こんなこと言ってますが最終話です。
結論から言うと、署名は成功したらしい。紆余曲折はあったようだけど、月ノ森音楽祭が行えるようになったと笑顔で報告してくれた。
そして、月ノ森音楽祭が終わってのち、瑠唯は生徒会として校則の見直しを理事会と検討、幾つかは緩和されることになりそうだ、ということも。
「そして……誠二先生にとってはこちらの方が重要かと思いますが、恋愛、異性交遊に関してもある程度緩和する案が出ています」
「てっきり議題にすら上がらないと思ってたよ」
「私もそう思っていましたが、思いのほか要望がありました。倉田さんだけでなく、かなりの生徒から」
「……それは、意外だな」
とはいえ、恋愛というのは火遊びみたいな側面もある。破局が原因で学校に来れない、というのは女子高だしそうそうないとは思うけど、全面解禁するのは学校側としてもリスクがある。瑠唯曰く、どうやら中には付き合ってはいないけど仲の良かった人と遊べなくなってしまったという意見や、バンドを組んでいたけど休まざるを得なくなったという人もいたらしい。またフィアンセという文言にぼくはそういえば月ノ森はお嬢様ばかりが集まる場所だったと再認識させられた。
「よかったな~シロ! これでセンセーとイチャイチャできるじゃん!」
「流石に制服はダメになっちゃったけどね」
「それでも……またセーくんと一緒にいられれば、なんでもいいよ」
「じーたー、頑張ったね~」
「……どうも、なんでいるんですか」
そんな瑠唯との会話のすぐ後、全校集会で理事長から話があったとましろが連絡してきてくれた。スマホは授業中の禁止、音を鳴らしたり使用したりすることで反省文を書くまで没収というもの。雑誌、マンガも持ち込み自体はアリとなった。
──そしてなにより、月ノ森の外での行動が緩和された。放課後、休日の制服での外出は、特別な場合を除いて改めて禁止されたが、それらを守り、公序良俗に反することがなければ異性交遊も咎められることはなくなったのだった。
制限が緩和されてすぐ、ぼくはモニカ行きつけのカフェに呼び出され、直接対面でそれを報告される。その場には何故か美城先輩もいて、もしやと思ったら後から制服女子を連れた男がやってくる。
「……どうも」
「なんだよ、もしかして羨ましいか、制服姿で連れまわすシュミがあったのか誠二」
「そんなわけないでしょう」
「ロックちゃん、なんで?」
「ちょっと、相談事というか……そうしたら未来さんに呼び出されて」
朝日六花さん、ロックという渾名で呼ばれる「RAISE A SUILEN」のメンバーだ。ぼくとも初対面ではなく、昨年の冬にましろと知り合い、その関係でお互い名前を知る程度ではあるが、生徒会メンバーであるため羽沢さんからの繋がりで先輩とも色々と話をする人物というのは解っていた。
「ま、オレはそうなるって最初から思ってたけどな、そもそも締め付けでガキが思い通りになったら緩い校則の学校なんて存在してねぇしな」
「なっくん、またすごい色んなところから怒られそうなこと言ってるよ?」
「言いすぎや」
「これでも先生なんだから、変な人ですよね」
「ぼくの先輩がごめんつくし」
「いやいや、うちの夫が……えへへ、これ言ってみたかった」
「惚気とる……もしかしてウチが突っ込む流れ?」
つくしは羽沢珈琲店で働いているから先輩の応対にも慣れが出てき始めているが、透子は終始面白がっており、ましろも苦笑いをしつつだが怖がっているとかではなく朝日さんをフォローしている形だった。
「んで、付き合うんだな」
「え?」
「結局邪魔してたもんはなくなったんだろ? 」
「そうですね……改めて、そういうのは言っていませんけど」
「そ、そっか……もう、我慢しなくていいんだもんね」
付き合うというよりもなし崩し的に、だったし別れたというかそういうことにした、という方が正しかったため曖昧な返事しかできなかったが、これを機にぼくは改めてましろとの関係を見直す必要があるのかもしれない。
ぼくがましろとどういう関係を望むのか、そしてなにより、ましろはぼくとどういう関係を望んでいるのか、改めて言語化して共有しなくちゃいけないんだ。
「それは、また二人の時にでも」
「……えへへ」
「ひとまずは勉強会をどうするかって話をしなくちゃいけないしね」
