける。

 

「まず最初にあたしが一人で考えた作戦なんだけどさ~」

「まぁ聞くだけ聞くよ」

「瑠唯の解釈としては、シロがセンセーんちに泊まったり、デートしたりすんのがダメなわけじゃん?」

「そうね、そういう解釈で構わないわ」

「今シロとセンセーが会ってることに文句はないじゃん?」

「ええ」

「……つまり?」

「シロとセンセーが同棲すればよくない?」

「……同棲?」

 

 同棲という単語にドヤ顔の透子以外の全員の疑問形が口に出しても出さなくても重なったのがわかった。

 要するに透子が言うには家の中でナニしてても学園が関与できるものじゃない、と言う理論だった。

 

「まぁ確かにそうなんだろうけど」

「……そもそも同棲、という時点で問題になるわね」

「そうだよ~、理事会に住んでるところ登録しなきゃいけないんだよ~?」

「う……確かに」

 

 ぼくとの同棲なんて逆に問題が表面化しそうな予感がするんだけど、後は両親の許可とかそういった問題にも発展するし簡単なことじゃない。

 ──透子は尚もぼくが保護者として庇護におけばと言うがそれは倫理的に最もまずいだろう。

 

「同棲かぁ……」

「ましろも想像しないで」

「でも、一緒に暮らせたら……幸せなんだろうなぁって」

 

 ましろのふわふわした声に癒されそうになるが、ともかくどうあろうとぼくとましろが付き合う道は閉ざされていると言ってもいい。瑠唯が頑張って働きかけてもまず間違いなく、スマホ使用やマンガ、雑誌の持ち込みのように緩和されることがないだろう。

 

「卒業するまで後二年弱、我慢してもらうのが最も近道だと思うわ」

「私も、ましろちゃんが先生と付き合うことで悪影響があるなんて思わないけど、ルールはちゃんと守らないと」

「それが理事長先生に解ればいいのにね~」

「それは不可能だよ、ぼくだってましろと付き合ってることを大っぴらに話せるなんて思っちゃいないし」

「……私も、モニカのみんなは受け入れてくれたけど、きっとクラスの友だちに言ったら変な目で見られちゃう」

「そうだよな、ぶっちゃけロリコンだもんな、フツーキモってなるか!」

「おい透子」

 

 さりげなくぼくをディスっていくんじゃない。事実なんだけどそれを指摘されて怒らないという意味じゃないんだから。

 その後は勉強会もその間も透子はあれこれと案を出していた。瑠唯も自分には関係ないことなのにやけに一生懸命なのね、なんて言っていたくらいだ。

 

「だってさ、シロとセンセーが両想いで、コソコソといちゃついてたからセンセーに出逢えたわけじゃん?」

「言い方」

「だから、その二人がルールだからって離れてさ、もし卒業するまでに疎遠になるかもって思ったら……ヤだなぁって思ったんだよ」

「……透子」

「それに、きっとシロと疎遠になったらあたしらとも距離ができるじゃん、それが一番ヤなんだよね!」

「なんだ、自分のためか」

「だめだった?」

「いや、納得できる理由だった」

 

 どこまでも透子らしい、前向きな言葉にぼくもましろも助かってるよ。特にぼくは、ましろが最初の繋がりだけど、こうして先生としてみんなと接していられるのは透子がいてくれたからだと思ってる。

 そういう意味でも、透子はぼくにとってもなくてはならない存在だ。そんな透子と二人になった時に少しだけいつもの自信満々な笑顔を控えめにした。

 

「……もし、さ」

「透子?」

「G.B.T.の四回戦、ダメだったらって思う時がなくはないんだよね」

「あれだけ最強って言ってるのに?」

「けど、アフグロってスゲーバンド、武道館に立ったRoseliaにも負けないくらいと思ってる」

「プロの?」

「ぶっちゃけね、その点、あたしらってそういう実力があるかもしんないけど、たぶんないじゃん」

 

 本当に珍しい。ぼくの知ってる透子ならじゃあそれを倒してあたしらも今年武道館に立つ、くらい言えるのに。それだけ、学園でのドタバタは彼女の心にも輝きを奪っているのだろうか。

 きっと、透子は理事長が学生だった頃の月ノ森にはいないタイプのヤツだ。見た目は完全に派手なギャルで、言動もその感想に見合ったものだ。だけど、彼女は彼女なりの輝きを持ってる。今は、何か一つに打ち込めるものを見つけて、いつだって眩しい存在だ。

 

「モニカは大丈夫だよ」

「……センセー」

「ぼくは今のモニカなら、去年のGBC(ガールズバンドチャレンジ)もいい成績出たと思うよ」

「……っ! なら、もっともっと成長したら、アフグロ倒しちゃえるってことじゃん!」

「そういうこと、頑張れ」

「センセーに期待されちゃったら、ますます練習するしかない! 見ててよ、あたしが銀河系イチの天才ギタリストだってとこ、センセーに見せてあげるから!」

 

 透子のこの笑顔は、きっと空元気なのだろう。本当は、不安で、学園のことと重なってるせいでモニカとしても前よりも身動きが取れにくくなってる。

 瑠唯も会議が長引くことが多くて、透子は持ち前の顔の広さから愚痴に付き合わされることも増えているみたいだ。ましろも何処かで不安を抱えているから。

 ──ぼくは所詮、そこで精神論を言うことしかできない。下手な慰めをするだけ、頑張れとか出来るとしか言えない。

 

「もしもし、ああ先輩」

「先輩? ってことは清瀬先生?」

『おう』

『じーたー!』

「美城先輩! あの後大丈夫でしたか?」

『実はね~、重大事実が判明しちゃった!』

 

 勉強会の途中だったから、スピーカーにしてモニカにも声が聞こえるようにしつつ、さっき先輩が慌ただしく日菜さんに連れられて病院に向かったことという話をした。

 ただ声を聞く限り美城先輩はすごく元気そうで、空元気というわけでもない、むしろ130%くらいの元気だ。

 

「重大な病気、とかじゃないんですね」

「よかったです~」

『うん、大丈夫! 実はね──なっくん、パパになります!』

『そこはわたし、ママになりますだろ』

「わ……お、おめでとうございます!」

「え、えぇ……つまり、病院って」

『いやぁ、学校でご飯の後で気持ち悪くなっちゃったんだけど、その時に──』

 

 その電話越しの報告にぼくは、無意識にましろの手を握っていた。

 ともかく、先輩たちの結婚に続き懐妊と、遠回りをしたにしてはとんとん拍子だったけど去年の秋には加賀谷先輩も子どもができたと報告していた。

 

「ふふ、なんだか幸せをおすそ分けしてもらっちゃったね……」

「ま、あの二人、めっちゃラブラブだもんな~」

「確かに~、時々こっちが恥ずかしくなっちゃうよね~」

「私、なんだかちょっと泣けちゃったかも……」

 

 瑠唯はそれほど関りがないから感想を話すことはなかったけれど、その後は勉強会が恋バナに発展してしまったことに関しては眉を顰めていた。透子、無意識だろうけど生徒会長に対して校則違反者を告発してるんだよね。

 ただ瑠唯も、流石に不憫に思ったのか聞かなかったことにします、と呆れ顔で言ったことでなんとか収まった。

 




話はとっちらかっているけど、一応風呂敷畳んでる最中なんです、信じてください
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