酔った勢いで教え子に手を出した男の末路   作:黒マメファナ

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番外編としてましろ視点




EX:白いベールを纏う/陽光ハッピーエンド

 私は今、恋をしている。誰にも言えない、ってほどじゃないけど想ってる相手からは私が好きってことも内緒にして欲しいと頼まれている。

 恋は、自分を特別にしてくれるわけじゃない。私は変わりたくて月ノ森に入ったけれど、恋愛はむしろ、変わらずに誰かに受け入れてもらうようなものだと、少しだけ思う時がある。

 

「ベッドついたよ、えへへ、今日は一緒に寝る?」

「──ましろ、これ以上はダメだって」

「だめ? あったかい……きゃ」

「ぼくだって、ぼくだって男なんだ……キミに好意を向けられて、我慢できない時だってある、だからもう」

 

 ある日、私は酔っ払った状態でお風呂に入って、すごくフラフラなその人──誠二さんをお家で介抱していた。お水をあげて、倒れそうなのを抱きとめたら抱き着かれちゃって、かわいいところもあるんだなぁとか思いながらちょっとスキンシップを楽しみながらお布団まで誘導していたら、そのまま押し倒されちゃった。

 

「──おいで、誠二さん」

「ましろ……!」

「すきです、こんな時にずるいかもしれないけど……もしかしたらこんなこともあるかなって思ってたんだ」

 

 その日、私は酔った先生を誘っちゃった。でも現実感のないあの一晩はまるで夢みたいで、ずっと見ていたいと思うほど、気持ち良かった。

 ──やっぱり誠二さん、セーくんにはその時の記憶が無くて謝られちゃったけど、関係はなんだかいい感じに進んでる気がする。

 

「なんだシロ、ご機嫌じゃん」

「そ、そう……そう見えた?」

「いやいや、いいことあった、っておもいっきし顔に書いてあるから!」

 

 学校で桐ヶ谷透子ちゃんにそんなことを言われて私は思わず自分の頬を触った。どうやらニヤニヤしちゃってたみたい。それもそのはずだ、私は最近、二つのいいことがあったんだから。

 一つはセーくんがお母さんとお話して正式に一週間に二回のお泊り──じゃなくてセーくんちで勉強の時間を作るが決まったこと。家庭教師時代よりあまあまになってて、ご褒美にぎゅーってしてくれたり、この間は不意打ちでちゅーもしちゃった。流石にそれは怒られたけどね。

 

「結婚式? なんで?」

「従兄の先輩」

「遠くね?」

「でも知ってる人いっぱいいたよ」

 

 二つ目はつい先週末、結婚式に行って、新郎新婦さんの幸せオーラを分けてもらったことが原因だった。

 びっくりしたのは私がバンドを目指すきっかけになった「CiRCLE」のライブに出演していたヒトがいっぱいいたこと。あの香澄さんもいて、羽丘じゃないのに呼ばれちゃった! と笑っていた。

 

「月ノ森? アイツいつの間に月ノ森まで網羅して……」

「らーん~、ココ、せんせーの生徒の集いじゃなくて、未来せんせーの生徒もいるから~」

「私は、えっと後輩の従妹で……」

「あ! じゃあキミが倉田ましろ?」

「は、はい……!」

「リサちー知り合い?」

「いや実はね、バイトしてる時にさ──」

 

 すごくガールズバンドの人たちがいて驚いたけど、リサさんと、もう一人の弦巻こころさんのおかげで比較的すんなりそっちに溶け込めた。

 メンバーはすごく豪華で羽丘からは日菜さん、リサさん、「Afterglow」全員の七人、花咲川から香澄さん、はぐみさん、花音さん、こころさん、千聖さん、紗夜さんの六人の合計十三人の中に混ざるのはすごく緊張した。

 

「どうして花咲川のこころさんたちが?」

「それは去年の秋に先生を交換するイベントをこころちゃんが起こして……」

「交換するイベントを……起こす……?」

 

