いせかるメンバーにナツキ・スバルの人生上映会を観せる   作:リーグロード

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もうすぐで1年が終了ですね。
土曜日も仕事なので、本格的に小説が書けるのは日曜日からです。


襲撃者の正体

 屋敷に来てからの最初のループと違い、2回目は明確にスバルの死の瞬間が映し出された。

 死んだ経験が幾つもあるカズマだが、あんな風に悲惨な末路を辿った経験は1度としてなく、その光景は恐怖と混乱をカズマに刻み込んだ。

 

「カズマ、カズマ!!」

 

「はぁ、はぁ、っああ……、もう大丈夫だ。ありがとう、めぐみん」

 

 一度気絶したからだろうか。心臓の鼓動や吐き気が幾分かマシになり、精神的に多少は楽になった気がする。

 隣で今も声を掛けながら、自分の背中を摩り上げてくれるめぐみんに感謝しつつ、脳内に刻み込まれてしまった人生のトラウマランキングに堂々とランクインした衝撃映像がフラッシュバックする。

 吐き気を催す程に凄惨なシーンだったのに、今では落ち着いてその時の光景を思い出す事ができる。

 

「これは……、俺……頭おかしくなっちまったか?それとも……」

 

 やはり、一度気絶したことによって精神が安定化したのだろうか。

 この意味不明な不思議部屋ではそんな謎ギミックもありそうだなと、カズマはどこか他人事のように考えていた。

 

 しかし、そう考えると自分はまだマシかもしれない。

 こうして気絶したお陰で、色々とリセットされたのだろう。だから今はこうして平静を保つことができているが、そうでない者は……。

 

「みんなは……」

 

 落ち着きを取り戻したカズマは周囲を見回した。

 そして見つける。先程までの自分と同じような状態になっている者を。

 

「はあ、はぁ、はっ、っかはぁ!!」

 

「しっかりしろ、グランツ中尉!!」

 

 先の映像を見て、軍人メンバーの中で最もメンタル面が脆弱なグランツがパニックを起こして過呼吸になり、隣に座るヴァイスが背を摩りながらも懸命に声を掛けている。

 

 どうやら、グランツもカズマ同様に床に転がったスバルの眼球と目が合ってしまったようだ。

 しかも、なまじカズマよりも戦争を経験しているぶん、死に対する耐性のせいで気絶する程のショックを受けられなかったのが仇となった。

 その為、グランツはこうしてパニック障害を起こし、今もこうして過呼吸になっているのだ。

 

「やれやれ……。どけ、ヴァイス中尉」

 

「少佐!?」

 

 そんなグランツを見かねて、ターニャがヴァイスと介抱を交代する。

 そのまま、ターニャがグランツの前に移動すると……、

 

 パァン!!!

 

 乾いた音が部屋中に小さく響き渡った。

 ターニャがグランツの頬を平手打ちしたのだ。

 平手打ちされたグランツは目を見開き、叩かれた頬に手を当てながら呆然とターニャを見た。

 

「っ……?」

 

「しょ、少佐!?」

 

 急な部下への暴行にヴァイスが目を剥くが、ターニャは平手打ちした状態のままグランツに命令を下す。

 

「私の声が聞こえるな?ならば、私の命令を実行しろ!まずは大きく息を吸え、そしてゆっくりとでいいから吐き出したまえ。それを落ち着くまで繰り返すのだ!」

 

「っ!すぅ~、はぁ~!すぅ~、はぁ~!!」

 

 軍人としての教育の賜物か、パニックっていた筈のグランツは上官であるターニャの命令に即座に従った。

 そうして何度目かの深呼吸の後、グランツの過呼吸は徐々に収まっていく。

 

「落ち着いたかね、グランツ中尉?」

 

「ええ、はい。その、申し訳ありません。先程は取り乱してしまいまして……」

 

「気にするな……」

 

 叩かれた頬を摩りながら、グランツは申し訳なさそうにターニャに謝罪する。

 それに対して、ターニャも特に何も言わずに自分の席へと戻っていった。

 

