【完結】TS強化兵のファンタジーロボット戦記   作:相竹空区

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第十七話 貴女には魅力的な餌になってもらうわ

 

 アートマン隊には欠員が出たようで、オレはその後釜らしい。

 首輪の強化兵はオレだけ。

 そんな部隊での初仕事に今、まさに今から取り掛かろうとしているところなのだが。

 無線から聞こえる全ての情報が不安を煽る。

 

『どういう事だアートマン……!』

『お、落ち着きたまえ団長君!』

『なら落ち着かせる言葉の一つでも言ってみればどうだ』

 

 団長はアートマンとかなりバチバチだ。

 ただゴーレムで迫ると一触即発の空気が出てしまうからやめて欲しい。

 

『しかしねぇ……ワタシだって負けるつもりはなかったんだ』

『酒の入った賭けに命を使われては堪ったものではない!』

『違う違う!賭けたのはあくまで指揮権なのだ!』

『同じ事だろう!無謀な突撃に付き合わされる──いや、それに俺達だけが向かわされる!』

『──ほう?無謀か。我が指揮能力に不足があると、この劣等種はそう言いたいのか?』

 

 この場にはアートマンの乗る物ともう一つ、エルフ専用機であるドライアドが居る。

 アートマンに迫る団長を遮るように、そのもう一機が悠然とやって来た。 

 今回オレ達と共に任務をこなす小隊の指揮官、実にエルフらしいエルフだ。

 

『それはこの作戦が終わった時に分かるだろう』

『被害は無し、そうであろう?劣等種は物の数ではない』

 

 消耗品だって無駄にするもんではないだろうに。

 自尊心の為に使い潰される身にもなって欲しいのだが。

 

『故に、貴様ら劣等種は警戒の薄い地点より侵入して敵を叩け。目標は燃料精製施設。罪深くも恩寵の木の猿真似をした不愉快な機械を破壊せよ』

『警戒が薄いのには理由がある。到底渡り切れるものではないルートだから警戒されていないんだ!せめて部隊を二つに分けて──』

『陽動をするか?そんな見るべき場所が二つに増えてはな……』

 

 エルフの指揮官が突如ライフルをオレ達に向ける。

 

『指揮官殺しの猟犬が居ては安心など到底出来はしないだろう?』

 

 オレの事だ。

 パトラは確かにオレに掛けられたキラン殺しの容疑をアッサリと解いてみせた。

 だがそれは人々の中に広まった疑いまでは取り払えず……オレはもうすっかりキランを殺した犯人として扱われている。

 

『アレは同じ首輪の強化兵も殺したそうではないか。貴様ら劣等種も背中に気を付けるべきではないか?』

 

 あのエルフ……声だけで嫌な顔をしているのが容易に想像出来る。

 そんなありがたい忠告のおかげでオレは距離を取られて、銃口を向けるヤツの次には警戒されてしまった。

 

『おい、あの子は──』

 

 団長が何か庇おうとしているようだが、ここで何を言っても意味は無いだろう。

 ただただ彼を不利な状況に追い込むだけの発言をみすみす座視出来ない。

 今のところはまだ、団長がどのような人物なのか分からないのだ。

 オレの仲間達を死に追いやったあの状況を作り出す一助をしたレジスタンスと本当に関わっているかも不明。

 なら今は生かしておかなければ。

 そしてオレ自身も生きる。

 

「ヴァア」

『どうしたお嬢ちゃん──!?オイ!何処へ行く!』

『ほう、自ら敵を噛みに行くとは随分と血の気の多い……』

『わ、ワタシは行かないぞ!?』

 

 だったらやる事は単純だ。

 アクセルベタ踏みでオレが先頭を走れば良い。

 今までとやる事は同じ、先頭を進んで敵に突っ込み全てを倒せばそれで良し。

 破壊対象は周囲から魔力を集めて燃料へと変換する施設。

 周囲に広がる凍結した湖には魔力が多く、時に魔力は予測不可能な現象を引き起こす。

 

「ヴァァ……」

 

