【完結】TS強化兵のファンタジーロボット戦記   作:相竹空区

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第三十話 エピローグ

 

 ノゥル公国は約十四年の時を経て、地図の上に再び現れた。

 隣国リシルの助けを得て、侵略者であるエルフを東へ追い返す事に成功したのだ。

 これは世界全体で見れば小さな勝利だ。

 ノゥル公国は国土においてもそう広いわけでもないし、エルフの支配はこの大地に広く根を張っているのだから。

 

 だが、だがそれでも勝利だ。

 確かに勝利したのだと、世界はそれを記憶した。

 一度はエルフの手に完全に落ちた国が再び元の形に戻るなど前例が無い。

 エルフ相手にもぎ取った初めての勝利は他国の手ではなく、あくまで自国の力であったと援助を行っていたリシルは喧伝した。

 

 ノゥルとリシルにわだかまりが無かったわけではない。

 エルフによって強制されていたとはいえ、ノゥルの兵力がリシルの兵士達を殺したのは事実なのだから。

 故に大きなストーリーを作ったのだと言える。

 悪いのは全てエルフだと、ノゥルの人々はそれに抗った。

 まあ、実際そうだ。

 目を逸らさせる為に過剰に言ってる部分があるだけで。

 

 ノゥル公国を取り巻く状況は悪くない。

 リシルと協力して東に追いやったエルフを押し留めて、更にはその先にある占領地の解放すら目指せるくらいには。

 

 ならオレはと言えば……悪くはない。

 左眼は見えないし声は出ないし肺が片方機能していないし左手の指が欠けているし脚が悪くて杖を突くから歩くのが遅いけど。

 身体は本当にボロボロで日々不便さに嘆いているけど悪くない。

 嘘や強がりじゃなく、本当に心から悪くないと思えている。

 朝、お茶を淹れてゆっくりと味のする朝食を摂る時間が堪らなく愛おしい。

 昼下がりの陽気を浴びながら、息切れした団長よりも遅いスピードでする散歩は本当に心が躍る。

 友人達と囲む夕食のテーブルは世界の何処よりも楽しいんだ。

 

 多分オレは死が近い。

 あの一日で五年の猶予を殆ど使って、残りは全くゴーレムに乗らずに過ごす事で引き延ばしても何年か。

 だから多分、団長の願いを叶える事が出来るくらいには幸せだ。

 みんなに託されたものに胸を張れるくらいには生きる事に全力を出せている。

 

 総督殺しの後、病院のベッドで目覚めたオレを待っていたのはアリナからの本気の怒りと涙、ラウラからの叙勲と恩給、そして444号からはチョコレート。

 444号はあの戦場で行方知れずになった後スコーチ部隊に拾われ、リシルで首輪を取り外されたのだとか。

 そもそもどうやって生き延びたのかと思えば、レジスタンス経由で流れた首輪の強化兵の情報をスコーチ部隊は把握していたからだそうな。

 それは多分、整備兵のお姉さんが流した情報で……回り回って変な着地点をしているものだ。

 その情報を実物と照らし合わせて検証し……444号はスコーチ部隊の松明(トーチ)隊長の推薦を受け、欠員の穴埋めをする事になった。

 空いた穴とはつまり、ベルファイアの事。

 オレが殺した相手の後釜として滑り込んで命が助かったのなら何よりだが、気まずくはならなかったのだろうか?

 

 そうしてスコーチ部隊の一員としてリシルの兵士となり、444号はある取引をした。

 その内容は彼女の指定する首輪の強化兵への首輪の取り外し手術。

 だが結果としてはその取引は無効となった。

 理由は単純、オレの首に生えた魔石と首輪が固着して取れない為。

 死ぬまでこの首輪と一緒かと思うとうんざりするが、魔石のせいで声が出ないので、あってもなくても不便さは変わらないのだ。

 オレの現状がこんなであると判明してなんと、トーチ隊長殿は444号をリシルの退役軍人とするように働き掛けて、勤労と奉仕への対価として暫くは困らない金額を渡した。

 暫くとはつまり、444号が学校に行って学びを得たり普通の人生を取り戻す為に必要十分である金額。

 