 一連のやり取りを見ていた者達はターニャのスパルタ対応に戦慄しながらも、その手際の良さを賞賛した。

 

「素晴らしい手際だな、ターニャは。しかし……(怖ぇ~、急にビンタして命令とか、流石は戦争の世界の人だよ……)」

 

「ええ、まったく。しかし、今のターニャ殿の行為は暴力ではなく、救護の範疇とされたのでしょうね。ペナルティの発生が見受けられないのは、ここが学園ではないからか、それとも救護を目的とした行動だからか……」

 

 ターニャの行動をそう評価するアインズとデミウルゴス。

 アインズ達がそんな風にターニャの行動を評価する中、一部の者達はそれよりも先程の映像の件を話し合っていた。

 

「シカシ、先程ノスバルヲ襲ッタ襲撃者。直前ニ聞コエタ鎖ノ音、ソシテ、スバルヲ吹キ飛バシタアノ威力ト精密サカラシテ恐ラク──」

 

 襲撃者の正体を言い当てようとするコキュートスの言葉に、アルベドが割り込む。

 

「コキュートス、貴方の考えには私も賛同するわ。私も貴方と同じ存在を想像したところよ。……でも、まだ確定ではない筈よね。貴方の考察ではどれくらいだと判断するかしら?」

 

「オヨソ9割ダ……」

 

「そう、その確率ならほぼ確実でしょうね。でも、確定ではないわ。ならば、軽はずみに口に出すのはやめておきなさい」

 

「ヌウ、ソウカ……?イヤ、ソウダナ」

 

 コキュートスとアルベドのやり取りを聞いていたアインズは、興味深げにその会話を聞いていた。

 無論、アインズもスバルを襲った存在の正体には気がついている。というより、あれだけのヒントを見落とすわけがない。

 

 以前の懇親会でレムが披露して見せたモーニングスターの一撃は、先程の映像の襲撃者の攻撃と酷似していた。

 だからこそ、この場にいる懇親会での余興を見ていない尚文達を除いて、スバルにべた惚れなレムという先入観で映像を見ているカズマ達以外は、全員が襲撃者の正体を薄々察していた。

 

「それにしても、意外だったな。アルベドがそこまで、あ~レムのことを心配?いや、気にかけていたとは」

 

「そう、ですね。守護者統括として、ナザリックの者以外に心を許すとは……」

 

「いや!別に責めている訳ではないぞ!お前にも友と呼べるような相手が出来て私は嬉しいのだ」

 

「友……。そうですね。レムとは共に愛する殿方を心に持つ者同士、今までの学園生活で少なからず友情……?というものが芽生えたかもしれません。ですが、今回のはまた別です」

 

「ん……?それはまた一体どういうことだ?」

 

 てっきり、コキュートスの推測を断ち切ったのはアルベドなりのレムへの配慮だとアインズは思っていたのだが、アルベドの言い方から察するに違うらしい。

 では、何故なのか?アインズが疑問に思っていると、アルベドはアインズの疑問に答えるように、その理由を口にした。

 

「例え消えてしまった世界とはいえ、愛する殿方を己の手で殺めたとなれば、レムの心に深い傷が残るでしょう。私もアインズ様をもしもこの手に掛けてしまった時は、アインズ様をこの手から失ってしまえばと思うと……」

 

 わなわなと不安で震える自身の手を見つめるアルベド。

 そんなアルベドの恐怖に、シャルティアもまた共感する。

 

「アルベドの言いたいこと、わっちもよく理解できるでありんす」

 

「シャルティア……。そうね、あなたの方が私よりもレムを理解できるでしょう」

 

 謎の敵勢力に洗脳された経験のあるシャルティア。記憶がないとはいえ、自身の手でアインズに危害を加えた過去が今のスバルとレムの関係に被ったのだろう。

 そしてアルベドも、ありえないと想像しつつも、シャルティアの洗脳という前例がある以上、自分もレムのように愛する者を殺してしまうのではないかと恐れているのだ。

 

 だからアインズは──。

 