 操縦桿を握り直す。

 右手はいつも通り、左手はまだ違和感が残る。

 保持も操作も少し安定に欠けるように思えるが……交感である程度はなんとかなるだろう。

 それよりも今気になるのは視界。

 ゴーレムとの交感時、そして機動要塞で見えた魔力の光が見えた。

 

『気を付けろお嬢ちゃん!その湖は魔力が溜まって出来た天然の串刺しトラップだ!』

 

 ゴーレムの足元に魔力が集まるのが見える。

 急速に集まり……機体を急旋回させて回避。

 直前までゴーレムがあった場所に氷の槍が生えて来た。

 

『避けた!?』

『言ってる場合か!俺達も行くぞ!』

『正気じゃないって団長!』

 

 目標の施設は湖の中央にある半島にある。

 当然陸続きの道は極めて厳重な警備が敷かれている為……あのエルフは凍った湖の上を疾走する事を選んだ。

 こちらは確かに警備が薄い。

 だがそれは団長の言った通り警備の必要が無いからだ。

 この氷の槍が飛び出す整備不要の天然トラップが侵入者を仕留めるのだから。

 

『オイオイオイオイ!全部回避してやがる!どうやってんだ!?』

『ほぅ、鼻が利く猟犬だ』

 

 褒められるのは気分が良いが、文字通り対岸に居るから少し腹も立つ。

 オレのように渡る気が無いのなら、陸続きの道の方を渡れるように注意を引き付けてやるか。

 

 氷上を走り抜け、背後に氷槍の森を残して目標への距離を縮める。

 氷の上は多少滑るが人型をしているのはこんな時にバランスを取る際に便利だ。

 手脚を動かし身体を捻り、魔力のジェットで左右に機体を飛ばして危険なポイントを回避する。

 光を避ければ良いだけならば簡単なもんだ。

 

『よ、ヨシ!良いぞ448号!そのまま破壊し尽くしてワタシの総取りだ!』

 

 アートマンは更に賭けをしたのか、懲りないヤツだ。

 おおかたオレが生きて向こうに辿り着けるかとか、そんな内容だろう。

 気に食わないけどこれからはアイツが隊長だ、手土産代わりに勝たせてやるか。

 

『よぉし!お嬢ちゃん、申し訳ないが俺達は正面から攻撃を仕掛ける!挟み撃ちでやるぞ!』

アー!(了解!)

 

 敵は湖側からの攻撃を想定していないだろう。

 侵入はそこそこ精神を使ったが、残るタスクの破壊自体は楽なものだ。

 トリガーを引き、魔力砲塔(スクロール)から魔法を解放して立て続けに火を吹けば、防衛をあまり考えていない施設は次々崩れてゆく。

 爆発、炎上、崩壊。

 団長の側に残しておく必要もない。

 可能な限り破壊してしまおう。

 

「ヴアアアア!」

 

 スクロールは弾切れ寸前までばら撒いて……見渡す限り炎の海だ。

 魔力の貯蔵庫でも破壊したのだろう。

 だがこれだけ暴れればゴーレムも現れる。

 

(なんだコイツは……)

(湖を越えて来たのか!?)

 

 眼が響く。

 敵も当然人間ならば、オレは恐ろしく見えるだろう。

 あの日オレ達が燃え盛る瓦礫の向こうにベルファイアを見たように。

 

(は、速──)

(なんで!?攻撃が当たらない!)

 

 でもオレはベルファイア程強くはない。

 機体の性能に関してもケルッカではあの速さを出せない。

 再びベルファイアと遭遇したとしてもあの日と同じように……いや、オレ一人では更に差が開いてあっさりと負けてしまうだろう。

 

 生きる為には戦うしかない。

 そして勝ち続けないと。

 オレにはまだ、生きる為の力が足りない。

 もう負けの代償を他人に支払わせるような事はしたくない。

 

『こちらは攻撃を開始した!もう少し耐えてくれよお嬢ちゃん!』

 

 攻撃を開始したのはこちらが先だから、ゴーレムもこちら側に集まっている。

 赤銅色のゴーレムが三機、四機と増えて……片端から弾丸を叩き込む。

 敵の射撃を装甲の傾斜でいなし、最短で反撃。

 被弾を恐れて囲まれるよりも多少の被弾を許容して相手の連携を崩しに掛かる。

 接近戦を仕掛けてきたゴーレムの膝を撃ち抜きスクロールを叩き込む。

 動きから無駄を削いで、最速で敵を倒せる手段を選び続ける。

 

 キランならどう動いただろう?