 よくわからなかったけど新郎の先生が一時期花咲川で教えてたことがきっかけなんだと言っていた。賑やかで、幸せそうで、ふとセーくんを見るとやっぱりセーくんも幸せオーラに当てられたのか子どもみたいな顔で笑っていた。

 

「次はじーたーか、ズミくんか!」

「やめてください」

「伊丹はカノジョいるんで確実に彼でしょう」

「お前もいるだろ」

「……ましろのことを言っているなら無礼講とか言って二次会ではっちゃけますよ」

「怖い脅しだな!」

 

 その時のセーくんの表情を見て、新郎新婦を囲む大学時代の輪を見て、大人になったとしてもみんなで会うとその時の雰囲気に戻っちゃうんだなぁってことを思った。うーん、そうすると私に当て嵌めて考えて、ちょっとヤダなとか思ってしまう。モニカが大人になっても、たとえ解散しちゃって再会してもずっとあのままなのかな。困るかも。

 

「オレは清瀬一成だ、よろしく……はすると保護者が怖そうだけどな」

「私は美城……じゃなかった、清瀬未来! やっと会えて嬉しい!」

「倉田ましろです……初めまして、ですけど、ご結婚おめでとうございます」

「……あいつが好きそうな感じだな」

「へ?」

「こらなっくん!」

「悪い悪い、どんな破天荒なヤツかと思って身構えてたからな」

 

 まるで黄昏のような、やさしい輝きを持つ人と逆に東から眩く昇ってくる朝日のような人、正反対で、でも周りを照らして長い影を伸ばして人々の心に残る、そんな人だというのが新郎新婦の第一印象だった。

 それをそのまま伝えると二人は顔を見合わせて笑い出した。

 

「ちょっとりーちゃんっぽい」

「ますますあいつが好きそうだな」

「それ、本気でじーたーに怒られるよ?」

「聞こえてねぇからな」

「えっと……りーちゃん、さん?」

「ああ、荻原香織ってそこの美人……ってぇなみみ! 」

「これからは容赦なく、本当に容赦なくりーちゃんにもヤキモチ妬くってゆったもんね!」

 

 確かに清瀬さんが指した相手は美人さんだった。月ノ森出身ですって言われても信じちゃうくらいにお嬢様な雰囲気もあって、日菜さんと何やら仲良さそうにおしゃべりをしていた。多分清瀬さんが言ってた、あいつってセーくんのことだよね。

 

「生徒会はどうですか、日菜ちゃん」

「楽しいよ、天文部もいちおー続けてるし、色々やっててるんってくることがいっぱいかな」

「それはよかったです」

「カズくんも応援してくれてるし、やりたいこと全部やれるんだからやって青春楽しんどけって言ってくれたもん」

「そうですね……あら? あなたは確か倉田くんの」

「ましろちゃん?」

「そうそうましろちゃん、荻原香織です、大学では倉田くんの二つ上の先輩です」

 

 どうやら日菜さんは羽丘では天文部に所属していて、香織さんは清瀬さんの一つ前の顧問という関係らしい。元羽丘で先生、大学のゼミが一緒だったっていうから似通るものなのか、この人も元だけど教師なんだ。

 

「ところで、ましろちゃんは素敵な星をお持ちのようですね」

「星……香織さんの方がお月様みたいです」

「あら、私たちは仲良くなれそうですね、夜空同士仲良くしましょう?」

「でも私はまだ輝けてません」

「大丈夫、自ら輝かなくても照らすことはできます」

「……はい」

「か、香織と同レベルの会話ができる……!?」

 

 旦那さんに驚かれてしまったけど、別に特別なことを言ってるわけじゃなくて、見たままのことを言ってるだけなのにな。こういうのが、周りから浮いちゃう原因なのはわかってるんだけど。

 香織さんは夜空の住人だった。太陽の光を浴びて優しい光を放つ月のように穏やかで、ちょっと不思議な人だ。

 