「心配するな、2人共。私は決して、スバルのように死ぬつもりもなければ、お前達にだって殺されるようなヘマは──。いや、お前達をもう二度と洗脳させられるようなヘマはしないと誓おう」

 

 ポン!と2人の頭に手を置き、安心させるように優しく撫でる。

 そんな、アインズの慈愛の行動に2人の恐怖は消し飛び、恍惚とした表情を浮かべた。

 

「ああ~ん!アルベドは今ここでアインズ様に私の初めてを♡」

 

「シャルティアは……、シャルティアはアインズ様の寵愛を♡」

 

「あ~、ゴホン!そういう雰囲気じゃないことを察しような!」

 

 アルベドが感極まったように騒ぎ、シャルティアも満更でもなさそうな雰囲気を醸し出す中、アインズは2人の頭から手を放して咳払いをする。

 そのことに、2人は少し不満そうだったが、すぐに表情を引き締めた。

 

 そうしてスクリーンに映る映像を見ると、随分と喋り込んでいたせいか、スバルが死に戻りしてからそこそこの時間が経って場面がかなり先へ進んでいた。

 

『対象を衰弱させて、眠ったように殺す魔法……とかってあるか?』

 

 スバルは死に戻り地点の部屋から抜け出て、考えを纏め上げるのに利用するベアトリスの禁書庫で自身の衰弱した理由を探っていた。

 結果として、スバルの衰弱の原因が魔法とはまた別種の呪術なるものと判明した。

 そして、その呪術と似たようなことができるのが、この屋敷ではベアトリスとパックしかいないと聞かされる。

 

「ふむ、なるほど。ならば、スバルを殺そうとした者は2人になるということか」

 

「あ?なんでそうなるんだ、ターニャ?」

 

 ベアトリスの説明を聞いてそう結論を出すターニャに、カズマは本気で分からないと首を傾げながら尋ねた。

 カズマのその反応に、ターニャは呆れたようにため息を吐きながら、そっぽを向く。

 

「別に答える義理はない。ただ、1つ言えるとすれば、これから先に見るものは誰にとっても地獄になるだろうな」

 

「はっ、なんだよそれ!?全然答えになってないし、いちいち隠し立てする必要なんか──」

 

「カズマ!落ち着け」

 

「アインズ!でもっ──」

 

 興奮して立ち上がろうとするカズマの行動を、アインズが一喝して押し止める。

 そのことにカズマはアインズを睨みつけるが、アインズの真剣な眼差しに射抜かれて、すぐに冷静さを取り戻した。

 

 ここで騒いだところで何も出来ないし、ターニャの言葉の意味するところは分からない。

 だが、この先を見ることで何か重要なことが分かるかもしれない。ならば……。

 そう考えたカズマは席に座り直し、黙ってスクリーンに映るスバルを大人しく見る。

 

 スクリーンの中では、スバルがベアトリスに吹っ飛ばされ、庭の花壇に転落していた。

 その後に、花壇の土と肥料で汚れたスバルがパックに洗濯機で回される衣服みたく魔法で洗浄され、エミリアにツッコミにしては少々過激すぎる魔法でのツッコミを受ける。

 

 そして双子のメイドに呼び出されてから始まるロズワールとの会談。

 屋敷でループしてからの3回目の交渉、1回目と2回目では使用人として雇入れることを報酬にしたが、今回は全く別の形の報酬を強請った。

 

『それじゃ、ロズっち。二、三日でいいから屋敷に泊めてくれ。そのあとは別の場所に行くから、ちょっぴり路銀を融通してくれると助かる』

 

 スバルのその願いに、ロズワールは快諾する。

 

「ここでその選択……。まあ、普通は逃げ出すだろうな」

 

 自分が屋敷に来て最初に死んだ死因を掴んだとはいえ、2回目の死因である襲撃者の正体を掴めていない。それもあんな思い出したくもない残酷な殺され方をしたのだ。

 ならば、ここで逃げ出す決断をスバルが取るのを尚文は非難するつもりはない。

 だが、そんな尚文の考えを真っ向から否定する声が上がる。

 