「最近できてなかったから、久しぶりですね」
「え~、別にあたしはなくていいと思うんだけど、どう?」
「もう、透子ちゃんが一番必要でしょ!」
「ふーすけだってそんなにレベル変わんないだろ!」
署名活動から月ノ森音楽祭の準備期間はモニカの忙しさに配慮して勉強会はせずにおいた。だけどこうして校則が緩和されたのなら今まで通りという手もある。だが問題として制服での外出に該当することが挙げらる。基本的に週2回の勉強会はモニカの練習日に被せてあるからアトリエに居る。そこから一度戻って着替えてというのは七深以外にはかなり手間になるだろう。
「……ということで七深のお父さんとも話し合ったけど、勉強会は継続してアトリエでやることになった」
「よかったねましろちゃん!」
「うん……よかった」
「とりあえず、透子とつくし、それからましろも、ゴールデンウィークが始まる前に中間対策しっかりしてくよ」
「うん!」
新学期からの騒動はこれでひと段落ということになった。色々振り回された、と感じたことも多いがモニカにとってはそんな逆境も、むしろ自分たちの力にしていったように感じる。
透子は相変わらず思いつきが多く、落ち着きがないけど今回の騒動ではみんなの気持ちを汲んで前を走る役割を担っていた。彼女はきっと、人の上に立つタイプなんだろう。
「ってか、一学期の中間とかいらなくね? なんでゴールデンウイーク終わったらすぐテストなわけ! そもそも、テストとか夏休みの前と学年末だけでいいじゃん!」
「……いいけど、その分範囲が膨大になるから、普段の授業をもっとマジメに聞かないと大変なことになるよ」
「うっ……い、いや、この天才・桐ヶ谷透子なら……!」
「透子が一番ほっとくと成績下がるから」
とはいえ、この子は地頭という表現はぼくとしては少し好ましくないと思うけど、要領がいいからか何度も躓くことはない。むしろ授業を普段からちゃんと聞いて理解していてくれればこんな風にぼくが教えることなんてないだろう。
──反対につくしは、相変わらずマジメだが悩むと立ち止まってしまいがちだ。だが最近ではその悩みがぼくに届くことも多くなってきた。
「そそっかしいね、つくしは」
「う……不安になって何回も計算しちゃって」
「悪いことじゃないんだけど、時間配分も大事だから解らない時はスパッと切り捨てるのも大事だ」
「やれることから、ってことですか?」
「そういうこと」
やれることからコツコツと。彼女らしくできることを積み重ねてくれたらそれで充分だとぼくは思っている。だけど透子の大胆さを真似されても困るけどね。
そして瑠唯と七深は教えることがほとんどない。元々成績トップクラスの瑠唯と平均点ながら空欄以外は正解という特異性を持つ七深は手が回らない時の補助としての役割が大きかった。
「七深ももう少し点数上げた方がいいよ?」
「そ、そうかな~?」
「うん、進路とか決まってたとしても心変わりだってあるかもしれないし選択肢広げるためにも二年生は結構大事だからさ」
「ちなみに」
「ん?」
「平均点に何点くらい足せばいい?」
「というか全教科80あればいいかな?」
「80点……わかった~」
ぼくの余計なアドバイスのせいで、七深はこの中間で平均点が40点台まで割り込んだ教科で80点を取ることになってしまう。
どうやら適当に埋めたら合ってた、で乗り切ったらしいけど瑠唯が呆れたような顔をしてたのが印象的だった。
「お疲れ様、瑠唯」
「いえ……私は」
「勉強の方だけじゃなくて、色々と」
「……先生に労ってもらえると月ノ森を……モニカを守れた、そういう実感が湧いてきます」
「間違いなく瑠唯が功労者だよ」
音楽祭の打ち上げという食事会がアトリエで行われ、すっかり暮れた空を庭で見ていると瑠唯がやってくる。
瑠唯が動いてくれたから、ぼくも色々と考えてできることをやってこれた。ましろとまた一緒に居られるようになった。それを彼女に感謝してしまうのは少し、気が引けるから言葉には出さないけど、ぼくは瑠唯に感謝することが沢山ある。
「感情を優先した先にあったもの、以前先生は結論を付けるのは早いと、そう教えてくださいました」
「うん」
「……月ノ森音楽祭で、その答えの一端が見えたような気がします」
「それは?」
「希望、です……あの時だけは倉田さんの言っていた、輝く道というのが見えた気がしました」