 それが常に頭にある。

 あの日、ベルファイアに迫れたのはキランだけだった。

 仮にキランが万全だったら勝てただろうという確信がある。

 なら今度はオレがキランのように動ければ──

 

『お嬢ちゃん!待たせた──』

『ははは……やけに防御が薄いと思ったら、一人で殆どやっちまったのかよ』

 

 地面には無力化したゴーレムが所狭しと転がっている。

 いつの間にやら大戦果を上げていたらしい。

 一人でやれたとは我ながら驚きだ。

 でも、もっと強くならないと……

 

『おお!流石だ448号!キランを殺しただけの事はある!』

「ヴゥ……」

『ヒィ!?』

 

 オレにそんな強さが本当にあったらどれほど良かったか。

 

◆◆◆

 

 アートマン隊に入ってから数度任務をこなした。

 キランが性格に難アリと称した理由が今となっては理解出来る。

 アートマンはとにかく自主性が無い割に自己保身はしっかりとするので……戦場だと急に消えていたりするのだ。

 その穴埋めをするのはオレ達の血の滲む努力であり、危険を冒した即興の戦い。

 

 だがオレ自身は割と伸び伸びとやれている。

 目の前の敵を倒せば良いだけの状況なら、やる事は単純で以前とそう変わらない。

 オレが突っ込み敵の防御を崩せば、あとは団長達がやってくれる。

 危険ではあるものの、下手に歩調を合わせようとして失敗するより余程良い。

 それに危険の中でオレ自身の限界を攻めて、より押し拡げる事で得られるものもある。

 

 ただまあ、そのせいで少し困った事もある。

 パトラに命じられた団長がレジスタンスと繋がっているか探る調査に支障が出ていた。

 オレが指揮官殺しの猟犬という悪名に相応しい活躍をすればする程、周囲との距離が出来る。

 腫れ物に触るような、扱いかねている雰囲気をとても感じて難しい。

 

 だからこそ、いつも通りの遅めのシャワーを済ませた後、宿舎へ帰ろうとしている道すがらに同じ隊の連中の声が聞こえた時には内心ガッツポーズだ。

 盛り上がっているような声だったので秘密の会話をしている可能性は低いが、忍び足で声の元へと歩いて……食堂に辿り着く。

 

「今日も生き延びて乾杯!」

「何度乾杯するつもりだ……」

 

 楽しげな声は酒宴のものだろうか。

 この国の法律を知らないからオレは酒を飲める年齢なのか──そもそもオレは自分の年齢すらしらない。

 ともかく距離を縮めるには良い機会だろう、扉を開けて食堂へ脚を踏み入れる。

 

「おお、お嬢ちゃんか」

 

 団長が──上半身裸の団長が椅子に座って手招きしている。

 筋肉と脂肪がたっぷり、といった感じの逞しい肉体。

 だがその肌には……幾つもの石が突き出していた。

 

アー……(それ……)

「おっと、若い女の子に見せるもんじゃないか。少し作業中でね、良ければ話し相手になってくれ」

 

 腕と腹にはオレと同じ交感用のポート。

 団長は旧型の強化兵だったのか。

 

「これか?お嬢ちゃんとお揃いだ。オジサンは昔は偉い人だったんだがな、アレコレあって手術を受けて一兵卒をやってるのさ」

「部下のギロチン送りを阻止する代わりに身体を張って下さったお方だぞぉ!?偉いなんてもんじゃあないですよぉ!この人はノゥルが誇る騎士団長!無敗の男!」

「騎士ってより山賊のツラですがね」

「うるせぇ!」

 

 慕われているんだな。

 なら余計にノゥルの軍人によって構成されているというレジスタンスとの関わりも気になるところだが、助けた命を危険に晒す真似をするだろうかという疑問もある。

 

「ったく……お嬢ちゃんはこんな連中に影響されるなよ?特に口の悪さだ」

「アー」

「良い子だ」

 