「おいおい、尚文。お前、スバルのことナメ過ぎだぜ。その発言はよぉ!」

 

「遺憾ながら、私もカズマと同意見だな」

 

「そうだな。スバルがエミリアの危機に関わるのを目の前にして、大人しく尻尾を巻いて逃げだす。なんて、スバルと同じクラスメイトとして少々想像がつかないな」

 

「お前ら、それは流石に……」

 

 あんな死にざまを晒したスバルに期待し過ぎだと言いかけたが、カズマ、ターニャ、アインズらの主張に尚文はチラリとスクリーンに映るスバルを見る。

 そこでは、終わったループの世界で交わした約束を律儀に守って、異世界の文字の勉強に勤しみながら、ぶつぶつと今後の襲撃者対策を立てるスバルが映る。

 それを目にした尚文は信じられないものを見たとばかしに目を見開く。

 

「イカれてるのか?あんな惨たらしい死に方をしておいて、それでもまだ足掻くっていうのかよ!?」

 

「そうだな、私もそう思う。だが、スバルと長く接していれば、あいつがどれだけエミリアに惚れ込んでいるか。そして、異世界初日のスバルの活躍を知れば、スバルがどれだけエミリアの為に動く奴かは嫌でもわかるさ。なればこそ、今回もスバルは決して諦めることはないだろう」

 

 尚文のスバルに対する評価に、アインズはスバルが盗品蔵で見せた活躍を脳裏に浮かべながら、そう答えた。

 

『えーっと、それでは短い間ですが、お世話になりました』

 

 屋敷をエミリア達に見送られながら出てしばらく、街道を外れて森を突っ切り、屋敷が見える小高い丘に拠点を構える。

 スバルなりの必死に考えた策なのだろう。しかしながら、こういったことに一日の長のあるターニャ達軍人の視点から見れば、スバルの取った行動は愚策も愚策な悪手だった。

 

「敵の目的がエミリア陣営の殺害か、もしくは混乱か情報収集が目的なのかも分らんというのに、単独行動とは……。ただまあ、スバルの場合は少々特殊ゆえ、完全な悪手にならんのが頭の痛いところだな」

 

 スバルが用意したロープ切断用のちっさいナイフを視界に入れながら、ターニャは死に戻りの厄介さに頭を痛める。

 ただ、スバルが死ぬことを手段の1つとして数え始めたことに一抹の不安と、未だ少年といえる歳の子がそんな覚悟を持たざるを得ない異世界の過酷さに眉を顰める。

 

『────ッ!』

 

 耳に聴こえた違和感を感じ取ったスバルが瞬間的に回避行動をとる。

 そのまま崖の方に逃げ出し、もしもの時の為の命綱のロープがスバルを救った。

 

『緊急、脱出……!』

 

 そのロープをナイフで切断し、山中を駆け下る。

 

「え、あれ?噓よね……」

 

 スバルが避けた際に見えた特徴的なモーニングスターにアクアが顔を青くし、信じられないと声を漏らす。

 ここでようやくカズマ達も気が付いたのだ。スバルを襲った襲撃者の正体が誰なのか。

 

「そんな、違うよな。噓って言ってくれよ!?」

 

 カズマが、信じられないと頭を振る。だが、そんなカズマの願いは無残にも踏みにじられた。

 スバルが逃げた先に崖が待ち受けており、そこで追い詰められたスバルは襲撃者へと立ち向かう覚悟が決まる。

 

『くるなら、こいや……』

 

 自分を1度は殺した相手、強気に振る舞いつつも、その声色は震えていた。

 だがそれでも、スバルにとって死線は今日が初めてではない。

 盗品蔵でのエルザとの戦いは、スバルに経験と覚悟をくれたのだ。

 

『こんっじょう……入ってるかぁぁぁ!?』

 

 暗闇から襲い掛かる鉄球を、ジャージで包んで僅かに狙いを逸らさせた。

 お陰でダメージはあるものの、前回と違って半身が千切れることなく、五体満足のまま生き永らえることには成功する。

 そして立ち上がり、生き残った興奮でスバルに自信がついたのか、先ほど以上に立ち向かう姿勢をみせる。

 