「私の役目は一区切りつきました……二人の幸せを見守る係、それが私です」

「……太陽だから」

「はい」

 

 月光のような、優しい中に少し悲しい輝きだった。

 この結婚式は、六月だというのにまるで桜が舞い散るような暖かくて幸せな空間で、だけど色んな過去があって、色んな今がある。

 香織さんも、結婚する清瀬さんも、勿論セーくんも。

 

「それでね、こころさんがすごくてね」

「そっか」

「バク転してさ、すごくキラキラしててさ」

 

 結婚式の翌日、私はその幸せな空気のままセーくんのおうちに泊まっていた。セーくんは大人の二次会でいっぱい楽しんできたけど、私も誘われるままにリサさんやこころさんに誘われて補導される時間ギリギリいっぱいまで遊んできた。まるで悪い子みたいな経験、初めてで、ドキドキしたのにすごく楽しくて。

 

「いっぱいガールズバンドの人と知り合えたんだね」

「うん、びっくりしちゃったけど、刺激になった」

「よかった、ぼくも意を決して誘ったかいがあったよ」

 

 その時に訊いたけど、セーくんは清瀬さんに会わせるのは反対だったと言っていた。なんで、という疑問ははぐらかされてしまったけど、なんだかヤキモチ妬かれてる気がして嬉しくなってしまう。

 大丈夫だよ、別に私は年上が好きとかじゃないもん。セーくんだから好きだから、とはまた怒られそうだから言わなかった。

 

「とにかく、あの人の悪影響は受けないみたいで安心してる」

「……なに?」

「ううん、セーくんは心配性だなぁと思って」

「……もうそろそろ期末じゃない?」

「む、話を逸らす」

「ぼくはましろの先生だからね」

「カレシ先生?」

「怒らせたいならもっと言ってくれていいよ」

 

 ダメだって、ケチだ。日菜さんは先生なのに渾名だったし、蘭さんなんてアイツとかずっと言ってて、最後にはアレとか果ては呼び捨てにしていた。

 でもそれが悪い例で、その影響を受けちゃわないかって心配してたのかな。セーくんはセーくんだけど、ちゃんと勉強モードの時は先生って呼んでるもん、大丈夫だよ。

 

「どうだった? ぼくの先輩たち……まぁ一人後輩もいたけど」

「うん、変な人ばっかりだった」

「でしょう?」

「あ、でも香織さんは普通のお嬢様みたいだった」

「あの人の言動、は……なるほど、それで先輩は」

「どうしたの?」

「披露宴二次会の時にやけにイジられると思ったんだ」

 

 なにかあったみたいで、詳しくは教えてくれなかったけど。

 それにしても結婚かぁ、あんなふうにみんなにお祝いしてもらって、キレイなドレスを着て、隣には大好きな人のカッコいいタキシード姿があって、まるで夢の中にいるみたいだった。

 

「ましろも、憧れるもの?」

「結婚式?」

「うん」

「どうだろう、私にはまだまだ先のことすぎて……想像できないや」

 

 セーくんとどんな結婚するのか、その時に自分はどんな大人になっているのか、私には想像もできない。今は結婚以前に、私は子どもでセーくんは大人、釣り合わない関係だから。

 いつも優しくしてくれるから目を逸らせているけど、きっとあの日、セーくんが酔っ払って帰ってきた日に私が家にいなかったら、今頃こうしてお泊りすることも、勉強をもう一度見てもらうことも、モニカの話に耳を傾けてくれることもなかった。お盆と正月にちょっと挨拶するだけの親戚に逆戻りだった。

 

「しかもセーくんは時期外して帰省してるし」

「……なんの話?」

「お盆は送り火後に来るし、正月は二日か三日だし」

「親戚の集まり、苦手なんだって前に言った気がするけど」

「今年は、私と一緒に来てもらうから!」

「やだよ、それでぼくらの関係がバレたら親戚中にどんな目で見られるかわかったもんじゃない」

「私たちの関係ってなに?」

「……なんだろう」

「ふふ」

「はは」

 