 その金で444号はオレと普通の暮らしをしたいと言うのだ。

 身体がボロボロなオレが側に居ては重荷になると思って断ろうとしたのだが。

 アーでもウーでも言えれば議論のテーブルに着ける。

 だが無言なら言われるがままだ。

 どんどん話は進んで444号とアリナは公都の一角に良い部屋を見つけて、今はそこで暮らしている。

 本当にスピード解決だった。

 

 きっとオレの残り時間を気にしているんだろうな。

 みんな大変だろうに、オレにこの世の楽しい事を全部教えようとしているんじゃないかって勢いで何かをしてくれる。

 でも、だからこそ夜眠る時が怖い。

 毎日楽しいから、満たされているから、オレには翌朝が来ないんじゃないかと不安になる。

 

 でもこれこそが幸せなんだと思う。

 未練の無い生涯なんてきっと虚しい。

 満たされているから溢れ落ちたものが沢山あるんだ。

 オレは今拾っても拾っても足りない未練と向き合って、生のカウントアップを続けている。

 

◆◆◆

 

 街の中を歩くと冬の気配を感じる頃。

 前は嫌いな時期だった。

 景色から色が減って寂しいし、失うものが多い季節だったから。

 でも今はそうでもない。

 べっとりと血の付いたコートは綺麗にクリーニングして今年も着れる。

 サイズが小さくなった手袋は今のサイズに合わせて直してもらった。

 最近は杖が日常のお供でポケットに手を仕舞えなくて困っていたから、職人を教えてくれたアリナには感謝だ。

 今度は眼帯でも作ってもらおうかな。

 

「何考えてるの?」

 

 444号が欠けた視界の向こう側から現れた。

 一緒の時はいつも左を歩いてくれるので安心出来るのだ。

 考えている事は、クルリと左眼を覆うジェスチャーで……伝わるだろうか。

 

「眼帯?かっこいいよ。たまに付けてる軍人さん見るよね」

 

 戦争となればそんな人も居るか。

 奇抜じゃないなら尚更付けてみたくなるな。

 正直憧れもある。

 

「わたしもアクセサリー欲しいかも」

 

 そう言う444号は近頃、随分と普通の女の子の見た目になってきた。

 お互い服なんて支給品の生活だったから何も分からなかったというのに、女の子という生き物はどんどんオシャレになるものだ。

 アクセサリーへの興味なんて芽生えるまで成長したとは。

 

「そしてね、名前を入れるの。わたしと貴女の」

 

 おや、オレも巻き込まれているのか。

 ペアの何かを持つのは……重くないか?

 いや分からん、この世界だと一般的な感覚なのか?

 分からない……分からないから444号に合わせよう。

 彼女がそうしたいなら、きっとオレも合わせたら楽しい筈だ。

 

「うーん。わたし達はずっとこの名前だけどさ、ちゃんとした名前が欲しくない?」

 

 不意にそんな事を言うのは印字される三桁、三桁の数字を想像したからだろうか。

 ロットナンバーのように見えるな、きっと……

 

「ねぇ、何か好きな名前とかないの?どんな名前を名乗りたい?」

 

 そんな事を言われても、名前なんて基本与えられるものだろう……親なりなんなり。

 こうなって欲しいの願いを込めるなり、自分を表す言葉を探すなりしても自分を美化しそうで怖い。

 

「思い付かない?じゃあ、貴女の名前はわたしが考えてあげる。わたしの名前は任せたから」

 

 オレの不安を見抜いたように、これから444号ではなくなる少女は笑う。

 他人に付けるなら何倍も楽だし迷わない。

 彼女を表すものなんて幾らでも出てくるんだから、でもこれを一生名乗り続けるのかと思うと責任重大だ。

 こちらはプレッシャーに潰されそうだというのに、目の前の少女はオレをつま先から頭まで眺めて頷いている。

 何が分かるのだろうか。

 

「うん、決めた。これでもう、わたし達は数字を割り振られた強化兵じゃないね──」

 

 ……ああ、気に入った。

 これがオレの墓碑に刻まれる名前。

 オレが人として生きた証になるもの。

 もうオレは448号じゃないんだな。




ここまで読んでくださりありがとうございました。
448号という数字ではない名前を得て、この物語は完結です。

感想、評価、お気に入りなど頂ければ今後の創作の励みになります。
改めてありがとうございました。
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