「おい、やめろ、逃げろよスバル!!!」

 

 この後に訪れるであろう残酷な真実を予想し、カズマは歯を食いしばりながら、声も届かぬスバルに叫び声を上げる。

 しかし、そんな叫びも映像の中のスバルに聞こえる筈もなく、その場からスバルが動こうとする気はなかった。

 

『さあ姿を見せろ、クソ野郎! その面を見るのに、一週間かけたぞコラァ!』

 

 いまだ姿の見えない襲撃者に怒声を張り上げながら、モーニングスターが飛んできた先の暗闇を睨み付ける。

 

 そこから現れる襲撃者の正体に、スバルだけでなく部屋の中にいる多くの者がショックを受ける。

 

『──仕方ありませんね』

 

 聞いたことのある──否、聞き覚えのある少女の声と共に、闇の中から見覚えのあり過ぎるメイド服が見えた。

 

『嘘だろ……レム』

 

 スバルが吐き出した言葉はカズマ達の心の声を代弁したかのようで、今もスクリーンに映し出される映像に理解が及ばず、パクパクと口を動かすことしか出来なかった。

 

『どうしてこんなことを……って、ありきたりな台詞言っていいか?』

 

『そう難しいことでは。疑わしきは罰せよ。メイドとしての心得です』

 

 淡々とした口調でスバルを殺す動機を口にする映像のレムがいつものレムに見えなくて、本物ではない偽物なんじゃないかってそう思えて、でもレムと同じ顔で同じ声で、スバルに語り掛けて……。

 

『ああ、そういうことか。──そんなに、俺が信用できなかったのか』

 

『はい』

 

 端的に告げられた肯定の返事。スバルはその返答に、自分がどれだけマヌケだったのか思い知らされたような酷く絶望に満ちた顔をしていた。

 そしてスバルはレムの一瞬の隙をついて逃走する。

 

 汗だくになりながら、必死に屋敷を目指して走るスバル。

 だが、その顔は決して逃走者のそれではない。それよりももっと酷い、後悔で満たされた迷子の子供のような顔。

 

『俺は……いったい、何のために……っ』

 

 そんな泣き言を零したスバルの右足を風の刃が吹き飛ばした。

 

『ぁああああが! あ、足がぁぁっ!!』

 

 スバルの悲鳴が部屋中に響く。

 聞くだけで痛みが走りだしそうになる強烈な苦痛の叫びに、誰も何も言えなかった。

 

「…………」

 

 涙が出る。嗚咽混じりの泣き声が聞こえる。

 誰の泣き声だろうか?おっさんみたいな汚い泣き声はアクアのだろう。押し殺したような泣き声はめぐみんだ。嘆くような泣き声はダクネスのだろうな。

 だったら、俺は……?

 

「…………」

 

 声は出ない。代わりに、ボロボロと目から涙が次から次へと零れ落ちていく。視界が涙で滲んでよく見えない。

 悔しくて、悲しくて、なによりもあの教室でいつも見ていた2人の関係にこんな悲劇のような惨状も存在したということが信じられなかったのだ。

 

 今もスバルを間者だと疑って拷問を繰り返すレムの所業に、カズマは出来の悪い悪夢を見させられているような感覚だった。

 

「スバル、お前ってやつは……。なんで俺に辛かったって一言も……」

 

 映像の中で太陽も大きく傾き、森の闇がより一層濃くなると、レムがふと拷問の手を止めて夕食の準備をしなければと言い出した。

 スバルの血飛沫で顔を真っ赤に汚したレムは最後の質問とばかりに、先程よりも冷たい声でスバルに魔女教かどうかを問い掛ける。

 

『答えてください。あなたは、『魔女に魅入られた者』でしょう?』

 

『……魔女、に?』

 

『とぼけないでください!』

 

 今までの無感情な声ではなく、初めて人間らしい感情の籠ったレムの怒声に恐怖したのはスバルだけではない。

 

「ひぅ!ご主人様、あの青い髪のお姉ちゃんが怖い!」

 