輝く道、ましろに見えた月ノ森音楽祭での景色を彼女もまた感じ取っていた。つまりモニカとしての音楽、その一つの終着点を見出したということなんだろう。月ノ森というホームで、他の生徒たちの力を借りることでその一端を垣間見た。
空を見上げて、瑠唯はその時の音を思い出しているのか息を吐いて微笑んだ。その表情と景色が合わさることで瑠唯に大人の色香のようなものが醸し出されたような気がして肩が少し上がってしまう。
「どうかしましたか?」
「いや……瑠唯の笑った顔がね」
「……笑っていましたか」
「ちょっとね、自覚あった?」
「いえ……でも、不愉快ではない不思議な気持ちです」
彼女はこれからも沢山笑うのだろう。それがひっそりと一人でなのかもしれないけど、全てが無駄だと断じてきた彼女の遠回りな人生の道はまだまだ長くて、すごく笑顔の絶えない世界だといいなと思ってしまった。
「いっぱい食べた……もうデザートも入りきらないや」
「そうだね」
お開きになった後、ましろは早速ぼくの家に泊まることになった。これは間違いなく、前のように週2回で泊まる気なんだろう。ぼくに拒否することはできないけど、久しぶりということもあり、少し心臓が跳ねた。
「セーくん」
「ん?」
「ただいま!」
「……おかえり」
ましろが腕の中に飛び込んでくる。抱きしめて、それそのものも久しぶりで。ぼくもましろも離れようとは思わなかったし、そうしなかった。
そして何分かが過ぎた頃、ましろが顔を上げて微笑み踵を上げた。これまでの時間を取り戻すかのようにゆっくりと、何度も唇を重ねていく。
「ましろ」
「ん?」
「お風呂でゆっくり話そうか」
「……うん」
この関係はやっぱり不健全じゃないか、とか校則が許してもやっぱり理事会が知ったらまずいよなとか色々と思うところはあったけど、ぼくもましろも、相手を止めるなんてことは考えてもいなかった。
「改めて……お疲れ様」
「うん、セーくんも」
それから数時間後、ぼくはましろを後ろから抱きしめるような形で湯舟に浸かる。こういう時、脚を伸ばしたいという贅沢でお風呂を広くしておいてよかったと感じる。会話には不向きな体勢だが、流石に正面向かい合ってというと恥ずかしいらしくましろは密着感を楽しみつつも会話に応じてくれる。
「あのさ、ましろ……」
「なに?」
「こうやって人目は気にすることばっかりだし、倫理的にはよくないってことが改めてわかったことだけどさ」
「うん」
「それでも、ぼくはましろと一緒にいたい……ましろと離れたくなかった」
「私も、セーくんがすきだから、一緒がいい……恋人として」
「……うん」
浴室での告白、というのもどうなんだと少し冷静になってしまったが、どうやらましろも同じことを思っていたようで、急に噴き出して大笑いし始めてしまった。
そしてそれが少し収まったところで、手を握って微笑んだ。
「ふふ……結局、えっちしてから告白だったね」
「……そういえば」
「こうなっちゃうんだね、きっと運命なんだ」
「嫌な運命だ、ふざけてる」
「でもこれからも、ずっとずっと、よろしくね、セーくん」
こうして再びお互いの気持ちを伝え合う前に、ぼくはましろに手を出してしまう。
らしいというにはあまりに不健全で、到底他人には話せないことだけど、ましろは迂闊だから透子に話してしまい、最後にはモニカ全員に知れ渡ってしまうんだけど。
生徒にイジられて、言い返して、呆れられて怒られて、ぼくの教師としての威厳とか大人らしさなんてものはすっかりなくなってしまっただろう。
──これが、家庭教師として教えていた従妹の倉田ましろに酔った勢いで手を出して、一晩を共にした、倉田誠二というどうしようもないクズ教師の末路だ。それがぼくの人生において必要だったとするならもう、諦めて開き直るしかないんだろうけど。
というわけで、これにておしまいです。ちょうど新しいイベストがあったのでそれを取り入れようかとも思いましたが、また長くなるし瑠唯さんメインでこれ以上書くとヒロインとられかねないのでプロローグだけ拝借しました。
いつもなら長く語るところですが、実は復帰一発目なんでねこの辺りにしておきます。このタイミングでモニカ箱を選んだのは、次への伏線でもあったりするんでね。
では、また違う世界でお会いしましょう。