 団長は上裸で何をしているのかと思っていたのだが、テーブルで何やら準備していた一人が団長の背中に向かって作業を始めた。

 何か気になり覗いてみれば……背中には沢山の文字。

 

「死んだ仲間の名前を彫っているのさ。俺に憧れてもこれは真似するな。女の子がやるもんじゃない」

ヴァ(もうあるよ)

 

 既にオレの鎖骨の上には448が刻まれている。

 襟を引っ張って見せると団長は呆れた表情をした。

 

「それ以上は増やさないようにしなさい」

「アー」

「そうだ。こんなものは増えないに越した事はない。俺は偶然広い背中をしていたから彫っているがね」

「そんなもの無くても貴方は全員の名前を覚えているでしょう」

「どんなものが好きだったのか、この話をよくしていた、踊るのが得意だった……顔も何もかも全て覚えている」

 

 オレもそうだ。

 きっとこれからも忘れない。

 だから、忘れない為にもオレは戦って生き延びて走り続けないと。

 

「お嬢ちゃんの気持ちは分かる。生き残った者の責任だとか色々な……だから先達として言わせて貰えば、これがスッキリと解決する事はない」

 

 だから飼い慣らされろという事だろうか。

 それならオレは──

 

「だから迷うだけ無駄だ。自分が正しいと思った選択をしたらいい。パトラ司令官にも好きに報告しなさい」

「ッ!」

「顔に出てるぞ、お嬢ちゃん」

「えぇ……?どういうことれすかぁ!?」

「パトラは俺達がレジスタンスと繋がっているかをお嬢ちゃんを使って確認させたのさ」

「でも貴方、誘いをキッパリ断っているじゃないですか」

「だから嫌がらせだろう。アレはそういう性向がある」

 

 これもオレを騙す為に見せている団長の策略かもしれない。

 だが迷う必要はない。

 オレは自分の心に従って選ぶと決めた。

 後日、パトラに執務室まで呼び出された時もその決心は揺るがないまま……

 

「では聞きましょうか。裏切り者は居た?」

「ウー」

「否、ね。団長はレジスタンスと繋がっていないと考えているのね?」

「アー」

「ええ、ええ……正解(・・)よ」

 

 パトラは嬉しそうに笑う。

 やはり結果など求めていなかったのだろう。

 

「貴女が復讐心に眼を曇らせて手当たり次第に告発し始めたら、それはそれで面白かっただろうけれど……その何か言いたげな顔も良いものね」

 

 オレは遊ばれていたらしい。

 パトラはこうやって人心を弄んで楽しむようなヤツなのか。

 本当に……心から嫌な飼い主だ。

 

「それにしてもあれは忠義者よ。命を無駄に散らすなと大公から命ぜられて、ずっと守っているのだもの。かつては一軍を率いる男が亡き主君の言葉に従い、今や身体から石を生やして戦うなんて良い見世物よ」

「ヴゥ」

「不満?なら今度は貴女好みの任務を与えるわ」

 

 パトラはまた悪戯心を隠そうとしない笑みを浮かべている。

 こいつと関わっていると心が無駄に掻き乱されて嫌な気持ちになってしまう。

 

「キランが狙われたのは突出した実力を持ち、リシルから脅威として認識されたから。貴女もそうなりなさい」

 

 また、掻き乱される。

 それはオレがまさに今求めていた事だったから。

 

「貴女も同様に脅威と認識されれば裏切り者は必ず尻尾を出す。そこを捕らえれば解決ね。貴女には魅力的な餌になってもらうわ」

 

 そうだ、オレが強くなればあのベルファイアを戦場に引き出せる。

 そうでもしないと倒せない強敵だと思わせれば自然、オレはヤツを倒せる実力を備えている事になるだろう。

 オレは生きる事も戦う事も同時に考えていた。

 ベルファイアに勝てる強さがあれば生きられるなんて、それは道理が通らない。

 

 でも、それで良い。

 背負ったものも、復讐だって両方選んで叶えてみせる。

 

「死なないでね?わたくしの可愛い猟犬ちゃん」

 

 オレは、飼い慣らされない。

 

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