「フィーロ、お前は目と耳を閉じてろ。多分、お前じゃ耐えられない。ラフタリアも──」

 

「いいえ、私はこれを見届けます。尚文様だけがスバルさんの過去の傷を背負う必要はありません」

 

 ラフタリアは気丈にレムとスバルのやり取りを見届ける。

 こうなったらテコでも動かないと知っている尚文は、右腕にひっつくフィーロの頭を撫でながら、ラフタリアの覚悟を尊重する。

 

『そんなに魔女の臭いを漂わせて、無関係だなんて白々しいにも限度がありますよ』

 

 レムの言い放った言葉にアインズが反応する。

 

「魔女?確か、エミリアが偽名で使ったサテラは嫉妬の魔女と呼ばれていたな」

 

「加えて言うならば、口にするのも憚られる禁忌の象徴とも呼んでいたな」

 

 アインズの独り言に、ターニャが補足を入れる。それにアインズはふむと、顎に手を当てる。

 思い起こすのは、いつかの朝にスバルと握手を交わした際に、スバルの心臓に黒いモヤのような得体の知れない呪いのような力を感じ取ったこと。

 あれがその魔女に魅入られた者に付けられた証だとするならば、あの時不用意に深入りしなくて良かったと安堵する自分に、今もスバルの状況に涙するカズマ達と比べて、酷く冷淡な思考回路だと自嘲する。

 

 そしてスバルとレムの会話は続き、遂に決定的な場面が映される。

 

『──なんで、だよ』

 

 死に戻りを前提にした、己の命を対価にした情報収集を目的にした今回のループ。

 その目的を果たすためにと、今も激痛が走るなか、いつものふざけた態度を崩すことなくレムと会話を交わしていたスバルだが、ついに限界がきた。

 

 堰を切ったように涙を流して、死に戻りで蓄積された心の痛みを──、なかったことになる未来に置いて行かれた自身の思いの丈を八つ当たりするようにレムへとぶつけた。

 そのスバルの本音に、映像を見ていた者達は言葉を失う。

 

「そう……だよな。俺達がなにをしたっていうんだよ!なんで自分勝手に裏切ったりなんか……!?」

 

「尚文様……」

 

 それはかつての世界での自身に与えられた理不尽な仕打ちの日々(トラウマ)を思い出したのか、尚文が爪がくい込むほどに拳を握りしめて怒りに震える。

 そんな尚文を心配するようにラフタリアは寄り添った。

 

『なにがいけねぇんだよ……なにが悪かったんだよ。……お前ら、どうしてそんなに俺が憎いんだよ……?』

 

『──レムは』

 

『俺は……お前らのこと、だい』

 

 その先の言葉は好きだったのか嫌いだったのか。どちらにせよ、このループの回ではスバルの口からその言葉が紡がれることはなかった。

 

「ひゅっ!?」

 

 それは誰の声だったのか?映像の中で喉を抉られたスバルを見た者の小さな悲鳴。

 肉体的にも精神的にも地獄へと追い詰められた少年の過酷な異世界の生活に、多くの者が心を痛め涙に頬を濡らす。

 

『──姉様は、優しすぎます』

 

 映像が途切れる寸前、レムの言った言葉の意味をちゃんと受け止められた者は果たして何人いたのだろうか。

 スクリーンもスバルが死んだことで暗転し、しばしの沈黙が流れる。

 

 そんな短い時間、今はこの場にいない友の歩む愛の道の過酷さに、アルベドはただ一言「レム……」とだけ呟いて、自身の胸にそっと触れた。

 




感想でアドバイスを貰って書いてみたものの、やはり自分に文才がないのを痛感しました。

もう俺にできる曇らせってなんだよ!?って思いながら、残業終わりのプライベート時間で書き上げたのが今話です。

あっ、でもこれからもアドバイスを送ってもらえると幸いです。

連休中の毎日投稿頑張るぞ!!!

4章でのスバル視点外の放送

  • エミリアの試練
  • ラムの告白
  • ガーフィールとエルザのバトル
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