 ちょっと言い争いみたいになったけど、ふと冷静になって二人で考えて、思わず笑ってしまった。こうなったらもう喧嘩にもならない、それどころかセーくんもちょっとだけさっきより優しい顔で頭を撫でてくれる。

 

「……ましろにはいつでも会えるから、心配しないで」

「うん」

「その代わり、万が一会ってもお年玉は渡さないから」

「えー」

「ぼくらは、もう少なくともただの親戚じゃないでしょう?」

「それもそっか……えへへ」

 

 ただの親戚でもなくて、家庭教師でもなく、かと言って恋人でもない。曖昧な関係で、もどかしくなってしまう。

 できれば、二次会の終わりにホテルのお部屋に突撃してみたかったけど、それでもしもう一度同じ間違いを犯したらセーくんは二度と私に会ってくれない気がするから。

 

「すき」

「うん」

 

 今は、すきって伝えられるだけで胸がいっぱいになっちゃうから。これでいい。

 少なくともセーくんは中途半端のままなんてことはしないって知ってるから、この関係がいつか変わる日まで、それが恋の終わりなのか始まりなのかはまだ全然わからないけど。

 

「──という感じで」

「マジか! いーなぁシロ!」

「どーしたのとーこちゃん」

「いやシロがさ、一瞬で顔広くなってびっくりってハナシ!」

「……ん? どういうこと?」

「……全く話が見えてこないわね」

「実は週末に結婚式があって──」

 

 私はまだ、蕾で、あるいは蛹──ううん、種子で幼虫かも。そうだったとしても花が咲くまで、背中に翅が生える日が来るように頑張るんだ。

 そのために、私はみんなと一緒に「Morfonica」として活動を続けていく。辛いこと、苦しいこと、逃げたいことがいっぱいあると思う。少なくとも、バンドの仲がいいとはあんまり言えない状態だし、特に透子ちゃんと瑠唯さんが。

 

「今の話をどう要約したらそうなるのかしら、大事なところが全て抜けているわ」

「はぁ? 大事なトコは抜けてねーし! あたしがびっくりしたのはシロが一瞬で顔広くなったとこなの!」

「結婚式に聴きに行ったライブのバンドメンバーが居た方がびっくりだったけど」

「そっちだよね~」

「お前らも瑠唯の味方か!」

 

 こんな感じだけど、きっといつかは香澄さんみたいな、あそこでお話をした人たちみたいに

 輝きたい。

 そういう気持ちにさせてくれて、やっぱりあの結婚式に参加してよかったと思っている。

 ──そして、別れ際に未来さんからもらった言葉も大事にしたい。

 

「じーたーはね」

「……えっと?」

「ああ、誠二くんのこと──じーたーはね、自分のことが嫌いなんだ」

「はい……なんとなくわかります」

「うん、だからいーっぱい、なんて言われようともすきって言ってあげて。すきって言って、そのすきをあげるのはじーたーにだからだよってことをいっぱい伝えてあげて」

「は、はい」

「わたしはそれで失敗したから──それにじーたーの先輩としてのおせっかい!」

 

 すきって伝えてそれがセーくんだからってことを伝える。簡単に聞こえてきっとすごく難しいんだと思う。特にセーくんは自分が嫌いだから、私がすきって伝えるだけだとダメなんだなってわかった。

 だから私は、セーくんのおかげで変わっていくところを見せてあげたい。セーくんが肯定してくれたから、先生として「できる」ってことを教えてくれたから今私は輝ける場所を見つけようとしてるんだってことを、いっぱい伝えていこう。

 ──私のために、そして大好きなセーくんのために。

 

 

 

 




恋愛するましろ、何故か小動物は小動物でもつよつよげっ歯類になりがち。
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